第3章最低限知っておくべき火消しのルール~怒りを鎮めるための基本原則~
クレーム対応の「5つのステップ」
ここからは、実際にクレームが起きたらどう対応すればよいのかについて、具体的に解説していきたいと思います。
まず、クレーム対応で失敗しないためには、次に示した「5つのステップ」を徹底する必要があります。
火消しをするための「つかみ」
第2章でも説明しましたが、クレームが起きたときに最初にやるべきことは、「お詫びする」ことです。
「クレーム対応のスタートは謝るようにして下さい」と講演や新規の取引先企業でお伝えすると、今までたくさんの反論とお叱りを受けてきました。
クレーム・コンサルタントなのに、お客様からクレームを言われます(笑)。
「えっ!クレームが起きたら謝るのですか?」「ありえないですよ。
私たちの業界では、むやみやたらに謝るものではないというのが常識ですよ」──。
このようなご指摘に対しては、当然ですが、私は反論しません。
「私のやり方が絶対に正しい」とは言い返しません。
でも、私自身が2000件以上のクレーム対応をやってきて自分で出した答えが「クレーム対応は謝罪から始まるのが最良の方法」なのです。
私自身、最初に謝らない方法と謝る方法を両方試してみて、クレーム対応は最初に謝ったほうが、お客様の怒りを鎮められることを確信しました。
実際に「クレームで困っています」「クレームを対応した部下がお客様をさらに怒らせます……」といった相談を受けたときに、企業担当者の方に現場での対応のやり方について確認すると、ほとんど共通して、クレーム対応の最初にお詫びの言葉をお客様に投げかけていません。
クレームに対して最初に謝らない企業の方には、「クレームは最初に謝る方法を試して下さい」と、いつもアドバイスしています。
そうすると、最初はとても抵抗を感じて躊躇される方も少なくないのですが、実際にそれを実践してもらうと必ずと言ってよいくらい口を揃えて、「クレーム対応は最初に謝ったほうが、すぐに解決しますね!」とおっしゃいます。
最初に謝ると、どんなメリットがあるのか?そうです。
最初に謝ると、クレーム対応に要する時間が圧倒的に短くなるのです。
仮に今まで約1時間かかっていたクレームの案件が5分程度で解決したり、場合によっては最初に謝っただけですぐに許してもらえたりすることもあります。
これが現実です。
最初に謝ることにまだ抵抗感がある方に質問です。
自分が実際にトラブルに巻き込まれてクレームを言ったときに最初に謝罪(お詫び)があるのと、ないのとでは、どちらの対応者を信頼しますか?例えば、遊園地で乗りたいアトラクションがあり、券売機で1万円札を入れたところ、チケットは出てきたのですが、お釣りが戻ってこなかったと仮定します。
すぐに遊園地の
スタッフに「お釣りが出てこないよ」と伝えて、「そうでしたか、大変ご不便をおかけしまして申し訳ございません」と丁寧に謝られるのと、「調べますので、しばらくお待ち下さい」とだけ言われて、その場を離れていく対応とでは、どちらに良い印象を持つでしょうか?謝罪もないまま戻ってきたスタッフが、券売機の中を開けてお釣りが出てこないのを調べているのをじっと待たされたりすると、不安な気持ちになりませんか?クレームを対応する人から、クレームを言う人へ、自分の立場を置き変えてみれば、自ずと答えは出てくると思います。
繰り返します。
クレームが起きたときに必ず最初にするのは「お詫び」です。
対応者がお客様にすぐ謝罪すれば、対応者のクレームを真摯に受け止める姿勢がお客様に伝わり、お客様も自分が相手にとって大切な存在であることを認識できるのです。
この安心感をお客様に持たせることが、クレームを大きくしたり、長引かせたりしない秘訣です。
ただし、気をつけていただきたいことがあります。
それは、謝り方を間違ってはいけないということです。
クレーム対応ならではの謝罪のルールをご存知でしょうか?
クレーム対応には「限定付き謝罪」を使用する
謝罪には大きく分けて2つの方法があります。
1つ目は、「限定付き謝罪」です。
この限定付き謝罪のポイントは、その名のとおり、限定的・部分的に謝るということです。
この方法が、クレーム対応で使うお詫びのやり方です。
2つ目の謝罪の方法は、限定付き謝罪の反対語(対義語)にあたる「全面謝罪」です。
「すべて私どものミスでした。
申し訳ございません」、これが全面謝罪です。
全面謝罪はお客様からのクレームを聴いて現場の状況を確認して、自分たちのほうにすべて非があるとわかった段階で謝る方法です。
例えば、企業が不祥事を起こしたときに行なう記者会見は、全面謝罪になります。
クレーム対応の初期段階では、お客様からの話をすべて聴いてみないと一体、誰が悪いのかはわかりません。
自分たちが悪いと思って話を聴いていても、お客様の思い込みや勘違いだったというケースもあります。
ですから、最初から全面的に謝る必要はありません。
まだクレームの原因が把握できていない状況では、部分的に謝ったほうが良いのです。
では、限定付き謝罪をするとして、どこに限定して、どの部分に対して謝ればよいのか?ここで、まだ状況を確認していなくてもわかっていることが1つあります。
それは、自分たちは良かれと思って、お客様に対してきちんと仕事をしていても、目の前で怒っているお客様は自分たちの仕事ぶりに満足していない、嫌な気持ちになっていることです。
そのお客様の怒りの気持ちに対して謝る手法が、限定付き謝罪であると理解してもらって結構です。
まだ事実は把握できていなくても、お客様の怒りの気持ちに対してのみ謝るのです。
この場合の謝罪は、お客様の感情を第一に考えた行為です。
お客様との心のつながりを最優先に考える、相手の心の痛みを察するということです。
お詫びすることでお客様の気持ちを癒し、そして安心してもらうのです。
全面的に謝罪するのではなく、お客様の残念な気持ちやガッカリされて悲しんでいるという部分に寄り添う、これが限定付き謝罪です。
先ほどの遊園地の券売機でお釣りが出てこなかった例で言えば、「せっかくご利用いただいておりますのに、ご不便をおかけしてしまい、申し訳ございません」という言葉を投げかけるとよいと思います。
ほかの例としては、常連のお客様から「店舗の従業員の対応が悪かった」というようなご指摘をいただいたのであれば、次のような限定付き謝罪となります。
限定付き謝罪「いつもお越しいただいておりますのに、私どもの対応にご満足いただけない点があったようで、申し訳ございません」この限定付き謝罪をした時点では、まだ店舗の現場を見ていません。
状況を確認してみないと、現場の対応が本当に悪かったのかどうかはわからないのですが、お客様がその店舗の従業員の仕事ぶりに満足されていないことは事実です。
であれば、お客様のネガティブな感情に寄り添う「お詫び(謝罪)の言葉」を投げかけるようにしてほしいのです。
頻出クレームに合わせて「お詫びの言葉」を準備する
限定付き謝罪の言葉や表現には、こうでなければいけないという正解はありません。
あなたの仕事の現場でよく起きるクレームのうち上位3つを思い浮かべて、そのクレームに対してどんな言葉がピンポイントでマッチするかを考えて準備して下さい。
例えば、次のような「お詫びの言葉リスト」を参考にするとよいと思います。
対面でも、電話でも、メールでもすべて同じです。
限定付き謝罪でどんな言葉を使うべきか、現場で起きるクレームを想定して最初のお詫びの言葉をぜひ準備して下さい。
「ひと言、謝ってくれれば良かったのに……」
第2章でも説明しましたが、お客様はひと言、謝ってほしかったのです。
それなのに、最初に謝罪がなかったことで、怒りの気持ちをさらに大きくしてしまうことが多いのです。
クレームは大きなトラブルが起きたときに発生するイメージがあるかもしれませんが、その前に小さな不満の積み重ねや最初の対応が良くなかったことで、お客様がずっと悪い印象を持ち続けていたというケースが少なくありません。
お客様自身の我慢の限界線を超えたときに、怒りの感情が炎のように一気に対応者側に降りかかってくるのがクレームです。
クレームを受けると身構えてしまい、「ウチが悪いわけではないかもしれないのに最初に謝ると、すべて認めたことになる」「謝ると責任を負わないといけない」「謝ることでお金を払わないといけなくなる」「訴訟になった場合に不利になる」などと考えて、謝罪をしない企業が実に多いのです。
しかし、状況を確認して自分たちが悪いことが判明してから初めて、お客様に謝っても遅すぎるのです。
先ほどの遊園地の券売機の例でも、1万円札が券売機の中に入っていたことがわかって慌てて、「申し訳ございませんでした」と謝ったところで、お客様は「だから最初から言っているでしょう。
なぜ最初から謝らないのですか!こんなに待たせて一体どういうつもりですか!!」と、謝らなかったことと、自分が疑われていたということで、お客様からさらに怒られてしまいます。
謝罪を先延ばしにしてしまうと、「これは悪質クレームではないか」という疑いの目が自分に向けられていると、お客様に思われてしまうこともあります。
やはり、謝罪は最初に行なうべきです。
「最初に謝罪がなかった」と怒るお客様は、「すぐに謝罪さえしてくれていれば許したのに」と悲しんでいます。
身近な例ですが、居酒屋で「ビールはまだ?」と言われて、「今、準備しています!」と解決策をすぐに出す店員の対応はNGです。
このような対応では、お客様はもっと腹が立ちます。
その後、料理が出てくるのが遅かったら、またクレームを言われてしまいます。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。
大至急持ってまいります」と申し訳なさそうな気持ちを表情に出して、ひと言謝ってから厨房に走っていくようにすると、お客様の怒りの感情を抑えることができます。
何度も繰り返しますが、クレームは立場を変えて考えると、どのように対応すれば賢明なのかがわかるはずです。
そして、とにかく初期対応が肝心です。
例えば、居酒屋のお客
様は、ビールが飲めないから怒るわけではなくて、時間を奪われているために怒っていることを気づけるかどうかが重要です。
少し驚かれるかもしれませんが、最近になって私のところにクレームの相談がよくある業種の1つが弁護士さんです。
一体、どんなクレームに困っているのでしょうか?よくあるケースとして、裁判に負けてしまうことでクライアントから反旗を翻されて文句を言われたり、示談交渉相手に「弁護士だからと言って、その話し方は何だ!上から目線でモノを言うな!!」と言われたりするそうです。
そのとき、「いえ、そんなつもりはございません」と否定してしまうのはNGです。
このように相手を否定してしまうと、関係がさらにこじれる確率が高まります。
その場合、「私の話し方で嫌なお気持ちを与えてしまい、申し訳ございません。
話を続けさせていただいても宜しいでしょうか?」などというように、限定付き謝罪を最初に入れれば、次に話を進めることができます。
逆に、お客様の怒りに対して「申し訳ございません」を連発して謝りすぎる営業マンや、謝ることに夢中になっている人がいます(笑)。
このような場合、「あなた、謝っていますけど、一体何に対して謝っているのですか!」とツッコミを受けることがあります。
お詫びの言葉を連発するのは「こうやって謝っているのだから許してほしい」と考えている深層心理の表れだと思います。
表面上は謝っていても、謝罪の気持ちよりも「早く終わらせたい」という気持ちのほうがお客様に伝わってしまうと、お客様をさらに怒らせてしまうだけです。
限定付き謝罪は、最初の1回だけでも十分です。
お客様が怒る気持ちに寄り添って、お詫びの言葉を投げかけることを意識して下さい。
「対立」を「対話」に変える
クレームの怖いところは、どんなに長年お付き合いのあるお得意様でも、新規でお申込みのあった初めての個人のお客様でも、苦情やクレームがあった時点で、そこには「対立関係」が存在していることです。
クレームの受け手側は、意図していなくても、お客様は攻撃的な姿勢で自分たちに向かってきます。
この対立関係を「対話できる関係」に変えないと、クレームはいつまで経っても終わりません。
だからこそ、最初に謝罪をするのです。
謝罪することによって、お客様に冷静になってもらって、話し合いができる状態に変えるのです。
クレームを言う側と言われる側でお互い協力し合って、どこを落としどころにするのかを探る起点にするために謝罪することを忘れないで下さい。
仮に謝らずに自分たちの言い分を述べたり、「それは違います」と反論したり、「そんなことを言われても、こちらにミスはない」という態度を見せると、対立関係がさらに激化します。
そうなると、お客様は自分がクレームを言った問題以前に感情的になって、その会社を懲らしめないと気が済まなくなり、理不尽なクレームを重ねて相手を困らせることが最大の目的に変わってしまいます。
こうなってしまうと、誰も得することはありません。
思い出して下さい。
クレーム対応の目的は、お客様の怒りを笑顔に変えて、クレーム客をファンに変えることです。
そのため、まず限定付き謝罪を入れて、お客様の怒りの気持ちのボルテージを下げなければいけません。
限定付き謝罪をするときには、相手の怒りの感情を抑える労りと配慮の言葉を使うことになります。
ある取引先の信用金庫の支店長から、「限定付き謝罪を使っても、初期対応がうまくいかなかった」とクレームを受けたことがあります。
詳しくお話を伺っていてわかりました。
その支店長が限定付き謝罪として使っていた言葉は、次のようなものでした。
限定付き謝罪のNG例「お客様に嫌なお気持ちをお与えしました件につきましては、申し訳ございません」皆さんもお気づきになったと思いますが、「は」が余計です。
一見、限定付き謝罪になっているように感じますが、お客様の気持ちに寄り添う限定付き謝罪とはかけ離れたものになっています。
「この件については謝るけど、ほかは悪くなかった」ということを強調
して、上から目線でお客様に主張しているようにも感じてしまいます。
特に、顔が見えない電話対応では、上から目線という印象をお客様に与えてはいけません。
そのためには、声のトーンにも少し意識する必要があります。
顔が見えないことをいいことに、ふんぞり返ったままで「申し訳ございませんでした」と言っても、お客様には反省の気持ちは伝わりません。
ポイントとしては、電話でもお詫びの言葉を投げかけるときには頭を下げるようにします。
声のトーンは、体の姿勢で変わります。
頭を下げて謝罪すれば、声のトーンが低くなり、お客様に反省の気持ちが伝わります。
よく街中でも携帯電話で取引先と話している営業マンが「ありがとうございます」と言って、電話なのにペコペコ頭を下げていますよね。
周囲から見れば少し笑える微笑ましいシーンですが、電話対応時の謝罪でも、これと同じことを実践するのが良いのです。
限定付き謝罪の応用例として、「ご親切にご注意をいただきまして、ありがとうございます」というような謝り方があります。
これは、お客様のクレームを親切心として受け取る伝え方です。
このように、お客様がクレームに時間も労力も使ってくれていることに対して感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。
話を聴く姿勢を見せることで主導権を握る
限定付き謝罪をマスターすると、クレームが起こっても謝っただけで許していただけることが増えてくると思います。
ただ、お客様の話をしっかり聴いてみないと、わからないことも多いのがクレーム対応です。
そこで、「お詫びの言葉」とセットで不可欠なのが、お客様の話をしっかり聴こうとする姿勢です。
クレームを聴くのは嫌なことかもしれません。
でもよくよく考えてみると、「お客様はなぜクレームを言っているのだろう?」「お客様に何があったのだろう?」という気になりませんか?例えば会社の会議で、自分はすごく良いアイデアだと思って、そのアイデアを会議で発表したところ、上司からダメ出しをされたら、腹が立ちますよね。
でも、腹を立てる前に、なぜダメなのか、その理由を知りたくはありませんか?クレーム対応も、これと同じです。
クレーム対応では、お客様に「自分たちの仕事のどこがダメだったのか?」を聴こうとする、この姿勢が、お客様の心を動かすのです。
目の前の問題から逃げない姿勢に対して、お客様は信頼の気持ちを持ち始めるのです。
対応者によっては「謝れば済む問題だ」と考えて、謝罪のみで済まそうとする方も少なくありません。
そんな態度がお客様に伝わると、「それで済まそうというつもり?」「それで、おたくはどうしてくれるの?」とツッコミを受ける苦しい展開になります。
この「どうしてくれる?」という言葉に対して、金銭を要求されている、と身構えてしまい、「そうはおっしゃられても……」「私どもができるのは謝ることだけです」と突っぱねてしまっては、せっかく対話ができるようになったのに、また対立関係に戻ってしまいかねません。
多くの場合、お客様はお金が欲しいからクレームを言っているわけではありません。
お客様は、対応する側の話を聴こうとしない態度に腹を立てているのです。
話を聴こうとするときには、次のような言葉をお客様に投げかけることになります。
聴く姿勢を見せる言葉「どのようなことがございましたか?」「お話を詳しく聴かせて下さい」まさにクレーム対応は、新聞記者やジャーナリスト、あるいは芸能リポーターであるかのように、「どんなことがありましたか、お話を聴かせて下さい」という聴く姿勢を見せるのが好ましいのです。
このとき、気をつけてほしいのですが、「何かございましたか?」で終わるのはNGです。
「何かあったから電話をしたんだ!」と、またお客様に怒られてしまうので、「ぜひ、聴かせて下さい」「どうぞ、お話し下さい」とお客様にしっかりお願いするようにして下さい。
第1章で紹介した、20代の女性が神社の神主さんに言った理不尽なクレームを例にすると、「恋愛運が上がると聞いて、何度も通ってお願い事をしたのに、男運が一向に上がらない!」というクレームに対しては、「ご期待に応えられないことが多々あったようで、申し訳ございません。
どのようなことがありましたか、お話を聴かせて下さい」と切り返すことになります。
〝自分事〟として捉えて、このような言葉を投げかけると、お客様は少し冷静になって話を始めてくれるはずです。
そうなれば、初期対応で失敗することはありません。
先ほどの例の神社の神主さんから聞いた話ですが、この女性は恋愛が自分の思いどおりにならなかった話を神主さんに聴いてほしかっただけだったそうです。
メモを取る
次に、お客様から話を聴くときに、対面でも電話でも必要なことは「メモを取る」ことです。
メモを取ることには、ある意味パフォーマンス的な要素もありますが、その最大のメリットは、自分たちが主導権を握ることができるということです。
謝って話を聴こうとして、さらにメモを取ろうとする対応者に対して、お客様は怒りの感情をぶつけ難くなるのです。
つまり、メモを取れば、お客様は「(対応者が)メモを取るというのに感情的になっていても仕方がない。
何があって、自分がどんな気持ちになっていて、どうしてもらいたいのかを順番に話さないと、正確な事情をわかってもらえなくなる」と考えてくれて、落ち着いて話を続けてくれるようになります。
また、対面のクレーム対応では、ずっとお客様の顔を見て話を聴くのは対応者にとって意外とストレスがかかるものです。
そのような場合には、メモに視線を落としながら、ゆっくりと書いていくと、お客様の話をペースダウンさせることもできます。
こうすれば、取材の話し手と聞き手というような関係性が生まれ、対立関係が一種の協力関係に変わり、ここからはお客様と対応者の共同作業に移ります。
メモを取らない現場やメモが不十分な現場からの報告を鵜呑みにしない
お客様が話したことのなかで印象に残ったキーワードだけをメモに書き残す人がいます。
しかし、それだけでは不十分です。
そもそも、メモをまったく取らない対応者もいます。
私も、お客様相談室の責任者時代に苦い経験があります。
それは、メモを取らずにクレームを受けた営業マンやコールセンターのオペレーターの報告を信じて判断すると、かなり高い確率でクレーム対応は失敗するということです。
クレームを受けた営業マンにはこう考える人もいます。
「こっちは、ちゃんとやっているのに、これくらいで怒るなんて変な客だな」「このクレームで自分の評価が下がるのは嫌だな」──、これらはある種の人間心理が働いているものと考えられます。
このような人間心理によって、営業マンから「谷さん、こっちは悪くないのに、これくらいのことで怒ってイチャモンをつけてくる変な客ですよ!」というような報告が上がってきます。
オペレーターに関しても、私のせいでもないのに、こんなことでクレームを言われている私のほうが被害者だ、と思っていると、「1時間近く、同じ話を何回も聞かされました。
えっ!これくらいのことで?って思うことばかりでした」といった個人的で主観的な意見だけが報告として上がってくるのです。
これらの報告を信じて「自分たちは悪くない」と即断し、その後、クレーム対応を引き継ぐと、お客様が言っているクレームの内容と私が受けた報告の内容とが随分違っていることが多く、そのほとんどが自分たちに非があったということでした。
こうした事態を防ぐためにも、メモを必ず取って下さい。
メモを取れば、事実と意見を分けることができます。
メモを取らない対応者は、残念ながら、先ほど述べたように自分の正当性や意見を主張します。
また、メモを取っている場合でも、キーワードだけをつなげて自分にとって都合の良いストーリーをつくって報告を上げてくるケースが少なくありません。
私は、メモの取り方が不十分だったり、まったくメモを取らなかったりする営業マンやオペレーターに、いつも次のように言っていました。
「事実と意見を分けて報告してくれませんか。
あなたの解釈や意見は後で聴きましょう。
それよりお客様が何とおっしゃったのか、その事実を正確に教えて下さい。
そうじゃないと、私が正しい判断をすることができないからです」お客様が話した内容が真実かどうかは後でわかってきます。
まず「何と言ったのか」と
いう事実を明確にしなければいけません。
メモを取りながら、お客様の話をすべてしっかり聴くことができれば、最後にメモの内容を復唱して、お客様に間違いないかどうかを確認することもできます。
お客様がクレームで指摘してくる内容は1つだけではなく、2つ以上の指摘をしてくるケースもあります。
そのような場合、メモをしっかり取らないと、把握すべき情報の漏れが出てしまったり、事実を間違って解釈してしまったりするリスクが高まります。
事実確認に時間がかかるときほど、メモが役に立つ
クレームを受けて事実を確認するときに、他部署や現場に確認を取らないといけないケースが少なくありません。
そのため、クレーム対応がすぐに終わらない場合もあります。
その場合は、クレームの内容の事実を書き残したメモが非常に役に立ちます。
と言うのは、最初にクレームを受けた日の翌日になると、お客様が前日とは異なる内容を主張してくるケースが多々あるからです。
そのようなケースでも、メモを正確に取っていれば、「お客様、今お話しされた内容は、昨日は承っておりませんでしたので、まず昨日のお申し出について話をさせて下さい」と言って、自分たちが主導権を握ることができます。
私の場合は、取引先企業や個人情報が特定できるお客様には復唱して確認を取ったメモの内容を清書し、メールに添付して送ったり、お客様のご自宅にFAXをしたりして、翌日は同じものをお客様と一緒に見ながら話をするようにしていました。
この方法をアドバイスした企業の担当の方から、「メモがあると、『言った、言わない』の余計なトラブルが起きないのでとても重宝しています」というお褒めの言葉を多数いただいています。
ここまでを整理すると、クレーム対応がうまくいかない主な理由は次の2つです。
(1)謝らないために、対立を対話に変えられない(2)メモを取らないために、事実と意見を分けられていない逆に言うと、この2つさえできていれば、クレーム対応の初期対応で失敗することはないということです。
私の経験上、最初から怒りまくって感情的になっているお客様や、興奮して強い口調で責めてくるお客様ほど、対応者側が冷静に対応していると、「自分だけ何を興奮しているのだろう」と冷静になって態度を軟化させる方がほとんどでした。
ここで、勘違いしないでほしいのですが、冷静に対応することは、事務的な対応をすることではありません。
「私どもの対応でお客様に嫌なお気持ちを与えてしまったのですね。
どうぞすべてお話し下さい」というように、お客様の気持ちを受け入れる姿勢で〝冷静に〟対応すると、そのお客様は案外、子供のように騒ぎ立てている自分に恥ずかしくなって、声のトーンがどんどん低くなっていくものです。
「担当者を代えろ!」のクレームを引き継いだらどうする?
営業マンの方からよく受ける相談があります。
それは、前任の営業担当者がトラブルを起こし、「担当者を代えろ!」とクレームがつき、自分が担当を引き継ぐことになった場合は、どこに注意すればよいのか、という相談です。
まずアウトな例を挙げましょう。
アウトな対応例お客様「前任の〇〇君、ミスばっかりで、おたくの会社は一体どうなっているんだ」対応者「私はしっかりやりますので、ご安心下さい!」お客様「しっかりやるって、何を根拠に言っているんだ。
前任がどんなミスをしたのか君は知っているのか!」対応者「え~、それは……」このような例において担当変更の挨拶の時点では、お客様の怒りが完全に収まっていないケースが少なくありません。
そのために、あなたの会社に対して不信感を募らせている状態のお客様に「ご安心下さい!」と言っても、お客様は信用してくれません。
次の例のように、前任者がどのようなトラブルを起こしたのかという〝事実〟をしっかり把握してから、お客様のところに担当変更の挨拶と謝罪に出向くのが良いでしょう。
OK対応例お客様「前任の〇〇君、ミスばっかりで、おたくの会社は一体どうなっているんだ」対応者「当社の対応に多大な失礼があり、ご不便をおかけしましたこと心よりお詫び申し上げます。
私どもに気持ちの緩みがあったことを深く反省しております。
今回ご指摘いただいた点につきまして、私が責任を持って改善に努めさせていただきます」このように、前任者の仕事のミスをしっかり謝罪したうえで、その事実を自分たちが把握していることを明確にして、今後は新しい担当の自分がどうやって問題を解消していくのかというところまで伝えられれば、お客様は、「前任者のミスの内容を認識しているし、同じことが繰り返されることはないだろう」という安心感を持つようになります。
今、日本の社会では、謝罪を求める傾向が強いと思います。
外国製エレベーターの会社が人身事故を起こした際、事故原因が不明だったため、外国人経営トップは謝罪せず、また不祥事の責任についても明言しなかったことで、問題を大きくしたことがありました。
この会社の初期対応は大失敗だったと言われても仕方のない事例です。
最近の日本では、被害者側は加害者からの謝罪を強く求めます。
それは、「自分のことを大切にしてほしかった」「尊重してほしかった」という気持ちが強いからです。
この心情的な被害については、金銭による賠償、返品やサービスのやり直しなどの物理的な手段では、解決することができません。
クレーム対応を、特別なビジネスコミュニケーションとして考えるのではなく、そもそも人と人とのコミュニケーションであると考えて、クレームを言ってくるお客様の気持ちに寄り添いながら、自分たちの非について素直に頭を下げるしかありません。
たった一人の社員の不誠実な対応がきっかけで会社全体のイメージが大きく失墜することもあれば、会社全体の不誠実な対応をたった一人の社員の誠実な対応で挽回することもできます。
それが、クレーム対応という仕事なのです。
「責任者を出せ!」と言われたらどうする?
講演や研修の質疑応答で必ずと言ってよいほど出てくるのが、「上を出せ!」「責任者を出せ!」と言われたときには、どう対応するか、という質問です。
いきなり冒頭に「上を出せ!」と言われた場合
アウトな対応例お客様「責任者を出せ!」対応者「責任者は不在にしております」お客様「不在だと!?携帯電話ぐらい持っているだろう。
すぐに連絡を取れ!」このように、責任者が不在にしているという返答をしてしまうと、「責任者を出す、出さない」というところに論点が変わってしまうことにお気づきになったでしょうか。
この状況では、「お客様が一体なぜ、『責任者を出せ!』と言っているのか?」「そもそも、お客様にどんなことがあったのか?」「クレームをなぜ言ってきたのか?」がわからなくなってしまいます。
こうなってしまうと、上司を出すまでクレームの事実確認ができません。
もっと言えば、対立関係を対話できる関係に変えられません。
私は、このようにクレームの冒頭でいきなり「上を出せ!」と要求されたときには、クレーム対応の初期対応と同じ対応法をおススメしています。
次の例のとおりです。
OK対応例お客様「責任者を出せ!」対応者「ご不便をおかけしたことがあったようですね。
申し訳ございません。
お話をお伺いし、上司にも報告をしたく存じます。
どのようなことがございましたか?」このように、クレーム対応の初期対応の基本である、限定付き謝罪と話を聴く姿勢から入る対応がベストだと思います。
特にやり方を変える必要はないのです。
「私がこの現場の責任者ですので、私が対応します」という対応方法を導入されている会社などもありますが、50%程度の確率で、お客様から対応者の見た目や役職で判断されて、「お前ではダメだ!もっと上を出せ!!」と言われるでしょう。
何があったのかわからない状況で、いきなり上席者を出すのは組織としてもリスクが高くなります。
もっと言えば、誰がクレーム対応をするのかをお客様から指図されて、そのとおりにする必要はありません。
主導権は、あくまでも自分たちが握るべきです。
上席者
は最終の切り札と考えて、すぐにクレーム対応に出ずに、最初の対応者が限定付き謝罪と話を聴く姿勢により、対立関係を対話可能な関係に変えることを優先するべきです。
「お客様は責任者を出してほしいと思うくらい大変なことだと思っている」と真摯に受け止めて、まずメモを取りながら話をしっかり聴き、上席者にも報告して情報共有するスタンスをお客様に示す必要があります。
また、クレーム対応で留意すべきポイントとして、〝お客様の言葉に引っ張られない〟という点があります。
第1章でも紹介した銀行のカウンターで50代の会社役員が次のように暴言を吐いて、怒りをぶちまけたクレームの事例で考えてみましょう。
「お前たちのせいで大損した!俺はお前たちに言いたいことがたくさんある。
支店長を出せ!」私自身も2000件以上のクレーム対応をやってきてわかったことですが、興奮しているお客様は「大損した!」「言いたいことがたくさんある」「支店長を出せ!」などと矢継ぎ早にいかに大変な問題が起きたのかをアピールしてきます。
この一連の言葉に動揺してしまったり、「上を出せ!」と言われてオロオロしたりしてはいけません。
このケースで言えば、「どれくらいの損失があったのか?」「言いたいことがたくさんあると言っても、それは何か?」「『支店長を出せ!』というくらい、お客様にとって本当に大変なことがあったのだろうか?」と考えられるようになってほしいのです。
そのように考えることができれば、次のような限定付き謝罪と話を聴く姿勢をお客様に見せる対応をとることができます。
限定付き謝罪と聴く姿勢「いつもお取引をいただいておりますのに、ご満足いただけなかったことがあったようで申し訳ございません。
どのようなことがあったのか、私に詳しくお聴かせいただけませんでしょうか?私から支店長に報告するようにいたします」このように窓口に出た対応者がお客様に伝えたところ、お客様の気持ちにしっかりと寄り添って受け止めようとする姿勢にお客様は少し安心されたようで、その後は冷静に話をされたそうです。
また、この銀行の渉外担当から提案のあった金融商品で損失を被ったことがクレームの原因であったことも判明しました。
「大損した!」というわりには、少ない金額だったようですが、損失があったのは事実でした。
それについても、この対応者は真摯に受け止め、次のような言葉をお客様に投げかけたそうです。
お客様の気持ちに寄り添う言葉「お客様のご期待に応えられず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
私どもがもう少しお客様に何かできることがないかを考えられていればと反省しています」この言葉を聴いたお客様は、次のように言って、最後はスッキリとした表情で銀行を後
にされたようです。
「大声を出して申し訳なかった。
金融商品の売買は自己責任ということはわかっていたけれど、この状況をわかってほしかったんだ。
話を聴いてくれてありがとう」お客様の問題をすべて解決することがクレーム対応ではありません。
むしろ解決して差し上げられることのほうが少ないかもしれません。
だからこそ、この例の対応者のように、心と心を通わせる意識を持って、クレームを受け止めて下さい。
対応している途中に「上を出せ!」と言われた場合
この場合は、初期対応で失敗したパターンです。
お客様は、「この人と話をしていても理解してくれないから、話してもムダだ」と思うと、「アンタではダメだ。
上を出せ!」と要求してきます。
私も実際に、自分がクレームを言ったケースで、この人では話が進展しないし、決裁権も持っていないから判断できないと思うと、そのように要求します。
クレーム対応の常套手段として、「人を代える」「時間を空ける」という方法があります。
まず「人を代える」という方法ですが、私はクレーム対応では、お客様と対応者の「相性」があると思っています。
もちろん、最初の対応者でうまく解決するのが理想ですが、うまくいかない場合に人を代える、つまり対応者を代えると、クレーム対応があっさり終わるケースがよくあります。
頑なに上席者を出さないという考え方に固執するより、上席の責任者がクレーム対応をしっかりできるのであれば、然るべきタイミングで責任者が出ていくというやり方を選択してもよいのです。
そのためには、組織として、「どのタイミングで責任者を出すか」という社内ルールを準備しておくことをおススメします。
責任者や管理者が対応に出ていくべきタイミングに正解はありませんが、初期対応がうまくいかなかった場合の対策として、主導権を握るためには、次のように伝える必要があります。
「人を代える」ときの切り返し「お役に立てず、申し訳ございません。
上の者に対応を代わらせていただきます」「承知しました。
私の一存では決められない点も多々ございますので、上の者も同席させて下さい」もう1つの「時間を空ける」というやり方は、やはり初期対応でうまくいかなかった場合になりますが、例えば電話でのクレーム対応の途中で「上を出せ!」と言われたときに
は、次のような言葉を使って、少し時間を空ける対応に切り替えます。
「時間を空ける」ときの切り返し「承知しました。
大変恐縮ですが上席の者が本日不在にしておりますので、今お話しいただいた内容をすべて報告したうえで、明日上席の者からご連絡させていただきます。
お客様のご都合はいかがでしょうか?」私の経験上、1日だけでも少し時間を空けることで、お客様の怒りがクールダウンすることが多くありました。
クレーム対応の途中で「上を出せ!」と言われた場合には、このようにして時間を空けるようにすれば、お客様の怒りを一旦リセットでき、少し冷静になってもらえるメリットがあります。
私の取引先のなかに、最初の窓口の担当者が対応してうまくいかないときに総務部長に対応者を代えるパターンと、最初の対応者が話を聴いてから、お客様に解決策を総務部長が翌日伝えることで時間を空けるパターンを使い分けるという対応マニュアルを採用している病院があります。
クレームEメールの初期対応で気をつけるべきこと
ネット通販の利用が急増したこともあり、Eメールによるクレームが爆発的に増えています。
クレームEメールでも初期対応で失敗しないために必要なことがあります。
それは、お客様が最初に目にするEメールの件名、つまりタイトル部分をお詫びから入るということです。
例えば、お客様からの注文商品と違うものが届いたというクレームEメールを受けた例で説明しましょう。
クレームEメールに対する返信のアウトな件名、OKな件名×当社の商品配送につきまして〇【お詫び】商品誤配送につきまして〇商品の誤配送があり、大変ご不便をおかけしましたこのように件名を見ただけで、メールの主旨がすぐに伝わるようにしなければいけません。
Eメールでクレームを言ってくるお客様も、電話などでクレームを言うお客様と同様に、きちんと対応してくれるかどうかを見ています。
Eメールでクレームの内容を送信して返信が戻ってくる時間を、お客様はイライラしながら待っているのです。
このとき、待っているという感覚よりも、待たされているという気持ちが強くなります。
したがって、クレームEメールでも、初期対応での失敗は許されません。
本文を開かなければ内容がわからないようなメールで、お客様をさらに不安にさせてはいけないのです。
件名、タイトルで、そのメールの内容が一目でわかるようにして、お客様の時間を奪わないようにして下さい。
クレームEメールの初期対応で失敗しないための注意点はもう1つあります。
それは、メールを返信する前に必ずメールの内容を紙に印刷して声に出して読むようにすることです。
パソコン上の画面で何度も黙読してチェックする人が多いと思いますが、それでは不十分です。
画面で見るのと、声に出して読むのとでは随分印象が変わってきます。
実際に印刷して声に出して読んでみると、意外に事務的で冷たい文章になっていることに気づく場合があります。
私は取引先には、Eメールでのクレーム対応時の返信メールは、作成した担当者以外の人に声を出して読んでもらって了解が得られてから、お客様に送信するようにアドバイスしています。
メール文面を声に出して読む利点は、ほかにもあります。
それは、画面上では見逃してしまいやすい誤字・脱字を発見できることです。
次の一覧は、私の取引先のネット通販会社で実際に起きた、誤字・脱字に気づかずにお客様に返信してしまった例です。
①の例では、お客様から「私は旅には出ていません。
おたくから通販で買い物しただけです」と冷たいツッコミを入れられ、⑤の例では、「変身」について、お客様から「明日の15時までに御社は生まれ変わる覚悟があるという意味で宜しいのですね」と嫌味のメールを頂戴してしまう結果に……(泣)。
このネット通販会社のお客様相談室の責任者は、「返す言葉が何も思いつかなかった。
お怒りのお客様をさらにガッカリさせてしまった」と、とても後悔されていました。
つまらないことで、お客様の信頼を失いたくないものです。
誰でも起こすミスなので、皆さんも十分に気をつけて下さい。
ここまではクレームEメールのデメリットや、気をつけてほしいポイントを説明してきましたが、クレームEメールにはメリットもあります。
それは、お客様とメールでやりとりする過程で、その内容の履歴が残るという利点です。
つまり、言った、言わないという事態を防げるということです。
また、Eメールでのクレーム対応をうまく行なえて、お客様を感動させることができれば、その対応内容(メール文面)をお客様が印刷して大事に持っていてくれている、という話をよく聞きます。
ある航空会社の広報の方から教えていただいたのですが、客室乗務員の対応に腹を立てたお客様が、お客様相談室宛てにクレームEメールを送ってきたそうです。
お客様相談室で状況を確認した結果、客室乗務員と地上勤務職員の間で連携がうまく取れていなかったことがクレームの原因だということが判明したそうです。
それを受けて、お客様相談室の担当者が真摯に謝罪し、お客様に嫌な気持ちを与えてしまったことに対する反省の気持ちを込めたメールを返信したところ、お客様は、そのメールの内容に感動され、次の搭乗時に空港のチェックインカウンターの窓口に先ほどのメール文面を印刷したものを持って来られて、「ちゃんと、私の気持ちをわかってくれてありがとう。
メールの内容を見て大変感激しました。
今後も宜しくお願いします」と笑顔で窓口の担当者に声をかけられたそうです。
炎上回避!SNS対策で絶対やってはいけないこと
Eメールだけでなく、最近では企業がSNSで発信した投稿が炎上して、「結果として誤解を招いた」と言い訳しているシーンをよく見るようになりました。
伝えたいことがきちんと伝わる内容なのかどうかを何度も見返してから、コンテンツを慎重に投稿しなければなりません。
企業の商品やサービスに関する好意的な情報だけでなく、ネガティブな情報が、ツイッター、フェイスブックを中心としてSNSによって世の中にあっという間に広まる昨今。
SNSは、企業としても慎重にならざるをえないメディアだと思います。
SNSは本来、お客様と繋がり、ファンにするうえで有効なメディアです。
ただ、ネガティブで、企業にとっては望ましくない情報を拡散されると、企業のブランドイメージ低下の危機に直結する可能性があり、そうした事態への対策が経営課題の1つとなっています。
実際、ツイッターでネガティブな情報を見たユーザーがリツイートして拡散したり、SNS上の情報を職場や家庭で悪い口コミとして広めたりするケースも当たり前のように発生しています。
特に、ツイッターは匿名で投稿できるため、日常的な愚痴に近い内容が、リアルな声として世の中に広まってしまうことさえあります。
「〇〇会社のコールセンターの対応は不親切で最悪だった」「〇〇引っ越し会社のトラックは運転が荒い!」「〇〇病院で看護師にこんなありえない応対をされた!(拡散希望)」など、いわゆるネット告発ともとれる内容が次々に書き込まれています。
では、誰もが見ることができるSNSや掲示板で、自社に対するネガティブな投稿が見つかったらどう対応すればよいのでしょうか。
SNSだからと言って、対応のやり方が大きく変わるわけではありません。
ネガティブな投稿のなかには、明らかに真実ではない悪意に満ちた書き込みがあるかもしれませんが、そのような悪い書き込みに対しても感情的にならず、冷静に受け止める対応が必要になります。
例えば、書き込まれた内容は、自分たちの不手際によるものか否か、説明が不足していなかったかどうかを見極めることも必要です。
仮に、自分たちの説明が十分ではないと判断したのであれば、自社サイトの表記方法を改めたり、公式ホームページ上で「よくあるご質問」というQ&Aのコーナーに加筆修正の情報を追加したりするなど、業務改善ができる良い機会と捉えて下さい。
また、ツイッター上で書き込まれた内容が自分たちの不手際による可能性があると判断した場合であれば、企業の公式アカウントから限定付き謝罪で「ご満足いただけない点が
あったようで申し訳ございませんでした」などと、誠実なコメントで謝罪回答すれば、ネガティブな情報を最小限に食い止めることができます。
SNSサイトの不満投稿を見ていくと、不満や不平を軽い気持ちでつぶやいているケースも多いのですが、実は投稿者は書き込む前に、店頭や電話でクレームを言っていたというケースが少なくありません。
つまり、店頭でクレームを言ったのに、「きちんと対応してくれなかった」「謝罪もなく言い訳された」「クレーマー扱いされて腹が立った」──、といった悔しさを不満投稿として書き込むケースが多いということです。
そのため、SNSや企業の公式サイトの掲示板に書き込む、誰もが見える場所、マスコミにも情報が流れるように投稿する現象が増えているのです。
企業側はSNS上で自社のネガティブ情報をモニタリング(監視)して見つけた場合、担当部署にまず連絡してから、他部署を含め社内全体で情報共有して対策を講じるのが良いでしょう。
SNSは個人による情報発信ですが、フォロワー数の多い人物や影響力を持つ人物のコメントは炎上を招くおそれがあります。
社内体制を整えていち早く、スピードを持って対応に臨めるようにして下さい。
SNS運用担当者必見!実際にあったアウトな対応
不満投稿に対するNG対応×公式フェイスブックに書き込まれた「接客対応がヒドい」という投稿を削除する不満投稿された内容を一方的に削除するというのは、クレームの電話対応で言えば、お客様が話している途中で黙って電話を切るのと同じです。
企業側にとっては、ほかのお客様に「見られたくない内容」であるかもしれませんが、書き込みを削除された側のお客様は「無視された」「またヒドい扱いを受けた」と怒りに震えるでしょう。
この誠意のない対応を受けたお客様は、マスコミに情報を告発する可能性もあります。
とても危険な対応なので、絶対やめて下さい。
もし削除するなら、自社でSNS対策のガイドラインをつくり、そのルールに則った対応をするようにしましょう。
例えば、販売スタッフの個人が特定されてしまうような記載があった場合や、従業員に対する誹謗中傷など人格的否定があった場合は、その書き込みを削除しても大丈夫です。
このようなケースでは、削除した理由もはっきりしています。
この書き込みの削除に対して文句を言われたときには、「当社として悪質な書き込みであると判断しました」と毅然とした態度をとっても構いません。
不満投稿に対するNG対応×「この商品、買ったばかりなのにすぐ故障した。
もう二度と買わない」のツイートに反論するこの不満投稿をモニタリングで見つけたSNS運用担当者が、「もしかしたら、お客様の商品のご使用方法に問題があったのではないでしょうか。
説明書のご確認をお願いします」と返信したケースが実際にありました。
このSNS運用担当者のように、心のどこかで「自分たちは悪くない」と考えていると、先ほどの例のように反論する返信をしてしまいます。
この企業側の対応では、お客様を一方的に否定することになってしまいます。
お客様の悲しんでいる感情に寄り添えていません。
仮に企業側が正しくても、とても危険な対応です。
当然ですが、お客様もこのまま黙ってはいないはずです。
実際、その投稿をされたお客様は、「じゃあ、家にあるから今から見に来いよ」と応戦していました。
誰もが目にするSNS上で、まさに「公開のケンカ」が勃発したのです。
このやりとりを見た一般ユーザーはどう思うでしょうか?見ている側も決して良い気持ちにはなりません。
仮に、企業側の反論が正しい場合でも、お客様とケンカすること自体、その企業ブランドを一気に失墜させるだけです。
この1つの反論によって、目の前のお客様だけではなく、やりとりを目撃した将来の見
込み客までも失ってしまうのではないでしょうか。
誰もが目にするSNSでは、不満投稿であっても慎重に対応しなければいけません。
悪い書き込みこそ、PRの大チャンス!
一方で、SNSは誰もが目にするメディアだからこそ、対応次第では自社のPRに変えることができ、新規のお客様を増やす絶好の機会にもなります。
例えばホテルの場合、口コミ投稿欄に「ほかの人が良い評価をしていたほど、たいしたことはなかった。
施設自体も汚くてイマイチだった」と書き込まれたとしましょう。
これ、腹が立ちますね。
「ウチのホテルは古いかもしれないけど、汚くはないぞ!そんなことを言うのはアンタだけだよ」と反論したくもなります。
こういったケースで、お決まりのテンプレートを使って「ご意見を今後の参考にさせていただきます」と心のこもっていない返信をする担当者もいますが、テンプレートで返信するくらいなら、私だったら次のように、お礼と限定付き謝罪を入れます。
お礼と限定付き謝罪「数多くあるホテルから当社をお選びいただき、ありがとうございます。
せっかくご利用いただきましたのに、ご期待に応えられず申し訳ありませんでした」続いて、次のように、たたみかけるようにします。
ドサクサ紛れのPR「当ホテルではトータルで120項目にわたるチェック項目を設けて毎日真剣に清掃・点検に取り組んでおりますが、まだまだ十分ではなかったようです。
次回お越しいただいた際に同じお気持ちをお与えしないよう清掃のやり方を見直してまいります」このように、自分たちの至らない点を真摯に受け止めて反省する姿勢を見せながら、何気なく120の項目をチェックしていることと、真剣に清掃をしていることをアピールし、さらに万全を期していくという意気込みを伝えるようにします。
反省して、次はどうするかという明確な意思を伝えるのです。
そうすれば、今後さらに良くなるというPRにもなります。
私はいつもこのやり方を「ドサクサ紛れのPR」と名付けて、いろいろな企業に実施するように提案しています。
この手法の良い点は、残念な気持ちでサイトに書き込みをしたお客様の心を癒すだけでなく、その書き込みを見た将来の見込み客、つまり新規客に向けたPRになっているというところです。
まさに不満投稿という向かい風を、ブランド向上と新規顧客の開拓という追い風に変える、効果抜群のPR方法だと考えています。
常識外れの悪質な書き込み、意味不明な書き込みはどうする?
一方で、なかには冷やかしや恐喝まがいの悪質な書き込みがあるかもしれません。
ネガティブな感情や不満を超えた、度がすぎるような悪質な書き込みにも、やはり自社のガイドラインを用意しておくことをおススメします。
いわゆる「NGワード」を設定することになります。
企業や業界によって基準や許容範囲は異なるかもしれませんが、「クソみたいだった」「こんな従業員は死ねばいい」(もっと汚い言葉が投稿されていたのを知っていますが、この辺にしておきます)、こういった悪質な書き込みは削除しても構いません。
ここから業務上の改善のヒントが見つかるとは思えませんし、このような書き込みをするお客様とは良好な関係を築けません。
また、書き込みの内容からは何と返答してよいのかわからない場合、例えば企業の公式フェイスブックに「経営理念にある、『すべてはお客様のために』は嘘ばかりだった」「テレビのCMと全然違うサービスだった」というような書き込みがあったケースでは、書き込みの内容の主旨がわからないまま想像を働かせて返信対応するより、次のように返答するのが良いでしょう。
意味不明な投稿に対する返信例「ご指摘、誠にありがとうございます。
当アカウントではお答えできかねますので、お手数ですが、弊社お客様相談室0120○○○○○○○○までお電話いただきましたら、弊社○○が担当いたします。
ぜひ詳細をお聴かせいただけますと幸いに存じます」このようなお客様の気持ちを受け止めようとする誠実さが、そのやりとりを見たほかのお客様の心をガッチリつかむことになると思います。
ガラス張りのように、どこからでも見られるSNSの世界では、まさに透明性のある対応が必要になるのです。
COLUMN心を込めた謝罪から大逆転ドラマが生まれる
私がお客様相談室に配属になる前の、営業マン時代の話を紹介したいと思います。
上司のミスを被ってお客様に謝罪したときの経験談です。
私の直属の上司が自分の売上ほしさに大手の通販会社の取引先に良い期待を持たせることばかり言ってしまったことで、お客様から「実際は話と違った」というクレームが発生しました。
非は完全に、その上司にあり、言い訳ができない状況でした。
そして、その取引先から損害賠償請求の話が出るほどの大きなトラブルに発展しました。
このトラブルから逃げた上司に代わって、なぜか私が取引先に伺って謝罪することに……。
「損害賠償」という言葉に恐怖心でいっぱいになり、会社としても失敗が許されないクレーム対応でした。
〝自分のせいではないのに〟という精神的な葛藤もあり、逃げた上司以上に自分も逃げたい気持ちになりましたが、「困っているのはお客様のほうだ」と自分に言い聞かせて、勇気を振り絞ってお詫びに行きました。
先方からは、強面で取引先にとても厳しいことで有名な50代半ばの営業本部長さんが出てこられました。
応接室に通されたものの、私がソファーに座ろうとする前に、その営業本部長さんからの激しいクレームが始まりました。
そのまま30分くらい立たされたまま、お話を聴いていました。
とても厳しいお言葉ばかりでした。
でも、この止むことのない激しいクレームをきちんと受け入れ、お話を聴いていてわかったことがたくさんありました。
それは、どれだけ自分たちの会社に期待をしていただいていたかということでした。
先方の営業本部長さんは、私たちの会社との新規契約に向けて社内稟議を通すために相当時間をかけて準備されたこと、社内プレゼンをして役員を説得していただいたこと、受注体制強化のためにコールセンターのオペレーターをいつもより多く配置していただいていたこと……。
その営業本部長さんの話を聴いていて、胸が締めつけられるような気持ちになったのを今でも鮮明に覚えています。
恥ずかしいことに私は、「今回の件は失敗できないトラブル対応だ」と自分の会社の都合ばかりを考えていました。
そんな後ろ向きの気持ちを決して持ってはいけないことを痛感しました。
この営業本部長さんには、自分たちの会社を信頼してもらっていたにもかかわらず、期待を大きく裏切ってしまったことに心よりお詫びしました。
私個人としても、心から申し
訳ないという気持ちを込めて深く深く頭を下げ続けました。
この営業本部長さんが「私の言いたかったことは以上だ」とおっしゃった後、立ったままの私にソファーへ座るように促して下さり、さらにこうおっしゃいました。
「悪いのは上司なのに、逃げずによくここに来たな」と自分のせいではないトラブルに会社を代表して頭を下げに来たことに対して労いのお言葉をかけていただきました。
それだけにとどまらず、「今回のトラブルで、君の会社での立場は大丈夫か?」と逆に心配もしてくれました。
この営業本部長さんの温かいお言葉に感激したことを未だに忘れることはできません。
その後、「今回は仕方がない。
次はしっかりお願いしますよ」とお許しをいただき、このトラブルは賠償請求されることもなく、無事に解決しました。
後日、先方の営業本部長さんから担当者を上司から私に変更するご依頼をいただき、それ以降は受注金額が増え、この会社が私の一番のお得意様になりました。
前章では、クレーム対応の「5つのステップ」のうち、初期対応で失敗しないために、お客様の怒りを鎮める方法として、ステップ1の「お詫びする」について説明しました。
この第4章では、ステップ2~5の「共感する」「事実確認と要望確認を行なう」「解決策を提示する」「魔法をかける」について一挙に解説していきます。
どこの企業や組織にも、役職やキャリアに関係なく、「この人がクレーム対応をすると、なぜかいつもお客様が笑顔で納得してクレームが解決する」というクレーム対応の達人として一目置かれている方々がいます。
そんなクレーム対応の達人たちは、お客様に振り回されることなく主導権を握りながら対話を進めています。
ぜひ、「一流のクレーム対応の技法」として参考にして下さい。
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