1働き方改革関連法で「給与・評価」が変わる
◆働き方改革関連法の全体像を押さえておこう
ここまで評価制度の見直し時に、労働基準法や規程と整合性を確認し、規程や書式の見直しをすることをお伝えしました。
もうひとつ確認すべき法律があります。
それは「働き方改革関連法」です。
場合によっては、評価制度を調整する可能性もあるため、こちらの法律について全体像を押さえましょう。
少子高齢化の進展により、生産年齢人口の大幅な減少が顕著となっている情勢下、政府は働き手不足の解消を目指して「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」の二本柱からなる「働き方改革」を推進しています。
具体的には「働き方改革関連法」により、労働基準法、労働安全衛生法、じん肺法、パート・有期雇用者労働法、労働者派遣法、旧雇用対策法、労働時間等設定改善法、労働契約法の8つの法律を改正し、随時、施行し始めています。
この改正で、時間外労働の上限を原則として月45時間とし、特別な事情がない限りこれを超えることができないとしたほか、年5日間の年次有給休暇取得が義務付けられました。
さらに、フレックスタイム制度の清算期間を1カ月から3カ月に拡充したり、従業員の休息時間を確保するための「勤務間インターバル制」が導入されるなど、さまざまな施策が打ち出されています。
2020年4月1日(中小企業は2021年4月から)に施行された「パート・有期雇用者労働法」では、いわゆる「同一労働同一賃金」のルールにより、パートタイマーや契約社員などの非正規社員と正社員間で、不合理な待遇・賃金の格差を設けることが禁じられました。
仕事内容や責任が同一であれば、給与や賞与、福利厚生などの待遇を同じにしなければならず、相違がある場合は、相違の程度を勘案したうえで妥当な待遇とすることが義務付けられたのです。
また、裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備により、非正規社員が不合理な待遇を受けたときには、法的手段に訴えやすくなりました。
本章では、このような法改正の内容について詳しく説明していきます。
もはや経営者にとって、改正法に合わせて就業規則や労働契約を見直し、働き方改革に対応した職場環境づくりに努めることは、避けては通れない課題と言えます。
◆法改正の影響を理解しよう
改正・創設された制度のうち、主なものは次の通りです。
〈労働時間法制の見直し〉・残業時間の上限の規制残業時間の上限が、原則として月45時間(超過できるのは6カ月まで)・年間360時間となりました。
特別な事情によってこれを超える場合も、年720時間・複数月平均80時間・月100時間をオーバーしてはならない決まりができました。
・年5日間の年次有給休暇取得の義務付け従業員の希望を踏まえて時期を決定し、休暇を取ることが義務付けられました。
・高度プロフェッショナル制度の創設高度な知識や技術を有する専門職で一定以上の年収がある場合、労基法に定められた労働時間の規制を撤廃し、労働時間ではなく労働成果に対して報酬を支払う制度です。
・フレックスタイム制の拡充労働時間を調整できる期間(清算期間)の上限が、従来の1カ月から3カ月に延長されました。
・勤務間インターバル制度の導入前日の終業時間と翌日の始業時間の間に、一定の休息時間を確保する制度です。
・労働時間の客観的な把握の義務付けすべての従業員の労働時間を、客観的な方法で把握することが義務化されました。
・産業医・産業保健機能の強化会社から産業医への情報提供や、産業医による健康相談を強化します。
・(中小企業に対する)月60時間超の残業の割増賃金率の引き上げ中小企業の割増賃金を25%から50%に引き上げます(2023年4月から実施)。
〈雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保〉・不合理な待遇差をなくすための規定の整備正社員とパートタイマー等の非正規雇用労働者間で、賃金の不合理な待遇差を設けることが禁止になりました。
次節で詳しく説明します。
・労働者に対する待遇に関する説明義務の強化非正規雇用労働者は、正社員との待遇差について会社に説明を求めることができます。
・行政による助言・指導等や行政ADRの規定の整備行政ADR(裁判外紛争解決手続き)とは、裁判ではなく行政の介入により労使間のトラブルを解決する方法のことです。
労働局において無料・非公開の紛争解決手続きを行うもので、訴訟に比べて費用がかからず短期間で決着するため、会社にとっては訴えられるリスクが増えると言えます。
◆改正をピンチでなくチャンスととらえよう
法改正に合わせて就業規則や労働契約を見直し、社内の制度を変更することは、非常にエネルギーのいることです。
非正規社員の待遇を改善することで、人件費が上昇し、経営を圧迫するリスクもあるでしょう。
一方で、こうした対応をきちんと行っている会社は、従業員からの評価が向上したり、社会的信用が向上して「ホワイト企業」として認知されるなど、会社の求心力を強化できるというメリットがあります。
「同一労働同一賃金」という新たなルールに合わせて一歩を踏み出すことは、どのような会社であっても大きな労力を費やすこととなる、一大イベントと言えます。
しかし、この状況をチャンスととらえて、自社の給与や待遇に関する諸制度の見直しを前向きに進めていけば、近い将来、必ず大きなインセンティブを得られるはずです。
2「同一労働同一賃金」実現①制度を見直す
◆4ステップで制度を見直す
「パートタイム・有期雇用労働法」の施行により、企業は、自社の給与や待遇のシステムが法に見合ったものであるかどうか、見直しを迫られています。
非正規社員の雇用形態別の対策や、給与制度等の見直しを具体的にどのような手順で進めていけばいいのかを紹介していきますが、まず本節ではその概要を解説していきます。
「同一労働同一賃金」の概念を取り入れた制度の見直しは、大きく分けて以下の4つのステップで進めていきます。
ステップ1各従業員の働き方の現状を洗い出す各従業員の職務について、仕事内容や責任の程度、転勤の有無などから現状を洗い出し、他の雇用形態と比較して、同一かそうでないかを判断します。
ステップ2待遇を検討・見直すステップ1の洗い出しを行ったうえで、待遇や給与、福利厚生について、正社員・非正規社員の間に不合理な差がなく公平な扱いとなるよう検討、調整します。
ステップ3人件費をシミュレーションする見直した結果、どの程度の人件費が必要になるかをシミュレーションし、影響を把握したうえで、待遇を決定します。
ステップ4就業規則や労働契約などのルールを変更する就業規則や労働契約などのルールを変更します。
それでは、これから各ステップについて詳しく見ていきますが、本節ではステップ1および2を解説します。
◆そもそも「同一労働」なのかを見極めよう
ステップ1は「各従業員の働き方の現状を洗い出す」です。
従業員の雇用形態は、正社員、パートタイマー、契約社員など、多様です。
さらに、同
じ雇用形態でも「Aさんは転勤があるが、Bさんにはない」など、労働条件が異なる場合もあります。
まずは、そうした従業員タイプごとに、次の3つの視点で仕事の現状を細かく洗い出します。
①職務内容(仕事の内容および責任の程度)②配置の変更範囲③その他の事情次に、各従業員タイプの①②③を比較して「同一労働」かそうでないかを判断します。
なお、①の「責任の範囲」は、業務に対して求められる役割、トラブル発生時や緊急時に求められる対応の度合い、ノルマなどに対する期待度などが考えられます。
具体例を見てみましょう。
Aさん(正社員)とBさん(パート従業員)はマーケティング部に所属しており、両者ともメールマガジン配信業務を担っています。
同一労働をしているように見えますが、Aさんは「メールマガジンの作成・送信」「読者からの問い合わせ対応」「送信件数および顧客分析」「書類の作成」を担っています。
一方、Bさんの業務は「メールマガジンの作成・送信」のみです。
また、Aさんは転勤の可能性がありますが、Bさんにはありません。
このように詳しく見てみると、AさんとBさんでは責任の重さが「異なる」、配置の変更範囲も「異なる」という結果になり、「同一労働とは見なさない」という結論になります。
ステップ2の「待遇を検討・見直す」では、ステップ1で洗い出したデータをもとに、従業員の待遇(給与、福利厚生、教育)が公平であるかどうかを検討し、必要に応じて見直しを行います。
検討を行うべき具体的な内容は、次の通りです。
・給与面:基本給、賞与、退職金、家族手当、通勤手当、地域手当など・福利厚生面:福利厚生施設の利用、慶弔休暇、健康診断の扱い、病気休職など・教育面:入社時研修や部署別研修などの教育訓練の実施先ほどのAさんとBさんの例では、責任の重さや配置変更の可能性などから「同一労働とは見なさない」という結論になりました。
もし、パート従業員のBさんにも正社員のAさんと同じ業務と責任を求めるのであれば、転勤の可能性がなくとも、Bさんの給与や教育について、検討する必要があります。
このように、各従業員タイプの現状を俯瞰し、待遇に不公平が生じているのであれば、次の3点を検討しなければなりません。
・正社員と待遇を同じにする・正社員に待遇を近づける・現状維持ここで重要となるキーワードは、「均等待遇」「均衡待遇」です。
均等待遇とは「同一の仕事内容であれば同一の待遇にする」、均衡待遇は「職務内容や
配置の変更範囲その他の違いに応じて、バランスの取れた待遇にする」という意味です。
「同一労働同一賃金」のルールでは、同じ仕事を行っている従業員の待遇は、等しくすること(均等待遇)が大前提となります。
しかしながら、完全に同一の仕事内容となることは、ほとんどありません。
そこで、違いを考慮したうえで合理的でフェアな待遇(均衡待遇)を実現することが重要となります。
たとえば、パート従業員の給与を、職務内容の違いを考慮して正社員の8~9割とすることは、妥当であると判断されるかもしれません。
しかし、正社員に支給している通勤手当や精勤手当などがパート従業員に支給されていない場合、それは「不合理」であり「均衡な待遇ではない」と判断される可能性があります。
参考:判例紹介日本郵政事件(2020年最高裁)日本郵便の契約社員らが、同一の仕事をしている正社員との不合理な待遇格差の是正を求めた裁判で、大阪高裁は、家族手当を正社員にのみ支給することは「不合理ではない」としました。
その後、最高裁では、正社員に認められている年末年始勤務手当・家族手当・夏期冬期休暇手当・有給の病気休暇・祝日給の5つについて、いずれも契約社員に認めないのは「不合理である」との判断を下しました。
自社の正社員と非正規社員の待遇が、現状で明らかに均等・均衡になっていない場合は、早急に是正を検討しなければなりません。
ですが、さまざまな働き方がある中で、どれが同一労働にあたり、どの程度の違いがあれば同一労働ではなくなるのか。
現在の従業員の待遇は均等か否か、均衡が取れているか否か──それらの判断は、非常に難しいことです。
人事担当のみの判断ではなく、社会保険労務士などの専門家に相談をしながら検討していくことをお勧めします。
ステップ2のゴールは、各従業員タイプを対象に、待遇の3つのカテゴリー(給与面・福利厚生面・教育面)の現状と、見直しの結果(正社員と待遇を同じにする・正社員に待遇を近づける・現状維持)をそれぞれ明らかにすることです。
左図のように、それぞれの現状と見直しの結果が一覧できるリストを作成すると、よりわかりやすくなります。
3「同一労働同一賃金」実現②タイプ別に対応する
◆タイプ①全国転勤可の正社員に対応する
社内で最も待遇が良いのは、多くの企業では「全国転勤が可能な正社員」です。
厚生労働省の「同一労働同一賃金」ガイドラインでは、この従業員タイプの待遇を下げるのは望ましくないという見解があります。
そのため、全国転勤可の正社員の待遇は、見直しや変更の対象としてとらえるよりも、他の従業員タイプとの比較対象となる〝マスター待遇〟と考えるのが良いでしょう。
実態をしっかり洗い出し、整理することが重要です。
整理する項目は、先述した給与面、福利厚生面、教育面です。
とくに基本給や賞与については、次の内容を整理し、給与体系の再確認を行いましょう。
・賃金テーブル・等級制度と等級基準・評価制度と評価基準その他、通勤手当の上限額や、慶弔休暇が取得できる範囲や日数なども、正確に書き出していきましょう。
◆タイプ②短期雇用・有期雇用労働者に対応する
「パートタイム・有期雇用労働法」により、企業は、正社員と非正規社員との間に不合理な待遇差を設けることが禁止されました。
さらに、労働条件や待遇(給与の決定方法や労働時間、昇給制度や退職手当、賞与の有無、福利厚生施設の利用、教育訓練の実施など)について、雇い入れ時はもちろん、従業員から説明を求められた際にも対応することが義務付けられました。
「不合理な待遇差」といっても、どのようなケースが不合理にあたり、どのケースはそうでないのか、判断することは容易ではありません。
法改正から日が浅いため、まだ「この基準や数字を守れば間違いない」といったスタンダードが確立しておらず、どの企業も手探りの状況です。
とはいえ、改正から現在まで「不合理である」として従業員から訴えられ、裁判になった事例が存在するため、「わからない」を理由に何も手を打たないことは禁物です。
判例を調べ、自社と類似する点はないか、あった場合はどうするべきか、検討材料にするとよいでしょう。
参考:判例紹介メトロコマース事件(2020年最高裁)株式会社メトロコマースで売店業務に従事していた契約社員4名が、正社員との労働条件の相違(退職金、賞与ほか)が不合理な格差に当たるとして損害賠償等の請求を求めた事件です。
第一審の東京地裁では「不合理ではない」と判断されましたが、第二審の東京高裁では「全く支給しないのは不合理」として、4名のうち勤続10年前後の2名に対して、正社員に支払う退職金の4分の1の支払いが命じられました。
しかし、その後、最高裁では最終的に「退職金の支払いがないことは不合理とまではいえない」との判決が下りました。
参考:判例紹介大阪医科大学事件(2020年最高裁)フルタイムで勤務していたアルバイト従業員が、正社員に支給されている賞与が自分には支給されないことを「不合理な待遇差である」として訴えた事件です。
第一審の大阪地裁では、差をつけることは「正社員の雇用を確保するために合理的」と判断されましたが、第二審の大阪高裁はこれを覆し、アルバイトに賞与を全く支給しないのは「不合理」であり、正社員の賞与の6割以上の賞与を支給すべきと判断しました。
ところが最高裁では、「原告は職務内容が簡便で責任は重くなく、配置転換も限られるなど正社員と相違があり、賞与の不支給は不合理と認められない」と結論づけ、逆転裁判となりました。
参考:補足地域限定正社員への対応2007年、ユニクロが「フルタイムの非正規社員の2割を地域限定正社員に登用する」と発表し、話題になったことを覚えているでしょうか。
地域限定正社員とは、一定の地域内での配属・異動を条件とする、転居を伴う異動がない正社員のことです。
柔軟な働き方を認め、優秀な人材の確保・定着を図るために導入されました。
能力や意欲がありながら、家族のために居住地を変更できない等のプライベートな事情があり、非正規労働を選択せざるを得ない──地域限定社員は、そのような人々に対して正社員の門戸を開いた制度です。
ただし、労働条件が全国転勤ありの正社員とほぼ同じであるにもかかわらず、昇給が限定されていたり、賞与や退職金が少ないなどの待遇差があるケースが多く見受けられます。
プライベートを重視できるメリットの代わりに、年収が低くなるなどのデメリットもあるのが現状です。
また、配属された店舗が閉店するとき、行き先がないため解雇されてしまうという懸念もあります。
地域限定社員を導入している、またはこれから導入しようとする会社は、全国転勤ありの正社員と比較して、給与や待遇の格差がないか確認しましょう。
格差がある場合は、それが合理性や公平性を欠いていないかどうか、念入りに検証する必要があります。
◆タイプ③定年後嘱託職員に対応する
近年、シニアの働き方にも変化が見られるようになりました。
以前は「60歳になれば定年退職」が常識でしたが、現在は65歳まで、または70歳まで働き続けることができるようになりました。
これは、高年齢者雇用安定法の改正によるものです。
2013年の改正で、65歳未満の定年を定めている会社に対して、①定年を65歳まで引き上げる、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止、このいずれかの導入を義務付けました。
継続雇用制度とは、本人の希望によって定年以降も再雇用する制度です。
さらに、2021年4月には、70歳までの就業確保が努力義務とされました。
定年を65歳以上70歳未満に定めている会社、および65歳までの継続雇用制度を導入している会社を対象として、①70歳までの定年引き上げ、②定年制の廃止、③70歳までの継続雇用制度の導入等の措置を講じるよう努める、というものです。
こうした制度変更によって、必然的に、企業は定年再雇用者の均等・均衡待遇の検討を求められるようになりました。
一般的に、企業における従業員の給与の算定方法は、入社から定年までに支払う給与の総額と、その期間における企業に対する貢献度が一致するように設計されています。
しかし、定年後の高年齢者の再雇用にこの仕組みを当てはめようとすれば、過払いなどの不具合が生じてしまいます。
定年再雇用者の働き方としては、主に3つの状況が想定されます。
・定年後も定年前と同様の働き方で、貢献度が変わらない・定年前とは異なる職務に変更し、貢献度が変わる・定年前とは貢献度が変わると予想されるため、異動をはじめとする就業の自由度など、人材活用面において一定の制限がかかるこのため定年再雇用者に関しては、それぞれの状況に対して、過払いにならず、かつ均衡待遇となるような調整が必要です。
従来の給与モデルとは異なる、新たな制度設計が必要となるのです。
「貢献度に適した給与モデルといっても、前よりも給与が減れば不満に思い、訴えられるのでは?」このような懸念はあるでしょうが、定年後に再雇用された従業員が「定年前よりも収入が減った」と訴えを起こした過去の裁判では、最高裁は、最終的に、原告が老齢厚生年金
を受給する予定であることなどから、収入が下がったことは「不合理ではない」と判断しています。
参考:判例紹介長澤運輸事件(2018年最高裁)定年後再雇用された嘱託職員のドライバー3名が、正社員との給与格差の是正を訴えた裁判です。
第一審の東京地裁では、仕事内容や責任の程度が変わらない一方で、年収が定年前の79%に下がっていた点に関して「不合理」と判断されました。
しかし、最高裁では、正社員と嘱託職員では給与体系が異なること、原告らが老齢厚生年金を受給予定であることなどから、仕事内容が同一でも定年前より収入が減ったことや、手当の一部や賞与が支給されなかったことは不合理ではないとしました。
◆タイプ④派遣労働者に対応する
法改正により、派遣社員についても制度が改定され、パートタイマーと同様に「同一労働同一賃金」ルールが適用されることになりました。
ただし、派遣社員の場合は少しイレギュラーで、派遣元の会社(以下、派遣元)が「派遣先正社員との均等・均衡待遇方式」か「労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式」のいずれかを選択できるという点で、他の雇用形態と異なっています。
※派遣先正社員との均等・均衡方式の留意点①各社それぞれから情報提供を受けることになる、提供された情報に基づいて待遇を調整する必要があるわけではありません。
比較対象とする資料であり、同等以上の待遇を確保することが求められています。
したがって、待遇決定そのものは派遣元事業者(雇用主)が行います。
※派遣先正社員との均等・均衡方式の留意点②たとえば、派遣先であるA社から時給900円、B社から時給950円との情報があったとします。
B社からA社に派遣就労先が変わったからといって、待遇を調整するわけではないことに注意します。
それを行うと不利益変更になります。
〈派遣先正社員との均等・均衡待遇方式〉派遣先社員の情報を比較対象として、派遣する社員の待遇を同等以上となるよう確保する方式です。
この方式を採用する場合、派遣元は、派遣する従業員の給与等の見直しを行わなければなりません。
一方、派遣先の会社は、正社員の労働条件等について情報提供をする義務があります。
この情報提供が行われない場合、労働者派遣契約を結ぶことができません。
また、この情報が記載された書面(または写し)は、派遣先の会社および派遣元によって、3年間保管されなければなりません。
現在、この方式には次のような課題があります。
派遣元は、従業員の派遣先が変わるたびに情報開示を求めて待遇を調整する必要がある
ため、手続きが煩雑化します。
さらに、正社員の給与が高いA社と、平均的な給与のB社があった場合、A社にばかり人気が集中して、B社やその他の会社を希望する従業員がいなくなってしまう可能性があります。
〈労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式〉派遣元事業者において、全労働者の過半数で組織する過半数代表者が協定を締結することで成立します(派遣社員だけで締結するものではありません)。
協定では、派遣社員の範囲、給与の決定方法、評価方法、待遇の決定方法、教育訓練、協定の有効期間、その他厚労省の定める事項について、文書の交付によって明示します。
この方式の場合、先のA社に派遣された従業員も、B社に派遣された従業員も、派遣先の正社員の給与・待遇とは無関係に、同一の給与・待遇で働くことが可能になり、「派遣先正社員との均等・均衡待遇方式」で挙げたようなデメリットが生じません。
なお、労使協定の締結後は、この協定を社内で周知するとともに、当該派遣社員が労使協定の対象(協定対象派遣労働者)である旨を管理台帳に記入し、労使協定書を3年間保存する必要があります。
最後に、派遣元が従業員に対し、給与や待遇について説明する義務があることは当然ですが、派遣社員から「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求められた場合は、説明をしなければなりません。
4「同一労働同一賃金」実現③ルールを変更する
さて、話は戻りまして、本節では、ステップ3以降についてみていきます。
◆変更による影響を把握する
ステップ2の「待遇を検討・見直す」を行い、非正規社員の待遇改善によって起こると考えられるのは、人件費の上昇です。
人事担当者は、非正規社員の待遇の見直しにあたって、人件費が現状よりどれくらい増加するのか、正確にシミュレーションをしたうえで、具体的な提案をする必要があります。
ステップ3「人件費をシミュレーションする」では、待遇見直し後の基本給や賞与の合計額を見積もり、人件費の予算を出します。
さらに、付加価値(粗利)を計算すれば、人件費にどれだけ分配したかを表す労働分配率(人件費÷付加価値)を求めることができます。
総務省統計局の「経済センサス」や経済産業省のホームページなどに、労働分配率の業種別の平均値データなどが公開されているため、自社の数値と比較して参考にしてください。
自社の労働分配率を客観的に把握することで、人件費だけでなく、売上や経常利益の目標設定にもつなげることができます。
ここで「非正規社員の待遇を正社員に合わせるのではなく、逆に正社員の待遇を非正規社員に合わせて下げれば、人件費をかけずに均等・均衡待遇を実現できるではないか」と考える経営者もいるかもしれませんが、すでに述べた通り、厚労省が定めるガイドラインでは推奨されていません。
「労使で合意することなく正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえない」と書かれています。
労使で合意すれば待遇の引き下げも可能、とも読めますが、待遇を下げることに喜んで同意する従業員は少ないはずです。
とはいえ、同一労働同一賃金ルールを守ることに固執し、人件費が膨れ上がって経営難に陥ってしまっては、制度改革を行う意味がありません。
働き方改革は、スタートしたばかりです。
さらに法改正が行われる可能性は十分にあるため、今後も目を離さないようにしましょう。
◆ルールを見直し待遇を変更する
最後のステップ4は「就業規則や労働契約などのルールを変更する」です。
ステップ2で作成した、従業員タイプ別の待遇に関する現状および変更点を記した一覧表(171ページ)を、就業規則や給与規定などに反映させていきます。
第3章で説明した通り、就業規則は、給与の決定方法や、賞与や福利厚生など、会社のルールを記載した文書です。
法令に則って、労働組合の代表者または従業員の代表者の意見を聴取し、その意見をまとめた書面を添付したうえで、「就業規則(変更)届」を、所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。
ここでの注意点は、就業規則を変更することで従業員の労働条件が不利益となる場合は、原則として従業員と合意する必要があることです。
また、もし合意を得ずに変更する場合も、その変更は必ず合理的でなければならないと定められています。
以上、現状把握から待遇の見直し、人件費のシミュレーション、就業規則の改定までの流れについて、4つのステップに分けてご説明しました。
次からは、基本給や賞与、手当、福利厚生などの待遇をどうするか。
その選択肢について解説します。
◆基本給、賞与を見直す
〈基本給について〉厚労省が2018年に発表した「同一労働同一賃金ガイドライン」は、待遇の相違が不合理か、不合理でないかについての原則となる考え方と具体例を示したものです。
このガイドラインを参考に、自社の対応策を考えていきます。
ガイドラインには「正社員と同様の能力・経験のある短時間・有期雇用社員については同一の基本給を支給しなければならない。
能力・経験に相違がある場合は、その相違に応じた基本給を支給する」と記されています。
具体的な対応としては、すでに述べたように、①非正規社員の給与ルールを正社員の制度と同一にする②正社員・非正規ともに共通の等級制度を新たに創設する③現状を維持するなどの選択肢が考えられます。
②のような等級制度を設けた場合、たとえば「非正規社員は6等級まで昇給できる」「非正規社員の給与水準は同じ等級の正社員の9割とする」といったルールを設けることで、正社員・非正規社員の棲み分けを図ることができます。
③のように現状の制度を維持する場合は、正社員と非正規社員との仕事の区分を明確にします。
たとえば「責任範囲が異なるため、正社員には販売ノルマがあるが、短時間・有期雇用労働者にはノルマがない」など、現状の給与・待遇の違いが不合理でなく妥当であることをきちんと説明できるようにすることが不可欠です。
〈賞与について〉ガイドラインでは、「会社の業績等への貢献に応じて支給するものについて、正社員と同一の貢献である非正規社員には、同一の賞与を支給」「貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給」しなければならないとされています。
多くの会社で、正社員には賞与を支給し、非正規社員には支給していないというケースが見受けられますが、今後は非正規社員に対する賞与の支給についても検討していかなければなりません。
とはいえ、賞与制度の変更は、基本給の制度変更と同様、人件費も労力もかかりハードルが高いので、自社に見合った慎重な検討が必要です。
具体的な方針としては、基本給の場合と同様に、①正社員と同一の制度を非正規社員にも適用する。
または、②非正規社員の賞与額を引き上げる。
すぐに制度変更できない場合は、善後策として、③賞与に関する判例の動向を踏まえながら今後の対応を検討するとよいでしょう。
次の例も、参考にしてください。
(「同一労働同一賃金ガイドライン」より抜粋)問題となる例正社員に対しては職務内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、非正規社員には支給していない。
問題とならない例正社員Aは、品質の目標値に対する責任を負っており、目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。
一方で、パート従業員Bは、Aに課されているこの責任を負っておらず、待遇上の不利益を課されていない。
Aに対しては賞与を支給するがBに対しては賞与を支給しない。
「問題とならない例」は、待遇差がある合理的な理由をきちんと文書化している例です。
今すぐ制度変更をせずに現状を維持する場合は、「基本給について」の場合と同様に、説
〈賞与について〉ガイドラインでは、「会社の業績等への貢献に応じて支給するものについて、正社員と同一の貢献である非正規社員には、同一の賞与を支給」「貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給」しなければならないとされています。
多くの会社で、正社員には賞与を支給し、非正規社員には支給していないというケースが見受けられますが、今後は非正規社員に対する賞与の支給についても検討していかなければなりません。
とはいえ、賞与制度の変更は、基本給の制度変更と同様、人件費も労力もかかりハードルが高いので、自社に見合った慎重な検討が必要です。
具体的な方針としては、基本給の場合と同様に、①正社員と同一の制度を非正規社員にも適用する。
または、②非正規社員の賞与額を引き上げる。
すぐに制度変更できない場合は、善後策として、③賞与に関する判例の動向を踏まえながら今後の対応を検討するとよいでしょう。
次の例も、参考にしてください。
(「同一労働同一賃金ガイドライン」より抜粋)問題となる例正社員に対しては職務内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、非正規社員には支給していない。
問題とならない例正社員Aは、品質の目標値に対する責任を負っており、目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。
一方で、パート従業員Bは、Aに課されているこの責任を負っておらず、待遇上の不利益を課されていない。
Aに対しては賞与を支給するがBに対しては賞与を支給しない。
「問題とならない例」は、待遇差がある合理的な理由をきちんと文書化している例です。
今すぐ制度変更をせずに現状を維持する場合は、「基本給について」の場合と同様に、説
明を求められた場合に、待遇差を設けている合理的な理由について説明できるよう備えておく必要があります。
◆手当・福利厚生・教育訓練を見直す
手当・福利厚生・教育訓練については、基本給や賞与に比べて人件費に与える影響が比較的小さいため、改善に取り組みやすいと言えるでしょう。
〈手当について〉ガイドラインには、精皆勤手当については「正社員と同一の業務内容である非正規社員には、正社員と同一の手当を支給」、時間外労働・深夜労働または休日労働に対して支給される手当については「正社員と同一の割増率等で支給」、通勤手当・食事手当・地域手当・特殊作業・特殊勤務手当については「正社員と同一の手当を支給」しなければならないとされています。
一方で、右記の手当に比べて、支給金額が高額になる家族手当・住宅手当・退職金についてはガイドラインで具体的には触れられず、「不合理な待遇差を解消する」と記載されているのみです。
参考:ハマキョウレックス事件(2018年最高裁)契約社員のドライバーが、「正社員にのみ諸手当等が支給されるのは不合理である」として差額の支給を求めた事件です。
最高裁は、通勤手当・皆勤手当・給食手当・作業手当・無事故手当については、支給されないのは「不合理である」としました。
ただし、住宅手当については、契約社員には転勤がないため、支給されないことは「不合理ではない」と判断しました。
以上より、手当の見直しで考えられる選択肢には、次のようなものが考えられます。
・職務内容の違いに左右されず正社員と同一の条件で支給するようガイドラインに記載されている手当(通勤手当や精勤手当等)を、勤務時間による金額差は設けつつ、正社員と同一の条件で支給する・ガイドラインに記載されているすべての手当(家族手当・住宅手当・退職金以外の手当)を、勤務時間による金額差は設けつつ、正社員と同一の条件で支給する。
・前述の2つのいずれか一方を選択し、さらに家族手当・住宅手当・退職金についても、正社員と同一の条件で支給する〈福利厚生施設の利用〉福利厚生施設の利用は正社員と同一の利用を認めること、慶弔休暇・病気休職については正社員と同一の休暇・休職の取得を認めることと定められています。
休暇や休職に関し
て、正社員と非正規社員で差を設けている会社は、早急に是正すべきでしょう。
〈教育訓練〉教育訓練については、「正社員と同一の職務内容であれば同一の教育訓練を実施しなければならない」とし、「職務の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた教育訓練を実施しなければならない」とされています。
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