第4章「一倉式・環境整備」の実践
一倉式環境整備「規律」「清潔」「整頓」「安全」「衛生」の解説
この章では、いよいよ「一倉式環境整備」の実践に入っていきます。ここまでのおさらいをしてみましょう。
第1章では、一倉式環境整備によって、なぜ、お金が入り続けるのかを解説しました。社長は、環境整備によって、反省をすることで、お客様の欲求に答えることを持続することができます。
それが、お客様にサービスや商品を買い続けていただける仕組みであることを学びました。
第2章では、環境整備が徹底している空間に宿る力、「集中」「信用」「オーラ」について事例とともに理解を深めました。
第3章では、環境整備がもたらす意識革新について、須梨槃特の悟りと絡めながら、「環境整備で高められる6つの力」を語りました。
潜在能力を最大限まで引き出される神髄を感じ取ったことでしょう。ここまで読み進めた方なら、「一倉式環境整備」がもたらす力のすごさを理解したことと思います。
早く実践について学び、早速、会社や店舗、仕事部屋で試してみたいという気持ちになったのではないでしょうか。さあ、ダイヤモンドを手に入れる旅の始まりです。
実際に実践してこそ、その威力のすさまじさを実感するのが、一倉式環境整備です。具体的な環境整備の実践について、一倉先生は、一見それほど難しいことをおっしゃっていません。
しかし、いざ実行に移すと、非常に奥深いものを感じることでしょう。
そこでこの章では、具体的にどのように環境整備を行っていけば良いのか、私自身が、これまでそうじ力で培ってきた実践法と体験で補足しながら、語っていきます。本章で、より立体的に、実践を学べることでしょう。
一倉式環境整備の実践は、「規律」「清潔」「整頓」「安全」「衛生」の5つから成り立っています。「安全」と「衛生」は、「清潔」と「整頓」された結果の状態と一倉先生はおっしゃっています。ですから、ここでは「規律」「清潔」「整頓」の実践について順番に解説していきます。
「規律」の考え……十カラットのダイヤを得る旅の前に心構えあり!
一倉式環境整備は「規律」から始まります。実践の始まりが「規律」とはどういうことでしょうか?一倉先生は次のように定義しています。
規律というのは、何かの行動だと思っておられる方もいらっしゃるが、行動ではなくて、「心構え」なのである。
その心構えとは、①決められたことを守る②指示や命令は必ず実行するということなのである。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
「規律」とは行動ではない、「心構えだ」とおっしゃっているんですね。
心構えを実践項目の第1番目に持ってきているところに、「規律」がいかに重要であるか物語っています。
内容においても、「決められたことを守る」「指示や命令は必ず実行する」ということですから、すべての活動の前に「決定」があるということです。
その決定は社長の自らの判断によってなされます。そして、社員は具体的な指示や命令は「必ず」守るということです。なぜ、一倉先生は「規律」を重要視しているのか。
これについては、一倉定の社長学第9巻『新・社長の姿勢』の環境整備の実施についてで、このように書かれています。
まず、絶対条件は、社長が先頭に立つ、ことである。これだけで社員の心構えが全く違ってしまうからである。
※先頭にたつとは?
「よきに計らえ」というのはバカ殿様のやることで、よきに計らってやれるようなことではないからだ。
第2には、徹底的に行うことであって、「もうこのくらいでいいだろう」では、たちまち崩れてしまい、もとに戻ってしまう。妥協は絶対禁物である。
※妥協は一切なし。
一倉定の社長学第9巻『新・社長の姿勢』より「規律」がいかに重要であるのがわかりますね。
まず社長自らが、環境整備を実施することを決定し、ルールを設定し、必ず実行に移すということです。覚悟と決意が道を開き、その後姿を見て社員も感化されるのです。
※実施することを決定→ルールを設定→必ず実行!
これから環境整備を始める社長は、特に覚悟を持って取り組んでいただきたいのです。
人は安定が揺らぐことを嫌いますから、環境整備を新たに取り入れるということは、社員の反撥があります。
中には、環境整備になじめなくて辞めていく社員もいるでしょう。しかし心配はいりません。
レベルが上った会社に引き寄せられて必要な人材がやって来ます。必ずや、会社の将来においてあなたの力になってくれるはずです。
※レベルが上がった会社に引き寄せられそのレベルの人材が入ってくる。
「何のために環境整備を始めるのか」理由を決める!
環境整備を始める前に、まず、我が社は何のために環境整備を行うのかを明確にしておく必要があります。
ここが明確であればあるほど環境整備の威力は発揮されます。
例えば、さあ今から冒険に行くぞ!と意気込んでも、目的地がどこであるのかが決まっていなければ、途端に迷ってしまいますよね。
また、十カラットのダイヤモンドがゴロゴロと転がっている島があるんだ。
その十カラットのダイヤモンドを得るための冒険だ!となれば、危険が伴ってでも行く価値はありますね。
お客様あってこそ会社は存在するわけですから、一倉式環境整備の目的は、お客様のための環境整備です。
例えば、レストランだとしたら、「お客様に清潔な空間で、その空間から作られた料理を味わっていただくために環境整備を徹底する」です。
ある英会話スクールの支店では、夜に学びに来るお客様は仕事帰りが多いので、「お客様の疲れを癒すために環境整備をする」という理念を立てて行っていました。
徹底的に清潔空間を作ることは当然ですが、疲れが取れるような音楽を流したり、アロマを焚いたりと、お客様の疲れを取るアイデアが次々とひらめいて実行し、気が付けばこれまでにない受講者数になっていました。
ぜひとも、あなた自身で、環境整備の目的を決定してみてください。
「清潔」の実践……いらないものを捨てる。いるものを残す
規律について述べたところで、一倉式環境整備の具体的な実践に入っていきましょう。まず最初に行うのが「清潔」です。
一倉先生による清潔の定義を引用しましょう。
清潔とは、きれいにすることではない。清掃することでもない。
それは、①いらないものを捨てる②いるものを捨てないということである。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
清潔とは、きれいにすることでもなければ清掃することでもない、という否定から始まります。
初めて読んだ時には驚いてしまうでしょう。
「清潔にする」ということは、「きれいにすることであったり、清掃することではないの?」と、そのように認識している人も多いと思います。
だからこそ、一倉先生は、「勘違いしちゃいけないよ。一倉式環境整備の『清潔』は、きれいにすることを目的にしているんじゃないんだ」と、初めに釘を刺しているわけです。
その上で、①いらないものを捨てる、②いるものを捨てない、と「清潔」を定義しているのです。
また、このいらないものを捨てて、いるものを捨てないということも、読んだ限りではアタリマエのことじゃないかと思うかもしれません。
しかし、このアタリマエのことができないわけです。いらないとわかっていながら捨てられない、いるのに捨ててしまうのです。
このような状態について、面白いたとえをもとに語った文章が『経営の思いがけないコツ』に載っています。
そこでは、「捨てられないということは、人体にたとえると便秘の状態だ」というのです。逆にいるものを捨てたら、下痢であると。これは不健康であるということですね。このような状態が続いていけば、人は病気になってしまいます。
さらに、「会社や家庭、公共の場であっても、要らないものを捨てずにおいたら、不潔であり、邪魔であり、腐れば悪臭を放つ。同時に悪い『オーラ』が発射されて、不愉快だけでなく、健康にも悪く、人々をイライラさせる。百害あって一理なしである」と、たたみかけています。
いらないものを「捨てる」ことの重要性を強く訴えています。
一倉先生は、一倉定の社長学第1巻『経営戦略』の中で、「社長の決定で最も難しいのは「捨て去る」という決定である」と言っています。
その部分を引用してみましょう。
私のコンサルティングのうちで、最も難しく、最も急ぐ事こそ「捨て去る」ことを納得させることなのである。
私は、社長の決定のうちで、何が最も大切で、何が最も難しいか、という問いに対して、躊躇することなく「捨て去る」ことであると答えるのである。
論より証拠、優秀会社は例外なく「捨てる名人」であり、破綻した会社は例外なく「切捨音痴」である。
一倉定の社長学第1巻『経営戦略』より社長の決定の中で最も難しいのは「捨て去る」という決定だと言い切っていますね。
さらに、一倉先生のコンサルティングのうちで最も難しく、最も急ぐことこそ「捨て去る」ことを納得させることなのだ、という告白をさらりとしています。
その理由は、優秀な会社は例外なく「捨てる名人」であり、破綻した会社は例外なく「切り捨て音痴」だということです。
多くの赤字会社を救ってきた一倉社長学の神髄の一つがここに披露されています。
赤字会社を救済するためには、社長の間違った考え方を捨てさせる「説得」こそ、瀕死の会社を救済するために最も急がなくてはならないことなのです。
環境整備において毎日、捨てることの実践をしていく中で、リーダーとしての捨て名人としての道を歩んでいく必要があるのです。
※捨てることをルーティンワークにしてクセづける。
毎日捨てるべきものとは何か?
それでは「清潔」の実践として何を捨てるのかということですが、毎日捨てなければならない代表的なものは「埃」です。
埃は日々、積もるものですが、誰も大切にとっておきたいわけではありませんよね。しかしこの「埃」を大切に集めていませんか。
ここで、一倉先生の声が響いてきます。「いらないものは捨てろ!便秘になるぞ!」です。埃はいらないのに、なぜか溜めてしまいがちです。その理由は、面倒くさいからですね。
「面倒くさい」の心の現れが埃となって積もっていくのです。
埃の他にも、汚れ、毎日出るゴミ(くずかごのゴミ、生ゴミ)、閉め切った室内では空気も汚れます。
その対策は、換気、掃き掃除、拭き掃除が中心になります。拭き方ですが、ポイントはぐるぐる回して拭かないことです。
デスクなどを拭く時は、左右どちらからでも構いませんし、上から下でもいいですが、例えば右から左へ拭いたら、雑巾を半分下にずらして左から右へ戻ります。
これを続けていけば隙間ができないのと、2度拭いたことになります。それと規則正しく拭くことで、雑念が取れて、心が穏やかになってきます。これは床のモップ掛け、カーペットの掃除機かけにも応用できます。
拭き掃除は、社員一同で行うと、オフィスや店舗のエネルギーが非常に高まっていきます。
繰り返し行い、清潔さを保つことができたなら、これは私の提案ですが、社員一同で社長が決めた会社の未来ビジョンを頭に描きながら拭いてもいいでしょう。
※未来のビジョンについて考えながら拭く?
社員一同で、会社が発展繁栄していることをありありと頭に描くことで、潜在意識が活性化され、実現速度は増していきます。
この他にも、毎朝、店舗の拭き掃除をする時に、1万円札が舞い降りてくるイメージをスタッフ一同でイメージしているところもあります。
お客様から、「ここのお店に来ると何だか豊かな気持ちになるわね」とよく言われるそうです。
もちろん、拭き掃除をしながら「この塵払わん、垢除かん」と唱えながら、須梨槃特を目指し、悟りを開いてもらっても構いませんよ。
人はなぜ、捨てたくても捨てられないのか?
埃を代表とする、毎日積もるいらないものを捨てる話をしましたが、この他にも、いらないのに捨てづらいものが多くあります。
例えば、書類などが代表的なものです。いつか使うかもしれないと思うからですね。会社の中には、「いつか」機会があれば使えそうなものがあちこちに存在しています。
多く作り過ぎたサンプル品、製造過程で出てきた使えそうな部品、キャンペーンで使ったものなど、探せば、いくらでも出てくることでしょう。
ここで知っておいていただきたいのは、「いつか」使うかもしれないと思うものは、永遠に使わないものだということです。
※いつか使うは使わないから捨てる
「いつか」という日は、永遠に来ない日なのです。「いつか、ご飯食べに行こうね」という決まり文句がありますが、いまだに食べに行っていませんよね。食べに行きたくない人への社交辞令です。
今後お付き合いを続けたいと思っているのであれば、日にちや時間、場所を決めるものです。いつ使うのかが明確なものに関しては捨ててはいけないものなので、取っておいても構いません。
しかし、「いつか」使うかもしれないと思うものは、害毒しかもたらさない「捨てる」べきガラクタだと知ってください。では、なぜ「いつか」使うかもしれないものを取っておくと害毒になるのか、を説明しましょう。
「いつか」使うものが引き寄せる悪運とは?
「いつか」使うかもしれないと思うものを、取っておきたい心理の一つには、「未来への不安」が隠されています。
近い将来、必要な時が来るかもしれない。その時になかったら困るかもしれないという不安です。
このような「不安」という気持ちがこもったものを取っておくとどうなると思いますか?それを見る度に、無意識下で不安の気持ちが誘発されます。
見えない所に隠してあったとしても、潜在意識のレベルで認知し続けるわけですから、どこかで不安な気持ちを持ち続けていることになります。すると、不安な心は不安な行動となり、未来に不安が実現するのです。
例えば、仕事の書類をいつか必要になるかもしれない、と取っておくことはよくあります。これは、仕事に対する潜在的不安を現しています。
それはやがて仕事上でのミスを招く行動となって現象化してくるのです。また、もう一つの側面として、未来に対する「期待」について考えていきましょう。
いつか機会があればやろうと思っている仕事に関するもの、いつか時間ができた時にやろうと思っている趣味のもの、いつか行こうと思っている海外旅行のための大きなスーツケース、「いつか」は来ないので、これらの事柄は永遠に実現しません。
これらのものを持っていることで、実現しそうな気持ちになっているだけで、未来に淡い期待を抱きながら、時間だけが過ぎていくのです。
これは、現実逃避の現れなのです。いつかやろうと思っている自分が、ただ単にいたずらに続くだけなのです。
この他にも、過去の思い出のもの、過去の栄光を現すものもガラクタです。
あの時は良かったなと過去に逃避する気持ちは、あなたから、未来へと向かわせるエネルギーを奪います。
一倉先生は、社長は未来の事業を作る人だとおっしゃっています。未来を創造し、実現させることが仕事です。過去を振り返り始めることは、老化現象と一緒です。
いつでも現役で社会に貢献するのであるならば、スクラップアンドビルドで、常にイノベーションを意識しなければなりませんね。「もったいない」という考え方もくせものです。
一倉先生も、「もったいないといって取っておくのは、いらないものに大切なスペースを占領されて仕事に差し支える、これは美徳ではなく愚行だ」と言ってます。
捨てられないものというのは、このようにさまざまに特別な思い入れが入っています。他人から見ればガラクタですが、自分にとっては特別なものです。
しかし、その特別なものが、あなたに元気をくれるものであったり、あなたを向上させるものであるなら、それは捨ててはいけないものとなります。
そうでなければ未来に害悪をもたらすものなので捨てるべきです。最後まで捨てられなくて残ったものは、特別な思い入れがあるものであり、言い換えると、変わろうとする自分と過去の自分自身との闘いになります。
それを乗り越えて、捨てるからこそ、意識革新が行われるのです。このように、一倉式環境整備を日々行うことは、社長を始めビジネスリーダーに必要なマインドを作るトレーニングになるのです。
清潔の最後に一倉先生のお言葉を引用させていただきましょう。
「捨て去る」ことこそ革新の第一歩
製品はしだいに年をとってゆく。売上げを伸ばすことがむずかしくなり、反面収益性は低下してゆく。そしてこれが企業の業績を低下させる元凶となる。
これを捨ててゆくかどうかによって、企業の業績は大きく変わる。そして、それを決める人が社長である。ところが、これがなかなか捨てられないのである。
かつてはわが社のホープ製品であり現実にはかなりの売上げもある。
しかも、それを捨てることは、それによって得られている収益がなくなるということであり、たいせつなお得意にも迷惑をかけることになることを考えると、なかなか決心がつかない。そして、ズルズルと業績低下に落ち込んでゆくのだ。
しかし、考えなければならないのは、企業の利用できる資源の効率を高めるには、低収益製品を切り、それを好収益製品に投入する以外にないのだ。
この平凡な、あまりにも平凡な原理が、なかなか実行できないのだ。「捨て去る」ことのむずかしさは、現実には想像以上である。
けれども、それをあえて行なわなければならないのが社長であり、これをできない人は、社長としての最もたいせつな資格に欠けていることになる。
F社の社長の決断は、まことに立派である。この決断が会社を救ったのである。優柔不断は誤った決定よりもなお悪い。
経営者とは、経済に関する意思決定を下す人であり、そこには常に苦しみと危険が伴う。「虎の子」をつかまえようとすれば、虎に食われる危険を覚悟しなければならないのである。
その決定の中で、最もむずかしい決定は「捨て去る」ことであろう。
断固として捨てることこそ革新の第一歩であり、捨てないところに革新はありえないのである。
一倉定の社長学第7巻『社長の条件』より
「整頓」の実践~置き場所は行動から決める!
整頓とは、片づけることではない。片づけたら、仕事にならないからである。
一倉定の社長学第9巻『新・社長の姿勢』より
「整頓」について、一倉先生は、またしても「整頓」とは、片づけることではないと言い切るところから始まっています。
通常「整理整頓」が上手くできるかということは、きちんと収納して片づけることができるかということですね。
しかし、片づけたら仕事にならないから駄目だというのです。当たり前のことですが、ハッとさせられます。勘違いしがちなことをズバッと言い放ってくれるのは痛快です。
収納することは悪いことではありませんが、ものを隠すためだったり、溜め込むだけになってしまうのは、本末転倒ですね。
実際、収納や棚があるから物を溜め込むようになってしまうものです。引き出しが多いデスクは、仕事ですぐに使わないものも多く入れがちです。
使わないものを捨てていけば、ものが少なくなり、最終的に収納家具も捨てることになります。物の置き場所をきめるということは、快適な生活を行う上で大切なことであることは、言うまでもない。
次に、置き方である。それは、直線、直角、水平、垂直、等間隔とすることである。これが、駐車場の車にまで徹底したら合格である。
自動車はバンパーを一直線に、二輪車はサドルの後縁をそろえるのが最もよい。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
さて、整頓のやり方ですが、一倉先生は「物の置き場所と置き方をきめる」といっています。どのように決めるのかということですが、これは仕事の目的と行動に合わせてものの定位置が決まります。
例えば、仕事の目的が私のように本を執筆することであれば、デスクで執筆作業をします。その時に必要な道具は、紙とペンと参考書籍や辞書といったところでしょうか。
デスクに座ってすぐに作業を始めるための位置の決め方は、デスクの一番中央の引き出しに紙を入れてきます。
右側の一番上の引き出しに筆記用具、万年筆で書くのなら万年筆と予備のインクを入れておきます。
そして、右側の下の大きな引き出しには、参考書籍や辞書を入れておきます。本を執筆するという行動にもとづいて、場所が決まっていくのです。
参考書籍が本棚に収納されていれば、その都度、執筆を中断して、参考書籍を本棚まで取りに行かなくてはなりません。
デスクに座ってすぐに道具を取り出して執筆作業に入る。そのためのベストの位置を決めておくということです。
次に置き方ですが、「直線、直角、水平、垂直、等間隔にしなさい」と一倉先生はおっしゃっています。
これは、作業をしようと思って道具を取り出す時に、一目瞭然、すぐに見つけ出し、取り出しやすくするためです。すべては、作業効率を上げることにつながるのです。
また、等間隔に揃っていることは、礼節、秩序を現し信用力がつきます。もう一つは美しさです。美しさは人に感動を与えるということを付け加えておきます。
結局のところ、「清潔」「整頓」を繰り返すことによって、仕事に集中できる空間ができ上がるのです。その威力についてはすでに第2章で話しましたね。
一倉先生は、駐車場の自動車はバンパーを、二輪車はサドルの後縁を揃えるのが最も良い、と言っておられますが、手間と時間がかかりますよね。
その答えは、一倉先生の言葉を引用させていただきましょう。
そんなことをしたら、仕事の時間を大きく喰ってしまう、と心配する向きがあるかもしれないが、実際にやってみると、生産性が二〇~三〇%上昇するという、考えられない結果が生まれてくるのだ。
まさにマジックである。会社全体にこのマジックが広がるから不思議である。ウソかマコトか、やってみればハッキリと分かるのだ。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
環境整備は毎日1時間の秘密
最後になりますが、一倉式環境整備について行う「期間」と「時間」について解説したいと思います。環境整備を、「何日続ければいいのか?」「休みを入れていいのか?」「どのくらいの時間やればいいのか?」。早く教えて欲しいと思ったことでしょう。実はこれについて、一倉式環境整備ははっきりと答えを出しています。
まずは、一倉先生の言葉をお読みください。必ず正規の勤務時間に、毎日一時間、行う。大切な活動だから、勤務中にやらなければダメだ。時間外にやるのは、〝搾取〟である。これをやると、社員はたちまち反撥してくる。
そして、毎日一時間というのは、「会社が存続している限り行う」ということである。きれいになったから、三十分に縮める、というようなことをやったら、必ず元の木阿弥になってしまう。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』よりいかがでしたか?ここが、他の環境整備や5Sと大きく違うところです。
一倉先生は、どんなコンサルタントよりもさまざまな業種を指導してきた結果、例外なく、勤務時間内に「会社が存続している限り」毎日1時間行いなさいと言っています。
※時短なら30分でいいのでは?
きれいになったからといって30分に縮めてしまっては駄目だと釘を刺しています。慣れてくると私たちは30分にしがちですよね。
きれいだからと言って30分に縮めたら、きれいになれば10分に、さらに一日おきでいいやとエスカレートして行って、最終的に環境整備自体が終了してしまいます。
「会社が存続する限り一日の休みもなく」ということですが、これは、会社はお客様がいる限り存続することができるため、お客様のために環境整備は続けなければならないということです。
そう考えると納得ができるでしょう。環境整備を怠った時はお客様を無視したことになるのです。時間帯については一倉先生は指定していません。朝、昼、夜どの時間帯でもいいということです。
勤務時間内に環境整備の時間を1時間取らなければなりませんが、考えてみてください。
社員に給料を払って1時間、環境整備をさせられますか?例えば、時給1000円だと、10人社員がいたら、毎日1万円です。
そう考えると経営者にとって、勤務時間内の1時間は大変貴重です。さて投資できるでしょうか?さあ、高次元の世界へ入っていきましょう。この1時間についての一倉先生の回答です。
一倉先生の考え方がよくわかります。
貴重な仕事の時間を、一日の休みもなく、全社をあげての環境整備にさくのである。知らない人が見たら、「何ともったいないことをしているのだ」「狂気の沙汰だ」と呆れてしまう。
※狂気の沙汰で取り組む。
「ある会社では、熱心な税理士が、「貴重な時間を掃除にあてて、年間二百五十時間もムダをしている。年間の人件費に換算すると、一千万円以上になる」と、計算書までそえて社長に提出した。
社長は、まったく聞く耳などもっていなかった。その税理士は、怒ってやめてしまったが、社長は、これでセイセイしたというような顔をしていた。
一日一時間の環境整備で、社員の仕事ぶりがまったく変わり、お客様の信頼も高まって、売上げが増加したからである。
このように、環境整備を行っている会社では、その威力を知っているので、環境整備の時間ほど貴重な時間はないのである。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
狂気の沙汰?毎日1時間の環境整備がもたらす利益は無限大!
社長にとって、一見、狂気の沙汰と思える毎日1時間の環境整備を行えば、社員の仕事ぶりが変わり、お客様の信頼が高まり、売上が増加します。
会社にもたらす利益は無限大なのです。逆に言えば、それだけの効果を得るには最低1時間が必要だということです。
では、その1時間をどのように使うかということですが、一倉先生の指示では、最初の10分か15分は仕事の後始末、それから本番ということです。
本番は、初回は週刊誌の見開きだけのスペースで、2回目以降は、もっと広いスペースでもかまわないとのことです。重要な部分を引用しましょう。
「必ずその日にきめられたスペースだけとし、それ以外のところは、やってはいけない」のである。
これを破ると、いつまでたっても効果はあがらずに終ってしまう。「その日に決められたスペースだけを磨きこむ」のでなければダメである。
はじめのうちは、この要領が分からず、磨くどころか、〝簡単に拭く〟程度で〝もう十分だ〟と思いこむ危険がある。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
「範囲を決めてそれ以外はやらない」ということと、「簡単に拭くのではなく、磨き込む」のが特徴です。
私は、毎朝、6時30分から仕事が始まりますので、そこから1時間環境整備を始めます。最初の15分は、前日の仕事の後片づけから始めます。
デスクの上には、前日の執筆をしていた状態が展開しているので、開かれた参考書籍や資料を確認しながら、片づけていきます。パソコンの中も、確認をした上で一旦ファイルを閉じます。
それから、埃取り、デスクの磨き込み、範囲を決めての床の磨き込みをしていきますが、雑巾で拭き上げていく中で、心が平静になり今日やるべき仕事が明確になっていきます。
雑念さえも、取り除かれていくようです。その中で、インスピレーションを受けることも多いのでメモ帳を用意しておきます。
環境整備が終わると、頭の中がスッキリとして自然体で仕事に取り掛かることができます。
3ヶ月過ぎたあたりから効果が現れる
環境整備の実践を一倉先生の言葉を引用しながら語ってきましたが、いかがでしたか?まずは実践する前に心構えを確認し、いらないものは捨て、いるものは場所と位置を決めていきます。
そして、会社が続く限り、毎日、就業時間内で、1時間を環境整備に当てるのです。これが実践できれば、導入を決断した社長自身は最強であり続け、その社長の姿勢を見て社員もまた最強になっていきます。
環境整備は、実践し続けなければ、その威力やすごさを感じることはできません。得てして私たちは知識が多くなると、頭で考えて、ビジネスを構築しがちです。
しかし、環境整備という実践を通すことで、お客様の心を知ることができ、どのような手を打つべきなのかがわかるのです。
個人差はありますが、早ければ1ヶ月で、平均すると3ヶ月を過ぎたあたりから効果が現れてきます。
1ヶ月で環境整備のやり方が身に付いていきます。2ヶ月を過ぎると、使わないもの、捨てられなかったもの、いらないもの、汚れや埃も取り除かれます。空間にスッキリ感が出てきます。3ヶ月以降は、人格が向上するという効果が出てきます。
※しっかりまず整理すること。整頓すること。これができたら維持するのみ。
まずは、3ヶ月の計画を立てて、実行に移してください。重要なのは、最初の1週間です。無理せず決めた範囲以内を行うこととして、1日の成果を上げることに集中してください。
環境整備を会社に導入するのが、ハードルが高いと感じる方は、まず3日間集中して自室の環境整備を徹底的にやってみてください。
※整理と整頓を集中的に行う。
環境の変化と心の変化を体験できて、環境整備に確信が持てるはずです。
御子息の一倉健二さんとの対談(第5章)にも収録されていますが、一倉先生が会社に入った時にどこを一番重点的にチェックしたのかを聞いてみました。
トイレなのか床なのか、窓ガラスなのか、個人的にとても興味がありましたが、答えは「掃除用具」でした。
これには、なるほど、と唸るしかありませんでした。
掃除用具がしっかりと揃っているか、どれほど手入れをして清潔にしているかで、環境整備の姿勢がわかりますものね。
伊那食品工業の塚越会長も環境整備を徹底している大変素晴らしい方ですが、会社として、掃除用具は何でも揃えておくことを強く勧めています。
※さらに買い揃える。
会社で環境整備を進めていくと、社員が自発的に掃除をし始めるそうです。その時に掃除用具がなければできないので、会社ができることは、掃除に関する用具は何でも揃えておくことだと言っています。社員にもどんどん買うように勧めているそうです。
※パートはそう見えないが、、
最も重要な環境整備に使う掃除用具にかかる費用は、経費で落ちますが、考え方としてコストではなく投資ですからね。
伊那食品工業のさらに面白いのは、会社の掃除用具は自由に自宅に持って帰って使っていいそうです。これには驚きました。社員に貸し出しをしているのです。
※社員に貸出する。
私自身、会社の環境整備の指導をする時に、社員一人ひとりの部屋の環境整備の重要さを説いております。
その理由は、本当の意味での会社発展の循環を作るためには、社員それぞれのプライベート生活の充実も大切だからです。会社の掃除道具を積極的に貸し出す会社は珍しいですし、素晴らしいことだと思います。
これを破ると、いつまでたっても効果はあがらずに
一倉定〈いちくらさだむ〉1918(大正7)年、群馬県生まれ。
36年、旧制前橋中学校(現前橋高校)を卒業後、中島飛行機(生産技術係長)、富士機械(資材課長)、日本能率協会などを経て、63年、経営コンサルタントとして独立。
会社の経営は社長次第という信念から、社長だけを対象に指導。生涯顧問契約をせず、生前、指導した会社は大中小1万社を超える。99年逝去(81歳)。
「会社は絶対に潰させない!」という信念を貫き、理論遊戯を嫌い、徹底した現場主義から顧客第一主義を掲げる。
一倉式環境整備と経営計画書を中心に、社長の心に意識革新を起こし売上向上を成し遂げる。
時には社長を厳しく叱りつけ、灰皿が飛ぶこともあったが、倒産寸前の会社を建て直すために社長とともに昼夜を問わず金策に走った。
その人柄から多くの経営者が生涯の師と仰ぎ「社長の教祖」と呼ばれる。
門下生に、ユニ・チャーム創業者・高原慶一朗氏、ドトールコーヒー創業者・鳥羽博道氏、トステム(現LIXIL)創業者・潮田健次郎氏、アイリスオーヤマ・大山健太郎会長、石井食品・石井健太郎会長などの経営者が名を連ねる。
代表作に、『一倉定の社長学』シリーズ全10巻(日本経営合理化協会出版局)、半世紀を超えて復刻された名著『マネジメントへの挑戦』『ゆがめられた目標管理』『あなたの会社は原価計算で損をする』(以上、日経BP)がある。
特別対談偉大なる親父・一倉定本書を発刊するにあたり、特別対談として一倉定先生のご子息であられる次男、一倉健二氏にお話を伺いました。
対談は一倉健二氏の要望で、一倉定先生が社長学シリーズの講座やプライベートでも愛用されていたパレスホテル東京にて行われました。
よく晴れた爽やかな日に、健二さんは、一倉先生が『一倉定の経営心得』に掲載されているお写真のときに着られていた着物を仕立て直した羽織りものを召されていらっしゃいました。
その佇まいは、まさに一倉定先生のようでした。
対談では、健二さんにしか語れない「偉大な親父・一倉定」というテーマでお話しいただきました。
コメント