MENU

第4章 振り返りミーティングはこう進める

職場目標の振り返りミーティングを開く第2章と第3章ではチャレンジ目標の流れに沿ってPlanとDoを説明した。

この章では残りのSeeの推進方法と留意点を解説する。

Seeは1年間、もしくは6ヶ月間の活動の総括であり、職場目標と個人目標のそれぞれに対して、振り返りミーティングを実施する。

職場目標の振り返りミーティングの目的は、今期の成果の共有化と来期に向けた課題の明確化である。

ミーティングは次の図表「職場目標の成果と課題シート」に沿って行うが、リーダーの事前準備が不可欠だ。

リーダーはミーティングに先立って、シートの項目ごとに、自分なりの考えを整理し、用紙に記入する。

そしてミーティングでは、リーダーの思いが記された用紙をメンバーに配布して、リーダーとメンバー間で、あるいはメンバー間で、感じ方や捉え方にズレがないかどうかを確認し合うのである。

シートの項目はすべて相互に関連した事項であり、バラバラに検討したのでは意味がない。

ミーティングでは1つの流れとして考える。

たとえば、前図の職場目標Aを例にとると、「難易度の修正の有無」の検討→「達成度」の確定→「なぜその達成度になったのか?」の検討→「来期の課題」の明確化、というストーリーの組み立てが必要だ。

達成度を確定するために難易度を見直そう職場目標の達成度は、期初に設定した達成基準に照らして測定する。

予定通りの達成であれば「満足水準」の達成度であり、大幅にオーバーすれば「卓越水準」である。

未達成の場合は、下回り方によって「最低条件クリア水準」、もしくは「大不満水準」というように区分する。

このとき注意が必要なのが難易度の取り扱いである。

期初にはギリギリ背伸びした難易度の高い目標を設定したが、その難易度が当初の想定通りのものであったかどうか。

そこを検討することが大切である。

もし、想定外の要因があるならば、難易度を修正したうえで達成度を測定する。

一般的に見られる想定外の要因は2つあり、1つは環境の変化である。

たとえば、大口客先が財テクに失敗し、あおりを受けて受注が半減したとしよう。

それは想定外の出来事で、かつ職場の総力をもってしても解決困難な事態であった。

そう判断できるなら、難易度を修正をしたうえで達成度を測定するのが、正しい評価のやり方である。

その場合は上位者や関連部署にも判断を求めることが必要だ。

2つ目は、クリエイティブ型の目標によく見られる「やってみたら意外と難しく、予定の何倍もの時間を費やした」という類いの要因である。

これもまた、環境変化の場合と同じように、難易度を修正するのが妥当である。

もちろん、思わぬ特需による売上増加など、目標達成が著しく容易になるようなことがあったときも、難易度の修正が必要である。

なぜ達成できたのか?できなかったのか?職場目標の振り返りは、達成度だけではなく、原因把握も重要である。

来期の目標設定や達成手段の材料になるからだ。

その際にはダメだった点だけでなく、良かった点の検討も忘れずに行うこと。

目標が未達の場合は、みんなの関心が未達になった理由にのみに集中し、有効だった行動の存在を忘れてしまう。

また、目標が達成できた場合でも、本来は「なぜうまくいったのか」という観点での振り返りが必要なのだが、達成の喜びに溺れてしまい、その確認が疎かになりがちだ。

せっかく振り返りをするのだから、このような状態で終わらせるのはもったいない。

達成、未達成にかかわらず、必ず何か意味ある行動があったはずである。

それらを拾い出し、その強化策を来期の目標達成手段に組み入れる。

そういう着眼点を持つことが、より充実した来期プランを作成するためのコツである。

チームワークのあり方も振り返る達成できた・できなかったの原因は、チームワークという観点からも検討する。

チームワークはメンバー間での情報や思いの共有によって促進されるものであり、そうしたコミュニケーションがうまく行われたのかどうか、みんなで確認し合うことが大切だ。

ナレッジ情報の共有化は十分だったのか。

ストロークのキャッチボールなど、人間関係円滑化のコミュニケーションはどうだったのか。

そういういくつかの質問項目を手掛かりに、みんなの感じ方や問題意識をすり合わせ、最後は「じゃあ、来期はこうしよう」とリーダーが締めくくり、このテーマに関する話し合いは終了する。

職場目標以外の仕事の成果職場の成果は、期初に設定した目標だけとは限らない。

他にも成果があるかもしれない。

そういう切り口で、自分たちの仕事を振り返ることも必要だ。

それはメンバーのモチベーションのみならず、職場の存在価値の他部署へのアピール材料づくりとしても必要な行為である。

その際の着眼点の1つは、職場目標の副次的効果に着目することだ。

たとえば、以下のような事例がある。

ある食品会社で、北海道を担当する営業部隊の人たちが、縮小するマーケットに何とか歯止めを掛けて、売上目標を達成する方法はないものかと真剣に考えた。

みんなで知恵を出し合い、試行錯誤の末に地域限定の新商品の開発に成功した。

その苦労話と売れ行きが社内報に掲載され、「北海道であんなに頑張っているのだから、おれたちも……」と多くの人たちが刺激を受けて発奮した。

これは売上目標の達成に付随した副次的効果であり、職場の仕事の成果である。

もう1つの着眼点は、職場の貢献領域一覧表の中で、目標に設定しなかった業務に関する遂行結果である。

貢献領域一覧表にリストアップした項目は、きちんとやり切って当たり前の仕事であるが、それらの中でも、部門経営や会社全体に顕著な貢献ありと認められるものは、職場の成果に追加する。

もちろん、その要因の分析も行う。

ミーティングの成果を来期につなぐなぜ達成できたのか・できなかったのかを分析する目的は、来期の活動へ反映するためである。

要因のうちのどの部分をどのように来期につなぐのか。

それをみんなで考えて合意する。

それが、職場目標の振り返りミーティングの最終的なアウトプットである。

たとえば、ある営業部門では、振り返りの結果にもとづいて、「どんな些細なことでも、必ず誰かに語ってみよう」という来期の職場課題をみんなで合意した。

背景はこうである。

営業マンのC君が客先で、「最近、会社の社員がたくさん辞めている」という噂話を小耳に挟んだが、「まさか、あの会社に限っては……」、「当社とは直接取引のない会社だし……」と軽く考えて誰にも話をしなかった。

ところが噂は本当で、会社の経営は悪化して、取引のあった商社は売上が激減し、商社に物を納めていたメーカーもあおりを受けた。

負の連鎖はそれにとどまらず、さらに拡大し、メーカーと緊密な取引関係にあった中小企業が倒産した。

C君の同僚の営業マンがその中小企業の担当者であり、彼の売上目標は未達に終わり、それが課の目標達成の足かせとなってしまったのだ。

このケースの教訓は「情報を一人で判断しないこと」であり、それは来期以降の活動においてもみんなが意識すべき行動である。

個人目標の振り返りを進める職場目標の振り返りミーティングが終わったら、次は個人の成果確認ミーティングの準備に入る。

それは以下の6つの内容が盛り込まれた「個人の成果確認シート」の記入である。

チャレンジ目標の難易度の修正の有無チャレンジ目標の達成度なぜ、その達成度になったのか?目標以外の仕事の成果来期の課題自己成長の手応え〜は、職場目標の振り返りミーティングで説明したものと基本的に同じであり、記入目的は来期の個人目標づくりにつなげることである。

これらの項目はすでに多くの会社が採り入れている個人の成果確認の項目であり(が欠けている場合もあるかもしれないが……)、決して目新しいものではない。

本書の提唱する成果確認シートの特徴は、「自己成長の手応え」にある。

これは、Doの場面で体験した、自分の成長を促進したと思われる出来事を確認し、来期の能力開発プランにつなぐ作業である。

なぜ、成長の手応えの確認が必要なのか?個人の成果確認ミーティングで成長の手応えの確認が必要なのは、人は自分が成長しているという手応えを感じれば、仕事に対して前向きな気持ちになれるからである。

MBOSは内発的動機づけ(自分自身で自分のヤル気を刺激すること)を重視したマネジメントであり、その実践はチャレンジ目標のPlan→Do→Seeのいずれの場面においても必要である。

See(振り返り)においては、成長の手応えの確認がそれに該当する。

アンケート調査などでは、「働きがいとは何か」という問いかけに、圧倒的多数の人が「自己成長」と答える。

これは、人が成長欲求を持っている証しである。

その成長欲求をもっともっと自ら刺激してほしい。

そういう願いを込めて、期末の「仕事の振り返り用紙」の中に、能力開発やキャリア開発の欄を設けている会社もある。

筆者はそれをさらに進めて、各メンバーが成長欲求を刺激するような自問自答の場や、グループでの話し合いの場を設けることを提案したい。

成果確認シートの成長の手応え欄への記入はメモ程度のもので構わない。

この1年間(もしくは6ヶ月間)を振り返り、自己成長の手応えを感じた出来事を時系列に沿って簡単に記述する。

記入しながら、自分の成長ぶりを確認するのである。

成長とは何か?成長とは有能感の獲得である成果確認シートに記入しているうちに、「成長とはいったい何なのか?」、あるいは「どんな切り口で成長を捉えたらいいのだろう?」という疑問が湧いてくるかもしれない。

何をもって成長とするのかは人それぞれであり、絶対的な正解は存在しないが、筆者は「有能感」という概念で成長を捉えている。

有能感とは、「自分は仕事をうまくやれる力を持っている」という自分に対する自信である。

「失敗の繰り返しがなくなった」、「障害もたくさんあったが、我ながらうまく切り抜けたものだ。

もう大丈夫だ」、「まったく新しいことへのチャレンジで、ものすごく不安であったが、何とかそれを成し遂げた。

次の仕事が待ち遠しい」これらはみな有能感の発露であり、この種の思いが自然と湧き出てくる瞬間、それが成長の実感である。

有能感は仕事の面白さがつれてくる有能感を手に入れるためには、仕事の面白さを感じながら仕事に打ち込むのがベストである。

第3章で説明したように、「気づき、達成感、フロー体験」などの仕事の面白さを経験した人たちは、面白さに動機づけられて、さらなる課題にチャレンジする。

チャレンジは苦しいが、同時に新たな面白さもつれてくる。

面白いからまたチャレンジする。

この繰り返しのプロセスで、人々は仕事に必要な知識を学ぶ。

スキルにも磨きをかけ、同時に有能感も獲得する。

このように、仕事の面白さは有能感の促進剤であり、日々の仕事の中で小さな面白さをたくさん体験することが、有能感の獲得に向けた出発点なのである。

もし、成果確認シートの記入に際し、「成長の実感と言われても、そんな大袈裟な体験はなかったが……」と思ったときは、「あっ、そうか」という小さな気づきや、「比較的仕事に乗れていたなぁ」と感じられたときの出来事をメモしてほしい。

有能感のレベルアップ筆者は、常々、「なぜ、美容師は、あんなに必死になって勉強するのだろうか」と疑問に思っていた。

朝は始業前の8時から夜は閉店後の24時頃まで、実技訓練を自分に課し、一心不乱に技能習得に励んでいる。

休日は休日で、講習会だ、商品勉強会だ、技術発表会だとさまざまな行事が目白押しである。

同年代の若者がアフターファイブで浮かれていても、羨ましさをグッと抑えて勉強する。

何が彼らの原動力になっているのだろうか。

経験者によれば、根底には「美容師は自分の腕だけが頼りだから……」という職人独特の「技能習得の努力」に対する納得感と覚悟を持っているという。

また、「他の仲間も一所懸命やっているのだから負けられない」という競争心も無視できない。

しかし、それはベースの話であり、脱落しないための最低条件である。

こうまでも彼らが頑張れるのは、一人前の美容師になるまでのキャリアの形成目標が明確であり、かなりの確率で「努力すれば達成できる」という予感があるからだ。

達成の予感を抱く美容師はキャリアアップ目標をステップ・バイ・ステップで設定し、上述のごとくの努力をする。

それは見方を変えれば、有能感のレベルアップの旅路である。

たとえば、入社したての見習い美容師がシャンプーの基本技能をマスターした。

それは1つの成長であり、嬉しい体験に違いない。

しかし、喜びも束の間で、すぐまた次の成長欲求が芽生えてくる。

お客様の頭皮や髪質に応じたシャンプー技術の習得である。

これは難度の高い目標で、一朝一夕の習得は難しい。

何百人、何千人という単位で、実務経験しなければ、身につかない能力である。

しかも、経験だけでなく、研究が必要だ。

ときには、失敗し、お客様からも上司からも叱られる。

それでもめげずに努力して、数年後には多くの指名客を獲得するまでにシャンプーが上達し、心の中には「自分は、どんなタイプのお客様にも対応できるシャンプー技術を持っている」という有能感が湧いてくる。

次はスタイリスト(ヘアカットの担当)へのチャレンジだ。

シャンプーとはまったく違う取り組みで、新たな努力が待っている。

友達におカネを払ってモデルを頼み、ヘアカットを練習する。

そんな努力の甲斐あって、スタイリストに採用された。

一人前の美容師として、周囲から認知された瞬間である。

承認欲求が満たされ、自己成長の手応えもズシンと感じる。

美容師にとってはもの凄く嬉しい体験である。

しかし、その嬉しさは「スタイリストに採用された」という目標達成の喜びであり、その段階ではまだ「スタイリストとしての有能感」を実感するのは難しい。

有能感の獲得には、次なる目標のトップ・スタイリストへの挑戦プロセスで、カット技術の向上に向け、再びコツコツと地道な努力をやり続けることが必要だ。

このように、キャリアアップ目標を追いかけるプロセスで、レベルアップの伴った「新たな種類の有能感」を獲得する。

それが成長の手応えの1つの捉え方である。

大きな成功体験がもたらす自分の可能性の確信前述のように、有能感の獲得には、何よりも日々の小さな努力の積み重ねが大切だが、より強い有能感を得るためには、意図して仕掛ける「大きな成功体験」が必要だ。

それは、自分の意思が相当程度込められた「極限まで背伸びした目標」を意欲的に追いかけて、目標達成を手に入れる。

あるいは、いいところまで追い詰めるという体験である。

トップ・スタイリストを目指す美容師が、業界主催の技術発表会にチャレンジする。

目標は優勝である。

仕事の合間を縫って、新しいヘアスタイルの考案に向け、彼女をモデルに何度も何度も試行錯誤を繰り返す。

「いい加減にしてよ!」と膨れっ面で睨まれても、拝み倒して工夫を続けた結果、発表会で入賞する。

しかし、優勝できなかった悔しさがこみ上げて、とても素直には喜べない。

悔しさをバネに再度チャレンジし、ついには優勝を勝ち取った。

その瞬間の彼の心模様は優勝の喜びもさることながら、「自分にはカット技術だけでなく、デザイン・センスもありそうだ」という自分の新たな可能性に対する確信だったという。

このような大きな成功体験をいくつか経験すると、「自分は無限に近い可能性を持っている」という感情が芽生えてくる。

もちろん、連戦連勝は考えにくく、ときには失敗があったり、結果が出なかったりで、落ち込んでしまうこともあるだろう。

それを何とか堪えて、チャレンジを続行し、再び新たな成功体験をつかみ取る。

つかみ取るたびに、自分の可能性に対する確信は深まり、「そんなに可能性があるならば、もっともっと力を磨き、自分らしさを極めたい」という思いを募らせる。

それは単なるキャリアアップを超えた新たな次元の成長欲求の出現であり、その状態を筆者は「自己実現欲求の喚起」と呼んでいる。

このような「最高の自分らしさを極めたい」という自己成長の追求の世界に到達したかどうか。

そいう切り口で自分の成長度合いを確認するのが、成長の手応えの2つ目の捉え方なのである。

個人の成果確認ミーティング

ここまで、成果確認シートの記入に時間を割いてきた。

次は記入したシートをもとに個人の成果確認ミーティングの実施である。

これも、基本的にはオープン展開が望ましい。

進め方は、まず、リーダー自身の成果確認シートの内容をみんなで検討する。

リーダーが自ら手本となることで、ミーティングの望ましい雰囲気や規範をメンバーに伝えるためである。

その際に、リーダーはできる限り、包み隠さず、自分の内面心理も含めて、仕事への取り組み結果をメンバーに説明する。

そうすれば、メンバーからのアドバイスも得やすくなる。

これはかなり勇気のいることで、最初は抵抗感があるかもしれない。

その払拭にはヒューマンスキル・トレーニングなどが有効だが、いたずらに受講を焦ることはない。

今、自分にできる精一杯の自己開示をすることだ。

リーダーの真摯な姿勢は必ずメンバーに伝わって、それが今後のミーティングの規範となる。

このようなリーダーの率先垂範は、成果確認ミーティングにおけるリーダーの役割の1つである。

ミーティング終了後、リーダーはメンバーから得られたアドバイスなどを参考に、もう一度、自分の仕事の成果を整理して、職場の成果と併せて、上位者(課長の場合には部長)が主催する「上位者グループの成果確認ミーティング」に参加することになる。

個人とチームの両方の動機づけリーダーの振り返りに引き続き、メンバーの成果確認ミーティングを実施する。

この場面におけるリーダーの役割は動機づけである。

それも、「発表者」と「それを検討するチーム」との両方に対する動機づけが必要だ。

たとえば、成果確認シートの「なぜ、その達成度になったのか?」の検討場面である。

これはすでに職場目標の振り返りの項で説明したように、マイナス要因への対応策のみならず、プラス要因の抽出とその強化策もしっかり検討することが大切である。

リーダーは、「うまくいったことを来期につなげるために、どんな工夫をしたらいいのだろうか?」と良い面の強化に関する質問を、発表者だけでなくメンバー全員に投げかける。

あるいは、「彼の強みをもっと上手に使う方法はないのだろうか?」とみんなに質問する。

このようなリーダーの質問は、発表者の動機づけだけでなく、チームの活性化も促すだろう。

また、成果確認シートの「自己成長の手応え」の議論もみんなでワイワイとやるのが基本であり、その際にもリーダーは、「その成功事例は他の人も応用できそうなので、もう少し、詳しく話してくれないか」と発表者に発言を促す。

それに呼応して、他のメンバーが「オレの目標達成にも役立ちそうなアイデアだ」と反応し、「今度は私の失敗体験を披露します」と女性社員が発言して、ミーティングの場が盛り上がる。

このようなリーダーのミーティングの進め方が、発表者とチームの両方に対する動機づけである。

来期以降にどうつなげるか個人の成果確認ミーティングが終了したら、リーダーもメンバーも、次は来期の自分の能力開発プランの作成に着手する。

最近では企業が能力評価制度を整備して、それとの連動で能力開発やキャリア開発プランの立案を後押ししたり、業績だけでなく、能力評価の結果も人事配置や処遇に反映するケースも稀ではない。

それは企業経営に必要な制度であり、働く人々の成長したいという気持ちの刺激剤としての期待も込められた仕組みである。

しかし、そこでアウトプットされた能力開発プランの中身を見てみると、そのほとんどが専門知識の習得に関するものになっている。

あるいは、「TOEIC650点以上」というような資格取得の項目が上位を占めている。

これで、いいのだろうか?確かに、ビジネス能力のベースとなるのは専門知識であり、能力開発プランの中に、そういう項目がリストアップされるのは肯ける。

しかし同時に、「それはちょっと違うようねぇ〜」という違和感が残る。

仕事の種類によりけりだが、会社の業績を左右するビジネス能力のかなりの部分は「働く人々の経験能力」に支えられている。

経験能力とは、成功体験や失敗体験の蓄積がもたらす「知恵」とか「ノウハウ」と呼ばれているものであり、経験しない限り絶対に身につかない能力である。

この経験能力に磨きをかけることは働く人々にとって不可欠の要件であり、能力開発項目にリストアップされて当然なのだが、現実にはこの種の項目を欠いた能力開発プランになっている。

これが、筆者の抱く違和感である。

どうすれば、経験能力は開発できるのか?経験能力の開発はただ1つ、経験することである。

では、どんな経験が必要なのか。

それは「仕事の修羅場体験」だ。

仕事の修羅場とは「チャレンジ目標のPlan→Do→See」の展開に他ならず、目標達成に向けてどのような工夫や努力を仕掛けるのか。

それを考え、やり切って、「こういうときには、このようなやり方が有効だ」という感触を手に入れる。

それが経験能力の開発というものである。

そうすると、「経験能力の開発=チャレンジ目標の達成手段の実践」という関係式が成立する。

この考え方にもとづいて作表したのが、次の図表「来期の能力開発プラン」である。

能力開発の3つの場能力開発プランというと、何か大袈裟な響きがあるが、本書が提唱する「来期の能力開発プラン」はいたってシンプルで、日常業務に密着したものである。

では、前の図表の各欄を見ていこう。

各欄は能力開発の3つの場の活用という視点で作成されている。

3つとは、「MBOSの取り組みを中心とする実務の場」と「会社から提供されるOffJT(研修)の場」、それと「プライベート時間の活用という場」である。

経験能力の開発はこれら3つの場をうまく組み合わせるのがコツである。

もちろんメインは実務の場であり、面積も他の2つとはくらべものにならないほど大きいとイメージしてほしい。

「MBOSの取り組みを中心とする実務の場」で取り組む内容は、個人の成果確認シートの来期の課題をベースに、ミーティングで他者からもらったアドバイスなども織り交ぜて、「来期はこれを徹底的にやってみよう」という自分の思いを込めた行動を書く。

それはそのまま、来期のMBOSの目標達成手段の骨子として使えるはずのものである。

能力開発プランの「会社から提供されるOffJT(研修)の場」と「プライベート時間の活用という場」の欄は、実務の場で開発する能力を補完する内容を中心に考える。

すでに述べたように、チャレンジ目標という修羅場を乗り切るためのベースには専門知識が必要であり、そこに自信が持てなければ、大急ぎで習得しなければならない。

習得方法は座学であり、勉強会への参加や各種研修などの受講が欠かせない。

あるいは、ヒューマンスキルもMBOSの実務展開だけでは熟達が難しく、疑似体験やトレーニングが必要だ。

そのような仕事の場を離れた能力開発の一部は、会社が提供してくれるであろう。

それは積極的に活用したらよい。

しかし、それだけでは能力開発が追いつかない。

不足の部分はプライベートの時間を使い、自腹を切って補充する。

また、プライベート時間を使わざるを得ない能力開発も存在する。

たとえば、専門書の読み込みや土日祝日のマーケットリサーチなどである。

それらを計画的にコツコツとやり続けること。

そういう能力開発への取り組み姿勢が、高度化した仕事に対応するためには不可欠なのである。

会社への貢献とキャリア・ビジョンとの統合能力開発プランを立案するとき、もう1つ、留意してほしいことがある。

「会社への貢献」と「自分のキャリア・ビジョン」との統合である。

自分が決めた能力開発プランだという思いを強く持つためには自分のキャリア・ビジョンの実現に必要な能力開発と、業績向上のために会社が自分に要求している能力開発とをうまく融合させることが必要だ。

なかには、自分の考えが定まらず、「とても将来のことなど描けない」という人もいるかもしれない。

悩みながら模索しているのだから、それもやむを得ないが、その場合でも「今の仕事を続けるとして、3年後にはこんな状態になっていたい」という絵は描いてみることが必要なのではないか。

そこから悩みの解消のヒントが生まれるかもしれないし、やらされ感を薄めるための若干の効果が期待できるからである。

最後はお祭りで締めくくるチャレンジ目標のPlan→Do→SeeというMBOSの実務は「けじめの儀式」で締めくくる。

それを筆者は「お祭り」と呼んでいる。

お祭りは2つ必要であり、その1つは「能力開発プランの発表会」である。

各人が立案した能力開発プランの内容をみんなに語ってみる。

それは来期に向けた自分の決意であり、その決意を一緒に働く人たちに宣言すると同時に、自分にも言い聞かす行為である。

これを個人面接でやるのも選択の1つだが、やはりお祭り的に、みんなでワイワイと拍手を交えてけじめの儀式を執り行う。

それが、オープン展開のMBOSにふさわしいのではなかろうか。

もう1つのお祭りは、「打ち上げ会」である。

ただ、食べて飲むだけでなく、みんなで楽しむアトラクションを必ず用意することが肝要だ。

ボウリング大会が組み込まれた、ある会社の打ち上げ会に招待されたことがある。

筆者も社員のほとんども、何十年ぶりかでボールを握り、滑ったり転んだり、悪戦苦闘の連続だった。

でも、終わったときには「すっごく、楽しかったねぇ!」とみんなの笑顔で会場が満たされた。

幹事を務めた社員の満足げな表情が、今でもまぶたに残っている。

人事評価とMBOSの関係はどうあるべきか?人事評価とMBOSの統合人事評価とMBOSとの関係はどうあるべきか。

このテーマに関する筆者の見解を述べてみたい。

まず、「両者は結合すべきか、それとも分離すべきなのか?」と聞かれたら、躊躇なく、「結合すべきだ」と答える。

理由は2つある。

1つは、人事評価の主たる材料は仕事の成果であり、成果のかなりの部分はMBOSの活動結果で説明できるからだ。

2つ目の理由は、働く人々のモチベーションに関することである。

ある会社では、第1章で述べた杓子定規な成果主義の弊害への対策として、MBOSと人事評価との抱き合わせ運用をやめて、両者の分離実施に踏み切った。

きっとうまくいくと思いきや、「やっぱり、MBOSの活動結果は人事評価に反映してほしい。

そうでなければ、ヤル気が出ない」と訴える人たちが続出した。

筆者もそう思う。

懸命に仕事に打ち込んで成果を上げた人ほど、成果の人事評価への反映を望むものである。

それなのに、「そういうことと人事評価とは無関係」。

これではヤル気が失せて当然だ。

意欲的な働きぶりは会社の宝であり、その人たちのモチベーションアップのためにはMBOSと人事評価との結合が不可欠なのである。

成果主義とどこが違うのか?それでは、第1章で言っていたことと違うじゃないか。

そんな声が聞こえてくる。

筆者が主張するのは、人事評価とMBOSとの〝緩やかな〟結合である。

そして、何よりも決定的なのは、人事評価と向き合う際の根本姿勢の違いである。

だから、成果主義とは似て非なるもの、なのだ。

クロネコヤマトの創始者である小倉昌男(2005年没)は、「私が、42年に及ぶヤマト運輸の勤務のなかで、つくらねばならないと思いながら完成し得なかったものがある。

人事考課の制度である」(『小倉昌男経営学』/小倉昌男/日経BP社/1999年)と述べている。

それほど難しいのが人事評価であり、難しさの根源的理由は評価の公正性の担保の仕方が人類5000年の叡智をもってしてもいまだ見つからない、というところにある。

もしも、仕事が陸上競技の100メートル競走のように同一条件のもとで行われるならば、人事評価はどんなにか楽なことであろう。

ストップウォッチで測定すればよいからだ。

しかし、仕事の成果測定はそうはいかない。

かなりの部分を人間の主観に頼らざるを得ない作業であり、あえて言えば、フィギュア・スケートの採点をするようなものであろう。

それなのに、強引に100メートル競走の客観的な測定方法を人事評価に持ち込む。

これが杓子定規な成果主義の本質的な特徴であり、それがあるから「人事評価とMBOSとのタイトな結合」という論理が成立するのである。

筆者はその本質部分を否定して、緩やかな結合方法を提唱する。

重要なのは「公正な主観」人事評価は「上司の下す意思決定」であり、意思決定の公正性は「上司の公正な主観」で担保する。

これが人事評価と向き合うときの基本スタンスである。

筆者は、人事評価はダイヤモンドの鑑定と相通ずるものがあると考える。

ダイヤモンドは、カラット(希少価値としての「重さ」)、カット(輝きの美しさを決定する「研磨具合」)、カラー(美しく輝くための「色味のグレード」)、クラリティ(透明度やキズの有無)という4つの評価基準を使って鑑定される。

鑑定に際しては、重さであるカラットは精密機械を用いて測定するが、それ以外の評価要素の測定には科学的な検査方法が適用できず、頼りになるのは鑑定士の「目」と「勘」と「主観」である。

そのため、鑑定士や鑑定機関によって評価が大幅に違うことも稀ではない。

だから、顧客は信頼できる鑑定機関の発行する鑑定書を求める。

これは、サイエンスというよりはハートの世界であり、アートと呼ぶべき作業である。

人事評価にも、このダイヤモンド鑑定の考え方の適用が必要ではなかろうか。

科学的に測定可能なものは人事評価ルールとして作成し(そういうものがあるかないかは疑問だが……)、そうでないものは評価者の全身全霊に委ねるのである。

これを世間では、人徳や人間力による「納得」と呼び、それが公正な主観を担保するための重要な寄りどころになるのである。

3つの緩やかさ従来の成果主義は、人事評価とMBOSとの結合をあまりにもタイトに追求し過ぎたきらいがある。

相当の権限を持つ事業部の統括マネジャークラスならまだしも、下位階層にまでタイトな結合を要求した。

その結果、諸々の問題が発生しているのは第1章で述べた通りである。

その反省を踏まえて、筆者は緩やかな結合を提唱する。

「緩やか」とは何なのか。

それは、3つの意味を含んでいる。

1つは、チャレンジ目標の達成度だけではなく、「達成プロセスにおける努力度」も評価対象に組み入れることである。

とくに、下位階層には絶対に必要な措置だと考える。

2つは、目標達成度とプロセスの努力度の構成比率についての緩やかさである。

ポジションや状況、あるいは権限の大小にもよるが、構成比は一般的には半々程度が望ましいのではなかろうか。

そして、3つ目の緩やかな結合とは、「チャレンジ目標とそれ以外の業務とをどのような割合で人事評価に反映させるのか」という疑問に対する答えである。

人事評価の対象領域のすべてをチャレンジ目標として設定するのは不可能であり、必然的に目標にしなかった業務や、難易度は低くとも、自分の責任においてきちんと処理しなければならない仕事も存在するだろう。

さらには、チームワークへの貢献も仕事のうちであり、上級者になればなるほど人柄も大切で、それらの人事評価への組み入れも必要になるであろう。

以上のことを勘案するならば、やはりチャレンジ目標の人事評価への反映度は50%程度が妥当なのではないかと考える。

このような3つの緩やかさを採り入れた人事評価とMBOSとの結合ならば、働く人々の納得感が得られるし、やさしい目標を設定して会社を潰すという成果主義の弊害も、ある程度薄めることができるだろう。

ぜひ、そうあってほしいと願っている。

第4章のまとめチャレンジ目標のSeeとは、1年間(6ヶ月間)のMBOS活動の総括だ。

・オープン展開で、職場目標の振り返りミーティングと個人の成果確認ミーティングを実施する。

・ミーティングの目的は、「今期の成果の共有化」と「来期に向けた課題づくり」である。

職場目標の振り返りミーティングでは、目標ごとに、「目標の難易度の見直し→目標の達成度の確定→なぜ、その達成度になったのかの検討→来期の職場課題の明確化」というストーリで話し合う。

個人の成果確認ミーティングも職場目標の振り返りと同様の考え方で、自分の仕事の成果を確認し、来期の課題を考える。

本書では、上記に加えて、「自己成長の手応え」の振り返りを強く提唱する。

個人の成果確認ミーティングも、職場の振り返りと同様に、オープンシステムで実施する。

個人の成果確認ミーティングの結果にもとづいて、来期の自分の能力開発プランを作成する。

・「会社への貢献」と「自分のキャリア・ビジョンの実現」との統合を図ること。

ビジネスパーソンの最も重要な能力は、「経験能力(体験がもたらす知恵やノウハウ)」である。

・経験能力の開発とは、実務における、目標達成手段の立案とその完全遂行に他ならない。

チャレンジ目標のPlan→Do→SeeというMBOSの実務は「お祭り」で締めくくろう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次