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第4章「3つの問い」と「4つのプロセス」で鑑賞を深める

目次

対話型鑑賞における3つの質問

対話型鑑賞は、グループで1つのアート作品を見ながら、それぞれの発見や感想、疑問などを話し合う、鑑賞者同士のコミュニケーションを通した鑑賞法です。

全員が一斉に話してしまうと収拾がつかないので、発言の交通整理役となるファシリテーターと呼ばれる人をひとり置きます。

そして、前にお伝えした通り、作品名および、作者名や制作された年代などの作品情報は伏せた状態で、作品を鑑賞していきます。

ファシリテーターは、鑑賞者へ質問を投げかけていくことで発言を促し、ときに発言同士をつなぎ合わせ、鑑賞者同士のコミュニケーションが活発なものになるよう促していきます。

VTSでは、次の3つの質問が用いられます。

対象者の観察力・批判的思考力・言語能力などを伸ばすために有効なものとして、研究データや多数の実地調査によって導き出されたものです。

  • (質問1)この作品の中で、どんな出来事が起きているでしょうか?
  • (質問2)作品のどこからそう思いましたか?
  • (質問3)もっと発見はありますか?

私が行っている対話型鑑賞は、目指すところは変わりませんが、質問の内容はVTSと異なります。

2004年から開始した活動の中で、大学生、美術・博物館の来館者、小中高校生、学校教員、ビジネスパーソンほか、私たちがプログラムの対象とする人たちに合わせてアレンジしてきた結果、独自の質問を導き出しています。

鑑賞の始めは「作品を見た第一印象や気づいたこと、感じたこと、疑問など、何でもいいので話していきましょう」など、できるだけオープンな質問を投げかけます。

その後、次の3つの質問を投げかけながら、鑑賞を進めていきます。

  • (質問1)どこからそう思いますか?
  • (質問2)そこからどう思いますか?
  • (質問3)ほかに、さらにありますか?

それでは、3つの質問の狙いについて、1つずつ説明していきましょう。

(質問1)どこからそう思いますか?

たとえば、こちらのアート作品について「為政者っぽいですね」とか「怖そう」というように、多くの人は、作品の「解釈」から入ってしまいやすいという傾向があります。

この質問を投げかけることで、「自分がそのように感じた根拠」となる事実を作品の中から探すという意識を持つことができるようになります。

(質問2)そこからどう思いますか?

こちらの作品を見て「首が欠けていて、下が気になる」というように、事実と疑問だけを口にする人もいます。事実をそのまま言葉にしただけであって、まだ「解釈」は生まれていません。

そこで、「もし、首から下があったとしたら、どんな体をしていると思いますか?」と、鑑賞者が口に出した「問い」(先の例でいうと「下が気になる」という言葉)の「答え」を出してもらうように促します。

「作品から、さらに読み取れることは何なのか?」と、もう一歩踏み込んで考えてもらうきっかけをつくる効果があります。

(質問3)ほかに、さらにありますか?

作品の中に、まだ見落としている箇所がないかを確認するために行う質問です。鑑賞者にこの質問を投げかけることで、アート作品をすみずみまで観察してもらいます。

「ほかに、さらにありますか?」と同様の効果が得られる質問として、「逆に考えるとどうですか?」という質問もあります。

鑑賞者全員が、一方向からばかり作品を見ている、という場合があります。そのときには、この質問をすることで、視点を変えて、再び様々な角度から作品を見てもらうようにするのです。

ただ、この3つの質問は、こうしなければならないというものではありません。

あくまで、基本的なものですので、状況によって別の質問を投げかけることもあります。

鑑賞が深まる4つのプロセス

京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センターでは、「みる・考える・話す・聴く」というサイクルを繰り返しながら、グループで鑑賞することを提唱しています。

この4つは、どれも、私たちが日常で当たり前のように行っている行為なので、研修では、この4つを、「いつもより、意識的に行ってみましょう」とお伝えしています。

「みる・考える・話す・聴く」を簡潔に説明すると、次の通りになります。

  • 【みる】なんとなく見るのではなく、意識を持ってすみずみまでアート作品を見る
  • 【考える】直感を大切にしながら、作品について考える。

「好き」「嫌い」という直感(第一印象)でもかまわない。ただし、アート作品が自分にそのように思わせた理由(根拠)を、アート作品の中から見つけ出すことが必要

  • 【話す】自分の心に沸き上がる様々な考え、感情、疑問などを、「的確な」言葉に置き換えて、まわりの人たちに伝える
  • 【聴く】ほかの人の意見を、意識を持って聴く

「みる」「考える」については、これまでに解説してきた内容と重複するので、次項からは、「話す」「聴く」について、説明をしたいと思います。

話すことで「言語化」の精度を上げる

ブラインド・トークの項目でも説明した通り、アート作品を鑑賞するときは、できるだけ言語化をすることが大切です。

一般的に、脳は右脳と左脳に分かれているといわれています。

右脳は、アート作品に使われているような色、形、空間などの認識に、左脳は言語、文字、計算などの認識に大きく関わっているといわれています。また、右脳は「直感的思考」に優れ、左脳は「論理的思考」に優れているなどといわれることもあります。

このうち、視覚によって脳に入ってきた言語情報を言語化するのは簡単なことです。

たとえば、1、2、3……と書かれたカードを見て、「イチ、ニ、サン……」と言葉に出すのはやさしいことですよね?これは、言語情報を受け取るのも、言語を言葉に置き換える言語化も、同じ左脳によって処理されているため、簡単にできるのです。

ところが、アート作品から得た色、形、空間といった情報を言語化する場合はどうでしょうか?先ほど述べたように、このようなアート作品の情報が最初に入る場所は右脳になります。

ということは、たとえば、「アート作品を見て、わかったことを言葉に出してください」といわれた場合、いったん右脳に入った情報を左脳に送って、それから言語化しなければならないわけです。

これは、脳の作業としては二度手間になっているので、複雑な処理の仕方をしていることになります。しかし、だからこそ、アート作品の鑑賞を深めていくために、意識的に言語化をすることが大切なのです。

自分の意見を人に話すことで、言語化に対する意識が強まりますし、さらに、より言語化の精度も高めることができます。

私の研修で、次のようなことをいう参加者もいらっしゃいます。

「考えがまとまってから、意見を話します」たしかに、伝えたいことが頭の中に浮かんでいたとしても、言葉にするのは難しいものです。

しかし、意見をまとめようとしすぎて、かえって意見がまとまらず、結局、何も話せずに終わってしまう場合が少なくありません。

卵が先か鶏が先か、ではないですが、頭の中にあることをしっかりまとめてから話すよりも、直感でもいいので何かしら言葉にしてみて、その後に「どうして、そのような言葉を自分は思いついたんだろう?」と考えていったほうが、自分の考えがまとめやすかったりすることもあります。

まずは、言葉にして口に出してみる。これがとても大切なことなのです。

人の話を聴いているときに「ものの見方」が変わりやすい

対話型鑑賞では、作品を「みる」ことと同じくらい「聴く」ことも重要です。なぜなら、人の話を聴くことによって、新しい発見や気付きを得やすくなるからです。

作品に描かれている「事実」を変えることはできませんが、「解釈」を変えることはできます。「解釈を変える」ということが、まさに、自分の「ものの見方」が変わるということです。

自分ひとりで、自分自身の「ものの見方」を変えるのは、なかなか大変な作業ですが、同じアート作品を鑑賞する中で、まわりの人の話を聴くと、自分自身のものの見方を客観的に捉えやすくなります。

そして再び作品を「みる」というプロセスに戻ることで、作品から新たな発見が得やすくなります。

自分とは異なる人の話が、自分の「ものの見方」を変え、解釈の可能性を広げるきっかけになってくれるのです。

このように、対話型鑑賞では、「みる・考える・話す・聴く」というサイクルを繰り返しながらアート作品を鑑賞していきます。

また、対話型鑑賞で大切なのは、このサイクルを「途切れさせない」ことです。途切れさせずに繰り返していくことで、鑑賞をより深められるようになるのです。

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