00マニュアル電子化の手順
前章では、マニュアルの有効性と見直しの必要性について、書いてきました。本章では、マニュアルを見直していく手順について説明していきます。今回は、電子化することを念頭に書いています。電子化を進めるに当たって図表のようなステップがあります。
- ①運用イメージと電子化の対象範囲を明確にする
- ②マニュアルソフトを選定する
- ③マニュアルソフトを載せるハードを選定する
- ④ネットワークとセキュリティ環境を整備する
- ⑤活用に向けたリテラシー教育をする
- ⑥意見共有の場を作る
一般的なソフトウェアやシステムの導入とステップ上での違いはありませんが、マニュアルの電子化に特化した形で今回は説明します。


ステップ1運用イメージを明確にする
マニュアルを電子化するに当たって、まずは対象範囲を明確にする必要があります。膨大な数のマニュアルが社内には存在すると思いますが、すべて電子化する必要があるか一度検討することをおすすめします。
「紙のマニュアルがタブレットに載り、どこでも見られるようになる」というざっくりとしたイメージは誰でも持てるのですが、「誰が」「どのような場面で」「何のマニュアルを見るのか?」といった具体的なシーンを想定することが重要です。
具体的な運用イメージに落とし込んで考えることにより、マニュアル毎の電子化する必要性を考えやすくなります。
紙のマニュアルと電子マニュアルのメリット・デメリットを整理してあるので、それに照らし合わせて検討しましょう。
また、対象の選定と同時に、マニュアルの運用イメージを先に練り上げることも重要です。
このステップを正しく踏まないと後に続く、ハードウェアやソフトウェアの選定時に機能の要否判断が難しくなります。
結果的に、コストが余計にかかってしまう要因になってしまうので、丁寧に推進することが重要です。


ステップ2マニュアルソフトを選定する
マニュアルの対象範囲と運用イメージが明確になったら、そのイメージを実現するソフトウェアを選定します。
大枠の手順は3つです、①複数候補を選出し、②前項の対象範囲と活用シーンを基軸として評価し、③選定となります。
最初の候補選出については、iPadが登場して以来、マニュアル関連ではタブレット型端末に対応したソフトウェアが増えてきており、候補を探すことにはあまり苦労しないでしょう。
一方で、選択肢が増えてきた分、複数候補の評価が難しくなってきます。一般的なコストの評価はもちろんですが、前項で明確にした活用シーンを実現できるかという点を重要視する必要があります。
一般的な仕様(たとえば「動画視聴」や「ネットワーク上のファイルの参照」)は、大差がありませんが、細かい仕様ではソフトウェア毎に異なります。
たとえば、動画を再生するときに必ず全画面で開くものと、マニュアルの小窓の中でも開けるもの(全画面も可のもの)という差があったとします。
このような仕様差を評価するためにも活用シーンに沿った評価が重要になります。
また、電子マニュアルに直接関わる仕様だけでなく「対応端末の多さ」や「最新OSへの対応状況」「サポートの充実度(電話以外にも、サイトやメールでのサポートなどをしてくれる会社もあります)」も評価の項目に加えておくとよいでしょう。
活用シーンにもよりますが、筆者の過去の経験上では複数のソフトでどれか1つが万能かつ低コストで圧倒的優位ということはあまりありません。
ある面が優れていれば別の面が劣っている状態はよくあります。また、仕様面で優れていてもコスト面が合わないことも多いです。そういう状況に陥ったときには、活用イメージに戻るようにしてください。
目的は電子化や優れたソフトウェアを導入することではなく、それを通して作業の効率化や付加価値の向上を図ることです。
そのためには、活用イメージが迷ったときの羅針盤になります。
迷ったときは、一度活用イメージに立ち返り「仕様が足りない場合はどういうシーンに変わるのだろうか?」「別の仕様で対応できないか?」という点について戻って議論するとよいでしょう。
ソフトウェアの選定は、見直すマニュアルの実現に大きく影響します。手戻りをいとわず、活用イメージの練り直しも含めて粘り強く推進してください。
コラムITベンダーを選考する際の手順
ここでは、ITベンダーの選び方について詳細に説明しておこうと思います。電子マニュアルをベンダーに依頼する場合、大きく2つの方法があります。
1つめはパッケージ化されたものを購入する方法です。
パッケージ化とは、ベンダーにおいてある程度確立された機能、仕様、フォーマットが定められており、そのシステムにこちらが合わせていく形です。
目的に合致していればよいのですが、業務特性、目的に沿わない場合は、追加でカスタマイズ化する必要があります。
2つめは、スクラッチ開発(まったくのゼロから開発すること)できるベンダーを選定することです。
既存の製品や雛形などを流用せずに、ゼロから新規に開発することを指します。反面、システム開発が伴うため予算増になる可能性が高くなります。
ベンダー選定においては、費用対効果、または機能要件の評価によっての判断となりますが、一般的に中小企業の場合はスクラッチ開発する予算や時間を割くことができないため、1つめに挙げたパッケージ化されたマニュアルソフトを入れるのがベターと言えるでしょう。
仕様書作成と同時にベンダーの候補の検討を始めるわけですが、要件・仕様を踏まえたうえで、どんなベンダーがあるのかを調査します。
まず1次選考は、要件として提示した機能に対して充足しているかを確認したうえで価格を基準に行うとよいでしょう。
機能などがどんなによくても想定している価格と対比した際に明らかに予算外のベンダーはこの時点で切り捨てます。
最終選考では、価格はもちろんのこと、①仕様要件を満たしているもしくは開発が可能か、②スケジュール感として適正か、という点からも判断します。
そして、ベンダーが決まったら、「はい、お任せ」ではなく、詳細に設計に入ります。
詳細設計での目的は、ベンダーと調整を行いながら、これまで検討してきたい要件・仕様をより具体化しマニュアルの電子化に必要な仕様を詰めていきます。
ステップ3マニュアルソフトを載せるハードを選定する
ソフトウェアが決定したら、ハードウェアの検討を行います。ソフトウェアのベンダーと連携して、マニュアルのソフトが載るのに最適なものを選定する必要があります。
近年、マニュアルの電子化というとソフトはいろいろありますが、ハードはタブレット型端末を想定する人が多いと思います。
ハードウェアの選定においても決め打ちはせずに複数の選択肢を持ち、議論しながら決定していくほうが最終的に現場にフィットしやすくなります。
次図はとある企業でマニュアルの電子化を検討したときのハードウェアの検討例です。この企業も当初はタブレット型の端末に重点を置いて検討していました。
しかし、我々と議論していくうちにマニュアルを使う人たちは現場での移動をほとんどせずに立ち仕事をしながら使うことが判明しました。
この章ですでに紹介した図はそのときのものです。
しかも、マニュアルに載せる内容は手順書から図面まで多岐にわたり、タブレット型の端末だと、見にくい懸念が出てきました。
そこで、再度必要なことを議論した結果、優先すべきポイントがタッチ操作・大画面の2点に絞られ、結果としては通常のデスクトップPCにタッチ操作対応のモニタをつけてマニュアルを運用するようになりました。
この例でもあるように、当初思い描いているものにとらわれず、重要なことは何かと考えながらハードウェアを選定していく必要があります。

コラムハードウェアを選定する際の手順
電子マニュアル作成時には、ハードウェアの検討が必要となります。一般的なフローとして次のようなステップで行います。
①現状分析
まず現状の実態を正しく理解するために現状分析を行います。
実態を正しく把握するためには、ヒアリングだけでなく、既存業務の洗い出しや職場を目で見て把握することが重要です。
現状分析は軽視されがちですが、実は成功のカギは、実態(問題点、理想とのギャップ)をいかに把握できるかにかかっているといっても過言ではありません。
②仕様検討
仕様検討は、ハードウェアに求める機能を決めるために行います。
つまり、こんなことがしたい、そのためには、どんな仕様が必要かを検討することになります。
この段階では、あまり制約を考えずに検討できるとよいでしょう。
③要求仕様書作成
第3のフェーズでは、②でまとめた仕様要件をまとめ、ベンダーへ提出できる形に資料化します。
どんな背景からマニュアル電子化を検討しているのか、自分たちが何をやりたいのかをベンダーに正確に理解してもらうために提案書という形でまとめます。
このフェーズは、システム開発会社から良い提案をもらうために重要な要素と言われています。
また、自分たちの考えを整理するうえでも何が目的でどんな機能が必要なのかを整理するため、関係メンバーの理解促進にもつながります。

ステップ4ネットワークとセキュリティ環境を整備する
マニュアル電子化のメリットの一つに、ネットワーク上でファイル管理が可能になる点があります。
ネットワーク上でファイルを管理するに当たって自社のネットワーク環境を確認することは重要です。
また、ネットワーク上にデータを置くということは情報流出の可能性が紙より高まるため、セキュリティの状態も合わせて確認する必要があります。
これらは、情報システム部門に丸投げせず、運用イメージやソフト・ハードの情報を共有しながら課題解決に当たっていくことをおすすめします。
マニュアル担当者は情報システム部門とは限りませんし、自社のネットワークに関して知識があることも稀です。
システムやネットワークに関する内容はアレルギーを持っている人も多く、ついつい社内の専門家に一括してお願いしてしまうケースはよくあります。
しかし、社内の専門家はシステムやネットワークには精通していても、マニュアルの改訂やこれからマニュアルをどう活用していくかについては情報を持ち合わせていません。
担当者はそういう部分を一辺倒に伝達するだけでなく、一緒にネットワーク環境の確認・整備を検討するとよいでしょう。
ネットワークの整備と同時にセキュリティの対策も練る必要があります。
マニュアルの内容にもよりますが、前章で書いたように匠の作業内容やそのポイントなどは会社にとっての重要な情報になります。
日本ネットワークセキュリティ協会に機密性リスクの分類分けがありますが、それによると業務マニュアルは機密性リスクが中~大のものと扱われ、セキュリティ対策がやはり必要な領域と認識されています。
セキュリティ対策をするためにはリスクの洗い出し→評価という手順で進めます。まずリスクを洗い出します。
セキュリティの議論をするときは、複数メンバーで情報漏えいの事例などを調べながら洗い出すとうまくいきます。
ネットワークの整備の部分と同様に、社内の情報システム部門と協力して進めていくと効率的に進めることができます。
リスクを洗い出したら対策と評価を行います。なかには技術的に対策が困難なこともありますし、発生可能性から見たら稀なものもあります。
それを評価をしていきながらセキュリティの対策をしていきます。
この後で詳しく述べますが、技術的な対策だけでなく、使用者のITリテラシーなども情報漏えいリスクを減らすうえで一定の効果があります。
このような対策を行っていくことにより安心してマニュアルを使うことができるようになりますので、苦手意識がある人も社内のメンバーと連携して進めてください。


ステップ5活用に向けたリテラシー教育をする
電子マニュアルの活用という点では、マニュアルソフトやハードの使い方以外にもITリテラシーの教育も必要です。
ITリテラシーとは、「PCやタブレットのIT機器、またはソフトウェアを使いこなす能力」のことを指します。
教育に当たって、①使用者の確認②教育内容の設計③教育実施の手順で進めていきます。使用者の年齢層が高ければ高いほど一般的にITリテラシーは低い傾向にあります。
ただし、年齢だけで教育内容を設計してしまわずに、何名か実際にヒアリングすることをおすすめします。
現場の声や実態を確認して、それに合った教育内容・教育計画を立てていくと無駄なく進めることができます。
主な教育内容として、電子マニュアルが搭載されている機器の使用方法、閲覧・検索するためのソフトウェアの使用方法が中心となります。
基本操作面の教育にくわえて、維持管理面、誤操作に関する教育も重要です。
機器(ハード)面では、機器故障対応・取扱注意事項(機器に悪影響を及ぼす粉塵などが飛散する環境に保管しない、衝撃や振動が伝わらないような保管を行うなど)が必要です。
ソフトウェア面では、誤操作による削除の注意、セキュリティ対策(メモリの接続禁止、コピーや持ち出しの禁止)などが必要になってきます。
直感的に操作できるように電子マニュアルを整備したつもりでも、基本的な知識教育を怠ると、思わぬ落とし穴が待っているものです。

ステップ6意見共有の場を作る
マニュアルを実務で活用するためには、使い手からの情報・声が重要となることを忘れてはいけません。
使い手からの情報を軽視せず、マニュアルの間違った情報や不具合、その他要望などをできるだけリアルタイムで把握し、改善・更新を行うべきです。
そこで最後に、意見共有の場を作ります。
多くの企業では、導入と教育を行うことで一段落と考えている人が多いのですが、マニュアルやシステムは使用時や使用後の意見や感想を共有して初めて価値が出てきます。そのためにも、意見共有の場は必要になります。
最近では、SNSやWikiが出てきたのでそれを活用し意見共有を進めていくことを目指します。
導入については、ソフトウェアの選定と同様に、①複数のサービスの情報収集②利用者のレベルを鑑みた評価③導入・活用という進め方になります。
意見共有の場を作る上で、ありがちなことは「誰も投稿しない」「投稿しても反応がない」という過疎状態になることです。
せっかく意見共有の場を作ったのにこうなってしまってはもったいないです。このような状態にならないために、場の盛り上げ役を設定しましょう。
盛り上げ役の人は、みずから積極的に投稿するとともに他の投稿者にコメントをするようにします。
できれば、複数人で年齢・性別・役職にバラツキを持たせて個性的なメンバーをそろえるとなお良いでしょう。
「誰かが反応してくれる」「共感してくれる」ということはうれしいことであり、うれしくなるためにまた投稿したくなります。
この盛り上げを根気強くやっていくことが意見共有の場を作っていく上での重要な活動です。
SNSやWikiが出てきてからは、感じたことやアドバイスをSNSのページに投稿することによって、別の人の返信から新しいアイディアをもらえたり、共感をしてもらえたりします。
Wikiには、成功事例や失敗事例をためることによって事例集が蓄積されていきます。
これらの情報は、今までのフェイス・トゥ・フェイスや電話・メールでは断片的にしか把握できませんでしたが、SNSとWikiによって情報を集めやすくしかも情報の重要度も推し量ることも可能です。
SNSやWikiの普及により、今まで以上にマニュアルに対する意見や新しいアイディアをもらえるようになっています。
意見共有の場を作り、盛り上げることによってよりよいマニュアルを作っていく基盤を作っていくことが重要になります。
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