第4章営業員を〝科学的に〟管理する方法
①営業員攻撃量の法則
営業員の行動にも、ランチェスターの法則を適用することができます。ランチェスターの第一法則は、戦闘力=武器効率×兵力数と展開することができましたが、これを営業行動に適用すると、営業攻撃量=平均訪問時間×平均訪問件数とあらわすことができます。
この式は、個々の営業員が得意先に対して力を発揮するためには、訪問時間と訪問件数を増やすことが必要であることを示しています。
また、営業所や支店といった単位で営業攻撃量を計算する場合、ランチェスターの第二法則が適用されるので、営業攻撃量=平均訪問時間×平均訪問件数の2乗となります。
すなわち、組織単位で考えた場合、訪問件数のウェイトがより大きくなることを示しています。営業員を数値的に管理しないと、業績の評価は単純な結果主義に陥ってしまう危険性があります。
結果主義が当たりまえになると、営業員は月末に帳尻を合わせようとする後半主義や、8割の力でいつも行動してノルマのアップを避けようとする八掛け主義に陥ります。これは、営業員の自覚の責任というより、会社の管理体制の問題といえるでしょう。
このような組織は、目標の未達成が常態化し、業績不振だけではなく、個々の営業員のモラールダウンや頻繁な退職につながる恐れもあります。
しかも、その原因が究明されず、放置されるために、さらなる組織力の低下を招いてしまいます。結果主義に陥らないようにするためには、「営業員攻撃量の法則」のような原理原則にのっとった理論を持って、科学的に営業を捉えることが必要となります。
②時間管理の重要性
「営業員攻撃量の法則」でも見たとおり、営業員が攻撃量をアップするためには、滞在時間と訪問件数を増加させることが必要となります。そのどちらを高めるにも、時間をうまくつくって営業活動の時間をつくり出すことが重要です。すなわち、時間管理の巧拙が業績をアップさせるカギとなります。
時間管理を行なうためには、営業員それぞれが、自分自身の労働時間をどのように使っているのかを知る必要があります。そのため、業務記録を詳細につけてデータを収集します。
こうした現実的なデータなしには、科学的な改善はできないのです。データが収集できれば、時間の使い方を吟味し、改善ポイントを見出します。
それぞれの営業員には「訪問件数が多い」「滞在時間が長い」といった行動の癖といったものがありますが、データを押さえていれば、癖を捉えることも、それを具体的に改善していくことも難しいことではありません。
一般的に、営業活動以外で時間を占めているのは次のとおりです。
- 社内業務
- 社内会議
- 移動時間
①の社内業務とは、日報の作成、営業準備、クレーム処理などを指します。
組織全体で、なるべく社内業務を削減していく努力は必要ですが、こうした業務は、社内にいればいくらでも発生するので、午前中の顧客訪問時間を早めるなどして、社内にいないようにする工夫も有効です。
②の社内会議を営業員が無視するわけにはいかないでしょうから、組織として時間短縮していく工夫が求められます。
③の移動時間を減らすには、組織として営業員の担当テリトリーを狭めることが必要です。
また、営業員自身も、訪問する順序やルートを工夫することで移動時間の短縮を図ることが必要です。誰にとっても時間は有限なものですから、時間管理の徹底が、営業員にとっても競争力の源泉となります。
日本の営業員の営業生産性がアメリカの営業員にくらべて低いのは、労働時間の使い方にムダが多いということが田岡信夫の時代から指摘されています。
③訪問計画の必要性
行き当たりばったりの営業行動では、訪問件数や得意先での滞在時間を増やすことはできません。行動のムダをなくして効率性を高めるためには、訪問計画を立てることが必要になります。
その日一日、どのような順序で、どのような訪問ルートで、そして何件の得意先を訪問するかという計画を立てることにより、時間ロスや未訪問顧客を排除することができるのと同時に、営業員のモラールアップを図ることができます。
得意先の訪問順序や滞在時間、訪問件数を決める際にも一定のルールがあります。どんなに強い企業であっても、すべての得意先を均等に訪問することは不可能ですから、優先順位をつけなければなりません。
その前提となるのが、第3章でも取り上げた「ABC分析」です。一方の軸に販売店全体の売り上げが大きい順からABCにランク分けし、もう一方の軸に自社との取引額が大きい順からabcにランク分けします。
すると、9つのマスが出来上がりますので、それぞれのマスごとに優先順位をつけることになります。
9つに分けるのは細かすぎるという場合には、「Aa、Ab、Ba」をAグループ、「Ac、Bb、Ca」をBグループ、「Bc、Cb、Cc」をCグループの3つに分類するという方法もあります。いずれにしろ、得意先ごとの優先順位をつけるためのルールをきちんと決めておくことが大切です。
ABC分析が終わり、優先順位が決まれば、訪問順序、滞在時間、訪問回数を決定します。具体的には、A→B→Cの順番で訪問し、A→B→Cの順に滞在時間を多くとり、A→B→Cの順に訪問回数を多くしていきます。
重要なことは、営業員の攻撃量を増やすための行動ルールを統一し、標準化することです。標準化することで、各人の行動を客観的に数値化して管理することが可能となります。訪問計画を意味あるものとして機能させるカギは、標準化です。
④新規開拓の効果的な方法
営業員が業績を上げ続けていくためには、既存の得意先に向けた営業活動だけでは不十分です。つねに一定の割合で新規取引先を開拓していくことによって、得意先数や市場占拠率を維持・向上し、さらに業績を上げることが可能となるのです。
しかし、市場が成熟した今日、得意先の新規開拓は容易なことではありません。この状況下で業績を上げるためには、漠然と営業するのではなく、戦略的に新規開拓に取り組むことが必要です。
新規開拓をする際にも、やみくもに飛び込み営業をかけていたのでは効率が悪く、営業生産性を上げることはできません。ここでも、生産性を上げるためのカギは、営業活動の標準化となります。
一般的に営業活動は、リストアップ、アプローチ、ヒアリング、プレゼンテーション、クロージング、アフターフォローの6つのプロセスに分類することができます。
また、強者と弱者では、狙いうちの根拠が異なってきます。それぞれのプロセスにおいて、やるべきことと持つべきスキルを明確にし、それを標準化することで、営業活動全体の品質を向上させることが可能となります。
(1)リストアップ
リストアップとは、対象とすべき顧客の絞り込みのことを指します。いくら営業活動が熱心で優れていても、購入する気の低い顧客だけを相手にしていては、思ったような成績を上げられません。
逆に、購入する気が高い顧客を相手にしていると、営業スキルが未熟でも、ある程度の成績は残せるはずです。その意味でも、もっとも成績に直結するのが、このリストアップというプロセスです。
とくに、困難が予想される新規開拓営業においては、しっかりとした根拠のもとで「狙いうち」をすることが大切です。
その「狙いうち」をする場合、
①強者の目がまだ行き届いていないような地域や、顧客層にいる顧客を狙いうちする
②「足下の敵攻撃の原則」に基づき、自分より弱い競合他社を狙いうちする
③強者の商品とは差別化された商品を持って狙いうちする
などといった考え方があります。
強者ならば、「確率戦」に持ち込むため、併売店や規模の大きい得意先を狙いうちします。逆に弱者ならば、「一騎討ち戦」に持ち込むため、オンリー顧客を狙いうちします。
このように、リストアップはもっとも戦略的な要素が強いプロセスであり、その他の戦術的なプロセスよりも、より重視すべきものなのです。
(2)アプローチ
アプローチとは、顧客への接触、つまり何らかの方法で顧客と直接コミュニケーションをとることです。ここで大事なことは、なるべく多くの顧客に接触すること、そして、接触した顧客との信頼関係をしっかり築いていくことです。
新規開拓は、断られることが前提と言われるほど成功確率は低いのですが、何回か通っているうちに信頼関係を築いていけることも多いものです。
かといって、見込みのない得意先ばかりに時間をかけていたのでは、著しく生産性を低下させてしまうことになります。そこで、新規開拓を行なう場合には「四回訪問の原則」を適用します。
これは、どんな得意先に対しても、最低4回は訪問をしてから見込みのあるなしを判断せよという原則です。人は、はじめて会う人よりも何度か会っている人を信頼するという心理上の特性を持っています。
その意味でも、1回や2回の拒絶であきらめるのは早計です。かといって、何度も通いつめたりするのはやはり非生産的なことです。得意先の本音と建前を見きわめるのに、4回は訪問することが適切だと考えてください。
ここでも大切なことは、営業員個人の感覚に任せるのではなく、4回訪問を標準化して、組織全体のルールとすることです。それが、組織としての営業力向上につながるのです。
また、顧客と信頼関係を築くためには「ハッピーコール」をうまく使うことも有効です。これは、マネージャーにとって重要な仕事の一つです。このハッピーコールは、通常の営業活動とは違って、目的を持たないあいさつ程度の訪問のことを指します。
4回訪問をしてから見込みありと判断した得意先については、途中下車をしてふらりと立ち寄ったりといった、まさに無目的に見える訪問を取り入れることによって得意先の警戒感を解き、信頼関係を築く効果があります。
(3)ヒアリング
ヒアリングとは、顧客のニーズ(顧客の満たされない欲求)やウォンツ(製品やサービスを求める感情)を的確に聞き取ることです。
ここでは、必要な情報を漏れなく聞き出すのと同時に、本音を引き出す深い聞き取りが重要です。もちろん、ヒアリングが機能するには、その得意先と一定の信頼関係を築くことができたという前提があります。
漏れなく聞き出すためには、事前にヒアリングシート(質問状)を準備しておきます。ニーズを引き出すための質問内容は多岐にわたると思われるかもしれませんが、実際にはいくつかの質問項目に集約されます。
顧客の受け答えに応じて臨機応変な質問を投げかけることも大切ですが、その前に、質問内容を標準化することで必要な情報の聞き漏らしをなくすことのほうが重要です。
ただし、より深いニーズやウォンツを聞き出すには、相手の反応をよくうかがい、本音がどこにあるのかを掘り起こす質問スキルが必要になります。そのためには、ロールプレイングを行ないヒアリングの訓練をしておくべきです。
(4)プレゼンテーション
プレゼンテーションとは、顧客のニーズにマッチするような商品やサービスの提案を行なうことです。
ここでも、効率的に、数多くの企画提案を行なうのと同時に、相手の印象に残るような、強いインパクトを与えなければなりません。
プレゼンテーションを効率化するためには、企画提案書をある程度統一して、あらかじめ準備しておくことが有効となります。
得意先によって、提案内容は変えなければならないと感じるかもしれませんが、実際には、提供する商品やサービスが共通である以上、提案内容の大部分は共通化できる内容になっているはずです。
いくつかのパターンに沿った企画提案書を準備しておいて、得意先のニーズに応じてカスタマイズできるようにしておけば、営業準備の時間が大幅に短縮されます。
さらに、得意先に深い印象を残すようなインパクトある提案をするためには、臨場感や迫真性を演出するツールを準備しておくとよいでしょう。
たとえば、その商品の使用状況を体験してもらう工夫や、実際に使ってもらう場面をつくることなどです。
得意先の担当者が提案内容に興味を持ったならば、さまざまな質問を投げかけてくるは
ずです。
仮に、提案のマイナス面を指摘するような質問であっても、興味を持っているからこそだと前向きに捉えてください。したがって、この段階の質問には誠実に丁寧に解答しなければなりません。
あるいは、提案が顧客の心に響いていないと思われる場合は、プレゼンテーションが拙かったというよりは、ヒアリング段階でのニーズ把握が不十分であったと考えるべきです。
したがって、提案を無理に押し通そうというよりは、ヒアリングに戻って質問をやり直すようにします。ヒアリング段階でのミスをプレゼンテーション段階で取り返すことは、まず不可能です。いさぎよく、前段階に戻る勇気を持ってください。
Column事例14
地域戦略、営業員戦略を高度に活用――綜合電材株式会社――東京都足立区の住宅街に拠点を置く電気部品卸、綜合電材。
国府田社長以下、社員皆がランチェスター戦略を習得し、日々の営業活動に生かし、シェアを着実に伸ばしている。事務所の壁には2種類の戦略マップを貼って得意先などが可視化されており、社員たちもその前で打ち合わせをすることが習慣となっている。
「広域戦略マップ」は、大型工事案件に使用し、宛先と自社・競合他社の距離関係がひと目でわかり、攻めるか否かの判断基準が得られる。
狙いは顧客の注文に即納できることで、これが大きな差別化につながっている。「近郊エリア戦略マップ」は、地域戦略で言う「地盤強化の原則」に則し、地元顧客への高度なサービスを展開するために使用、高い支持を得ている。
戦略を社員皆がしっかりと実践し続けていることが同社の強みである。
(5)クロージング
クロージングとは、契約締結のための行動です。
顧客は、提案を受け入れようと気持ちを固めていたとしても、心理的に最後のためらいや迷いを覚えるものです。それを払拭して、そっと背中を後押しすることが、クロージングの役割で、顧客の反応をよく読み取り、細やかな気遣いで誠実に対応することが求められます。
ただし、この段階でできることはわずかです。クロージングが上手くいかないのは、むしろプレゼンテーションやヒアリングが的確ではなかったと考えて、このプロセスで無理な努力はしないほうが賢明です。ごり押しするようなクロージングは好ましくありません。
(6)アフターフォロー
アフターフォローは、一度購入した顧客にリピートしてもらうための活動です。リピーターづくりは新規顧客開拓より楽な作業なので、これからの営業員が業績を上げるカギは、リピーター対策だといっても過言ではありません。
しかし、多くの営業員が新規開拓には熱心でも、アフターフォローには無関心であることがほとんどです。せっかく新規開拓した顧客がリピーターとなり本当の得意先になるためには、営業員の地道な行動が必要不可欠です。アフターフォローがなければ、新規開拓は完成しないことを理解してください。
そうはいっても、アフターフォローに欠ける営業組織が営業員の自覚に任せるだけなら、今までどおりになるでしょう。アフターフォローを組織として行なうなら、やはりその行動を標準化し、ルールとして規定することが必要です。
たとえば、初受注の一定期間後に訪問する、あるいは手紙を送るなどのルールを決めて愚直に行なうこと。こうした地道な活動で、リピーターになる確率は着実に高まります。
⑤営業力向上のカギは〝科学的〟な管理
ランチェスター戦略の生みの親、田岡信夫は、1972年に発表した「ランチェスター販売戦略」の中で、成熟期を迎える日本が今後、生産性を高めていくためには、営業に科学的な要素を入れていかなければならない。
そして、科学的な営業を行なうためには、まず、営業作業の標準化を行なうことからはじめなければならないと書いています。
そもそも、日本の製造業が世界一の生産効率を誇るようになったのは、製造工程を細かく分解し、それぞれの工程を極限まで効率化していった積み重ねから成り立っています。その根本には、デミング博士の作業標準化の思想がありました。
ところが、世界を驚かすような作業の標準化、効率化が、これまで営業活動に生かされてこなかったことは残念なことでした。
前項で書いた営業活動をプロセスに分解して標準化する方法は、新規開拓営業の場面だけに適用されるのではなく、すべての営業活動の品質を高めるうえでとても有効です。しかし実際のところ、営業の現場に出てみると、画一的な営業プロセスやパターンに当
Column事例15
チーム営業でナンバーワン達成――ノバルティスファーマ株式会社――グローバル企業の開発力を生かして毎年革新的な新薬を発売し、ランチェスター戦略の活用で着実にシェアを伸ばしてきた医薬品メーカー・ノバルティスファーマ。
同社のランチェスター戦略活用における特徴の一つが、担当エリア内のチーム営業の体制。1人の顧客に対して複数の医薬情報担当者(MR)が協働して活動する。
これにより第二法則が支配する局面をつくり出し、ナンバーワン達成を早めている。
約2500名のMRが、ランチェスター戦略の活用効果を遺憾なく発揮するためには、医師・薬剤師とのコミュニケーション能力の向上が非常に大事で、「上司マネージャー(営業所長)は、業績だけでなく部下のMRの育成責任も担い、トレーナーあるいはメンターとして日々、OJTやOFF/JTを繰り返しています」と、夏山教育研修部長は語る。
コメント