第4章段取り力で自分をコントロールする段取りのポイントはスケジューリングとコントロールだ。
自分の仕事の手順をどうコントロールすれば、気持ちよく仕事が進むのだろうか。
段取り力をつける「工程表」とは?■工程表は段取りには不可欠のツールだ ■工程表づくりのポイントは? ■スケジュールを視覚化するのが、工程表のメリット 段取り力は自分をレベルアップさせる ■夢を持ち続けているかどうかを確認しよう ■相手の心に響く言葉を使えるか? ■「自己管理力」があれば段取りもできる 仕事を楽しむために段取りを立てる ■仕事は楽しくやらなければ意味がない ■疲れたら早めに休むのが鉄則である ■私が「広告」という仕事から学んだもの 気になること、やりたいことを書き出す ■気持ちのコントロールができるだろうか ■リストは「手書き」にする 「いつでも始められる態勢」をつくる ■グチャグチャの机でも仕事はできると思っていないか? ■机の上は、まっさらな状態がベストである ■自分を最大限に活かすには、常にスタンバイ状態にしておく ■仕事の“型”をつくって頭の中を整理する 続けるために段取りを立てる ■できそうもないことを予定に入れない ■飽きない工夫をしておこう ■メモは最終的に A 4一枚に貼りつけて整理する メモで自分を客観視する ■段取りに必要な「メモの力」 ■自分を見つめるためのメモをつけてみよう ■マネジメントには、工夫という意味がある 「職人」に学ぶ段取り力とは? ■職人の所作は美しく無駄がない ■プロとは何だろう 自分の「段取り力」をチェックする ■今すぐできること、すぐにはできないことを分ける ■分類したら優先順位をつける仕事も料理も祭りも……段取りで決まる!────あとがき編集協力/ケイ・ワークス(片山一行)
第 4章段取り力で自分をコントロールする段取りのポイントはスケジューリングとコントロールだ。
自分の仕事の手順をどうコントロールすれば、気持ちよく仕事が進むのだろうか。
1 段取り力をつける「工程表」とは?
■工程表は段取りには不可欠のツールだ
ビジネスの現場では、「どう考えてもこれはできないな……」「ちょっと時間的に無理でしょう」──などということがある。
段取りとは、そういう無理なことを少しでも可能にするための手順である。
状況を確認したり、打てる手を考えたり、あれこれ工夫することで、不可能だと思えるものを可能な領域に移していける。
要するに、段取りを立てるといろいろ見えてくるものが必ずある、ということだ。行き当たりばったりで仕事をしていると、自分が何をすべきかもわからない。何をすれば最も効率的に仕事が進むかもわからない。
それでは、仕事に振り回されてしまう。段取りとは、自分で仕事をコントロールするための技術でもあるのだ。
たとえば工程表をつくる。それだけで、頭の中でもやもやしていたことや漠然とした予定が「目に見える」ものになる。
また、 ToDoリストをつくることで、今自分が何をすべきかも見えてくる。
その意味で工程表と ToDoリストは、段取りを立てる際には不可欠のツールでもある。
工程表は、仕事の種類によってつくり方が違ってくる。
同時にいくつもの仕事を並行してこなしている場合は、縦軸に「工程名」をいくつか設け、横軸は日付──というものになるだろう。
ちなみに『工程表サンプルと、つくり方のポイント』は私がパソコンでつくっている工程表である。
このぐらいのものなら、 Excelで簡単に作成できる。
工程表をつくることで、スケジュールがしっかりと「見える化」できる。
仕事の流れが一覧できる工程表を、よく見えるところに貼ったり手帳に挟み込むだけで仕事はスケジュール通り、段取りよく進むようになるものだ。
この工程表について少し説明しておこう。
工程名は業務の違いで数や長さも異なると思うが、なるべくわかりやすい言葉で記入する。
工程数も仕事や業務によって多かったり少なかったりするが、多すぎると記入漏れが生じたりするので、絶対に外せないものを作業工程の順番に上から記入していく。
作業が数カ月も続くものは、途中の細かい工程名を外してもいい。
私はこの工程表に、納期や締め切りをデッドラインから逆算して、全体から見て自分なりに設定したミニ締め切り(『 ■「ミニ締め切り」を設けて、逐一チェックする』参照)を記入している。
うまく進んでいるときは、いちばん下に「工程 ○ ○は順調、工程 ○ ○を前倒し」、逆に遅れ気味のときは「工程 ○ ○は二日程度遅れている! 週末に関連の工程を見直すこと!」──などと自分への指示を記入している。
工程ごとの帯の始めと終わりには、場合によっては時間なども記入しておく。
関係する部門や業者からの問い合わせに対して、即答できるようにするためだ。
■工程表づくりのポイントは?
パソコン上で工程管理をするには、スケジュールの変更や工程項目などの修正、追加などがあった場合、必ず出力したものに修正を記入して、それを見ながら入力をすること。
パソコンの画面上だけで修正をした場合、万が一入力ミスをしたときにどこをミスしたかの判断ができない。
必ず雛形をつくって、それをもとに工程管理表を更新していくという流れをつくっておくことをお勧めする。
また、工程表は毎月出力して、プロジェクトや業務が終了するまで詳細に記録をする。
ミスが起こった原因やロスが発生した要因などについては、自分の考えや当事者のコメントなどと合わせて記録を見れば、一連の流れがわかるはずだ。
何が起こっても「そのときに、誰がどうしたか」を記録することで、工程表は単なるスケジュール管理をするものではなく、仕事の流れを把握し、完成品へ向けてどう仕事を行なえばいいかがわかるものになる。
工程ごとの帯(または矢印)の中にも大切な項目を記入しておくと、便利だ。
たとえば「コンセプトづくり」という工程で説明すれば、最初は「現場サイド・コンセプトづくり」と記入して、次に「関係業者参加・コンセプト会議」と記入する。
さらに「部門長への説明」から「他部門への説明」などと、同じ工程でもその内容や進捗状況などが読み取れるように記述しておく。
そうすると、「今度はこういう話があるんだ」「次の会議にはどんなことを準備すればいいのか」などと、工程表を見る人に集中力や気づきを喚起できる。
なお、アバウトに「 ○ ○日までに × ×をやる」と締め切り(デッドライン)だけを紙に書いて机の前に貼り出している人もいるが、これだとミスが起きやすい。
ただしこれも、まったく意味のないことではない。
工程表はあくまで仕事の“流れ”を中心に見るもの。
絶対に落としてはならないデッドラインは、手帳の該当日に大きく赤丸をつけたり、机の前に締め切り日を書いた付箋などを貼ったり、工程表にポイントごとの締め切り日を必ず記入するなどの工夫をすべきだろう。
■スケジュールを視覚化するのが、工程表のメリット
工程表は、各自が工夫して練り上げていくべきものだと思う。
手帳のリフィルなどにも工程表はあるが、そのまま使えるものは少ない。
やはり、自分の仕事のスタイルに合わせてアレンジすべきものだろう。
いずれにしても、工程表は何らかの形でつくってほしい。
それが、段取り力を鍛える第一歩とも言える。
段取りのいい人は、まるで頭の中にホワイトボードと工程表が入っているようだ。
しかし普通の人は、まずシンプルな工程表と ToDoリストを併用して、スケジュールを視覚化することを考えてもらいたい。
以下は、工程表をつくるメリットの主なものである。
見てわかる、視覚的に理解できる 整理できる、シンプルに見えてくる 関連することがよくわかる 仕事の山や谷が見えてくる ミスや漏れも発見しやすい 先が読める、イメージ(映像化)しやすい 安心できる(気持ちが落ち着く)
2 段取り力は自分をレベルアップさせる
■夢を持ち続けているかどうかを確認しよう
段取りとは、そもそも歌舞伎などの舞台の流れ、進行時に使われていた言葉だということはすでに触れた。
舞台で役者は、この段取りに沿って自身の役を演じるのだが、この段取り(台本)の中に「よきところで舞台へ(出る)」などという表現があるそうだ。
この「よきところ」という言葉が、何ともいいではないか。
その時々の状況を見ていれば「よきところ」が見え、「出たり」「引いたり」ができるのだ。
とはいえ、その「よきところ」を見極めるのはむずかしいもの。
ベテランになると勘やイメージ、経験でできるようになるが、ビギナーのうちは、そうはいかない。
しかし私はここであえて、段取りには「感性」も必要だということを言っておきたい。
スキルだけ身につけても、うまくいかない。
人間として、ビジネスマンとして魅力ある人になれるかどうかで、段取り上手になれるかどうかも決まるというのは言いすぎだろうか。
どんな時代でも「自分」というものをしっかりと持った人──そんな人は、総じて段取りもうまいものだ。
そんな話は段取りとは関係ない、と思われるかもしれない。
たしかに直接は関係ない。
しかし段取り力は仕事を進める上で不可欠の力である。
であるなら、ある意味で「人間力」の一部とも言えるのではないだろうか。
たとえば理想がある人、期待や願いを持ち続けている人に、人は何かしらの魅力を感じることがある。
その人にはきっと惹かれる何かがあるのだ。
そういう人の多くは仕事ができる。
そして段取り力もある。
■相手の心に響く言葉を使えるか?
私は、気持ちや心のきれいな人こそ「これから先の未来」に「必要なこと」をつかんでくれると信じている。
あなたの周りに、「周囲を気持ちよくさせる人」は、いないだろうか。
そういう人は相手の気持ちに配慮し、相手を傷つけず、かと言って過剰に励ましたりもしない。
抽象的な言い方で申し訳ないのだが……相手の心に響く言葉を使っているのだ。
たとえば、「ごめんなさい」や、心のこもった「ありがとう」という言葉。
それらの言葉が、口だけでなく身体から出ている。
そんな人だ。
そういう人は、段取り力もある。
段取りは単なるテクニックではない。
周囲の雰囲気を読み、自らの体調や気分も考え、その上で形づくっていくものだと思う。
段取りをそのように認識することで、周囲との調和が生まれ、仕事もスムーズに進むようになる。
段取り力を高めるには、スケジューリングや整理力は不可欠だろう。
しかしそれだけでは充分ではない。
もっと、……そう、人間としての大きさのようなものも大事になってくるのだ。
気持ちの整え方、と言ってもいいかもしれない。
たとえば段取りを立ててやるべきことをやっても、成果があがらないときはある。
そんなときは、もう一度これまでの仕事の流れを振り返ってみよう。
周囲への気配りは充分だっただろうか。
立てた段取りに、漏れはなかっただろうか。
どこかでミスはなかっただろうか。
そんなふうに謙虚に考えられるだろうか。
■「自己管理力」があれば段取りもできる
私は少し、無茶なことを言っているのかもしれない。
段取り力はもっとシンプルなもので、人間としての大きさや度量といったものとは無関係とも言える。
しかし私は、仕事は“総合的”なものだと思っている。
常に、人間としてのレベルアップを考えることと段取り力を身につけることは、決して無関係だとは思わない。
段取りを立てて仕事を効率よくコントロールするということは、ある意味で自分をコントロールすることでもある。
「むずかしいかな……」と思っている自分を、「できるんだ」と思う自分に変えることでもある。
段取り力は、人をレベルアップさせていくための一つの手段でもあるのだ。
3 仕事を楽しむために段取りを立てる
■仕事は楽しくやらなければ意味がない
「仕事は楽しくやらなくてはいけないよ」 と何人かの先輩に教えられてきた。
職人気質の私は、頑固なところがある。
自分の思い通りにならないことがあると、その気持ちが顔に出てくるのだった。
会議の場で腹を立てて席を立つことも、二〇代の頃は何度もあった。
気持ちが入りすぎてしまっていたのだろう。
その結果どういうことが起こるかというと、相手も気分が悪くなり、私自身も過度のストレスで体の具合まで悪くなった。
体を壊すほどではないと思っていても、ストレスはじわじわと心身をむしばんでいるものだ。
だから、自分が抱えているストレスに気がつくようにしなければならない。
病気になってからでは、治すのが大変だ。
周囲にも迷惑をかけるだろう。
病気になる前に、食い止める工夫をしよう。
まず心がけるのは、本当に具合が悪くなる前に休むようにすること。
ただ、これができそうでできない。
今はどんなに大きな会社でも、一人ひとりの効率を最大限に高めようとしている。
経営もギリギリの状態なのだ。
余分な人員はどの部署にもいない。
だから、どうしてもオーバーワーク気味になってしまう。
それでも、仕事の合間に深呼吸をしたり、どんなに忙しくても週末は必ずゆっくりと休むなどの工夫はできる。
私は月に一度は、山(と言ってもハイキング程度の山だ)に行って、森の中に自分を沈めるようにしている。
まさに、山に潜るのだ。
こうするだけで、自然の持っているエネルギーを取り込むことができる。
それに、森林浴にリラクゼーション効果があることは、医学的にも証明されている。
樹木からは、フィトンチッドという、リラックス効果のある成分が発散されているからだという。
■疲れたら早めに休むのが鉄則である
あなたががんばりすぎて、具合が悪くなって長期休暇を取ることになれば、結局は周囲が迷惑する。
そうなる前に休む──これが基本である。
「休みたくても休めない」 そう言っている人に限って、段取りの悪い仕事をして、無駄な時間を費やしている。
段取りのいい人はさっさと仕事を終わらせて、休みを確保する。
要するに、仕事にメリハリがあるのだ。
仕事を楽しくするためには、まず仕事以外のプライベートな時間を確保することから始める。
趣味を持つのがいちばんだ。
ストレスをためずに仕事を楽しくやる方法を、私なりに考えてみた。
仕事にゲーム感覚を取り入れる たとえば、第一ステージ、第二ステージ……というふうにして、終わるごとにチェックを入れるなどして達成感を得られるようにする。
なるべく定時で帰る工夫をする それができれば苦労はしない、と言われそうだが、これは「やる!」と決めないと、ダラダラと残業をすることになる。
たとえば「水曜日はノー残業デー!」というように決めてしまう。
ときどきはチームで食事を一緒にする これも、あくまで「ときどき」にすること。
職場の人間関係は、思いのほか疲れるものだ。
仕事だけの関係のほうが、逆にストレスもたまらないことがある。
役職名でなく互いの名前を呼び合う これはあくまで私の主観だが、課長や係長、主任……など、役職名で呼び合っている職場は、雰囲気が堅い。
それに対して「さん付け」で呼び合っている職場は、雰囲気が明るい。
仕事がスムーズに運ぶと気持ちもよい。
ストレスがたまることも少ないだろう。
つまり段取りは、仕事を楽しく進めるためにあるとも言える。
段取りは、「いい仕事」をするために立てるものだが、究極の目的は「楽しく仕事を進めるため」だと言ってもいいと私は思っているぐらいだ。
■私が「広告」という仕事から学んだもの
私はもともとクライアントの商品や、ブランドイメージを訴求するための広告をつくる仕事をしていた。大学も芸術系。字を書くより絵を描くことのほうが好きだった。今でもそうである。いろいろなことを映像化して考える。
二〇~三〇代まで、現場で広告づくりをしていた。当時、クライアントからの要望はすべて文章だった。チャートやグラフもあったが、それらは大半が消費者に関するデータ類やターゲットに関する数値的なグラフだ。
これを見るだけでは広告はつくれない。ここからが、広告をつくり出すというプロの仕事になる。私たちはこの要望書や資料に対する解答を、一枚のスケッチ、絵にして提出する。
いわゆるラフスケッチ、あるいは“コンテ”というものだ。
こちらのほうがイメージが湧くし、言葉で説明するよりも視覚的に表現するほうが直接的で、見れば誰にでもわかる。
私はそういう仕事のやり方を、もう三〇年以上続けている。
この広告制作のプロセスとスキルは、段取り立てにも役立てることができる。
たとえば私は仕事の段取りを立てるとき、頭の中に映像が浮かびあがる。
「納期を聞くと、業者さんは困った顔をしていた」「発注をいつにすればいいかを先に聞くと、テキパキ答えてくれた」 ……など、同じシーンでも、私の質問や言動により、イメージに登場している人たちの対応も変わる。
その時々の状況が映し出され、そこにいる人の表情まで動き出す。
それを見て段取りを立てるのだ。もちろんこれは、典型的な右脳型人間である私の方法だ。文章で論理的に考える左脳型人間の人には、お勧めできない。かえってミスを起こすからだ。
私も右脳発想だけだとミスにつながるので、メモや手帳、スケジュール表などを常に見ることで補完している。
ただ、少なくとも私は、このように頭の中でイメージし、視覚的に段取りを立てることで毎日の仕事が楽しくなる。
「私は絵が苦手だから……」 という人も、試しに少しやってみるといいと思う。
うまく描く必要はない。
自分と、仕事に関わる人がわかればいいのだ。
一枚の絵における視覚効果は、きっと仕事を楽しくしてくれるはずだ。
4 気になること、やりたいことを書き出す
■気持ちのコントロールができるだろうか
気持ちをコントロールすることは、とてもむずかしい。常に、心は揺れ動いているからだ。
しかし、意外と本人はその揺れを自覚していないのではないだろうか。気持ちのコントロールをするためには、まず自分の心の揺れを自覚すること。
そして、気持ちを落ち着かせなければならない。そのためには、気持ちの整理から始めるといい。
自分の抱えている悩み、気になっていることを、きちんと整理整頓するのだ。具体的には次の図のように「気になることベスト 10」を書き出す。
できるだけ具体的に書き出すことをお勧めする。その次に、気になっていることに関する解決策、解消方法を書き添えていく。これも具体的なほうがいい。
そしてそれぞれについて、 □いつ、手をつけるか □費用はどれくらいかかるか □何が障害か などを、できるだけ詳しく書いていく。
この「気になることベスト 10」すべてに対して、ひと通り「対策」「問題点」などを書き出していくと、心の中にあったモヤモヤはそれほど大したことではないと気がつく。
たとえば、親友への連絡や親の将来のことなど、“先延ばし”になっていたことが心の奥底で滞っていただけだということがわかる。
仕事が集中してどうしようもないと思っていたのが、何から手をつければいいかもわかってくる。
頭の中で考えているだけだと、気持ちは整理されない。
段取りもうまくいかない。
気持ちを整理して紙に書いて、心の外に出すという行為を繰り返していくと、潜在的な不安や、モヤモヤしていた気持ちが明確な問題点として浮かびあがってくる。
そして、解決が困難な問題点と解決可能な問題点が“わかる”ようになるのだ。
「わかる」ということは「分ける」ということでもある。
可能なことと不可能なことがわかると、可能なことには解決方法を見出すことができるし、不可能なことにはあきらめをつけることができる。
いつまでも心の中をモヤモヤさせているのではなく、気持ちの整理をする癖をつけよう。
そうすることで、ものごとをスムーズに進めることができるようになる。
スムーズな段取りは、そこから始まるのだ。
■リストは「手書き」にする
なおこの行為は、手書きでやること。
たとえばパソコンで書いて紙に出力するのと、ペンなどで書くのとでは、かなりの違いがある。
よく「目指せ、目指せ、 ○ ○大学合格!」などと書いて机の前に貼っている受験生がいるが、あれがワープロ文字だったらどうだろう。
まったく気持ちのこもらないものになる。
気になることや、こうありたいと思うことは、まさに“気持ち”の問題だ。
気持ちを整理するには、下手でもいいから手書きにすべきである。
5 「いつでも始められる態勢」をつくる
■グチャグチャの机でも仕事はできると思っていないか?
『6「整理整頓」も段取り力の一つだ』などでも述べたが、整理力と段取り力についてもう一度改めて触れておきたい。
両者は切っても切れない関係にあると思うからだ。私の周りの人で、すごく仕事ができる人の机の上は、二つのタイプに分かれる。一方は整然と片づいている人。
もう一方はまるで学者か何かの研究者のように、資料や本が積み重なっていて、座っているとその人が見えないぐらいだ。
後者を“洞窟派”と言うらしい。そういう人の机の上は資料やメモ、筆記用具などでグチャグチャだ。パソコンのモニターには変色した付箋メモや伝言メモが貼りつけられていて、いつ頃のものかもわからない。
メモがメモの用をなしていないのである。こういう人は大切な書類を紛失してしまう可能性が高い。洞窟派の人は、たしかに頭はいい。記憶力があるからグチャグチャの状態でも、どこに何があるかを覚えている。
しかし、人間の記憶には限界がある。
今は記憶力やその時々の対応力で何とかこなしていても、いつかは大ポカをしでかすかもしれない。
実際よく観察していると、そういう人はいつも、「どこかに置いてあるはずなんだけどなあ……」と探し物をしている。
案外、部下などの周囲がいちばん迷惑しているのかもしれない。
実は三〇代の私がそうだった。
仕事もそこそこのレベルではできていたのだが、もう一段上のレベルには行けないような状況だった。
ベタベタと貼ってあるメモと一緒に、経理に提出すべき領収書や見積書、納品書などが、どこかに紛れ込んでしまうということもたびたび起こっていた。
そういう人は、一度思い切って、机の上のものをすべてどこかへしまってしまえばいい。
嘘のように気持ちがすっきりするはずだ。
「机の上がグチャグチャでも仕事はできる」 と言っている人は、半ば強がりだと私は思っている。
整然とした机のほうが、誰が考えても仕事ははかどるし、気持ちも落ち着く。
■机の上は、まっさらな状態がベストである
整理された机で、余計なものは何も置いていない人もいる。
私の先輩は机の上も引き出しの中も整然としていて、筆記用具も最低限のものしか置いていなくて、すぐに必要なものが取り出せる状態だった。
こういう人を“草原派”と言うのだそうだ。
そういう人の机の上はある意味、最も目立つ「未処理ファイル」のみを置く場所なのかもしれない。
その先輩の机の上で打ち合わせをすると、とてもスムーズだったということを今もよく覚えている。
とにかく、仕事を終えるといつも完璧にリセットしてある状態だった。
何も置いていないので資料も広げやすく、何より落ち着いて話し合いができた。
「ひと仕事、ひと片づけ」──という言葉がある。
何か一つの仕事が終わったら、いったんそれは片づける。
ハサミや定規を使い終わったら机の上に置きっぱなしにせずに、あるべき場所に片づける。
これは、整理の基本でもある。
ひと片づけをしていないと、書類の上に書類が重なる状態になってしまう。
コンセントレーション──集中するという意味なのだが、これができれば常に自分の気持ちをコントロールできるようになる。
目の前にある混沌とした状況を整理することで、気持ちをコントロールしていこう。
■自分を最大限に活かすには、常にスタンバイ状態にしておく
整理ができている人は、常に「スタンバイ」状態にある。
電源を落としてしまっては、スタートまでに時間がかかる。
すぐに仕事を始められる状態をつくっておく必要があるのだ。
それには、机の上は、まっさらにしておくのが望ましい。
とっさに動けるようにするためには、あらかじめ用意できることを、できるだけ事前に準備しておかなければいけない。
私が段取り上手な人に教えてもらったこと、自分で考えついたことを以下にあげてみた。
スーツ、着る服は一週間分セットする 私の仕事は出張が多い。
だから、スーツに合ったシャツとネクタイもあらかじめコーディネイトして、月曜日 ~金曜日までの五日分用意しておく。
毎朝バタバタと慌ててしまわないために、下着や靴下、ハンカチなども日曜日や出張前にスーツと合わせてセットしている。
スーツやシャツを選ぶときに、スケジュールの確認もついでに行なう。
「水曜日はイベントの準備があるから、動きやすいストレッチ素材のパンツのスーツにしよう。
金曜日は業者の会合だからシックな色のネクタイのほうがいい」 など、一週間の動き、行動計画に合ったファッションを用意することで、気分も仕事モードへと移行していける。
玄関に必要なものを置く ハンカチ、ティッシュ、筆記用具、キー、時計、スイカなどの ICカード、いちばん忘れてはいけない名刺などは、玄関(あるいは仕事場の決まった場所)に置いておく。
私は携帯電話はケースに入れて、スーツのベルトに取りつけている。
それ以外の必要な道具は、ひと揃いを透明ケースに入れてフックを取りつけ、カバンの中にセットしている。
忘れ物をすると日々の段取りが崩れる。
その日一日の気持ちも落ち着かない。
そうならないためにも充分に注意しよう。
カバンの整理 カバンの中に、必要なものをすべてセットしておく習慣をつける。
前の日に準備しておくのが原則だ。
ビジネスマンの仕事術の基本中の基本でもあるのだが、うまくいっていない人も多い。
とくに、配置転換や部署替え、仕事内容の変更などがあると、カバンの中身も変えなければならない。
なかなか面倒なのだ。
しかしこれをやっておかないと、いざというときに慌てる。
出張先や外出先で、苦痛や不安を感じずにいい仕事をするためにも、自分自身でカバンの中身をきちんと整理することをお勧めする。
そのためには、資料や手帳、取り出しやすい小さなバッグや使い慣れた筆記用具、常備薬やリフレッシュのための携帯食品、サプリメントなど、自分の一日、一週間をイメージして、ビジネス戦線を戦う武器としてのカバンの中身をつくりあげよう。
カバンの中の整理は、段取りの基本だとも言えるのだ。
■仕事の“型”をつくって頭の中を整理する
考えやアイデアの整理をするためには、「型をつくる」という方法がある。
私は「考える時間」を決めている。
ウィークデーの午前中、朝九時から一二時の三時間、原則的にすべてこの時間で行なう。
まず朝いちばんにメールをチェックする。
そこで、問題や対処しなくてはならないことには対応するが、そういったことがないときは、「考える時間」にしている。
朝のこの時間は雑念も少なく、頭もすっきりしていて、懸案事項などを考えるのに最も適している時間だ。
次は「作業時間」である。
これは、午後からの打ち合わせや電話連絡、メールのやり取りなどだ。
営業活動、外回りから帰ってきたあとなどの時間の合間を使うことが多い。
あまりヘビーに考えなくていい仕事が中心だから、数分ずつの細切れ時間に作業していく。
これらの作業は、すぐにやる。
絶対に納期を過ぎないように、どんな単純作業でも優先順位をつけたリストはつくる。
最後に「発想の時間」である。
これは、基本的に一人の時間のときなら、いつでも OKだ。
前述したが、私は社会人になった二〇代の頃、通勤に一時間以上もかかっていた。
そのとき、立ちっぱなしの満員電車の中で、小さなメモ帳に考えをまとめていた。
今でも新幹線や飛行機で移動するときは、小さなメモ帳をポケットに入れている。
夏は汗でメモ帳が濡れてしまうので、サインペンではなくボールペンにしている。
そして、それぞれの時間で思いついたこと、アイデアを整理するには、やはりメモが必要となる。
思いついたことは、そのときそのときで文字や図にする。
日付も忘れないようにメモする。
メモと整理ができていると、いろいろなことがスムーズに進む。
いわばメモと整理は段取りの基本でもある。
6 続けるために段取りを立てる
■できそうもないことを予定に入れない
段取りは何のために行なうかというと、無理をせず、無駄を最低限に抑え、ミスを防ぎ、アクシデントに速やかに対応し、いちばん避けたいモチベーションの低下を食い止めるためである。
スケジュール通りいかなかったら、気持ちも沈み、モチベーションも下がる。
これが実は、いちばん怖い。
段取りの技術を身につけるためには、さまざまな仕事術を知っているだけではうまくいかない。
メモや整理、スケジューリングでも同じことが言えるのだが、実際に継続し、身につけるための工夫が必要なのだ。
では、どうやって続けるのか。
それは、仕事を抱え込まないことだ。
『 3やるべきことと、やらないことを決める』で「劣後順位」について書いた。
人が実際にこなせる仕事量は、ある程度決まっている。
それ以上の仕事の予定を入れるから、「できないこと」がこぼれていくのだ。
だから最初から、続けられそうもないことは予定に入れない。
入れたとしても長期の予定に組み込む。
今日明日中にやる、というふうには決めない。
■飽きない工夫をしておこう
研修やセミナー会議などで気がつくのは、ずっと座っていることに我慢できない人が多いということだ。
彼らはきっとその時間が苦痛なのだろう。
私も同じだから気持ちはよくわかる。
そんな人へ、ちょっとした続けるための「飽きない工夫」をアドバイスしよう。
たとえば講師に注目して、ファッション、話し方、自分が営業などで使えるジョーク(トーク)があればメモしておく。
味気ない研修でも、これだけで少しは楽しくなる。
会議やセミナーがつまらなくても、こんなふうに楽しみながらメモをして参加してはいかがだろうか。
何か面白いことはないか、何かをゲットしようと決め、自分なりに「飽きない工夫」をしてみよう。
キャッチする気持ちがあれば、たとえ電車の中であっても仕事に活かせる“ネタ”は山ほど見つかるものなのだ。
セミナーが苦痛で耐えられない人。
「役に立たないつまらない話」と、最初からあっさりと判断を下してしまうのではなく、セミナーの講師の話を左脳で分析し、「この話はこれに役立つな」などと、冷静に考えながらメモしてみてはいかがだろうか。
セミナーの中に、自分なりの「楽しさ」「面白み」を見出すことがポイントなのだ。
■メモは最終的に A 4一枚に貼りつけて整理する
では、そういうメモをどう整理するか。メモを書くのは付箋でもいい。私は出張先のホテルに置いてある小さなメモ帳をよく利用している。
そういうメモ用紙はかなりの量になるのだが、そんなたくさんの書類やメモはそれぞれのクライアントやテーマごとに分け、 A 4サイズの紙に貼りつけていく。
そして紙の左側(バインダー式のものなら穴が開いている部分)約一センチのところを糊で貼っていく。
貼るときには、優先順位や注意すべきことなどを書き加えながら貼る。
A 4サイズで統一されたメモは、 BOXファイルに分類して整理する。
そうすることで、順番通りに仕事ができるようになるのだ。
これに関しては、拙著『すごい! 整理術』( PHPビジネス新書)でも詳しく書いた。
7 メモで自分を客観視する
■段取りに必要な「メモの力」
段取りは、自分をコントロールする技術でもある。そのためには、常に自分自身への指示ができるようにしておきたい。
私は常に手帳に、自分への指示を書き込んでおいて、それを見るようにしている。自分にしかわからないメモだが、これが段取りを立てるときに大いに役立つ。人間は忘れる動物だ。メモをしておかないと、起こったことや気づいたことをすぐに忘れる。
だから私は、いつどんなときでもメモができる態勢を整えている。
またある意味で、自分をマネジメントするためにもメモの技術は必要となってくる。
メモは、二四時間、いつでもどこでも取れる状態にしておくのが前提条件になる。
ひと言でいえば、環境整備だ。
今までメモが続かなかった人は、そこから始めていただきたい。
歩いているとき コンパクトデジタルカメラ、ボイスレコーダー、小さなメモ帳を常に携帯する。
寝ているとき(ベッドの脇) 枕元にノート(バラバラにならないもの)を置く。
仕事中(デスクワーク) 机の右側に、レポート用紙を開いた状態にして置いておく(左利きの人は左側)。
そしてすぐそばにペン先を下に向けてペンを立てておく。
仕事中(急な打ち合わせなど) 取り出しやすいポケットに手帳。
手で取り出しやすいところに筆記用具。
これらを西部劇の“ガンマン”のように“抜き撃ち”できるようにする。
移動中(車中・飛行機) 乗り物に乗っているときは ICボイスレコーダー。
携帯電話が使える場合は、付属のメモ機能でもいい。
オフ(休み) バッグやジャケット、ブルゾンに、メモ用紙をあらかじめ入れておく。
リラックスタイム A 4のコピー用紙をちょうどいい箱に入れて、家のあちこちに置いておく。
その上にサラサラと書けるサインペンを備えておく。
メモはこと細かく書き込むというより、必要なこと、忘れてはいけない必要最低限のことを書き込むようにする。
次の図は私の手帳の中の、主にスケジュールと ToDoリストのメモである。
現物だとわかりづらいので少し整理したものを載せた。
■自分を見つめるためのメモをつけてみよう
ところで、あなたは日記をつけているだろうか。
本格的な日記でなくてもいいから、眠る前に一行でも二行でも、今日の出来事を書く習慣をつけるだけで、「メモ人間」になることができる。
仕事のときにメモを取る人はいても、プライベートの時間にメモを取る人は少ない。
これからの時代、プロフェッショナルなビジネスマンとして生きていくためには、自己管理できることが大きな条件になる。
体調を整えるだけでなく、自分の精神状態を健全な状態に保つことが重要なテーマとなってくる。
メモはそんなときにも役に立つ。
心のメンテナンスをしてくれるのだ。
このメンテナンスは、ひと言でいうなら「自己客観視」である。
メモを書くことで、それが可能になるのだ。
ものごとを客観視することで、現在何が必要なのか、何をすべきなのか……といったことが見えてくる。
段取りを立てるときには、そういうことが見えている必要があるのだ。
書くことがなければ、その日の朝刊のトップの見出しを書くだけでもいい。
これを続けるだけで、世の中の流れが見えてくる。
メモをする場所としていちばんいいのは、行きつけのカフェや図書館だろう。
それらをいくつかつくることだ。
また、場所が混んでいて入れない場合でも、いわゆる“予備”の場所をつくっておくことだ。
せっかく時間をつくっても、場所が手に入れられなかったらメモは取りづらくなる。
メモは、とっさのときにサッと取ることも大事だが、「さあ、メモを取るぞ」と腰を据えて、考えながら取ることも大事なのである。
ともあれ、メモを取る習慣を身につけることで、自分を客観視できるようになることは間違いない。
それは段取り力アップへつながっていくだろう。
思っていること、気づいていること、気になっていることをメモすることで、自分を律することができる。
“律する”とは、言い換えればセルフディレクションする、ということだ。
この能力が身につけば、仕事やプライベートでの大きな失敗はなくなる。
「やろうと思ったけど……」「始めのうちはちゃんとできていたんですが……」「いつの間にか初心を忘れていました」 よく聞く言葉だ。
私も気を許すと、このような言葉が喉元まで上がってくる。
しかし、こんなセリフを口にしそうになったときこそ、自分で自分をディレクションするときだと思えばいい。
段取りとは、ミスや漏れのない準備や手配をして、それに沿って作業を進めていくことだ。
しかし自分を律することができていないと、実行段階でミスをする。
せっかくの段取りが“絵に描いた餅”になってしまうのだ。
■マネジメントには、工夫という意味がある
ところでマネジメントという言葉は、一般的には「管理」という意味に使われる。
だが、もう一つ、「工夫」という意味もあると言われている。
「管理」という言葉で表現すると、何やらとてもむずかしく感じるが、「工夫」と捉えてみることで、日々のこと、プライベートのこと、そしてライフイベントや仕事をやりこなしていく知恵も生まれてくると思う。
セルフ・マネジメントには、「自分で工夫する」という意味もあるのだ。
自分をマネジメントするのは、一見むずかしい。
しかしあまり深刻に考えることもない。
先ほどから書いている「メモ」に関しても、とにかくメモをする“癖”をつけることだ。
人と会っているとき、考えごとをしているとき、本を読んでいるとき……気がついたことをメモする習慣を身につけよう。
手始めに、どんなときでもメモ帳とペンを手放さないことだ。
これだけのことで、いつの間にかメモの習慣が身につき、いくつかの発見が得られる。
このことは、拙著『「発見力」の磨き方』( PHPビジネス新書)で詳しく書いたので参考にしていただきたい。
8 「職人」に学ぶ段取り力とは?
■職人の所作は美しく無駄がない
「職人」さんの所作は美しい。
それはなぜか──。
段取り(手順)が叩き込まれていて、無駄な動作がないからだ。
そんな「職人の技」から段取りの技術を吸収するために、料理人の仕事ぶりを参考にしてみてはどうだろうか。
カウンターがある店、厨房が見渡せる店に行ってみるのも手だ。
仕込みや調理の手順、盛りつけなど、あらゆる動きの中にすべて意味があることがわかるだろう。
私はよく、「机の上は、板前さんのまな板のようなもの」と言う。
つまり、一つの料理が仕上がったら、フキンできれいに拭かれて、そこには何もない。
そして新たな料理が始まる……。
次に、もし可能であるのなら建築中の家を訪れて、大工さんの動きを観察してみるといい。
荷さばきから道具の準備、作業の進め方、大工さんの動きを見てみると学ぶことは多い。
そして、片づけの素早さには驚かされる。
見ていると、簡単そうにやっているが、素人がやろうとしてもできるものではない。
料理人や大工さんだけでなくてもかまわない。
可能な限り機会をつくって、「職人の仕事ぶり」を観察してほしい。
段取りということが立体的に見えてくるだろう。
その仕事によって、それぞれ段取りは違うが、共通していることは「無駄のなさ」だと思う。
だから仕事(作業)が流れるように進み、見ていて惚れ惚れする。
自分の仕事に何か活かせないか……という目で見てみるといいだろう。
職人の考え方や仕事の進め方には、最も効率的な段取りの進め方が反映されている。
体に染みついていると言ってもいいだろう。
ああいう姿を目指してほしい。
職人とは経験の塊でもある。
経験に経験を重ねて、あのような美しい段取りを身につけている。
もし職人の中に入る機会や、技術を学ぶ機会があれば、ぜひ体験していただきたい。
多くのことがあなたの身につくだろう。
身近なところでは、引っ越し屋さんである。
家の大きさや家具の多さにもよるが、 3 LDK程度の家でも半日から一日で梱包を終えてしまう。
それもせいぜい五、六名だ。
その五、六名が部屋ごとに家具や本などをテキパキと梱包していく。
無駄な動きは、ほとんどない。
■プロとは何だろう
私は不思議な質問を受けたことがある。
それは大学生のときのことだ。
学校帰り、友人と駅のホームで電車を待っていると、突然、黒いカバンを提げた大人の男の人に声をかけられた。
まったく見ず知らずの人だった。
「大学生ですか?」「はい、そうですが……」「ちょっと時間いいですか?」 と、唐突に会話が始まった。
「一つ質問があるんですが、プロとは何ですか?」 そう聞かれ私は戸惑った。
一緒にいた友人が答えた。
「お金を取れる人だと思う」 男の人が答える。
「アマチュアでもお金をもらっている人もいますね」 男の人は私のほうを向いて微笑みかけたので、私は、「技術がある人、ギャラを取れる能力を持っている人」 と答えた。
しかし、男の人は、「アマチュアでも、プロより技術や能力を持っている人はいますよね」 と言う。
そしてこう言って去っていった。
「これから先プロとは何なのか? ということを考えてみてください。
時間を取らせてしまいましたね。
ありがとう。
では失礼します」 いったいあれは何だったのだろう。
一八歳の初夏にあった出来事がいまだに脳裏に焼きついている。
そして、いまだにそのときの答えは出ていない。
しかし、明確な答えは出ていないが、私は「プロ意識」を持って仕事をしているつもりだ。
自分の仕事に自信を持って取り組んでいるつもりだ。
それが、プロというものだと思うから──。
9 自分の「段取り力」をチェックする
■今すぐできること、すぐにはできないことを分ける
段取り力をつけるためにさまざまな工夫をしても、段取りよく仕事を進める習慣が身についていないと、なかなかうまくいかない。
私は、仕事というものは、複数の「雑事」の複合体だと思っている。
コピーをとったり企画書をまとめたり……という仕事から、大事なことを決断する仕事まで、大小さまざまな仕事は、一つひとつは一見すると「雑事」である。
それらをどういう順番で、どういうふうに処理していくか──これが段取りだろう。
本書で最初から述べている「優先順位をどうつけるか」ということだ。
本書の最後に、このことを含めた段取り力のチェックをしてみよう。
仕事を、「すぐにできること」と「すぐにはできないが、やらなければならないこと」「当面、考えなくていいこと」に大きく分ける。
段取り力のある人は、この分類が速い。
あっという間に分類してしまう。
仕事を進めるにあたっては、さまざまな重要な要素がある。
その中で最も気をつけなくてはならないことは、スピードと優先順位だ。
つまり、どれが今いちばん求められているかということと、それをいかに速くやるかということである。
そのためには、今の自分が、どんな仕事をしているかを、正確に把握するというところから始める。
意外と、これが曖昧な人が多いのだ。
これでは、いい段取りなど立てられないだろう。
■分類したら優先順位をつける
分類したら、やるべきこと、やったほうがいいことをすべて書き出す。
手帳でもいいし、 A 4ぐらいの紙でもいい。
そしてそれを、見えるところに貼り出してみる。
いつでも目につくようにしておくのだ。
その場合、リストアップした項目の中の仕事や作業には、必ず関連するものがある。
たとえば営業のスケジュール計画を考えるとき、展示会などの出展も同時に考えるとか、仕事を発注するとき、リストの中で外注先が同じ場合、可能なら一緒に発注する場を設けるなどすれば、一度で二つの仕事、作業を終わらせることができる。
このように、常に作業効率を考えることも大切になる。
仕事をリストアップして全体像を整理してみると、わかること、気がつくことがたくさん出てくるものだ。
そうなると「どうすれば効率的か?」ということも考えられるようになる。
まさに、段取りを考えるようになるのである。
その意味でも、今やっていること、今気になっていること……などのリストアップは、段取りのスタートでもある。
次の表は、「段取り力」をチェックするリストである。
切りのいいように二〇項目にした。
もちろんこのチェックリストは絶対ではない。
軽く考えて、「ときどきは自己点検してみようかな……」程度のノリでやってほしい。
最後に、これも繰り返しになるが、段取りの天敵は「先送り」と「後回し」である。
目の前のものはさっさと手をつけて、片づけてしまおう。
「後でやろう。
そのうち時間ができたらやろう」 そう考えた時点で、段取りは狂い始めている。
後でやるにしても、「一カ月後にやる!」と期限を決めること。
これが鉄則である。
仕事も料理も祭りも……段取りで決まる!────────あとがき 私は今、妻と二人、猫二匹で、かつて父と母が住んでいた家に暮らしている。
毎年夏と冬に娘たちが家に帰ってくる。
私は一時間で二種のパスタとサラダ、前菜を一人でつくりあげる。
凝ったもののリクエストがある場合は、前の日に下ごしらえをしておく。
そして娘たちが「お腹がすいたよ ~」と言って昼頃に起きてきたら、四人分のランチを私がつくる。
もう五 ~六年になる。
いつも「おいしい!」と褒めてくれるのが嬉しくて、その言葉を聴きたくて、料理をつくり続けてきた。
今では彼女たちが、おいしそうに食べる顔を見たくて、次の料理のカテゴリーも考えている。
「次はベトナムとかフレンチを」 と言われている。
頭が動き出す。
それで元気になる。
前もってレシピを考え、子供たちが帰省する前から、新鮮な野菜や生もの以外の材料を買っておく。
料理には段取りが必要なのだ。
料理をつくる一時間は、考えなくても体が動く。
つくる手順をすでに考えていたからだ。
料理で覚えた段取りは仕事にも活かせる。
もう一つ、段取りが役に立ったことがある。
何年も単身赴任していたときに身についた、炊事、洗濯、掃除をするということだ。
こうした家事いっさいをこなしてきたことが、今、多種多様な仕事をしている自分を根底で支えてくれている。
土台があると建物は建てやすい。
しかも、その土台がしっかりして広ければ広いほど、ピラミッドのように高くそびえる建造物が建てられる。
段取りができていれば、料理をするためにずっと台所に立ち続けている必要もない。
テキパキと料理をしながら、一緒に子供たちと食事ができるのだ。
仕事も料理も段取りである。
楽しいか楽しくないかは、段取りで決まる、ということだ。
私は一年に一度、あるボランティアをしている。
もうすでに二〇年以上になるが、そこへ行くことを一年の一つの区切りとしている。
日本三大火祭りの一つ、「那智の火祭り」という祭りのご奉仕だ。
火祭りが行なわれる那智大社は、二〇〇四年にユネスコ世界遺産にもなった。
祭りの神輿をつくることから、那智大社へ続く熊野古道という何百年も前に造られた参道の掃除をしたりもする。
ご縁があってこの祭りに参加することで、日本人の、いや日本の歴史を垣間見ることができた。
人が人に何かを伝える。
親が子に、その子がまた自分の子へ伝えるべきことを伝えていく。
祭りという場と時は、その“伝承”の接点でもある。
祭りの長老は、若者が祭りを執り行なうために必要な知恵や工夫を静かに語る。
祭りを支える祭りの先輩の大人たちは、次の柱にするべく祭りの後輩の大人たちへ、厳しく、そして気迫をこめて祭りの何たるかを教えている。
「目を見て話せ!」 祭りのことを話している松明衆に対して、祭りの長が真っ赤な顔で告げる。
私はたくさんのことを、この祭りで学んだ。
この祭りに出かけるために、私は一年三六五日を段取りする。
病気や怪我をしては祭りに参加できない。
気力と体力がいる。
仕事がうまくいかなくては、祭りに行くお金や時間もつくり出すことはできない。
経済力、スケジュール立て、計画性がいる。
そして、精神や心が疲れ果ててしまっては、祭りに行く気持ちそのものが萎えてしまう。
夢や希望、心の喜びがいる。
仕事以外のことを何年も続けることで、見えてくるものが必ずある。
祭りには、段取りが不可欠だ。
大松明からは火の粉が降りかかる。
一歩間違うと死人が出る。
集中し、段取りよく進めることで、祭りは美しいものになっていく。
飛躍かもしれないが、あえて言えば、いかにいさぎよく死ぬかのために、人はこの先の未来のことについて段取りを立てて生き、無意識のうちに死ぬための段取りを立てているのかもしれない。
私の願うことは、死ぬそのときに魂となって那智の火祭りがある熊野の地へ行くことだ。
それまで、元気で生きていく段取りを立てて毎日を過ごしていきたいと思っている。
仕事も家庭も、そして夢に対しても。
この本で書いたことには、私の仕事ならではの考えも含まれている。
しかし、できるだけ皆さんの役に立つように一般化して書いたつもりだ。
いい仕事、楽しい仕事をするために、段取り力を鍛えてほしい。
大松明持ちとしては最後の火祭りから帰ってきた自宅にて
著者
著者紹介坂戸健司(さかと・けんじ)
◎──クリエーター、ビジネス・プランナー、コンセプター。
◎──武蔵野美大を卒業後、広告業界に入る。
さまざまなナショナルクライアントの広告戦略、販売促進の戦略を学ぶ。
その後、郷里の広島に戻り、新産業開発研究所 代表取締役。
広告ディレクター、プランナー、エディトリアルディレクター、人材育成、人材コンサルタントなど、あらゆるクリエイティブワーカーとしての顔を持つ。
◎──これまでさまざまな職業を経験し、多くの経営者やビジネスマンと接してきた過程で、「いい仕事のためには、段取り力が欠かせない」と実感。
本書は著者が日頃実践してきたスケジュール管理、時間管理などの段取り術を、独自の視点で平易にまとめたものである。
[主な著書]山での癒し効果を書いた『 35歳からの山歩き』、メモの取り方・活かし方を書いた『メモの技術』、日常の整理方法を書いた『整理の技術』、効果的なプレゼンテーション法を書いた『プレゼンの技術』、気配りの技術を書いた『「気がつく人」に人が集まる本当の理由』(いずれもすばる舎)、独自の整理術をコンパクトにまとめた『すごい! 整理術』、察知する力、気がつく力の身につけ方を書いた『「発見力」の磨き方』(いずれも PH Pビジネス新書)、『夢をかなえる整理の技術』(総合法令出版)など多数ある。
[連絡先] 新産業開発研究所 E-Mail: info@ shinsangyo. jp URL: http:// www. shinsangyo. jp/
明日から仕事がサクサク片付くすごい! 段取り術著 者:坂戸健司 Kenji Sakatoこの電子書籍は『すごい! 段取り術』二〇〇九年十二月四日第一版第一刷発行を底本としています。
電子書籍版発行者:清水卓智発行所:株式会社PHP研究所東京都千代田区一番町二一番地 〒 102-8331 http:// www. php. co. jp/ digital/製作日:二〇一四年四月八日本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例外を除き、禁じられています。
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