4-1 原価計算と原価の関係を理解しよう製品原価の集計だけではない原価計算の広さを知ろう ■経営目標を達成するための情報提供をする原価計算 一般的に原価計算と言うと、製造業において製品を作るのにいくら費用がかかったかを計算することを意味します。いわゆる製品の製造原価を計算することです。 しかし、製造業だけが原価計算を行なうわけではありません。ソフトウェア開発会社では、開発ソフトの原価計算を行なって、ソフトウェア原価を計算します。建設会社では、ビルや住宅ごとに原価計算を行なって、建設原価を計算します。 最近では、上記のような原価計算ではなく、営業、人事総務、物流などの分野でも、原価計算を行なうようになっています。 たとえば、会社で行なっている会議の原価計算をして、会議費を把握し、無駄な会議の実態を明らかにして会議の効率化をはかったり、物流に要する費用を集計して物流費を明確にし、効率的な物流方法を考えたりする場合にも使います。新市場の開拓でさまざまな活動を行なうときに、そこに要した費用を集計して市場開拓費を把握するケースでも、原価計算は必要になります。いわゆるプロジェクト原価です。 このように原価計算を広くとらえれば、原価計算とは、「日々の経営活動を行なうことで発生する製品、サービス、業務などに要した費用を集計・管理し、経営目標を達成するために必要な情報提供を行なう手法である」と定義することができます。 ■ある目的で集計された「原価」と、単なる「費用」の違い 原価と費用はどのような違いがあるでしょうか。原価計算の定義で説明したように、製品、サービス、業務など、何かの目的ごとにまとめた対象について、それぞれで集計される費用が原価です。このような対象がない場合は、費用であっても、原価ではありません。
たとえば、製造業では、その集計対象は製品であり、工場で発生した費用を集計して、製品の製造原価を計算します。しかし、営業所や本社で発生した費用(販売費・一般管理費)は、製造原価には集計されません。よって、製品の製造原価の計算においては、販売費・一般管理費は原価ではありません。 ■販売費・一般管理費も取り入れて考える「総原価」 しかし、販売費・一般管理費も原価になるケースがあります。 1つは、総原価という考え方を取り入れた場合です(図 4-1)。この考え方は、販売価格の決定において、製造原価だけではなく、販売費・一般管理費を考慮します。 総原価は、工場で発生した原価の 3要素(材料費、労務費、経費)を、製品別に集計して製造原価を算出し、そこに販売費・一般管理費を加算して求めます。販売費・一般管理費は、製品ごとに集計するのではなく、半年とか 1年という期間で集計するので、期間原価(決めた期間の原価)と呼ばれます。 そして、総原価に営業利益を加算すると売上高になります。この考え方を、製品 1個当たりで考えると製品 1個当たりの総原価や販売価格になります。 総原価を計画値で集計すれば予定販売価格が推定できます。電力料金など、公共料金の決定の際に行なわれる手法(総括原価主義)です。総原価を集計対象にする場合は、販売費・一般管理費は原価なのです。 このほか、物流費や会議費のような業務にかかわる原価を計算するときは、販売費・一般管理費が主な集計対象になります。このような場合も、販売費・一般管理費は、費用かつ原価としての性格を持つのです。
■原価の種類にはさまざまなものがある 原価の種類を整理しておきましょう。原価計算の利用目的によって、いろいろな分類ができます。図 4-1を参照しながら読んでください。 ①費目別分類 すでに損益分岐点分析などで登場した材料費、労務費、経費は、費目別分類です。これは原価の 3要素として説明してきました。 材料費は、物を消費することで発生する原価です。労働力の投入によって発生する原価は、労務費です。それ以外は、経費です。 経費は、よく「必要経費」などと言われるものとは異なることに注意してください。必要経費は、「必要だから使う費用」程度の意味で使われていますが、原価計算における経費は、あくまでも原価の 3要素の1つとしての位置付けです。混乱しないように製造経費と呼んで、必要経費と区別する場合もあります。
経費の中には、工場の設備の減価償却費やリース料、地代家賃、水道光熱費などが含まれます。経費に属する費目で、近年増えているのが、外注加工費や業務委託費です。 ②製品とのかかわり度合いでの分類 原価は、製造直接費と製造間接費に分類されます。製造直接費は、直接材料費、直接労務費、直接経費に分類され、製造間接費は、間接材料費、間接労務費、間接経費に、さらに分類されます。 これは、製品などの集計の対象となるものと、直接、関係があるか否かで分かれます。 たとえば、缶詰を作るときを考えてみましょう。魚と缶の仕入原価は直接材料費、缶に材料を詰める作業をする担当者の人件費は直接労務費です。一方、缶詰工場の水道光熱費や工場設備の減価償却費などは、製造間接費(間接経費)になります。もし魚の加工を外部に委託していれば、その費用は、外注加工費という直接経費になります。 ③操業度(売上高、生産高など)との関連での分類 損益分岐点分析や変動損益計算書では欠くことのできない変動費、固定費は、操業度との関連で区別されます。 変動費は操業度に比例して発生し、固定費は操業度とは比例しません。固定費については、第 3章で紹介したような、営業所別の変動損益計算書を作成して業績管理を行なう場合は、個別固定費、共通固定費という分類が使われます。個別固定費は、部門管理者が、発生する金額をコントロールできるかどうかで、管理可能個別固定費と管理不能個別固定費に分類できます。 ④収益との対応関係に注目した分類 製造原価(工場部門で発生した原価で、製品とかかわらせて把握する原価)と期間原価(半期や 1年間などの期間で集計する原価)に分類されます。 製品の製造原価は、販売されると売上原価になります。販売されていないものは製品として在庫になります。在庫は、販売されたときに売上原価になります。このように製品の製造原価は、売上高との関係(売れたか売れなかったか)で、売上原価になるか在庫になるかが決まります(図 4-2)。
これに対して、販売費・一般管理費は、製品の売上高と明確な関係をつかみにくい原価です。売上高との個別対応ではなく、売上が上がった期間に発生した費用だと考えて、期間で対応させます。実際には、 1か月、四半期などの単位でとらえることが多いです。このような考え方を前提にしているので期間原価と呼ばれます。 管理会計では、販売費・一般管理費でも売上高との対応関係が明らかな場合は、期間原価としないで、変動費として売上高と直接対応させ、製品別の限界利益を計算する場合があります。「この商品の販売によって、このポイント販促費や支払販売手数料が発生した」と関連がハッキリしているケースです。このように、ケースバイケースで独自のルールを作ってよいのが、管理会計というものです。活用する人の考え方を経営管理に活かせますね。 ■原価にならない費用(非原価項目) 原価計算を行なう場合に、原価としない項目があります。非原価項目と呼ばれるものです。それは、以下のような項目です。
①経営目的に関連しない費用 経営活動に貢献していない遊休資産、未稼働の固定資産、投資目的で所有している不動産、有価証券などから発生する費用(減価償却費、管理費、租税公課など)。 ②財務関連費用 資金の調達によって発生する支払利息、支払割引料、株式や社債の発行費用などの財務費用。 ③異常な状態を原因とする価値の減少 火災、地震などでこうむった損失、リストラによって発生した一時的・多額の退職金、経済危機などが原因で発生した多額の貸倒損失など。 以上の費用や損失は、非原価項目として、原価計算の対象からはずします。注意すべき点は、管理会計では、業績管理に役立つなら原価の対象にするか否かは、管理会計を利用する人が決めるのが本来の姿であるということです。管理会計を考えるときは、利用目的にあった柔軟な発想が必要です。 ■原価計算を行なう目的を整理しよう 原価計算は、経営活動を行なっていく上で利用される手法です。管理会計を理解し業績管理で活用するため、基本は理解しておきましょう。 業績管理の視点で整理すると、以下のような目的が考えられます。 ①決算書の作成……当期、四半期の利益はいくらか 企業は、決算書を作成しなければなりません。決算書を作成するときに、製品在庫や製品の売上原価を計算する必要があります。製品の製造原価がわからなければ、これらを計算できません。利益の計算もできません。原価計算は、決算書を作成するために必要になります。 ②価格決定……製品をいくらで売るか 前出の図 4-1を見てください。製品の製造原価がわからないと、販売価格も決められません。販売価格が決まらなければ、営業活動もできません。 製造業はもちろん、建設業、ソフトウェア業などでは、原価を見積もって、価格を顧客に提案します。これは事後的な原価計算ではなく、事前の原価計算です。価格決定においては、原価の見積りが重要です。 ③原価管理……原価をどのような方法で、いくら下げられるか 原価計算の主要な目的です。原価を把握して、その内容を分析し、さらなる原価引下げの検討データを得ることが目的です。 たとえば、製造原価の1つの項目である材料費の増加は、製造原価をアップさせます。材料費は、材料単価 ×消費量で計算できます。材料費のアップがあった場合、材料単価がアップしたのか、消費量がアップしたのかという要素に分けて考えれば、材料費アップの原因がより具体的になり、対策を練ることも容易になります。 また、製品 1個当たりの単価や消費量の標準的な数値を決めておいて、製品の製造原価を計算し、実際の消費単価や消費量を事後的に計算して、その差を分析する標準原価計算や見積原価計算は、原価管理の代表的な手法です。 ④利益管理……変動損益計算書を活用する 第 2章、第 3章では、損益分岐点分析、必要売上高の算定、セールスミックス(コーヒーとケーキセットの組み合わせ販売)による販売計画の策定、変動損益計算書など、利益管理のための手法を紹介してきました。その中心は、変動損益計算書でした。製品の製造原価を変動費と固定費に分類して、変動費だけで製品の製造原価を計算する手法を、直接原価計算と言います。変動損益計算書は、直接原価計算による損益計算書を発展させた業績管理のためのツールなの
です。 ⑤短期的意思決定に必要な情報提供……原価割れの受注を受けるべきか、時給はいくらにすべきか 次期利益資金計画(予算編成)を行なう際には、いろいろなことを決める必要があります。製造原価を下回る受注を受けるべきか、時給をいくらにすべきか、値下げが可能か、などです。このような短期的な意思決定に必要な基礎データを提供するのも、原価計算の目的です。 1年以内の計画に反映される情報が中心なので、短期的という呼び方をしています。管理会計の面白さを感じる分野です。 ⑥戦略的意思決定に必要な情報……投資計画の採算 工場建設や店舗の出店計画などの戦略的な投資を決めるときに行なわれる計算です。このような戦略投資は、投資回収までに 5 ~ 10年必要なケースも多く、長期間にわたる予想とシミュレーションが必要になります。長期の予想では、フリーキャッシュフローを使います。 また、 M& A(合併・買収)を行なう際に、企業価値や株主価値を算定して、買収価額を決定する際にも使われます。 中長期にわたる条件を検討し、戦略的な事項を決定するので戦略的意思決定と呼ばれます。 ■管理会計の領域に入る原価計算 以上が、原価計算の目的です。 ①決算書作成、 ②価格決定、 ③原価管理までは、原価計算のイメージに近いと感じるのではないでしょうか。 これに対して、 ④利益管理、 ⑤短期的意思決定に必要な情報提供、 ⑥戦略的意思決定に必要な情報提供になると、原価計算というより、本来の管理会計の目的であると言ったほうが、イメージに合うのではないでしょうか。 管理会計は、業績管理に役立てることが重要な目的なので、広い意味で原価計算の領域と重なり合っています。あえて違いを指摘すれば、決算書の作成でしょう。これは財務会計の領域に入れて、それ以外を管理会計の領域と考えてもいいでしょう。 第 4章では原価計算のイメージが強い原価管理を取り上げて、管理会計に必要な原価部分をカバーします。特に本書は、管理会計の本なので、 ④利益管理を中心に、 ⑤短期的意思決定や ⑥戦略的意思決定に必要な情報提供の項目を取り上げていきます。
4-2 経営の流れと原価計算の位置付け製造業の原価計算を概観しよう ■原価計算は、費目別、部門別、製品別の 3つの段階で行なう 原価計算の本来の分野である製造業の原価計算を考えてみましょう。 製品を製造・販売すると、下図のような流れで、損益計算書及び貸借対照表とつながっています。
はじめに、直接製品にはかかわらなくても、会社経営に必要な部門があります。本社や営業所で発生した費用は、販売費・一般管理費として、発生した期間の費用(期間原価)になります。 工場で発生する費用は、通常、費目別計算、部門別計算、製品別計算という3つの集計が行なわれ、製品の製造原価が把握されます。 まず、費目別計算として、材料費、労務費、経費(原価の 3要素)に集計されます。これらの費用は、部門別計算を経て最終的に製品別に集計(これを製品別計算と言う)し、製品の製造原価が計算されます。 ■部門別計算を行なう理由 製品は、製造部門で加工・組立されるとともに、補助部門(修繕部や動力部や工場管理部など)から支援を受けています。そこで、各部門で発生したデータを把握し、部門管理者に情報を提供し、部門原価の管理を徹底する必要があります。すなわち部門別計算は、製造部門や補助部門という原価の発生場所ごとに原価を集計することです。 製造直接費は、製造の流れに沿って製造部門ごとに集計し、最終的に製品別に集計します。製造間接費は、製品との関係が不明確な費用なので、製品に直接集計(賦課すると言う)できません。そこで、「どの部門でどれだけの作業時間があったか」というように、作業時間などを基準にして、製造部門へ配賦し、さらに製造部門から製品に配賦されるという複雑な計算を通じて、製造原価に集計されていきます(図 4-3)。 ■製造原価と決算書の関係を理解しよう できあがったものは製品として販売されます。販売すると同時に、工場では次に出荷するときのために製品を作っています。 製造原価は、売上原価(販売されたもの)と製品(在庫として残ったもの)、仕掛品(未完成のもの)に振り分けられます。 仕掛品は未完成品ですから、製品(完成品)の原価と同じ額では不合理です。したがって、仕掛品は仕掛品として原価計算をするのです。最終的に、製品、仕掛品、未使用の材料は、在庫として貸借対照表のたな卸資産(在庫)に掲載されます。売上原価と販売費・一般管理費は、損益計算書に掲載され、営業利益の増減に影響します(図 4-3)。 なお、複雑な配賦計算が原価をかえってゆがめる結果となることもあります。この問題を解決するために、製造直接費だけで原価計算を行なう直接原価計算が生まれました。さらに製造間接費を発生原因から分析し、実態に即した配賦を行なう活動基準原価計算( ABC: Activity Based Costing)もできました。
4-3 原価計算の分類原価計算の対象は何か 原価計算は、非常に複雑で、その手法も多岐にわたっています。本書では、管理会計の基本であり、原価管理の基本として、最低限知っておいていただきたい原価計算の種類を整理しました。 なお、これから紹介するどの原価計算においても、原則として図 4-3で説明した、費目別、部門別、製品別計算を行なうことになります。 ■全部原価計算と直接原価計算 原価の 3要素(材料費、労務費、経費)をすべて集計する(全部原価計算)か、一部だけを集計する(直接原価計算)かで分類します。 ①全部原価計算 原価計算には、決算書を作成するために製造原価の情報を計算するという目的がありましたね。いわゆる財務会計へのデータ提供です。この場合は、工場で発生したすべての原価(原価の 3要素)を集計して、製品の製造原価を集計する必要があります。このような原価計算を、全部原価計算と言います。簿記会計をはじめて勉強するときは、全部原価計算から入ることになります。 ②直接原価計算 管理会計では、変動費(直接費)だけで製品原価を計算する方法が使われます。これを直接原価計算と言います。全部原価計算に対して、部分原価計算というジャンルに入ります。直接原価計算はその代表です。 第 3章までに説明してきた変動損益計算書は、直接原価計算による損益計算書のことです。この本をはじめから読んできたみなさんは、すでに直接原価計算は、勉強済みなのです。 ■実際原価計算と予定原価計算 集計する原価が、実際に使われた原価か、予定される原価なのかで分類するケースです。実際原価と予定原価(見積原価と標準原価の2つがある)を比較することで、原価管理を行ないます。
①実際原価計算 実際に発生した原価を使い原価計算を行なうのが実際原価計算です。 しかし、実際原価を使うと、業績管理の面から問題が起こります。 1つは、実際原価を集計するのは時間がかかるため、業績管理に使えないということです。たとえば、昨年 12月の業績が翌年 2月末に判明して、3月の決算対策の営業会議をやっても、実際原価計算の場合、1月、2月のデータがないので、営業会議は有効に機能しません。 2つ目の問題は、実際原価で問題点を検討すると、前月や前年のデータと比較して、多い少ないという議論しかできないことです。それでもやらないよりはマシですが、本来であれば「製品を作るために、原価はこの程度であるべきだ」という目安となる原価(これを原価標準と呼ぶ)が必要です。原価標準があれば、標準的な原価との差異を分析して、実際原価の善し悪しを判断することができます。本来あるべき数字と比較するからこそ、本質的な経営改善が可能になります。 給与が昨年より増えたと喜ぶのか、給与は本来いくらであるべきだという標準値を知って、給与が増えてももっと努力しないとまだまだ低いと考えるか、前者は実際原価の考え方で、後者は標準原価の考え方です。どちらが本来あるべき姿かは、わかりますね。 ②予定原価計算 実際原価に対する用語は、予定原価です。予定原価には、見積原価と標準原価があります。見積原価は、どの程度の原価が発生するかを予想した値で、標準原価は、こうあるべきだという原価です。原価管理には、科学的な根拠に基づいて決定した標準原価を使うほうが差異分析(実際と計画の数字を比較してその原因を分析すること)を理論的に行なうことができます。 以下、標準原価計算を前提に話を進めます。
標準原価計算は、実際原価計算の問題点を解決するために考え出された手法です。材料費、労務費、経費について、あるべき標準となる原価(原価標準)を、科学的、統計的に調査して決めておき、実際の生産量に応じて、製品原価を計算する方法です。 たとえば、製品 1個当たりの原価標準が 5円のとき、 1, 000個の生産をすると 5, 000円の原価が発生したことがわかります。この 5, 000円が標準原価です(この標準原価 5, 000円を使えば、実際原価が決まる前に製品原価を把握でき、月次損益の業績も早めに把握できます)。 その後、実際原価が 5, 500円だとわかれば、 500円だけ原価がアップしていることがわかります。そして原因を追及します。原価標準が本来あるべき基準なので、差を生んでいる原因を解明することで、経営改善につながるのです。 標準原価は、科学的、統計的に調査して決める必要があります。入札などで原価を見積もること(見積原価)とはまったく異なるのです。標準原価は、原価管理者を納得させるだけのシッカリとした手順を踏んで設定することが必要です。予想としての見積原価を使った原価計算は、見積原価計算と呼んで、標準原価計算と区別します。 なお、原価標準と標準原価は、意味が異なっている点に注意してください。原価標準とは、製品 1個当たりの本来あるべき原価です。標準原価は、原価標準に実際の数量を乗じて計算した原価の総額です。 ■総合原価計算と個別原価計算 総合原価計算と個別原価計算という区分は、製品を生産するときの生産形態の違いから分類されるものです。
①総合原価計算 総合原価計算は、規格品を連続的に量産する工場で使われる原価計算の方法です。石油、化学、自動車、機械、精密機器、電機、薬品など多くの業界に適用されています。
総合原価計算は、計算方法の違いで3つに分類されます。 1つは、単純総合原価計算です。 1種類の製品を連続的に量産する場合に使われる計算方法です。単純総合原価計算は、総合原価計算をするための基本になるものです。第 4章( 4-4)で計算方法を説明します。 2つ目は、等級別総合原価計算です。同種の製品を量産するが、大きさ、品質、形状などで、等級に分ける必要がある場合に適用される総合原価計算です。 たとえば、ポロシャツなどの衣料品を S、 M、 Lのようにサイズ別に生産するようなケースです。この場合、同じ工程で作られた同種製品でも、生地の量が異なります。そこで、 Sサイズを基準に、 Mサイズは Sサイズ 1に対して、 1. 1の生地が必要なので、 Mサイズの材料費は、 Sサイズの 1. 1倍、などと計算します。労務費、経費についても係数を決め、材料費と同様な計算をしてサイズ別の製造原価を計算します(なお、 1や 1. 1のような係数を等価係数と言います)。 このような等級別の製品に対して、連産品があります。たとえば、原油が精製されると、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油などの製品が生まれます。同じ工程で、必然的に生まれ、主副の区別がつかないこれらの製品を連産品と言います。連産品の原価は、等級別原価計算の手法に準じて、正常な市価などを基準として、製造原価を按分計算します。 3つ目は、組別総合原価計算です。同種製品だが、規格や型が異なるものを同じ生産工程で、並行しながら、または交代しながら連続生産する場合に使われる計算方法です。 化学、食品、家電、自動車、機械など多くの業界で使われる方法です。自動車の生産で、同一車種のセダンとワゴンを同じラインで作って、発生した製造費用を、それぞれ組別(製品別)に分けて、製品原価を計算するような場合に使います。 生産は、加工、組立、仕上げ、検査のようにいくつかの工程を経ます。原価を正確に把握しようとすると、工程別に原価を計算し、次の工程へ引き継ぎながら、製造工程に沿って計算していく必要があります。このように工程別に計算することを、工程別原価計算と呼びます。 よって、これまであげた3つの総合原価計算は、工程別計算をするか否かで、単一工程か工程別かの2つにさらに分類されます。 ②個別原価計算 個別原価計算は、顧客の注文に応じて製品を受注生産する企業が採用する原価計算です。総合建設業、ハウスメーカー、造船業、プラント業、ソフトウェア業などで使われています。 顧客管理システムを個別企業から受注した場合は、注文システムごとに原価計算をして、それぞれの原価を把握します。建設業では、建物ごとに建設原価を計算しますし、ショッピングセンターのような大規模開発のプロジェクトなら、その開発原価を計算します。 個別原価計算の考え方は、このような業種ばかりでなく、営業やプロジェクト管理でも使えます。たとえば、企業内でプロジェクトごとの原価を把握し、管理することができますし、営業所ごとに変動損益計算書を作って業績管理するときも、個別原価計算の考え方を応用できるのです。
4-4 原価計算を実際に行なってみよう総合原価計算と個別原価計算の違いを理解しよう ■事例で総合原価計算のポイントをつかもう 総合原価計算では、規格品を連続生産する工場の製造費用を、原価計算期間(たとえば 1か月)で集計します。そしてこの原価計算期間で発生した製造費用(総製造費用)を把握し、完成品原価(製品原価)と未完成品原価(仕掛品原価)に配分計算します。この配分計算の理解が、総合原価計算においてはとても大切です。 ここでは、もっともシンプルな、単純総合原価計算の例で紹介します。なお、この例では、複雑な部門別の配賦計算は省略します。費目別計算の後、製品別計算を行なうケースと考えてください。 下記のケースで、完成品と仕掛品の原価を求めてみましょう。 A製品の製造を月初にはじめます。よって月初の仕掛品はありません。当月発生した製造費用と、完成品(製品)の数量、未完成品(仕掛品)の数量などの生産情報は、次の通りです。
計算の流れは、次のようになります。 ①完成品換算数量を計算する ② 1個当たりの完成品原価(製品原価)を計算する ③完成品と仕掛品の原価を求める ①完成品換算数量を計算する 個数で見ると、完成品 200個と仕掛品 100個の合計 300個です。しかし、仕掛品は、費用の負担という意味で完成品と同等ではありません。この理解が重要です。 仕掛品の直接材料費については、工程のはじめに材料を投入しているので、材料費の負担は完成品と同じです。 1個の仕掛品、完成品は、同額の直接材料費を負担しているということです。 しかし、完成品と仕掛品とでは、それまでにかかった手間や時間が違いますから、直接製造にかかる直接労務費や、工場の光熱費などの製造間接費(両者を合わせて加工費と言う)が変わってくるはずです。これは、進捗度というもので
表わされます。進捗度とは、物理的な完成度ではなく、加工とともに費用を負担する割合と考えてください。 例では進捗度 50%です。加工を 100%受けた完成品と加工度合いが 50%の仕掛品では、加工費の負担は異なるということです。 この進捗度を考慮し、仕掛品の直接労務費と製造間接費の負担は、完成品の負担額の 50%で計算します。つまり進捗度 50%の仕掛品は、完成品 0. 5個分と同じ費用負担であると考えます。仕掛品 100個ですから、完成品に換算すると 50個分( = 100個 × 50%)に相当するのです。この 50個のことを完成品換算数量と言います。 そこで、完成品と仕掛品の 1か月の完成品換算数量の合計は、次のように 250個と計算します。 計算式は、下記のようになります。 ② 1個当たりの完成品原価(製品原価)を計算する 次に完成品 1個当たりの製造原価を求めます。直接材料費を、 300個( 200個 + 100個)で割って求めます。注意点としては、直接材料費については、仕掛品も完成品も対等に負担すると考えて、進捗率を考慮しないで計算するということです。 直接労務費と製造間接費は、仕掛品と完成品の負担割合が対等でないので、進捗率を考慮した完成品換算数量を使って計算した 250個で割って求めます。 この3つの数字を足したものが、 1個当たりの完成品原価です。
計算式としては、下記のようになります。 ③完成品と仕掛品の原価を求める 完成品と仕掛品の全体の原価を求めてみましょう。 1個当たりの完成品原価は出ていますから、全体の完成品原価は、その数字に完成品の数量 200を掛ければ計算できます。 仕掛品原価については、仕掛品にかかる直接材料費、直接労務費、製造間接費を合計します。直接材料費は、完成品と負担割合が対等なので、仕掛品の数をそのまま掛け算します。直接労務費と製造間接費については、仕掛品の数 ×進捗度を、掛けて算出します。
ア +イは 4, 425, 000円となって当月の総製造費用と一致します。流れは、図 4-6を参照してください。 以上のように、総合原価計算では、連続生産であるため、期間で区切って、その時点で、総製造費用を仕掛品と完成品(製品)にいかに配分するかという計算が、最大のポイントになるのです。 ■事例で個別原価計算のポイントをつかもう 個別原価計算は、顧客の注文に応じて製品やソフトウェアなどを受注生産する企業が採用し、受注した製品、サービス、ソフトウェアごとに行なう原価計算です。広くとらえれば、プロジェクトごとの損益管理や営業所ごとの損益管理にも
活用できます。 個別原価計算のポイントは、注文ごと(顧客ごと)に原価を計算し、納品が完了すれば売上原価に計上し、未完成ならば、たな卸資産(仕掛品)として認識することです。例をあげて説明しましょう。 土木工事を行なう日本土木では、現場ごとの個別原価計算を行なっています。今期は3つの現場( A現場、 B現場、 C現場)で仕事をしてきました。 A現場は、期末時点でまだ工事は終了していません。 B現場と C現場は、工事が完了して、顧客へ引き渡しています。 現場ごとに発生した費用は、以下の通りです。 どの工事現場で発生したかがわかる費用は、直接原価と言います。直接原価は、直接材料費、直接労務費、直接経費に分けて、現場ごとに集計します。本社費用などの現場に共通の費用は、製造間接費です。製造間接費は、現場の作業時間に応じて配賦したものです。 建設業のように、期間が長く、期末をまたぐ場合、工事収益の認識(工事の収益をいつの時点のものにするかということ)と、原価の計算について、進行基準と完成基準の2つの方法があります。この2つの方法の基本的な考え方を理解しましょう。 ①完成基準のケース 完成基準では、未完成の工事に集計された原価は、貸借対照表のたな卸資産になります。すなわち A現場の原価合計 750万円が未成工事支出金です(建設業では、仕掛品を未成工事支出金と呼んでいます)。
完成して引渡しが行なわれた B現場の原価( 1, 350万円)と C現場の原価( 400万円)の合計 1, 750万円が売上原価になります。そして請負高の合計 2, 100万円( B現場 1, 500万円 + C現場 600万円)が売上高になり、損益計算書に計上されます。売上総利益は 350万円(売上高 2, 100万円-売上原価 1, 750万円)です。
②進行基準のケース 進行基準では、完成工事の売上高と売上原価の計上の考え方は、完成基準と同じになります。しかし未完成の工事に関しては、たな卸資産にせず、損益に計上する点が異なります。次に説明します。 完成・引渡しが行なわれた B現場と C現場に関しては、売上高を 2, 100万円計上し、売上原価は 1, 750万円を計上します。 さらに、未完成の A現場は、売上高と売上原価を次のように計算して計上します。 売上高は、工事の進捗度を見積もって計算します。進捗度が 85%とすれば、請負高 1, 000万円 × 85%で、 850万円を売上高とします。これに対する売上原価は、現時点(進捗度 85%)で把握されている費用 750万円とします。工事はまだ終わっていないのですが、 85%工事が進行したので、請負額の 85%は売上高として発生していると考えるのです。 売上高は、完成・引渡しによって実現し、認識することが原則です(これを実現主義と呼ぶ)。これに対して、進行基準は工事の進行によって売上高を認識します。これは発生主義による収益の認識です。 進行基準によって損益を計算すると、未完成原価も売上原価に計上されるので、貸借対照表には、在庫(未成工事支出金)が計上されないことに注目してください。
4-5 直接原価計算の考え方変動損益計算書の原点は、直接原価計算 ■全部原価計算の限界 直接原価計算は、全部原価計算に対する考え方です。全部原価計算では、製造原価は、製造直接費と製造間接費を集計しますが、直接原価計算では、製造直接費(主に変動費)だけで製造原価を求めます。 なぜこのような違いが出てきたのでしょうか。それは、配賦計算(配分計算と言っても同じですが、製造間接費については配賦という言葉を使います)を必要とする製造間接費があるからです。製品に直接かかわらせて把握できない製造間接費は、機械運転時間や直接作業時間などを基準に配賦して製造直接費に加算し、全部原価を計算します。 しかし配賦計算そのものが、正確ではなく、便宜的なものです。なぜなら製造間接費は、製品に共通して発生し、個別の製品にかかわらせて把握できないからです。よって、どのように配賦計算をしても正確性に欠けます。それなのに、配賦基準によって製造原価が変化し、利益計算にも影響します。ここに全部原価計算の限界があるわけです。 この問題解決のために、直接原価計算が考えられました。配賦計算が不正確なら、配賦計算を行なわず製造直接費だけで把握するほうが、正確です。そこで、直接原価計算では、直接原価だけで製品原価を計算し、売上原価も製造直接費だけで計算します。直接原価計算では、売上高から直接売上原価を差し引けば、製造マージン(限界利益に近い考え方)が算出されます。製造間接費は、配賦計算しないで、販売費・一般管理費と同じように期間原価として計上し、営業利益に反映させます。 直接原価は、ほぼ変動費なので、売上高-直接売上原価-変動販売費で、限界利益が求められます。ここから、固定費を引けば、営業利益が求まります。これと同じものが、第 3章で出て来る変動損益計算書です。直接原価計算による損益計算は、変動損益計算書の原型です。 ■直接原価計算をしてみよう 次の例をもとに、実際に直接原価計算を求めてみましょう。 A社のある期間の製造、販売データは以下の通りです。
◎全部原価計算での計算例(財務会計の考え方) 図 4-9は、全部原価計算のケースです。全部原価計算では、材料費、労務費、経費のすべてを合計して製造原価としますから、 A製品 10個の製造原価は、 100 + 200 + 100で 400となります。売上原価は、販売した分の原価となります。販売分は 6個 × 40( 1個当たりの製造原価)で売上原価は 240、売れ残り分がたな卸資産 160となります。損益を見ると、売上高が 300( 6個 × 50)で、営業利益は 20です。全部原価計算では、工場で発生した費用をすべて集計するところがポイントです。
◎直接原価計算での計算例(管理会計の考え方) 図 4-10は、直接原価計算のケースです。材料費を製造直接費(変動費)として、労務費、経費を製造間接費(固定費)とします。 直接原価計算は変動費だけで原価を把握しますから、材料費の 100がそのまま製造原価になります。製品 1個当たりの材料費(直接原価)は 10( 100 ÷ 10個)ですから、直接売上原価は 60( 6個 × 10)、たな卸資産 40( 4個 × 10)となります。製造間接費は、期間原価として損益計算書に計上します。この結果、営業利益は ▲ 100と損失になります。 なお、材料費を変動費に、労務費と経費を固定費とすれば、図 4-10の損益計算書は、そのまま変動損益計算書となります。
■営業利益の違いは何を意味するか 全部原価計算では営業利益 20、直接原価計算では営業利益 ▲ 100で、差は 120です。この差は何でしょう? 全部原価計算で製造原価に算入されている固定費(製造間接費)が影響しています。 労務費 200と経費 100の計 300を製造数量 10で割ると、 1個当たり固定費は 30です。全部原価計算で、たな卸資産 1個に含まれる固定費は、 120( 30 × 4個)です。この固定費 120は、全部原価計算では損益計算に算入されていません。しかし、直接原価計算では、この固定費 120は、損益計算に算入されています(図 4-9と図 4-10を見比べるとわかりますね)。この違いが営業利益の違いです。 生産量 >販売量なら、在庫が生まれます。全部原価計算では、この在庫に含まれる固定費だけ、利益を一時的に膨らませるのです(図 4-11)。
全部原価計算による損益計算書では、営業利益は 20で黒字です。しかし経営者は、黒字の実感がないはずです。 4個売れずに在庫が残っており、在庫 4個に投資した全部原価 160の回収が終わっていないからです。
直接原価計算では、固定費を期間原価にするため、在庫に含まれる固定費 120はその費用が発生した期に、売上高で回収できます(回収とは、固定費として支払った 120が、売上高で取り戻せるという意味)。次期に繰り越すのは、在庫に算入された材料費 40となります。しかし、利益の段階では、 ▲ 100の営業赤字という数字が出ています。これは、少なくとも、在庫投資の回収ができていないという経営者感覚に近いものです。直接原価計算が管理会計で利用される理由が、ここにあります。 ■在庫がないケースと、在庫が減少するケース これまでの説明は、生産量 >販売量のケースでした。実際には、生産量 =販売量のケース、生産量 <販売量のケースもありえます。この場合の全部原価計算と直接原価計算で計算した営業利益の違いも確認しておきましょう。 ①もし製造した 10個が、すべて販売されたらどうでしょう(生産量 =販売量)(図 4-12) 全部原価計算、直接原価計算とも、営業利益は 60で一致しています。どちらの計算方法でも、製造原価 400が生産された期間の費用となるからです。製造と販売が連携した経営、在庫を持たない経営の必要性が見えてきますね。
②もし製造した 10個以上に、販売( 11個)したらどうでしょう(生産量 <販売量:前期からの在庫を当期に販売)(図 4-13) 全部原価計算では、前期分の在庫に含まれる 1個当たり固定費 30が、売上原価に計上されます。直接原価計算では、この 30は前期の損益計算で費用にしています。よって直接原価計算による利益が 30だけ大きくなります。
4-6 活動基準原価計算( ABC)の考え方間接費(共通費)の配賦をいかに行なうか ■マーケティングが重視される時代の原価計算 活動基準原価計算( ABC: Activity Based Costing)は、 1980年代にハーバード大学ビジネススクールのキャプラン及びクーパー教授によって提唱されました。その背景には、近年の製造間接費の増加によって、伝統的な原価計算に問題があることが指摘され、「算出された原価は、本当に正確なのだろうか」という疑問が生じはじめたからです。 ABCを要約すれば、「製造間接費の発生の実態を把握し、正しい製品原価をとらえ、製品ごとの収益性向上のための戦略的意思決定を実現するための原価計算の手法」と言うことができます。 総合原価計算や個別原価計算で見てきたように、製品原価は、製造直接費(直接材料費、直接労務費、直接経費)に、工場の間接部門で発生した人件費や減価償却費などの製造間接費を加算して、製品原価を計算しています。この製造間接費は、製品に配賦しないで直接加算する(直課)ための合理的な基準や方法が見当たらない費用です。 そのため、伝統的な原価計算では、製造間接費は、直接作業時間や機械運転時間などを基準に、製造部門間の複雑な配賦計算を行ない、最終的に製品に負担(加算)させます。各製品が、製造間接費をいくら負担するかは配賦基準や方法に影響され、製造原価の大小を左右します。 製造間接費が少ない場合、製品原価への影響は軽微ですから、あまり問題になりません。しかし製造間接費が増加すると、伝統的な原価計算では、製品原価の正確性に疑問が出るわけです。そこで、伝統的な原価計算に対して、本当の原価を求める手法として、 ABCが登場しました。 ■なぜ製造間接費が増えたのか? では、なぜ製造間接費が増加しているのでしょうか。 ご想像通り、顧客ニーズの多様化、複雑化が原因です。
みなさんは、他の人と同じものを持ちたくないと考えることはありませんか。色違いのカバン・自動車・家電製品、数量限定で売るファストファッション、地域限定商品などの存在がその証ですね。このようなマーケティングの変化は、調査、発注、検査、配送、教育などの間接費を増加させました。 この変化は、生産方式にも影響します。高度成長期には主流であった少品種大量生産から、多品種少量生産の時代になりました。工場では、材料の種類や発注回数が増え、金型や色の種類も増え、機械の段取り(機械の準備作業)回数が増え、検査が何回も必要になり、経理や人事の仕事も複雑になり、製造支援活動の間接費が増えていきました。 販売現場では、カタログの作成、営業担当者の教育費の増加、説明時間の増加など販売活動も複雑になってきて、販売費・一般管理費の増加をもたらします。その結果、総原価(製造原価 +販売費・一般管理費)が増加しました。 ABCは、工場や開発現場のコストである製造原価だけでなく、販売活動まで考慮した総原価の把握に原価計算の対象を広げることで、製品別の営業利益までを管理することを可能にします。また製品別だけでなく、営業所別、サービス別、業務別、顧客別など、 ABCの応用範囲は広くなっています。製造業を中心としてきた ABCは、銀行、商社、ソフトウェアなどのサービス業にも広がっています。 ABCは、あらゆる業種、業態に役立つので、ぜひポイントを理解してください。 ■ ABCの計算例(伝統的な原価計算と比較して学ぼう) 具体例で伝統的な原価計算と ABCを比較しながら、 ABCを用いた原価の計算方法や、具体的な使い方を紹介します。計算過程を追いながら、 ABCの有用性を理解しましょう。なお、次の例では、製造原価に絞って説明しています。 定番品として継続生産している A製品、 B製品と、特注品として少量生産の C製品があります。各製品は、購買部門が材料を発注し、検査部門で製品検査を受けています。予定原価の情報は図 4-14の通りです。
①伝統的な原価計算による製造原価を求める まず、 A製品、 B製品、 C製品の製造原価(全部原価)を伝統的な原価計算の手法で求めましょう。製造間接費は、伝統的な原価計算でよく使われる直接作業時間を基準に配賦します。 伝統的な原価計算による製造原価は、図 4-15の通りです。
製造直接費に、その製品ごとに配賦された製造間接費を足すと、製造原価が算出されます。課題は、その製造間接費をどのように個々の製品に配賦するのか、ということです。伝統的な原価計算では、製造間接費を直接作業時間や機械運転時間などで割った予定配賦率というものを使って配賦します。 この例では、製造間接費 200万円を直接作業時間 2, 000時間で割った値 1, 000円が予定配賦率です。直接作業時間 1時間当たりの製造間接費の負担額を意味します。 そして、各製品の直接作業時間に予定配賦率を乗じれば、各製品が負担する製造間接費を計算することができます。製造間接費は、実際額では集計が遅れるため、一般的には、見積額で計算した予定配賦率を使って、製品に予定配賦します。 ②販売価格を求める 先ほどの例(伝統的な原価計算)の製造原価を使って販売価格を計算しましょう。 売上総利益率が 20%になるように、各製品の予定販売価格を計算しましょう。製造原価 ÷( 1-ほしい粗利益率)で算出できます。
現在、この価格で販売しているとします。 ③ ABCを使って、製造原価を計算する A製品は、競争が激しく値下げ要求が厳しい状況です。 B製品は、予定価格で販売できています。 C製品は、類似製品と比較しても価格が安いようで受注が伸びています。 そこで、製造原価を ABCによって見直し、本当の原価はどのくらいか計算してみることにしました。 調査の結果、製造間接費の内容が主に次の2つに分類されることが判明しました(単純化のため製造間接費の内容は簡素化しています)。 1つは、材料の発注に伴って発生する事務処理コスト(発注費)、もう1つは、製品の検査に伴って発生する作業コスト(検査費)です。 発注費は、発注処理用コンピュータ関連費用や発注担当者の人件費です。発注回数に比例して発生します。 検査費は、検査機器の減価償却費や検査担当者の人件費などです。検査時間に応じて発生します。 なお、発注費や検査費は、機能的な費用です。たとえば発注費は、発注にかかわる従業員の人件費、機器の減価償却費、通信費のような勘定科目が含まれます。このような費用を複合費と呼び、 ABCでは、コストプールと呼んでいます。 まずは、以下のデータから、各製品が負担すべき製造間接費を計算してみます。
ABCの計算結果は、図 4-16の通りです。基本的な計算は伝統的な原価計算(図 4-15)と同じですが、発注費は発注回数、検査費は検査時間を基準に、製造間接費を配賦している点が異なります。
次に、図 4-17を見ながら、直接作業時間を基準に配賦計算した製造原価(伝統的な原価計算)と ABCを使って計算した製造原価を比較してみましょう。
1個当たりの製造原価で比較すると、 A製品、 B製品とも、それぞれ 43円、 2円ほど、伝統的な原価計算のほうが大きくなっています。 C製品は、 881円も ABCのほうが大きくなっています。この理由は、直接作業時間の大きさが影響しています。 ■本当の原価はどちらか でも、よく考えてみてください。製造間接費は、直接作業時間に比例して発生するでしょうか。 このような配賦方法をとるのは、あくまでも便宜的な方法です。製造原価に占める労務費の割合が大きく、製造間接費の割合が小さい場合は、このような配賦方法をとっても、大きな原価の違いは出ないでしょう。しかし、製造間接費の割合が大きくなった近年では、この差が大きくなっています。この計算例はそれを示しています。 では、どちらが本当の原価でしょうか。 発注費について考えてみましょう。材料ごとに仕入先に発注しますが、生産量が多い製品の発注回数が多いとは限りません。 A製品と B製品は、定番品なので、 1回の発注で多くの数量を発注することが多く、発注回数は生産量の割には多くなりません。特注品の C製品は、注文のつど発注することが多く、生産量の割には、発注回数が多くなっています。発注費は、発注回数に対して比例して発生します。よって、直接作業時間で配賦する従来のやり方では、発注費の製品負担
額を正しく計算できません。 検査費はどうでしょう。 A製品は、生産量は多いのですが、規格品で、検査は効率的に行なえ、検査時間は少なくて済みます。 B製品は、構造が A製品より複雑で、やや検査に時間がかかります。 C製品は、注文ごとに検査内容が異なり、検査時間は非常に多くなります。よって、発注費と同様に直接作業時間で配賦する従来のやり方では、検査費の製品負担額を正しく計算できません。このように考えると、 ABCのほうが本当の原価を計算できていることがわかります。 ABCは、製造間接費が発注活動や検査活動という活動( Activity)に関連して発生することに注目して、製品などの原価計算の対象に配賦する方法です。活動基準原価計算( Activity Based Costing)と呼ばれる理由がここにあります。 ■ C製品の価格は安すぎたことが判明 伝統的な原価計算と ABCによる原価を比較することで、価格の妥当性を分析しましょう。 C製品の製造原価が、伝統的な原価計算よりも ABCのほうが 881円大きい(前出の図 4-17参照)ということは、 C製品はもっと価格を高くすべきであることを示しています。製造原価の総額で比べると、 44万 500円( 881円 × 500個)も ABCのほうが多くなるのです。 売上総利益率 20%を前提に価格設定すると、伝統的な原価計算では、 2, 775円( 2, 220円 ÷ 0. 8)が販売価格となりますが、 ABCによる販売価格は、 3, 876円( 3, 101円 ÷ 0. 8)と 1, 101円も高く設定すべきことがわかります。 C製品は、価格が安すぎたために、注文が伸びているという皮肉な結果を生んでいたのです。 A製品は、どうでしょう。 A製品は、値下げ要求が厳しい状況でした。伝統的な原価計算に基づく販売価格は、 650円( 520円 ÷ 0. 8)でした。 ABCに基づく販売価格は、 596円( 477円 ÷ 0. 8)です。この差を見れば、もともと値下げする必要があったのです。顧客のほうが、価格には敏感だったようです。 B製品は、予定価格で販売できていました。伝統的な原価計算では 510円( 408円 ÷ 0. 8)、 ABCでも 508円( 406円 ÷ 0. 8)ですから、価格設定がほぼ同じであったため、予定価格で販売できたことになり、それが予想通りに販売を伸ばす理由になりました。 ■ ABCの流れと概略をつかもう ABCは、「活動が資源を消費し、製品が活動を消費する」という理念で、構築された原価計算方法です。資源とは、ヒト、モノ、カネなどの経営資源のことです。図 4-18は ABCによる製造間接費の配賦の流れを示しています。 たとえば、材料の発注活動によって、人件費、減価償却費などの費用が発生(経営資源を消費)します。発注活動に関連したこれらの費用を集計できれば、発注費という複合費(コストプール)が計算できます。 これは、発注費の原価を計算することと同じことです。発注にかかわった人件費を集計しようとすれば、発注に携わった作業時間 ×時給で発注にかかわった人件費が集計できます。発注に関連する減価償却費を集計するなら、発注にかかわる機器の稼働時間や稼働台数を把握して、適当な配賦基準を選び、減価償却費を発注費に割り当てます。 この発注作業時間や機器稼働台数のような経営資源に関連する配賦基準を資源ドライバーと呼びます。
同様に、検査活動に関連した経営資源をとらえ、資源ドライバーを決定して、人件費や減価償却費を配賦して、検査費というコストプールに集計します。
このようにして集計した発注費と検査費は、 A製品、 B製品、 C製品に関連付けて配賦しました。配賦基準は、発注回数や検査時間でした。これらの活動に関連する配賦基準を活動ドライバーと呼びます。 ■ ABCを販売活動へ拡大する 製造原価を前提に説明してきましたが、販売費・一般管理費まで費用の範囲を広げると、営業利益までのコスト管理が可能になります。つまり ABCの対象を総原価(製造原価 +販売費・一般管理費)に広げ、製品 1個当たりの総原価を計算します。目標売上高営業利益率が決まっていれば、その利益率を前提にした販売価格も設定可能になります。 先ほどの事例をもとに、計算の仕方を説明しましょう。 ①各製品の総原価を計算する 調査の結果、以下の販売費・一般管理費のデータが入手できました。各製品の総原価を計算しましょう。
物流費は、物流に伴って発生する人件費、燃料費、減価償却費などの複合費です。発送回数との相関関係が強いので、発送回数で配賦します。 売上獲得費は、販売促進費のように売上を上げるための必要経費です。営業活動をするときの交通費、人件費、営業車両のリース料などの販売費が主要部分を占めています。訪問件数が、一番相関関係が認められるので配賦計算ではこれを採用します。 その他販管費は、適当な活動ドライバーが見つからないので、伝統的な原価計算と同じように直接作業時間で配賦します。 計算の方法は、今までと同様です。配賦結果は、図 4-19の通りです。
②販売価格を設定する 目標である売上営業利益率を 5%として、販売価格を設定してみましょう。 計算方法は、今まで見てきたものと同様に行ないます。 図 4-20を見てください。
A製品の 1個当たり総原価は 547円なので、販売価格は 576円( 547円 ÷ 0. 95)となります。伝統的な原価計算に基づく製造原価 520円(売上総利益率 20%)に基づく販売価格は 650円( 520円 ÷ 0. 8)、 ABCで計算した製造原価 477円(売上総利益率 20%)に基づく販売価格は 596円( 477円 ÷ 0. 8)です。値下げ競争が激しかった A商品の価格が、当初かなり高く設定されていたことがわかります。 ABCによる総原価で計算した 576円が、値下げ競争下では、採用すべき販売価格であったこともわかります。 B製品の 1個当たり総原価は 471円なので、販売価格は 496円( 471円 ÷ 0. 95)となります。伝統的な原価計算に基づく製造原価 408円(売上総利益率 20%)に基づく販売価格は 510円( 408円 ÷ 0. 8)、 ABCで計算した製造原価 406円(売上総利益
売上総利益率 20%)に基づく販売価格は 508円( 406円 ÷ 0. 8)です。 B製品は、ほぼ予定価格で販売できていました。3つの方式で計算した結果に大きな違いがないので、当初の価格設定がほぼ正しかったことがわかります。 特注品の C製品の 1個当たり総原価は 4, 085円なので、販売価格は 4, 300円( 4, 085 ÷ 0. 95)です。伝統的な原価計算による製造原価 2, 220円(売上総利益率 20%)に基づく販売価格は 2, 775円( 2, 220円 ÷ 0. 8)、 ABCで計算した製造原価 3, 100円(売上総利益率 20%)に基づく販売価格は 3, 876円( 3, 101円 ÷ 0. 8)です。ここから、 C製品の価格が安すぎたことがわかります。 C製品の販売が伸びているという結果は、喜んでいられません。 C製品の収益性が落ちて、全体の収益性に悪影響を与えているからです。マーケティング面は別として、コスト面からは、販売価格の見直しが必要でしょう。 ■ ABCを経営改革に発展させる「活動基準管理( ABM: Activity Based Management)」 ABCでは、活動に注目して間接費を集計します。活動に注目すると、活動そのものの本質的な問題点が見えてきます。たとえば、発注活動においては、注文書の受領、発注書作成、発注作業(端末操作)、納品確認と発注ミスチェックなどの業務が伴います。この一連の活動において、非効率な部分を見つけ出し、改善し、再構築することで、発注費の削減が可能になります。 さらに、発注といった個々の活動だけでなく、在庫管理、製造、物流、販売へ至る業務プロセスまで見直して、顧客へのサービスを強化する経営改革に発展させる考え方が、活動基準管理( ABM)です。 ABMは、顧客に製品やサービスを提供するプロセスを分析し、 ABCによる原価情報を利用して、付加価値を生み出す活動(付加価値活動)に継続的な改善の取り組みを行ない、付加価値を生まない活動(非付加価値活動)は削減・縮小することで、費用の継続的な低減を図ることを狙った管理手法です。 プロセスとは、製品やシステムの開発、購買、製造、販売、物流、顧客サービスという一連の流れのことです。このプロセスの中で、付加価値活動と非付加価値活動を分析して、業務プロセスの改善や再構築(リエンジニアリング)を行なうのが ABMです。 ABMを推進する場合には、顧客にとって必要な活動とは何かを重視して、業務プロセスを再構築することが大切です。 ABMは、製造業だけでなく、サービス業など他の業種に広がって活用されています。コンビニチェーンでは、仕入、物流、販売のプロセスを徹底的に分析し、店舗への多頻度小口配送を実現して、顧客に新鮮な商品を提供することで、顧客満足を創出するとともに、店舗での廃棄ロスを減少させ、店舗の利益アップを実現させています。 ■ ABCと ABMの関係 最後に ABCと ABMの関係を図 4-21に示しておきました。 縦の流れが ABCです。 ABCのポイントは、費用をいかに製品などの原価計算の対象に関連付けるかを考えることにあります。 ABCによって製品やサービスなどの本当の原価を把握して価格を設定します。そこで、利益を最大化できる最適な製品・サービスの組み合わせを決定するために必要な情報を得ることができますので、戦略的セールスミックス(製品やサービスの組み合わせ)の決定に活用できます。 製品・サービスを大きくとらえ、営業所やプロジェクトという単位で考えれば、それぞれの収益性や問題点を把握しながら、営業所の統廃合、プロジェクトの評価を行なうことも可能です。 図 4-21の横の流れが ABMです。 ABMのポイントは、顧客の視点で、経営プロセスを見直し、付加価値を生み出せる経営プロセスは何かを考えることにあります。企業は持続的な競争優位を図るために、 ABMの実践によって、顧客に支持される仕組み(短い納期、タイムリーな情報提供、適切な価格設定など)の改革を続ける必要があります。その結果、付加価値の増加を伴う利益の増加が実現するのです。
●実践コラム 価格設定の手法あれこれ…… 価格設定を行なうときは、原価、需要、競争の3つの切り口を考慮します。 ●原価から価格を設定する……コスト志向 原価計算や ABC(活動基準原価計算)の事例で説明した方法は、製造原価や仕入原価を基準にした、コスト志向の価格設定法です。原価を基準に価格設定できるのは、競争力の高い製品、競争のない製品に限られます。 ●売れる価格から割り出す……需要志向 消費者の価格イメージや需要の強さを基準に価格を決める需要志向の価格設定法は、現実的な方法と言えます。売れる価格を探り出し、そこから必要粗利益を控除して、原価目標を割り出します。低価格戦略を推進する大手の量販店などがこれを使っています。 たとえば、一般市場で販売されている価格を 10万円とします。低価格販売のため市場価格より 10%安く販売する方針で、 9万円の販売価格を設定します。 次に値入率(粗利益率)を決めます。売上高販売費・一般管理費比率が 15%、企業の成長のために必要な売上高営業利益率を 5%とすると、必要な値入率は 20%です。よって、仕入値の上限は、次の計算で決まります。 9万円 ×( 100%- 20%) = 7万 2, 000円(仕入値の上限) 大量仕入によって、仕入先に対する価格交渉力が強い、規模の大きな企業は、このような仕入価格の設定が可能になります。 ●目玉商品、戦略製品の値付け……競争志向 競合他社を意識した競争志向の価格設定がよく行なわれます。たとえば、チラシに低価格の目玉商品を掲載し、来店の際には高粗利益率商品のついで買いを誘い、全体の粗利益率をアップさせる手法です。これは、ハイアンドロー( High & Low)戦略と呼ばれ、チラシを使わない EDLP( Every Day Low Price)と比較されます。 メーカーが戦略製品を市場に投入して、一挙にシェアをとりにいくことを狙う場合、思い切った低価格(戦略的な価格)設定を実施することもあります。戦略製品には、製造間接費の配賦を行なわず、製造直接費 +粗利益で価格を決め、低価格で市場参入するケースです。自動車や家電などで見られます。戦略製品に配賦できなかった製造間接費は、すでに好業績を上げている製品の付加価値で回収します。
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