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第4章会話例で学ぶ部下のタイプ別フィードバック

目次

第4章会話例で学ぶ部下のタイプ別フィードバック

すぐに激昂してしまう「逆ギレ」部下>「○○さんはどう思っているのかな?」と相手の話を聞ききる

「普段は何も言わないくせに、今さら何なんですか?」「マネジャーのこと、見損ないました」──誰だって怒りを向けられると最初はたじろぐもの。

しかし、その怒りをチャンスに変える方法があるのです。

下手にほめるのは逆効果

第1章で多様化する部下への対応がフィードバックの大きな壁の一つだと述べました。

そこで本章では、部下のタイプ別に、実際の会話例を通じて、「やってはいけないフィードバックとはどんなものか」「実際にどのようなフィードバックをするべきか」といったパターンを学んでいこうと思います。

まず、次の「NGフィードバック事例」を見てください。

フィードバックをしたとき、最も多いトラブルのパターンは、「フィードバックした部下がキレること」でしょう。程度はどうあれ、多くのパターンがこれに該当します。

中には、「課長は何もわかっていません!」「それは課長の問題認識が間違っています」というように、こちらのフィードバックの内容にかみついてくるといった事態はよく起こります。

こんなとき、皆さんなら、どう対処しますか?部下をなだめすかして、怒りを鎮めようとする、という人は少なくないでしょう。

たとえば、「君が頑張っているのはわかっている」とねぎらったり、「たしかに、君のこういうところは良いところだ」とほめたりするわけです。

しかし、残念ながら、この方法は逆効果になることがほとんどです。

部下もそれほど単純ではありませんから、ねぎらわれたり、ほめられたりしたところで、簡単に怒りは鎮まりません。

それどころか、前章で見たように「白々しい」と思われ、怒りを増幅させることの方が多いでしょう。

また、「自分のことを怖がっているんじゃないか」とナメられてしまうこともあります。

また無駄にほめることで、せっかく行ったネガティブフィードバックの効果を減じてしまう可能性があることも、第3章で見てきました。いずれにしても、聞く耳を持ってもらえなくなるでしょう。

また、「私はそう思っていないけど、人事(または自分の上司)がそう言っているから仕方ないんだ」と他人のせいにする人もいますが、第3章で見たように、これも間違った対応と言えます。

人のせいにすれば、「責任逃れをして、卑怯な人だな」と思われる可能性大です。一度そう思われてしまうと、信頼感がなくなり、他の仕事でも「責任逃れをするんじゃないか」と思われてしまいます。

その後の仕事にまで、悪影響を及ぼしてしまうというわけです。

多少暴論であっても、最後まで聞ききる

では、どうすれば、部下の怒りを鎮めつつ、こちらの話を受け入れてもらって、成長につなげられるのでしょうか。私がすすめるのは、部下がどのような思いを持っているのか、話をすべて聞ききることです。

たとえば、「そんなに怒るということは、『こうした方がいい』という強い思いがあるんだよね?それを聞かせてくれないかな」などと言うのです。

具体的には、「なんで怒っているのか」という理由と、「どうすれば良いのか」と改善策を聞くようにしましょう。

そのときのポイントは、多少暴論であったとしても、最後まで聞ききることです。すると、部下は自分の言いたいことが言えたことでスッキリし、怒りを鎮めていくでしょう。

いきなり部下にキレられると、びっくりして頭が真っ白になることがあります。そんなときに、私が紹介している方法に「幽体離脱法」というものがあります。

自分の立ち位置を、あえて自分よりも「メタ(上位)」な立場に置き、自分の感情を客観的に見つめるのです。

怒り狂っている部下の話を聞きながら、それに心をザワつかされている自分の感情の揺れを見ます。

そうして、心をコントロールして、部下の突発的な怒りにただちに怒りで反応しないようにするのです。

こうした場合には、無理に話そうとしないで、部下にしゃべらせておきましょう。言いたいことをすべて話せば、怒っていた部下も落ち着きを取り戻すものです。

部下の主張をリピートしてから、切り返す聞ききることで、怒りを鎮めてもらったら、こちらの主張につなげていきます。

そのときのポイントは、「○○さんは、だと思っているんだよね」と部下の主張をリピートすることです。

そのうえで、「でも、ここはちょっと矛盾しているんじゃないかな」「~には違和感を感じるんだよね」と指摘することです。

この順序で話すと、部下は、最初のリピートによって、「上司は自分の考えを尊重してくれている」と自尊心を満たせるので、聞く耳を持ちやすくなります。

部下の言うことが暴論ばかりだとしても、「◯◯さんはせっかく強い思いを持っているんだから、それを数字や成果に結びつけることができたらいいんじゃないかな」というように、改善を促すようなことを言うのが、大人の対応です。

すると、部下も、前向きな気持ちを取り戻し、一緒に改善策を考えてくれるはずです。変にフォローすると刺さらない。

こちらも負けじと黙り込む相手が激昂して、自分の思いをまくしたててきたら、私はラッキーだと感じます。

なぜなら、相手が自分の感情や考えを「外」に出せば出すほど、相手のものの見方や考え方の偏りが、露呈するからです。

話せば話すほど、矛盾が見つかるからです。むしろ困るのは、沈黙する人。黙ることで不満を表すタイプです。

この手に出られると、沈黙に耐えられなくなり、ほめるなどのフォローを入れる人がいますが、これこそ相手の思うツボです。

相手にとって有利な展開になり、フィードバックを聞き入れてもらえなくなります。もし相手が沈黙してきたら、こちらも黙って待つのが正解です。

「1時間でも2時間でも待つ」という覚悟を持ちましょう。「待つこと」はマネジャーの仕事です。そうしてこちらの本気度を示せば、相手が根負けして口を開いてくれるものです。

そこまで待っている時間の余裕がない場合や、相手がとても聞く耳を持たないほど激昂している場合は、思い切って日を改めてしまいましょう。

新たな気持ちで相手に向き合った方が、うまくいきます。以上に留意して、冒頭で示した事例を見直すと、次の「OKフィードバッaク事例」のようになります。

ポイント

  • 逆ギレされたからといって、安易にほめたり、なだめたりしない
  • 相手の話を最後まで聞ききる
  • 相手の主張をリピートしたうえで、矛盾点を指摘する
  • 相手が沈黙したらこちらも沈黙する
  • 日を改めてしまうのも手

上から目線で返してくる「逆フィードバック」タイプ>上司目線だとこのように見える、ということを伝える

上司がフィードバックすると、ここぞとばかりに、「上司の〇〇さんのこういうところにも問題がある」とフィードバック返しをしてくる部下がいます。

実力がある部下だと対処に困りますが、どう返せば良いのでしょうか。

もし君が上司だったら、この職場をどう変えるの?と意見を求める

「では、言わせてもらいますが、私は、○○課長のやり方にも問題があると思います」次の「NGフィードバック事例」のように、フィードバック中に、部下から上司であるこちらのマネジメントを批判されることがあります。

そんな上から目線の批判をされると、「自分のことを棚に上げて、俺の批判?」とムッとするかもしれませんが、そこで怒ってはいけません。

マネジャーは「キレたら、負け」です。特に今は、スマートフォンやICレコーダーでいつ録音されているかわからない時代です。そんな時代に「キレ」てしまうことは百害あって一利なしです。

逆ギレタイプと同じく、まず大切なのは、相手の話を「聞ききること」です。相手に話をさせれば「矛盾」や「つっこみどころ」が必ず生まれます。

このタイプにおすすめなのは、「もし君が私の立場だったら、この職場をどう変えるの?」と「仮定法的な質問」を投げかけることです。

「もしあなたが◯◯だとしたら、どう思いますか?」という仮定法的な問いは、普段、人は思いつきもしません。つまり、どんな人であってもこうした仮定法的な質問には弱いものなのです。

ですから、もし視点を変えたいと思ったら、「仮定法的質問」を繰り出すことで事態を乗り越えることもできます。

そして、「こう変える」という部下の意見を聞くと、多くの場合、矛盾が出てきます。その矛盾を指摘すれば、部下は口をつぐんでしまうはずです。

時には、部下の意見に一理あることもありますが、そんなときは「たしかにそれは一理あるね」と認めてあげましょう。

そのアイデアが良いものであれば、採用してあげるとさらに良いでしょう。大切なことは体面ではなく、成果を出すことです。

マネジャーの行動の根源には「それで成果が出るのか、どうか」を中心に置くとブレがなくなります。

上司目線を伝えることで、視野の狭さを気づかせる上から目線でフィードバックしてくる相手に対しては、上司目線での見解を細かく話すことも効果的です。

たとえば、部下を何かのチームリーダーから外すという決断をしたとしたら、その理由を上司の目線からいくつも並べるのです。

単に「成果があがらなかったから」だけでなく、「A君を新リーダーにすることで、これまでと異なる客層が開拓できると考えた」「君はBさんと組ませた方が、力を発揮するのではないかと考えた」「C君が伸び悩んでいるので、リーダーに昇格させて、刺激を与えたかった」などと、話すわけです。実は、一般社員は、意外なほど上司目線の視点を持っていないものです。

たとえば、予算やスケジュールを無視して、「もっと人を採用した方が良い」などの現場目線の提案ばかり、というのはよくあることです。

こういう場合は上司目線で冷静に伝えると、「上司はそんなふうに考えていたのか」「一枚上手だな」と部下が納得し、話を聞いてくれることがあります。

以上を意識すれば、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

徹底的にデータ勝負をする

上から目線でフィードバックしてくる部下は、「そもそも上司が、私の問題点を正確に把握できるわけがない。

そんな人のフィードバックなど、聞くに値しない」というふうに思っていることが少なくありません。

すべてのタイプに言えることですが、特にこのタイプの部下に関しては、日頃の行動を観察して、気づいたことを詳細にメモすることが大切です。

そのうえで、「先週のこの仕事のときに、こんなことをしていたけど……」とメモを元に具体的に指摘すれば、部下も「上司が間違っている」とは言えなくなります。徹底的なデータ勝負です。

第2章で述べた通り、情報a収集をするときにはSBIを意識して、余さず収集するようにしましょう。

ポイント

  • 「もし君が上司だったら、この職場をどう変えるの?」と「仮定法的な質問」を投げかける
  • 部下の意見に一理あったら、「たしかに一理あるね」と認めつつ、「でも、君もこのように変えないとヤバイと思うよ」と話を戻す
  • 上司目線の話を事細かに話す
  • 日頃の行動を記録して、それを元に具体的に指摘する

自分に都合良く解釈して「まるっとまとめちゃう」部下>「それってどういうことなの?」とまとめた内容についてたずね返す

「要は、やる気を持てばいいんですね」などと、フィードバックの内容をまるっとまとめてしまう人がいます。問題なのは、ほとんどの場合、そのまとめ方が間違っていて、改善に結びつかないことです。

まるっとまとめてしまう人に対してはどう対処すべきでしょうか?部下は「なるほど!こういうことですね!」と言うけれど……「なるほど。要は、やる気を持てばいいんですね」「そうか。つまり、自分らしさをもっと前面に出せばいいんですね」フィードバックをしたとき、その内容を自分なりの解釈で「まるっとまとめてしまう」人がいます。

そのまとめ方が正しければいいのですが、9割以上は、都合の良いところだけ取り出して、フィードバックの趣旨や内容、精度を故意にゆがめたり、薄めたりしている人は少なくありません。こちらが「10」話したことを、都合の良いところだけつまんで「1」に減じてしまうのです。

次の「NGフィードバック事例」のような具合です。キツイことを言われた精神的ショックを和らげたいのか、単に理解力がないのかはよくわかりませんが、こちらは、プライドが高い人や、ベテラン社員に多く見られる病です。

抽象化されてしまったものを、もう一度具体化するいずれにしても、このような人をそのまま放置していては、永遠にフィードバックが刺さりません。

どうすれば良いのでしょうか。

私がおすすめするのは、相手がまるっとまるめた内容に関して、「それって、具体的にはどういうことだと思う?」とたずね返すことです。

たとえば、「わかりました、要するに自分らしさを前面に出せばいいんですね」などと言われたら、「それは、私が言ったことと、ちょっとずれているかもしれないな。

ちょっと確認させてほしいんだけど、自分らしさを前面に出す、というのはどういうことなの?」と聞いてみるのです。

すると、部下は「わかった」と言った手前、その内容を説明せざるを得ませんから、あれこれ話してくれることでしょう。

間違っていたとしても、話を途中で遮らずに、聞ききることです。細かく話してもらえば話してもらうほど、その解釈の仕方が間違っていることが明らかになります。

そして聞ききったうえで、「いや、私の言いたいことはそういうことじゃないんだよな」とはっきりと否定して、もう一度、具体的に行動改善できるレベルに落とし込んでフィードバックをしましょう。

「具体的にどう行動を改善するか」と「改善する目的」、「改善までの期限」の3つを伝えれば、後で改善につながったかどうか、検証することができます。

まるっとまとめるということは、話を抽象的にするということです。抽象的にすることで、現実と向き合わずに済むからですが、そこを再び、行動改善できるレベルに戻すことで、現実と向き合ってもらうわけです。

フィードバックした内容を「まるっとまとめるとき」の言葉として、非常に多く見られるのは、「コミュニケーション」と「情報共有」です。

「要するに、コミュニケーションをもっととれということですね」とか「情報共有を密にしろということですね」などと言われると、聞こえは良いのですが、私は、この2つの言葉だけで、行動改善につながったケースを見たことがありません。

この2つの言葉が出てきたときは、それで終わらせずに、具体的な行動レベルに落とし込みましょう。

たとえば「コミュニケーションをとると言うけれど、具体的に、どんなときに、どんなふうに相手に連絡をとるの?」とか「情報共有を密にすると言うけれど、具体的に、どのような情報を、どのタイミングで話し合うの?」と聞いていくと、さらに話が具体的になります。

ストレートに「都合良く解釈するな」と言う手も

このような「まるっとまとめるタイプ」の人に対しては、その行動がまったく改善されない場合には、その問題点をストレートに伝えることも一計です。

たとえば、「あなたは、私の指摘している内容を、都合の良い部分だけ抜き出して理解されているように見えます」「あなたは、私の指摘している内容を、薄めて理解する傾向があります。私はもっと具体的に問題点を話し合い、具体的に行動をどう変えるかの話がしたいのですよ」というように、はっきりと指摘するのです。

このようなケースでは、「あなたが逃げようとしていることは、こちらはお見通しだ」というくらいに示さないと、このタイプの人はいつまで経ってものらりくらりと逃げ回る場合があります。

一時的には言い合いになるかもしれませんが、衝突を恐れてはいけません。放置しておけばおくほど、後から、物事を変えるのは大変になってしまうのです。

以上に留意して、冒頭で示した事例を見直すと、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

  • 相手がまるっとまとめた内容に関して、どういう意味か聞いてみる
  • 相手の解釈を聞ききったうえで、「いや、私の言いたいことはそうじゃない」とはっきりと否定する
  • 相手が何度逃げようとも、根気強く、何度もフィードバックする
  • 「コミュニケーション」「情報共有」という言葉に要注意
  • 「あなたは、私の指摘している内容を、都合の良い部分だけ抜き出して理解されているように見えます」とストレートに返す
  • 言い合いになることも覚悟する

何を言っても「大丈夫」で返す「ポジティブに逃げる」タイプ>「大丈夫?」と聞かずに、オープンクエスチョンでたずねる

仕事の状況を聞いたとき、まったく大丈夫ではないのに「大丈夫です」と返してくる……こうした部下は、仕事の大炎上のもとです。

このタイプには、どのように質問をすれば、フィードバックできるのでしょうか。

問題は、あなたの「大丈夫か?」にある報連相(報告・連絡・相談)はないけれども、何か問題を抱えているような雰囲気がある。

そんな部下に対して、一声かけてみたら、「ありがとうございます!でも、大丈夫です!」と返答が。

ところが、後日、まったく大丈夫ではないことが判明し、取り返しのつかない事態になってしまった……。

そんな次の「NGフィードバック事例」のような経験をしたことがあるマネジャーは、多いのではないでしょうか。

大丈夫ではないのに「大丈夫です!」と言うのは、若手でもベテランでも多く見られます。上司としては、非常に困る回答です。なぜ大丈夫ではないのに、大丈夫と言うのでしょうか。

本当に状況が見えていなくて、「大丈夫」と思っているようなケースもあるかもしれませんが、ほとんどのケースでは、上司のセリフに問題がある、と私は見ています。

そのセリフとは、「大丈夫か?」です。上司が部下に仕事の状況を確認するとき、無意識に「大丈夫か?」と聞く人は少なくありません。

しかし、部下の立場になって考えてみると、上司に「大丈夫か?」と聞かれて、「大丈夫じゃありません」とはなかなか答えにくいものです。

そう言ったら、「大丈夫じゃないなら、とっとと、前もって相談しに来い」「大丈夫じゃないってわかっていて、今まで何をやっていたの?」などと言われてしまうのがオチです。

そう考えたら、部下には、「大丈夫です」と答える選択肢しか残されていません。

つまり、上司が「大丈夫?」と聞くから、大丈夫ではない状況を余計に深刻化させているというわけです。

「大丈夫ですか?」というのは、カウンセリングの世界でも、使ってはいけない言葉としてよく挙げられます。

大丈夫なら、カウンセラーのところに来るはずがないからです。「大丈夫ですか?」と聞くと、悩みを話しにくくなってしまうのです。

現状は、オープンクエスチョンでたずねる部下の担当する仕事が大炎上する前にフィードバックをするためには、部下から「大丈夫です」と言われることなく、本当の状況を報告してもらうことが必要です。

そのためには、「大丈夫か?」と聞くのをやめましょう。その代わりに、「オープンクエスチョン」でたずねることが大切です。

オープンクエスチョンとは、「はい・いいえ」などで単純に答えることができない質問のことです。

たとえば、「仕事で何か、困っていることある?」「仕事で今、話し合っておきたいこと、ある?」というような聞き方をします。

あるいは、「〇〇の件だけど、今、どんな状況になっているの?」とストレートに聞きましょう。

すると、「大丈夫か?」と聞かれたときと比べて、部下も、正直に状況を述べやすくなります。

なぜ大丈夫だと思うのか、突っ込んで聞いてみるこのように、オープンクエスチョンで聞いても、「大丈夫です」と言われてしまったときには、もう一歩踏み込んで、「何がどういう状態にあって、大丈夫なのか」をたずねるようにしましょう。

具体的な状況をいくつか挙げてもらえば、矛盾点が必ず出てきます。そもそも、具体的な理由が出てこない可能性も大いにあります。そこを突けば、相手も聞く耳を持たざるを得なくなります。

これは、部下から、「まぁ、なんとかなります」などと根拠のないポジティブな返答があったときにも、同じ手が使えます。

「なんとかなります」と言うなら、「具体的にはどういう状況なの?何がなんとかなりそうなの?」と聞けば、部下は答えざるを得ません。

繰り返しになりますが、相手にいろいろ話してもらうことで、それらの矛盾を探し、反論につなげるのが、フィードバックの鉄則です。

その間、上司は相手から寄せられるさまざまな情報を冷静にロジカルに考え、分析していくことが求められます。

以上に留意して、冒頭で示した事例を見直すと、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

  • 部下に「大丈夫か?」とたずねない
  • オープンクエスチョンでたずねる
  • 大丈夫と判断した具体的な状況や理由を挙げてもらう
  • 話してもらう中で、矛盾点を見つける

隙あらば別の話題にすり替える「現実逃避」タイプ>すり替えに惑わされずに、何度でも根気強く話を元に戻す

殊勝な感じでフィードバックに耳を傾けているように見えて、「すみませんでした。ところで……」といつの間にか、別の話題にすり替える。すぐに自分の非を認めて、ただちにそこから逃げようとする。ベテラン社員にありがちな手です。

こんなタイプに刺さるフィードバックとは?部下の「からめて」「踏まえて」「関連して」には注意フィードバックを受け慣れている海千山千の部下の中には、ちゃんと聞いていると見せかけて、「すみませんでした。ところで……」と別の話題にすり替える人がいます。

ちょうど次の「NGフィードバック事例」のような具合です。別の話題にすり替えるのは、「自分が責められている状況から早く逃げ出したい」と思っているからです。

まずはただちに「非」を詫びる。そのうえで、すぐに話題を変える。ベテラン社員ほど、すり替えのバリエーションは豊富です。

「ところで……」だけでなく、「すみませんでした。それはさておき」「申し訳ないと思いつつ、ちょっと別の話になりますが」「重々反省しているのですが、あ、そういえば」「お詫びしたいと思いつつ、その件にからめてご相談がございまして」などと、さまざまな手法で話題をすり替えてしまいます。

「その件にからめて」「踏まえて」「関連して」などと、今までの話題とつながっているように見せかけて、実際はまったくつながっていないということは、よくあることでしょう。

すり替えるだけなら良いのですが、このタイプは例外なく、フィードバックの内容を覚えていません。

現実逃避をしたいわけですから、真正面から課題に向き合うはずがないのです。

だから、同じ過ちを何度も繰り返す……。こんな部下に手を焼いている人は、多いのではないでしょうか。

根気強く話を元に戻して、何度でも同じことを述べるこうした人にフィードバックが刺さるようにするためには、どうすれば良いでしょうか。

まずなすべきことは、すり替わったなと思ったら、すぐに話題を元に戻すことです。

別の話題にすり替えられたのをしばらく放置しておくと、話を元に戻しにくくなりますし、戻すのを忘れてしまうこともあります。

そのためには、自分が伝えたいことを強く意識しておくことはもちろん、その相手がよくやる「すり替えの手口」を頭に入れておくことも重要です。

そうすれば、話がすり替わったときに、「その話は後で相談に乗ろう。話を元に戻すと~」と話をすぐに元に戻せます。

何度もすり替えてくるツワモノもいますが、そんなときでも、何度も元に戻し、何回でも同じことを述べるしかありません。場合によっては、ホワイトボードや白紙に論理の展開を図示することも一計です。

そうすれば、「論理」を「すり替えていること」を意識させることができ、相手をロジカルに問いただすことができます。

以上に留意して、冒頭で示した事例を見直すと、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

感情論へのすり替えに動揺しないこのように、話を元に戻してロジカルにフィードバックをしていると、「さっきから厳しいことばかり言って、そんなに私のこと、嫌いですか?」と感情論を持ち出す人もいます。

しかし、これも一種の話題のすり替えです。ロジックでは勝てないと察した相手は、今度は、感情論に話をすり替えようとしているのです。

涙などを見せてくる人もいますが、くれぐれも相手の土俵に乗せられないようにしてください。

ここで「人としては好きだけどさぁ」などと余計なことを言ってしまうと、発言に尾ひれがつき、他の部下から「課長は○○さんのことがお気に入りですからね」「私には用がないと全然話しかけてくれないのに」などと、どんどん話がこじれていきます。

具体的に補正

  • 修正してほしい行動レベルの話へと、話題を元に戻しましょう。
  • 自分が伝えたいことをしっかり意識する
  • すり替えの手口をよく覚えておく
  • 根気強く話を元に戻して、何度でも同じことを述べる
  • 場合によっては、ホワイトボードや白紙に論理の展開を図示して、相手をロジカルに問いただし、「論理のすり替え」を意識させる
  • 感情論のすり替えに付き合わない。「人としては好きだけどさぁ」などと余計なことを言わない

責任逃れの弁明ばかり並べる「言い訳」部下>「何かないか」と聞き、対処法を自分で言わせる

仕事のミスや成績不振の話になると、クライアントや同僚、景気、商品の良し悪しなど、何かのせいにする……。

そんな「言い訳」部下に刺さるフィードバックをするには、本人の口から言わせることが重要です。

頭ごなしに言えば、やる気をなくす「クライアントが無茶な要求ばかりしてくる」「◯◯さんの作業が遅れているから、その分、しわ寄せが来た」「○○さんに、こうやれと言われたから」「ライバル商品と比べて、どうしても見劣りするから」まず次の「NGフィードバック事例」を見てください。

こんなふうに仕事のミスや営業成績の不振などの話になると、あれやこれやと言い訳を並べたてる人がいます。

フィードバックに対して、漏れなく「いやいやいや、とは言いますけどね……」と言い返してくる人もいます。

要は、「すべては他人や環境のせいであり、自分のせいではない」というのが、彼らの主張です。

事実、そういう面もあるのかもしれませんが、「自分にも責任がある」というふうに考えてもらわなければ、いつまで経っても行動改善は見込めません。

内心、自分にも責任があるとわかっているけれども、それを認めたくなくて逃げ回っているわけなので、逃げ場をなくすことが重要です。

では、どうすれば、逃げ場をなくすことができるのでしょうか。

私がおすすめするのは、とにかく、言い訳を好き放題言わせることです。

「他に何か原因はある?」などと質問しながら、どんどん話してもらいましょう。

なぜかと言うと、言い訳が多いほど、必ず「論理のほころび」が出てくるからです。

そこから突破口が開けます。

ただ、論理のほころびを責めたてすぎると、「はいはい、すみませんでした」と表面的には謝りながらも、ふてくされる可能性もあります。

そうならないためには、一緒に解決策を探り出していくようにしましょう。

「具体的にどんなことをしているの?」と部下の行動を振り返ってもらいながら、「この点で、まだできることはないかな?」と部下の意見を引き出します。

ポイントは、解決策を部下に考えてもらい、自分の口から言わせることです。

上司から頭ごなしに押しつけると、部下は納得感が得られなかったり、やる気をなくしたりするからです。

オウム返しするだけでも、効果的なことがある言い訳や矛盾だらけの事実を「オウム返し(repeating:リピーティング)」して、そのまま「相手に提示するだけ」でも、相手はハッとすることがあります。

目の前に矛盾だらけの論理を並べて気づかせる、というイメージです。

たとえば、今、営業成績があがらないことを自社の商品力のせいにしている部下がいるとします。

あなたは彼に、「売れないのは自社の商品力のせいではない。

セールストークなどを自分の頭で考えて、できることを探しなさい」というフィードバックをしました。

部下は、こんな言い訳をしてきました。

「私は、一生懸命、売っているんです。

でも、お客さんが、それに応えてくれないのです。

うちの商品は、商品力に問題があります。

職場のメンバーの中には売れる人もいますが、私のお客さんには刺さりません。

売れないんです」この返答には矛盾があります。

「本来、商品力に問題があるならば、売れる人がいるのと、売れない人がいるのはおかしい」からです。

これに対しては、「うちの商品は、商品力に問題があるというんだね。

商品は売れる人はいるけど、君の場合には、商品は売れないんだね」などとオウム返しをするのです。

すると相手は、先ほどの自らの矛盾に気づく場合があります。

「商品力に問題があるだけではなくて、自分でもう少し主体的に動けた部分もあったかもしれませんね」などと、自分から言ってくることがあります。

これは、私がオウム返しをすることで、自分の言っていたことの矛盾に途中から気づいたわけです。

フィードバックのコツは、「鏡のように話すこと」だと先に述べましたが、オウム返しもまた、「鏡のように話すこと」の一つの形と言えるでしょう。

オウム返しをするときのポイントは、「しかし」や「でも」といった逆接の接続詞を使わないことです。

そうした言葉を使うと、相手は「自分のことを否定しようとしている」ととらえ、こちらの言うことを素直に聞こうとしなくなります。

相手を肯定しているように見せることで、相手も反省する気になるのです。

以上に留意して、冒頭で示した事例を見直すと、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

そのまま「傍観者に見えるよ」と指摘するなかなか自分の責任だと認めようとしない人に対しては、「傍観者に見えるよ」と返すことも一計です。

「これはうちの職場で起こったので、みんなが問題に向き合うことが求められているのです。

あなたも、その一人です。

あなたも『傍観者』ではなく、当事者として問題に向き合ってください。

さっきのあなたの発言は『傍観者』のものに聞こえます」こう言えば、相手は「はい、傍観者ですから」とは言えません。

さらに、「もし仮にこの事態を引き起こしている原因が、自分にもあるとしたら、それは何?あなたにできることは何一つなかったの?」「あなたも職場のメンバーなら、何で貢献できるの?何を返してくれるの?」と言えば、当事者として問題と向き合わざるを得なくなります。

この質問によって、「こうしたことができた」という発言を引き出せればOKです。

あとは、それをしているかどうかをチェックすれば、成長に結びつけることができます。

ポイント

  • 言い訳を好き放題言わせて、論理のほころびを探す
  • 「具体的にどんなことをしているの?」と部下に自らの行動を具体的に振り返ってもらう
  • 「何かできることはないの?」と解決策を引き出す
  • 解決策は、必ず自分の口で言わせる。頭ごなしに言わない
  • 言い訳したことをオウム返しする。「しかし」や「でも」といった逆接の接続詞を使わないよう注意
  • 「君の発言は傍観者のように聞こえるよ」と指摘する

どんなアドバイスも受け流す「聞く耳を持たない」部下>反論できない事実を集めて、それを元にフィードバックする

未経験の異動先で部下を持ったり、年上の部下を持ったりした場合、部下が上司を見下し、フィードバックを聞き入れないことがよく起こります。

ナメられることなく、フィードバックを聞き入れてもらう方法を覚えておきましょう。

自信がなくても、放置してはいけないいくらフィードバックをしても、さらっと受け流したり、反論したりして、まったく聞こうとしない……。

そんな「聞く耳を持たない」部下に悩まされている人は少なからずいることでしょう。

特に次の「NGフィードバック事例」のように、他の部署から異動してきて実務経験が豊富な部下を持った場合や、年上の部下や年齢の近い部下がたくさんいる場合は、部下が上司を見下すので、このようなことが起こりがちです。

そんな部下の反応に対して、キレてはいけないのは当然ですが、自信がないからといって、おもねったり、放置していたりすると、それはそれでナメられてしまいます。

フィードバックするときには、受け流したり、反論したりできないよう、対策を打つことが必要です。

SBI情報を集め、事実を元に、ロジカルに指摘する「聞く耳を持たない」部下にフィードバックをするとき、基本となるのが、SBI情報を収集することです。

何度も述べているように、SBI情報とはシチュエーション(どんな状況で)、ビヘイビア(どんな振る舞いが)、インパクト(どんな影響をもたらしたのか、ダメだったのか)といった、フィードバックに説得力を持たせる3つの情報のことです。

たとえば、「クライアントA社に商品を納入する仕事で(=シチュエーション)、納品日の確認をおこたり、間違えてしまったね(=ビヘイビア)。

その結果、予定よりも3日納品が遅れてしまい、A社の担当者を怒らせてしまったね(=インパクト)」といった具合です。

このようなSBI情報をしっかり集めておき、その事実を元に、今のやり方が間違っていることをロジカルに指摘すれば、部下は反論しにくくなります。

上の例で言えば、「なぜ、納品日の確認をおこたったのか」を突き詰めていけば、行動改善につながるでしょう。

フィードバックは、「1回のフィードバックでは、一つのSBI情報だけを言う」のが基本ですが、この場合は、いくつかのSBI情報を集めて、伝えた方が、インパクトが増します。

ただ、上司の威厳を示したいからといって、頭ごなしに言い続けてしまうと、部下は自分の自尊心を傷つけないために、耳をふさいでしまう可能性があります。

そうならないためには、問題点を指摘する一方で、部下を認めているような発言を交えるようにしましょう。

たとえば、「豊富な営業経験をチームに還元してほしい」「◯◯さんのことを頼りにしている」などと言うことで、経験豊富な部下はプライドを保つことができるでしょう。

以上に留意して、冒頭で示した事例を見直すと、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

他の人に助けを借りても良いもっとも、SBI情報を元にフィードバックをしたとしても、逆ギレや無視などをして、一向に聞こうとしない部下も、現実にはいるでしょう。

そうした場合には、自分一人でなんとかしようとしないで、周囲の人に協力をあおぐ手もあります。

自分の上長や、その部下の先輩など、その部下が聞く耳を持ちそうな人に頼んで、その人経由でフィードバックをしてもらうのです。

実際にその手を使っていたのが、前述でご紹介した鉄道会社勤務の池田さん。

池田さんは、運転士としての訓練を一切受けていないにもかかわらず、運転士を束ねるマネジャー職につきました。

その際は、まったくフィードバックを聞き入れようとしない運転士に対しては、その人の先輩などに頼んで、注意をしてもらっていたそうです。

自分からまったくフィードバックしないとさすがにナメられますが、どうしても聞いてくれない場合は、検討しても良いでしょう。

また、そんな奥の手を使えるようになるためには、日頃から他部署の人たちとも幅広く交流をしておくことが重要です。

ポイント

  • SBI情報を元に、今のやり方が間違っていることを指摘する
  • 頭ごなしに指摘せず、部下のプライドをくすぐる言葉も交える
  • その相手が聞く耳を持ちそうな人から伝えてもらう

自分の意見を言おうとしない「お地蔵様」部下>「◯◯のように見えるけど、どう思う?」と客観的なイメージを聞く

意見をまったくと言っていいほど言わない部下。

無気力でやる気がないように見えて、実際は自分の意見を言うのが苦手ということも少なくありません。

フィードバックも、相手を萎縮させない工夫が必要です。

意見が出なくても、やる気がないわけではない会議などの場で意見を求めても、「すみません」「私は大丈夫です」「私なんていいです」などと言って、自分の意見を言わない。

こんな「お地蔵様」のように黙っている部下も、職場に1人や2人はいるでしょう。

次の「NGフィードバック事例」のように、このタイプの人は、はたから見るとやる気がないように見えてしまいます。

しかし、多くの場合、やる気がないわけではありません。

「空気の読めない発言をして、周囲に白い目で見られるのが怖い」「皆のように、良い意見が言えないので、恥ずかしい」……。

このように考えてしまうので、意見を求められても、「すみません」と言って、なんとかやりすごそうとしているのです。

「私なんていいです」と言うのは、へりくだっているように見えて、単に逃げているだけだったりします。

ただ、いくら苦手といっても、いつも黙っているようでは、一緒に働くチームの一員とは言えません。

どのようなフィードバックをすれば、話してくれるようになるでしょうか。

まず、最もやってはいけないことは、「話しなさい」と頭ごなしに叱ったり、感情的に怒ったりすることです。

人によっては泣き出したり、怒ったりして、事態を悪化させてしまいます。

下手すれば、会社に来なくなってしまう可能性すらあります。

追い詰めることなく、相手の気持ちを引き出す私がおすすめするのは、「鏡」となって、本人が周囲からどのように見えているかを客観的に伝えることです。

その後、立て直しの際には、なるべく挑戦のハードルを下げて、「意見」というよりも「反応レベル」の応答から挑戦してもらう、ということです。

「スモールステップ」よりもさらに段階が細かいステップのことを「ベビーステップ」と言います。

このような部下には、「反応をするところから始めよう」といった具合に「ベビーステップ」の課題から取り組ませてみるのも一計です。

まず第1に、「~の行動をとっていると、やる気がないように見えるよ」というように、「◯◯のように見えるよ」という言い方をしながらフィードバックをします。

このような言い方をすると、部下を追い詰めるような雰囲気がないので、部下は、自分が周囲からそう見えていることを素直に受け止めやすくなります。

加えて、「あなたはどう思う?」と部下の感想を聞いてみましょう。

すると、「決してやる気がないわけじゃない」と意見を言わない理由を説明したくなります。

これで話し始めてくれたら、あとは言い分をじっくり聞けばOKです。

そうすれば、改善の突破口が見えてきます。

ただ、実際には、話すのが苦手な人ですから、なかなか自分の思いを話してくれないケースの方が多いかもしれません。

そんなとき重要なのは、ねばり強く時間をかけて、相手の心が整うのを待つことです。

「1時間でも2時間でも待つ」という覚悟を持って、ゆったり構えましょう。

机をトントン叩いたり、時計をチラチラ見たり、貧乏ゆすりをしたりするのは、NGです。

上司が「とっとと話してくれ」という雰囲気を少しでも出すと、部下はますます萎縮して話せなくなります。

ベビーステップを設ける:小さなことから始めてもらう以上のような対話によって、部下が意見を言わなかったことを反省したとしても、すぐに人前で意見を言えるようになるとは限りません。

長期にわたって学習された行動は、急に変えることはできませんから、実際には、なかなか言えるようにはならないはずです。

最初のうちは、少しずつ、できることから始めてもらいましょう。

たとえば、「賛成か反対かだけでも言う」「一言だけでいいから、話してもらう」といった具合です。

そうやっていくと、徐々に発言するのに慣れてきます。

上司が発言を拾ってあげて「面白い意見だね」などとほめれば、少しは自信がつくでしょう。

すると、「実は周りの人もたいしたことは言っていない」「すごいことを言わなくても、上司が拾ってくれる」などと心の余裕ができ、意見が言えるようになるものです。

重要なのは、すぐに結果を求めず、長い目で見ることです。

どの職場も余裕がないので難しいかもしれませんが、上司がそういう意識を持てなければ、部下は育たないと考えた方が良いでしょう。

以上を意識すれば、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

ポイント

  • 周囲からどのように見えているかを客観的に伝え、「そのことについては、どう思う?」と感想を聞く
  • 1時間でも2時間でもかけて、ゆったり対話をする
  • いきなり大きな改善は難しい。少しずつできることから始めてもらう

過去にすがって変わらない「ノスタルジー」部下>「立場上言わなければならない」と前置きしてから、ストレートに言う

過去に成功体験があり強烈なプライドを持っているけれども、今は時代についていけずトラブル続きの「年上の部下」。

どう言えばこちらの話を聞いてもらえるでしょうか?立場上、こう言わざるを得ないのですが……と前置きする年功序列の崩壊や役職定年、定年退職者の再雇用などで、「年上の部下」が増えています。

豊富な経験を職場に還元することを期待したいところですが、実際には、過去の成功体験などにとらわれて、今の職場に適応できないというケースが少なくないようです。

次の「NGフィードバック事例」のように、勝手な判断で他の部下に迷惑をかけることも……。

もっとも、年上の部下に耳の痛いことをストレートに言えば、「お前みたいな若造が何を偉そうに」と反発してくる可能性もあります。

遠慮をしていてはいけませんが、言いにくい関係になってしまうのはよく理解できます。

そこでおすすめなのは、「立場上、私はこう言わざるを得ないのですが」と切り出すことです。

こう言っても、年上の部下が納得してくれるかどうかはわかりませんが、「あなたのことをリスペクトしているが、役割を遂行するために言っているんだ」という意味付けができ、言うべきことを言えるようになります。

一種のおまじないみたいな言葉です。

変わらなければならない、とはっきり述べるリスペクトしていることを示したら、遠慮しないで、率直にフィードバックをしましょう。

下手な遠慮は逆効果です。

過去にとらわれている年上の部下の場合は、少々厳しい言葉ですが、「評価の対象になるのは、過去のあなたではなく、今のあなたである」ということを伝えると効果的です。

そのうえで、「成果を出すためには、今必要な技術を新たに学び直さないといけない」「変わらなければならない」ということを伝えましょう。

勇気のいる発言かもしれませんが、相手は酸いも甘いも知り尽くしたベテランです。

礼儀を忘れずにこちらの立場と誠意を伝えることで、意外と話を聞いてくれることもあります。

もしベテランが「元管理職」であったなら、「~さんも元管理職のお立場だったので、私の立場もおわかりかと思いますが……」とダメ押しをすることもできます。

こうした年上部下が今まで改善できていなかったのは、単に皆から崇めたてられていて、誰もフィードバックしてくれなかったから、という可能性もあるからです。

先述した通り、フィードバックをすると、逆に、「なんでもっと早く言ってくれなかったんだ」と言われることだってあるほどです。

以上を意識すれば、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

はっきりと「郷に入れば郷に従え」と伝える以前いた同業他社では優秀だったはずなのに、うちの会社ではまったく成果が出せていない。

そんな「中途入社部下」の対処法も、年上の部下と似ています。

中途入社の部下が成果を出せない理由の一つは、「会社の文化の違いに、うまくなじめていない」ことです。

同じ業種の仕事でも、会社によって仕事のやり方は違うものです。

同じ営業でも、足繁く客先に通うことを良しとする会社もあれば、スマートな情報提供を良しとする会社もあります。

このようにまったくカラーが違う会社に転職しても、人は新しいカラーにはなかなか染まれないものです。

しかし、成果を出せないまま放っておくわけにはいきません。

ですから、「あなたの過去は尊重するけれども、そのやり方では、ここでは成果はあげられないように見える。

やり方を変える必要があるように思うけど、どうか?」とはっきりと伝えることも必要です。

過去に学んだやり方で、しかし現在は通用しないものを捨てることをアンラーニング(学習棄却:Unlearning)と言います*12。

こうした部下には、しっかりとアンラーニングを迫りましょう。

言い方には細心の注意を払い、鏡のように事実を淡々と伝えたとしても、反発される可能性は高いですが、それは覚悟のうえで臨みましょう。

大人の学びは、時に激しい痛みをともなうものです。

ポイント

  • 「立場上、言わざるを得ないのですが」と前置きする
  • 「評価対象になっているのは今のあなたである」とはっきり伝える
  • 他社から転職してきた人の場合も、「あなたの過去のやり方は、ここでは通用しない」と反発されるのを覚悟で伝える
  • 現状を伝えたうえで、成果を出すために今必要なことを伝える*12中原淳(2012)『経営学習論』東京大学出版会

リスクを恐れて挑戦しない「消極的」な部下>「このままだと将来が危ない」ことを伝える。

ただ相手の言い分も聞く

成長のチャンスだと思い、チャレンジングな仕事を与えたら、「忙しいので、受けられません」と拒否してくる部下がいます。

このような人を成長させるためには、危機感を与えるようなフィードバックが必要です。

挑戦しなければ現状維持すらできないという現実を伝える人は背伸びをしたチャレンジを繰り返すことで成長します。

部下にチャレンジする機会をどんどん与えていくことが、上司の重要な役割です。

ところが、次の「NGフィードバック事例」のように、管理職や新しいプロジェクトの責任者など、責任のある仕事に抜擢しようとすると、かたくなに拒否する部下がいます。

出世欲もないし、今のままの状況でも十分幸せだから、そんな仕事はしたくないというわけです。

また「制作の現場が好きだから」「営業の現場が好きだから」と言って、このままの状況でいたがる人もいます。

たとえば、「今のままの仕事を続けても、現状維持できるわけではない。

さらには、このままだと君のキャリアはこうなるよ」と伝えるわけです。

新しい仕事を避けようとするのは、今のままでも自分の地位が安泰だと思っているからです。

しかし、そんなことはありえません。

たとえば、営業などの仕事によっては、取引先から見ると、業務知識の豊富なベテランよりも、知識は少ないがフットワークが軽い、若い人が求められることがあります。

また、取引先担当者が若ければ、年齢の近い人の方がやりやすいと考えるものです。

チャレンジを嫌がる部下には、そのような「今のままでは、業績を維持することが難しくなる」という現実をはっきりと認識してもらうことが大切です。

そのためには、「このチャレンジをしないと、将来どんなことが起こるか」を質問し、部下に考えさせると良いでしょう。

すると、部下も「このままではマズいかも」という危機感を抱きやすくなります。

以上を意識すれば、次の「OKフィードバック事例」のようになります。

部下の思い描くキャリアとズレがないか確認するただし、「このままではダメだ」と説き伏せて、強引にチャレンジさせればいいというものでもありません。

本人が納得しないままでは、新しい仕事に対するモチベーションは上がらないでしょう。

そこで重要なのは、「将来どのように成長していきたいと思っているのか」、その部下のキャリアビジョンを聞くことです。

思い描いている将来像と新しい仕事がズレていると、「俺、こんなことやりたくないんだけどな……」という気持ちから抜け出せません。

本人のキャリアビジョンは、フィードバックをする以前に、普段の目標管理面談などで把握しておくべきことですが、本心を述べていない場合もあります。

この機会にもう一度確かめておくのが良いかもしれません。

そして、部下の思い描くキャリアに対して、新しaい仕事がどのような成長の機会につながるのか、説明することも大切です。

そうすることで、部下の視野が広がり、納得してくれることがあります。

また、「今の仕事が忙しくて、手が回らない」と言うのなら、今の仕事を軽減できるよう、サポートすることも重要です。

「他の部下と仕事を分ける」「外注に出す」などの方法を検討し、実際に動けば、部下もやる気になってくれるかもしれません。

ポイント

  • 「今の仕事を続けても、現状維持できるわけではない。さらには、このままだと君のキャリアはこうなるよ」と将来の見通しを伝える
  • 「このままだとどうなるか」を部下に考えさせる
  • 「将来どのようになりたいと思っているのか」、部下のキャリアビジョンを聞き、新しい仕事とズレがないか確認する
  • 今の仕事が忙しくて受けられないということであれば、仕事を分けるなどの方法で軽減する手伝いをする

■若手マネジャーフィードバック

中堅機械メーカー業務推進室・副室長河野恭子さん(仮名・38歳)機械メーカーの業務推進室の副室長を務める河野さん。

今年から、今のポジションにつきました。

2人の子供を育てながら、仕事と両立すべく、日々奮闘しているそうです。

限られた時間の中、どうフィードバックを行っているのでしょうか。

激務をこなしながら、午後6時に退社。

いかに部下を育てるか?──これまでのご経歴と、現在の仕事について簡単にお伺いできますか?河野大学を卒業した後、教育関連会社を経て、13年前に今の会社に入社しました。

最初の3年間はマーケティングの部署にいたのですが、出産で1年ほどお休みをいただいた後、9年前からは、業務推進室で働いています。

業務推進室というのは、発足した当時は他の部署がしていないことをまとめて手がける「何でも屋」のような部署でした。

現在は人事系の仕事から総務の仕事まで幅広い業務を手がけています。

これらを、室長、副室長の私、それと3人の部下の計5人で行っています。

部下は30代女性が2人と、新入社員の20代男性が1人です。

──幅広い業務を、5人で行うのですか。

かなりお忙しいのでは?河野そうなんです。

さらに、私は小学生の子供が2人いるので、お迎えのために、午後6時には退社しなければなりません。

だから、毎日バタバタで……。

限られた時間の中で、いかに自分の業務をこなしながら、部下をフォローして育てるか。

悩める日々を送っています。

部下をフォローしながら、フィードバックする──そんな中でも、部下を育てるためにはフィードバックが不可欠かと思います。

河野さんは、どのようなことを心がけていますか?河野「部下の内面をフォローしながらフィードバックすること」を強く意識しています。

先ほど言ったように、現在の部署は当初「何でも屋」のような部署だったので、日々発生する仕事に逐一対応するには人数が少なく、かつては仕事をするだけでやっとという日々ばかりでした。

そのため、仕事をメンバーで分担して取り掛かっていたのですが、そうするとお互いに今どんな進捗なのか、何かに困っているのか、手助けが必要なのかなど、それぞれの仕事の状況が見えにくいことがありました。

また、私自身も日々の業務に追われて、メイン業務として携わっていきたい採用や研修まで十分に手が回らないこともあり、人事に関わる仕事をもっとやりたい!という思いがありました。

なので、もしかしたら他のメンバーも「もっとこうしたい!」という思いを抱えているんじゃないかな、と思っていたんです。

──それは大変でしたね。

河野そんな中で、自分も子育てと仕事の両立で時間が限られている中、現在のような立場になったので、「もっとメンバーのことを知らなければ、フィードバックどころではない」というのが正直な思いです。

まずは部下が仕事をするうえで、「もっとこうしたい!」という思いがあれば、それを伸び伸びと表現できるようフォローするというスタンスに立ちつつ、その中で気づいたことは積極的にフィードバックしていきたい、そんなふうに思っています。

生活のことまで話を聞く──部下をフォローしながら、フィードバックをするために、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?河野まず、私が副室長になってからは、私と部下とマンツーマンで面談する場を月1回持つようになりました。

皆、忙しいので、1人30分程度を目安にしています。

その目的は、部下の考えていることを知るためです。

今の仕事の悩みやキャリアプランというような仕事に関することだけでなく、生活のことまで踏み込んで聞くように意識しています。

──生活まで踏み込むのはなぜですか?河野生活面まで聞くことで、その人の精神状態や本心をつかむことができ、適切なフィードバックができると思うからです。

たとえば、部下のうち、1人は20代男性で、2人は30代女性なのですが、そのうちの一人が1歳の子供を育てている最中で、時短勤務をしています。

私の育児経験から言っても、1歳ぐらいだと、まだ免疫力が弱く、保育園でいろいろな病気をもらってくるので、かなり手がかかっているはず。

また、職場から保育園・自宅までが遠くて、通勤で他の人より負担が多いなど、そういう子育ての状況を知っているかどうかで、フィードバックでかける言葉も違ってくると思うのですね。

これは、子育て中の社員に限った話ではないと思います。

一a人暮らしの男性社員でも、生活面まで聞くことで、さまざまなことがわかるでしょう。

実は、昔の私の部署は、あまり雑談をすることがなく、最低限の仕事の話しかしないというドライな雰囲気がありました。

仲が悪いというより、仕事が忙しいからなのですが、会話が少ないがゆえに、互いの気持ちがわからないことがよくありました。

それを打破する狙いもありました。

──最近は、プライベートを聞かれることを嫌がる人も増えてきていますが、そのあたりは大丈夫でしたか?河野もちろん、根掘り葉掘り聞くと嫌がられると思うので、軽く聞くようにしています。

当初は、「大変そうだけど、平気?」「大丈夫?」などと聞いていたのですが、この聞き方はダメでしたね。

たとえば、「お子さんは1歳だから、いろいろ手がかかると思うけど、大丈夫?」などと聞いたのですが、「はい、大丈夫ですよ」と言われて、話がそれ以上続かなくなってしまったのです。

「大丈夫じゃありません」とはなかなか言いづらいですよね。

──たしかに、「大丈夫?」と聞くと、なかなか本心は出てこないですね。

河野そこで、今では、「最近、表情が疲れているように見えるけど、何かうまくいっていないことでもある?」「お子さんは保育園に慣れた?」などと、もう少し具体的に聞くようにしています。

その方が、相手も何かを返してくれますね。

自分がオープンでなければ、相手もオープンにはならない──他にも、話を引き出すためのポイントはありますか?河野あとは、面談をする中で、「相手の心をオープンにさせたいなら、自分からオープンになることが大切」だということに気づかされました。

先ほどの育児の話で言えば、「私が午後6時に退社できず、学童保育の門限に間に合わなくて、仕方なく駅からタクシーに乗ってぎりぎり間に合った」などという話をすれば、相手も「実は、私も保育園のお迎えに間に合わないことがある」と言いやすくなると思うのです。

面談では、基本的には2対8ぐらいの割合で、相手の話を聞くようにしているのですが、たまに話すときに、自分のことをさらけ出すようになったら、部下もオープンに話してくれるようになった感じがします。

あと、これは面談ではないのですが、オフィスの物理的な「壁」をなくしたことも、会話を生むうえで良かったんじゃないかな、と思います。

──物理的な壁とはどういうことですか?河野私たちの部署の席は、4つの机でひとつの島になっていて、2人ずつが対面する形になっています。

何も机になければ、互いの顔が見えるのですが、パソコンのモニターの両脇に書類などを積み重ねて

しまうと、互いの顔が見えないようになっているのです。

実は、このような「壁」があることで、気軽に話せなくなっているのでは?と思ったのですね。

そこで、「皆ともっと話したいので、モニター横の書類をどけて、互いの顔が見えるようにしない?」と提案しました。

──反応はどうでしたか?河野「そうですよね」「私もそう思っていました」と肯定的な意見が返ってきました。

これなら、もっと早く言っておけば良かった、と思いましたね。

その壁をなくしたことで、少しずつ普段の会話が増えてきています。

これもまた、限られた時間で部下を理解する助けになっています。

問題点を指摘するより、解決策を話し合うことに時間を割く──話を引き出した後は、どのようにフィードバックをするのですか?河野今の問題点はやんわりと伝えますが、それよりも、解決策を部下と一緒に考えていくことに時間を割くようにしています。

たとえば、ある時期に仕事に対してやや受け身がちになっていた女性部下がいたのですが、よくよく話を聞いてみると、「こんなことをやりたい」というアイデアを持っていることがわかりました。

その部下に対しては、「最近、少し受け身がちに見えるよ」とも伝えましたが、それよりも、「やりたいことがあるなら、やろうよ」と後押しすることに時間を割きました。

──すんなり、やる気になってくれましたか?河野「でも、今の仕事量が多くて、それもちゃんとやらないと何もかも中途半端になってしまう」と言われました。

その不安を解消することなく、「やりたいならやろう」と言うのは、上司としては無責任ですよね。

そこで、その部下が担当している仕事を、私や他の部下と分担する方法を、2人で話し合いました。

このときに意識したのは、「それなら、この仕事をこう分担しよう」と解決策を押しつけないことです。

押しつけると、「せっかく自分でプランを考えていたのに、あなたの言う通りにしなくてはいけないのか」となり、せっかく上がってきたテンションが下がると思うんです。

何か言うときは、「こういう方法もあるんじゃない?」と提案するようにしました。

このように話し合ったことが良かったのか、その部下は、チャレンジする気になってくれました。

──かつて問題意識を抱えていた「メンバーの可能性」をうまく引き出せるマネジャーになっていますね。

河野でも、そんな存在になれていないことの方が多いですけどね。

まだまだ課題ばかりです。

今、特に意識しているのは、「ゆとりを持つこと」です。

ここ2カ月間ぐらいはスケジュール的に少しだけ空きがあったので、部下の話をじっくり聞く心の余裕が持てたのですが、自分の仕事が山積みになってくると、話が耳に入らなくなってくるので……。

自分の仕事を効率化して、心にゆとりを持つことが、適切なフィードバックをするためには大切だと感じています。

──本日はありがとうございました。

解説河野さんは、30代女性部下を2人と、20代男性部下1人を持つ、ワーキングマザーです。

河野さんのフィードバックにおいて、非常に興味深いことは、彼女が、自分のフィードバックがどのようにあるべきかを、周囲の環境を考えたうえで、決めていることです。

具体的には、メンバーが内にある思いを抱えてしまっているのではないか、と判断したうえで、どちらかというとサポーティブ(支援的)でフォローの性格が強いフィードバックをしていることが印象的でした。

当たり前のことかもしれませんが、このように「何が良いフィードバックなのか」は、その人が置かれている環境によって変わります。

もし河野さんの環境が「メンバー各々が勝手な行動をとって問題が頻発しているような職場」であったとしたら、河野さんがしなければならないフィードバックは、もう少し「耳の痛いことをしっかり告げる」といったものだったかもしれません。

「何が良きフィードバックなのか」を考えるときには、自分が、そして職場がどのような環境の中に埋め込まれているかを考えることが重要だと思います。

 

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