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第4章 ゴールを脳にプログラミングする技術

高校教師をしていたルー・タイスが職を辞したのは、彼がワシントン大学の教授から人間が夢を実現するときの内的なメカニズムについて学んだことがきっかけでした。

教師をしていた間、彼は勤め先の高校でフットボール部のコーチをも務めていました。高校生たちをいかに指導すれば強いチームをつくれるのか。

彼はフットボール部の強化に、精力的に取り組んでいました。ワシントン大学の教授に教えを請うたのも、自分のチームを一流にしたい一心でした。

そのときルー・タイスは、大学教授が授けてくれた情報が自分のフットボールチームのみならず、あらゆる人と組織に適用できることを理解します。

そこで、彼は高校を辞め、その情報を使って人々を助け、組織を改善する手助けをすることをゴールに掲げてビジネスを立ち上げたのです。

コーチングという言葉も、コーチングビジネスという概念も、まったくない時代のことでした。ビジネスを立ち上げたころの状況を、彼は次のように回想しています。

「つまり、システムを変えたいということですね?」というのが周囲の反応でした。

「そのとおりです」「コンサルタントとしての経験はどのくらいお持ちですか?」「まったくありません」「博士号を持っているとか、何かそれに代わる経験があるとか?」「いいえ」「実地調査はどこでやりましたか?」「どこでもやっていません」「それでは、どんな資格をお持ちなのですか?」「正直なところ、何もありません」 こんな調子で何の資格も持たない私が、なぜ自分にこの目標が達成できるなどと思ったのでしょう。

私にそう思わせたのは、今の状況は私の潜在能力を正確に反映したものではないという確信でした。

ルー・タイスは、学んだ情報を使って人々を助け、組織を改善する手助けをするというゴールしか持っていませんでした。

どうやって実現するかという手段は、まったく持ち合わせていませんでした。そこで、売り込みに行くたびに、前記のようなやりとりをくり返さなければなりませんでした。それでもルーは、いくつもの壁を乗り越え、ゴールを実現していきます。

理由は、現状の外側にゴールを設定することでスコトーマが外れ、ゴールの達成に必要なことしか目に入らなくなったからです。私はすでにそのメカニズムを説明しました。

ただし、そのメカニズムを強烈に駆動させるためには、さらに重要なことがあります。それは人生のゴールを、いわば脳にプログラミングすることです。

ここでは、その方法について述べていきましょう。ここでルー・タイスがよく用いる「目的的志向」という言葉がふたたび登場します。

その意味するところを一言でいえば、あなたが本当に達成したいと望むことは、誰が何といおうと、どのような障害があろうと、いつの間にかごく自然に達成してしまうということです。

たとえば、ギターがうまくなりたいと強く望んでいる中学生の子どもは、親がどんなに反対しても、その望みを実現してしまいます。

ギターを買うお金がなければ誰かのお古のギターを調達するだろうし、練習場所がなければ公園の片隅を借りることでしょう。練習中に木枯らしが吹こうと、凍えるような寒さであろうと、痛くも痒くも感じません。

ギターを弾いてさえいれば幸せで、いつの間にか上達してしまうわけです。勉強でも、同じことがいえます。

自然科学でも社会科学でも、その仕組みの中に隠された真理を知りたいと強く望む学生は、四六時中、本を読み、考え、問題を解いています。

自由な時間が十分にない苦学生ならば、睡眠時間を削って勉強に取り組むでしょう。

周りの人は「苦労してたいへんだね」というかもしれませんが、本人にそんな気持ちはありません。なぜなら、それが楽しくてしかたがないからです。

そして、何年か後には、その分野でひとかどの学識者になっているわけです。歴史に出てくる偉人にも、強く望み、それを実現したといえる人物はたくさんいます。

たとえば、江戸末期にアメリカに渡り、帰国後に土佐藩校の教授や日米修好通商条約締結のさいに通訳を務めたジョン万次郎は、もとはただの土佐の漁師の息子でした。

彼は、 14歳のときに漁に出て遭難し、無人島に漂着したところを運よくアメリカの捕鯨船に救助されます。そして、アメリカに渡り、捕鯨船の船長の養子として暮らすようになります。

万次郎は、日本で寺子屋教育を受けたことがなく、当然、読み書きもそろばんもできません。にもかかわらず、彼はアメリカに渡ってから熱心に勉強を始め、オックスフォードビレッジスクールに入学して英語、数学、測量、航海術などを学びます。

卒業すると、彼は捕鯨船の乗組員として生活するようになりますが、西部で起こったゴールドラッシュに目をつけます。金の採掘の仕事でひと儲けすることを思い立ったのです。

そして、狙いどおりに大金を稼ぎ、その資金で漂流から 10年後、日本への帰還を果たしました。強運といってしまえばそれまでかもしれませんが、その数奇な人生を考えると、私は彼がどれほど強く故郷への帰還を望んだかということに思いを馳せずにはいられません。

ジョン万次郎の体験談は、『漂巽紀略』という本にまとめられています。それを読むと、彼がアメリカでとった選択と行動のすべてが故郷への帰還のためのものだったと、受けとめないわけにはいきません。

人種差別も経験し、相当の苦労をしたはずですが、むしろ彼の話は、とんとん拍子に人生が開けるファンタジーのような趣を漂わせています。

おそらく万次郎は、次の扉、次の扉と切り拓き、自らを前進させることが、帰国という夢を果たす唯一の方法だと理屈なしに感じていたのでしょう。

そして、健やかな気持ちで目の前の課題に取り組み、問題を片づけていったのではないかと私は想像します。

万次郎の存在は、人間が潜在能力を発揮し、離れ業のようなことをやってのけ、本当に望むことを実現してしまう好例といえるはずです。

これが、目的的志向というものです。人間は、本当に望んでいることがあれば、無意識のうちに目標に向かい、やり遂げてしまうわけです。このように、目的的志向とは、目的論的なプロセスを使って前進し、なりたい自分になることです。

人生のゴールを達成するために、これほど強い味方もありません。目的的志向を働かせれば、人生のゴールは自動的に達成されるといえます。

私とルー・タイスが開発した TPIEというコーチングプログラムでは、あなたが自らの力でこの目的的志向を埋め込み、それを働かせるように導いていくことが、じつは肝心要の技術になっています。

目的的志向を身につけるには、何が目的的志向を働かせるかについて知ることが早道です。

それを働かせる要素は、3つあります。

まず、イメージです。

先に挙げた、ギターがうまくなりたいと強く望む中学生は、たとえばジミー・ペイジやジミ・ヘンドリックスのようにギターをかき鳴らす、将来の自分の姿や演奏のイメージを持っているでしょう。

次に、言葉です。

ギターの練習にいそしむ中学生は、「これは難しいから、僕には無理だな」とはけっしていいません。

いつも「きっとできる」と考え、くり返しセルフトークでそう自分に語りかけています。

仲間と練習するときも、「このくらい弾ければ十分じゃないか」とはいわず、「練習すれば、俺たちはもっとうまく弾けるよ」といっているはずです。

そして最後は、情動です。

たとえば、ギターの練習をするときは、将来ステージに上り、大勢の前で演奏する自分を想像しながら、必ず「カッケー」とか「サイコー」と至福に包まれる感情を呼び起こしているはずです。

人間が目標を望むときというのは、必ずイメージと言葉、情動を使っています。誰もがまず、イメージと言葉によって目標を捉えます。次に、そのイメージと言葉が情動を呼び起こし、そのことが目標に、よりリアルで具体的な姿を与えます。そして、そのプロセスによって目標がリアルで具体的なものになっていくがゆえに、人間はそれを実現することができるのです。

これが、目的的志向が働く際のメカニズムです。目標がリアルで具体的な姿であればあるほど強い刷り込みが行われ、目的的志向がうまく働く、ということです。

言い換えれば、目的的志向とは、イメージ、言葉、情動によって、目標を脳にプログラミングすることなのです。人生のゴール達成という面から3つの要素をまとめると、次のようになります。

①イメージ

あなたがどのような将来像を望むか、新しいイメージを持てば、あなたの五感すべてがそのイメージに照準を合わせるようになります。見るもの、聴くもの、触るもの等々、すべてがこれまでとは違ってくるはずです。また、人生のゴールを定めると、頭の中で思い描く自分の収入レベルや社会的地位などの条件や環境が変化します。

そのため、いままで欲しかったものがまったく価値のないものに思えたり、現状の環境ががまんのならないものに見えたりするでしょう。現状に対する不満が高じるのは、とてもいいことです。

同時に、自分の将来の自己イメージを鮮明にしていきましょう。ここで重要なのは、イメージを膨らませることです。人生のゴールそのものは、すでにふれたように必ずしも具体的である必要はありません。

ゴールを達成したときの自分はどのような姿をした自分なのか、どのような環境で仕事をし、どのように人々を指導しているか、どのような家族とどのような時間を過ごしているか、将来の自己イメージをつくるのです。その自己イメージを鮮明にすればするほど、強い刷り込みを行うことができます。

②言葉

目的的志向をうまく働かせるためには、自分が使う言葉に注意を払わなければなりません。これまで説明したように、何を話すかは、あなたのブリーフをつくり出します。言葉の選択によって、あなたはよい方向にも悪い方向にも導かれるのです。

【セルフトーク】 あなたの頭に浮かぶ思考は、セルフトークの一部です。

考えが浮かぶたびに、世界がどうあるべきか、自分がどうふるまうべきか、あなたの基準を決めているといえます。

ルー・タイスも、こう述べています。

自分と話すときには、つねに現状の世界がどうなっているかを自分自身に告げています。認識し経験したことを解釈し、思考を通して頭の中にイメージをつくり上げます。その中には自己イメージも含まれます。

自分自身の思考と言葉で、自分のための環境と限界と基準をつくりだしています。

将来に対して新しいイメージを持つと、ゴール達成に必要なすべてが、「したい」「選ぶ」「好む」というセルフトークに変わってきます。

もし変わってこなければ、思い浮かべているゴールが本当に望む人生のゴールではない、ということです。

新しいイメージは、現状に対する不満をも鮮明にするはずですが、そのせいで現状への不満に囚われた思考をくり返し、周囲の人の悪口をいったり、自分が置かれた状況を呪ったりしてはいけません。周囲の人や環境のせいにする自己正当化すれば、現状を肯定することになってしまいます。

同様に、過去に起こった問題や現在のトラブルを、セルフトークの中でくり返すことは努めて避けるようにしてください。

過去の悪い経験を思い出せば、人間は必ず自らの過去に拘泥することになります。あなたにとって唯一最大の関心事は、人生のゴールを達成することしかないはずです。

それは現状から抜け出した未来の出来事であって、現状の内側にある現在および過去の出来事とはいっさい関係がありません。あなたがゴールを達成するために必要としているのは、未来のことを思い描き、考えることなのです。

【プライベートトーク】

人生のゴールを思い描くと、その夢を仲間に共有してもらいたいという誘惑に駆られます。とくに身近に親友やライバルがいると、互いに通じ合って、一緒に成長したいと思うでしょう。そのため、自分が思い描くゴールを、あなたは周囲の人々に気安く話してしまうかもしれません。

しかし、人生のゴールを 100%達成しようとするなら、これはよくないことです。

なぜなら、あなたの話を「ふん、ふん」と頷いて聞きながらも、「へえ、君は変わってるね。本当にそんな大それたことが実現できると考えてるの?」と、嘲りを返してくる相手がいるからです。

考えてほしいのですが、あなたがいままで不満足な現状にとどまりつづけてきた理由は、いったい何だったでしょうか。能力がなかったから? 発想が貧困だったから? それとも、視野が狭かったから? いや、そうではないはずです。

あなたが現状にとどまってきた理由をさかのぼっていけば、「君には、このくらいが妥当だ」と、誰かがあなたに教えたからです。

「そんなに高望みするものじゃない」とか、「人間は何事もほどほどがいいのだ」とか、あなたは親や学校の先生から、たえず吹き込まれてきたはずです。「君には無限の可能性があるのだから、とことんやれば必ずできるよ」、そう教えてくれた人がかつていたでしょうか。

つまり、それが、あなたの態度を決定しているわけです。夢を実現しようとするあなたの頭を押さえつける存在を、ドリームキラーといいます。

あなたが自分の夢を共有してもらいたくて話すと、それを聞いた人は、何らかのタイミングで必ずドリームキラーに変貌します。あなたは、相手が放つネガティブな言葉で、心を乱されてはならないのです。

人生のゴールは、そっと自分だけのものにしておきましょう。

それを伝えてもいいのは、ルー・タイスや私の指導を受けたコーチングの専門家にかぎるということです。

③情動

人生のゴールを設定するさいに、情動はとても重要です。

自己啓発系のセミナーでは、よく講師が「目標を設定し、自分のミッションをはっきりさせましょう」と話していますが、そのとおりにしても強い感情が湧きあがることはまずありません。

たとえば、「世界中からお客さんがやってくる、一流の料理店をつくる」ことを目標にし、「すべてのお客さんに、憩いと寛ぎとサプライズを提供する」というミッションを掲げた人がいたとします。

たしかに、その目標を達成した自分をイメージすれば、楽しい気持ちになるかもしれませんが、どことなく気が抜けたビールのような味気なさも感じるのではないでしょうか。

理由は、自分がどれほどうれしいか、自分がどれほどわくわくするかという視点から、目標を導き出していないからです。

ビジネスとして料理店を成り立たせることが優先され、それに合わせて目標とミッションが出てきているのです。その半面では、本当に自分がやりたいことは何かという点が、まったくないがしろにされています。

ゴールを実現する将来の自分の姿に強い情動を感じなければ、目的的志向も働いてはくれません。情動がなければ、ゴールに向かう情熱も湧いてはきません。

じつは、目的的志向が働くときは、ゴールを実現する自分の姿がいまの現実よりもリアルに感じられている、という状態が脳の中に生まれています。

この点を、少し説明しておきましょう。

先ほどの例でいえば、一流のギタリストになるという強い願望を持つ中学生は、自らに対する認識として、どこにでもいるありふれた中学生というゲシュタルトと、一流のギタリストというゲシュタルトが共存しています。

しかし、人間というものは、自分に対するゲシュタルトをひとつしか持つことができません。ありふれた中学生でもあり、一流のギタリストでもある、という分裂したゲシュタルトは持つことができません。

そのため、その中学生の脳は、より強いリアリティを持つほうのゲシュタルトを自動的に選択します。本人が意識する、しないにかかわらず、脳の情報処理として、その選択が行われるのです。

結果として、中学生が何としても一流のギタリストになりたいという願望を持っていれば、その将来のイメージのリアリティが勝ることになります。

そして、無我夢中で練習をつづけ、将来、文字どおりギタリストになってしまいます。

逆に、自分はありふれた中学生だという自己認識に、より強いリアリティを感じていれば、そのゲシュタルトが選択され、そのうちに一流のギタリストになる夢そのものを忘れてしまいます。

大人になって、「そういえば、ギタリストになりたくて夢中でギターの練習をしたこともあったなあ」と、子ども時代のことをふと懐かしく思い出すのは、過去に行われたゲシュタルトの選択の名残りです。

このように、人間はよりリアルに感じているほうのゲシュタルトを選択し、それに合致した行動をとります。とすれば、あなたは人生のゴールをリアルに感じなければなりません。ゴールを達成した自分というゲシュタルトを、脳に選択させなければならないからです。人生のゴールのイメージに情動を結びつけることは、とても大切です。

ルー・タイスも、こう指摘しています。

頭の中のビジョンや理想、目標、あるいは将来を、今の現実より強力でリアルにしたいと思うなら、感情の力を使うことが必要です。

よりうまく目的的志向を働かせるには、いくつかコツがあります。

ルー・タイスは、目的的志向を身につける8つの原則を挙げましたが、それを日本人的な感覚にアレンジして紹介してみましょう。

心の準備とは、人生のゴールのイメージに自分をなじませることです。ルー・タイスがいうように、すべての意味ある永続的変化は内から始まり外に広がっていきます。

変化は、頭の中での想像に始まり、その後に、現実世界に広がっていくということです。人生のゴールを達成したときを想像してみてください。

そのときのあなたは、現状のコンフォートゾーンとはまったく異なる、遠く離れたコンフォートゾーンにいます。コンフォートゾーンとは、心地よく感じ、ごく自然に行動や思考ができるゾーンのことです。

ゴールを達成したときのあなたは、たとえばお茶を飲むときも、駅前の喫茶店ではなく、たいへん高級な会員制クラブのラウンジで飲んでいるはずです。

また、そのラウンジで日常的に情報交換する相手は、大企業の重役だったり、中央省庁や外国大使館の然るべき人物だったり、ニューヨークタイムズやヘラルドトリビューンといった海外紙の日本支社長だったりする可能性があるはずです。

つまり、ゴールを達成したあなたにとって、そういう場所や環境こそが、一番快適で自然にふるまえる新しいコンフォートゾーンになっているわけです。

いま、現状のコンフォートゾーンにいるあなたは、この新しいコンフォートゾーンにいる自分のイメージに、強いリアリティを与えることができますか?「そんな自分の姿を考えるのは、なんだかこそばゆい」と感じるのではないでしょうか。

もし、そう感じるなら、あなたがまだ新しい自己イメージを獲得していないことが原因です。目的的志向を働かせ、ゴールを達成するには、まずその状態を解消しなくてはなりません。

現状のコンフォートゾーンから抜け出し、イメージとしてゴールに合致するまったく新しいコンフォートゾーンを獲得する必要があります。そして、まずは、その新しいコンフォートゾーンで快適にふるまう自己イメージをつくりあげるのです。

間違えてならないのは、行動することではなく、自己イメージをつくることが先にくるという点です。たいていの人は、人生のゴールを達成するために、先に行動を起こそうとします。

すぐに行動を起こそうとすれば、新しい自己イメージを固められないまま、新しい状況に飛び込むことになります。

すると、「どうすればいいか」ばかりを求めるようになり、その古いアティテュードが、ゴールの設定を「理想的な現状」の範囲の中に小さく押しとどめてしまいます。

このような状態では、目的的志向が働いてくれるはずもありません。新しい自己イメージを獲得するために、最初に準備をしてください。

人生のゴールを達成したときに自分がいる場所、自分が身につけている能力やスキル、話をする相手、立ち居振る舞い、態度などをひとつひとつ想像しましょう。

そして、その新しい自己イメージに、強いリアリティを感じるようにしてください。

テレビの CMが、どのような狙いで制作されているか、ご存知でしょうか。

ルー・タイスがよく例に挙げる新車の CMは、古いクルマに乗っているあなたに、強烈な不満を抱かせるのが一番の目的です。

たとえば、新車の CMでは、カメラが運転席の背後に回り込み、エレガントな運転席とフロントガラスの向こうに広がる美しい景色を映し出します。

助手席に座った、妻らしい美女はこちらに向かって笑いかけ、ときには後部座席から毛並みのいいブランド犬が顔を覗かせます。

新車の CMに描かれている世界観は、ほとんどの日本人の生活から、およそかけ離れています。当然、あなたは、自分の境遇と古いクルマに強烈な不満を抱くことになります。

とびきり美人の妻がいるわけではないし、ブランド犬が似合うような恵まれた住宅に住んでいるわけでもありません。

まして、ドライブに出かけても、 CMの映像にあるような絶景に出会う機会はほとんどありません。ところが、 CMは、新車さえ買えば、そのすべてが手に入るかのように錯覚させます。

CMを何度もくり返し眺めているうちに、あなたは頭の中に、新車を手に入れた新しい自分のイメージを刷り込みます。そして、あなたは自分の現状(古いクルマ)に我慢ならなくなります。それが、「誰が何といおうと、新車を買うぞ」という決断を引き出すのです。

CMに消費を煽られるのは馬鹿げたことですが、この方法は、じつは人生のゴール達成のために利用することができます。

ルー・タイスは、ずばりこう述べました。

「ゴールを設定するのは、頭の中に自分バージョンの CMを制作するようなものだ」と。どうするかといえば、ゴールのイメージの中に、いまの現実とはまったく異なる〝あなたが望む現実〟を精緻に組み込み、現状に対する不満を意図的に高ぶらせるのです。

すると、あなたの潜在意識は、もはや片時も現状に我慢することができなくなり、「誰が何といおうと、ゴールを達成するぞ」と考えるようになります。ゴールと現状とのあまりに大きな不一致が、問題解決やゴール達成に必要な創造的エネルギーを生み出すのです。

たとえば、ゴールを達成したあなたがお茶を飲むのは、会員制高級クラブのラウンジでなければならないとします。

あなたがそこで腰かけるのは、手入れの行き届いたイタリア製の革張りソファ、ウェイターが運んできたコーヒーの器は美しく磨かれたマイセン、コーヒーはモンドセレクションで金賞に輝いた採水地のミネラルウォーターで淹れられています。

ところが、現状のあなたがお茶を飲むのは、せせこましい駅前地下街の喫茶店です。椅子は硬くて座り心地がよくないし、あまりにもまずいコーヒーが出てくるため、使い古された器に文句をいう気も起きません。

「ここは、私にはふさわしくない。私は間違った場所にいる」 自らにこう語りかけ、ゴールのイメージでお茶を飲む自分の姿を思い浮かべます。

そうやって、ゴールを達成した自分のイメージを、自分バージョンの CMとして刷り込み、もう我慢できないと居ても立ってもいられないほどの強いビジョンを持つわけです。

新しいイメージを強く視覚化すると、人間はそれまでの古いイメージに不満を覚えます。不満は、欲求の源泉であり、その欲求は、あなたに必ず成長をもたらします。

目的的志向が、欲求に合致した、新しい環境を手に入れるよう、あなたを衝き動かすからです。目的的志向をよく働かせるためには、近くのゴールではなく、遠いゴールが必要です。

ちょっと考えると、この原理はすぐに理解できます。

たとえば、わりと簡単に達成できる、近くにある目標が人生のゴールだったら、何もいま、しゃにむにゴールに向かって突き進む必要性がありません。

興味の向くままあれこれ手を染めて、適当に道草をくっても、ゴールを達成できると考えるからです。そのため、人間は往々にして、何も達成することのない人生を送りがちです。これがとても遠くにあるゴールなら、そうはいきません。

片時も時間を無駄にできないと思い、ゴール達成に必要なことだけに集中しようとするはずです。

その結果、「よくこれほど大きなことができたね」と周囲の人々が驚くようなゴールを、一般に考えられているよりもはるかに速く、達成することができます。

ゴールを設定するときは、現状からできるかぎり遠く離れたところに設定しなさいと、ルーと私は教えてきました。

この場合も、やはり原理があります。

たとえを使えば、これは輪ゴムの原理と同じです。現状のあなたとゴールとに輪ゴムをかけたとすると、両者の間に距離があればあるほどゴムは緊張し、引っ張る力が強くなります。引っ張る力が強くなれば、ゴールは自ずと達成しやすくなります。ゴムの緊張を強めるには、いうまでもありませんが、ゴールをより遠くに設定することです。

つまり、ゴールをより遠くに設定すれば、目的的志向はよりうまく働き、あなたがゴールに向かうエネルギーも増していきます。

さて、人間の成長には、「そこまで」という限界がありません。ゴールに向かうエネルギーを絶やさなければ、人間は生きているかぎり成長することができます。

成長することは生きる最大の喜びですから、「これで十分だ」として次を望まなければ、なんとつまらない人生に急変するでしょうか。人生を最後まで楽しむために、ゴールの達成が見えてきたら、「その次」のゴールを考えましょう。

輪ゴムの原理が示すように、ゴールが近づいてくると、ゴムの緊張は緩み、あなたをゴールに引っ張る力は弱まっていきます。ですから、ゴール達成まで「その次」を考えないという態度ではいけません。

ゴールの達成が見えてきたら、より遠いところに「その次」のゴールを設定してやる必要が生まれます。そして、新たに自己イメージの変革に取り組み、できるだけ遠いゴールのリアルなイメージを自らに刷り込むのです。ゴールを達成したときの将来のあなたは、現状のあなたがふつうではないと思うようなことをしています。

ルー・タイスは、自分たちが行った盛大な結婚記念パーティーの例をよく挙げました。

そのパーティーは、 1500人を招いて 2日がかりで行われ、 18のビール樽と数えきれないほどのワインボトルが空になるという家族イベントです。

食べ物はテーブル料理のほかに、ローストポーク、チリ、ポップコーンなどが屋根つきワゴンの屋台によって提供されました。

集まった人々は、かけつけたカントリー歌手や地元ミュージシャンの歌と音楽を楽しみ、ラバ乗りやマスケット銃の射的といったアトラクションに興じるのです。

夫婦の結婚記念日を祝うこのようなお祭り騒ぎは、それ以前のルー・タイスにとって、やはりふつうのことではありませんでした。

お金をかければたくさんの余興を用意することはできますが、だからといって招待客が心から楽しんでくれるという保証はありません。

そこで、たいていの人は、「つまらないバカ騒ぎだった」と評価されるリスクを恐れて、「いつもどおり、小ぢんまり無難にやろう」と考えてしまいます。

しかし、ルーと妻のダイアンは、新しいことをしたいと考えました。そして、「こんなことをやりたいね」という項目を思いつくままに挙げていきました。

そこでルーとダイアンがやったことは、「こんなことは、ふつうではない。みんなも楽しいとは思わないよ」と、これまでなら否定的に考えた内容を、「いいね、わくわくするよ」と肯定することでした。

そして、「みんながリラックスして、楽しんで、盛り上がるところが目に浮かぶようだ」と、アイデアを視覚化していきました。

彼らの頭の中に生まれたリアルなイメージが、ふつうでないことをふつうにやること、つまり盛大なパーティーの成功に結びついたのです。

現状の自分にとってふつうではないことも、それを肯定するアファメーションを行い、成功したときのイメージを強く思い浮かべることによって、ふつうにできることに変わります。

つまり、いまのあなたにはほど遠い、冒険的なライフスタイルも、エキサイティングな事業も、それを内的な経験としてリアルに強くイメージし、その経験を潜在意識に刷り込んでいくことで、ふつうに実現できることになります。

目的的志向を働かせるためには、内なる現実のイメージを変えてやることが、とても重要なのです。人生のゴールを設定すれば、必ずそこに責任とリスク、そして自らに対する制約が生まれます。

一般に目標は、それが高ければ高いほど、達成のためにやるべきことの水準も高くなり、それをやりつづけるのは無理だという考えに傾きがちです。

そこで、「分不相応な目標は立てないほうがいい」とか「はじめのうちはハードルを低くしておくほうがいい」と考えてしまいます。

また、現状の外側にある、可能なかぎり遠くのゴールを設定し、ゴール達成のための決断を行ったときも、「本当に、こんなに大それたことをして、よかったのだろうか」と不安に思う人がいます。

たとえば、どのクルマが欲しいかを決め、代金を支払い、書類にサインをし、そのクルマが自分のものになったとたんに、「こんな高価なクルマを買って、失敗したんじゃないだろうか?」と考え始めるわけです。

これは、いずれの場合も、自分の選択と行動に逃げ道を与え、責任を回避しようとする無意識の反応です。

リスクと責任を負いたくないという気持ちが、「分不相応な目標は……」や「こんなクルマを買うなんて……」というネガティブなセルフトークを生み出します。その結果、あなたはせっかくの機会を逃してしまいます。

この「機会」とはなんの機会でしょうか? ずばり、目的的志向を働かせ、自らを成長させる、大きなチャンスのことです。そうしないためには、人生のゴールをポジティブに肯定するようセルフトークをコントロールしなくてはいけません。

自らに対して、「こんな決断ができる私は、すごいやつだ」と語りかけるのです。

物事を複雑に考える癖がついている人は、「私はすごいやつだ」という言葉がいかにも陳腐で浅はかなセルフトークに聞こえるかもしれません。

そういう人は、曖昧な形で責任とリスクを回避するほうが、知的で高尚なことのように錯覚しているのではないかと思います。

たとえば、「自分が大したやつかどうかよりも、自分のポジションを守り、不利益を被らないようにすることが先決だ」というように。しかし、責任とリスクを回避しようとする意識が働くとき、その人のエフィカシーはものすごく下がってしまいます(エフィカシーについては 5章でくわしく説明しますが、ここではとりあえず「自負心」と考えておいてください)。

じつは、エフィカシーほどゴール達成に必要なものはありません。

その証拠に、「自分はたいした人間だ」というエフィカシーを持っていない人は、自らの潜在能力を少しも引き出すことができません。

じっさい、仕事でもプライベートでも、大きなことをやり遂げられる人間というのは、学歴や計算高さ、知識の豊富さよりも、「私にはできる」というエフィカシーが高い人なのです。

それでも、あなたは、「決断して失敗したときは、どうすればいいのか」と悩むかもしれません。じつは、人生のゴールを設定した人に、失敗はありません。想像どおりの結果が出ないときも、人生のゴールに向かって歩んでいる以上、それは失敗ではないのです。

そのときは、「私らしくなかった。でも、いい勉強になった」と考えればいいだけです。そして、次に同じことが起こったときにどういう決断やふるまいをすればいいかをリアルにイメージし、内なる現実を変えていけばいいのです。

ルー・タイスは述べています。

「私たちは、自分が考えるものに向かい、自分が考える人物になる」 ゴールを設定し、ゴールに向かう自分を肯定したら、おかしな逃げ道を自分に与えてはいけません。

逃げ道を用意するネガティブな気持ちは、あなたの潜在意識を動かして、あなたの目的的志向を働かなくさせてしまいます。

人生のゴールを達成した自分をリアルにイメージすることは、将来の自分の価値を決め、その将来の自分にいま慣れるということです。

したがって、人生のゴールを設定したあなたはその瞬間から、ゴールを達成した将来の自分にふさわしいものを選び、その基準に慣れていかなくてはなりません。

たとえば、あなたが会社の仕事で大きな成果を上げたとします。すると、会社はあなたに期待をかけ、もっと大きな仕事を任せます。

そのとき、「チャンスかもしれないが、立てつづけに大成果を上げられないかもしれない」と考えると、成果を上げつづけることは難しくなることでしょう。

なぜかといえば、そのセルフトークは、「私は、いつも大きな成果を上げつづける能力はないかもしれない。あまり大きな期待をかけないでほしい」と語りかけているに等しいからです。

ゴールを達成した将来の自分なら、このようなセルフトークを行うはずはありません。

「この程度の成果は、私にはふつうのことだ」とか、「周りがもっと驚くような成果を、どんどん上げてやろう」と考えるでしょう。このように、人生のゴールを達成した自分の価値にふさわしい考え方をすることは、とても重要です。

それがエフィカシーを上げてくれますし、エフィカシーが上がれば、モチベーションも勝手に上がってくれます。そして、あなたがそういう状態になっていれば、潜在意識は創造性を発揮し、目的的志向を働かせてもくれます。

ルー・タイスは、将来の自分にふさわしい価値を決めるために、自分の身の周りを眺めてみなさい、といいます。

あなたの服装、職場、家、庭などを見回していけば、あなたが何を当たり前のことだと受け止めているかがわかります。

たとえば、職場のデスクは、ゴールを達成した将来のあなたが使うにふさわしいデスクでしょうか。

仕事から帰って疲れをとる風呂のバスタブ、あるいは明日の活力と健康を取り戻すための寝具は、将来のあなたにふさわしいでしょうか。

ふさわしくないものばかりに囲まれ、まだ身の周りには影も形もないふさわしいものもたくさんあるはずです。すべてのふさわしいものに囲まれている自分を想像し、その基準を頭の中に刻み、それらがそろった状態に慣れ親しみましょう。

すると、あなたは現状に不満を覚えるようになり、潜在意識はあなたをゴールの達成へと駆り立ててくれます。あなたが達成する人生のゴールに、そもそも限界は設けられていません。

どんなに遠く、手が届かないようなゴールでも、あなたがそれを心から達成したいと考え、信じていれば、いずれ実現してしまいます。

すでにお話ししたように、人生のゴールを遠いところに設定すればするほど、人間はそのゴールに向かって引っ張られていきます。

ゴールは遠ければ遠いほどいいわけですが、遠くに設定してくださいといっても、最初はなかなか思いつかないに違いありません。

そこでまず、いまの自分には大きすぎると思うようなゴールを設定することから始めましょう。

このときに、現実主義になって考えてはいけません。現実主義というのは、自分の能力を実際よりも低く見積もる考え方です。

10の能力があれば 8や 7を目標にし、 10を超えるような目標はいっさい想定しない態度のことです。現実主義の考え方を受け入れると、あなたはつねにじっさいよりも少ない果実しかえられなくなります。

では、目標はどれくらい大きければよいでしょうか。

ルー・タイスはよく、桁をひとつ上げることをヒントにするようアドバイスしました。

たとえば、ふだんのランチが 600円なら、 6000円のランチを食べる。1万円の靴を履いているなら、 10万円の靴を買う。300万円のクルマに乗っているなら、 3000万円のクルマを買う……。

具体的な数字から、大きな目標を考えていく方法です。

これはわかりやすい方法ですが、もうひとつうまい方法があります。ゴールの抽象度を上げるやり方です。

これは、年収 1億円というような具体的なゴールをつくるのではなく、自分が本心から望むやりたいことを、抽象度の高い形で描きます。

たとえば、「世界中の人々に安全な食料を提供し、喜んでもらう」、あるいは「エネルギー問題を解決し、核のない世界をつくる」など。

「世界から戦争と差別をなくす」という私のゴールも、そのひとつです。

もちろん、抽象度の高いゴールを達成した将来の自分は、世界中の人々から評価され、業績にふさわしい社会的地位と収入をえられる存在になっています。

具体的に収入がいくらと計算することはできないでしょうが、かなり大きなゴールを描き、それを達成した将来の自分のイメージを膨らませていくことができるはずです。

大きなゴールを掲げることができたら、それに向かって自分を成長させていきます。「私にはできる」と刷り込み、信じることで、あなたの成長は加速していきます。

人生のゴールを設定するさいには、それを達成するためのリソース(資源)のことを考えてはいけません。「リソースがなければ実現のしようがない」と考えるかもしれませんが、あらかじめリソースを考慮に入れる必要はないのです。

なぜなら、ゴールを設定すればスコトーマが外れ、いままで見えなかったリソースの在り処が見えるようになるからです。

「ゴールを定めさえすれば、認識することができる」 ルー・タイスのこの言葉は、地域の公園のゴミ拾い競争に参加するだけでその正しさがわかります。

拾いたいゴミとして、リストに馬鹿げたもの、たとえば歯ブラシ、眼鏡、ズボンのベルトなどをあらかじめ挙げておくと、それが目に入ってくるのです。

ルーは、こんなエピソードも披露しています。

私が自分の牧場でロデオ大会の催しを始めたとき、シアトルにいるスタッフに企画を任せました。

最初、彼らはブラーマン種の牡牛、カウボーイ、ロープ持ち、その他必要なものをどこで見つけたらよいのか、まったくわかりませんでした。

しかし、一度電話をかけ始めると、ロデオカウボーイも牡牛も、あらゆるところにいることがわかりました。そんなにたくさんいることを知らなかっただけなのです。最初は、一人のカウボーイも知りませんでした。

その後、私が「オーストラリアにビジネスを広げる」と言ったときの反応は、「オーケー、たいしたことじゃない。

シアトルでロデオ用のブラーマン牡牛を見つけられるなら、オーストラリアでビジネスを見つけることだって絶対にできるよ」というものでした。

はっきりと強く人生のゴールをイメージすることができれば、ゴミ拾い競争で歯ブラシや眼鏡、ベルトを見つけたり、初めてのロデオ大会でカウボーイやブラーマン牡牛を見つけたりするのと何も変わりません。

あなたのゴールに対して、周りの人が「どこで資金を調達するんだ?」「売り込み先はどこにあるんだ?」と訊ねてきたら、「どこかで」とだけ答えていればいいのです。

人間の知覚能力にはもともと限界がありますが、ゴールを設定しなければ、さらに制限されることになります。そして、ゴールを強くイメージしなければ、目的的志向は働かなくなり、さらに認知能力が閉ざされます。すべてのカギは、ゴールの設定と、ゴールを実現した将来の自分を強くイメージすることにあるのです。

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