笑える話のつくり方~盛り上がる話をタイプで分けると~
リスナーとして相手の言動にうまく反応し「会話を盛り上げる」ことができるようになったら、こんどはスピーカーとしてこちらから働きかける、つまり「場を盛り上げる話」をして相手を引き込む方法を覚えましょう。
場が盛り上がる話には、いくつかの基本パターンがあります。
たとえば、(1)「あー、私も観た、ブラピ最高だったわ!」と、共通体験のあるテーマや物事について意見や感想をおたがいにいいあえる「共感できる話」。
(2)「へえー、あの言葉って、そういう意味だったんだー」と相手が思う、意外な事実や新しい発見、新鮮なもののとらえ方・考え方などを提供する「ためになる話」。
(3)「うそ、マジ?ありえねー!」と相手が笑う、(自分、あるいは誰か・なにかの)考え方や行動などの非常識さや非日常性、異常性をネタにした「笑える話」。
などです。
トーク番組で笑える話の多くは、「このあいだ、びっくりするもの見ちゃって」といったエピソードネタか、「実は僕、鎖骨フェチなんです」「最近○○に怒ってるんです」といった自分の考え方について述べるタイプのものなので、(3)に入ります。
(1)(2)や、自分の考え方について述べる話は、多くの人数で、人の話に乗っかりあいながらワイワイやるのに適しています。
それは次の章で説明するとして、この章では飲み会の見せ場中の見せ場、「ひとりで語るエピソードネタ」に絞って考えていきましょう。おもしろいエピソードネタができると、みんなが話に入りこんでくれます。
それは、自分の見せ場になりますし、おそらく多くの人が憧れる、会話の王道です。それに、エピソードネタのつくり方がわかれば、ほかの「盛り上がる話」もかんたんにつくれます。それでは挑戦してみましょう。
まずは元ネタを集めよう~ここでも「木戸に……」が活躍します~
おもしろいエピソードネタには、大きく分けて2つの要素があります。ひとつは「その話のストーリー自体がおもしろい」、もうひとつは「そのストーリーについての感想の部分(コメント)がおもしろい」です。
この2つの要素が上手に組み合わさることで「おもしろいエピソード」が生まれます。
つくる順序は、(1)元ネタを探す(2)ネタの内容を整理する(3)話の方向性を決める(4)方向性に合わせた脚色・肉づけをする(5)使うフレーズを選択するの流れを使うといいでしょう。
まずは元ネタ探しです。これは、いままでに見たり体験したことのなかで「おもしろい」と感じたものを思い出すことから始めます。といっても、漠然と思い出そうとしても、なかなか浮かばないでしょう。
そこで、第2章で紹介した「木戸に……」を使って考えてみましょう。
木戸に立てかけし衣食住
初対面の人やあまり親しくない人と会話する際の話題づくりに役立つとされ、記憶される「おまじない」の一種。 「気象」「道楽(趣味)」「ニュース」「旅」「知人」「家庭」「健康」「性・セックス」「仕事」の頭文字を並べ、「衣食住」を付け加えた言葉である。 「せ」を抜いた「木戸に立ちかけし衣食住」として記憶されることもある。
ただし、あいさつ以外にはあまり使わない「季節」と、多様なネタが見つかる可能性のある「ニュース」は、順番をあとまわしにしたほうがいいでしょう。
それ以外は「木戸に……」に沿って順に進めます。たとえば「道楽(趣味)」なら、その趣味をやっていてびっくりした話や大失敗した話などを思い出しませんか。
「旅」なら旅先で見かけた変な人、「知人」なら酔っぱらった上司や同僚の奇行、「家族」なら奥さんに怒られた話……、という具合です。
さて、あとまわしにした「ニュース(世間や自分に起きた現在&過去の出来事)」でのネタ探し方法ですが、まずは新聞やテレビから世間のニュースを拾いましょう。
次に、最近自分に起こった出来事を考えます。それから、自分の過去にあった出来事を思い浮かべてみてください。
幼稚園のころ、高校のころとじっくり考えれば、たとえばプールでおぼれかけたとか、学校の帰りにやったいたずらなど、「木戸に……」というキーワードでは浮かばなかったいろんな元ネタが出てきませんか。
こうやって、たくさんの元ネタを集めていくと、やがて「このキーワードのときに元ネタが浮かびやすい」といった、自分のパターンが見えてくるはずです。
そこを追求するうちに、やがてそれが自分の得意分野になってくるでしょう。
これは芸能人も同じで、たとえば笑福亭鶴瓶は「街で見かけたおばさん」のネタをよく話します。
上沼恵美子は「イニシャルトークでしか放送できない芸能人の◯話」や「自分のお姑さんの悪口」といったネタが得意です。
自分なりに「おもしろい」と感じるネタを興味をもって集め、それを何度も話すうちに「この人とくれば、このネタ」と視聴者に求められるようになり、それに応えるためにまたその手のネタを集める、と繰り返すうちに定番となったのでしょう。
元ネタを整理しよう~冷静に「おもしろポイント」を掘り下げる~
元ネタを集めたら、次はネタの内容の整理です。わかりやすくするために、次のような新聞記事をみつけたとして、それを例に説明を進めます。
《記事例》△日早朝、○市×町の精肉店□に出勤した経営者が、肉を保存しているプレハブ式冷凍庫内に不審な男を発見。警察に通報した。調べによると男は同市内に住む無職少年A(18)。
深夜、精肉店に浸入し、肉を盗もうとしたが、冷凍庫が1度ドアを閉めると内側から開かないタイプのものだったため、閉じ込められた模様。逮捕直後、少年に疲労が見られたので一時病院に収容されたが、命に別状はない。
話づくりは、元ネタにある要素を5W3H(いつ、どこで、誰が、なにを、なぜ、どのように、いくらで、いくつ)を意識しながら時系列に並べることから始めます(その点、新聞記事はもとから5W3Hを意識した短い文章になっているため、この作業が不要になり、便利です)。
並べ替えたら、「なにがおもしろいのか」を考えます。この記事例だと、「泥棒が閉じ込められた」ことにおもしろみがありそうです。でも、そこで止まらずに、もう少し深く掘り下げてみましょう。
するとこの泥棒は、閉じ込められただけでなく、凍え死ぬかもしれなかったところを盗みに入った店の店主に助けられた、という皮肉な展開に気づくでしょう。こうした「おもしろいと感じた場面」が、ストーリーのオチになります。
笑いの方向性を決めよう~笑いの反応3つのタイプ、どれにする?~
オチのあたりが決まったら、次に「もっとおもしろくできないか」と考えてみます。まずはストーリー自体をおもしろくするために、記事にある事件の実際の場面を想像してみましょう。
たとえば記事には泥棒と店主が遭遇する場面が書かれていませんが、おそらく店主はあわてたでしょうし、なにか会話をかわしたでしょう。
これは、脚色によっておもしろくできそうです。次に、この話に対するコメントでおもしろくできないかを考えます。
コメントの考え方はいろいろありますが、事件ネタの場合は、
(1)「なぜ、したのか?どうしたかったのか?」と考える(2)「もし~だったら?」と想像してみるのが楽でしょう。つまり、言動の原因を考えたり、もしこうしていたらと想像してみる、ということです。すると、リスナーのときに使う「ボケ&ツッコミ風」のコメントのようなものができます。
たとえばこの事件だと、(1)については「なぜ現金ではなく肉なのか」ということが妙です。それに、盗んだ肉をひとりでどうやって運ぶつもりだったのか、というあたりも気になります。
(2)については、「もし犯人あるいは店主が自分だったら」「もし犯行が成功していたら」など、いろんな想像ができるでしょう。
こうして考えていくことで、いいアイデアがいくつか浮かんだら、今度は「笑いの方向性」、つまり「どういう笑いをとりにいくか」を決めます。
ところで、人が笑うパターンを反応別に見ると、およそ3つに分けられます。
(ア)「あーいるいる!」「わかるわかる!」(イ)「ウッソー、マジ?」「その人ちょっとおかしいでしょ!」(ウ)「そんなわけねーだろ!」「なんでだよ!」の3つです。
(ア)がもっとも日常に近く、「私だけじゃなかったんだ」「見たことはあったけど、いわれてみるとそうだ」といった笑いです。
(イ)はちょっと変わったことを扱った話で、「そりゃびっくりするよな」「へえー、そんな珍しい人がいるんだ」といった笑いです。
(ウ)は相手のボケに対する反応や、テレビのコントや漫才を観たときの感想です。
そして「エピソードネタ」での笑いは、ストーリーの部分が(ア)か(イ)、ストーリーを終えてからのコメントはフリー、というのが基本です。
たとえば笑福亭鶴瓶は街で見かけた人の話をよくしますが、それを話したあと、「こんな人よーおるやろ!」と(ア)でいくこともあれば、「おかしい人やろ!」と(イ)でいくこともあります。
おそらく彼は、「ネタにしたその人のことを視聴者がどれくらい〝変わった人だ〟と認識するか」をよく考えてストーリーの方向性を決め、それから脚色しているのだと思います。
また上沼恵美子は、お姑にされた嫌な思い出をよく話しますが、それが「よくいるでしょ、そういう嫌なおばさん」、つまり(ア)で終わってしまうと、視聴者は笑いどころが見つけられず、たんに「嫌な気分」を共有するだけになってしまい、がっかりします。
ですから、普通はいわないようなセリフ、やらないような表情や動作を入れるなど極端な脚色をして、ストーリーを(イ)に仕上げます。
では、この記事例をエピソードネタにするには、どうするのがよさそうでしょうか。
肉を盗みに入って冷凍庫に閉じ込められ死にかけた、というかなり変わった人が主人公の話なので、ストーリーは(イ)の方向で考えるのがよさそうです。そしてコメントの部分は(ウ)にできれば、大きな笑いがとれそうです。こうして笑いの方向性が決まったら、次はその方向に沿って元ネタを脚色していきます。
刑事ドラマのウソに学ぼう~設定と脚色で個性をつくる~
いよいよ元ネタを「おもしろい話」にするために脚色を始めるわけですが、その前に、脚本家がよく使う「虚実皮膜」という言葉をご存じでしょうか。
これは浄瑠璃作家の近松門左衛門が唱えたとされる芸術論で、「芸のおもしろさは、事実と虚構の微妙な境にある」ことを表わしています。
近松門左衛門と親交の深かった穂積以貫の書物に、この論についての言及があるのですが、そこから具体例を2つ紹介すると、「舞台に登場する家老は、実在する家老のように、むしゃむしゃと鬚をはやしていることはなく、化粧をしている」「ある女性が、かなわぬ相手と恋をした。そして、会うことができず寂しいため、彼にそっくりな木像を注文した。毛穴や歯の数まで実際と同じにして、色までぬられた木像を見た彼女は、興ざめして、木像を捨ててしまった」とあります。
これらの例から、芸のおもしろさは「虚(虚構)」と「実(事実)」の「皮膜(肉と皮のあいだの薄皮)」にある、としたのです。
これは、現代のテレビドラマにもあてはめることができます。たとえば刑事ドラマには、情に訴えるものもあれば、鑑識捜査に重点をおくものもあります。
殺人事件が起きて雑木林で死体が発見された場合、情に訴えるタイプのドラマなら、家族があわててやってきて、泣きながら死体に抱きつき、それを刑事がなだめ、犯人逮捕を誓う、というようなシーン展開を長めに映します。
しかし鑑識を重視するタイプなら、それよりも足跡や遺留品を探すシーンを長くして、遺族の対面は霊安室であっさり描写します。
この違いは、「設定」の違いです。このドラマでは、どこに重点をおき、どの程度まで現実に近い描写をするかを、暗に視聴者に示しているのです。
現実には、鑑識捜査が終わらないうちは遺族といえども死体に触れることはできません。なので、描写としては鑑識を重視するドラマのほうが正しいですし、多くの視聴者もそれを知っています。しかし、人情路線のドラマはなくなりません。
なぜなら視聴者は、たとえ「事実」とは違う描写がされていても、それはドラマの焦点を際立たせるための「設定」であることを理解し、その設定の中で楽しんでくれることを、ドラマの製作者は知っているからです。
その「設定」をつくり、設定に合わせた描写をすることが「脚色」です。
そしてこれはドラマだけでなく日常会話の中でも、程度の差はありますが、「焦点をより伝えやすくするため」という暗黙の了解のうちに施されています。
独特な脚色が得意な芸能人といえば磯野貴理があげられます。以前、『ごきげんよう』(フジテレビ系)の年末特集で、視聴者からのこんな葉書が紹介されました。
「私は磯野貴理さんのお話が大好きです。毎回どうやってあんな作り話を考えるのか、と感心します」磯野貴理は笑いながら否定していましたが、スタジオは大爆笑でした。
彼女の話は、前項の笑いの分類でいうと(イ)と(ウ)、つまり「ちょっと変わった日常の話」と「コント」の中間で、コントには使えないし、トーク番組でお笑い芸人が話したら司会者からダメ出しを受けそうなタイプです。
しかし、その特異さのおかげで彼女のキャラが形成され、お便りをくれるファンまでついています。つまり脚色は、一定のところまでは許されるだけでなく、上手に使えば話し手の個性を生むこともできる、ということです。
オチの前後をしっかり固めて盛り上げよう~ストーリー脚色の基本~
では、虚実皮膜をふまえてストーリーを脚色をしていきましょう。脚色の基本的な作業は「削る」「順を変える」「場面をつくる」そして「盛り上げる」です。
まず、元ネタにある5W3Hのなかで不要なものや、オチにいくまでの部分でダラダラとしてしまいそうな部分を削りましょう。
また、たとえばなにかを3回試したうちの2回めにいちばんおもしろい結果が出ているのなら、順序を変えて、2回めが最後のオチにくるようにします。
さらに、場合によっては舞台となる場所も変更してしまいましょう。
たとえば彼女にふられた話をするときに、実際の舞台は近所の川原だったとしても、ムードを出すために「横浜の海の見える公園」に変えてもいいのです。
「ちょうど夕陽が沈むころで、遠くから汽笛が聞こえてたなあ」などと脚色すれば、聞き手は話の中に入り込みやすくなります。どこまで変えるかは話し手の個性が出るところですが、必要なだけ、自分が許せる範囲で行なえばいいでしょう。
そして大事なのは、オチの前後をしっかりと固めて盛り上げることです。
肉泥棒の記事例でいうと、泥棒が閉じ込められて、それを店主が発見するシーンまでが盛り上げです。
たとえば島田紳助風にするなら(イメージしてください)、ある肉屋さんがありました。で、夜に泥棒が来ました。あたりを見回す。だーれもおらん。冷凍庫に入った。
肉がどっさりや!泥棒は「ウッシッシ」いうて笑うた。さあ肉をとった。今日は大漁や、さっさと帰るぞ。扉に手をかける。あれ?開かない。首をかしげながらもう1回。開かん。やっと気づいた。この冷凍庫、中から開かんねん。
びっくりや!もう1回やる。開かん。ドンドンドン、叩く!といった感じでしょう。
彼のトークには、順調にことが進んで調子にのる姿を見せることで、ピンチになって困る様をより鮮明にする、というような進行をよく見受けます。
調子のいい人がピンチになって困るというパターンは多くの人に支持されますし、手前をある程度長くすると、その支持はさらに高まります。
そのあとの、店主が泥棒を発見するシーンも、たとえば映画『男はつらいよ』に出てくる寅さんの語り風にするなら(イメージしてください)、
肉屋の朝は早い。まだ夜も明けないうちから店にやってきて、寒い冷凍庫の掃除から始まるんだ。いつものように店主が冷凍庫に入った。すると、見かけない青年が寝ている。店主はあわてたが、気を取り直してさっと身構えた。
「やい、起きろ!貴様、盗人だな!」青年はうつろな眼でこっちを見てる。「年寄りだと思って馬鹿にしてるな!こう見えても多少の心得がある。どっからでもかかってこい!」と、こんな感じでしょう。
『男はつらいよ』にはドタバタ喜劇の要素が取り入れられていますが、寅さんが語るシーンは、複数の役者がドタバタと演じるのとくらべると、動きでとれる笑いが小さくなります。
その分、独特の口調と間が重要になってきますし、登場人物のセリフで笑いをとる必要も出てきます。そしていよいよオチですが、この泥棒はかなり衰弱していたはずです。
ですから、その情けなさを表わすように、「助けてください」「やっと出られるんですね」といったセリフをか細くいうのがわかりやすいでしょう。
また、コント風の要素を取り入れて、「話す力もなくって、指で〝た・す・け・て〟と書いて気絶した」というのもありです。
「エピソードネタのストーリー部分には、ありえない笑いを入れない」のが基本ですが、1か所くらいなら愛嬌として許されます。
コメントは腕の見せどころ~元ネタの先のことまで考えてみる~
ストーリーを脚色したら、次はコメントの部分です。いかに上手なコメントをつけられるかで、聞き手が感じる「そのエピソードのおもしろさ」が大きく変わります。
独特のコメントセンスに優れている芸能人の代表として、ダウンタウンの松本人志があげられます。
彼がこのエピソードにコメントをつけたなら、たとえばこんな感じになるでしょう。
「考えてくださいよ、なんで大きい肉盗むんですか!持って帰って冷蔵庫入るんか!どんなビッグハウスやねん!家帰ったら執事でも出てくるんかっちゅうねん!!」コメントをおもしろくするには、物事のどこに着目する(気づく)かが大切です。
この事件の場合は、現金ではなく肉を盗もうとしたことや、どうやって運ぶつもりだったのか、というあたりが妙です。
それに気づけば、「閉じ込められて間抜けだね」「店主に助けてもらったって情けない話だね」というコメントにはなりません。
ここまでは多くの人ができるのですが、松本人志はもっと考えます。泥棒はその後どうするつもりだったのか。それができるとすれば、どういう生活をしているのか。
そのことを聞き手がわかりやすくイメージできるように伝えるためには、どんなフレーズを使うのが効果的か……。このように考え、元ネタのずっと先までいって笑いをとります。
また、ビートきよしと組んで「ツービート」で漫才をしていたころのビートたけし風にアレンジするなら、たけし「だいたい肉持って帰れるわけねーだろ!どうやって運ぶんだよ!カセットコンロ持っていけよ!」きよし「よしなさいって」たけし「焼肉のタレも忘れずにね」きよし「だから、よしなさいって!」といった感じでしょう。
ビートたけしの当時(1970年代後半から80年代にかけて)の漫才は、彼の言葉を借りると「くだらねーなあ」という笑いになっています。
コメントのパターンとしては、「よしなさいって」と突っ込まれながら、ことの本質からより遠ざかっていくというスタイルです。
このように、着目のよさで終わらず、どうすればよりくだらない(バカバカしい)話になるかと考えていっても、大きな笑いがとれます。
より「おもしろい」フレーズを選ぼう~ドラマのセリフは便利です~
話をさらにおもしろくするには、よいフレーズが必要になります。
寅さん風の「貴様、盗人だな!」「こう見えても多少の心得がある」や、松本人志風の「執事でも出てくるんか」、島田紳助風の「一茂まっとれ、うまいもん食わしたる」など、よいフレーズを選択することでストーリーに登場する人物に「らしさ」が出ますし、ストーリーに対するコメントの質も変わります。
では、どうすれば、よいフレーズを選択できるようになるのでしょうか。それには、テレビのトーク番組やドラマを観たり、街にいる人を観察して、フレーズを貯めておくことです。
とくにストーリーの部分でいえば、ドラマを観るのがもっとも簡単で有効です。ドラマには、登場人物の性格や生活を短時間で表わす定番のシーンがあります。
たとえば、元気でおっちょこちょいな高校生が主人公なら、最初の登場シーンは、パンをかじりながら玄関に走るあとから「ちょっと、ハンカチ持った?」とお母さんが追いかけてくる、といった感じが定番でしょう。
同様に、酔っぱらっているサラリーマンはお土産の寿司折りを持って千鳥足で歩くことで表わしますし、幼いころに生き別れになった父との思い出は遊園地のメリーゴーランドに乗ったシーンで表わします。
また、同じ「買い物帰りの主婦」を表わすのでも、庶民的な設定ならスーパーの袋から大根かネギがのぞいていますが、リッチな設定なら紙袋に入ったフランスパンやワインボトルがのぞいています。
ほかにもいろいろありますが、こうした定番の脚色は多くの人が見慣れています。ですから、それらをストーリーの前半に入れると、人物や場面のイメージが伝わりやすくなります。
また、ドラマでは人物の感情を強く表わす必要があるので、誇大で妙なセリフが溢れています。
たとえば昼ドラに出てきそうなものなら、「いやー、僕には過ぎた相手ですよ」「ごめんなさい御義母さん。ちょっと目にごみが入っただけです」「はあっ、泣くだけ泣いたらすっきりしたわ」「私の体が目当てなんでしょう!この女の敵!」「まあ、交通事故にあったと思ってあきらめてよ」など。
サスペンスらしいものなら、
「あんた、なにもやってないんだね?母さん信じていいんだね?」「そのとき私の胸の中で、なにかがはじける音がしました」「私の胸にしまい込んで、墓まで持っていこうと思っています」などなど。
ほかにも、いくらでもあります。
これらのセリフ、どこかで聞いたようなフレーズだけど、現実には使わないような感じがしますよね。実際に使っていたら、ちょっと変わった人だと感じるのではないでしょうか。
そうです。
「笑いの方向性を決めよう」の項で紹介した笑いのパターンの(イ)に近いのです。ですので、これらのフレーズをストーリーのオチあたりに使えば、笑いがとりやすくなります。
もちろん、オチだけでなく、コメントの部分にも使えます。
たとえば、「あのときは怒ったねー。うん、僕の胸の中でなにかがはじける音が聞こえたよ」「やられたと思ったよ。まあ、いまは、交通事故にあったと思ってあきらめてるけどね」というようにです。
このように、ドラマのセリフにはいろいろな使い方があります。
ほかにも、トークやコントの番組、街で覚えた言葉などで、気になったもの、おもしろいと感じたもののボキャブラリーを増やしておけば、いろいろなアレンジができます。
それらについて詳しくは、第4章で説明します。
松本人志風・比喩のつくり方~こうすれば、うまくたとえられます~
コメントの達人・松本人志は、おそらくドラマをたくさん観ていて、ちょっとした違和感を敏感に察知し、それを元にした小ネタを貯めこんでいると思います。
また彼は、話に登場する人物が、その「設定」から、どんな言動をとりそうか、それがどこまでいくと滑稽になるか、という見極めに優れています。
たとえば、お金持ちは家でガウンを着ていて、手に持ったブランデーグラスを回しているとか、夢中でがんばっていて、ふと気づいたら髪が真っ白になっていた、という小ネタは、彼が最初に使いだしたと記憶しています。
前項のコメント例で、松本人志風として「ビッグハウス」「執事がいる」というフレーズを選択してみましたが、あれは、ふつうの家の冷蔵庫では肉が入らない→入るほど大きい冷蔵庫が家にある→大きい冷蔵庫が置けるくらい大きな家に住んでいる→どうすれば、より〝ありえない感じ〟になるか→執事がいるおそらく松本人志なら、こういう流れで考えるだろうと想像してマネたわけです。
この「思考の流れ」をマネすると、ふつうの物事を「どこかで見たような、でもありえない感じ」に表現するフレーズが見つけやすくなります。
たとえば「お嬢様」なら、お嬢様→品がいい→趣味はなに?家はどんなつくり?→乗馬が好きで、居間にシャンデリアとグランドピアノがある(ここまではありそう)→趣味はハープ→部屋でクラシックを聞いていると、パイプをくわえたお父さんが「ほー、今日はバッハか」といいながら入ってきそうあるいは「古風な奥さん」なら、古風な奥さん→三つ指をついてお見送り、または玄関先までお見送り(ありそう)→玄関先で火打石を打ってお見送り→「いっといで、おまえさん!」というといった感じです。
私の力ではこれが精一杯ですが、松本人志なら、笑いのラインにあわせて広い発想をし、より笑えるフレーズで楽しませてくれるでしょう。
また彼は、街中の人々もよく見ていて、その特徴をとらえ記憶しています。
たとえば、おばさんや若い娘を、「このあいだ街で、上野のアメ横で買い物してそうなおばさんを見かけてね」「このあいだ街で、渋谷の109あたりにいそうな女の子を見かけてね」と表現するお笑い芸人はよくいますが、松本人志なら、「このあいだ街で、上野のアメ横で買い物してそうなおばさんを見かけてね。
ほら、いるでしょ、お菓子問屋で1年分くらいのチョコレートどっさり買ってそうな」「このあいだ街で、渋谷の109あたりにいそうな女の子を見かけてね。
ほら、むかしブルーザー・ブロディが履いてたようなブーツの子」といった感じで、もうひとつ笑いをとります。
このように、「より、その人らしくするには?」または「その人を誇大に表現するには?」と考えることも、よいフレーズ選びにつながります。そのためにも、虚実皮膜なドラマや現実の人々をよく観察し、ネタを貯めこんでおくことがとても役立つのです。
おもしろい話を完成させよう~肉泥棒の話を思いっきりふくらませると~
元ネタを見つけて笑いの方向性を決め、上手に脚色して効果的なフレーズを選ぶ。これで話は完成ですが、これをエピソードネタとして熟成させるには、まずロングバージョンをつくってみましょう。
109の肉泥棒の記事例からエピソードネタ(ロングバージョン)をつくってみましたので、ご覧ください。
《エピソード例1》
そういえば肉泥棒の話、聞きました?あのね、若い男が夜中に、肉屋さんに忍び込んだそうなんですよ。それで、大きい冷凍庫から肉を盗み、さぁ逃げようと思ったら、なんと扉が開きません。
この冷凍庫って、内側から鍵が開かないタイプだったんですって。彼はあせりました。叩いたりこじ開けようとしましたが、開きません。
冷凍庫は寒いんで、だんだんボーッとしてきました。で結局、朝が来ちゃいました。もう、お店のご主人の出勤時間です。肉屋さんは朝から元気です。「今日も一日頑張るぞ!」なんて考えながら冷凍庫を開けました。
すると、「あ!」入り口に誰か寝ています。これは泥棒に違いない。ご主人は思いました。相手は若そうなので、肉を運ぶときに使う棒を武器に持ちました。
それから携帯電話を取り出し、大きな声でいいました。「警察ですか!泥棒です、すぐに来てください!」少年が目を覚まして、こちらを見ています。
肉屋さんは後ずさりしながら叫びます。
「おい!警察呼んだからな、抵抗するなよ、負けないぞ!」すると、少年が弱々しく手をあげながらいいます。「救急車を……」「はっ?」よく見ると、髪もまつげも真っ白です。
「あっ、太陽……。暖かい……」ご主人はあわてて自分のジャンパーをかけてやりました。それから少年は救急車で運ばれたんですけど、元気になったから、留置場に入れられたそうなんですよ。
ね、ちょっと珍しいお話でしょ。この少年って、無職で貧乏だったんですって。でもね、もしお金が欲しかったら、レジから盗めばいいじゃないですか。だって、お金は軽いから持ち運びも楽でしょ。なのに冷凍庫に入ったんですよ。
僕は思うんですけど、この少年は、肉が食べたかったんですよ!せっぱ詰ってたんです!閉じ込められて意識がなくなる前は、きっと凍ったお肉にかじりついたでしょう。
硬かったでしょうね。それくらい食べたかったんですよ。僕ね、この少年のいる警察に行きたいって思ってるんです。でね、焼き肉弁当を差し入れてあげたいですね。できたら、しょうが焼き弁当もつけてあげたいですよ。
こんな感じです。
長さはこれが限度です。
これ以上ふくらませようとすると、ダラダラする部分が増えたり、山場が散乱して、リスナーが笑うタイミングをとりづらくなります。
なお、この文章を考えるときは特定の芸能人をイメージせず、自分の思うように書いたので、言葉も私らしくなっています。人によるでしょうが、ポイント以外はふだんの自分らしい言葉を重ねていくほうが楽だと思います。
そして必要なところだけ、好きな芸能人をイメージして考えれば、思考やフレーズが似てきます。すると、それを話すときのテンポや間も似てきます。
バリエーションを用意して実践しよう~話すのとカラオケは同じです~
ロングバージョンができたら、今度は少し短くしたものや、ぐっと縮めたものをつくってみます。
たとえば前項のエピソード例1には、ストーリーとコメントのシーンがありますから、その比率を変えたり、前半や盛り上げの部分を減らせば、ショートバージョンもすぐにできます。
こうしていくつかのバリエーションを用意しておくと、自分に与えられた時間にあわせて話せるようになります。ここから先は、とにかく実践です。実際にいろんな人に話してみましょう。
そして帰りの電車の中や寝る前に「ダメ出し」を行ないます。
具体的には、「あの言葉はわかりにくいみたいだから、変えてみよう」「途中で質問されないように、状況を見えやすくしよう」というようにです。こうして相手の反応を見ながら少しずつ修正していけば、話の完成度が高まります。
それにカラオケで18番を歌うのと同じで、繰り返すほどに話すのが楽になりますし、またウケもよくなるものです。このような作業を繰り返し、笑えるネタを増やしていきましょう。
そしてネタが貯まってきたら、いままでのウケ方をもとに、笑えるレベルで大・中・小と分けてメモしておきます。こうして自分の現状を整理しておくと、急に話を振られたときにあせらずすみます。
元ネタを集めて笑えるように脚色する。ダメ出しをしてネタのレベル分けをする。
「大変そうだなあー」と、感じた方もいらっしゃるでしょう。たしかに、こんな作業を毎日真剣に行なっているお笑い芸人は大変でしょう。
しかし、私たちふつうの社会人は彼らのように、お金をもらうために話すわけではありません。
ですから、疲れない範囲で、やってみたいことだけ、趣味として楽しんでみたらいかがでしょうか。
たとえば電車の中で、今日話したことを思い出しながら、「もし、あそこのフレーズを変えるとしたら」と、言葉の連想ゲームをしてヒマつぶしをしてもいいでしょう。
あるいは、横にいる女子高生や大学生どうしの会話を聞いて、いま風の言葉を覚えるのも楽しいでしょう。言葉の連想ゲームは、何度かやっていると早く浮かぶようになりますし、出来もよくなります。
ときどき「これって本当に自分で考えたのかな?」と感じるほど、おもしろい言葉が浮かぶこともあります。飽きないよう、嫌にならないように、続けてみてください。必ず嬉しい体験ができるでしょう。
相手を話に引き込もう~おもしろさを伝える表現技術1~
どんなにおもしろい話をつくっても、それを伝える話し方が棒読みだったりしたら、話のおもしろさが相手に伝わりません。おもしろさをきちんと伝えるためには、おもしろさの伝わる表現技術を使う必要があるのです。
ここでいう表現技術とは、第2章のノンバーバルコミュニケーションの項で説明した「表情」や「声の変化」などのことです。
リスナーの場合は「しっかり聞いて、お話の世界に入ってますよと伝える」ために使いましたが、スピーカーの場合は、相手にお話の世界に入ってもらうために使います。
相手にお話の世界に入ってもらうには自分でペースをつくる必要があります。また、その場の絵を伝わりやすくする必要もあります。
それには次のイラストの6つのポイントを意識すると効果的です。そうした技術に優れているのが上沼恵美子です。ここで、彼女がお姑の話をするエピソード例をつくってみました。このお話を、上沼恵美子だったらどういうふうに話すかをイメージしながら読んでください。
また、あなたなりに、次のイラストにある6つのポイントをどう取り込めば、より笑えるようになるかを考えてみてください。
《エピソード例2》
ああ私もね、お姑さんにはよくいじめられました。私がお大根を切ってたらお姑さんが来てね、「あら恵美子さん。お大根は縁を取って煮るのよ。そうしたら煮崩れしにくいのよ。ちょっと貸してごらんなさい」っていってね、まあ嫌みたらしく縁を取るんですよ、チマチマとね。
「お義母様、本当にお上手ですわね」「そう?あなたもやってごらんなさい」っていうからやったら、「アラ?ふふっ、まだお勉強が必要ね」って、まあ嫌みったらしくいうんですよ。
どう思う?ね、頭くるでしょ!まあ嫁ぎ先やからしょうがないけど、相手が実家のおかんやったらな、「崩れても食べれるやろ!チマチマやってられるか!」っていうてやりますよ。
上沼恵美子風に考えてみよう~おもしろさを伝える表現技術2~
前項のエピソード例2を上沼恵美子が話すとしたら、きっとこうするでしょう。
まず、「縁を取るんですよ、チマチマとね」のあと、大根をむく動作を入れて、ゆっくり見せます。
そして、セリフの口調を対比させながら「お勉強が必要ね」を嫌みっぽくいったあと、お姑さんが横を向いて鼻で笑うような表情か、自分が横を向いて怒っている表情を入れます。
それから「どう思う?」でまわりに視線を振り、「頭くるでしょ」のあと、相づちが入るのを待ちます。そこからテンポをあげて、声を強くしていき、「崩れても食べれるやろ!」の前は間でためます。
怒りがたまっているのですから、すぐにでもいいたいところですが、そこをぐっと我慢して、間をとることで聞き手をその気にさせるわけです。
そして「チマチマやってられるか!」のあと、包丁を持って振り上げる格好をしてもいいでしょう。もしこの話がトーク番組でされたなら、怒りをためたオチでは立ち上がるのが定番です。
ふだんの会話で立ち上がるのは難しいでしょうが、前後左右のスペースをできるだけ使ってジェスチャーを入れると「絵」で笑いがとれます。
この例の場合は前への動きが自然でしょうが、まっすぐ前だと相手がこわがるでしょうから、斜め前へと動くのがいいと思います。
表情、声色もそうですが、笑わせる話で相手をこわがらせてはいけません。なので、本当に怒鳴ったり、本当にこわい顔はしません。嫌みな表情も同じで、笑える嫌みな表情にします。
このあたりは話のつくり方と同じで、どうやったらそれらしくなるか、またはどこまでいけば滑稽になるかと考えて、ワイドショーの再現ドラマに出てくるような嫌みな人をイメージして顔をつくるといいでしょう。
ここでひとつ、表現技術を身につけるよい方法があるのでご紹介します。
私が以前指導していたお店に、表情の硬いホステスがいました。その子に、自分の表情がいかに硬いかを見せて直させるために、私と2人で会話するシーンをビデオに撮ったのです。
それを見て驚いたのは、むしろ私のほうでした。自分が話す姿を初めて見たわけですが、自分で想像していたよりもずっと表情の変化が小さかったのです。
人の指導をしている人間がこれではまずいと思い、それからは定期的に、自分が話す姿をビデオで撮るようにしました。ただ、毎日撮ることはできません。
そんなとき、あるものまね芸人が「鏡を見ながら顔の筋肉のトレーニングをしている」という話をテレビでしていました。
それをマネて、鏡の前で「頬をあげる」「額をひろげる」などと意識しながら筋肉を動かす練習をしてみました。それをしばらく続けたのちに自分の姿をビデオで撮ったものを見ると、想像と実像が近くなってきたのです。
そこで、今度は筋肉トレーニングだけでなく、テレビの横に鏡を置いて、芸能人が出ている番組を観ながら鏡で自分の表情を確認することを1週間ほど続けました。
「その芸能人が目の前で聞いている」と想像しながら表情をつくったので、とてもいい練習になりました。自分の話す姿をビデオに撮るのは面倒でしょうし、会話の相手にも了解を得なくてはならないので難しいかもしれません。
でも、テレビの横に鏡を置いて自分の顔を見ることなら家でひとりでもできます。
また、誰かとレストランなどに行ったときに自分の姿がガラスに写っていたりしたら、自分がどういう顔をして、どれだけジェスチャーを入れて会話しているのかを確認するといいでしょう。
こうしたトレーニングをするなかで、もし直したほうがよさそうなところが見つかったら、思いついたときにすぐに鏡の前で筋肉を動かしてみてください。
自分のクセがわかっていて、筋肉を動かすコツがつかめれば、案外早く直ります。
会話に100点満点はありません~タイプ別うまく話せない理由~
ここまで、盛り上がる話をするための基本的なテクニックについて、お伝えしてきました。しかしテクニックだけでは、よいスピーカーにはなれません。
スピーカーとしての気持ちの問題や、脳としゃべることの関係についても、知っておく必要があります。まずは気持ちの問題について。
リスナーのときと同じで、スピーカーにもホスピタリティ、つまり「相手が喜んでいる姿を見て〝よかった〟と感じる気持ち」が必要です。
うまく話せない人は、この基本がよくわかっていなかったり、ほかのいくつかの理由や考え違いがあります。タイプごとに見ていきましょう。
●楽しませる気持ちが少ない つまり、ホスピタリティな気持ちがたりないということです。こういう人は、自分の自慢話や、どうでもいい思いつきの話をしがちです。年齢や地位が高くなるほど注意したほうがいいでしょう。
●話の出来にすぐ満足する 水商売の会話指導をしていたとき、私は話し終わったホステスに自己採点をさせていました。
すると、ときどきですが、「100点だと思います」と答える子がいました。こういう子は、たいてい伸びません。どんなに練習した話でも、一字一句間違わずに話せることはまれですし、声の強弱やテンポはどこかでずれるものです。
そうしたずれに「いま、ずれたな」と話している最中に気づき、そのつど微調整しながら、なんとか高得点で終われるようにできるのが話し上手です。
微調整した時点で100点ではありませんし、それに気づかないのですから、もう伸びようがないのです。スピーカーでもリスナーでもそうですが、会話に100点満点はありません。自己満足で終わらないよう、反省する気持ちを忘れずにいたいものです。
●アガルことが多いなぜ アガルのか、人によって理由は違いますが、大きくは「実力以上の出来を望む」「失敗を引きずる」の2タイプの方に多いように感じます。
実力以上の出来を望むタイプは、よりうまく話そうと考えます。これがいい方向に作用することもありますが、逆にプレッシャーになり、「やばい、間違えた」「また弱かった」「次はなんだっけ」と、徐々にパニック状態になることもあります。
失敗を引きずるタイプは、自己採点が低いことが多いようです。
いちばんいいのは、「頑張らない」と開き直ることです。アガッてうまく話せないよりは、「今日は楽に話す」「できる範囲でしかやらない」「実力の一部しか見せない」と考えて、実力どおりに話せたほうがいいでしょう。
話し上手を100点満点で見た場合、50点くらいの実力はあるのに、気持ちのせいで40点くらいになってしまうタイプです。たしかに反省は大切ですが、それは前進するためのものです。反省のために立ち止まったり後退してはいけません。
「失敗は次に活かすためのもの」「失敗しても自分は悪くない、悪かったのは運」といった気の持ちようが必要です。ゴルフの池ポチャと同じです。池に入る絵をイメージするから、打つのがこわくなり、池に入りやすくなるのです。
それよりも、スコーンと打ってきれいにグリーンに乗る絵をイメージしましょう。誰にだって楽しく会話した経験はあるはずです。そのシーンを思い出して「楽しい!」「できる!」と念じてください。
いいイメージが頭に描けて、それを信じられると、実体がイメージに近づきます。それが自信となり、やがてアガらなくなります。いかがでしたか。
もしあなたに当てはまることがあれば、参考にしてください。
みのもんたに学ぶ心がまえ~誰にでもできる?誰にもできない?~
一流の芸能人はみんな、ホスピタリティな気持ちに溢れています。なかでも、その気持ちを強く感じさせてくれるのがみのもんたです。
朝から晩まで彼の姿をテレビでよく見かけますが、とにかく元気に笑っています。それに、どうでもいいようなことでも、なんとか盛り上げようとします。
彼が20年近くにわたって司会を務めた『午後は○○おもいッきりテレビ』(のちに『おもいッきりイイ!!テレビ』としてリニューアル。
日本テレビ系)でも、「ね、みなさんも美肌には興味あるでしょ?ある?でしょ!さあ、美肌になるための食品、なんだと思います?想像つく?あっ、そこの方、今日はどちらから?品川ですか。で、なんだと思います?そうですか。こちらの品川のお嬢さんはみかんだとおっしゃる。ハイ、開けてみましょう、実は……。ヘヘっ、びっくりしないでね!」と、こんな具合で盛り上げることがよくありました。
また、話の世界に入ってもらえるよう、相手の反応をよく見て、巻き込んで、一体感のある会話をする姿勢も、ぜひ見習いたい点です。
独特の個性があるみのもんたの司会スタイルが苦手な人もいるでしょう。また、これくらいの語りなら誰にでもできそうと思うかもしれません。でも、あのテンションで毎日、何年も続けられる人は、まずいないでしょう。
彼の「絶対に笑ってもらう」「できるかぎり楽しんでもらう」という気持ちは、よいスピーカーをめざすうえで、とても大切です。
話すとは、分身を操ること~書くのと話すのでは、脳の使い方が変わります~
字を覚えたての子供は、大きな声を出しながら本を読みます。
しかしあるとき、声を出さないでも読めることに気づき、びっくりします。
そして中学生にもなれば、授業で教科書を音読するとき、声に出して読みながら、頭の中では少し先を読むこともできるようになるでしょう。
このとき、文字を目で追う自分、それを少しのあいだだけ記憶する自分、声を出す自分など、多くの分身たちが同時に働いています。
話すという作業も同じです。
話すことを考えている自分、声を出す自分、相手の反応を観察する自分など、多くの分身たちが同時に働いているのです。
ところで先日、田舎の祖母をお世話してくださっているヘルパーさんから電話がありました。
「最近、おばあさんの様子がおかしくて、私が話す内容が理解できなかったり、ご自分で話している途中に、いっていることがわからなくなることがあるんです」というのです。
少し前に私と電話で話したときは正常だったのにと思い、祖母の家に行ってみました。
しかし部屋で新聞を読んでいた祖母は、その内容を理解しているようですし、私の話すことも理解できます。
おかしいなと思っているとヘルパーさんが来て、やっと理由がわかりました。
ヘルパーさんの話が理解できないのは、話すテンポが速すぎるからなのです。
つまり、耳から入った情報を整理しているあいだに次の情報が来るので、まとめることができないのです。
また、自分で話している途中にいっていることがわからなくなるのは、口に出す作業に力を使いすぎて、頭の中で考える作業が停止してしまうのだと感じました。
このように、歳をとると分身がうまく働かなくなりますし、若くても、使わなければ錆びついてしまいます。
私の身近な人でいうと、企画書や調査書といった文章を書くことが主の職種の方に、そういう方が多いように感じます。
書くという作業は、何度も立ち止まったり前に戻ったりしながら行なわれます。
仮によい文章がスラスラと浮かんでも、パソコンに入力する作業は、脳で考える作業より遅いのが普通です。
また、ブログや携帯メールは別ですが、正式な文章というものは、言葉の選び方や並べ方が、話すときとは違います。
つまり、話すときほど同時進行の必要がありませんし、脳の働かせ方も違うのです。
もし、あなたが「話す」よりも「書く」ことのほうが多い職種で、「もっとうまく話せるようになりたい」と思うのであれば、とにかく話す機会を増やすことをおすすめします。
休憩時間でも、仕事の帰りでも、同僚と一緒にいるならなるべく多く話しかけて、頭の切り替えを行ないましょう。
また、このときはリスナーではなく、スピーカーになってください。
リスナーは相手が話しているあいだに考える時間がたっぷりありますが、話し上手に必要なのは、話しながら考える能力だからです。
ほかにも、脳で話のページをめくる自分や、相手の気配を見ている自分、強調したいから手を動かせと命令する自分など、分身の存在を意識してみてください。
意識すれば、はっきりと分身の声が聞こえるようになります。
分身は、意識しないと働きにくいですが、意識しだすとよく働く、つまりレベルアップします。
それがクセになれば、意識しなくても勝手に働くようになり、定着します。
話の切り返しがうまかったり、場にあわせて次々に話ができる会話上手のことを、「あの人は頭の回転が速い」ということがあります。
たしかに回転も速いでしょうが、理由はほかにもあります。
まず、話すネタや使えるフレーズを貯めています。
また、発想や話し方などの練習もしているはずです。
そしてもうひとつが、脳の分業化が進んでいるということ。
つまり、分身を操ることも、会話上手になるには必要なのです。
まずは分身を意識してください。
やがていいクセがついて、素早く働いてくれます。
もっとも話せる脳の状態をつくろう~ベストな状態のつくり方~
脳と会話の関係について、もうひとつお話しします。
自分の実力をもっとも発揮できるのは、脳がどんな状態にあるときかを調べるために、大学教授やお医者さんが書いた「脳波」とか「能力開発」の本をいろいろ読んでみました。
著者によって解釈や表現のしかたに違いはありますが、だいたい共通して述べられていることをまとめると、次のようなことでした。
「人の脳の活動は、熟睡状態から緊張状態まで、さまざまな段階がある。緊張状態では力を発揮できない。落ちつき払った状態でもできない。落ちつき払った状態から緊張のちょっと手前に脳波が移行するとき、もっとも集中でき、力が発揮できる」
簡単にいうと、「いちばんいい状態は、いったん静かに落ちついて、それからテンションを上げ、緊張するちょっと手前になったときだ」ということです。
もしあなたがスポーツや楽器をやっていて、いい成果を発揮できた経験があれば、なるほどと感じていただけると思います。
会話も同じです。いったん落ちついて、緊張(興奮)しすぎない程度にテンションが上がった状態が、もっともうまく話せます。
とはいえ、急に会話が始まってしまい、落ちつくヒマがないこともありますし、わかっていても興奮しすぎることもあります。
そのため、会話の途中で修正して、よい状態にする方法を覚える必要があるのです。
修正するには、分身を使います。つまり、話しているときに「自分のコンディションにも気を配る」と意識しておくのです。そうすれば、「上げろ」とか「冷ませ」という指示が聞こえてきます。
もちろん、いつもこの状態で話すのはムリですし、そこまでの必要がない場面もあります。しかし、ここ一番の勝負どころでは、こうした「分身の声」が役に立ちますし、必要にもなります。
「ふだんは大丈夫だけど、ここ一番と思うと緊張しすぎるんだよなー」という方も多いでしょう。そういう方は、その会話で「狙う点数」を下げてみるといいでしょう。
たとえばフィギアスケートの選手が4回転ジャンプの特訓をして、試合の直前にも成功しているとします。
しかし、いざ競技が始まったら思うように動けず、それを自分で認識すれば、無理して4回転を飛ぶのをやめ、3回転半に切り替えるでしょう。
会話でも同じです。途中でコンディションの修正に成功すれば最高ですが、間に合わないと思ったときは、狙う点数を下げて、転ぶのを避けたほうがいいのです。
そして会話中は、できるだけ「いいイメージ」を頭に描いてください。それにより「楽しい!」「できる!」と思えれば、実体がイメージに近づいてきます。
あまりに楽しくて興奮しすぎになることがあるかもしれませんが、それは分身の指示で修正できる範囲でしょう。もっとも実力が発揮できる脳の状態は、とても気持ちいい状態です。そして、そこに到達する練習を繰り返すと、早くコントロールできるようになります。
また、その状態のときは話の出来がいいので、自信がつきます。ぜひ試してみてください。何度かやってできるようになれば、嬉しいでしょうし、会話にも自信がつきます。
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