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第3章女性リーダーを育てる上司の心得

目次

第3章女性リーダーを育てる上司の心得

1上司の〝想い〟がなければ部下は育たない2あなたのリーダーシップスタイルを押しつけないで!3チームのよい関係性が部下の背中を押す4「女性」に対する苦手意識はないか5両立支援は個人の課題ではない6子どものいない女性を忘れるな7研修には「行ってらっしゃい」では不十分8曖昧な指示はリーダーを育てない9部下の「いま」を十分に認めているか?10ロールモデル候補をつぶさない11女性上司の落とし穴

第3章女性リーダーを育てる上司の心得

皆さんは、なぜ女性を育成したいのでしょうか?「銀行の方針だから」「人事から管理職を出せと言われているから」という気持ちではありませんか?組織の一員として、その方針に従おうとするのは当然です。

しかしながら、組織の方針で上司が動くだけでは女性の部下は育ちません。

そこには上司の〝想い〟が必要なのです。

育成の仕事でさまざまな金融機関にお伺いしていて気づくことがあります。

研修の場において私自身が心がけていることは、自分自身の心の姿勢です。

私の場合、知識や情報をお伝えするものではなく、参加者の方に自分で気づいて頂く内容のものがほとんどであるため、本気で関わらなければ研修がうまくいきません。

特に女性は講師の心の状態について敏感です。

研修をする際、担当者にお願いすることは「本気で関わって頂きたい」ということです。

人事教育部門の方の想いもそのまま受け取るのが女性たちです。

講師の私と人事教育部門とが、強い想いをもって臨んだ研修は実に効果が上がるのです。

前章の7「共感力の高さは構造の違い」でも述べましたが、相手の感情に気づく力は女性のほうが高そうです。

男性の場合はもう少し頭で判断していて想いが直接影響している比率は少ないと考えられます。

研修にあたって、上司の方に参加者へのメッセージをお願いすることがあります。

上司の「成長してほしい」という願いがきっちり伝わると、女性の場合モチベーションが上がります。

一方で、表面的には整っていても想いの感じられないメッセージはすぐに伝わり、効果がない、あるいは逆効果です。

女性は行間にある上司の気持ちを感じとる能力が本当に高いと再認識する瞬間です。

メタスキルという考え方があります。

これは英語では「Feelingattitude」、つまり「心の姿勢」のことです。

相手に対してどのような心の姿勢で臨むかということが、相手の心境に影響を及ぼすということを感じていることが多いのではないでしょうか。

たとえば、セールスのとき、商品知識等に自信がないままにお客様に向き合うと、信頼関係が構築しにくかったり、あるいは「ここでなんとしても成約させなければ」という気持ちがあってセールスをすると、それが伝わってうまくいかなかったりするものです。

逆に、成約云々よりも「お客様のために何かできないだろうか」という気持ちでいると、思いのほか成約に結びつきやすい、という経験をしたことがある人は少なくないと思います。

このメタスキルは相手にも、相手との間にある「場」にも影響を与え、いちいち言葉にしなくても本音を伝えるツールともいえます。

そして、頭で考えてつくりあげるものではなく、心のなかと向き合ってつくるものです。

つまり、部下に「活躍してもらいたい」という心からの願い、「頑張れ」という本心がなければ相手には伝わりません。

上司はまず自分自身に「なぜ部下に育ってほしいのか」「将来この部下にどのようになってもらいたいのか」という問いを投げ、考えてみましょう。

女性がリーダーにならなければならないとき、ほしいと思うのが女性のロールモデルです。

女性のリーダーが身近にいてロールモデルが見つかる人はよいのですが、そうでない場合は、自分自身がどのように振る舞えばよいのか迷っている女性が多いものです。

男性同士の上司と部下であれば、上司が自分自身の経験を伝えることで部下にリーダーとしての心得や行動をイメージさせることができます。

しかし、部下が女性の場合は男性のリーダーシップとはスタイルが異なっていることも多く、参考にならないことが多いのです。

ある銀行で管理職を期待され、主任に任命された女性職員Aさんは「もっと厳しく接しないと部下はついてこないぞ」と上司からアドバイスされました。

しかし、窓口の後方でこれまでと変わらない仕事をしているなかで、その上司のようにきつい口調で後輩たちに指示をすることがどうしてもできず、自信を失ってしまいました。

私がお会いしたときは、「厳しいことが言えない私は主任としてダメなんだと思います」と気落ちしていました。

Aさんは優しい雰囲気を漂わせたなかに心の強さが感じられる人です。

周囲からも信頼されています。

決してリーダーとしてダメなわけではありません。

ただ、その「出し方」が上司とは異なっているのです。

第2章の2「リーダーシップがない人はいない」で述べたように、リーダーシップのスタイルはリーダーが強く周囲にアプローチしてぐいぐい引っ張っていく「カリスマ型」だけではありません。

周りをソフトに動かしていく「サーバントリーダーシップ」もあります。

第2章の7「『女性脳』は神様からのギフト」で触れた男女の脳の構造の違いから考えても、カリスマ型ではなくサーバントリーダーシップは女性の特性に合っています。

このことを理解しないまま、カリスマ型のリーダーシップを押しつけても、女性職員は自信を失うばかりです。

実際、Aさんに対してサーバントリーダーシップのこと、Aさんが強みを生かすことでリーダーシップは機能するということを伝えると、Aさんは「私でもリーダーとしてやれるかもしれません」と気持ちが前向きになっていきました。

カリスマ型リーダーシップが悪いというわけではありません。

しかし、女性職員たちは「自分が引っ張るためには自分自身が完璧でなければならない」と考えます。

加えて、和を重んじて謙虚であることも特徴的です。

カリスマ型リーダーシップが可能な職員の割合は、サーバントリーダーシップが可能な職員よりかなり少ないでしょう。

管理職養成の研修でも、「自分が周囲を引っ張ることができない」と自信を失っているリーダーたちがたくさんいますが、サーバントリーダーシップを伝えると自信を回復していきます。

上司は自分のやり方を踏襲させようとするのではなく、強みを生かすことと経験の不足からも女性が難しいと感じることが多い、サーバントリーダシップ「10の特性」のうちの⑤納得、⑥概念化、⑦先見力をどのように伸ばしたらよいかに取り組むことをサポートしていきたいものです。

「関係性」というのは少しわかりにくい言葉ではありますが、使う場面によって「人間関係」「雰囲気」「空気」「場」とも言い換えられるものです。

人はその場の雰囲気に影響を受けます。

たとえば、会議の参加者のなかに否定的な人がいるとまずその場がネガティブモードになるものです。

そしてその場から参加者1人ひとりがそれを受けとり「ネガティブな気持ち」になります。

つまり、たった1人の参加者のネガティブオーラに全員が影響されてしまうのです。

「職場の人間関係」というと、個々人同士の相性をみてしまいがちですが、肝心なのはチーム全体の関係性です。

チームが部下が頑張ろうと思えるポジティブな関係性になっているのかどうかを常に把握している必要があります。

挨拶をしないという部下を責める前に、挨拶がしにくい関係になっているチームを点検する必要がありますし、チームにミスが増えてきた場合には「誰が悪いのか」を探るのでなく「チームの雰囲気はどうなのか」をみていかなければなりません。

マネジメント研修で「問題行動のある特定の部下に困っている」という話が出ることがあります。

「本人をどう指導しても改善されない」という場合、一度チームに何か原因がないかという視点をもってみるとよいでしょう。

その部下はそのチームにいるから問題のある人になっていて、別のところでは違うことが多いのです。

つまり、チームにその人の居場所がなくなっていたり、その人が本音(気持ち)を出せない状況になっていたりということが原因になっていることもあります。

最もやってはいけないことは、「本人だけが悪い」と上司が決めつけ、常にそういう目でみてしまうことなのです。

ある営業店の後方事務をやっているチームで、まさにそういうことがありました。

中堅行員でそろそろ主任になってもらいたいAさん(女性)が自分勝手で困る、という相談を上司から受けました。

後輩を指導してもらいたいのに、指導せずに自分で全部やってしまいます。

結局後輩が育ちません。

「Aさんに後輩育成の大切さを何度も伝えているのに……」と上司は困りはてていました。

私はその上司に「Aさんは以前からそうでしたか?」と尋ねたところ、「前は違いました。

後輩の面倒見もよく、私ともどうやって新人を一人前にするかと話し合っていたくらい」だったとのこと。

次にチームの変化を尋ねました。

すると、3カ月前に異動でメンバーが変わったことがわかりました。

Aさんより2年後輩のBさんがメンバーに加わったのです。

Bさんは仕事をテキパキこなし、社交的で周りを巻き込むタイプ。

Aさんはどちらかというと一歩引いてしまうタイプでした。

Bさんは当然Aさんにも気遣いをしているのですが、どうしてもAさんよりも目立ちます。

上司自身もBさんとのコミュニケーションが増え、ちょっとしたことを相談するのもBさんになっていました。

後輩もBさんに聞くことが増えてきていると。

そうなると、Aさんのチームでの居場所がなくなっていたことが想像できました。

Bさんが加わったことで、チームの関係性が変化していたのです。

そこで、上司に、Aさんに以前のように業務についての相談をもちかけてみることを提案したのでした。

また、チームメンバー全員で、もっと仕事をやりやすくするためにはチームの雰囲気がどのようになったらよいか、という話し合いをもちました。

すると、1カ月後のフォロー研修で、Aさんの問題行動がなくなり、以前のように協力的になったとの報告がありました。

上司のAさんへの対応をみて、Bさんはじめ、後輩たちのAさんへの対応も変わったとのことでした。

一度チームをつくっても異動や新人の配属、パート職員の採用などでメンバーが入れ替わると、また関係性は変化します。

その際個々人の対応だけをやっているとマネジメントがうまくいかないケースは少なくありません。

女性は関係性の状況を感じとる力は敏感です。

女性がいるチームのマネジメントは「関係性」「場」「雰囲気」「空気」を常にみていくことが重要です。

そして、女性がリーダーである場合は「関係性マネジメント」の力を育てていくとよいでしょう。

3年目の職員Bさん(女性)から相談をもちかけられました。

「上司に男性と同等に扱ってもらえないんです」Bさんの職場は支店の融資グループです。

同期の男性と同じように支店の仕事を経験し、現在は事業性融資の見習い中で男性の融資担当者のなかで働いています。

仕事は男性と同等で教育も同じようにされているといいます。

それなのになぜ?と話を聞いていくと、どうやら言葉遣いが違うらしいのです。

上司はBさんだけに「です」「ます」で話すといいます。

同期の男性には「~やっておいて、よろしく」と言うのに、Bさんには「~やっておいてください」と。

その瞬間「あー、あまり期待されていないのかも」と思ったり、「ヘンに気を遣われているな」と感じたりするそうです。

一方、上司の側はどうかというと、「気づかないうちに女性部下には丁寧語を使っていました」という話を耳にすることがあります。

女性部下に対し無意識のうちに言葉遣いを変えている。

たとえば、男性部下には「おはよう」「お疲れさま」と声をかけるのに、女性部下には「おはようございます」「お疲れさまでした」と言っている、などです。

「特別扱いしようとか男性部下と差別しようと思っているわけでもないのに、ただなんとなく……」というのがその特徴です。

ここにはジェンダー(社会的文化的性差)の課題が存在しています。

頭では男性も女性も同等とわかっていても、育ってきた環境でのジェンダー経験によって無意識のうちに区別をしてしまうのです。

「女性の部下が苦手」「女性の上司とは仕事がしにくい」という男性には、実はジェンダー経験が影響していることも多いのです。

ジェンダー経験は長期間、多岐にわたっています。

たとえば、家族構成や家庭内での男女の扱われ方、学校での経験などによって、男女に関する価値観はつくりあげられていくのですが、ここには親や祖父母の価値観、先生たちの価値観も関わってくるので複雑です。

「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」「母親はこうあるべき」などが気づかないうちに価値観としてかたちづくられています。

「職場の女性を『ちゃん』づけで呼んだり、『お嬢さん』という言い方はしない」「女性を容姿などで判断しない」などについては職場では意識されていますが、より深い価値観レベルのものは簡単に変えられるものではありません。

そして、これは男性だけでなく、女性にも存在しています。

私自身にも育った環境が影響していると実感する瞬間があります。

私の子ども時代は女性は専業主婦というのが当たり前でした。

そして、一家の大黒柱の父は偉く、父にはおかずが一品多いときもある時代でした。

「お父さんは一番先にお風呂に入る」「お父さん(男の人)にゴミは出させない」など「お父さん(男の人)には家事はさせない」という母の発言を聞いて育つうちに、ジェンダーが身体のどこかに蓄積されています。

昨今は男性が出勤途中にゴミ出しをすることはごく普通のことになっていて、私も頭では納得しています。

しかし、その姿をみると心の奥底で何かがチクッと痛みます。

母の「男の人にゴミは出させない」という言葉が蘇ってくるのです。

これが長い間かけてかたちづくられている価値観なのです。

職場において、男性が無意識のうちにやっている男女の区別は、この価値観が作用していることが多々あります。

理由なく区別していることはないか?理由なく苦手意識を感じていることはないか?以下の「無意識のジェンダーチェック」を参照しながら見直してみましょう。

もちろん気をつけることが大切ですが、自分自身の価値観がどのようなものなのかを知っておくことも重要です。

そして、女性の部下と接する際にその価値観が無意識に出てきてやる気を削いでしまったり成長にブレーキをかけてしまったりということがないようにしていきましょう。

女性の活躍を応援するというと、注目されるのが「子育てと仕事の両立」です。

女性が出産、育児でキャリアを中断することなく仕事を続けることが国をあげての課題になっていますが、これは組織にとっても重要課題です。

金融機関でもさまざまな両立支援の仕組みが拡充しています。

しかしながら、運営面ではまだ課題も多く、ここで上司の果たす役割は大きくなっています。

そして、すべての女性たちが子育て中の女性への上司の対応を通じて、いまの職場が「子育てと仕事を両立できるところなのかどうか」を関心をもって眺めているのです。

職場における、子育て中の女性が働くことをサポートしようという雰囲気は、以前に比べて増しています。

女性が働きやすくなっていて、現在の育休取得や育休復帰はごく普通になっています。

それでも、実際子育てをしている女性職員と上司に話を聞くと、難しいことが多いことがわかります。

女性職員側は、「時短で帰るのが申し訳ない」「両立で精いっぱいでそれ以上のスキルアップまで気が回らない」「頑張ろうと思っているのに『大変だろうから』と役割を与えてもらえない」「子どもが熱を出して保育園に迎えにいかなければならないことを言いだしにくい」「仕事を一生懸命やりたいのだけれど、物理的にできないのが悔しい」「『仕事も育児も一人前でない』と自信をなくしている」など、「頑張りたいけれど頑張れない」「いたわってくれるのはうれしいけれど、寂しい気持ちもある」という悶々とした状況を抱えている人は少なくありません。

話を聞いていると、崖っぷちで落ちないように精いっぱい踏ん張っている様子が感じられる職員が多いようです。

一方、上司側も難しさを抱えています。

大変だろうといういたわりから「負担になるような仕事を与えるのはかわいそう」と過剰に気遣いをしてしまったり、頑張ってほしいという気持ちが前提にありつつも、「100%頑張ってもらえない職員がいるとさしつかえが出る」という本音もあります。

崖っぷちに踏ん張っている気持ちがなんらかのかたちで崩れてしまうと、女性職員は心身のバランスを崩したり、あるいは「女性支援の制度を都合のよいように使う」という行動になってしまったりすることもあります。

そして、そのことは他の職員へ伝わり決してよい結果を生みません。

組織のシステムのみならず、社会的なシステムもまだ完璧ではなく課題は山積しています。

社会の風土も子育て女性たちを全面的に応援しているとはいえず、まだまだ発展途上です。

また、女性職員の状況も人それぞれであり、課題も気持ちも個別に異なっています。

ここで大切なのは、上司がこの女性職員が働き続けることにコミットすることと、関係性をしっかり構築していくことです。

残念ながら、正解はありません。

また、これは現在子育て中の女性個人だけの課題ではなく、チームや組織全体の課題であり、今後の女性の働き方に影響していく課題です。

また、両立支援は子育てだけではありません。

すでに発生していて今後大きな課題となると考えられているのが、「介護と仕事の両立」です。

「子育てとの両立」については、個人の課題とせずチームの課題として話し合うことを、標準対応としておきたいものです。

Column●〝関係性〟の大切さ●

私たちが組織開発の重要性を伝える際によく引用するのがダニエル・キムの成功循環モデルです。

「組織の関係の質が、思考の質、行動の質に影響していき、それが結果の質に影響する。

そしてそれがまた関係の質に影響していく」と言っています。

このモデルで思い出すのが、昔勤務していた支店の変化です。

あるときの異動で穏やかな人間関係重視の支店長から成果重視の厳しい支店長に変わったのでした。

いまほど厳しい数値目標はありませんでしたが、新支店長は成果をあげるべく部下にきつく接しました。

営業担当者に対して怒鳴る声が時々聞こえ、みんなピリピリするようになったのです。

和やかだった支店の雰囲気は一変し、人間関係もギスギスし、体調を崩す人も出てきました。

現場でもミスが増えました。

その結果、新支店長になって直近は数値目標を達成したのですが、その後はよいとはいえませんでした。

その場にいた実感としては、職場が嫌な雰囲気になって仕事へのモチベーションはかなり下がっていたと記憶しています。

研修で多くの金融機関の現場の方とお会いしますが、「職場の雰囲気や人間関係が悪い」という声は少なくありません。

そして、「働いていてもやり甲斐を感じられない」と。

しかし、先日お会いしたある女性リーダーの方は、支店の雰囲気を少しでもよくするように後輩とコミュニケーションをとったり、明るく振る舞うことを心がけているということでした。

関係の質をよくするのは全員の役目であり責任です。

ただ、特性を考えると、雰囲気をよくする役割を果たすことができる女性リーダーも多いのではと感じているのです。

前項では子育てと仕事の両立支援について述べました。

しかし、そこで忘れてならないのが、子どもをもたずに頑張っている女性職員のことです。

子育て中の女性職員が、大変な思いをして仕事を続けているのは事実です。

しかし、では独身であれば楽なのかというとそういうわけではありません。

女性対象の研修では、時々独身女性や既婚で子どもがいない職員の愚痴を耳にします。

「時短や育休の人のフォローが全部まわってくるんです」「独身だからなんでも依頼していいと思われている」と。

金融機関勤務のある職員が先日体調をくずしました。

彼女は既婚ですが子どもはいません。

本部の特殊な業務に就いているのですが、様子を聞くと、ほぼ毎日終電で帰宅しているとのこと。

なぜそんなことになっているのかと尋ねたら、「チームにいる数名の時短の人の仕事が全部まわってくる」というのがそこまで残業しなければならない主な理由だそうです。

彼女は誠実な頑張り屋さんで、自分が役に立つのであれば、とことんまでやってしまう人です。

思いやりもあるので、時短勤務の同僚が気にしないように笑顔で仕事を引き受けているようでした。

しかし、身体は正直です。

精神的にもプレッシャーがあり、それも響いたのでしょう。

とうとう倒れてしまいました。

女性は子育てについては「いつか自分もお願いするときがあるかも」という「お互い様」の気持ちもあり、女性活躍推進への思いがある人もいます。

そこで精いっぱい応援したいという気持ちをもっている人もいます。

だからこそ、不満を言うべきではないとセーブしているところもあります。

一方で、子育て女性だけが支援されることに対し苦々しく思っている人もいます。

独身だったり、子どもがいないことに対する引け目が個人的にあるケースもあります。

職場に子育てをしながら頑張っている女性がいるということは、大きな視点でみれば大変よいことなのですが、こと実際に関わっているチームではさまざまな感情が渦巻いています。

そしてそれが原因でチームの関係性が悪くなってしまうリスクもあるのです。

物理的に仕事が滞ることは大きな問題ですが、ぎりぎりの人員でファローし合っている状況だからこそ、チームの関係の質をよくすることで業務の質を高めていく必要があります。

子育て中の仲間についての不満は言いにくいものです。

また、個人的なコンプレックスに関係する場合もあります。

しかし、これをそのままにしておくと、チームの毒素(第4章2(7)「部下との関係をダメにする4つの毒素」)となって熟成され、手をつけられない状況になってしまう可能性があります。

チーム内にまずい空気が漂っていると感じた場合、早めに職員や部下に気持ちを聞いていく必要があります。

個別に聞くのか、それとも何人か一緒に聞くのかはケースバイケースですが、気持ちに耳を傾けていきましょう。

話すことでチーム内でもよりいっそう協力し合うことになるケースも多いのです。

そして、フォローしてくれている職員たちへの感謝を伝えること、子育て中の女性部下にもそれを促すことは忘れてはなりません。

女性部下のマネジメントの難しさは、その多様性にあります。

しかし、多様性があるチームは強いです。

ただし、それを活かすには丁寧な対応が必要なのです。

女性活躍推進のために、女性対象の研修を増やす金融機関が増えています。

研修に参加する機会が増えるのは、女性1人ひとりにとっても組織全体にとってもメリットがあります。

私もそのような研修の講師をすることがよくあります。

ところが、残念なケースに時々出会います。

参加者の目が死んでいる(輝きがない状態)のです。

忙しい仕事を調整して参加してきた研修です。

企業研修でなく個人で学ぼうとすると、高額な費用がかかる研修が、無料(かつ有給)で受講できるわけです。

そして、何より組織が「頑張ってほしい」と応援のために開催している研修です。

それなのに、「ただそこにいる」という状態の女性たち。

そのまま研修をスタートし、予定したカリキュラムをこなしても、学ぶ意欲がない状態では無駄になってしまいますので、まず研修に参加する意欲を高めるステップを踏まなければなりません。

そのために本来予定していたゴールまで行き着かないケースもあります。

一方、逆のケースにも出会います。

目がキラキラと輝き「この研修を待っていました!」と表情で訴えてきます。

私が担当する研修は一方的に知識をお伝えするというより、参加型で相互啓発を促すかたちが多いので、実習に熱が入ったり議論が深まったりして、モチベーションもよりいっそう向上します。

当初設定したものよりより高いゴールまで到達します。

「研修に参加するにあたり、上司から目的やゴールなど伝えられてきましたか?」と聞くと、前者はほぼゼロです。

「〇月〇日に研修に呼ばれているので行くように」という指示だけ受けているパターンです。

後者の場合は、上司から期待を伝えられたという人がいます。

それは、自主的に上司が伝えてくれた場合と、研修の事前手続として人事部等から事前面談の指示があったり、事前課題に一緒に取り組んだりした場合があります。

目的がわからない状況で物事に意欲的になるのが難しいのは当然です。

もちろん、自分自身で目的を考えない参加者にも問題があるのは確かです。

しかし、金融機関においては管理職になる前の業務では受動的なものが多く、指示待ち傾向が比較的強く染みついているため、指示がなければ自分で考えないという傾向があるのも事実です。

ですから、ここしばらくは上司がせっかくの研修を無駄にせずモチベーション向上やスキルアップにつなげてくるように送り出していきたいものです。

その部下が研修で職場をあけるために調整をしているはずです。

その犠牲を無駄にしないようにそれ以上のものをもち帰ってもらうという上司のあり方が大事です。

その上司のあり方が研修での学びを何倍ものものにしたり、研修に参加していない他のメンバーの意識とスキルを高めることになるのです。

〈研修に送り出す際、上司にやってほしい3つのこと〉・目的とゴールの確認……「行ってらっしゃい」と声をかける際、研修の目的を共有しましょう。

もし何の研修なのかを把握していなければ、上司が確認しておきましょう。

・期待を伝える……部下に研修を受講してどうなってもらいたいのか、何をもち帰ってきてほしいのかを伝えましょう。

・研修終了後への課題……終了した後の課題を与えましょう。

「他のメンバーへの報告会をしてもらう」「学んだことをレポート(またはメモ)として提出してもらう」など。

人事から研修報告書などの提出書類はあるでしょうが、それでよしとせず現場に還元してもらったり、研修での学びを現場で生かしてもらうための工夫を現場独自でしていくことが必要です。

期待されている女性のなかには、将来管理職になれるような仕事力をどのように向上させるのか迷っている人が少なくありません。

「リーダーシップを身につけて」とか「後輩指導をよろしく」と言われていても、漠然としてよくわからないというのです。

職能要件をみても抽象的でやはりわからない、と。

ある支店のCさんは、仕事と子育てを両立し頑張ってきて管理職一歩手前まできています。

上司からは「将来は管理職として活躍してほしい」と言われていて、本人も「やってみたい」と思っています。

しかし、同時に上司から「もっと自ら考えて動くように」「もっとチーム全体をみて、後輩に関わるように」と言われていますがよくわかりません。

毎回の面談でも「もっと」「もう少し」と言われ続け、期待が逆にストレスになりはじめていました。

そんなとき、それまでの上司が異動になり、別の上司のもとで働くことになりました。

すると、その上司はCさんがもやもやして理解できないことを具体的に指摘してくれます。

Cさんがチームメンバー同士のごたごたになりそうなやりとりに気づいていながら黙認してしまったときには、そう時間がたたないうちに指摘。

黙認することによるリスク、特に当事者たちに起こる心理的影響だけでなく、黙認することによるCさんとチームメンバーとの信頼関係への影響を伝えます。

黙認しないで即対応できるためには何が必要かを話し合いました。

こういうことができるようになってほしいというメッセージとともに。

また、Cさんが、上司が本部研修で数時間不在で判断できなかったときには、その理由を振り返り(そのときは「判断することへの躊躇」でした)、どうすべきだったのかを指導。

加えて一方踏み出す勇気をもって判断してほしいと伝えました。

いくつかの事象について上司が具体的な指導をすることで、Cさんは自分に何が足りなかったのかを明確に理解しました。

そして、数カ月後にはチームに目を配り、堂々とリーダーシップを発揮できるようになっていました。

男性の場合はロールモデルがたくさんいますし、仕事以外の場でもリーダーとしての学びを指導してもらう機会が女性より比較的多くあります。

ですから、「もう少し」「もっと」で伝わります。

しかし、女性の場合はそうではありません。

男性の上司とじっくり話をする機会もそれほど多くありませんし、昨今の女性活躍推進施策の流れで急に管理職へ期待されたりしているのです。

身につけてもらいたいものはかたちのないものです。

そして、「これが正解」といいきれないものもあるでしょう。

だからこそ、実際の事例を使って話し合いながら指導していく必要があります。

優秀な女性リーダーが育てば上司の仕事も楽になりますし、数字という結果も必ず出てきます。

上司だからこそできる具体的かつ効果的な指導をしていきたいものです。

部下に「こうなってほしい」「ここを変えてほしい」と思うことはよくあります。

「もっと成果に貪欲に取り組んでほしい」「仕事への真剣味が足りない。

本気で取り組んでくれないものか」など。

上司のなかには、その期待をいくら部下に伝えてもまずそのようになってはくれないということに悩んでいる人も少なくありません。

どうしたら部下は変わってくれるのでしょうか。

第4章でも述べますが、前提は、人は誰かに言われて行動を変える動物ではなく、自分で納得しなければ変化しない動物だということです。

そんなとき、「変われ」と強制されたらどうなるでしょうか。

反発が起き、変化はもとより、信頼関係が崩れていくきっかけになるかもしれません。

イラストをみてください。

「現在の姿(意識)」から「現在とは違う姿(意識)」に変わるためには人は「エッジ」というハードルのようなもの超えていく必要があります。

それが、たとえ本人がそうなりたいと思っていることでもなかなか超えられないものですから、上司が望む姿になってもらうことは、より難しいのです。

上司がやらなければならないのは、本人がそのエッジを超えるサポートをすることなのですが、それは、「現在の姿(意識)」を十分認めていくことです。

「もっと営業に貪欲になってほしい」という部下の「現在の姿」は上司にとっては「営業に本気でない姿」としかみえないかもしれません。

しかし、本当の姿には「事務手続を一生懸命やっている」「手続の知識がある」「コミュニケーション力が高い」「仕事自体へのモチベーションは高い」というものがあるとします。

「望ましい姿」にあるのは「営業に貪欲に取り組んでいる」です。

エッジには、たとえば「営業のプレッシャー」「営業自体が不得意」などがあるかもしれません。

いきなり「現在とは違う姿」に行けということは、ジャンプ台も何もないのに高いエッジを超えろと言っているのと同じです。

エッジを超えるには、自分自身にOKを出す気持ちを積み重ねてジャンプ台がつくられることが大前提です。

ですから、上司はできていないことだけをみるのではなく、できていることや優れているところに目を向けてそれを十分に認めることを必ずしなければなりません。

つまり、営業に貪欲になってもらうためには、まず「日頃よく勉強している」「事務処理をていねいにやってくれていること」を認め、感謝しましょう。

ここで大事なことは「ただ褒めればいい」というものではありません。

褒め言葉でそのジャンプ台はつくられません。

上司から本心で認められているということが求められるのです。

第2章の3「『一歩出たくない』は確かに存在する」で述べたように、金融機関の職員は「出る杭」になるのが苦手です。

女性職員に「管理職を目指しませんか?」と声をかけると、「はい、やります」とはなかなかなりません。

「いえいえ、私にはとてもとても……」という答えが多いのではないでしょうか。

理由は「謙遜」「自信のなさ」に加えて、「目立ちたくない」というものもあります。

そのハードルを下げるのがロールモデルの存在です。

人はもともと慣例があることに安心することが多いものです。

ですから、身近にロールモデルがいない場合は、挑戦してと言われても皆不安です。

しかし、管理職として活躍している人が、いわゆる「伝説の〇〇さん」や「猛烈社員」になっていると、そのハードルが高くなっています。

前者の場合は「特別優秀な〇〇さんだからできた→私には到底無理」となりがちですし、髪を振り乱し、女性を捨てて仕事をしているような後者ですと、「ああなりたい」ではなく「ああはなりたくない」存在になってしまいます。

一方、女性職員が「後に続きたい」と思うロールモデルはどのような人なのでしょうか。

「少しストレッチすれば手が届く」「私もなれるかもしれない」という人が身近にたくさんいるということが、後輩女性の挑戦する気持ちを後押しします。

・生き生きと働いている・仕事もプライベートも充実させている・コミュニケーションや人間関係づくりをうまくやっている・仕事で一定の結果を出し、挑戦し続けているといったものがあげられます。

「こうなれたらいいな」という人です。

決して、「一番」とか「出世頭」というものではありませんし、「超人的」な人が求められているわけではありません。

研修でお会いしている女性職員たちと話していると、求めているのは「魅力的なお手本」です。

そして、「自分もできたらそうなりたい」と思っているのです。

ですから、ロールモデル候補が部下にいる場合、その「少し背伸びすれば手が届きそうな魅力的な先輩」へと育てることが重要です。

しかし、一歩を踏み出そうとすると、集団において必ずといって発生するのがそれを妨害する力です。

特に金融機関には、でしゃばるのを必ずしもよしとしない風土がありがちです。

これは女性の世界に限ったことではありませんが、「うらやましい」「妬ましい」という感情は人間であれば普通に発生します。

これが関係性の毒素(第4章2(7)「部下との関係をダメにする4つの毒素」)になってチーム全体の雰囲気を悪くしてしまっては元も子もありません。

また、嫉妬がイジメに発展し、体調を崩したり退職に追い込まれたりとなるケースを私もみてきました。

ロールモデルを育てる際には彼女が周囲から浮かないよう、慎重に少しずつ背中を押していくことが上司に求められます。

女性部下のマネジメントの基本として「公平性」がしばしば取り上げられますが、それはとても重要なことです。

もしリーダー的な役割に就けるのであれば、時にはチームの合意をとるなど周囲を尊重する必要があります。

しなやかに活躍する女性がそこここにいるのが「普通」になるまでは、細やかな配慮が求められます。

Column●よい偶然を引き寄せる●女性職員対象のキャリア・デザイン研修を担当させて頂く機会が多くあります。

女性の人生は「結婚する/しない」「子どもをもつ/もたない」によって方向性が大きく変わります。

そして、「仕事を続けるか/続けないか」「正社員/それ以外の雇用形態」「管理職を目指す/目指さない」などの要因も絡んできて人生の選択肢は非常に多くなっています。

だからこそどの方向を選択するのか迷ったり悩んだり、揺れ動いている女性職員は少なくありません。

キャリア・デザイン研修ではスタンフォード大学のクルンボルツ博士らが提唱している「ハプンスタンス学習理論(※)」をお伝えすることにしています。

これは「キャリアの80%は偶然によって決まり、よい偶然を引き寄せ必然にすることで自分の人生キャリアをよくしていきましょう」という考え方です。

そのために必要とされる5つの特性があります。

「①好奇心」(いろいろなことに興味関心をもつ)、「②持続性」(諦めず継続する)、「③楽観性」(なんとかなるさとポジティブに考える)、「④柔軟性」(環境等に対応する。

思考も変化させる)、「⑤冒険心」(リスクをとる)です。

これらの特性を備えることを意識することでチャンスを活かし望ましいキャリアへつなげることが可能というのです。

この考え方を取り上げると、皆さんがとても安心したような表情をされます。

多くの選択肢には不確定要因が多く、目標設定やキャリアプランニングができないことに対する不安が大きいのです。

そうではなく、現在の自分を見直し、よい偶然に出会うためにどうしたらよいかという目標設定のほうが現実的かつ実現可能性が高いのです。

まだ起こっていない「将来のこと」へ目を向けている女性職員、できるだけ「いま、ここ」固めを促していくことで力を発揮するのではないでしょうか。

※「ハプンスタンス学習理論」…旧プランドハプンスタンス(計画された偶然性理論)

女性管理職のAさんは熱意をもって仕事をしています。

部下に対しても同様で、特に女性部下には女性活躍推進の流れのなかで頑張ってほしいと思っています。

Aさんのもとにはそろそろ主任に推薦したいと思っているBさんがいます。

Aさんとの関係もよく、数年にわたり指導をしてきていて期待もしています。

しかしながら、Bさんには最近ミスが増えています。

それも、Bさんらしからぬミス。

お客様からもらわなければならない書類を伝え忘れたり、提案に伺う際に大事なレポートを用意していなかったりしています。

Aさんは「Bさんの経験からして、いまさらこんなミスをするなんて考えられない。

私の指導に何が足りなかったのか」とがっかりしていました。

私はAさんにBさんを取り巻く最近の状況を尋ねてみました。

すると、「目標数字が前年の1.5倍になっていて、プレッシャーはきついのですが、Bさんならできるはずです」と言います。

そこでAさんに、Bさんの話を聞いてみることを提案しました。

すると、予想外にBさんはいっぱいいっぱいな状況だったのでした。

そして、Aさんは、自分が主任直前だったときのこととBさんの現状を単純に比較していたことに気づきました。

Aさんは、自分がBさんと同じ立場だったときにできていたことは、できて当然と思い込んでいたのです。

当然のことですが、AさんとBさんの能力は同じではありません。

ちなみに、Aさんはまだ女性が管理職になかなか登用されなかった頃に管理職になったというかなり優秀な人です。

それに加えて、当時とは環境も異なっています。

昨今は目標数字が厳しく、1人ひとりの負担もかなり増しています。

女性管理職は同性の部下に対し、期待する気持ちが強い分、厳しい目でもみてしまいがちです。

また性別が同じなので「同様」という感覚をもってしまいがちです。

そして「私はこんなことを乗り越えてきた」という経験を生かそうとするばかり、時には必要以上に厳しく接してしまうこともあるかもしれません。

少しでも優れた部下を育成したいという気持ちもあるでしょう。

部下のよいところをみて期待するのは素晴らしいことです。

しかし、部下は自分と同じではありません。

また、現在は挑戦する女性職員を増やすことが必要です。

温かい目で見守って1人でも多い部下を育てていきましょう。

 

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