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第4章人は正しく見ていない

第4章人は正しく見ていないTheManWhoDidn’tLookRight心理学者のゲイリー・クラインが、家族の集まりに出た女性の話を聞かせてくれた。彼女は救急救命士として数年間働いたことがあり、その場に着いて義父の顔を一目見たとたん、とても心配になった。「見た感じ、なんだかいやな予感がするわ」義父は身体になんの不調も感じなかったので、冗談で返した。「そうかい、わたしだっておまえの見た目にいやな予感がするよ」「そうじゃないの。すぐ病院へ行かなくちゃ」と、彼女は強く勧めた。数時間後、義父は救命手術を受けていた。検査で主幹動脈に閉塞があることがわかり、いつ心臓発作が起きてもおかしくない状態だったという。もし義理の娘がピンときていなければ、彼は死んでいたかもしれない。救急救命士の彼女は何を見たのだろう。心臓発作が起こりそうなことを、どうやって予測したのだろうか。主幹動脈が閉塞すると、身体は主要な臓器へ血液を送ろうとするため、皮膚表面の抹消部位への血流が減る。その結果、顔での血液分配のパターンが変わる。女性は心不全の患者を何人も見てきたため、いつのまにかこのパターンを一目で見分けられるようになっていた。義父の顔のどこが異常なのか説明できないが、何かがおかしいとわかった。同じような話は他の分野でもある。たとえば軍事アナリストは、レーダースクリーン上の輝点を見て、どれが敵のミサイルで、どれが味方の艦隊の飛行機かを見分けられる。たとえ同じ速度と高度で飛んでおり、スクリーン上ではほとんど同じように見えても、区別することができる。湾岸戦争中、マイケル・ライリー少佐はミサイルを撃ち落とすよう命じて戦艦を救った。だがスクリーン上では、味方の飛行機とそっくりに見えていた。彼の決断は正しかったが、どうやって判断したのか、上官でさえ説明できなかった。博物館の学芸員は、どこが変なのか正確に言えなくても、本物の芸術品と、巧妙に作られた贋作を見分けられることで知られている。経験豊富な放射線技師は、脳の断層写真を見ると、はっきりした兆候がまだ映っていなくても、脳卒中が起こりそうな場所を予測できる。また、美容師は髪の感触だけで、客が妊娠しているかどうかがわかるという。人間の脳は予測マシンだ。絶えず周囲の状況を観察し、見つけた情報を分析している。何かを繰りかえし経験するたびに、たとえば救急救命士が心臓発作の患者の顔を見たり、軍事アナリストがレーダースクリーンでミサイルを見たりするたびに、脳は何が重要かに気づき、それぞれを分類し、関係するきっかけに注目し、今後のためにその情報をリストアップする。十分に練習することで、意識して考えることなく、ある結果を予測させるきっかけを捉えられるようになる。脳は経験を通して学んだ教訓を、自動的に符号化する。何を学んでいるのか説明できなくても、学習はずっと行われている。そして、特定の状況に関係するきっかけに気づく能力が、ひとつひとつの習慣の基礎となる。自分の脳と身体がどれほど多くのことを考えずに行えるか、わたしたちは過小評価しがちだ。髪に伸びろとは言わないし、心臓に動けとか、肺に息をしろとか、胃に消化しろとは言わない。それでも、身体は自動的にこれらすべてを、いや、もっと多くのことを行っている。あなたは自覚している以上の存在だといえる。空腹について考えてみよう。いつ空腹なのか、どうやって知るのだろう。カウンターのクッキーを見なくても、あなたは食事の時間だと気づくことができる。食欲と空腹は、無意識に管理されているからだ。身体にはさまざまなフィードバックループがあって、そろそろまた食べる時間だと知らせたり、周囲や体内で何が起きているかチェックしたりしている。そして体内をめぐるホルモンや化学物資によって、欲求が引き起こされる。どういう仕組みか知らなくても、いつのまにか空腹になる。このことは、習慣について驚くべきことを教えてくれる。習慣が始まるためのきっかけに気づく必要はない、ということだ。意識的に注意を払うことなく、機会をとらえて行動できる。だからこそ、習慣は役に立つ。また、だからこそ、習慣は危険でもある。習慣が形づくられるとき、あなたは無意識な心の指示に従って自動的に行動している。何が起きているか気づくまえに、古いパターンに陥ってしまう。誰かが指摘してくれるまで、笑うたびに手で口を隠したり、質問するまえにあやまったり、人の話を途中で遮ったりする癖があることに気づかない。そしてこのパターンを繰りかえせば繰りかえすほど、自分は何をしているのか、なぜしているのかと自問することがなくなっていく。ある店員の話を聞いたことがある。その店員は、客がギフトカードの残高を使いきったらそのカードを切断するよう指示されていた。ある日、ギフトカードで買い物をした数人の客の清算を続けて行っていた。そして次の客がレジに来ると、まったく何も考えずに、その客の本物のクレジットカードを機械に通し、はさみを取りあげ、半分に切ってしまった。唖然とした客の顔を見てはじめて、何が起きたのか気づいたという。調査で出会った別の女性は、元幼稚園教諭で、会社勤めに転職していた。今では大人と働いているのに、以前の癖が出て、トイレに行ったあと手を洗ったかと同僚に訊いてしまうそうだ。また、プールの監視員として何年も働いた男性の話もある。彼は子どもが走るのを目にするたびに、「歩きなさい!」と怒鳴ってしまうという。時とともに習慣を引き起こすきっかけが、ごくありふれたものになり、事実上見えなくなってくる。キッチンカウンターの上のおやつ、ソファーの横のリモコン、ポケットのなかのスマートフォン。これらのきっかけは深く符号化されているので、行動への衝動はどこからともなく湧いてくるように感じられるだろう。だからこそ、はっきりと意識しながら、行動変化のプロセスを始めなければならない。新しい習慣を効果的に身につけるには、まず現在の習慣を把握する必要がある。これは思ったより困難かもしれない。というのも、いったん習慣が生活に根付いたら、それはたいてい無意識で自動的なものだからだ。何も考えずに習慣を行っていては、改善できないだろう。心理学者のカール・ユングはこう語っている。「無意識を意識しないかぎり、それはあなたの人生を支配し、あなたはそれを運命と呼ぶだろう」習慣得点表

日本の鉄道システムは世界最高とされている。もし東京で電車に乗ったら、車掌が一風変わった習慣を行っていることに気づくだろう。各運転士も電車を運転しながら、さまざまなものを指さし、声に出して確認するという決まった行動をとる。列車が信号に近づくと、運転士はそれを指さして「信号よし」と言う。列車が駅を出入りするたびに、速度計を指さして正確な速度を読みあげる。出発時は、時刻表を指さして時刻を告げる。プラットフォームでも、他の駅員が同じ動作を行っている。各列車が発車するまえに、駅員たちはプラットフォームの端に沿って指さしながら、「ドア、ホーム、よし!」と宣言する〔指差喚呼の方式には鉄道会社によって違いがある〕。あらゆる点が確認され、指さされ、喚呼される。*わたしが日本を訪れたとき、この方法で女性の命が救われたのを目にした。女性の小さな息子が新幹線に乗ったとき、ちょうどドアが閉まった。彼女はプラットフォームに残され、息子をつかんだ腕がドアに挟まれた。列車は彼女の腕を挟んだまま発車しようとしたが、発車直前に駅員が指差喚呼で安全確認しながらプラットフォームに沿ってやってきた。五秒とたたないうちに駅員は女性に気づき、あわてて列車を止めた。ドアが開き、彼女は泣きながら息子のもとへ走りよった。そして一分後、列車は安全に出発した。指差喚呼として知られるこのプロセスは、ミスを減らすための安全システムだ。ばかげているように見えるが、信じられないほど効果がある。指差喚呼によって、ミスは最高八五パーセント減少し、事故は三〇パーセント減少する。ニューヨークのMTA(ニューヨーク州都市交通局)の地下鉄では、「指さしのみ」という修正版を採用したが、「実施した二年間、地下鉄が停車位置を間違える事故は五七パーセント減少した」という。指差喚呼がそれほど効果的なのは、無意識な習慣から意識的なものへと、認識レベルを上げるからだ。運転士は目、手、口、耳を使わなければならないので、何か不具合が起こるまえに問題に気づきやすい。わたしの妻も同じことをしている。旅行へ出かける用意をしているとき、妻は大事なものをバッグに詰めたかどうか口に出して確認する。「鍵は持った。財布も眼鏡も持った。夫も持ったわ」行動が自動的になればなるほど、それについて意識して考えなくなる。そして何かを千回も繰りかえしているうちに、ものごとを見落としはじめる。次もまえと同じようになるだろうと思ってしまう。いつもどおりにするのに慣れてしまい、果たしてそれが正しいかどうか、立ちどまって考えることもしない。成果における失敗の多くは、おおむね自覚の欠如によるものだ。習慣を変えるための最大の課題のひとつは、自分の実際の行動を意識しつづけるということだ。これによって、なぜ悪い習慣の結果が忍び寄ってくるのか説明できるようになる。個人の生活にも「指差喚呼」の仕組みが必要だ。「習慣得点表」はこれを基にしたもので、自分の行動に気づくための簡単な作業である。自分用の得点表を作るため、毎日の習慣をリストアップしてみよう。リストアップの例を挙げると、・目を覚ます・目覚まし時計を止める・スマートフォンをチェックする・トイレへ行く・体重を測る・シャワーを浴びる・歯を磨く・フロスで歯を掃除する・体臭防止剤をつける・タオルを干す・服を着る・紅茶を入れる……などがある。全部リストアップできたら、各行動を見て、自問してみよう。「これは良い習慣かな?悪い習慣?そのどちらでもないかな?」。良い習慣には「+」を、悪い習慣には「-」を、良くも悪くもない習慣には「=」を書く。たとえば、このリストだと、次のようになる。・目を覚ます=・目覚まし時計を止める=・スマートフォンをチェックする-・トイレへ行く=・体重を測る+・シャワーを浴びる+・歯を磨く+・フロスで歯を掃除する+・体臭防止剤をつける+・タオルを干す=・服を着る=・紅茶を入れる+どの習慣にどの印をつけるかは、あなたの状況や目標による。体重を減らそうとしている人にとっては、ピーナツバターつきのベーグルを毎朝食べることは悪い習慣だろう。だが増量して筋肉をつけようとしている人にとっては、良い習慣かもしれない。すべては、あなたが何を目指しているかによる。*興味のある方は、習慣得点表をつくるためのテンプレートを以下のサイトで入手していただきたい。https://jamesclear.com/atomichabits/scorecard習慣に得点をつけることは、他の理由からも少し複雑になってくる。「良い習慣」や「悪い習慣」というレッテルは、やや不正確だろう。良い習慣や悪い習慣など存在しない。あるのは効果的な習慣だけだ。つまり問題解決に効果的ということだ。すべての習慣が、たとえ悪い習慣でも、なんらかの形で役に立つ。だから繰りかえすのである。この作業では、長い目で見て利益があるかどうかで習慣を分類しよう。一般的にいえば、良い習慣は最終的に良い結果をもたらし、悪い

習慣は最終的に悪い結果をもたらす。煙草を吸うことは、今のストレスを軽減するかもしれない(そういう形で役立っている)が、長期的には健康的な行動とはいえない。もし、どれかの習慣の採点を決めかねているなら、次のように自問してみよう。「この行動は、なりたいタイプの人になるのに役立つかな?この習慣は、望んでいるアイデンティティーへの賛成票になる?それとも反対票?」。望んでいるアイデンティティーを強固にする習慣は、たいてい良い習慣だ。望んでいるアイデンティティーと相容れない習慣は、たいてい悪い習慣である。習慣得点表を作成するとき、はじめから何かを変えようとしなくていい。目的はただ、実際に何が起きているか気づくことだ。判断や批判はせずに、自分の思考や行動を観察してみよう。自分の欠点を責めてはいけない。長所を褒めてもいけない。もし毎朝チョコレートバーを食べているなら、まるで他の誰かを観察しているように、それを認識しよう。「へえ、こんなことをしてるなんて、おもしろいな」という具合だ。もし過食しているなら、必要以上のカロリーを摂取していることに、ただ気づこう。インターネットで時間を無駄にしているなら、望ましくない形で自分の人生を使っていることに、とにかく気づこう。悪い習慣を変えるための第一歩は、それを監視することだ。さらに助けが必要だと感じたら、生活で指差喚呼を利用すればいい。これからしようとしている行動とその結果を、声に出して言ってみよう。ジャンクフードを食べる習慣を減らしたいのに、またクッキーをつまんでしまったら、こう言おう。「今このクッキーを食べようとしている。でも必要ないんだ。食べたら体重が増えるし、健康にも悪いぞ」悪い習慣が声に出されるのを聞くと、結果が現実的に感じられる。その行動の重みが増し、古い習慣に知らぬ間に陥るのを防いでくれる。この方法は、やること(todo)リストの仕事を覚えるときにも役に立つ。「明日、昼食のあとに郵便局へ行かなきゃ」と声に出して言うだけで、実際にそれを行う確率が上がる。行動する必要を自分に認識させると、見違えるほど効果がある。行動変化のプロセスは、つねに自覚から始まる。指差喚呼や習慣得点表のような戦略の目的は、自分の習慣に気づき、それを引き起こすきっかけを認識することだ。それによって、自分の益となるよう反応できる。本章のまとめ・十分に練習することで、脳は意識して考えることなく、ある結果を予測させるきっかけを捉えられるようになる。・行動が自動的になると、自分が何をしているのか注意を払わなくなる。・行動変化のプロセスは、つねに自覚から始まる。自分の習慣に気づかなければ、変えることはできない。・指差喚呼という方法を使えば、行動を口にすることによって、無意識な習慣を意識的なものへと変えることができる。・習慣得点表をつけるという簡単な作業で、自分の習慣に気づくことができる。

 

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