第3章「物」「人」「情報」の環境整備で会社の基盤をつくる
良い社風をつくる環境整備とは
序章でも触れましたが、環境整備は、大きく次の3つに分けて考えることができます。
- ①物的環境整備
- ②人的環境整備
- ③情報環境整備
環境整備の本質は、仕事がしやすい「環境」を「整」えて、「備える」ことです。序章で、会社を樹木にたとえました。美しい花や美味しい実といった豊かな実りのある木は必ず、広く深く根を張っています。
会社において、この最も重要な根に当たるのが「物的環境整備」と「人的環境整備」です。
そして、幹に当たるのが、「情報環境整備」です。幹と根に当たる、3つの環境整備によって、良い社風が醸成されます。
多くの人は、地味なことをコツコツと積み重ねる作業を軽視します。ですから、環境整備を始めれば、自社の変化を強く感じることができるはずです。
▼環境整備は、会社の「根幹」。物、人、情報の環境整備によって、利益を得る権利が与えられる
物的環境整備に取り組む
すべての基本となるのは、「物」の環境整備です。「健全な身体に健全な精神が宿る」と言われます。
会社にとって「身体」とは、建物をはじめとした「物」の部分です。ですから、3つの環境整備の中で、まず物的環境整備ありきです。
せっかく物的環境整備という原理原則を知り、実践にまでこぎつけたのに、挫折する会社は少なくありません。これは、環境整備の手順に問題があります。
環境整備の手順は、次の4つの順序で行う必要があります。
- ①整理
- ②整頓
- ③清掃
- ④清潔
「整理」とは、捨てることです。必要な物と不必要な物とを分け、徹底的に捨てましょう。
私はセミナー等で日本全国さまざまな会社の、さまざまな「現実」「現場」「現物」を見て回っています。ですが、ほとんどの会社・工場・店舗は、物的環境「不」整備の状態です。
倉庫はもとより、引き出しもキャビネットも、ぐちゃぐちゃになっている会社が少なくありません。
そういう状況では、「必要か不必要かを判断して、不必要なら捨てて……」というやり方をしていては、整理は進みません。あってもなくてもいい物が山のように残るだけです。
いつか使うのではないか、そのうち必要になるかもと考え、「一応とっておこう」となりがちだからです。
しかし、ここで決断してください。あってもなくてもいい物は、結局なくていいのです。思い切って捨ててしまって構いません。
やがて捨てても問題がなかったことを実感します。そうすればどんどん捨てられるようになります。捨てた後で「しまった」と思うこともあるかもしれません。それでもいいのです。
それは捨てようかどうか迷ったおかげで、長い間しまっておいた物の存在に気づいたからこその後悔です。
もし捨てるかどうか迷っていなければ、また同じ物を買ってきて、不良在庫が増えるだけだったはずです。
不良在庫にはすべてお金がかかっていることを忘れてはいけません。全社員が少しずつ「いつか使うかも」を行っていたら、その損失は計り知れません。
私が、ホテル勤務時代に、環境整備に取り組んだときは、最初に、倉庫や引き出し、キャビネットの物をすべて出しました。
とにかく一度空にするのです。次に、どうしても必要な物だけを元に戻してもらいます。
すると、普通に始めるときと比べて、はるかに物が減っています。面白いもので、同じ人間が作業しても差は歴然としています。
空にすると「ここはこんなに広かったのか」と気づくことができます。数々の有名な言葉を残している相田みつをさんに、「あってもなくてもいいものは、ない方がいいんだなぁ」というものがあります。
私は一倉先生門下生の神田泰宏社長とのご縁で、20年ほど前、一度相田さんとお会いしたことがあります。食事をしながら、話を聴いて心底すごい方だな、と感じ入りました。
相田みつをさんの師匠である武井哲應老師が禅のお坊さんだからでしょうか、とにかくおっしゃることが原理原則なのです。一語一語に深みがあります。
※原理原則は、人間・人格形成の中心。多くの人の心をとらえてやまない。
それだからこそ、今でも多くの人の心を捉えてやまないのでしょう。
環境整備を通して、「あってもなくてもいいものは、ない方がいいんだなぁ」と実感できれば、仕事や人生にもそのような姿勢で臨むことができるようになります。
次に、「整頓」です。整頓とは、いつでも、誰でも使える状態を保つことです。物の置き場を決め、向きをそろえ、仕事がやりやすい環境を整えます。
使用頻度に応じて戻していけばいいのですから難しいことはありません。よく使う物は手前に、めったに使わない物は奥に、という具合です。
たとえばご自宅では自然とそうしていると思います。クリスマスツリーや雛人形は、1年に1度しか使わないので一番奥です。
傘は1年を通して使いますし、出がけに急に必要になる場合もあります。ですから玄関です。会社でもこのように整頓を進めればいいのです。
たとえば筆記用具なら、やはり黒を使うことが圧倒的に多いでしょうから一番手前に。次いで使用頻度の高い赤がその奥、たまに使う青は最奥に、といった具合です。
私はかつて、株式会社和倉ダスキン様の見学に行った際、「整頓とは、探しの排除」という貼紙を目にして驚嘆しました。
整頓の本質を端的に表している見事な言葉です。仕事をするとき、人は何かを探します。
しかし、探すという行為自体は仕事ではありません。何かをするための準備です。短い、いや、ないに越したことはありません。仮に探している物が目の前にあれば、さっさとそれを手にして仕事にかかれます。
ところが整頓ができていないと、さんざん探した挙句、今度は後輩に聞いて他人の時間まで奪うということになってしまいます。作業効率が悪いので、当然残業です。
しかし時間だけはかけたわけですから、本人だけは、「よく働いた」とご満悦です。
こうして物的環境整備の不整備のために、物を探すという不毛な時間を重ねて無駄を生み続けているとしたら、何ともったいないことでしょう。
社員一人の時間は1日数分から数時間でも、会社全体で考えると膨大な無駄の集積です。
このような会社の社員は、「あれがない、これがない、今日も残業か」と終始不満の連続になりがちです。
そして、そうした会社の空気を敏感に察知し、そっと離れていくのがお客様です。逆に、徹底した整理に基づいて整頓と清掃が進むと、会社の雰囲気や作業効率も一気に良くなります。
もちろんお客様も評価をしてくださいます。これが、「環境整備が社風をつくる」と申し上げる所以なのです。
長野のホテルで、私は徹底して蓋を外しました。たとえば、段ボールは、カッターナイフを持って回り、次々に蓋を切っていきました。
すると中に何があるかが見えるようになります。見える以上、中を乱雑にしておくわけにはいきません。整頓が進むというわけです。
1本のカッターナイフで、段ボール箱1つから、整理・整頓の文化を育てることができるのです。
整理・整頓ができて、初めて③の「清掃」に進むのが環境整備の基本的な流れです。
※整理・整頓ができてから清掃を行う。
清掃とはきれいにすること。継続して進めるには細かな工夫も必要です。まず、掃除用具は誰からも見える場所に置くことです。「見える」は気づきの心を養うためにも重要なポイントです。
掃除用具が薄暗い廊下の片隅にあるロッカーの中では、掃除に対する意識が根付きません。
環境整備が進んでいる会社では、例外なく掃除道具を大切にしています。お金を惜しむことはありません。不具合があればすぐに交換です。
※掃除用具を充実させること。
これも、誰からも見える仕組みにしてあるからできることです。環境整備は毎日の積み重ねですから、作業計画表も必要です。
担当区分と担当者を決めて、掲示をするのです。そして決められた通り実行することで、達成感を持つことができます。
環境整備で重要なのは、掃除を通じて気づきの感性を養うことです。したがって、一人の担当範囲を広くしすぎてはいけません。
狭いところを徹底的に磨くから、細かな汚れ、微小な傷に気づけるのです。範囲を広げると、漠然と掃除するだけになってしまいます。
また、「始める時間」と「費やす時間」の2つの時間は厳守です。始めるのは一日の最初、という場合が多いかと思いますが、必ず就業時間内にしてください。給料が払われる時間なら、仕事ですから、言われた通りにやらざるをえません。
費やす時間は各社の実情でいろいろでしょうが、環境整備が軌道に乗ったからといって短縮すると、業績が急落することがあるので注意が必要です。現にわが社もそういうことがありました。
それまで環境整備に30分かけていたものを20分にしたら売上も粗利益も大きく落ち込んだのです。理由は明白です。短縮した10分のぶんだけ甘えが社員に芽生えてしまったからです。
そこでもう一度30分に戻すと、面白いように業績は回復しました。環境整備の時間を短くするのは基本的には避けた方がいいでしょう。
最初は、無理のないよう短めの時間でスタートして、少しずつ長くしていくのが現実的で効果的です。
④の「清潔」とは、①~③の状態を維持することです。
維持するためには、必ず出来、不出来を確認してください。そうしないと、ただのお掃除になってしまいます。
※必ずチェックすること。チェックリストを作成してチェック!
プラスにせよマイナスにせよ、相手が納得のいく形で評価をしなければなりません。人間は自分のやったことを評価されたいものです。最悪なのは無視すること。
評価の仕組みがない環境整備は、決して定着することはありません。武蔵野では、月に1度は社長の小山と幹部が点検しています。評価にあたっては、決して抜き打ち検査をしないことです。
いつ点検されるかがわからなければ、社内が暗くなり、徹底的な環境整備をする気にはなれないからです。
点検はあらかじめ告知してあるチェック項目に従い、マルとバツを明確にして次回へつなげるようにします。点検は、リーダー一人で行うのではなく、必ず幹部を同行させます。
リーダーが現場で行う具体的な指導は、同行者にとっても最高の学びの機会になるからです。環境整備の点検は、社長の価値観を確認する部下の教育にもなるのです。
そして点検結果を部門別に集計し、優秀なところを表彰することで全社に対してさらなる動機づけを行っていきます。
人間はすぐに慣れてしまい、感覚を鈍化させる動物です。これらの工夫も、やがては慣れの中に埋もれていくことでしょう。
そこで少しずつでもいいので工夫・改善したり、新しい仕組みを導入したりすることで、環境整備の質を落とさないように工夫し続けることも重要です。
▼物的環境整備は、①整理、②整頓、③清掃、④清潔の順で行う
人的環境整備に取り組む
物の整備が進んだら、今度は「人」です。人的環境整備の中心は、「礼を正す」ことです。
前述の整理、整頓、清掃、清潔に加えて、⑤躾(しつけ)で、5Sと呼ばれます。具体的には、大きな声で明るく返事、挨拶をする、これが基本です。
- ①返事
- ②挨拶
- ③笑顔
人的環境整備の基本である返事、挨拶、笑顔の中で、私は返事を最重要視します。お客様に与えるインパクトが最も大きいからです。まず返事ありき、そして挨拶・笑顔です。順番を間違えてはいけません。
さて、あなたは返事の声の高さを意識したことはありますか?人間の耳に最も快く感じるのは、「ラ」の音です。
喫茶店でコーヒーを注文します。店員が「ラ」の音で、「はい」と答えればお客様も好印象を持ちます。ところが、ぶすっと「おう」とか「うん」などと言われたらどうでしょう。二度とその店で飲食するまいと思います。
ラの音で「はい」と言ったら、続けて「かしこまりました」と言いましょう。これが最もお客様に喜んでいただける返事です。
ただし、実際にやっていただくと、ほとんどの方が「かしこみゃりました」などと、言い淀んでしまいます。
普段口にしない言葉ですから、急には使えないのです。しかし、繰り返すことで必ず言えるようになります。
そして、続けるうちにどんどん上手になります。お客様の感動も、それにつれて大きくなっていきます。
この返事、最初は渋々していても、やがて気持ちの良さに気づきます。そうなればどんどん積極的にするようになります。
物的環境整備と人的環境整備、ここまでが樹木でいうと「根」に当たる部分です。これらをおろそかにしては、花も実もありません。
充実した根を張るためには、地道な取り組みを、毎日毎日徹底し続けなければいけません。
環境整備とは、習慣整備なのです。ここで注意していただきたいことがあります。
人的環境整備は、物的環境整備と2つで会社の根となります。
とても重要な項目ですが、物的環境整備の前に、人を変えようとすると失敗します。人は、汚いところで明るい返事、挨拶、笑顔を、と言ってもできないのが当然だからです。
それは当人の資質や性格ではありません。人間が普通に持ち合わせたまともな感覚なのです。ですから、まず場を浄めましょう。環境整備は物から始めるのが基本となります。そして、人的環境整備に取り組んでください。
▼人的環境整備の基礎は、①返事、②挨拶、③笑顔から
お客様の判断の9割は、「見た目」と「声」
人も会社も、見た目と聴覚で9割を判断されています。
一般に人間は、「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触角」の5つの感覚を持つと言われますが、中でも重要なのが視覚と聴覚です。この2つで判断の9割を決定します。
つまり、お客様はまず見た目・声で判断し、「これは良さそうだ」と思って初めてお金を払ってくださるのです。見た目と声で、9割が決まるのです。
この話をすると、「レストランであれば味覚や嗅覚が重要ではないか」と質問される方がいらっしゃいます。
しかし、レストランでも、やはり見た目と声なのです。まず、汚いレストランには誰も入りません。よく「汚いけれど美味しい店」などと言われるところがあります。
古びているのと不潔なのを混同しないよう注意してください。「汚いけれど美味しい店」と言われる店舗をよく見ると、内装はたとえ古びていても床は磨かれ、食器は輝いています。
従業員の制服は白が目に鮮やかで、何より表情が明るいはずです。美味しくて繁盛している汚い店はありえないのです。見た目をクリアしたら、ドアを開けます。次は「音」です。
「いらっしゃいませ」と明るく元気な声が聞こえてきました。きちんと自分の目を見ています。ここに至ってようやくお客様はその店を選ぶのです。
「うちはフランスで修業したコックがいる」「店主は各地のコンクールで優勝している」などといくら「味」を強調しても、見た目と挨拶が悪ければ出て行かれます。
美味しいだけで選んでくれると思うのは、あまりにお客様を馬鹿にしています。あなたがレストランに行ったときのことを考えてみてください。
良かったな、また行きたいな、というお店は、味だけではなく、外見や内装、スタッフの挨拶、清潔なテーブルクロスなどが印象に残っていないでしょうか。食事に行ったのに味以外の印象も残るのです。
つまり、人があえてレストランに行くのは味以外のものも求めているということです。それが「感動」です。感情が動いているから記憶に残るのです。店主がいくら味ばかり追求しても、お客様は選んでくださいません。まずは、見た目と挨拶で感動を与えましょう。
▼見た目と音で9割判断される。だから、物的環境整備、そして人的環境整備という順番で実践を始める
良い仲間を持つことも人的環境整備
先に紹介したのは、人的環境整備の基本です。ここでは、別な観点からの人的環境整備を紹介します。
「類は友を呼ぶ」――一倉洋先生が教えてくださった原理原則です。良い仲間に囲まれていれば、おのずと良い決定ができるということです。
一倉洋先生は、1986年の11月、私が出会ったとき、すでに癌に侵されていて、その2年後に43歳の若さで亡くなられました。
一倉先生には、さまざまな教えをいただきましたが、これが、最後の教えとなりました。
例を挙げて解説しましょう。
たとえば本書を読んだ方が、環境整備について知らない仲間に、「こんないい話が書かれていたよ」と教えたとします。そして、「すごそうだから一緒にやってみようよ」と誘ったらどうでしょうか。
「正直なところ面倒臭い」と感じても、付き合いもあるし、とりあえず良さそうだからちょっとやってみよう、となります。そこで、一歩良い方向に進めます。
ところが、悪い仲間ですと、こうはなりません。「お掃除で儲かるなら苦労はしないよ」などと、まったく的外れな批判をして終わりです。
会社は、変わらず荒れ放題です。良い仕事をし、良い人生を歩むには、前者のような人間関係が望ましいものです。ただし、周囲に不満があっても、それは仲間の責任ではありません。
自分自身のレベルに合った仲間が自然にできただけの話です。「類が友を呼ぶ」のです。
いきなり仲間を説得して、「環境整備をやろう」と言っても相手にされないか、何だかんだと理屈をつけられて結局やらずじまいに終わります。
変えられるのは自分しかありません。まず自分が環境整備を始め、コツコツと続けていくのです。仲間も本心では興味がないわけではありません。
新しいことを始めるのが面倒なだけなのです。
ですから、仲間の誰かが環境整備を始めたとなれば、何となく様子を聞いて、「私もしてみよう」「ではわが社も」となるものです。
それでも、「お掃除なんて」と勘違いを続ける仲間とは、やがて疎遠になっていきます。類は友を呼ぶのですから、感覚が合わなくなれば自然と離れていくのです。
そして今度は、環境整備を実践している人と知り合っていきます。
「悪貨は良貨を駆逐する」という有名な経済学者の言葉があるように、悪い物は影響力を広げやすいものです。
したがって、悪友は簡単につくることができます。学校にはたいてい不良グループがいます。一人きりの不良など、見たことがありません。
つまり、悪友は群れたがるのです。これは社会人も同じです。自分だけでは不安なので、他人を巻き込もうとします。その仲間に入ったら悲惨です。
何かといっては群れて足を引っ張り合い、お互いを低め続けます。誘い合って堕落・退歩していくのです。
誰かが成長して自分が置き去りにされるのが怖いので、他人の進化を妨害し続けます。
一方、良い仲間は対照的です。助け合って共に成長・進化していきます。他人の話を素直に聞き、優れたことは積極的に真似をして、どんどん変わっていきます。良い物は広がりにくいため、このような関係を築くのは、少々困難です。しかし、それを達成している人は確実に存在します。
こうして悪い仲間との交流がなくなり、豊かな人生へと一歩近づくことができるのです。元の仲間との差は、どんどん開いていくことでしょう。
良い友達を選んで交流し、お互いの会社をベンチマーキングし合いましょう。そして良いところをどんどん真似してお互いに高め合えば、会社は長足の進歩・成長を遂げます。
良貨が悪貨を駆逐するように、その企業の社風は一気によくなっていきます。類は友を呼びます。
そのような関係が構築されていると、また似た感性を持った人が仲間に入ってきます。変化のスピードは集団の大きさに比例します。真似をする対象が増えるからです。
したがって、良い仲間が増えれば増えるほど、進化がスピードアップするのです。ですから、特にリーダーはどのような人と交流し、どのように相互啓発を図っていくのかを絶えず考えていかなければなりません。
その判断によって、自分や会社のありようが大きく変わっていくのです。以上が、もう1つの人的環境整備の心得です。
▼類は友を呼ぶ。良い仲間をつくり、お互いにベンチマーキングしよう
情報環境整備に取り組む
樹木で最も重要なのは、根でした。根の上は「幹」です。細い幹の樹木に豊かな実りは期待できません。根が整ったら、今度は幹の充実が必要です。会社で幹に当たるのが、「情報環境整備」です。
根が吸い上げた養分は、幹を通じて最後は花や実に至ります。同じように、情報の伝達が遅かったり、コミュニケーションが不足していたりする会社の業績は伸びません。
情報環境整備とは、コミュニケーションの促進です。コミュニケーションなくして、現場力が高まることはありません。
情報環境整備では、まず、次の2つを徹底してください。
- ①時間を守る
- ②報告の内容を統一する
情報を滞らせない感性を養うためには、「時を守る」ことが効果的です。
たとえ1分でも遅刻は遅刻です。相手を待たせるということは、他人の時間を盗むことです。してはいけない行為だと理解し、時を守ることを習慣化するのです。
次に、報告です。
まずは、①「数字報告」です。数字は、さまざまな決定の根拠となります。
次に、②「お客様の声」です。ただし、クレームのように緊急を要するものは最優先にしなければいけません。
そして、③「ライバル情報」があります。
④が「本部・ビジネスパートナーの情報」です。
最後が⑤「自分の考え」です。
一口に報告と言っても、このように「5つの情報」に基づいて実践するかどうかで、結果は劇的に変わります。
ただ部下に「報告しろ」と言うだけでは動かないのが普通の社員です。
もし、「部下がほしい情報を上げてこない」「事実と意見がごちゃごちゃで、判断に困る」といった悩みがあれば、それは、指示している側の責任です。
情報の環境整備は、報告するもの、しないものを決め(整理)、何をどの順番で報告するかを教え(整頓)なければなりません。
この2つを基本として、武蔵野では、コミュニケーションを活性化する仕掛けをたくさん儲けています。
具体的な内容は、小山昇著『経営の見える化』(中経出版)を参考になさってください。仕事をしていく上で、人は、日々さまざまな意思決定を繰り返しています。
これは、社長も一般社員も同じことです。決定を迷うのは、それが正しいかどうかの判断がつきかねるときです。現実には、やってみないとわからないことも多々あるので当然です。
しかし、いつまでも悩んで、決定をくだせないでいるのは問題です。やってみて失敗ならやり直せばいいのです。
ただし、「これだけはやってはいけない」という決定があります。「現実」「現場」「現物」から離れた意思決定です。
現場を知らず、机上の理論だけで決定を下すことだけはしないでください。経営はギャンブルではありません。
現場を知らずに下したイチかバチかの判断が問題の改善につながっても、「結果オーライ」で、たまたま成功しただけ。次はどうなるかわかりません。
現場を知らないために、うっかり上手くいっているところに手をつけたら悲惨です。
「この点は問題ありません、変えなくていいですよ」と教えてくれるのは、現場のお客様です。そこを変えたらどうなるでしょうか。
せっかくの教えを一方的に踏みにじられたのですから、お客様は離れていきます。ライバルの頑張りではなく、自分の判断ミスでお客様をライバルに奪われてしまうのです。
意思決定に際しては、とにかく現場を重視することです。現場がわかる情報環境整備をしましょう。5つの情報に基づいた報告もその1つの方法です。
そして、直接、現場に出向くことが必要です。
現場の空気や従業員の表情や声色といった、書面での報告では絶対にわからないところが肌で感じられます。実は、そのような言葉ではわからない部分にこそ、真実が潜んでいます。
書面上は上手くいっている店舗も、従業員の表情が暗ければ、何か問題があるはずなのです。
▼情報環境整備は、①時間を守る、②報告は5つの情報に内容を統一すること
社長の決心・覚悟と地道な取り組みで会社は変わる
ここで、原理原則を知って環境整備を実践し、驚くべき成長を遂げている会社の例をご紹介しましょう。
株式会社ワールド・ワン様(河野圭一社長)は、神戸の三宮で飲食店を始め、さらに発展し続けている会社です。当初は自己流で経営を進めていらっしゃいました。
しかし、事業の発展に伴い、パート・アルバイトも含め従業員の数が増えます。
万が一経営が立ち行かなくなったりすれば、そのご縁のあった人たちを苦しめることになります。
そこで、「このまま自己流でやっていてはいけない」と、自らの勘だけに頼らない経営を求め、武蔵野の経営サポート事業部とご縁ができました。
同社の環境整備点検は徹底しています。まず始めるにあたり、河野社長は習慣整備という言葉を強調します。
簡単に言うと「よい言葉を使う、よい行動をとる」ということです。簡単なようですが、習慣整備という言葉をごく自然に口にできる社長は一握りです。
経営者が、このような視点を持つことで、従業員はお客様に対して、またはスタッフ同士でどのような言葉遣いをしたらいいのか、絶えず細心の注意を払えるようになります。
このような環境は、自然発生するものではありません。その根っこにあたるのが、地道な物的環境整備です。同社の環境整備点検は、河野社長以下各店の店長、幹部により行われます。
指摘された問題点には次々と目印の紙が貼られ、一目でわかるようになっています(これも共通の道具です)。
厨房のシンクの下、換気フードの裏側、テーブルのわずかな埃といった細かな点もチェックされます。
便器には直接手まで突っ込んで確認します。店頭の盛り塩に髪の毛が落ちていた、という指摘もされます。ここまでされれば、店長も環境整備を徹底せざるをえません。誰もここまで細かいところ見ない、と思うのは間違いです。
たとえば、飲食店にとって盛り塩は、お客様にお越しいただくことを願った大切なアイテムです。そこが汚れていたのでは話になりません。
お客様がご覧になったら、決してそのような店を選ばないでしょう。何しろ神戸の三宮といえば地域きっての繁華街です。ライバルは星の数ほどあります。
このように環境整備を通して、原理原則を共通認識にしていくのです。物の点検が終わったら、開店前に人的環境整備・習慣整備のチェックです。
爪や笑顔といった、お客様の目に直接触れるところはもちろん、靴下まで厳しく点検されます。環境整備点検で高得点を獲得するためには、店全体の一致団結が必要です。多数を占めるアルバイトの協力なしには実現不可能です。
すると、店長や幹部にアルバイトに対する感謝の気持ちが生まれ、必然的にお店の空気がよくなります。
ワールド・ワン様の環境整備点検がすごいのは、全店の幹部クラスが参加しているところです。点検をしながら、他店のベンチマーキングもし合っているのです。
そこで発見した良い点をお互いに真似し合い、全店がどんどん強くなっていきます。
他社のベンチマーキングももちろん有効ですが、どれほど素晴らしい点があっても、「あそこは規模が違うから」「うちとは事業内容が違うから」などと言い訳ができます。
しかし、自社の他店では言い訳のしようがありません。同社の環境整備点検はまだ続きます。
翌日には実行計画書という共通の道具を使い、講評を述べたり自店舗の計画達成を省みたりして、次への備えを行うのです。
初日に現場の現実について、2日目には今後について共有化を図ることで、企業文化のレベルはどんどん高まっていきます。
こうした地道な取り組みをコツコツ続けていくことが重要なのです。ワールド・ワン様は、今後もさらなる店舗展開を計画しています。
このようにして、原理原則を知らず、何もしないでいる会社に、どんどん差をつけていくのです。
▼環境整備と習慣整備を行おう
税務署を1日早く切り上げさせた環境整備の力
次は、完璧な環境整備によって監督官庁をうならせた会社の例をご紹介しましょう。監督官庁は、社長の言葉や書類など信頼しません。ですから、必ず現場を見ます。
真実は現場の中にあるからです。実態として環境整備が、びしっとできていれば、指導も自然と甘くなるのです。逆もまた然り。
環境整備ができていない会社や、社員に覇気がない会社は、鵜の目鷹の目で調べられ、痛くもない腹を探られることになります。
岐阜県で産業用梱包機械を製造している株式会社東伸様(藤吉繁子社長)では、税務調査が1日早く終わりました。
ある日、税務署の調査が入りました。
「今日から4日間行います。まずは工場を見せてください」。突然ですから社内に緊張が走ります。税務署員は、それまでの経験から次のようなイメージを持っていたことと思います。
「工場は雑然として、何がどこにあるかがわからない。上手く在庫調整をしてごまかしているのではないか」それも無理はありません。
そういう現場が圧倒的に多いのが事実だからです。
ところが東伸様は違いました。何しろ同社は、全国から見学者が来るくらい環境整備が徹底されているのです。
在庫などごまかしようもないことは一目でわかります。物だけでなく、人も完璧です。
工場に行ったところ、働いている人が笑顔で「いらっしゃいませ!」と迎えてくれます。下手な接客業の人よりも、返事や挨拶、笑顔のレベルが遥かに上なのです。
汚い、暗いが当然だと思っていた工場はぴかぴか、「いらっしゃいませ」に始まって最後のお見送りまで完璧。その効果は劇的なものでした。
「4日」と言っていた税務署員が、「3日でいい」となったのです。あの厳しい税務署が現場を見て、この会社は不正をするはずがない、と判断したのです。
同社には、翌月は消防署が査察にきましたが、完璧な現場を見てやはりすぐにOKが出ました。
どんな些細なことも見逃さない監督官庁のチェックすら緩ませる、現場の現実というものは、それほど説得力を持っています。
東伸様がそれほどのレベルが維持できるのも、「我ら以外、皆お客様なり」という精神が浸透している結果です。
「我ら以外、皆お客様なり」と思えば、入ってきたのが宅配便や郵便局の人でも、業者様でも、自分たち以外の人間はすべてお客様であると考え、きちんと立って相手を見て挨拶します。
これを「相手がお客様なら分離礼」「業者なら会釈」などと場合分けすると、従業員はその都度、相手が誰であるか判断しなければいけません。その判断が絶対に正しいとは限りませんし、反応も遅れます。
そのときは業者として訪れた方も、いつお客様になられるかはわかりません。また、あまり会社が汚かったり、応対が杜撰だったりすると、マイナスの口コミを発信されるおそれもあります。悪い評判はすぐに伝わります。しかも、誇張されて広がります。
東伸様の完璧な環境整備は、現場によって自分たちの会社が評価を受けるという原理原則を理解しているからできることです。それゆえ、どのような方が見えても、必ず高いレベルの応対ができるのです。
▼会社は「現実」「現場」「現物」によって評価される
金融機関は、現場を見て融資を決める
お客様・監督官庁と並んで、厳しく会社をチェックしているのが金融機関です。現実問題として、金融機関から借入をせずに経営が成り立つ会社はごく一握りです。
会社は赤字でも倒産しませんが、資金が底をついたときに倒産します。そうである以上、常に銀行とは良好な関係を維持しておかなくてはなりません。
武蔵野が経営サポート事業を通じて付き合いがある、全国の中小企業経営者・経営幹部の中には銀行出身の方がいらっしゃいます。
有名銀行の支店長、副支店長、本店の審査部とご経歴はさまざまです。経歴は違っても、銀行業務の第一線を経験された方が口をそろえて、おっしゃることがあります。
「会社は書類だけでは信用できない」銀行は現場を見てその会社を判断しています。現場チェックの典型的な例が、支店長の会社訪問です。
銀行の支店長は、アポイントを取らずに突然来られるケースが大半です。そして例外なく「ちょっと近所まで来ましたので」などとおっしゃいますが、そんな暇な支店長がいるはずがありません。
目的は、「現実」「現場」「現物」の確認です。会社に行ってみたら社内は雑然として、社員はろくに挨拶もしない。中には「あのオヤジは何者だ」などという不躾な目で見る者もいる。
そんな淀んだ空気の会社がいくら立派な書類をつくっても、融資してくれる銀行などあるはずがありません。
ただし、銀行は融資をしたくないのではありません。確実な相手を選びたいだけの話です。
武蔵野は、銀行の支店長の訪問を受けるばかりでなく、逆にお招きするケースがあります。それが、経営計画発表会です。発表会では社長がさまざまな方針を説明します。
たとえば、環境整備についてはこういう方針で、具体的にはこのようにやっていきます、という具合です。支店長は、発表会でどれほど感心したとしても必ず現場に足を運びます。
そこで計画と実情が全然違っていたという事実を確認したら、絶対に融資はしてもらえません。
逆に、突然訪問してみたら整理、整頓、清潔も大丈夫。返事、挨拶、笑顔も明るく、分離礼は完璧だという事実があればどうなるでしょうか。
発表会で社長の言ったことがきちんと実施されている会社、つまり社長のリーダーシップがしっかりしている信用できる会社だ、と支店長は判断します。こうなると銀行の態度は一変します。
これまでは「融資してやる」という姿勢だったものが、一転「融資させてください」となるのです。利率や借入期間といった条件面についても、こちらが優位に立って進められます。
銀行は、融資したくないわけではありません。貸すのが商売です。信用できる会社なら、銀行は融資したいのです。優良な顧客を、むざむざライバル銀行にとられるわけにはいきません。
この点は銀行とて普通の会社と同じです。銀行の支店長だから丁重にもてなせ、ということではありません。そもそも支店長の顔など知っている社員はほとんどいないはずです。
会社には、いつ誰が来るかわかりません。だからこそ「我ら以外皆お客様なり」なのです。
売上が伸びない、銀行がお金を貸してくれない……上手くいかないことの根本的な原因は、すべて会社の現場にあります。
この原理原則を知らないで、または知っても実践しないまま経営を続ければ、やがて銀行から見放されます。
そうならないためにも、社長は「現実」「現場」「現物」を大切にしていかなければなりません。
地道な取り組みをコツコツ積み重ねることで初めて、会社は強くなっていくのです。
▼売上が伸びない、銀行がお金を貸してくれない――問題の根本的な原因は、すべて会社の現場にある
「物」「人」「情報」の環境整備に取り組もう
以上、3つの環境整備と、環境整備の効果について解説しました。
物的環境整備と人的環境整備を根とし、コミュニケーションを幹に、強い企業文化という枝葉を広げた樹木となったとき、初めて、会社は実りの季節をむかえます。
この仕組みが強いほど多くの花が咲き乱れ、豊かな果実がたわわになるのです。物、人、情報の環境整備が利益をもたらします。これが、経営の原理原則です。原理原則を知らないまま、上手に会社を育てるのは、極めて困難です。
まして、原理原則を無視して、社員や部下に漠然と「とにかく利益を上げろ」「何でもいいから売上を伸ばせ」と言うだけでは、命令する側の意に反して利益は下がり、売上は落ちるでしょう。
リーダーは「もっと利益を」「日本一になりたい」「上場したい」といろいろな花を咲かせることを望みます。
社員の方も、「もっと休日がほしい」「ボーナスをいっぱい」と願います。どちらも当然の思いです。
偉大な教育者、森信三先生が「現場再建の三大原理」として「場を浄め、礼を正し、時を守る」ことを挙げ、「学校の再建はまず紙屑を拾うことから――。次にはクツ箱のクツのかかとが揃うように。真の教育は、こうした眼前の瑣事からスタートすることを知らねば、一校主宰者たるの資格なし」と述べています。
同様に、物、人、情報の環境整備に取り組むことによって、初めて、会社は、経営者も、社員も望む結果に到達することができるのです。
▼場を浄め、礼を正し、時を守ろう
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