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第4章 人が動く理由——ABCモデル

目次

目的——行動——結果というサイクル

前章まで、人間の行動原理の特性について述べてきた。人の行動はなぜリインフォースやペナルティによって左右されるのだろうか。

これを論理的に説明しうるのが「ABCモデル」という概念である。

この章では、人の行動をより正確な観点から見ていくことにしよう。

ABCモデルとは次の三要素からなる。

  • ・先行条件(Antecedent)…行動のきっかけとなる目的、行動の直前の環境のこと
  • ・行動(Behavior)…行為、発言、振る舞い
  • ・結果(Consequence)…行動によってもたらされるもの、行動した直後に起きた環境の変化のこと

問題行動を変えようとするとき、ABCモデルによって現状を分析することが大変役に立つ。

人がなぜある方法で行動するのか、それを科学的に理解すると、最小限のコストで最大限の効果を発揮するマネジメントシステムを構築できるであろう。

分かりやすく具体例から入ろう。

あなたはスナック菓子を勧められた。一つ手に取って食べる。とてもおいしかったので、もう一つもらって食べる。

これが典型的なABCモデルだ。

「スナック菓子を勧められた」という先行条件が「一つ食べる」という行動を生み、「とてもおいしかった」という結果をもたらす。

そしてこの結果が再び先行条件となって、「もう一つもらって食べる」という行動を生んでいるのだ。われわれはこういうことを日常的に繰り返している。

ABCモデルは因果関係と言い換えてもいい。

先行条件によって行動し、そこに結果が生まれる。いかなる行動もこの因果関係の上に成り立っている。

因果関係であるならば、行動は先行条件に影響され、結果は行動に影響されるのだろうか。

たしかにその通りだが、もう一つ重要な流れがある。先行条件は結果に影響されるという流れだ。

全体の流れを図9に示した。

これを見ると分かるように、先行条件・行動・結果の三つはサイクルを成している。「とてもおいしかった」という結果が「もう一つ食べる」という行動を生むのも、このサイクルがあればこそである。

先行条件としては、たとえば目的やゴール、ルール、仕事の説明、ポリシー、締め切りなどが挙げられる。目的Aのために行動Bをしたとき、得られた結果Cが望ましいものであれば、人は行動Bを繰り返すものである。得られた結果Cが望ましくないものであれば、行動Bをしなくなる。人間はそういう生き物なのだ。

人間に限らず、全ての動物がこのようにして行動を決めている。行動するのは望ましい結果を得ようとしているときなのである。

ところが、ほとんどの企業の従来のマネジメントでは、この「先行条件」しか見ていない。ゴールや数値目標さえ設定すれば部下は動いてくれるものと思い込んでいる。そして部下たちが思うように動かないと叱責し、罰を与える。これは大きな間違いだ。

行動分析の観点から見ると、最も重要なのはABCモデルで言うところの「結果」なのである。

部下が行動の反応率を上げる、つまり自発的に仕事に取り組むかどうかは、どのような結果を示されるかによって決まる。リーダーが示す結果によって大部分が決まってしまうのだ。

人の行動を方向づけるのは結果だということをぜひ理解していただきたい。

たとえ先行条件と行動が全く同じでも、結果によって次の行動は大きく変わる。こうしたABCモデルの概念は今まで日本になかったので、分かりにくいかもしれない。正しく理解するため、いくつかの例を挙げておこう。

ケースA:先行条件「片側四車線の道路。車は一台もいない

B:行動「アクセルを思い切り踏む」

C:結果1「気分爽快」

C:結果2「検挙された」

鈴木さんが車に乗り込んだ。目の前に片側四車線の道路が伸びている。車は一台も走っていない。思い切りアクセルを踏んだ。気分が爽快になった。

(結果1)佐藤さんが車に乗り込んだ。目の前に片側四車線の道路が伸びている。車は一台も走っていない。思い切りアクセルを踏んだ。そこへ警官が出てきて、スピード違反の切符を切られた。

(結果2)さて問題である。

翌週、彼らが再びこの道路を走ったとしよう。

同じ行動すなわち「思い切りアクセルを踏む」を繰り返すのはどちらだろうか?

ケースA:先行条件「評判のそば屋。出前もしてくれる」

B:行動「天ぷらそばを注文する」

C:結果1「おいしかった」

C:結果2「まずかった」鈴木さんが出前を注文した。

電話の応対はきわめて良かった。三十分後、天ぷらそばが届いた。評判どおりおいしかった。(結果1)

佐藤さんが出前を注文した。電話の応対はきわめて良かった。三十分後、天ぷらそばが届いた。麺が延び、すっかり冷めていた。(結果2)

再び出前を注文するのはどちらだろうか。

ケースA:先行条件「今日は結婚記念日だ」

B:行動「花を買って帰る」

C:結果1「喜ばれた」

C:結果2「無視された」

残業中の鈴木さんは、今日が結婚記念日であることを思い出した。しかし自分だけが先に抜け出すわけにいかない。せめて形だけでもと、夜遅くに花を買って帰った。妻はその心遣いに涙ぐんだ。(結果1)

残業中の佐藤さんは、今日が結婚記念日であることを思い出した。しかし自分だけ先に抜け出すわけにいかない。せめて形だけでもと、夜遅くに花を買って帰った。妻は「ありがとう」と言ったきりテレビに夢中になっている。(結果2)

来年の結婚記念日、再びプレゼントをするのはどちらだろうか。

ケースA:先行条件「先輩が叱られている」

B:行動「コーヒーを淹れる」

C:結果1「感謝された」

C:結果2「舌打ちされた」

鈴木さんの目の前で先輩社員が叱責されている。理不尽な理由であることは明らかだ。同情した鈴木さんは、場が収まったのを見計らってコーヒーを淹れた。さりげなく先輩の机に置く。先輩は無言で頷き、力ないながらも笑顔を浮かべた。(結果1)

佐藤さんの目の前で先輩社員が叱責されている。理不尽な理由であることは明らかだ。同情した鈴木さんは、場が収まったのを見計らってコーヒーを淹れた。さりげなく先輩の机に置く。先輩は舌打ちし、苦虫を噛み潰したような顔で「ミルクは要らないっていつも言ってるだろう」と吐き捨てた。(結果2)

再び先輩が叱られたとき、気遣いを示すのはどちらだろうか。

もうお分かりであろう。

望ましい結果が得られることを学習したとき、人は同じ行動を繰り返そうとするのだ。反対に、望ましい結果が得られないことを学習すると、同じ行動は積極的に繰り返さなくなる。

どれほど優秀なセールスマンも、成績を評価されなかったら行動の反応が下がる。これは必ずしも金銭でなくていい。

上司がたった一言でも「すごいぞ」と褒めれば、本人はまた褒めてもらおうとしてさらに行動する。数値目標を掲げるだけでは、通常、人はなかなか行動しないものである。

もちろん会社が「先行条件」を与えることは大切だ。しかし、部下が自発的に繰り返し行動をすることにより大きく影響するものは行動したあとの「結果」である。

「結果」次第でその行動を繰り返すかどうかが決まってくる。行動の八〇%は結果によって動機づけられている。先行条件が動機づけるのは全体のわずか二〇%に過ぎないのだ。

プロセスマネジメント、チェックリスト、マニュアルなど全てに言えることだが、行動を細かく分解して部下に与えても、部下はほとんど読もうとしない。なぜか。それは「積極的なリインフォース」を受けていないからだ。

チェックシートやマニュアルを読ませたければ、読んだという結果をポジティブに「リインフォース」してやる必要がある。たとえば、一回読むごとにポイントを与え、それをグラフにする。あるいは、バッジやシールを与えて数を競わせる。

これこそがリーダーの重要な仕事なのである。

リーダーは、部下が進んで「行動」を繰り返すように「結果」を「リインフォース」しなければならない。自発的な意欲を引き出すためのリインフォース因子をいかに用意するかということだ。

誰かが「結果」を出したとき、上司が何を与えるかによって職場の行動自発率が変わってくる。

ローパフォーマーをアベレージ社員に、アベレージ社員をトップ社員に近づけようと思うなら、この点をよくよく理解しなければならない。結果は多種多様な形で表れる。

上司のすること、言うこと、与えるもの、与えないもの、これら全てが部下の行動に影響をもたらすだろう。

セルフマネジメントを続ける技術

同じことはセルフマネジメントにも言える。ダイエットや禁煙、英語の学習などが続かないとき、人はしばしば「意志が弱い」の一言で片付けようとする。しかし、行動分析ではもっと別の見方をする。

ダイエットが続かないのは「結果」の部分を自分に与えていないからなのだ。ダイエットの失敗例をABCモデルで解釈してみよう。

A…先行条件「甘いものを食べてはいけない」

B…行動「ついケーキを食べる」

C…結果1「おいしい」

C…結果2「また太ってしまう」

C…結果3「自分はだめだ」

大好きなケーキを一口食べた瞬間、生クリームの濃厚な香りと上品な甘さが口の中いっぱいに広がる。これはきわめて典型的な「リインフォース」である。いけないと分かっていても、おいしいからという本人にとってポジティブな結果である。あの甘さをまた味わいたいという行動反応となりケーキを買わせるのだ。

しかし同時に、自責の念にも駆られているだろう。

ケーキを口に運びながら「これでまた太ってしまう」「自分は意志が弱い」「だめな人間だ」と考え、自分に失望してしまうかもしれない。

このときのいやな気分は「罰」として作用するわけだが、甘さによる「リインフォース」のほうがはるかに強いため、どうしても負けてしまう。

「なあに、すぐ太るわけじゃない」自分に言い訳をしながら、翌日もまたケーキを食べる。そして一週間、十日と過ぎていくうちに体重は確実に増えていく。

この「すぐ太るわけじゃない」が重要ポイントである。甘みというリインフォースは食べた瞬間に得られるが、体重増加という罰は受けるまでに時間がかかる。

この時間差こそが成否を左右するもう一つの大きな要素なのだが、これについては次章で詳しく述べることにしよう。

さて、この人にダイエットを成功させるにはどうすればいいだろうか。

ケーキがどうしてもやめられないのなら、毎日の運動量を増やせばいい。ここで行動分析を使えば、意外と簡単に体重を減らすことができるはずだ。

すなわち何らかの「リインフォース」によって運動を継続するのである。

A…先行条件「会社から帰ったばかり。かなり疲れている」

B…行動「二時間の有酸素運動をする」

C…結果1「さらに疲れる」

C…結果2「体重が減っていく」

結果1の「疲れる」は罰として作用する。結果2の「体重が減る」はポジティブなリインフォースとなる。これだけでは両者が拮抗していて、行動が継続できないかもしれない。そこで行動を支援するリインフォース因子を用意するのだ。

たとえば、体重の変化をグラフに表す。〇・五キロ減るごとにケーキが食べられる。一キロ減るごとにお祝いをする。こうしたリインフォース因子を作ることで、行動はより継続しやすくなる。

もちろん意志の問題もあるが、それは一般に考えられているほど大きな要素ではない。目標(先行条件)ばかり注視していると失敗しやすいものだ。

結果に目を向けたとき、セルフマネジメントの成功率は急激に上昇する。全ての行動には結果がある。そして結果は未来の行動に大きく影響する。結果を正しく理解すれば、人間の行動について今以上に分かるようになるだろう。

四:一の原則

行動を増やすものがリインフォースであり、減らすものが罰とペナルティである。

日本企業のように罰やペナルティを多用していると、自発的な意欲が減退していく。

なぜなら、社員が「絶望感」を学習するからだ。たとえば、いつも怒っている上司がいるとしよう。

彼は部下の行動を怒っているだけで、部下の人間性を否定しているわけではないのだが、叱られてばかりいる部下はやがて上司を嫌いになっていく。

そして次に職場が嫌いになる。これを「一般化の原理」(generalization)と呼ぶ。

このような連鎖を生まないためにも、罰やペナルティといった手段は組織の中ではなるべく使うべきではない。

行動分析に「四:一の原則」(4to1rule)がある。四つ褒めたら一つくらい罰を与える、あるいは叱る。この程度なら悪い副作用は出ないということだ。しかし、それでも罰やペナルティは極力使わないほうがいい。

アメリカの心理学者マーティン・セリグマン(MartinE.P.Seligman)が行った有名な実験がある。

彼は犬を鎖でつないでおき、逃げようとするたびに電気ショックを与えた。これを繰り返していると、犬は鎖を外してもその場から逃げなくなったという。人間の場合、罰やペナルティが電気ショックの代わりとなる。

「おまえは駄目だ」「やる気がない」「能力がない」といった言葉の罰だけでも、認知的にショックを受けてしまう。罰やペナルティを日常的に使い続けると、やがて部下は無気力になり、仕事に対する意欲が湧かない状態になるのだ。

行動分析では、これを「学習された絶望感」または「学習された無気力感」の理論と呼んでいる。

もう一つ例を挙げよう。

アメリカのナショナル・フットボール・リーグで、全チームの記録を三年間にわたって分析した。すると行動分析学的に面白い現象が見つかったのである。

ある試合で大負けしたチームは、次の試合で勝つ確率が高いだろうか。それとも負ける確率が高いだろうか。結論から言うと、負ける確率がきわめて高かったのだ。一度大負けしたら続けて負けてしまう傾向が強い。俗に言う「負けぐせ」である。

負けなくても、予想より結果が悪かったケースが非常に多い。

この傾向は、強敵と対戦する場合に顕著に表れる。まさしく「学習された絶望感」によるものだ。新人は最初に苦労させたほうがいいなどと言う管理職がいる。谷底に突き落とし、自力で這い上がってくる人はあとあと伸びると言いたいのだろう。

これは全く逆だ。成長するどころではない。一度谷底に落とすと負けぐせがついてしまうのである。新人の場合は経験が浅いから、負けぐせがつくと致命的だ。

最初に失敗を体験させると、いつまでも引きずることになりかねない。誤ったマネジメントは有能な芽を摘んでしまうのである。

大きなゴールの前に、「サブゴール」をいくつも用意する

絶望感を学習させることなく社員を育成するにはどうしたらいいのだろうか。簡単なことだ。小さなサブゴールを作ってやればいい。

どこの会社も何らかのゴールをセッティングしていると思うが、最終的なゴールの前に細かいサブゴールをいくつも用意することだ。無理なサブゴールでは意味がない。

ちょっと頑張れば乗り越えられる程度のものを設定する。小さいサブゴールを越えると達成感が生まれる。達成感は、ABC分析の中の「C=結果」に相当する部分である。これを得ると、同じ喜びを味わおうとして次のサブゴールにも果敢に挑戦する。つまり行動を繰り返すようになるわけだ。

上司の目的はあくまで達成感を味わわせることにあるので、ハードルを低めに設定することが肝心だ。「少し頑張ったら自分にも達成できた」という自信を植えつけるためのサブゴールだからである。

繰り返しになるが、行動の結果が次の行動を決める。

人は、ある行動をしたあとの結果次第で、その行動を繰り返すかどうか無意識のうちに決めている。したがって、いかにその「結果」を作ってやるかが大切なのだ。

大きなゴールへ至る途中にこうしたサブゴールがいくつもあると、達成感を経験してその行動を繰り返すようになる。

それだけでは達成感を与えるのが難しいと思われたら、サブゴールを越えるたびに何かちょっとしたもの、たとえばポイントなどを与える。

後ほど詳しく説明するが、ほうびとして本人が喜ぶものをプレゼントすればいい。行動を増やすか、行動を減らすか、どちらにするかを常に考えることだ。

行動を増やすためには「リインフォース」する。行動を減らすなら「罰」や「ペナルティ」を使うが、あまり多用すると部下が意欲を失うので良くない。

「行動の反応率」を上げ、組織として最大のパフォーマンス効果を発揮するためには、いかにして「積極的なリインフォース」をするかが重要である。

優秀な社員がやる気をなくす典型的場面

人がある行動をするのは、結果がそれをサポートしているからだ。日本では、多くの管理職が部下のやる気を引き出そうとして罰を使う。

ところが、すでに説明してきたように罰は行動を増やすものとはなり得ない。だから必然的に部下は望ましくない行動をする。

自分から進んで働こうとしなくなる。数字を操作する。上司の前でだけ働くふりをする。これを見た管理職はショックを受け、その部下を人前で叱責し、さらに罰を与える。悪循環であることに気づいていないのだ。

日本で言うところの成果主義はこの状態に陥りやすい。成果にしか焦点を当てないマネジメントは、行動と結果の関係を完全に見落としている。

そもそも上司の行動からして、部下の行動の結果と密接に結びついているのだ。権限を持つ人の行動は、部下たちの行動の先行条件や結果として機能する。

同様に、部下の行動も上司の行動の先行条件や結果として機能する。この関係性に気づいた上司は驚くに違いない。自分の行動が部下の行動によって左右されているのだから。行動によって結果がもたらされることを理解すれば、動機づけ条件がよりはっきりしてくるだろう。

ある会社に優秀な女性社員がいた。同僚たちの中でも圧倒的な実力を持ち、常に高いパフォーマンスを発揮して、驚くべき成果を次々とものにした。

ところが、彼女の仕事ぶりは次第に色あせていき、同僚と同水準のパフォーマンスがやっとという状態にまで落ちぶれてしまった。

一体何があったのだろうか。最も大きかったのは周囲のやっかみである。能力の差にプライドを傷つけられた同僚たちは、彼女を村八分にした。

彼女のパフォーマンスが落ちると、手のひらを返すようにグループに受け入れた。休憩に誘うようになり、一緒にお昼を食べ、仕事帰りの飲み会にも誘った。

これを彼女の立場で捉えると、ハイパフォーマンスに対しては罰が与えられ、ローパフォーマンスに対してはポジティブなリインフォースが与えられたことになる。

さらにまずかったのは、平均以上の働きに対して上司がポジティブなリインフォースを何ひとつしていなかったことである。つまり、必死に働いても同僚と同じ評価しかもらえなかった。

これに気づいた彼女は仕事の手を抜くことに決め、資格取得の勉強など別のところにエネルギーを向け始めたのだ。もちろん手を抜いても評価は下がらなかった。

そして皮肉なことに、手を抜くようになってから同僚との関係がうまくいき始めたのである。彼女はこの会社にいる限り、二度と本気で働かないだろう。あなたはこのようなマネジメントをしていないだろうか。

部下が望ましくない行動をとったり、パフォーマンスが低かったりすると、われわれはえてして「やる気がない」「能力がない」と決めつけてしまいがちだ。

しかし彼女の場合、もともと人並み以上に優秀であり、決して怠惰な性格ではない。したがって従来のような見方では説明がつかないのだ。

事情を知らない人は彼女を評して「態度が良くない」「なまけている」と言うだろう。結果とリインフォースの関係を学んだ人なら、彼女のとった行動はきわめて自然であると言うはずだ。

リインフォース因子も人それぞれ

昔から「十人十色」と言われるように、結果が行動に与える影響も人によってさまざまだ。何がリインフォース因子となるか分からない。そこには好き嫌いの感情が大きく作用している。ある人が好む結果を、別の人は嫌いだと感じるケースも珍しくない。

たとえば、皆勤賞を設定したら社員がさぼるようになったという笑えない事例が報告されている。

表彰制度の一環として皆勤賞を新設したのだが、そのほうびというのが皆勤パーティへの招待だった。社長をはじめ重役が勢ぞろいし、食事をしながら皆勤を称える。社員たちはひそかに話し合った。

「つまり一日だけ休めば、重役たちの前に座らなくて済むわけだ」彼らにとって、経営陣と同席することは罰みたいなものだったのである。

リインフォースと罰が人によっていかに違うかを示す例はほかにもある。女性プログラマーが抜擢されて管理職となった。プログラマー時代、彼女にとって最も積極的なリインフォースは同僚との競争に打ち勝つことだった。

常に競争意識を持つことで仕事の能率を上げ、速さと質の高さによって自分の優秀性を誇示していたのである。これは決しておかしいことではない。

ところが彼女の場合、管理職となってからも仕事が速くてうまいことを部下たちに示したがった。信じられないかもしれないが、部下たちが成功することは彼女にとって罰だったのである。

何かにつけて部下と張り合い、仕事ができる部下に対しては辛らつな批評を加えた。現役時代の自慢話を繰り返し、部下をこき下ろし、彼らの功績は一切認めようとしなかった。

作り話に聞こえるかもしれないが、これは実際に起きた事例である。一緒に働く人を打ちのめすことでリインフォースされている人は意外に多い。

家庭でも、子供とゲームをしていて頭に血がのぼる父親がいる。相手が子供だろうと部下だろうと絶対に負けたくないのだ。

このタイプが昇進すると、部下にケチをつけてばかりの上司になりやすい。ABCモデルにあてはめるとこのようになる。

A…先行条件「部下に負けてはいけない」

B…行動「仕事で張り合う」

C…結果1「やはり勝った。私は優秀だ」

C…結果2「負けてしまった。私のほうが優秀だということを思い知らせてやる」

何もしなくても行動は変化する

全ての結果は行動の後に生じる。この原則を延長していくと、上司がリインフォースしなくても部下が何らかの影響を受けるケースも起こりうる。通常、リインフォースされない行動は次第に減っていく。

大変な苦労の末に問題を解決したとき、上司がねぎらう気遣いさえも示さなかったら、その社員は努力を怠るようになるものだ。

さて、ここに安全手順に従わない社員がいる。ややこしくて時間ばかりかかるので、彼は安全手順などないほうがいいと考えている。

手順に従わなくても上司は罰やペナルティを科さないので、違反と知りつつも安全手順をすっ飛ばす。時間と手間が省けるというメリットがあるからだ。

このメリットは彼にとってポジティブなリインフォースに他ならない。上司は何ひとつしていないのだが、結果的に彼の違反をポジティブにリインフォースしているのだ。

ことほどさように、行動とリインフォースのあり方は人それぞれである。同じ行動を繰り返させるため、あるいはその行動をやめさせるため、何をすればいいかは分かりづらいことが多い。しかし細かく調べていくと、たいてい発見できるものだ。

重要なのはタイミング

結果は人の行動を増やしたり減らしたりする。したがって、行動に影響を与えるには結果に目を向けることが欠かせない。

アメリカでの面白い事例を紹介しよう。ある若手マネジャーが上司に切々と訴えた。女性社員の一人に腹が立っているというのだ。

彼女はよく事務所の前で待ち伏せしていて、マネジャーが出てくると仕事場へ引っ張って行く。そして不平不満をくどくどと並べ立てる。

「トイレが汚い」「パソコンソフトが時代遅れだ」「椅子をキーキー鳴らす人がいて気が散る」「仕事量の分配が不公平だ」……。

マネジャーが素直に対応して問題を解決すると、彼女はすぐに新たな問題を見つけてきて不満を口にする。きりがなかった。

彼女とのやり取りに膨大な時間を費やしたが、話し合いはいつも不満のオンパレードである。マネジャーがまともに相手になったことで「不満を訴える」という行動がリインフォースされてしまったのだ。

状況を把握した上司は的確なアドバイスをした。それによってマネジャーはこの問題からあっさり解放された。アドバイスはきわめて簡単なものであった。

彼女が待ち伏せしていたら婉曲に回避すること。彼女が仕事をしているときだけ席を訪れ、話を聞くこと。以前と同じ不満を口にしたら、怒らせないようにその場を離れること。

マネジャーがほんの少し行動を変えただけで彼女との行動に変化が表れた。彼女の不満はほぼゼロになり、それと反比例する形で生産性が急上昇したのだ。

そのときの効率の上昇率を示したのが図10である。さらに、彼女と同僚の人間関係も見る見るうちに好転していった。

アメリカのことわざで「きしる車輪は油を注される(こうしてほしいと自己主張しないと望んだようにしてもらえない)」というが、このような関わり合いは会社のあらゆるレベルで生じる。

彼らは、きしるタイヤをたくさん持っている。

マネジャーがそれらの問題解決に時間の大半を費やしてしまうと、職場から問題はなくならない。マネジャーの注意を引くことは労働者の大多数にとってポジティブな結果だ。マネジャーが構ってくれると知ったら問題を見つけてくる。

だからといって、注意を引こうとして意識的に問題を作っているわけではない。人間とはそういう生き物なのだ。この現象は職場ばかりでなく、家庭や学校などさまざまな状況で発生する。

常に文句を言っている人に対して、その都度、取り合うのは生産的でない。無視するのではなく、その行動は問題だとはっきり言う。あなたにとっても自分にとっても無益だから、いくら注意を喚起しても対処するつもりはない、ということも説明しよう。

ポジティブな発言が出たときは、必ずリインフォースする。パフォーマーが良くない習慣をなくしたら、その行動が完全に消滅するかどうかはあなた自身にかかっている。

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