20相手との「具体的なフック」をひとつ見つける大学で、私が犬を飼っていることを知っている学生が、授業が終わったあとに、「先生、犬を飼ってますよね。私も先生と同じパピヨン飼ってます。パピヨンって〜」などと話しかけてくることがあります。私も犬好きですから、「そうそう、カワイイんだよね。君のところはなんていう名前?」みたいな話になる。話の内容はその程度でも、その学生のことは覚えているんです。「ああ、パピヨン飼ってる子ね」という感じで。自分と相手、お互いに共通したフィールドにある話題は記憶に残りやすいんです。相手の興味関心というフックに、「自分もそうなんです!」といった具合に話題を引っかけていくと、相手も反応を見せてくれる。共通の話題ゆえに話も盛り上がります。そして、そのフックは具体的であるほどいい。学生の話でも、「犬が好き」ではなく「パピヨンが好き」という、より具体的なフックがあるからこそ、私の記憶によりはっきりと残るのです。人は誰でも自分が好きなものの話では盛り上がるし、得意なことの話題では饒舌になるもの。この人と顔を合わせると、必ずの話になるこうしたケースは多いものです。もちろん逆のこともいえて、自分の興味関心というフックに、相手が話題を引っかけてくれると、こちらも気持ちよく話ができるでしょう。思いがけず顔を合わせて、共通の話題、接点となる話題ひとつで、数分話をして、また別れていく。雑談は一期一会、いや『一点一会』のようなものです。その『一点一会』が何回か繰り返されると、「この人とはこの話」となる。自分も相手も「何を話したらいいか」というストレスとは無縁になります。つまりそれによって完全に人間関係が強化されるのです。まずはひとつだけ。相手との共通点を、具体的に探してみましょう。
21あの人にはこの話題。『偏愛マップ』で鉄板ネタを把握その人との雑談では、この話をするとまず間違いなく盛り上がるという話題。いわゆる相手限定の『鉄板ネタ』です。前章では、まったくの赤の他人との雑談のケースなども取り上げましたが、たいていの場合、顔を合わせる機会が多い人や、すでに会ったことのある人、そこそこ知っている人と雑談する場面のほうが圧倒的に多いと思います。そこで、相手の興味のあるもの・好きなものを意識して覚えておく。これは非常に雑談の役に立ちます。何も相手の興味のすべてを聞き出して事細かにメモをしておけ、と言っているわけではありません。『この人には、これが鉄板』という、際立ったひとつでいいから、ひとネタを、頭の隅で覚えておくのです。周囲の人の「この話から入ればまず大丈夫だな」「この人とは必ずこの話になるな」という「あの人はこれが好きマップ」を持ちましょうということ。私はこれを『偏愛マップ』と呼んでいます。日々の生活の中で、出会った相手の興味や関心事を押さえておき、自分の『偏愛マップ』に上書きしていく。たとえば、Aさんだったらゴルフの話題。グルメのBさんには食べもの屋の話題、最近子どもが生まれたCさんには、子育ての話題などなど。Aさんと顔を合わせたときに、自分の中にあるAさんの偏愛マップ(そういえばゴルフだったなあ)を思い浮かべて、「いやぁ、石川遼クンはスゴイですよね」「最年少で賞金王でしょ。ウチの子にもゴルフやらせときゃよかったかなぁ」「でも我々の子じゃ、素質がね〜」「アハハ、そりゃそうだ」などと、相手の興味のある話題を提供していくのです。さらにひとつ好きなものを見つけたら、そこから線を引くように「これが好きなら、こっちも好きだろう」「これに興味があるなら、あれも知っているだろう」という感じに、偏愛マップを更新し、派生させ広げていく。もし自分の好きなことが、相手の偏愛マップの中にもあったら、もう万々歳。お互いに盛り上がれる最強の接点を発見したことになります。その接点が見つかれば、その人との人間関係はほぼOKといってもいいでしょう。
22今が旬のリアルタイムな話題は、仕入れたらすぐに使う時事問題や、最近ニュースで取り上げられているような社会的ニュースや時事ネタも、多くの人々が共通して知っている話題のフィールドでしょう。時事ネタというのは、ある意味オールマイティに使えるユーティリティの高いネタです。となれば、前項の繰り返しになりますが、毎日のニュース番組や新聞にひととおり目を通しておくことは、雑談ネタの仕入れのためには欠かせません。ここで大切なのは、仕入れたらすぐに使うということ。今夜のニュースで見たことは、明日明後日くらいで雑談ネタにしてしまう。今朝読んだ新聞の話題で、その日の雑談を流していく。雑談における時事ネタというのは、そのくらいの考え方でいるべきです。たとえばある日「新型インフルエンザがフェーズになった」というニュースが流れても、何日か後にはもう状況は違ってくる。「この間、どこどこで感染者が見つかったんだってね」というニュースも、数日後には「いや、あれは間違いだったらしいですよ」となる。「イチローが日米通算3000本安打を打った」というニュースも、数日後には「今度はメジャーリーグで9年連続200本安打の新記録を作った」となる。2週間前とか1カ月前とかのニュースを今話しても、そのときのままだとは限らないのです。雑談を盛り上げるなら新しい情報のほうがいいに決まっています。そのためには、ニュースや新聞はこまめにチェックして、今、旬な情報をネタを仕入れておきたいもの。だからといって、人よりも先に新しい情報を仕入れろなどと言うつもりはありません。「この間ののニュース、今こうなってるみたいですよ」「え、そうなの。知らなかった」「そうそう、オレも見たよ、昨夜のニュースで」「僕もケータイのニュースサイトで見たばかりだよ」つまり、旬であればあるほど、その情報だけで盛り上がる雑談ネタになるのです。相手がその情報をすでに知っていても、まったく知らなくても、提供することで雑談が盛り上がるキッカケになる。それが重要なのです。たとえば「今日も巨人が勝ったね」は、試合直後には使えるネタですが、翌日になると巨人ファン以外は乗ってこないかもしれません。情報やニュースは〝生もの〟です。それゆえに〝足が早い〟。寿司と同じく雑談ネタも新鮮なほうがより盛り上がるものなのです。
23日々の疑問は、そのまま雑談ネタになる「パソコンの調子がよくないけれど、原因がわからない」「インターネットショッピングをしたいけれど、オーダーの仕方がわからない」「DVDとブルーレイディスク、買うならどっちがいい?」毎日の生活の中で出くわすわからないことや、ちょっとした疑問。これらも格好の雑談ネタになります。疑問の解決だけが目的であれば、それは「相談」という「意味のある話」になり、雑談の定義からは外れてしまいます。しかし雑談を始めるキッカケや話題の提供に用いるのなら、その限りにあらず。非常に便利で使い勝手のいいネタになってくれます。たとえば、「TSUTAYAのネット宅配レンタルってどうやるか知ってますか?」という相談をしたとしましょう。もし相手がその方法を知っていれば、そこから雑談が始まります。もちろん最初はレンタル方法のレクチャーになりますが、それがキッカケになって次は、「どういうDVDがお好きですか?」「最近は何でもネットで手に入るから便利ですよね」「こんなことができると、街のレンタルショップはどうなっちゃうんですかね」などと、話を広げていくことができるはず。これも、最初の相談というネタから別のネタを派生させることで雑談を展開していく方法の一種といえるでしょう。今の時代、パソコンにインターネット、デジカメ、携帯電話、ブルーレイディスクレコーダーと、私たちはさまざまなAV機器に囲まれています。その高性能化・高機能化は目覚ましいものがありますが、その使い方をすべて把握している人など皆無に近いはず。誰もが大なり小なり「使い方がわからない」「不都合が発生したけど対処方法を知らない」という体験を持っていると思います。みんなが同じように困った経験があってみんなが共通して関心を持っている。だからこの手の相談は雑談ネタになりやすいのです。
24雑談の練習相手に最適なのは、赤ちゃん、ワンちゃん、オバちゃんシャイで口下手。人と話をするのがとにかく苦手。そういう人から「どこで雑談力を磨けばいいのかわからない」という相談を受けることがあります。そんなときにおすすめするのが、赤ちゃん、ワンちゃん、オバちゃん。まずは、オバちゃんと練習することをおすすめします。雑談力でいえば、オバちゃんはプロです。大学生であれば母親世代である40〜60代の女性との雑談が、気軽でいいと思います。以前、1000人くらいの人たちの前で講演会をしたときのこと。「この本を読んだことのある人」と語りかけ口調で話したとたん、最前列のオバちゃんが、こっちを向いてと言わんばかりに壇上にいる私の足をたたきながら、「先生、ある、ある」と答えてきたのです。1000人いる中で、一対一を仕掛けてきた。思わず私も「そうですね」と答えてしまったほど。この果敢さを思えば、自分から話題をいろいろ提供しようと思わず、オバちゃんの胸を借りるぐらいの気持ちで話しかけてみるといいでしょう。20代の女性であればセクハラといわれかねない話題でも、オバちゃんなら笑いに変えてくれます。なので怖がることはありません。オバちゃんに限らず、立ち食いそば屋やパン屋さん、お弁当屋さんなど、日常生活の中でいつも何かしら雑談する人が、自分の行動ルートの中に何人かいるといいでしょう。お店の人は、男女関係なく雑談上手な人が多いので、自然と鍛えられるでしょう。次におすすめが、赤ちゃんを抱っこしているお母さん。バスや電車の中で、赤ちゃんがむずがってる状況というのは、よくありますよね。お母さんが「すいません」なんて言うときなどは、私の場合は、もう、必ずお母さんと雑談に入ります。赤ん坊と話すように雑談しながら、「ねえ、ねえ、でも大変だね、暑いしね」みたいな感じで。実はこのひと言、赤ちゃんのことがなんとなく気になっていた車内の人たちにとっても、ありがたい。一気に場が和みます。また、バスや電車は降ります。降りる前提、終わる前提という意味でも、雑談がしやすいので、ぜひおすすめします。最後は、犬の散歩。自分が犬を飼っていなくても、犬の散歩をさせている人に話しかけることもできます。「かわいいですね、何歳ですか?」とか、赤の他人でもいきなり話しかけて怪しまれないという点においては、ペットを散歩させている人というのは格好の雑談練習相手といえます。
25困ったら「アメちゃん」。自分のコミュニケーションツールを持つ私の職場の同僚に、クレーンゲームに凝っている先生がいます。ゲームセンターでぬいぐるみをたくさん取るのが楽しみなんだとか。最近ではリラックマというクマのキャラクターがお気に入りで、その先生と大学で会うと、よく、「齋藤先生、リラックマを知らないんですか?」「いやぁ、知りませんね」「そりゃよくない。リラックマくらい知らないとまずいですよ」といった話になり、ゲットしたぬいぐるみやストラップをくれたりするのです。ほかの人たちにも同じようにグッズを配るし、キャラクターの話で盛り上がっています。「ああいうゲームって、最近ではどんな景品が入ってるんですか?」「意外と大人が真剣にやってるんですよ。これ、この間の戦利品。どうぞ」「そうですか、ありがとうございます。え、そんなに持ってるんですか?」「ついついハマッちゃってね」などと、リラックマのぬいぐるみを間に置いて話が広がっていく。その先生に自覚があるかどうかはわかりませんが、彼にとってリラックマのぬいぐるみは、個性的なひとつのコミュニケーションツールになっているんです。そのツールがあることで、彼との雑談はクレーンゲームやリラックマといった、こちらが思いもよらない話題で展開されることになります。ですから、何を話せばいいかわからない、話に自信がないという人は、何かしら自分なりのコミュニケーションツールを用意しておくのも有効な手段です。携帯電話にユニークなストラップをつけるのもいい、待受画面に凝ってみるのもいいし、デザインのおもしろいステーショナリーを使うのでもいいでしょう。「これ、おもしろいでしょ?」「こういうの、知ってます?」といった話のキッカケになるものなら何でも構いません。珍しくておもしろそうなモノを探してきて、会話のキッカケに使ってしまうのです。そして大事なのは、相手が持っているユニークなモノ、楽しげなモノには、こちらから食いついてあげること。相手のツールを拾ってあげることも重要です。「それ何ですか?おもしろいですね」「ああ、これ?実はね」と、相手本位の話題で雑談が広がっていきます。自分がキッカケを提供するためのコミュニケーションツールを持つ。相手の持ち物などに話のキッカケとなりそうなアイテムを探して反応する。困ったときのモノ頼み、大いに結構。それを糸口にすればひととおり雑談ができるようなコミュニケーション・ツールは、雑談下手な人にとって心強い武器になります。誰にとっても手軽な雑談アイテム、コミュニケーションツールとして、私のオススメは『フリスク』とか『ピンキー』とかいったミントタブレットです。私もフリスクはよく持ち歩いています。そして誰かと一緒にいるときにカチカチッと出して食べると、それに反応する人は意外に多いのです。そうなればチャンス。「よかったら、どうですか?」と言いながらカチカチッと相手の手に出してあげる。言ってみれば、大阪のオバちゃんが得意としている〝アメちゃん攻撃〟といったところでしょうか。「実は昼メシにギョウザ食べちゃいまして。ニオイ消しですよ」「あ、私も持ってますよ、ピンキーですけど」「二日酔いの翌朝の通勤電車には欠かせませんよね、フリスク」お互いにフリスクを食べてスースーしながら、雑談が盛り上がることはよくあります。私の経験上、フリスクを断る人はあまりいません。断られても、またそのことから話ができることも。「ミント系は苦手ですか」「甘いのだったら大丈夫なんですけどね。フリスクよりもピンキー派なんですよ」といった具合に。フリスクのいいところは、30秒くらいで溶けてなくなる点。フリスクをかじってちょっと雑談して、口の中のフリスクが溶ける頃には「じゃあ、また」「ごちそうさま」となる。これがなかなか溶けないアメ玉だと、こうはいきません。第一、アメ玉を口に入れてたのでは、しゃべりにくくてしょうがない(笑)。その点フリスクは、キッカケにもなるし、去り際や終わり際のタイミングも計りやすい。ちょっとした、すき間時間を埋めるのに、かなり優秀なツールだと思います。
26「誰々が言ってた話」も、有効なネタになる大学で同僚の先生たちと雑談する中でたまに出てくるのが、自分たちに対する学生からの評判です。第2章で述べたように、ほめるのは雑談の王道テクニックですから、このケースでももちろん「いい評判」を伝えたい。しかし同じ先生同士ゆえ、ただ単に、「いやぁ、先生の授業はすごくおもしろいですよね」と直接ほめ倒すのでは、わざとらしさやお世辞っぽさが拭えません。下手をすればイヤミに聞こえて、その場の空気が和むどころかギクシャクしてしまうかもしれない。そんなときは、「ウチの授業に来た学生が『先生の授業、すごくおもしろかった』と言ってましたよ」こんなほめ方のほうが、ずっとしっくりきます。つまり間接的にほめるのです。ポジティブな話題の場合、「誰々がこう言っていた」という伝達情報のほうが、信憑性が高くなることが多い。直接的にほめられるときの、〝いかにも取ってつけた感〟というかお世辞的要素が少なくなります。もちろんウソを言う必要はありません。相手に対するポジティブ情報があれば、それを伝え聞きという形で提供するのも有効だということ。ポジティブでプラス方向の伝聞情報を集めるのも雑談のネタを仕入れるひとつの方法なのです。伝聞情報という意味で、もうひとつ。雑談が上手な人は「拝借したネタの伝言」が上手です。つまり「人から聞いた話」を自分の雑談ネタにできるということ。雑談のネタは、自分の生活世界だけでそうそう見つかるものでもありません。でもそこに「自分ではない誰かが体験した話」を持ち込むことで、話題は倍々に膨らんでいきます。TBS系の『ニュースキャスター』という情報番組で、ビートたけしさんとご一緒させていただいています。たけしさんはカメラが回ってないときもすごくおもしろい。いや、楽屋にいるときはさらに話がおもしろいんです。表でも裏でも、周囲を常に楽しませている。そのサービス精神はすばらしいと思います。彼はスタジオ入りするとオンエア10秒前ぐらいまで、ずっと雑談しています。それもテレビでは放送できないような、際どく、どれも大爆笑のおもしろい話ばかり。スタッフから出演者から、みんなで大笑いして盛り上がって、そのまま本番に入っていくのです。たけしさんがすごいのは、そうしたときの話題が尽きないこと。それこそ無尽蔵に出てくる。そこで「どうしてあんなにいろいろな話題を提供できるのだろう」と考えてみました。すると、あることに気づいたのです。たけしさんの話には、ときどき、「いやいや、こないだ聞いた話なんだけどさ〜」「これ、が言ってたんだよ〜」といったフレーズが出てくることがあります。その話は、自分の体験談ではないということ。以前に誰かから聞いたエピソードを拝借してネタとして持っていて、それを別の雑談で話している。雑談のネタを伝言ゲームのように伝えているわけです。たけしさんはこの「拝借ネタの伝言」が天才的にうまい。芸人という仕事柄もあるのでしょうが、自分のネタはもちろん、それ以上に人から聞いたネタのストックがものすごく多い。そのネタもバラエティ豊富で内容が多岐にわたっている。そして仕入れやストックが多いから、誰かが何らかの話を振ったときも、必ずそれにまつわる雑談ができるのです。さらに彼は、「人から聞いた話」「うわさ話」を、彼の言葉にして彼の味つけをして伝えることができる。だから元ネタのエピソードが『たけしの話』になり、よりおもしろおかしくなって雑談が盛り上がるというわけ。たけしさんに限らず雑談のうまい人は「ネタの倉庫」を持っています。そこには次々に新しいネタが入ってくるし、以前に仕入れた〝何年仕込み〟のようなネタもある。それを状況に応じて、どんどん使い回しているのです。もちろん、私たちがたけしさんと同じように話すのはとても無理でしょう。しかし、誰かと雑談するとき、相手からおもしろいエピソードが出てきたら覚えておく、「人から聞いた話」を自分の雑談ネタとしてストックして使い回す、という方法は、大いに活用したいものです。ネタの使い回しはどんどんすべきです。相手が違えば、同じ話を何度しても問題ないのですから。どの人にどのネタを話したのかを覚えている記憶力があれば、話がダブることもありません。
27タクシーは雑談ネタの仕入れと練習ができる、最高の場所仕事で疲れた、誰かに嫌なことを言われた。こんなときにおすすめなのが、タクシーです。「正直、人間関係のストレスとかどうですか、ありますか」とか「もう、ほんとに嫌になりませんか」、もしくは「お客さんでひどい人いるでしょう」といった具合に、自分のストレスをそっと吐くイメージで、タクシーの運転手さんに話を持ちかけるという方法があります。「ありますよ、そりゃ」みたいな感じで返ってくるはずなので、そのまま話相手になってもらうのです。タクシーの運転手さんとは、背中越しでミラー越しという点も魅力的。向き合っていないからこそ、気さくに話しかけたり、グチもこぼせたりするのです。景気が悪いなんて話をし出したら「もう、調子悪いねえ」と、延々と話します。「東京の道、覚えるの大変でしょ」ここから出身地バナシに華が咲くこともあります。「たまプラーザに帰るのに『たまプラまで』と言って寝ていたら、知らないうちに海に着いていて、そこは確かに『鎌倉』だった」こういった類のおもしろエピソードも、タクシーでは頻繁に耳にします。雑談の練習場であると同時に、ネタの宝庫でもあるタクシー。これを活用しない手はありません。タクシーの運転手さんのネタは、他の人に話してもおもしろい。まさに前項で紹介した「人から聞いた話」を自分の雑談ネタとしてストックして使い回すことが、即実行・実現できます。タクシーに乗ったときは、積極的に運転手さんにいろいろ話を振って、ネタを引き出してみましょう。
281ネタ知って10ネタ広げる、具体的な方法雑談のネタ集めでは、単体のネタを数多く仕入れるだけでなく、ひとつのネタから枝葉を伸ばして別ネタを引き出すという方法もあります。たとえば滝田洋二郎監督の映画『おくりびと』を見に行ったとしましょう。まずアカデミー賞を取った話題作を見たという経験がネタになります。映画のメインストーリーである納棺師という仕事、本木雅弘さんや広末涼子さんらキャストの演技、滝田監督の演出などネタになる素材はいろいろありますが、それだけでは作品の真ん中をネタにしているだけです。もちろんそれもネタにするのは当然なのですが、さらに何か別ネタを見つけてみるのです。中心ではなく脇の部分にも注目してみましょう。たとえば元楽団員の主人公がチェロを弾く場面が出てきます。そのシーンから「チェロってどんな楽器だろう」「楽団員っていう職業もいいな」と感じる。また山崎努さん演じる納棺師の先輩は、家の中を植物でいっぱいにしているのですが、そのひとコマから「花がたくさんある部屋っていいな」という興味を持つ。そういう見方をすると、一本の映画から受ける刺激は、本筋だけでなくより多方面に広がっていきます。そして、それぞれの刺激は、すべて雑談のネタにもなりうるのです。その刺激をストックしておけば、楽器演奏やオーケストラの話になったときには、「そういえば『おくりびと』にもこういう場面がありましたよね」という話ができる。癒しやリラックスの話題になったときには、「植物を育てることも精神バランスに何かしらいい影響がありそうですよね。『おくりびと』にもそういう場面があったなぁ」という展開ができます。『おくりびと』という映画から、本筋以外の別ネタがたくさん派生していきます。とくに映画というのは、いろいろな素材が織り合わされて完成したファブリック(布)のようなもの。『おくりびと』ならばチェロしかり、植物しかり、銭湯しかり、主たるストーリー以外にもさまざまな要素が織り込まれています。ここでは便宜上映画の話を例にしましたが、こうしたことは私たちの身の回りで起きるすべての物事に例外なく当てはまります。雑談のネタになりそうなエピソードに出会ったら、中心部分だけでなく、そこに織り込まれている要素にも目を向けてみましょう。中心部分のネタというのは、ひとつのエピソードからひとつしか取れません。しかしさまざまな構成要素にまで目を向けると、ネタは派生してどんどん増えていきます。1を知ったら、そこから派生させて10を得る。ひとつのネタから、どれだけの枝葉を伸ばすことができるか。ひとつのネタに隠れている「ネタに育つ芽」をどれだけ見つけることができるか。それには常に感性のアンテナを広げて、いろいろなものから刺激を受けやすい状態にしておくことが大事です。まずは日常生活の中で自分にとって刺激になっているものは何だろうと改めて見直してみてください。テレビや雑誌、映画、DVD、音楽、ラジオ自分の周りにあってよく見聞きしている媒体の傾向を少し変えてみるのもおすすめです。たとえば何かひとつのテレビ番組を欠かさずに見続けてみる。それも今まであまり見たことがないジャンルの番組をHDDレコーダーに録画しておいて毎回見る。それだけの変化でも、新しい感性のアンテナが反応し始めます。情報感度がアップして、これまでは気がつかなかった刺激にも反応するようになります。新しい刺激の入り口、情報が流れ込んでくる受け皿を常に開拓する。ネタになりうる情報に敏感になる。それは雑談の基礎体力作りでもあるのです。
29年代別〝鉄板雑談キーワード〟をチェック私は子ども向けテレビ番組の制作に関わったり、子ども向けの書籍を出したり、塾の講師をしたりしている関係上、子どもたちと接する機会が意外に多くあります。彼らと一緒に話をして知ったのですが、流行っているマンガや絵本などでも、小学生の間だけのベストセラーがあるんですね。たとえば講談社の『青い鳥文庫』には初版部数が30万部という作品がある。さらに10万部単位で増刷がかかるんです。初版で1万部発行できれば上出来という出版業界において、これは驚異的な数字です。まさに小学生という領域の中だけのベストセラー。私たち大人は全然知らなくても、子どもたちの大多数は読んでいる、もしくは知っています。当然、小学生と話すときには、この『青い鳥文庫』を話題にすると、「ああ、それ知ってる知ってる」などと、ことのほか盛り上がったりします。小学生の女子ならお笑いグループ『はんにゃ』の金田哲も人気です。今は小学生、高齢者、主婦、サラリーマン、女子高生、外国人。みな世代によってまったく違った価値観を持っています。そういう人たちを相手に、常に話題をもたせながら雑談をするには、相手の領域で人気のあるものを話題にするのがいちばん効果的です。そのためには、世代や年代、エリアといったさまざまな領域で生かせる話題を、アンテナを張り巡らせてチェックしておくことも大切。しっかりリサーチしなきゃと、しゃっちょこばる必要はありません。書店に行ったらたまには児童書コーナーを1周してみる、髪を切りに行ったらたまには女性週刊誌を読んでみる。まずは日常生活の中で、時には自分とは違う世代をターゲットにした情報にも目を向けるように心がけてみましょう。前にも説明したとおり、知識として頭に入れる必要などありません。ちらりと見かけた印象や感じたことをそのまま伝えるだけでもいいのです。「に関する記事を見かけたけれど、どうしてあんなに人気があるの?」「駅前にできたカフェ、ケーキがおいしそうだったけれど、行ったことある?」こんな具合に、相手が知っていそうな、もしくは関心がありそうな話題に関して質問を投げかけるだけでも違います。各世代の鉄板ネタを探すというよりも、自分以外の世代の人が関心を持ちそうなキーワードを押さえておくという程度で十分なのです。
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