
●どのように信念を育てるか
「信念」と「思考」が重ね合わさると、潜在意識が活性化され、そこからモチベーション(ヤル気)と限りない知性が生まれてくる。
信念、愛情、セックスの三つは、あらゆる人間の感情の中でも、一番強いものだが、この三つが同時に作用して思考と結びつくと、潜在意識は、恐ろしいほどの力を生み出すのだ。
深層自己説得の技術は、願望の実現に大きなかかわり合いを持っている。
※深層自己説得の技術を体得する。
そして信念は、この深層自己説得の技術によって潜在意識に埋めこまれた願望を〝現実化〟するための原動力となるものである。
信念というものは、願望という、形を持たない一種の思考を、物理的な実体(たとえば金)あるいは現象的事実(たとえばスポーツで優勝する)に転換するのである。すなわち信念によって、思考は紛れもなく現実化するのだ。
この後に述べる深層自己説得や、潜在意識などのセッションを読み、あるいはオーディオ・カセットで聴き、理解し実行していくと、あなたの心の中で確実に信念が固まっていくのがわかるはずだ。
本書に書かれている一七の原理をマスターすれば、信念は自分の意欲で育てることができる。
信念は自分の意欲で育つ、と述べたが、信念というものは、あなたがそう意欲する(たとえば「○○をやるぞ!」という具合に意欲を奮い立たせる)と、いわば信念の前段階のような状態(ニワトリでいえばタマゴのようなもの)が、心の中に一定の位置を占めるようになる。
まったく信念のない状態から、いきなり信念が生ずるということはそうそうあるものではないが、意欲することによって信念の前駆体のようなものが心に生じると、それを成功原理などで温めていくことにより、その信念の前駆体は、徐々にそのカラを破り一人前の信念となっていくのである。
そうするとますます意欲も高まり、こうして信念は自然に育まれていくことになる。繰り返し潜在意識に命令を送り込むことが、信念を自発的に開発する方法である。
このことは犯罪を繰り返す人の心理を考察すれば、より深く理解できよう。初めて犯罪を犯すとき、人はそれを恐れるものだ。しかし犯罪を繰り返していくうちに、それに慣れてしまう。
これと同じように、潜在意識に対して常に、繰り返し繰り返し同じ考えを命令していけば、潜在意識は次第にその考えを受け入れ、そしてそれに基づいて行動するようになるのである。
※潜在意識に繰り返し繰り返し刷り込んでいくことで、強い信念になるようになる。
感情を伴った思考は、強い信念と結びつくと、やがて物理的な実体へと変換していく。なぜならこのように〝完全武装〟した思考は、おのずとバイタリティを目覚めさせる。
バイタリティは行動力と結びついているからである。肯定的な信念と結びついた思考ばかりではなく、否定的な感情と結びついた思考も潜在意識に到達しやすい性質を持っている。
潜在意識に到達する、というのは要するに「それがあなたの脳(心と言ってもよい)の一部になる」というのと同じ意味だ。
したがって人は容易に「不幸」という名の泥沼に足をとられやすくなっている。しかし本来、不幸とか不運などというものは実体がないものなのである。
それは人の心の中にのみ存在する。つまりそれは主観的なものなのだ。
しかし当人にとってはそれはもう脳の一部、あるいは心の一部となってしまっているものだから、あたかも実体があるかのように信じ込んでしまう。
そして「信じればそのとおりになる」という法則が、ここではものの見事に悪い方向に働く。そしてますます、自分は不運で不幸な宿命を背負っているのだと確信するようになるのである。
それとは反対に、肯定的思考、あるいは積極的心構え(PositiveMentalAttitude)を、深層自己説得の技術を用いて潜在意識に送り込めば、あなたは豊かさでも何でも、手に入れることができるのだ。
※深層自己説得の技術を用いて潜在意識に刷り込んでいく。
あなたの信念はこのような場合、あなたの潜在意識を動かすための強力な補助エンジンとなる。
それはさておき、私が、私の息子の潜在意識を活用したのと同じように、あなたも深層自己説得によってあなた自身の潜在意識を活用することができ、そしてあなた自身を変えてしまうこともできるのだ、ということを、ここではっきりと認識しておいてほしい。
深層自己説得の技術によって自己改革を行うときのコツは、「あなたの願望がすでに実現しているときのイメージ」を潜在意識に流し込むことが肝要である。
※すでに実現している時のイメージを潜在意識に流し込む。
願望をすでに手に入れたときの状態をありありと思い描くことによって、潜在意識は成功への信念をますます強くする。
※願望をすでに手にいれたときの状態をイメージすること。
同時に願望実現までの過程を紙に書いておき、さまざまな障害やそのときどきの若干の軌道修正を書き記すことも重要である。
この〝実現までのプロセス〟もやはり心の中にありありと思い描くことが必要だ。
※プロセスも描くのはイメージ力が必要になるのでは?映画?漫画?小説?で擬似イメージ化できるようにする?
過程と結果を同時に鮮明にイメージし続けると、あなたは自然とその望ましい過程どおりの行動を起こすようになり、そしてまた望ましい結果へ向けた正しい方向へ足を運ぶようになる。
こうしてあなたは、いつの間にか願望を現実に手に入れることができるようになる。
ここでひとまず、あなたはあなたの潜在意識に命令をするときには、あなたの信念をそれに結びつけることによって、より強く潜在意識に働きかけることができるのだということを、おわかりいただけたと思う。
●信念を強化する
あとは成功へのルールを実践することにより、これまで述べたことを体得することである。書かれてあることを読むだけでは、いくら良いノウハウでも身につけることはできない。
頭の中を積極的、肯定的な感情で埋め尽くし、否定的な感情やマイナスになるような感情はすべて排除することだ。
プラスの感情で支配された心というものは、信念の良い土壌となる。同時にプラスの感情で支配された心というものは、潜在意識に働きかけやすくなるのだ。
信念は、深層自己説得によってさらに強力につくり上げることができる。有史以来、宗教家たちは人間に信念を持たせようと努力してきた。
しかし、どうすれば信念を持たせることができるのか、という具体的な方法について、説明されたことは一度もなかった。
信念は鮮明な願望あるいは目標設定によって、そしてより積極的な方法としては深層自己説得によってつくり出すことができるのだということは、当時は一種の秘儀になっていたのである。
ここで、信念を持つことの素晴らしさを力強く宣言してみよう。心の中で何度も繰り返していただきたい。私は信念を、不滅の信念を持とうとしている。
信念は、私の思考に生命とエネルギーと行動力を与える永遠の妙薬。私が何かを達成させたいとき、信念がそれを可能にしてくれる。信念はあらゆる奇跡をもたらす科学でも解けない謎。
でも私はそれを用いることができる。信念とは失敗の解毒剤。私の心が落ち込んだとき、私を不死鳥のようによみがえらせる魔法の粉。
信念と願望、目標がうまく結びついたとき、互いに強固なものとなって私の望みは実現せざるを得なくなる。
信念は私の思考を崇高なものとする隠された力。信念があればこそ、人は文明を築くことができたのだ。そして今、私はその信念を持とうとしている。
●思考は似たような思考を引き寄せる
信念の力を立証することは容易だ。しかしそれには深層自己説得の原理を知ることが必要である。では深層自己説得とはいったい何なのか、そしてそれは、いったい何を達成できるのかを考えてみよう。
人は自分の心の中で繰り返してきた言葉を、最終的には信じるようになるものである。
※ポジティブな思考を朝昼晩と繰り返し刷り込む。
たとえ自分の心の中で繰り返し反芻する事柄が嘘であったとしても、自分の心の中で繰り返し反芻しているうちに、その嘘を受け入れるようになってしまうのだ。
そしてそれはその人の確信、あるいは信念となっていく。このように、嘘も繰り返しの洗礼にあうと、自分でも本当のことのように思えてくるのである。
あなたの行動は、あなたの心の中に意識的、あるいは無意識的に植え込んで育んだ思考に、さまざまな感情が混じって決定されるのだ。ここで一つの真理をお伝えしよう。
「感情と結びついた思考は、似たような思考を引き寄せる磁石となる」このようにして引き寄せられ、あたかも一つのようにまとまった思考は、一粒の種子にたとえることができる。
※量子力学。
その種子は、よく肥えた土壌にまかれると、どんどん芽を出し、やがて花を咲かせて実を結ぶ。こうして一粒の種子は無数の種子を生んでいく。
同様に信念はさらに強固な信念を生んでいくのだ。人間の心も常にその心と調和する他の心を引き寄せている。どんなアイデアも、計画も、また願望や目標も、それに調和する仲間を引き寄せる。
そうやって自分の信念やその他の脳力を強固にしていくのである。ここで出発点に戻ることにしよう。
どうすればあなたの願望や目標をしっかりと心の中に定着させて、実現へと導くことができるのだろうか。
それにはまずあなたの願望あるいは目標を紙に書き出すことから始めなければならない。反復された思考は、やがてあなたの行動を支配するようになる。
こうなったら、もうあなたは自由自在の力を発揮することができるようになる。
このような状態に早くあなた自身を導くためにも、妨げとなるような要素はすべて排除するように心がけなければならない。
願望や目標を設定し、ルールに従って実現へと向かおうとするとき、あなたは〝自信の欠如〟というものが、最大の弱点であるということに気づくかもしれない。
しかし、心配することはない。自信の欠如というものは、深層自己説得の助けを借りることによって、克服できるからだ。自信の欠如を、勇気に変えることができるのである。
次ページ()の公式の背後には、今まで誰も説明することのできなかった大自然の法則が働いている。
したがってこの公式を建設的な目的に用いれば、必ずあなたの輝かしい前進に役立つことを私は保証する。
しかし邪悪な目的に用いた場合、大いなる悲劇を生むことになるだろう。
これまで失敗を繰り返し、混乱と絶望に打ちのめされてきた人々は、実は知らず知らずのうちに、深層自己説得のルールを間違った方向に用いてきたのである。
※つまり、混乱と絶望、失望は成功プロセスに必要な種子ということを最初から前提にしておけば、折れることはない。先人等は折れずに空き進んできたということ。

〈自信を育む公式〉
●否定的な思考の悲劇
潜在意識は肯定的な思考と、否定的な思考を区別することができない。潜在意識は私たちがインプット(入力)する思考を、極めて事務的に処理していく。
※インプットの区別をすることができない。事務的に処理されるので、常にプラスのことをイメージし続ける。
したがって潜在意識は、恐怖に基づく思考も、勇気や信念に基づく思考も同じように現実に変えてしまうのだ。
これは原子力がプラスに使われれば産業を繁栄させるけれども、悪用すれば文明を破綻に導くことができるのと同じ理屈である。
このように、潜在意識は、良いようにも悪いようにも働きかけることができるのである。言い換えれば、潜在意識はあなたの使い方一つによって、プラスにもマイナスにもなるというわけである。
※潜在意識はとてつもなく大きな力であるため、使い方を間違ってはいけない。
もしあなたが、恐怖や、疑惑や、他人へのひけめにまどわされていると、気づかないうちにマイナスの深層自己説得、つまり自己暗示が働き、あなたの一生はつまらないものになってしまうだろう。
このようにあなたのコントロール次第で、引き出された潜在意識はあなたを幸福にすることもできるし、不幸のどん底に陥れることもできる。
しかし、深層自己説得によって、誰でも想像をはるかに超える力を発揮することができる。この深層自己説得の働きをよく表現している詩があるので紹介しておこう。
- 負けると思ったらあなたは負ける
- 負けてなるものかと思えば負けない
- 勝ちたいと思っても、勝てないのではないかなと思ってしまったら、あなたは勝てない
- 負けるのじゃないかな、と思ったらあなたはもう負けている
というのも、成功は人の考えから始まるからだ。
※勝ちたいではなく、絶対に勝てる。勝てるに決まっている。
- すべてはあなたの心の状態によって決まるのだ
- 自信がなければあなたは負ける上に登りつめるには高揚した精神が必要だ
- 何かに勝つためには自信が必要だ
- 人生の闘いに勝つのは、必ずしも最も強くて、最もすばしっこい人ではない
最終的に勝利を収めるのは、〝私はできる〟と思っている人なのだ。
※私はできると強く強く強く思う。
この詩の中で、強調されている言葉をよく味わってみよう。そうすれば作者の意図がよくわかるだろう。
●あなたの頭脳の中で眠っている才能
あなたの心の中には、摘み出して開花さえできれば、あなたが、これまで夢ですら見たこともないような、成功を実現させる種子が潜んでいるのだ。
優れた音楽家が、バイオリンの弦から素晴らしい音楽を奏でるように、あなたもあなたの頭脳の中で眠っている才能を引き出すことができれば、どのような目標や願望でも、実現することができる。
エイブラハム・リンカーンは、何をやっても失敗ばかりしていた。四〇歳をはるかに過ぎるまで、ずっとそうだった。
失敗に次ぐ失敗で、誰からも見向きもされないような人間であった。このような彼が、あるとき、素晴らしい体験をした。
その体験が、彼の心と頭脳の中から素晴らしい才能を引き出し、世界に貢献するような人物を生み出したのである。
その体験とは、愛と悲しみとの二つの感情から生まれた。彼が心から愛した唯一の女性、アン・ラトリッジが原因である。愛情というのは、信念によく似た心の状態である。
したがって、愛も信念と同様、思考を実体のあるものに転換するのに大いに役立つのである。
私は成功した人々をたくさん調査したが、調査しているうちにわかってきたことは、大成功を収めた人々の陰には、たいていの場合、その人を愛する人の存在があるということだった。
●奇跡も信念から生まれる
あなたが信念の力の証拠というものが欲しければ、それを実際に活用した男女を調査してみるとよい。もし、奇跡というものが存在するならば、それは信念から出ていることは間違いない。
たとえば、よく知られている、インドのマハトマ・ガンジーを通して、信念の力を調べてみよう。この人は驚くほど偉大な信念を持っていた。
私はかつてガンジーの友人としてインドで過ごしたことがある。それで、彼の信念がいかに驚くべきものであったかを、肌身を通じて知っている。
ガンジーは同時代に生きたどんな人よりも多くの潜在的な力を発揮した。彼はお金も家も一着の衣服すらも持っていなかったが、パワーを持っていた。ではそのパワーはどこから手に入れたのだろうか。彼のパワーは信念から生まれたのである。
そして、その信念の力が二億(当時)のインド人の心をゆさぶり、二億人をあたかも一人の心のようにまとめあげたのだ。
信念以外のどのようなパワーが、このような離れ業を成し遂げることができるだろうか。
ここで実業家が財産を築いていく過程を観察してみよう()。
事業にも、信念は不可欠のものだ。そして信念は「思考」がその根底にある。事業の経営にも信念は不可欠である。
※思考→信念→
成功する経営者、あるいはビジネスマン、ビジネスウーマンというものは、常に成功の黄金律を自分の血肉の一部としているものだ。
※成功の黄金律を自分の中に作り持つ。
成功の黄金律とは、言うまでもなく「自分がして欲しいと思うことは、何よりもまず他人にそうしてあげることだ」ということである。
鉄鋼業界の大合同によって、USスチール・コーポレーションが設立されたときのことである。「思考」がどのようにして大きな富を築いていったか、そのプロセスを学んでいただきたい。
大きな富がどのように築かれるのか不思議に思っている人は、このUSスチールの物語はなんらかの解答になると思う。
また、考えるだけで豊かになれる、‘Think&GrowRich’ということを疑っている人は、この物語を知ることによってその疑いを打ち砕くことができるに違いない。
これから話すUSスチール成立のエピソードは、本書に書かれた成功原理の応用例なのである。
●一〇億ドルの華麗なスピーチ
一九〇〇年一二月一二日の夜のことであった〔訳注…この翌年、日本では八幡製鉄所が創業している〕。
アメリカを代表する八〇人の資産家が、ある無名の青年実業家を招待するため、ニューヨーク五番街のユニバーシティ・クラブ〔訳注…ニューヨークでは由緒ある社交クラブとして知られている〕のホールに集まった。
しかし、出席者のほとんどは、この晩餐会がアメリカの、いや世界の財界をゆるがすほどの、重要な意味を持つことになろうとは、夢にも思っていなかった。
この晩餐会はエドワード・R・シモンズと、C・スチュワート・スミスの二人がピッツバーグを訪問した際、チャールズ・M・シュワッブから受けた手厚いもてなしのお礼のために開かれる、ということになっていた。
両氏ともアンドリュー・カーネギーの親友である。同時にまた、三八歳のこの鉄鋼業界の新人、シュワッブを銀行家たちに引き合わせるという目的もあった。

しかしほとんどの出席者たちは、この青年がそれほどの辣腕家であるとは考えてもいなかった。
シュワッブは貸馬車屋の子で、一八歳のころカーネギー・スチールのブラドッグ工場の近くにある雑貨店でタバコ売りをしていた。
たまたまカーネギー・スチールの近くで働いていた関係から、同社の幹部であるウィリアム・ジョーンズと親しくなり、あるときシュワッブが「工場で働きたい」と言うと、ジョーンズは快く斡旋してくれて、従業員の一員に加わることができた。
ところが、入社後半年目には早くもカーネギーの目にとまって、たちまち工場長代行にまで出世した。
その後、工場長のジョーンズが事故死したため、その後任としてシュワッブが抜擢されることになった。
さらに数年後、シュワッブはカーネギー・スチールの社長に任命され、さらにUSスチールが設立されてからは、その社長に任命されたのである。
ところで、ニューヨークの人々は長い演説を好まないことで知られていた。
そこで「もし、好感を与えたいのなら、一〇分からせいぜい二〇分程度でスピーチを切り上げるように」と、そっとシュワッブに警告する人もいた。
シュワッブの右側に座っていたJ・P・モルガンさえもが、義理で出席しているような素振りに、人々の目には映った。
いずれにせよ、翌日の新聞で報道されるような話題など絶対あるはずがないような、ありふれたパーティーだったのである。
出席者たちは例によってすでにフルコースの料理を食べ終えていたが、特にこれといった話題もなく、退屈しているように見えた。
シュワッブがホールを見渡しても、面識のある銀行家や実業家は、ほとんど出席していなかった。
彼は当時、モノンガヘラ河沿いの一部の地域(つまりピッツバーグ周辺)でしか、有名ではなかったのだ。
しかしパーティーが閉会に近づくころまでには、のちにUSスチール社の社長となり億万長者となるこの青年に、財界の首領であるモルガンをはじめ出席者全員が、すっかり魅せられてしまったのである。
●度肝を抜かれた参加者
このときのチャールズ・シュワッブのスピーチが記録されていないのは、歴史にとっても大きな損失であるといえるかもしれない。
シュワッブは、言葉遣いをあまり気にするほうではなかったので、ウイットに富み、ポイントもしっかり把握した話し方だったが、それほど修辞学的に優れたスピーチというわけではなかった。
しかし、シュワッブが語った当時の金で総額一〇億ドル以上をも要する大計画には、さすがの出席者たちも、度肝を抜かれ、大きな衝撃を受けたのである。
九〇分という長いスピーチが終わっても、出席者たちはしばらくの間、そのスピーチに酔っていた。
ウォール・ストリートの帝王と異名をとるモルガンはといえば、スピーチを終えたシュワッブを、奥まった窓の所に連れていって、それからさらに二人だけで一時間以上も話し込んだものであった。
晩餐会会場でのシュワッブの個性も強烈だったが、それ以上に人々の心に強く残ったのは、彼が発表した大規模で明確な、鉄鋼業界立て直しの計画だった。
それまでにも、さまざまな人が、モルガンの気を引こうと、新しい商品企画とか、鉄鋼業界の再編成の話などを持ち込んではいた。
遣り手の投機師として知られていたジョン・W・ゲイツもしばしばモルガンに働きかけていたが、モルガンは彼のことを全面的には信用せず、結局モルガンは動かなかった。
フェデラル・スチール・コーポレーションの社長で、連邦最高裁判所判事の経験もあるエルバート・H・ゲリーもモルガンのグループに入れてもらおうと働きかけていたが、仲間入りの可能性はなさそうだった。
J・P・モルガンは、それまで、自分はひとかどの大物実業家だと自負していたつもりだったが、シュワッブの大構想を聞いてすっかり肝をつぶしてしまったようだ。
だがこの構想自体は、他の業界においてもう三〇年以上前から知られているものだった。
数千にのぼる小会社を吸収し、ときには赤字経営の会社までも買収、合併して巨大企業を形成してきた戦略がそれである。
鉄鋼業界でも、ジョン・W・ゲイツが策をめぐらして小会社ばかりを買収し、それをチェーンにしたアメリカンスチール・アンド・ワイアー社を創立していた。
しかしこれらは、アンドリュー・カーネギーの大規模な垂直統合組織と比較すれば、五三社もが出資しているトラストでさえも、子どもの遊びのようなものだった。
どんなに彼らが団結をしても、カーネギーの巨大な組織には、微々たる影響さえも与えることはできなかったのだ。このことはモルガンもよく承知していた。
●カリブ海の海賊の誤り
頑固なスコットランド人、アンドリュー・カーネギーは目を細めてスキボ城〔訳注…妻のためにカーネギーが買い取ったスコットランド最北端の古城〕の展望台の上から、モルガンとの駆け引きを指示していた。
モルガンも勝ち気な男だったので、カーネギーには対抗意識を持っていた。そのモルガンが、カーネギーをたたきのめす最高の手段を見つけたのだ。しかしそれはカーネギーにとっても好都合のことであった。
シュワッブのスピーチを聞いて、これまでの自分のやりかたが基本的に間違っていたことにモルガンは気づいたのである。
ある作家が述べたように、「カーネギーの組織すべてを買収してしまわない限り、モルガンの組織は梅のプリンから梅を抜いたもの以上にはならない」ということに気がついたのだ。
とはいえ、どうやってそうしたらよいか、という肝心なところが、どうしてもモルガンの頭の中には浮かばなかった。
ところが、一九〇〇年一二月一二日に開かれた晩餐会でのシュワッブのスピーチは、遠まわしな言い方ではあったが、カーネギー・スチールが近い将来、モルガンに吸収されるだろう、ということを出席者にそれとなく知らせたものであった。
シュワッブは世界的な視野で鉄鋼業界の将来を予測し、合理的な経営を行うために組織を根本から再構築すべきことを提案したのである。
計画を無視して建てられた工場や設備を整理してまとめ、資本を一本化し、原材料の流通を改善するほか、政界とのつながりを強め、さらには国際市場へ参入することなど、シュワッブは彼の構想を詳しく説明した。
またスピーチの中でシュワッブは、その昔カリブ海に出没した海賊が、どのような過ちを犯して滅び去ったのかを話しながら、すべてを独占することで、価格をつりあげ私腹を肥やすという経営姿勢が、どれほど愚かな行為であるかを、納得のいくまで説明したのであった。
こうして、今までのやり方が「井の中の蛙」的なもので、鉄鋼市場を独占しようとすることが、いかに他の分野の産業の発展を抑圧してきたかを、彼は鋭く指摘したのである。
そして、ここで発想の転換をして、鉄鋼の価格を値下げすれば、加速度的なスピードで市場は拡大されるに違いなく、鉄鋼はますます多岐にわたる分野で使用されるようになることを、熱っぽく語ったのであった。
意識していなかったかもしれないが、シュワッブは現代における量産システムの最初の伝道者となったのである。
ユニバーシティ・クラブの晩餐会が終わって帰途についてからも、可能性に満ちあふれたシュワッブの計画を考えれば考えるほど、モルガンはなかなか眠ることができなかった。
一方、シュワッブはピッツバーグに戻って、再びカーネギーのやり方で鉄鋼の仕事を続けていた。
ゲリーやその他の晩餐会出席者も、家に帰って株式相場をながめながら、次に何が起こるのかを見守っていた。
モルガンがシュワッブの話に夢中になっていたのを彼らは目のあたりにしていたからである。モルガンが動き出すまでに、それほど時間はかからなかった。
シュワッブが出したあの晩餐会でのご馳走(つまりあの大構想)が消化されるのに要した時間は、たった一時間であった。
モルガンはこの計画で資金調達が難しくなることはない、と判断を下した。そこで早速シュワッブと手を組もうと考えたのであるが、その前に心配なことが一つあった。
カーネギーが、自分の組織のメンバーであるシュワッブがウォール・ストリートの帝王と手を組んだことを知ったら、きっと不愉快に思うだろうと心配したのである。
ましてカーネギーは、ウォール・ストリートを歩くことさえも避けていたくらい毛嫌いしていた。そこで仲介役としてジョン・W・ゲイツを指名することにした。
ゲイツは以下のような計画を立てた。
つまりシュワッブが、たまたまフィラデルフィアのベルビューホテルにいるとき、これもたまたま偶然にモルガンがそこに現れて、ばったりと出くわす、というよくあるシナリオであった。
これなら、意図的にモルガンとシュワッブが手を組んだことにならない、というわけである。
しかし運悪く、モルガンはその日、病気になってしまい、ニューヨークの自宅から外に出られなかった。
しかたなく、他の長老格の人間が間に入り、後日シュワッブはニューヨークで正式にモルガンと再会することになった。
ある経済史の専門家は、このドラマは初めからアンドリュー・カーネギーが計画したもので、シュワッブのために開かれたあの晩餐会や、今も語り草になっているスピーチ、そしてシュワッブとウォール・ストリートの帝王モルガンとの出会いもすべては、遣り手のスコットランド人、カーネギーがお膳立てしたのだと主張しているが、実際はそうではない。
カーネギーが〝田舎の親方〟と呼んでいたモルガンが、晩餐会でシュワッブの構想(シュワッブの説得)にあれほど真剣に聞き入るとは誰も予想していなかったのである。シュワッブは六枚の手書き原稿を用意し、熱を込めてスピーチを行ったのである。
●カーネギーの夢と自分の夢を同時に実現させたシュワッブ
個々それぞれの力には限界があることを述べ、新しい利益を創出する戦略を発表するシュワッブの姿は、まさに新しい鉄鋼業界のスターのようであった。
晩餐会では、シュワッブのスピーチについて質問する人は誰もいなかった。なぜなら彼のスピーチには、疑いようのない真実が盛られていたからである。彼は絶対の自信を持って力強く語りかけた。
そしてこの計画は誰か他の人が真似できるようなものではなく、また便乗して利益のおすそ分けにあずかろうという人々をも、一切受けつけるものではない、とつけ加えたのである。
「(金額の点で)カーネギーを説得することができるかね」ニューヨークの自宅でモルガンはシュワッブに尋ねた。
「やってみましょう」シュワッブは答えた。「買収がうまくいったら、あとは君にすべてを任せるよ」とモルガンは約束した。
ここまではすべて順調に進んだが、カーネギーは本当に承諾するだろうか、もし売却するとしたらどれくらい要求してくるだろうか、とモルガンは考えていた。
シュワッブは三億二〇〇〇万ドルと見込んでいたが、どのように支払えばよいのか……、普通株にするか、優先株にするか、または債券にするか、現金にするか。
もしカーネギーが現金を要求しているのなら、こんな金額は用意できないであろう。一月の凍りつきそうなある日のこと。
ニューヨーク郊外のウェストチェスターにあるセント・アンドリュース・クラブ〔訳注…ゴルフ発祥の地、スコットランドの名門ゴルフ・クラブと同名だが関係はない〕を眼下に見下ろす丘の上にカーネギーの別荘がある。
シュワッブはこの別荘を訪れ、カーネギー夫人のとりなしでカーネギーとゴルフをするチャンスを持った。
セーターを着込んだカーネギーとシュワッブは、寒さをものともせず、賑やかに雑談を交わしながらゴルフを楽しんだ。
しかし、暖かいレストハウスに戻るまでは、ビジネスのことはおくびにも出さなかった。そしてシュワッブは突然切り出した。
ユニバーシティ・クラブで八〇人もの資産家が魅了されたあの語り口で、気まぐれな老実業家の心を引きつけるようにしながら、モルガンには、莫大な資金の用意があることを伝えたのである。
カーネギーは、よし、よし、とうなずいて、何やら数字を書いたメモをシュワッブに手渡して言った。
「この値段なら売ってやってもよかろう」そのメモには一ドル五〇セントと書いてあった。
これはカーネギー・スチールの資産評価額を一とすると、その一・五倍の金額、すなわち五億ドルを意味する。
シュワッブからこの話を聞いたモルガンは、この要求を受け入れた。
そして、決済は金の裏打ちのあるUSスチールの社債(兌換社債)で行われ、まず三億二〇〇〇万ドル相当分を引き渡し、残りは、向こう二年間に引き渡すという条件で合意した。
USスチール創立後しばらくしてモルガンは、大西洋横断客船のデッキ上で、カーネギーに向かって、「もしあなたが、さらに一億ドル要求してきたら、私は支払うつもりでした」と語ったという。
事実、カーネギーは自社を売却するに当たって、過大な要求はしなかった。もちろんこの事件で、世界中は大騒ぎになった。
イギリスの通信社は、「このとてつもない巨大な組織に、世界中が腰を抜かすだろう」と打電した。
またエール大学のハードリー学長は、「いつの日か法律で規制を受けるまでは、USスチールはどう少なく見積もっても、二五年間はワシントンの帝王の座に君臨できるだろう」と述べた。
この大合同の直後、有名な相場師キーンが走りまわって新株を買い占めたため、六億ドルにのぼる他の株もまたたく間に暴騰し、カーネギーは数百万ドル、モルガンのシンジケートは合計六二〇〇万ドル、その他ゲイツからゲリーに至るまで、関係者全員がそれぞれ何百万ドルという利益を得ることができた。
そのとき、三八歳のシュワッブが手にした報酬は、この新しい組織、USスチールの社長の椅子であった。彼は一九〇四年までその地位にあった。
●富はまず思考から始まる
この巨大な事業の劇的な物語は、願望が現実化していく過程を完璧なまでに示している。この巨大な組織は、一人の男の頭の中で考え出されたのである。
経済的な安定を求めるために、その組織を鉄鋼所と結びつけるという計画も、またカーネギーの自社売却の希望を実現させる方法も、同じ男の頭の中で練り上げられたものだ。
彼、つまりシュワッブの想像力、信念、願望、忍耐が、USスチールを生んだといっても過言ではない。新しい組織によって買収された鉄鋼所、および機器類は単なる結末にすぎない。
※思考・願望・想像力→信念→忍耐→成功
しかし、詳しく調べてみると、USスチールの資産の総額は、軽く一四億ドルを超えていた。
一つの経営体系のもとに、会社を統合するという、たった一つの行為によってこれだけの儲けが生まれたのである。
言い換えれば、シュワッブのアイデア、信念が、J・P・モルガンたちの心を動かし、それが結果として一四億ドルの価格を持っていたということである。
考えてみれば、小さな一人の人間の中の、小さな頭脳が生み出した、たった一つのアイデアと信念が、これほどの富を生んだのである。何と、思考というものは偉大なのであろう。USスチールはその後もますます繁栄し、アメリカ最大の企業となっていった。
富は思考から出発する。そして思考の一つの形態である「願望」が、富の姿・形を鮮明にしていくのだ。
富に限界があるとすれば、それは願望実現をはかろうとする人の頭に限界があるからにほかならない。
※自分の頭の中に知らないうちに限界を作っているから。
そういうときに、信念は限界をぶち破る役目を果たす。あなたがあなたの人生で決断しなければならないとき、この物語を思い出していただきたい。
もう一度言おう。あなたが求める富によってあなたの人生が決まるのである。
エッセンス③()()
▼信念なくして成功はない。信念は深層自己説得によって強化することができる。
▼「自信を育む公式」の実践は難しいものではない。絶望的になれば絶望的な結果を招き、勝利や幸福を願えばそのとおりの結果となる。
▼リンカーンやガンジーにみられるように、揺るぎない信念は何百万人もの人々の心を引きつけ、一人の心のようにまとめあげることができる。
▼得る前に与えよ。これは、自分の利益のためだけのビジネスを、人々と利益を分かち合うビジネスに変えなければならない、ということである。
▼人は信念によって、豊かにもなるし、貧しくもなる。
▼信念は限界を打ち破る役目を果たす。
▼あなたが求める富によってあなたの人生が決まる。

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