第3章シンプルな四つのステップで良い習慣を身につけるHowtoBuildBetterHabitsin4SimpleSteps心理学者エドワード・ソーンダイクが一八九八年に行った実験は、習慣の作られ方や、行動を導く法則について理解するうえで基礎となるものだ。ソーンダイクは動物の行動研究に興味を持ち、ネコによる実験を始めた。彼は問題箱という装置にネコを一匹ずつ入れた。箱は、「ひもの輪を引く、レバーを押す、板を踏むというような簡単な行動によって」、ネコがドアから逃げられるように作られている。たとえば、ひとつの箱にはレバーがあり、それを押すと箱の側面のドアが開く。ドアが開くと、ネコは飛び出してエサ入りのボウルへ走っていくことができる。ほとんどのネコは、箱に入れられるとすぐに逃げ出そうとした。隅に鼻を突っこんだり、隙間に前足を入れたり、なかに置いてあるものを引っかいたりする。数分間あれこれと探索したあと、たまたま魔法のレバーを押すとドアが開き、ネコは逃げ出した。ソーンダイクは何度も実験し、それぞれのネコの行動を観察した。はじめのうち、ネコは無作為に箱のなかを動きまわっている。ところが、レバーを押してドアが開いたとたん、学習プロセスが始まる。しだいにどのネコも、レバーを押すという行動と、箱から逃げてエサにありつくという報酬を結びつけるようになった。二〇~三〇回実験すると、この行動は自動的で習慣的なものとなり、ネコは数秒で逃げられるようになった。たとえば、ソーンダイクが記しているように、「一二番のネコが逃げ出すのに要した時間は以下のとおりである。一六〇秒、三〇秒、九〇秒、六〇秒、一五秒、二八、二〇、三〇、二二、一一、一五、二〇、一二、一〇、一四、一〇、八、八、五、一〇、八、六秒、六秒、七秒」最初の三回の実験では、ネコは逃げ出すのに平均一・五分かかった。最後の三回は、平均約六秒で逃げ出している。練習によって、どのネコも失敗が減り、行動がすばやく自動的になっていく。同じミスを繰りかえすよりも、まっすぐ解決へと向かうようになる。この研究から、ソーンダイクは学習プロセスについて次のように説明している。「満足できる結果につながる行動は繰りかえされやすく、不快な結果を生む行動は繰りかえされにくい」。生活上の習慣形成について考えるとき、彼の研究は完璧な出発点となる。そして、習慣とは何か?いったいなぜ脳はわざわざ習慣を形成するのか?というような根本的な疑問への答えをも与えてくれる。脳が習慣を形成する理由習慣とは、自動的に行うまで何度も繰りかえす行動のことである。習慣形成のプロセスは、試行錯誤から始まる。人生で新しい状況に出合うと、脳は決断をしなければならない。「これにどう対処しようか?」。最初に問題にぶつかったときは、解決法がわからない。ソーンダイクのネコのように、何が役立つかいろいろ試してみるしかない。脳内の神経活動のレベルは、この時期に高くなる。状況を慎重に分析し、どう行動するべきか意識的に決断する。新しい情報をたくさん取り入れ、すべてを理解しようとする。脳はもっとも効果的な行動方針を学ぶのに忙しい。ときどき、レバーを押したネコのように、偶然に解決を見いだすことがある。不安を感じているとき、ランニングにいくと落ち着くのを発見する。長い一日の仕事で精神的に疲れきっているとき、ビデオゲームをするとリラックスできるのを発見する。探して、探して、探して、そしてようやく、「あった!」。報酬だ。思いがけない報酬を見つけたあと、次からは戦略を変更する。脳はただちに、報酬のまえに起こった出来事をリストに載せる。「あれ、待てよ。さっきはいい感じだったぞ。その直前に何をしたんだったかな?」これは、人間のあらゆる行動の背後にあるフィードバックループ――試行、失敗、学習、別の方法で試行――というループである。練習によって、不要な動きは消えていき、役に立つ行動が強化される。これが習慣形成だ。問題に直面するたびに、脳は解決のプロセスを自動化しはじめる。習慣とは、つねに出くわす問題やストレスを解決するための、自動的な一連の解決法である。行動科学者のジェイソン・リアはこう書いている。「習慣とは、簡単にいえば、自分の周囲で繰りかえす問題への、信頼できる解決法である」習慣が作られると、脳の活動レベルは下がっていく。成功をもたらすきっかけを確定し、他のものはすべて無視するようになる。同じ状況がこれから先に起こっても、何を探せばいいかよく知っている。もう、状況をあらゆる角度から分析しなくていい。脳は試行錯誤のプロセスを飛ばして、心のなかでルールを作る――こうすれば、こうなる、というように。このような経験的知識によるシナリオが、ふさわしい状況になるといつも自動的に用いられる。今では、ストレスを感じるたびに走りたくなる。仕事から家に帰るとすぐ、ビデオゲームを始める。かつては努力を要した選択が、今や自動的に行える。習慣が形成されたのである。習慣は、経験から学んだ心のショートカットである。ある意味で、習慣とは問題解決のため過去に採用したステップの記憶にすぎない。条件が合うたびに、この記憶を利用して、自動的に同じ解決法を当てはめる。脳が過去を記憶する主な理由は、未来に何が役立つかをうまく予測するためだ。習慣形成が非常に役立つのは、意識が脳の重荷になっているからだ。意識は一時にひとつの問題にしか注意を払えない。そのため、脳は重要な作業すべてに意識的注意を保とうと、つねに働いている。すると意識はできるだけ作業を無意識に追いやって、自動的に行わせようとする。これこそまさに、習慣が形成されるときに起こっていることだ。習慣は認知的負荷を減らし、心の能力を解放するので、他の作業に注意を向けられるようになる。これほど効率がいいのに、習慣の利点をまだ疑っている人もいる。その意見はこうだ。「習慣のせいで生活が退屈なものになるだろう?つまらないライフスタイルに自分をはめこみたくない。ルーティンばかりだと、生活の活気や自発性がなくなるんじゃないか?」。そんなことはない。この疑問ではふたつのものを対峙させているが、それは間違いだ。これを聞けば、習慣を身につけるか、自由を得るかのどちらかを選ばなければならないと思うだろう。実際は、このふたつは互いに補完しあっている。習慣は自由を制限しない。自由を作りだしている。それどころか、習慣をうまく活かせない人の多くは、自由がほとんどない。良い金銭習慣がなければ、いつもお金に困っているだろう。良い健康習慣がなければ、いつも元気がなさそうに見えるだろ
う。良い学習習慣がなければ、いつも後れをとっているように感じるだろう。また、いつ運動したらいいか、どこへ書きにいけばいいか、いつ支払いをすればいいかなど、些細なことでいつも決断を迫られていれば、自由のための時間が少なくなってしまう。基本的な生活を簡単にすることでのみ、自由な思考や創造性に必要な心の余裕を持つことができる。逆にいえば、習慣をうまく調整して基本的な生活を送れるようにしたら、心が自由になって、新しい課題に集中したり、次にやってくる問題に対処したりできる。今習慣を身につけることで、将来したいことを、もっとたくさんできるようになる。習慣の働き方の科学
習慣形成のプロセスは、シンプルな四つのステップに分けることができる――きっかけ、欲求、反応、報酬である。このように基本的な要素に分解することで、習慣が何であり、どのように働き、どう改善すればいいか理解しやすくなる。この四つのステップのパターンは、あらゆる習慣の根幹であり、脳は毎回同じ順番でこのステップを踏んでいく。*『習慣の力』を読んだことのある人なら、これらの用語に見覚えがあるだろう。チャールズ・デュヒッグの本はすばらしい。わたしの意図は、彼が省略した部分を取りあげることであり、この四つのステップを、生活や仕事で良い習慣を身につけるのに応用できるシンプルな四つの法則にまとめることだ。
まず、きっかけがある。きっかけが脳に行動を起こさせる。それは報酬を予測させるわずかな情報だ。有史以前の祖先たちは、食物、水、セックスの相手など、原始的な報酬の在り処を示すきっかけに注意を払っていた。現代では、金や名声、権力や地位、賞賛や承認、恋や友情、または個人的な満足感など、二次的
な報酬を予測させるきっかけを知るために、わたしたちは多くの時間を費やしている(もちろん、これらを求めることで、間接的に生き残りや繁殖がしやすくなる。生き残りと繁殖は、わたしたちの全行動の背後にある深い動機だ)。あなたの心は絶えず報酬の在り処の手がかりを求めて、心のなかやまわりの環境を分析している。というのも、きっかけは、報酬が近くにあるという最初の兆候であり、それが欲求を自然に引き起こすからだ。欲求は第二のステップであり、あらゆる習慣の原動力である。ある程度の動機や願望がなければ、つまり変化への欲求がなければ、行動する理由がない。求めているものは習慣そのものではなく、習慣によってもたらされる状態の変化だ。煙草を吸うことを求めているのではなく、煙草によって気持ちが落ち着くことを望んでいる。歯を磨きたいから磨くのではなく、口のなかをさっぱりさせたいから磨く。テレビをつけたいわけではなく、楽しみたいからつける。どの欲求も、心の状態を変えたいという願望とつながっている。これは重要なポイントなので、のちに詳しく見ていくことにしよう。欲求は人によって異なる。理論上は、どんな情報でも欲求を引き起こせるが、人々は同じきっかけで動機づけられるわけではない。ギャンブラーにとっては、スロットマシンの音が、激しい欲望を引き起こす強力な引き金になるだろう。めったにギャンブルをしない人にとっては、カジノのにぎやかな鐘の音もただの雑音にすぎない。きっかけは解釈されるまで無意味である。それを見た人の思考、感覚、感情が、きっかけを欲求へと変換する。第三のステップは、反応である。反応は実際に行う習慣であり、思考や行動の形をとる。反応が起こるかどうかは、どれだけやる気になったか、また、その行動をするのにどれくらい抵抗を感じるかによる。もしある行動が、思ったよりも肉体的または精神的な努力を必要とするなら、きっと行わないだろう。反応するかどうかは、あなたの能力にもよる。あたりまえに思えるかもしれないが、それをする能力がなければ習慣は起こらない。バスケットボールをダンクシュートしたくても、ゴールに届く高さまでジャンプできなければ、うまくいくはずがない。最後に、反応は報酬をもたらす。報酬はあらゆる習慣の最終目標である。きっかけは、報酬に気づくことだ。欲求は報酬を欲しがること、反応は報酬を獲得することである。報酬を追い求めるのは、ふたつの目的を満たしてくれるからだ。(一)満足と(二)学習である。報酬の最初の目的は、とにかく欲求を満たすことだ。そう、報酬そのものが利益をもたらす。食物と水は、生きるのに必要なエネルギーを与えてくれる。昇進すれば、高給と尊敬を得られる。身体を鍛えれば、健康になるし、デートできる可能性も高まる。だがもっと即時的な効果は、食べたい、地位や承認を得たいという欲求を報酬が満たしてくれることだ。少なくともしばらくのあいだは、報酬は欲求を満たし、鎮めてくれる。第二に、報酬は、どの行動が今後も覚えておく価値があるか教えてくれる。脳は報酬探知機だ。日々生活しながら、どの行動が願望を満たし、喜びをもたらすか、あなたの感覚神経はつねに監視している。喜びや失望などの感情は、脳が必要な行動と不要な行動を区別するためのフィードバック機構の一部だ。報酬がフィードバックのループを閉じると、習慣のサイクルが完成する。
もし、ある行動が四つのステップのどれかを満たしていなければ、それは習慣にならない。きっかけを除けば、習慣はけっして始まらないだろう。欲求を弱めれば、行動する気にならない。行動を難しくすれば、行えない。そして、報酬が願望を満たせなければ、今後それを行う理由がなくなる。最初の三つのステップがなければ、行動は起こらない。四つのステップすべてがなければ、行動は繰りかえされない。要約すれば、きっかけが欲求を引き出し、欲求が反応を起こさせ、反応が報酬を与え、報酬が欲求を満たし、そして最終的に、きっかけに結びつく。このように四つのステップが、「きっかけ、欲求、反応、報酬」、再び「きっかけ、欲求、反応、報酬」、という神経系フィードバックループを形づくり、結果として自動的に習慣ができあがる。このサイクルは「習慣ループ」として知られている。この四つのステップのプロセスはときどき起きるものではない。生きているあいだ、今このときも、つねに回っている終わりのないフィードバックループである。脳は絶えず周囲を観察し、次に起こることを予測し、いつもと違う反応を試し、その結果から学んでいる。プロセス全体はほんの一瞬のうちに行われる。わたしたちは過去の瞬間に詰めこまれたものを意識することなく、何度もこのプロセスを使っている。この四つのステップはふたつの段階に分けることができる。問題の段階と、解決の段階である。問題の段階には、きっかけと欲求が含まれ、何かが変わらなければならないと気づくときだ。解決の段階には、反応と報酬が含まれ、行動を起こして望む変化を手に入れるときである。あらゆる行動は、問題を解決したいという願望によって引き起こされる。ときには、何か良いものを見つけて手に入れたいと思うことが、問題になるだろう。またときには、痛みを感じ、和らげたいと思うことが、問題となる。いずれにせよ、すべての習慣の目的は、直面している問題の解決である。
以下の表は、これが実生活でどう見えるか、例を挙げたものだ。暗い部屋へ入り、電気のスイッチを入れるようすを思い浮かべてみよう。このシンプルな習慣は何度も行ったことがあるので、考えることなく引き起こされる。四つのステップすべてを、ほんの一瞬で行う。行動への衝動が、勝手に生まれてくる。わたしたちは大人になるまで、自分の生活を動かしている習慣について、ほとんど気づくことがない。毎朝いちばんに同じ靴のひもを結んだり、トースターを使ったあと必ずプラグを抜いたり、仕事から帰るといつも普段着に着替えたりする事実について、じっくり考える人など、ほぼいないだろう。何十年も心に組みこまれてきたので、無意識のうちにこの思考と行動のパターンに陥るのである。行動変化の四つの法則次章以降で、きっかけ、欲求、反応、報酬の四つのステップが、毎日の行動にどう影響するか、もう一度ゆっくりと見ることにしよう。だがそのまえに、この四つのステップを、良い習慣を作り、悪い習慣を除くのに使える実践的な形に変える必要がある。わたしはこれを「行動変化の四つの法則」と呼んでいる。これは、良い習慣を身につけ、悪い習慣を断つためのシンプルな法則である。どの法則も、人間の行動に影響を与える梃子のようなものだ。梃子が正しい位置にあれば、習慣を身につけることが楽になる。間違った位置にあれば、ほとんど不可能になるだろう。これらの法則を逆にすれば、悪い習慣の断ち方もわかる。
この四つの法則は、人間のあらゆる行動変化に使える完全な法則とまでは言えないにしても、それに近いとわたしは思う。すぐにわかるように、「行動変化の四つの法則」は、スポーツから政治、芸術から医学、コメディーから会社経営まで、ほぼあらゆる分野に応用できる。どんな問題に直面していても、この法則を使える。習慣によって異なる戦略など必要ない。行動を変えたいときはいつも、自分にこう訊けばいい。一、どうしたらはっきりする?二、どうしたら魅力的になる?三、どうしたら易しくなる?四、どうしたら満足できるものになる?これまでに、こう思ったことはないだろうか。「どうしてわたしは、自分がすると言ったことをしないのだろう。減量も、禁煙も、老後のための貯蓄もせず、副業も始めないのは、どうしてだろう。こういうことが大切だと言いながら、そのための時間を作らないのは、どうしてなんだろう」。この疑問への答えは、この四つの法則のどこかで見つかるだろう。良い習慣を身につけ、悪い習慣を断つための秘訣は、この基本的な法則を理解し、それを自分に合わせて修正する方法を知ることだ。どんな目標も、その人の性質にそぐわないものは必ず失敗する。習慣は生活内の仕組みによって形づくられる。次章では、この法則ひとつひとつを考察したうえで、良い習慣が自然に生まれ、悪い習慣が消えていくような仕組みを作るために、この法則をどのように利用すればいいかを説明しよう。本章のまとめ・習慣とは、自動的に行うようになるまで、何度も繰りかえした行動である。・習慣の最大の目的は、人生の問題をできるだけ少ないエネルギーと努力で解決することである。・どの習慣も、きっかけ、欲求、反応、報酬という四つのステップを含むフィードバックループに分解することができる。・「行動変化の四つの法則」は、良い習慣を身につけるために利用できるシンプルな法則である。つまり、(一)はっきりさせる、(二)魅力的にする、(三)易しくする、(四)満足できるものにする。
第一の法則はっきりさせるTHE1STLAW MakeItObvious
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