1伝え方のルール
01なぜ情報は正しく伝わらないのか?
スタッフに仕事を任せる際、必要な情報を、任せる相手にスピーディかつ正しく伝えることは必須です。ただ、マネジメントの現場では、上司からの正確な情報が末端のスタッフにまで行き渡らず、それが原因で任せた仕事が思ったように進まなかったり、大事な場面でミスをしたり、顧客からのクレームの発生につながっています。
また逆に、仕事を任せたスタッフから、進捗状況などの報告がきちんと届かず、上司がストレスをためてイライラするなど、いわゆる報・連・相がうまく機能しないことで、組織のマネジメントがスムーズに行えず、仕事を任せることが進まないというケースも多々見られます。なぜ、組織の中で情報は正しく伝わらないのでしょうか?
「人は聞きたいように聞き、見たいように見る」と言われています。人は事実であることとは別に、目の前の状況を自分の解釈のフィルターを通して認識します。
また、自分が理解し得ないことは、そのフィルターにより振るい落とされ、情報は受け手の都合が良いように書き換えられていきます。
例えば、「すべての物は丸い形をしている」という解釈のフィルターを持っている人が四角形の物体を見ると、それは角が丸くなった四角形と球体のあいのこのような物として映ります。
このように、本来は四角形の物体であったとしても、見る人独自の解釈のフィルター、簡単に言えば、「思い込み」によって情報が書き換えられると、事実とは異なって認識されていくのです。
「伝えたつもりが伝わっていなかった」「伝えたことが歪曲されて伝わってしまった」ということが起こる原因は、このように情報を取る人の「思い込み」に起因することが多いのです。
こういったことが起こらないためにも、店の中で情報を正しく伝えるシステムを導入することはとても重要です。
その代表例が「連絡ノート」の利用なのですが、そこで使われているノートの最終更新日を見ると、半年前などという状態で、「開かずの連絡ノート」になっている場合もよく見られます。
これでは、店内のコミュニケーションをうまく行うことはできません。情報伝達のシステムが形骸化し、正しい情報が行き渡らない状況下では、スタッフは自分で勝手に判断をして行動を取るか、もしくは、どうすればいいのかが分からず不安な気持ちになり、身動きが取れなくなります。
そういった職場では、スタッフに仕事を任せていくことはできません。必要な情報を必要な人に必要なときに伝えるためには、情報の書き換えが容易に起こってしまわないような、店内の情報伝達のインフラを整備することが必要です。そのために、情報を正確に伝えるためのルールづくりは欠かせないことなのです。
02すべてを明らかにして伝える
セブン‐イレブンのFC店を経営して4年が経過したとき、近隣に自店の3倍以上の規模の駐車場を併設する、他チェーンのコンビニができました。
車で移動すれば30秒とかからない距離にできたので、当然、売上に影響が出てきます。でも、当時の私は、業界ナンバーワンの実力あるチェーンに加盟しているので、どんなコンビニが来ようとも大きな支障はないだろうと何の根拠もなくそう思い、高をくくっていました。
ところが、ボクシングで言うところのボディブローのごとく、客数の減少、客単価の低下……という具合に、徐々に業績が下降していくことになったのです。
その数ヵ月後、これ以上売上が下がると、経営が危うくなる一歩手前のところまで来たときに、スタッフ全員を集め、現状を知ってもらうためにミーティングを行いました。
その場では、自店が置かれている状況、売上実績などの詳細な数字も含め、すべての情報を公開して説明していきました。また、このまま推移するとスタッフの雇用を継続することが難しくなることも、包み隠さず伝えました。
そして、現場で頑張ってくれているスタッフの力なくしては業績回復を目指すことができないと強く訴え、頭を下げて協力を仰ぎました。
その上で、店の業績をどのように上げていくのかについての説明を行い、数ヵ月先までのアクションプランの工程表を見せ、今、店で行うべきこと、各自にやってほしいこと、この取り組みを行った先(売上が回復したとき)にどのような状況になるのかについて伝えていきました。
その後、当時のスタッフは全員がパート・アルバイトだったのですが、私が伝えたことを元にして、どうすれば売上アップができるのかについてのアイディアを出し合い、真剣に店のことについて考えてくれるようになりました。
そして、実際に現場でも、接客のレベルアップ、売場変更・POP作成の頻度アップ、商品発注の精度アップなど、仕事への取り組み方も大きく変わっていくことになったのです。
結果、前年対比で2桁減となっていた売上を、約8ヵ月で一気に2桁増にまでV字回復させることができました。仕事を任せる際、開示できる情報については、できるだけ詳しく伝えていくことをお勧めします。
「どうして自分が任されることになったのか?」の理由が分からないまま、あやふやな状態で仕事をすることになったとしても、やる気のスイッチはオンになりません。
店の現状を真剣に説明してすべてを明確に伝えたことで、当時の店のスタッフは、私の思いをしっかりと受け止め、そして理解することができたのでしょう。だからこそ、店のために協力してくれたのだと思います。
03誰でも分かる言葉で伝える
仕事を任せる際、指示した内容が相手にとって難解であったり、そこで使われている言葉が理解できず主旨が伝わらなかったりすると、こちらが期待しているような結果を導き出すことはできません。
経営者やマネージャーが普段使っている言葉が、すべてのスタッフに通じるとは限りません。特に、業界だけで使われているような専門用語、マーケティング用語、マネジメント用語などは、新人スタッフ、パート・アルバイトが理解していない場合も多いでしょう。
情報を伝えるときは、誰でも分かる言葉・表現を使って伝えることが大切です。私がかつて勤務していたアパレル専門店チェーンでは、「伝達事項は中学1年生が読んで理解できるレベルにしなさい」と上司から常に言い聞かされていました。
それくらい噛み砕いて丁寧に伝えなければ、情報は伝わらないということです。ただ、普段自分が使っている言葉が、相手にとって難解なのかどうかの判断をすることは意外と難しく、当たり前のように使っていた言葉が実は理解されていなかったという場合も少なくありません。
例えば、セブン‐イレブンの本部の社員は、「売場マッサージ」という言葉をよく使っていました。この言葉を聞いて、何をすることなのかが分かりますか?一般にマッサージと言えば、リラクゼーションサロンなどが行っている「もむ」「ほぐす」をイメージしますよね。
セブン‐イレブンで言うところの「売場マッサージ」とは、商品陳列・レイアウトの変更を行い、売場を新鮮に見せるようにするための作業のことを指します。こういった言葉を使って任せる内容を伝えたとしても、スタッフは理解することができません。
実際に、私の店でもアルバイトスタッフに対して、「今日はチョコレート売場のマッサージをお願いね!」と伝えることもあったのですが、その言葉を知らないスタッフからは、「売場のマッサージって何するんですか?まさか、チョコレートを『もむ』のとは違いますよね?」と笑いながら聞き返されたこともありました。
これは一つの例ですが、似た状況が店の中でたびたび起こっているのです。そして、今のスタッフのように、分からないことを分からないと言ってくるスタッフはごく稀だと考えた方がよいでしょう。多くは、理解できないことをそのままスルーして業務に取り掛かります。
そうすると、当然ですが任せた仕事をきちんとこなすことができなくなってしまいます。伝える際に使う言葉が、相手に通じるかどうかが分からない場合は、まずは社歴のもっとも浅いスタッフ、もしくは、出勤日数の少ないスタッフに伝えてみて、内容や使っている言葉が理解できるのかどうかを事前にチェックすることをお勧めします。情報は、伝わってこそ価値が生まれるのです。
04「今すぐその場で」伝える
任せた相手に対して、注意を促すことを伝えるときや、お小言を言わなければならない場合、本当は朝一番でそのことを伝える必要があるにもかかわらず、「今、伝えてしまうと一日中、不機嫌な状態でいることになるのではないか」とか、「朝からこんなことを言うとテンションが下がるだろうなぁ~」と考えてしまい、その場できちんと伝えることができずにズルズルと夜まで引っ張ってしまって、結局、その日には伝えることができなくなってしまった……。
もしかしたら、あなたもそういう経験をお持ちかもしれません。でも、そのときに伝えることをしなかったばかりに、スタッフが同じミスを繰り返したり、業務が思うように進まなくなったりすると、お互いにいら立ちを感じ、ストレスを抱えてしまいます。
伝えるべきことはタイミングを逃さないように、できるだけ早く伝えることが必要なのです。伝えるベストなタイミングは「今すぐその場で」が基本です。
今は忙しいから、後でまとめて伝えようと思っても、そのときの感覚や記憶は時間の経過とともに徐々に薄れていくものです。
例えば、成績優秀者に対しての表彰やインセンティブの付与は、実際に成果を挙げたときではなく、月末や期末に行うのが一般的です。
しかし、結果が出てずいぶん時間がたってから評価されたとしても、そのときの気持ちがリアルによみがえることはありません。
場合によっては、すでに状況が変わってしまい、業績が悪化しているというケースもあるかもしれません。そうなると、今さら表彰すると言われても、それどころではないというのが本音となります。
賞賛するのは、それに値する行動を取った瞬間、もしくは、結果が出たその場で行うのが最も効果的です。そうすると、何に対して賞賛されているのかが肌身を持って実感できますので、今後、どう行動すればよいのかも分かるようになります。
とはいえ、接客の途中やピーク時間などで、タイミング良く伝えることができない場合もあるでしょう。そういう場合は、例えば「今の接客、ナイス!」などと書いたメッセージカードをそっと手渡すようにしてみてください。
時間が空いてからとか、手がすいてからではなく、「今、その場で」を意識して、伝えるようにしてみましょう。また、相手の行動を見ていて、伝えたことが反映されていないと感じたときには、その都度、伝え直していくことも必要です。
一度言ったから、それで満足するのではなく、常に相手の行動を観察し、指摘する必要がある場合は、頻度多く、そのことについて伝えていくのが大切です。
05事実をありのままに伝える
任せた仕事に頑張って取り組んではいるものの、本来こちらがやってほしいと思っていることとは懸け離れた状況になっているケースも、時にはあるでしょう。
その際、頭ごなしに「そうじゃない!」「ダメだ!」と否定してしまうと、せっかくやる気を出して仕事に励んでいる状況に水を指すことになってしまいます。
できれば、やっていることが本来のあるべき姿からズレているということに自ら気づいてもらい、行動の修正ができれば、それに越したことはありません。
そこで活用できるのが、相手に物事をありのままに伝える「フィードバック」を用いた伝え方です。フィードバックとは、物事の事実を脚色せずに、ありのままに伝えるコミュニケーションの手法です。このフィードバックを用いると、相手に事実がそのまま伝わるので、自分のことを客観的に捉えることができるようになり、自身の現在地を把握することができます。
また、あるべき姿(目標)との間にあるギャップに、自ら気づけるようにもなります。その結果として、相手からの指摘がなくとも、どのように行動すればギャップを埋めることができるのかを考えられるようになります。
愛媛県今治市にある、こぐま小児歯科(渡辺正知さん経営)では、歯科衛生士の実習生に対して、ビデオ録画を使ったフィードバックを取り入れて成果を挙げています。1ヵ月弱の短い実習期間で何を学んで帰ってもらうか――。
院長、スタッフで考えた結果、こぐま小児歯科の一番の特徴である「子供への接し方」を実習してもらおうということになりました。実習生には事前に、直接業務のやり方を教えることはしないので、自ら考え、見学して盗(学)んでくださいという基本姿勢も伝えています。
そして、スタッフが治療を行う際の「子供への接し方」を見学した後、実習生が見よう見まねで実際に子供を誘導するところを、ビデオ撮影することになりました(患者の親御さんへの撮影許可は得ています)。
当然、うまく行かず、子供が泣き出したり、お母さんの方へ走って行ってしまったりと、初めのうちは失敗の連続でした。
その後も、院長やスタッフから「そのやり方ではダメだ」とか「こうしたらうまくいく」などの指摘や教育もほとんど受けることはなく、ただただ撮影したビデオを繰り返し見返すことを続けていったのです。
そうしたところ、実習の終盤戦で最後のビデオ撮影をする日に、今まで全然できなかった、子供を泣かすことなくうまく接することができるようになったのです。
ビデオを見ることで、自分の姿、やっていることを客観的に見ることができるようになります。そして、医院のスタッフがやっていることと比較することで、自ずと違いが見えてくるようになるのです。
すると、今度はどうすればギャップを埋めることができるのかを真剣に考え、そこで出てきたアイディアを実践するようになります。それを繰り返していくことで、結果、実習生は短期間で手取り足取り教えられることなく、自ら、必要な技術を身に付けることができるようになったのです。
これは、まさしく、フィードバックを取り入れた教育の成果であると私は捉えています。ビデオ撮影ができない場合には、言葉でフィードバックをしていくことになりますが、そのときのポイントは以下の5つです。
(1)批判・否定をしない
(2)客観的に伝える
(3)具体的に伝える
(4)相手が自力で変えられないこと(身体的なことなど)は伝えない
(5)信頼関係を築いてから伝える
特に、フィードバックを口頭で行う場合、相手と信頼関係が築かれていないと、相手から伝えられたことを素直に受け止めることはなかなかできません。
そうなると、いくらフィードバックをしても効果は出ません。スタッフマネジメントにフィードバックを上手に用いることで、自ら考え、行動する人材を育てることが可能となるのです。
フィードバックの2つの伝え方アイ(私)メッセージ相手の行動、結果について自分自身が感じたことを「私」を主語にして伝える方法です。
例えば、頑張った相手に対して、そのことをねぎらう際に、「あなたはとても頑張りましたね」と伝えるのと、「あなたが頑張ってくれたので、(私は)とても助かりました」と伝えるのとでは、相手への伝わり方は異なります。
この場合、相手に対してより深い「ねぎらい」の気持ちを感じさせることができるのは、後者、つまりアイメッセージで伝えた場合となります。また、相手の行動を変えたい場合にも、アイメッセージは効果的です。
モチベーションが落ちているスタッフに対して、「もっと元気良く接客しないとダメじゃないか!」と叱咤激励するよりも、「あなたがいつものように元気に振る舞っていないので、(私は)心配です」と伝えた方が、メッセージを受け取ったスタッフには響くでしょう。
スタッフは、自分が周りから元気がないように見えていることに気づくのと同時に、気づかってもらえていると感じます。そうすると、「もうちょっと頑張ってみようかな」と思えるようになるのです。
アイメッセージは、気持ちを伝える、行動を変える双方に効果的な伝え方なのです。ユー(あなた)メッセージ見たまま、聞いたままの状態を、「あなた」を主語にして客観的に伝える方法です。
「(あなたは)接客のときにお客様と目を一度だけ合わせましたね」「(あなたは)お辞儀の角度が15度ですね」「(あなたは)頬づえをついて話を聞いていましたね」話をしている相手からこのように言われると、何を感じますか?
何げなしに頬づえをついたことやお辞儀をしたときの角度などは、自分ではなかなか気づくことができません。でも、第三者から自分の状態を客観的に伝えられると、ドキッとしたり、自分の態度がどう映っていたのかな?と気になったりします。
「あなた」を主語にして相手の行動や状態を客観的に伝えていくと、受けた相手は自分の姿を冷静に把握することができるようになります。また、そのときのメッセージは素直に受け止めることができます。
ただ、その言葉の中に否定や批判、忠告が入っていたらどうでしょう。例えば、「接客時にはもっと目を見なければダメじゃないか」「お辞儀の角度が浅いのでもっと深くしなさい」「頬づえをついて話を聞かれると不快です」のように伝えられると、反発する気持ちが出てくるのではないでしょうか。
そうなると、相手のメッセージを正面から受け止めることができなくなってしまいます。ユーメッセージでフィードバックすることで、相手は自分の状態を冷静に理解することができ、指摘をせずとも、改善するべきことに自ら気づくことができるようになるのです。
06すべてのスタッフに伝える
少し前の話ですが、2011年のAFCアジアカップ(サッカー)の試合で、日本代表チームは2大会ぶり4度目の優勝を飾りました。その大会は、レギュラーでスタメン出場となっている選手の活躍もさることながら、控えにいた選手たちの活躍が目を引きました。
重要な試合で勝利に絡む得点を挙げたのは、すべて途中出場の選手たちでした。控え組の選手たちが試合の勝敗を決める活躍をし、結果として優勝のトロフィーを手にするまでに至ったのです。
代表チームに選ばれながらも控えに甘んじている選手たちは、せっかく試合会場にまで来ているのにピッチに立てないのですから、悔しい思いをしているはずです。
それでも、途中出場した選手が皆、好プレーを見せることができていたのは、ベンチで座っているときでも、ピッチに立っている選手と同じ気持ちで試合に臨み、常にベストなコンディションでスタンバイができていたからではないでしょうか。
これは、店のスタッフにも通じる部分があります。例えば、フルタイムで勤務している社員や、ロングシフトで勤務しているアルバイトに対しては、何かとコミュニケーションを取ったり、きちんと連絡事項を伝えたりと深く関わりを持ちますが、週に1回しか出勤しないスタッフとはコミュニケーションがあまり取れていない場合もあるでしょう。
もちろん、店にいる時間が短く、顔を合わせる機会が少ないので、ある程度仕方ない部分もあります。ただ、そういうスタッフも、店で接客をする際には、毎日出勤しているスタッフと同じように動かなければならないわけですよね。
お客様にしてみれば、週に1回しか勤務していないとか、フルタイムで働いているとかは関係ないことです。それなのに、出番の少ないスタッフには、店で何が行われているのかとか、連絡事項がきちんと伝えられていないというケースが、思いの外、多いようなのです。
これでは、他のスタッフと同じ動きをすることはできません。すべてのスタッフに対して、分け隔てなくコミュニケーションを取る機会を設け、報・連・相をきちんと行うことは必須となります。
そうすることで、当時の日本代表チームのように、控えの選手もフル出場の選手と同様に、素晴らしい活躍をすることができるのです。
すべてのスタッフに、自分がこのチームの重要メンバーであるという意識を持たせることは、スタッフマネジメントを行う上で、とても大切なことです。
07ウェブツールを使って伝える
スタッフの人数が1、2人程度なら大きな問題はありませんが、それ以上の人数になると、情報の伝達を口頭だけで行うことは困難になります。
また、たとえ少人数であったとしても、繁忙期になれば、情報伝達を行うことはやはり難しくなります。伝言ゲームをやった経験のある方ならお分かりかと思いますが、最初に言ったことと最後の人に伝わったことが、一言一句違わないというケースはごく稀です。2人、3人、4人と進むにつれて、情報が抜け落ち、変形し、最初の人が話したこととまったく異なった内容になってしまいます。
これと同じことを店の中でやるのは非常に危険です。そのため、任せる相手に伝える情報は、形に残り、目で見て確認できるツールを使うことをお勧めしています。
ここでは、第1章と第2章で先に紹介した紙ベースの情報伝達ツールに加え、無料のウェブツールを使って情報伝達をスムーズに行う方法を紹介します。
ウェブでの情報伝達といえば、広く使われているのはEメールですが、LINE、フェイスブックなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の標準機能である「グループ」を使えば、もっと簡単にスピーディに情報を伝えることが可能となります。
もちろん、これらのサービスはすべて無料で使えます。また、無料のウェブサービスを使用しても、関係者以外が閲覧できないように設定しておけば、部外者に情報が漏れる心配はありません。
各ウェブサービスのグループページに伝えたい情報を書き込めば、それが参加メンバーの持つ端末に自動で送信されます。
また、既読かどうかについては、そのページにスタッフが既読の旨のメッセージを書き込むだけで確認することができます。各自の携帯電話からでもアクセスできますので、いつでも情報を受け取ることが可能となります。
この方法は、シフト制の勤務形態を導入していて、週に1、2回程度しか出勤しないスタッフを抱えている場合には、特にお勧めです。
出勤日数の少ないスタッフとは、直に顔を合わせる機会がほとんどありませんので、情報が伝わったのかどうかの確認をすることもままならなくなります。そういうときに、この「グループ」を活用した情報伝達システムを活用すれば、スピーディに漏れなく情報伝達することができます。
このようなシステムを取り入れても、書かれている情報にパッと目を通しただけで、理解しないまま仕事に取り掛かるスタッフが数パーセントの割合で出てきます。
ただ、そういうスタッフのメンツはだいたい決まってきますので、個別に口頭で、情報が伝わっているのかどうかの確認を行うことも必要です。どれだけ完璧なシステムでも、エラーは発生するものですからね。
2褒め方のルール
01褒めることは難しい
褒められた人は、やる気が出る。褒めると、次も頑張ろうと思ってくれる。だから、スタッフをしっかりと褒めましょう!人材育成の指南書には、必ずこう書かれています。
しかし、いざスタッフを褒めようとしても、なかなか実行することは難しいもの。「褒めることが苦手」と感じている方も多いのではないでしょうか。
私がアパレル専門店チェーンの店長をしていたとき、「スタッフのことを1日10回褒めなさい」と言われていました。
でも、いくら頑張って褒めようとしても、スタッフの良い部分よりも、ミスや不出来なことに目がいってしまい、なかなか褒めることができずに苦労しました。当時の上司にそのことを相談したところ、「ちゃんと褒めなきゃダメだよ!」と言われ、褒めるどころか逆に叱られてしまったという笑い話のような経験があります。なぜ、褒めることを難しいと感じるのか?
それは、褒めるためには、ある一定の条件を満たすことが必要だからなのです。その条件とは、褒める側が組織の中での上位者であること。そして、褒める側が望むこと以上の行動を取った場合、もしくは、褒める側の期待以上の結果を出した場合となります。
これらの条件を満たさなければ、褒めることはできません。つまり、褒めるチャンスはそれほど多くはないのです。また、スタッフのことを褒め過ぎると、調子に乗ってつけ上がるのではないか、少しぐらい結果が良かったからといって安易にちやほやすると、甘やかすことにならないか。
そういう思いが頭をよぎるため、褒めることをさらに難しくしているのです。褒めるツボを押さえているか?褒めることが難しいのは確かなことですが、世の中には「褒める達人」とも言える、スタッフを上手に褒め育てることができている経営者、マネージャーも多く存在しています。
以前、アメリカ大リーグの球団ロサンゼルス・ドジャースにトミー・ラソーダという監督がいました。野茂英雄投手が渡米した際の監督で、当時、日本のテレビコマーシャルにもときどき顔を出していたので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。
大リーグといえば、その道を極めてきた世界最高峰の実力者が集まる職人集団。ラソーダ氏は、そんな強者集団を見事にまとめ上げ、地区優勝8回、ワールドシリーズでも2回優勝し、アメリカ球界では20世紀の最も偉大な監督の一人として、広く認知されています。偉業を成し遂げてきたラソーダ監督のマネジメントは、各選手の情報を徹底的にリサーチするところからスタートします。
例えば、A選手がホームランを打ってベンチに戻ってきた際、「いいプレーだった!」と褒めたのに、あまりうれしそうな表情を見せなかったとします。
そうすると、同じ選手が別の機会にファインプレーをしたとき、今度は他の言葉を使って褒めます。そこで前回とは違ってうれしそうな表情を見せたなら、そのことをノートにメモしておき、その後は相手にとって最適と思えるコミュニケーションを交わしていくのです。
このように、各選手の性質、嗜好、タイプを見極めながら褒めることを行っていたと聞きます。褒めるツボは十人十色。効果のある褒め言葉は、スタッフによって異なります。
褒める達人と言われているような人は、相手の「褒めツボ」をしっかりと理解して、狙いを定めて褒めているのです。
02上手に褒める7つのコツ
①具体的に褒める
「素晴らしい」「すごい」「良かった」などの抽象的な言葉だけを使い、漠然と褒めるよりも、どの部分が褒めるに値するのかを具体的に伝える方が効果的です。
例えば、「今の接客で見せていた笑顔は最高だったね!」と褒められたならば、今の感じで笑顔をつくればよいことが分かります。スタッフに何をすれば褒められるのかを理解させると、もう一度、同じことをして褒められようと自発的に行動を起こすようになっていきます。
②他人と比較しない
人はそれぞれ固有のタイプがあります。また、成長の度合い(スピード)も異なります。それなのに、隣同士にいるスタッフを比較して、優劣を付けて片方を褒めたり、けなしたりするというケースをよく見掛けます。
でも、本来するべきはその人の過去との比較です。以前と比較してどれくらい成長したのか、変化できたのかを比べることで、スタッフ自身も自分が成長していることに気づくことができます。
③褒める前に観察する
スタッフの粗探しをすることは簡単ですが、褒める部分を見つけることは至難の業です。しかし、スタッフの日々の行動をじっくりと観察し、言動をよく見聞きすることで、褒める部分を見つけ出すことは可能となります。
その際、見つけ出したことを忘れないように、メモを取る習慣をつけることをお勧めします。スタッフを観察することは、褒めることも含めて、マネジメントを行う上での基本です。
④「褒める」と「お世辞」を混同しない
相手をおだててやる気にさせようとして、思ってもいない褒め言葉を並べても、相手にはお世辞だとすぐにバレてしまいます。また、勘の鋭いスタッフなら、何か裏があるのではないかと感じてしまい、逆効果になりかねません。スタッフのやる気を引き出すためにお世辞を言うことは無意味です。
「褒める」と「お世辞」を混同してはいけません。何より大切なのは、「心から褒める」ことです。
⑤第三者を通して褒める
経営者やマネージャーから目の前で褒められることもうれしいのですが、例えば、同僚との会話の中で、「そういえば、店長があなたの接客のときの笑顔がとてもステキだと言ってたよ」といった具合に、第三者を通して褒め言葉を聞かされた場合、本人から直接聞かされるよりもうれしく感じるものです。間接的に褒めることは、相手のモチベーションを上げる上でとても効果的なのです。
⑥一途に褒めきる
任せていた仕事の出来栄えに関して褒めていたのに、最後に「この部分はダメなので修正しておくように」と指摘をしたり、「いつも頑張ってくれてありがとう!」というねぎらいメッセージの最後に、「来月はさらなる業績アップを期待しています」などとリクエストを付け加えたりすることはお勧めしません。
そういった追加のメッセージが加わると、せっかく褒められてうれしいと感じていた気持ちも一瞬にして覚めてしまい、「もっと頑張らないといけないんだ」と思い、モチベーションが下がってしまいます。褒めるときは、「一途に褒めきる」。そして、指摘やリクエストは機会を改めて行うようにしていくことが望ましいと言えます。
⑦小さな成功を褒める
普段の業務の中で成功体験を積み重ねていくことは、スタッフの成長を促すことにつながります。ゴールに到達する過程で、小さな成果があった場合、すかさず褒め言葉を投げ掛けます。
そうすることで、また頑張ろうという気持ちが芽生えてくるものです。最終ゴールに向かうまでに、小さなゴール(マイルストーン)を設置し、小さな達成感を常に味わうことができるようにしていくのは、とても大事なことなのです。
03褒められなければ承認する
承認とは何か?
褒めようと頑張ってはみるものの、どうしても褒めることができないスタッフもいるかもしれません。その場合は、褒めるという行為を拡大解釈して、もっと手軽に、いつでも誰でもすぐに行える「承認」を行うことをお勧めします。
承認とは相手の存在自体を認めることで、「挨拶」「ねぎらい」などが含まれています。「褒める」ことも承認の中に含まれます。
例えば、朝の出勤時にこちらから「おはよう」と挨拶をする。スタッフが何か報告に来た際には、笑顔で目を見てしっかりと受け答えをする。顔を合わせたときに、こちらから話し掛ける。誕生日にちょっとしたプレゼントを渡す。これらはすべて承認となります。
要は、「あなたがそこにいることを、私はちゃんと見ていますよ」という旨を、言葉や態度、時にはツールを活用して伝えることを承認と呼ぶのです。スタッフがした仕事に対して、その結果が期待値まで達していない場合、褒めることはできません。
でも、「ここまでよく頑張ったね」とねぎらうことはできるでしょう。そうするとスタッフは、自分がやってきたことが認められたと感じられるので、「次は頑張ろう」と思えます。また、一日に何回も褒めることは難しいでしょうが、承認であれば、普段の生活の中で何度も行えます。
承認に関しては、褒めるときのように条件がそろわないとできないということもありません。組織の中での上下、先輩、後輩なども関係なく承認することは可能です。
相手に何かうれしいことをしてもらったとか、助けられたときなどに、感謝の言葉を伝えますよね。その感謝のメッセージは、最上級の承認となります。
私が講師を務めるセミナーでは、承認されて自分のやる気が上がった言葉、承認して相手のやる気がアップした言葉を、参加者の方々に発表してもらうコーナーを設けることがあります。
その場では、「あなたがいたから助かった」や「君のおかげだ!」そして、「君の仕事は日本一だ!」などというユニークなものまで、参加者全員からの承認の言葉が多数集まります。
中でも、毎回、最もやる気アップの効果がある「承認の言葉」として挙がるのが、感謝の言葉「ありがとう」なのです。
任せた仕事を終えたという報告を受ける際、その出来栄えがどうであれ、まずは一言「ありがとう」と伝えることで、スタッフは自分が頑張っていたことが認められたという気持ちになります。そのとき感じた気持ちは、次の仕事に取り組む際の、やる気アップの原動力となるのです。
3方向からの承認~上司からの承認~
承認することで、スタッフはやる気を出して任せた仕事に取り組むようになります。そのため、職場では常に承認のメッセージが受け取れるような仕掛けをつくっておくことが必要となります。
店の中では、上司からの承認、同僚からの承認、お客様からの承認という3方向からの承認を受け取ることができます。
次のメッセージカードは、私のコーチングプログラムに参加されている、第2章でも紹介した福岡市博多区の美容室アンドゥドゥが10年以上前から活用している「ねぎらいの一筆箋」と呼ばれるマネジメントツールです。
毎月、スタッフに対してのねぎらいメッセージを一筆箋に書いて、経営者である林さんが、給料明細とともに自ら手渡していきます。林さんは、このツールを使って、スタッフに承認メッセージを毎月伝えています。
そこに書かれていることは、褒め言葉ではなく、普段、スタッフのことを観察していて感じたこと、気づいたこと、「いいね!」と思ったことなどです。
一般的なサイズの便箋を利用して手紙を書くとなると、書き込む文字数が多い分、時間も労力もかかりますが、2、3行の短文でよいとなれば、それほど気合いを入れずとも書くことができます。
このような取り組みを長く続けていくためには、できるだけ簡単に行動に移せるようにしておくことがとても大事なのです。
林さんの店でこのツールを利用して店主から承認のメッセージを伝えるようになってからは、スタッフとの関係が非常に良好になり、やる気もグンとアップし、安心してスタッフに仕事を任せることができるようになりました。
次の写真は、私の友人がアルバイト先のレストランの店長さんから、初めての給料日に手渡されたという手紙です。そこには、彼女が頑張って働いたことへの感謝の気持ちがつづられています。
この手紙を初めて受け取ったときに、彼女は店長のことを「良い人だな」と感じると同時に、これからは少しでもこの店の役に立てるよう、今まで以上に頑張って働こうと思ったと言っていました。
その後毎月、手紙を受け取っていますが、彼女は心の宝物としてそれらを大切に保管しています。上司からの承認メッセージを受け取れば、スタッフは自分がやってきたことが認められたと感じ、「次も頑張ろう」と思えるようになるのです。
3方向からの承認~同僚からの承認~
「3方向からの承認」のうち、最も効果的なのが同僚からの承認です。同じ職場で毎日顔を合わせて仕事をしている同僚から、職場の中でねぎらってもらったり、褒められたりすることってあまりないですよね。
そういう相手から承認のメッセージを受け取ることができたら、サプライズを感じ、上司や経営者から受け取る場合よりも、うれしく感じることになるのです。
兵庫県芦屋市のティズ鍼灸治療室(辻本考司さん経営)では、同僚のスタッフに対して、「Thankyou」と感じたこと、「Goodjob」と思えたことをお互いにカードに書き込み、事務所に設置しているボックスに投函する取り組みを行っています。
投函されたカードは月に2回、店長がまとめて集計し、該当するスタッフに手渡していきます。また、朝礼などの時間を利用して、受け取ったカードを各自がスタッフの前で読み上げています。
この取り組みを始めてからは、承認の輪が職場全体に広がり、今まで以上に仕事へのモチベーションアップにつながっているそうです。常に身近にいる同僚に対してねぎらいや感謝を伝えることは、何となく気恥ずかしさが出てしまい、面と向かってその気持ちを伝えるのは難しいものです。
でも、ティズ鍼灸治療室さんが使われているようなツールを使えば、それほど抵抗なく、自分の素直な気持ちを相手に伝えることができるのです。
周りから、ねぎらい、そして承認のメッセージを投げ掛けられれば、今度は自分が周りに対して、お礼の気持ちを返したくなるものです。これを心理学では「返報性の法則」といいます。
うまく活用すれば、スタッフ間でお互いにねぎらい、承認をし合うことが継続的に行われるようになります。結果として、お互いに対して気遣えるようになり、同時に人間関係が良好になります。
そうすることで、組織の中に、「承認し合える文化」が根付き、組織の結束力が強化されることになるのです。
3方向からの承認~お客様からの承認~
3方向からの承認の3つ目は、お客様からの承認です。あなたは、いつも利用しているコンビニに対して、感謝の手紙や年賀状などの季節のお便りを届けたことはありますか?
店からは、セールの案内状やキャンペーンのお知らせなどのダイレクトメールが届いたとしても、お客様の方から店の経営者やスタッフに対して、承認のメッセージをつづった手紙を送るというケースは、そう多くはないはずです。
でも、私が経営していたセブン‐イレブンの店では、月に5~10通ほど、お客様からの承認メッセージが書かれている手紙やはがき、Eメールが届いていました。
メッセージが届いた際は、朝礼でスタッフ全員に紹介した後、拡大コピーして事務所に張り出すようにしていました。時には、スタッフの名前入りでメッセージを書いてくださる方もいて、該当するスタッフにそれを見せたときの喜びはひとしおでした。
これらのメッセージは、年間にすると相当な量となっていましたので、すべてを一冊の冊子にまとめて、年に一度、お正月に「心のお年玉」と名付けてスタッフに手渡していました。
中には、「お年玉はお金の方がいいんだけどな~」と冗談を言うスタッフもいましたが、その冊子を受け取ったときは、皆うれしそうな顔をし、休憩時間などにニヤニヤしながら眺めている光景をよく見受けました。
しかし、中には、そういったお客様からの喜びや感謝が詰まった承認メッセージを受け取ったことがない店もあるでしょう。なぜ、私の店がこういったメッセージをたくさん受け取ることができていたのか?
その秘密を公開しましょう。それは、お客様に定期的に記入していただくアンケートに、ちょっとした仕掛けを施していたからなのです。一般に店で行うアンケートといえば、「お気づきの点があればご記入ください」とか、「至らぬ点がございましたら、ご遠慮なくお申し付けください」などと書かれている場合が多いですよね。
ただ、そうなると、店を利用したときに「良い感じのお店だな」と思っていたとしても、それには一切触れず、アンケートに書かれている通りに、店におけるマイナス点をわざわざ探して記入することになるわけです。
ネガティブ要素が詰まったメッセージばかりが、毎月何通も送り付けられてきたとしたら、それを見るスタッフはどんな気持ちになるでしょうか?正直言って、あまりいい気持ちにはなれませんし、モチベーションも上がりません。
承認のメッセージをお客様から集めたいのであれば、承認のメッセージが欲しいとアンケートに書いておけばいいのです。具体的に言えば、「スタッフへの応援メッセージをご記入ください」「今日、一番輝いていたと思えるスタッフのことを教えてください」などと書いておけば、スタッフのやる気があふれ出る言葉がどんどん集まってくるのです。
承認のメッセージをお客様から受け取れば、スタッフのやる気はグッと上がるので、今まで以上に、任せた仕事に一生懸命取り組むようになっていきます。
3叱り方のルール
01叱るとモチベーションは下がるのか?
褒めること以上に叱ることを不得意としている経営者、マネージャーは多いようです。これは職場だけに限る話ではありません。学校や家庭においても「叱ることができない」教師、親が多く存在しているのが実情のようです。
職場でも学校、家庭でも、お互いに嫌な気持ちになることなく、心地よい環境で過ごすことができるに越したことはありません。良好な人間関係を保つために、できれば怒ったり叱ったりしたくないものです。
そして、自分自身もスタッフから嫌われることのない状態でいたいと思うのは、普通のことです。そうかといって、本来きちんと注意をしなければならないスタッフに対して、「こんなことを言ったらモチベーションが下がってしまうのではないか」「これ以上言ったら辞めてしまうのではないか」などと考えてしまい、「これくらいならまあいいか」と見て見ぬふりをする「事なかれ主義」に陥ってしまうと、組織の中でのマネジメントが機能しなくなります。
どんなときもすべてのスタッフに対して、穏やかな気持ちで心優しく笑顔で接し続けることができる人は稀にしかいません。叱ったときには波風が立ちます。
でも、叱る意味、叱る目的をきちんと伝えれば、スタッフは叱られることを受け入れることができるものなのです。私の息子が以前所属していたサッカーチームのコーチで、いつも怖い顔をして、厳しいことを言い、試合になったら大きな声で指示を出し、まずいプレーをしたならば、容赦なく叱るという鬼コーチがいました。
彼は、もともと学生時代にサッカー部のキャプテンをしていて、チームを自ら常に引っ張ってきたという、根っからの体育会系サッカー大好き人間です。
そんな彼の指導法について、快く思わない父兄も一部にはいたようなのですが、彼の言っていることは、「サッカーがうまくなりたい」「チームをもっと強くしたい」と考えている子供たちにとっては理にかなっており、学べるところがたくさんあります。
あるとき、子供たちにそれとなく、そのコーチについて聞いてみたところ、彼のことを「怖い」とか、「叱るから嫌だ」と思っている子供は、ほとんどいませんでした。
むしろ、そのコーチの指導法をきちんと実践に生かすと試合に勝つことができるので、どちらかと言うと尊敬の対象となっていることが分かりました。また、普段叱られることの多いコーチから褒められたときは、相当うれしいようで、それがきっかけで大きく伸びる子供も少なくありません。
相手のことを常に気に掛け、声掛けを行うなどして、気を配ることはとても大事です。しかし、好かれようと思うばかりに、顔色をうかがいながら行動することはやるべきではありません。
このコーチのように、叱る意味、叱る目的がきちんと伝われば、叱られることに納得できるので、受け入れることができるのです。結果、モチベーションが下がることはなく、逆に次へのステップアップにつながることが多いのです。
02上手に叱る7つのコツ
①「叱る」と「怒る」を混同しない
何度言っても同じミスをするスタッフや、ルールを守らないで自分勝手な行動を取るスタッフを目の前にして、怒りの感情があらわになり、怒鳴りつけてしまったという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
お恥ずかしい話ですが、私もアパレル専門店チェーンの店長時代、自分の感情の赴くまま、頭ごなしにスタッフを怒鳴りつけることがたびたびありました。
しかし、そんなことをいくら続けても、相手に反感を持たれてしまうか萎縮されてしまうだけで、何の改善にもつながりませんでした。
「怒る」とは、自分自身の感情の高ぶりを抑えるために行う行為です。「叱る」とは、100%相手のことを思って行うもので、その目的は教育、指導、気づきをもたらすことにあります。スタッフマネジメントを行う際、経営者、マネージャーが行うべきは、もちろん「叱る」です。
②怒りの鎮め方を知る
スタッフがしたことに対して腹を立て、その気持ちのままスタッフを怒鳴りつけてしまうと、相手からも反感を買われ、互いにストレスを抱えることになります。
そのとき、優先するべきことは、自分が怒っているということに気づき、「叱る」モードに切り替えるため、怒りの感情を鎮めることです。
腹が立った気持ちのまま相手に何かを言うのではなく、まずは一呼吸置き、できれば立ったままではなく、お互いにいすに腰かけるなどして、心を落ち着かせるようにします。怒りの感情をむき出しにして罵声を浴びせたとしても、後味が悪いし、良い結果には結び付きません。
③叱る対象は「相手の行動」のみ
「何に対して叱っているのか」。叱る対象を明確にすることはとても重要です。業績の悪いスタッフに対して、「おまえはダメな奴だ!」という言葉を浴びせたら、叱られている方は自分の人格否定をされたと感じ取ってしまいます。今の時代、下手をするとパワーハラスメントとして受け止められかねません。叱る対象はスタッフ自身ではなく、行動・結果にフォーカスするべきなのです。
④叱るのは「1回につき1個」まで
不出来なスタッフを前にすると、いろいろとお小言を言いたくなってしまいます。でも、叱ったり注意を促したりする際に、あれやこれやと一度にいろいろと伝えてしまうと、相手はメッセージを受け取ることができなくなってしまいます。
叱ることは、1回につき1個までに絞ることが必要です。また、過去のことにまで遡って叱られると、「何でいまさら……」という思いが芽生えてきます。
そうすると、叱られていることを受け入れるのは難しくなります。叱る際は、目の前で起こったことだけに絞ることが大切です。
⑤気まぐれで叱らない
同じことをしているのに、叱られたり叱られなかったりすると、スタッフは混乱してしまいます。叱るときは、自分の気分に合わせて気まぐれに叱るのではなく、叱る基準を定めておき、それが日によってブレないようにすることが大切です。例えば、虫の居所が悪いことの腹いせとして、いつも以上にスタッフに厳しく接するということはあってはなりません。
⑥「なぜ」と言わない
任せた仕事が、こちらが思っているようにできていなかった場合、「なぜ、こうなったんだ!」「なぜ、できないんだ!」と言って叱り続けると、責められていると感じ、相手は萎縮してしまいます。
萎縮すると、思考も行動も鈍りますので、ますます悪い方向へと流れていきやすくなります。「WHY(なぜ)」は、詰問を生みやすい疑問詞です。絶対に使ってはいけないわけではありませんが、使う場面、相手を見ながら慎重に使う必要があります。
⑦適切な場所で叱る
お客様や他のスタッフのいる前で叱られると、プライドを傷つけられたり、その場に居づらくなってしまうケースがあります。
叱る際は、事務所やバックルームを利用して、1対1になれる環境をつくる配慮を忘れないようにすることが大切です。逆に褒める場合は、できるだけ多くの人の前で褒めるようにしてあげましょう。皆の前で褒められることで、スタッフの仕事に対するモチベーションはグンと上がります。
「誰から叱られるのか」は大きな問題例えば、寝坊をして遅刻をしたときに叱られるのは、一般通念的には理解できるので、そのことで叱られること自体は素直に受け入れることができます。しかし、叱る上司が時間にルーズなタイプだったとしたら話は違ってきます。
「どうしてあんな奴に叱られなければいけないんだ」とか、「自分のことは棚に上げてよく言うよ……」という思いが先に立ち、叱られることに納得がいかなくなります。「誰から叱られるのか」によって、スタッフの受け止め方は大きく変わります。
スタッフにとって「この人だったら叱られても納得できる」と思われる存在に普段からなっておくことが大切なのです。そのために大事なことは、叱る前の段階で、普段からしっかりとコミュニケーションを取り、良好な人間関係を築き上げておくことです。
これは叱るだけではなく、褒めることにも共通して言えることです。信頼関係が築けていないのに、マネジメントのガイドブックに載っているスキルだけを使っても、反感を持たれるだけで相手の心に響くことはありません。また、叱られると気分が落ち込みますし、人によってはしばらく仕事が手につかない状態になってしまいます。
ですから、叱った後はちゃんとフォローの言葉掛けをすることが必要です。私も以前は、よくスタッフを叱責していました。時には、きつく叱り過ぎて泣かせたこともあります。
そういうときはフォローとして、「あなたに期待しているからこそ叱ったのだ」と伝えるように心掛けていました。もちろん、その言葉は場を収めるための場繕いではなく、本心からの言葉でした。
普段から信頼関係がきちんと築かれていれば、叱った後にフォローをすることで、叱られた方としては、「自分のために叱ってくれたんだ」と思うようになれるのです。叱った本人がフォローすることが難しい場合は、他のスタッフにフォロー役に回ってもらい、代わりに言葉掛けを行ってもらってもよいでしょう。叱るだけではなく、その後、スタッフが自分の足でもう一度立ち上がり、前進できる気持ちにさせることは、われわれ経営者、マネージャーの大切な仕事です。
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