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第3章 教えてはいけない

目次

第 3章教えてはいけない

1 指示をするから指示待ちになる

組織人事コンサルタントの私は、経営者から人材に関する悩みをよく聞きます。その中でも多い相談が「部下が指示待ちで困る」というものです。

「小倉さん、我が社の社員は指示待ちで困ります。一度、会社に来て彼らに活を入れてやってください」。そのように依頼されることが少なくありません。

そんな時、私はまずは会議を見せてもらうようにしています。普段の様子を見せてもらうことで実情がつかみやすくなるからです。すると、案の定、私に相談してきた社長が会議の場を独占しています。

9割、いや 9割 5分以上は社長が 1人でしゃべっています。これでは、部下が口出ししたくても、できるわけがありません。社員が指示待ちになるのは当たり前。

経営者が次から次へと指示を出しているのですから、社員はそれに従うよりほかに方法がないのです。これは笑い話ではありません。

「部下の主体性が低くて困ります」「責任感がありません」「後輩の指導をしようとしません」などはすべて同じ原因によるものです。上司がしゃべりすぎる。上司が部下に命令をしすぎる。それが問題の根っこであることが多いのです。

先日、ある会社の幹部研修で、先述した 5段階のフィードバックを課長さんたちに説明していた時のことです。会場の後ろの方で、研修をオブザーブ(見学)していた社長が大声で笑い出しました。何かと思って振り向くと、その社長はこう言ったのです。

「我が社に指示待ち社員が多い理由がよくわかった。私は社員一人ひとりに、『命令』のフィードバックをやりまくっているわい」

自分の頭で考え、自分の意思で行動する社員を育成したいと思うなら、部下にあれこれと教えてはいけません。指示、命令を通じて問題の答えを言ってはいけません。

教えずに空白を作り出し、部下たちの手でその空白を埋めさせる。それこそが人材育成の本質なのです。

ティーチングとコーチング

相手の主体性を引き出すコミュニケーションの技術としてコーチングというスキルがあります。このコーチングと対比されるのがティーチングです。両者を比較すると「教えないこと」の有効性がよくわかるのではないでしょうか(次の表参照)。

ティーチングとは、学校の教室で先生が授業を行うようなものだとイメージしてください。コミュニケーションの方向は一方通行。

生徒は黙って先生の教えを受け取ります。授業において、正解はすべて先生が持っており、それを生徒へ伝達する。まさに先生が生徒に、大人が子どもに教える関係です。

一方でコーチングは、その逆です。コミュニケーションは双方向。多くの場合、コーチは質問を投げかけるのが中心で、クライアントの方が多く話します。

2人の対話において正解はクライアントが持っているとコーチは信じています。そして、それを引き出すお手伝いをする。

コーチングの目的は、クライアントが自分で問題解決できるように支援することにあるため、このようなコミュニケーションになるのです。

本書が提案する「教えずに育てる」人材育成法は、コーチングの考え方に非常に近いと言えるでしょう。

そして、この育て方はこれまで学んできた「ほめてはいけない」「叱ってはいけない」「勇気づける」と組み合わせて活用した時に、さらに大きな効果を発揮します。

本章では「教えずに育てる」スキルをさらに深掘りして学んでいきたいと思います。

時と場合によって使い分ける

本書が提案する人材育成は「ほめてはいけない」「叱ってはいけない」「教えてはいけない」を基本スタンスとしています。しかし、あらゆる時、あらゆる場面でそうである必要はありません。時と場合によって使い分ける必要はあるが、基本は常に「ほめない」「叱らない」「教えない」に置く。それが現実的な位置づけです。

たとえば、先にお伝えした通り「ほめる」と「勇気づける」は完全にセパレートされたものではありません。2つの円は一部重なっています。ですから、そもそも完全に分離はできないのです。

また、あくまで基本は「叱らずに育てる」であったとしても、時にはどうしても叱らざるを得ないこともあるでしょう。「教えない」も同じです。基本的なスタンスとして「教えない」という軸を持つにせよ、教える必要がある局面も当然あります。

しかし、だからといって、なし崩し的に「どちらでもいい」と考えてはいけません。例外はあるにせよ、「ほめない」「叱らない」「教えない」に常に戻ってくるとしっかり意識してください。

前章の「叱ってはいけない」において、「出ては引く」という考え方に触れました。部下が間違った行動を取っていた場合や質問を投げかけても答えが返ってこない時、「誘い水」を投げかけて部下の意見を引っ張り出す。

そして、意見が出始めたところで、さっと元に戻る。これを「出ては引く」と表現したわけですが、「ほめない」「教えない」でも同様の態度が大切です。ほめては引く。

そして、「ほめずに勇気づける」という基本スタンスに戻っていく。教えることはあってもすぐに引き、教えないスタンスに回帰する。このように「出ては引く」を繰り返すのです。

基本的スタンスを変えずに臨機応変に現実に対処していく。それが本書で言いたいことと理解していただければ幸いです。

2 基本形は「ホワイトスペース」と「支援応需」

「教えるから部下が指示待ちになる。教えないで育てるのです」 私がセミナーなどでそのように話すと、多くの管理職の皆さんは「どうやって?」と不思議そうな表情をされます。

どうやら、「教えない =放置」と勘違いされているようなのです。もちろん、そうではありません。教えない、けれども、きちんとサポートをしなければいけません。

「教えない」人材育成は、具体的にはゴールの共有から始まります。W H A Tすなわち「何を」成し遂げるのかというゴール設定、目標設定を上司と部下で行います。

その際に、上司がゴールを押しつけないことが大切です。できれば部下が主体的に設定する。上司はそれに承認を与える形がいいでしょう。

次にそのゴールを達成するための手段、すなわち戦略・戦術を設定します。もしも、あなたの部下のレベルが高く、次期管理職候補なら、ここから先は本当に教えなくてもいいでしょう。H O Wすなわち「どのように」成し遂げるのかを自分で考えさせるのです。

このように「教えない」人材育成の基本形は、 WHAT(何を)は一緒に設定するものの、 HOW(どのように)は部下に委ねるというものです。

そうして「ホワイトスペース」(余白)を作り出すのです。ホワイトスペースができると、部下はそれを埋めようと考えます。そして自発的に行動を起こし始めます。

しかし、 HOW(どのように)をすべて部下に委ねるのは危険だと感じる上司もいるでしょう。もう少し支援が必要だ。そう考える場合は、先に学んだ「質問」や「誘い水」を使って、戦略・戦術を部下が考えるための支援をすればいいでしょう。

5段階のフィードバックの「事実」と「主観」を基本として使いながら、時々「誘い水」として第4段階の「提案」を織り交ぜるのです。そして、出ては引く。サッとホワイトスペースに戻る。これが「教えない」人材育成の基本形の1つです。

支援応需は事前告知が鉄則

さて、ホワイトスペースを作り出すべく、 WHAT(何を)を一緒に設定し、 HOW(どのように)を部下から引き出したとしましょう。

その後、上司は何もしなくてもいいのでしょうか。いいえ、そうではありません。この後も継続的にしっかりサポートを続けなくてはなりません。

しかし、甘やかしたり、世話焼きをしてもいけない。部下の自主性を尊重して、常に適度な距離を取り続けることが肝要です。

では、具体的にどのようにすればいいのでしょうか。「教えない」部下育成の基本形の2つ目は「支援応需」です

応需とは需要に応えること。すなわち部下から「教えてください」「手伝ってください」と要請があった時に初めて上司がそれに「応える」のです。

決してこちらから「教えてあげようか」と声をかけるのではない支援スタイルです。この「支援応需」を行う場合には事前告知が鉄則です。

部下に何も言わずに上司が支援応需と決め込んでも、部下は戸惑うばかりでしょう。

「急に課長が何も言わなくなったぞ。もう自分は見捨てられたのかもしれない」「部長が何も教えてくれない。きっと、やる気がなくなったんだな」 こんなふうに誤解されてしまうのがオチです。

そうならないように、支援応需を導入する際には、あらかじめ部下にそれを告げておくことが必要です。

「鈴木さん、私はこれまであなたに対して、ずいぶん余計なおせっかいを焼いてきました。よかれと思ってやってきたのですが、それが鈴木さんの自主性を損なっていたことに気づきました。だから、これからは余計な口出しを極力控えようと思います」 このように背景を含めてしっかりと事前告知をするのです。

そして、その後のサポート体制についてもきちんと説明しておきます。

「かといって、鈴木さんを助けたい気持ちがないわけではありません。もし、鈴木さんが私に教えてほしいことや、手伝ってほしいことがあれば、いつでも声をかけてください。私は喜んでサポートしたいと思います。いつでも声をかけてもらうことをお待ちしていますよ」 このように伝えるのです。

さらに、次のように考え方の背景や信念を付け加えれば、なおよいと思います。

「私は、鈴木さんが自分自身の力で課題を解決できると信じています。もしも、何らかの問題が起きたなら、鈴木さんは自分の力でそれを解決するか、もしくは、適切なタイミングで私に支援を求めてください。私がこのように言う理由は、鈴木さんの能力を信じているからです。理解してもらえますでしょうか」

「知識・技術」中心から「姿勢・意欲」中心の育成へ

これまでの流れでおわかりの通り、「教えない」部下育成で大切にしているのは、部下の自主性、主体性です。部下のスキル、すなわち知識や技術を底上げするのではなく、それらの大前提となる姿勢や意欲を高めるのが目的なのです。

人材育成の対象は大きく2つに分類できます(次の図参照)。

1つは、ピラミッドの上部に当たる「知識・技術」です。商品知識、業務技術、論理的思考など通常、狭義のスキルと呼ばれるものが1つ目の育成対象となります。

もう1つは、ピラミッドの底部に当たる「姿勢・意欲」です。この「姿勢」こそが本書のテーマである自主性、主体性や責任感です。

そして、この「姿勢・意欲」の育成こそが最も大切なのです。この姿勢・意欲がない部下に知識・技術を詰め込んでも、右の耳から左の耳にすぐに抜けてしまいます。

そもそも本人にやる気がないのですから、いくら教えてもすべてがムダになってしまうのです。

逆に、姿勢・意欲さえしっかり育成できれば、知識・技術の教育は不要になるでしょう。なぜならば、やる気に満ちた部下は、上司が教えなくても自分から勉強を始めるからです。

本を読み、上司に質問をし、自己投資で知識・技術をため込んでいくはずです。

人材育成の要諦は、姿勢・意欲の開発にあります。そして、それに最も有効なのが「教えない」育て方です。すなわち「ホワイトスペース」を作り「支援応需」の姿勢を貫くことが最良の道と言えます。

ちなみに、意欲を高めるのに最も効くのが「勇気づけ」です。そして、それを支えるのが「ほめない」人材育成であり、「叱らない」人材育成です。

これまで学んできた人材育成手法を駆使することで、自分の力で問題を解決できる人材が育ち始めるのです。

3 定例面談という「場」を作る

支援応需による「教えない」部下育成がホワイトスペースを作り、部下の自主性を引き出す。この考え方をお伝えすると、部下を持つ多くの管理職の方に理解してもらえます。しかし、中には、次のようにお困りの人もいるようです。

「部下に支援応需を伝えても、需要、すなわち『教えてください』という声が全く上がってきません。こちらとしては心配で、心配で…。危うく、以前の『ほめる』『叱る』『教える』に戻ってしまいそうになります」 どうやら、このような悩みを持つ管理職は少なくないようです。

そんな時、私は上司と部下が 1対 1で向き合いながら話をする「定例面談」をお勧めしています。定例面談とは読んで字のごとく、定期的に面談を行うこと。

たとえば、「毎週火曜日朝 9時から9時 15分まで」と時間を決めて、面談をするのです。

私はかつて、コンサルティング会社を経営していた時に、営業部長、コンサルティング部長、管理部長と週 1回この面談を続けていました。

そして、非常に大きな手応えを感じることができました。部下に対して支援ができている。部下の役に立ちながら、彼らの自発性や主体性という「姿勢」を開発できている。そうした強い実感がありました。

しかし、このように面談をすること自体が支援応需にならないのではないか、という疑問もあることでしょう。おっしゃる通り。

本来は、このような面談機会などを設けずとも、部下の方から「教えてください」「手伝ってください」と要請があるのが望ましい姿です。

しかし、それがないのであれば、そこは現実的に対応しなくてはいけません。定例面談自体が「誘い水」となり、「出ては引く」の「出る」部分になればいいのではないか。私はそう思っています。

「取り調べ尋問」は百害あって一利なし

定例面談は本来の支援応需ではありません。需要が見えない場合の次善の策。しかし、面談そのものの進め方を支援応需にすることは十分に可能でしょう。

面談の進行を全面的に部下に委ね、部下が主役、上司が脇役のスタイルにするのです。

「さあ、鈴木さん、今から 15分、面談をしましょう。この 15分は鈴木さんが自由に使ってください。私に質問したいことがあれば、何でもお答えします。お手伝いすべきことがあれば、何でも言ってください。私は鈴木さんを支援したいのです」 すると、鈴木さんは以下のように質問をしてくれることでしょう。

「クライアントの ○ ×商事さんについて相談に乗ってもらってもいいでしょうか。○ ×商事さんはある課題を抱えており、我が社の商品 Aを解決策として提案しようと考えています。この件について、助言をもらえませんでしょうか」 このように、教えてくださいという質問や、手助けの依頼があればしめたもの。

これに上司が応えることこそが支援応需になります。そのためにも、定例面談の進行方法を工夫することが大切です。決して上司が主役になってはいけません。

面談と聞いて、世のほとんどの上司が思い浮かべるのは、上司が主役の話し合いばかり。私はかつての自分に対する自戒の念を込めて、これを「取り調べ尋問」と呼んでいます。

取り調べ尋問とは、上司による、上司のための、上司が主役の面談です。通常は以下のように展開されます。

「鈴木さん、早速だけど、この前頼んだ仕事どうなってるの?」「はい、申し訳ありませんが、まだ着手できていません…」「え? まだ未着手? 何をやってるんだよ」「申し訳ありません。他の仕事に追われていまして」「他の仕事って何? そもそも昨日は何をしていたの? 一昨日は? その前は?」 まるで犯人を追い詰める刑事のようです。

だからこそ、私はこれを取り調べ尋問と呼び、「絶対にやってはいけない」とお伝えしているのです。恥ずかしながら、かつての私はこれを頻繁にやっていました。取り調べ尋問をすることにより、上司である私自身がスッキリし、心配事がなくなるからです。

しかし、その分、大きな代償を払わなければなりません。部下は上司から尋問されることにより、「やらされ感」でいっぱいになります。そして部下の自主性は失われます。

つまり、部下育成で最も大切な「姿勢開発」ができなくなってしまうのです。上司がスッキリする半面、部下育成の効果はマイナスになる。そんな本末転倒の面談の仕方が取り調べ尋問です。上司はこの過ちを犯さないように、部下が主役の面談スタイルをいつも心がけなければなりません。

接触頻度を上げて信頼関係を築く

遠距離恋愛がうまくいかないのには理由があります。人は会う回数、すなわち接触頻度が高くなると相手に好感を持ちやすくなります。

それは様々な心理学の実験からも明らかです。もしも恋敵が相手の近くにいたとしたら…。会う頻度が高い方が有利になり、低い方が不利になる。だから、遠距離恋愛はうまくいかないケースが多いのです。

もちろん、これは恋愛に限った話ではありません。上司と部下の信頼関係においても同じことが言えるでしょう。

上司と部下が 1対1で週 1回の面談を 2年間続けたら何が起きるでしょうか。ある大手 I T企業では、 2年前から全管理職が部下と週 1回、 1対 1の面談を続けています。また、経営トップも部門責任者と同様の面談をしています。

継続しているのは、その取り組みに効果があるから。効果がなければ、とっくにやめているでしょう。では、その効果とは何でしょうか。

売り上げ、利益などの最終成果と面談との間に直接的な因果関係があるかどうかはわかりません。業績に影響を与えるファクターは数多くあるため、面談のプラスの効果を証明することは極めて困難です。

しかし、明確にわかることとして、同社では「メンタルヘルス的な要因で仕事を休む社員が激減した」ということです。これは、先の心理学の実験の通りです。

つまり、上司と部下の接触頻度が高まったことにより、両者の信頼関係が深まった。そう考えることができるでしょう。

人材育成において、上司と部下の信頼関係は欠かすことができません。「子どもとの信頼関係を悪化させた後で、支援をしようとしてもうまくいかない」 アドラーの言葉です。

定例面談を支援応需で行うことにより、部下と信頼関係を築く。部下育成に有効な方法であることは間違いありません。

4 「あなたはどうしたい?」オウム返しの質問をする

支援応需が「教えない」部下育成の基本形です。

しかし、部下からの支援要請がない場合はどうすればいいかという疑問にお答えして、定例面談の導入を提案しました。

本項では、それと同じくらいに多い質問、「部下から『どうしたらいいですか?』と正解を求められた場合はどう対処すべきか」に対する答えを示したいと思います。

「どうしたらいいですか?」と質問されたら正解を教えればいいというほど支援応需は単純なものではありません。

「教えない」部下育成は、部下に自分の頭で考え、自分の意思で決定する力をつけてもらうのが狙いです。

いくら支援応需だからといって、部下の求めに応じて上司が正解を提示していたら、思考力はつきませんし、自主性も高まることはありません。

正解を伝えるのは、単なる甘やかしになってしまいます。「では、どんな手があるのですか?」 このように質問をしてきた上司の方に対して、私はいつも同じ返答をすることにしています。

それは「あなたはどうしたいですか?」というオウム返しの質問です。私にオウム返しの質問をされた人の反応は2通りに分かれます。

1つは勘のいいタイプ。

つまり「しまった! 自分自身が部下と同じことをやってしまった!」とすぐに気づき、同時に私の質問自体が答えになっていることを悟る人です。

そして、もう1つは、さらに墓穴を掘るタイプ。

「小倉さん、そんな意地悪を言わずに答えを教えてくださいよ」と突っ込んでくる。自分が批判している部下と同じことをしていることに気がついていないのです。

「どうしたらいいですか?」。部下にそう問われたら、まずはオウム返しで応じましょう。

「あなたはどうしたいの?」と。何より先に部下の意思を問うのです。そこで答えを言ってはいけません。

「答えを言った方が早い」という誘惑に耐え、「教えない」部下育成を優先してオウム返しの質問をするのです。「あなたはどうしたいの?」は「教えない」部下育成の最も基本となるスキルの1つです。

「どうすべき?」ではなく「どうしたい?」と聞く

オウム返しを行う際に気をつけていただきたいことがあります。それは「どうしたいの?」と問うオウム返しは OKですが、「どうすべきだと思う?」は禁句であるということです。

「どうしたいの?」という質問は「部下の意思」を確認する質問です。部下はそれに対する答えを考えることで、自らの頭を使うと同時に腹を固めます。「私はこうしたい!」という意思を持つことで、自主性や責任感を高めるのです。

一方、「どうすべきだと思う?」と問われた部下は瞬間的に「正解探し」を行います。「こう言えば上司が喜ぶかな」「こんなことを言ったら叱られそうだな」。部下は自主性や責任感とは対極的にある「依存」や「責任逃れ」モードに移行します。つまり、そこに部下の意思はありません。

あたかも試験問題の正解を考えるかのように、叱られずに済みそうな答えを「客観的」に探すのです。かつて私がリクルートに勤めていた頃、このオウム返しで徹底的に鍛えられました。

入社 2年目で経営のサポートをする事業企画室に異動になった時、私は経営というあまりの重責にびびってしまい、いつしか正解探しをするようになっていました。

「この課題を解決するには A案と B案と C案の3つの方法があると思います。それぞれのメリットとデメリットはここに書いた通りです。課長、どれがいいでしょうか? 決めていただけますでしょうか?」

自分の意思を明確にせずに上司に丸投げしてしまったのです。すると、上司はいつもオウム返しをしてきました。

「おまえはどうしたいの?」 入社 2 ~ 3年目のペーペーとも言える私に、経営の重要事項について「意思」を確認してくれたのです。

しかし、当時の私はその言葉の意味を理解せず、ズレた回答を何度もしてしまいました。

「はい…。コスト面から考えれば A案です。しかし、効果を考えれば B案だと思います」 上司はそこで許してくれるほど甘くありません。

あのね、小倉、『どうすべきか』なんて聞いてない。おまえは『どうしたいのか?』と聞いてるんだよ」 その質問はずしんと響きました。

べき論は他人事。しかし、「どうしたいのか?」という意思は自分事。言い逃れはできません。

私はその時初めて、自分が責任ある仕事をしているという自覚を持ちました。そして、その後も私は繰り返し問われ続けました。「おまえはどうしたいのか?」と。「どうしたい?」と「どうすべき?」。たった 3文字の違いが、大きな差を生み出します。

「どうすべきだと思う?」というオウム返しをしてはいけません。「あなたはどうしたいの?」と意思を問うてください。

それが相手の自主性、責任感を高めることにつながります。一番大切な姿勢を養うことに役立つのです。

「答え持ってこいルール」で職場を変える

「どうしたらいいですか?」「あなたはどうしたいの?」 このようなオウム返しが繰り返し行われるようになったら、これを部署のルールにしてしまってもいいでしょう。

私はそのルールをこう呼んでいます。

「答え持ってこいルール」

部下が上司に相談する際には必ず自分なりの答え、すなわち意思を持ってくること。

このルールが導入された後に、部下がうっかり正解を求める質問をしたら、たら、上司はこのように答えればいいのです。

「課長、どうしたらいいでしょうか?」「あれ? 『答え持ってこいルール』を忘れちゃったの? あなたなりの『私はこうしたい』を持ってこないと相談に乗ることはできないよ。もう一度出直してくれるかな」 やがて部下の間に「自分の意見がないと上司は相談に応じてくれない」という考え方が根付いていきます。

それはやがて「自分の意見を持つことが必要である」という風土に変わっていき、それが当然のようになっていきます。そうなればしめたもの。「教えない」部下育成が職場に定着し始めます。

5 悩む部下にヒントを与える「リソース補給」

「教えない」部下育成の基本形である支援応需の具体策の1つに「リソースを補給する」というものがあります。

リソースとは、資源のこと。

通常、経営の4つの資源といえば、ヒト、モノ、カネ、情報です。部下に対するリソースの補給とは、 4番目の情報のこと。

すなわち、知恵や知識という資源を部下に補給することにより、自分の力で問題を解決できるよう支援するのです。

これは知的リソースの補給であると同時に心のリソースの補給にもなるでしょう。つまり、先が見えずに不安を感じている部下に対する勇気づけになる。何度も述べてきたように、勇気とは困難を克服する活力のことです。

解決策が見つからずに悩んでいる部下は、行き詰まりだけでなく、不安や恐怖も感じていることでしょう。そこにヒントを与えるリソースの補給は、気持ちを楽にするクスリにもなるのです。

では、リソースの補給にはどのような種類があるでしょうか。

代表的なリソースは以下の3つに集約されます。

  1. (1)経験のリソース
  2. (2)視点のリソース
  3. (3)枠組みのリソース

経験のリソースとは、成功体験、失敗体験を伝えることで部下にヒントを与えるというものです。部下が悶々と悩んでいる時に、最も有効なのは抽象論ではなく、具体的な事例です。

上司は部下に比べて豊富な経験を持っています。それを部下に補給するのです。

「昔、こんな失敗をしてしまってね。それ以来、ここには注意するようにしているんだよ」「そういえば、 X社への提案ではこんなやり方が有効だったよ」 このように部下へ経験という情報を提供するのです。視点のリソースとは、ものの見方を提供し、新たな角度から部下に考えさせるというものです。

たとえば、「自社視点」ではなく「顧客視点」で考える、「短期視点」ではなく「長期視点」で解決策を探すというように、思考の軸をチェンジする提案をするのです。その際には抽象的提案だけでなく、具体的な質問を織り交ぜてもいいでしょう。

たとえば、「クライアント A社の B部長はどんな提案を喜ぶだろうか?」「もし、あなたが社長だったら、どの案を選ぶと思う?」などと質問するのです。

枠組みのリソース補給は、枠を与えるというよりは、むしろ枠を取り除く意味を持ちます。私たちは時に、ありもしない枠組みに縛られて、身動きが取れなくなってしまいます。「どうせ無理だろう」「予算がない」「時間が足りない」「過去に前例がない」などなど。

これらを勝手に「できない理由」に仕立て上げ、自縄自縛に陥ってしまう。勝手に思考の幅を狭めてしまっているのです。そんな時は、枠を取り払って自由に考えられるよう、助言を与えることが有効です。

「もしも、予算や時間が無制限にあったとしたら何をする?」「過去に前例のないアイデアでも OKだとしたらどうする?」 このようなアドバイスをするのです。

すると、行き詰まり感が解消し、スルスルと多くのアイデアが出てきたりするもの。そして、案外それらの中には「今の予算やスケジュールで十分実現可能なもの」があったりします。

このように、経験のリソース、視点のリソース、枠組みのリソースを補給しながら、部下の課題解決をサポートしてください。それこそが「教えない」部下育成になるのです。

「質問」「ひとりごと」「提案」の3つの伝え方

3つのリソースを部下に与える際、伝え方にも同じく3つの方法があります。

すなわち、

  1. ( A)質問、
  2. ( B)ひとりごと、
  3. ( C)提案

です。

そして、この3つは、上の方ほど「浅い関与 =教えない」に、下に行くほど「深い関与 =教える」に近づきます。

ですから、上司はできるだけ( A)の質問の形でリソースを補給し、それだけでは不足の場合に限り、ひとりごとや提案を織り交ぜるのが望ましいでしょう。

ここで言う質問とは、文字通り問いかけでリソースを補給する方法です。ひとりごととは、あたかもひとりごとのように部下に伝えるということです。

「そういえば、こんなやり方でうまくいったことがあったなあ」。こんなふうに、押しつけず、提案をせず、「主観」として部下に伝えるのです。

上司のひとりごとを参考にするかどうかは部下に委ねられます。緩やかな伝達といえるでしょう。提案は文字通り「こうやったらどうかな」と具体的に示す形です。

ここで大切なのは決して「命令」になってはいけないということです。あくまでも部下に選択の余地を与え、自分の意思で決めさせること。

つまり、上司の提案を部下が却下することがあってもいい。それがしやすいような雰囲気を作ることも重要です。

経験のリソース補給、視点のリソース補給、枠組みのリソース補給を、それぞれ質問、ひとりごと、提案として実践すると、以下のような言い方になります。

経験のリソース補給質問 →「似たような問題で、以前うまくいった経験はないかな? 何か思い出せない?」

ひとりごと →「以前、 A社でこんなやり方がうまくいったことがあったなあ」

提案 →「以前、 B社でやったやり方を応用してみたら?」

視点のリソース補給質問 →「 C社の X部長は、どんな提案をしたら喜んでくれるだろうか?」

ひとりごと →「自社視点じゃなくて顧客視点で考えるという手もあるね」

提案 →「 D社の Y部長は、たとえばこんな提案を喜んでくれるんじゃないかな」

枠組みのリソース補給質問 →「予算や時間の制約がなかったとしたら、どんな案がある?」

ひとりごと →「予算や時間の制約がなかったら、こんなやり方があるかもね」

提案 →「制約を取り払って、こんな対策を取ってみたらどうだろう」

いずれにせよ、ポイントは「決定を部下の意思に委ねる」ということです。押しつけにならないように気をつけながら部下をサポートしたいものです。

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