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第3章「ロジカル上司」に部下がついてこない理由──感情の法則──

ロジカルかつ冷静に仕事を進め、結果を出すこと。

それはスマートで理想的ですが、現実にはそうはいきません。

「うまくいくかどうか不安」「失敗してしまって恥ずかしい、情けない」「焦りや不安で心に余裕がなくなる」人間は感情の生き物であり、部下は常にこうした不安にさらされています。

第3章では、部下の感情に寄り添い、仕事を円滑に進めるためのフィードバックをご紹介します。

目次

ロジックよりも「感情」を大事にせよ

ビジネスの世界ではロジックが重要とされています。

ロジックとは、ある結論に至るまでの理路整然とした思考の道筋(論理)のこと。

ロジックから派生した「ロジカルシンキング」(論理的思考法)は、必須のビジネススキルとも言われており、仮説思考、三段論法、演繹法、帰納法、PDCAなど様々なビジネスシーンで活用されています。

ロジック(あるいはロジカルシンキング)がビジネスの世界で必要とされている理由は、主に2つです。

一つは、「課題解決のため」です。

仕事をしていれば、ありとあらゆる場面で大なり小なりの問題が生じます。

そのような場合、問題の原因は何かについて解決策を見つけ出していく必要があります。

たとえば、営業第一課の売上高が、営業第二課と比べて半分であった場合、営業手法に違いがあったのか?マンパワーの違いか?あるいはコントロールできない外部条件が発生したのか?など、原因を特定していきます。

原因が特定できたら、具体的な解決策を検討することになりますが、原因分析や解決策の検討において、論理的に物事を考えるプロセスは極めて重要です。

もう一つの理由は「円滑なコミュニケーションのため」です。

ビジネスシーンにおけるコミュニケーションでは、相手にわかりやすく伝えることが大切です。

報連相やプレゼンなどの場面はまさにそうです。

商談の場面であれば、論理的に説明することで、交渉を有利に進めることができます。

ロジカルであれば、共通理解を得られやすい。

ロジカルの反対は「支離滅裂」であることからも、ビジネスにおいてロジックが重視されるのはある意味当然です。

ロジックの落とし穴

ロジックがビジネスの世界において重要であることに疑いの余地はありません。

一方、現実をよく観察してみると、人はロジックで動かないことが多々あります。

たとえば、「◯◯だから、こうしたほうがよい」と論理的に正しいアドバイスを受けた場合、好きな上司と嫌いな上司とでは受け取り方がかなり異なるはずです。

好きな上司なら、素直にアドバイスを受け入れたくなりますが、嫌いな上司であれば、「なんでそんなこと言われなきゃならないの?」と反発したくなります。

お互いにアドバイスしている内容は全く同じで論理的にも正しいのに、なぜこんなことが起こるのでしょうか?その理由は「人は感情のいきもの」だからです。

人は必ずしもロジックで動くわけではありません。

突き詰めれば、人は感情で動きます。

好きなことはやるし、嫌いなことはやらない。

「好きか嫌いか?」という、とてもシンプルな行動原理です。

先ほどの例もこのような原理が働いています。

この原理は、第1章のページで紹介した人間の行動原理の図と同じメカニズムになっています。

「好きか嫌いか?」というのは「価値観」です。

人は様々な価値観を持っていて、価値観がフィルターとなり、様々な感情が起こります。

たとえば、「読書は大切」という価値観を持っている人は、本を見ると「読みたい!」という「快の感情」が発生し、本を購入するという「行動」を取ります。

その結果、読書するという結果に至ります。

「ある感情がある行動を引き起こす」というメカニズムですが、ある感情を引き起こすのは「価値観」というフィルターです。

このメカニズムを理解しておくと、ロジカルではない不可解に見える人の行動も理解できます。

ロジカルに説明して、議論で相手に勝ったとしても、「相手が言うことを聞いてくれない」ことは多々あります。

私自身の痛い経験ですが、妻に対して論理的に説き伏せた際、「私はあなたの部下じゃないんだから、あなたの言うとおりに従うと思ったら大間違いよ!」と反発を食らったこともあります。

まさに「議論に勝って勝負に負ける」です。

ロジックで全て上手くいくのであれば、誰も苦労はしないのです。

心の扉は「内側」からしか開かない

ロジックは非常に効果的なコミュニケーションツールである反面、ロジックだけでコミュニケーションが取れるわけではありません。

「議論に勝って、勝負に負ける」ことが往々にして起こるように、論破できても、相手の感情を害せば、関係性を悪化させます。

とりわけ、直感的な人や感性で行動するような人とのコミュニケーションにおいては、ロジックが通用しないことも多々あります。

そんな場合どうしたらいいのか?重要な鍵は「相手の心を理解する」です。

心とは、「感情」あるいは「気持ち」とも読み替えられますが、相手の心を理解することがロジックを超えたコミュニケーションの鍵となります。

相手の心を理解するためには、相手をよく傾聴して、相手を受け入れることです。

感情を司るのは「価値観」ですから、「相手が大切にしていることは何だろうか?」と相手の価値観を理解しようという姿勢がとても大事です。

相手を深く理解すればするほど、相手とのラポールは深まります。

以前、「職場で部下にロジカルに説明してもなかなか言うことを聞いてくれない」と嘆いていた管理職のクライアントさんがいました。

そこで私は「部下に本当はどうしたいのか?」をとことん傾聴してみるようお伝えし、その方に実際に試してもらったのです。

約1ヶ月後、その方から報告がありました。

「部下のことを何も理解できていなかったことを反省しました。

部下は自分の考えや思いを聞いてもらったことがとても嬉しかったようです。

その後、私の説明にも耳をよく傾けてくれ、進んで行動してくれるようになりました」ラポールが深まれば相手は心を開いて、こちらの話も受け入れてくれるようになるのです。

「心の扉は内側からしか開かない」著名な臨床心理学者カール・ロジャーズの言葉です。

外からロジカルに理解させようとしても、感情が邪魔をして受け入れてくれません。

真のコミュニケーションというのは、外側からではなく、内側から働きかけることによって成り立つのです。

フィードバックにおいても、この原理は同じです。

たとえば、目標値に達していない理由が、明らかに行動量の不足である場合、「行動量が足りてないので、もっと行動量をあげる必要がありますね」

とロジカルにフィードバックしても、部下に反発される場合があります。

他方、心の内側に向けてフィードバックするとこのような言い方もできます。

「行動量を上げられるとしたら、どのような工夫ができますか?」あるいは「もし何か困っていることなどがあれば、教えてくれませんか?」部下は目標を達成できなかったことに「恥ずかしい」、「情けない」、「辛い」など何らかの感情を抱いています。

部下の感情に寄り添いながらフィードバックすることで、部下の心の扉は開いていきます。

その結果、そのフィードバックは深く部下の心に届くのです。

ビジネスの世界でロジックが重要な役割を果たすことは言うまでもありません。

他方、お伝えしたようにロジックだけでコミュニケーションは成り立たないのも事実です。

「議論に勝って、勝負に負ける」では、相手との関係性を壊す可能性があります。

関係性を壊してしまっては、ビジネスそのものができなくなります。

ロジックは大事です。

ですが、感情を理解するということは、もっと大事なビジネススキルです。

「人間は感情のいきものである」という原理を理解することが大切なのです。

「アメとムチ」のメリット、デメリット

「アメとムチ」と聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。

この「アメとムチ」という言葉、もともとは、ドイツ帝国時代に宰相ビスマルクが行った社会保障政策が揶揄されたことで生まれた言葉とも言われています。

ビスマルクは、社会の貧困をなくすために社会保障制度を充実させた一方で、社会主義的な結社を禁止する社会主義者鎮圧法を制定しました。

つまり、社会保障制度が「アメ」で社会主義鎮圧法が「ムチ」というわけです。

その後、「アメとムチ」は国家の政策のみならず、あらゆる組織において人をコントロールする手段として用いられてきました。

コロナ禍の飲食業に対する要請で、営業時間の短縮や酒の提供をしないお店に対しては給付金を支給し、要請に応じないお店に対しては罰金を科す、というのはまさに「アメとムチ」の政策です。

指導者が思うように人を動かしたい場合、「指導者の意図に沿った行動を取れば報酬を与える、反対に意図に沿わない行動を取れば罰する」という戦略を取ることがあります。

このような場合、指導者の下にいる人達は、「何をすれば報酬が得られるのか」、「何をすれば罰を受けるのか」を経験的に学習し、指導者の意に沿った行動を取るようになります。

要するに「条件づけ」されるわけです。

会社では、昇給や昇格という「アメ」で働きたくなるように仕向けられ、成果を出せなければ減給や降格という「ムチ」で働かざるを得ない状況に追い込まれるという仕組みです。

会社勤めの人が時として「社畜」と揶揄される所以です。

このように、「アメとムチ」は、良いことをすれば褒める、悪いことをすれば罰するという、「万人にとってシンプルな方法で動機づけができる」ことから、今でも多くの会社や組織で使われているのです。

「アメとムチ」は、外部から条件づけして人を動かすことから、「外発的動機づけ」とも呼ばれます。

外発的動機づけが機能する要因は「条件づけ」です。

条件づけのデメリットは、人間はすぐに条件づけに慣れてしまうということです。

条件づけに慣れてしまうと、条件どおりに動かなくなるのです。

そのため、アメの効果を持続させるには、アメをアップグレードし続けなくてはなりません。

給与を上げ続ける必要があるのはそのためでもあります。

給与が上がらないとやる気が失せるというのは誰でも感じたことがあるでしょう。

対して、ムチを与え続けるとどうなるか?ムチを受けたくないと仕事を頑張っていた人も、何度もムチを受け続けていくと「自分は何をしてもムチを受けるのだから、いっそ何もしないほうがいい」という「学習性無力感」の状態を招く恐れがあります。

上司の役目は「内発的動機づけ」を行うこと

人は何も「アメとムチ」のような外からの刺激(外発的動機づけ)だけで動くわけではありません。

誰にでも経験があると思いますが、「やりたいからやる」、「楽しいからやる」のような自分の内側からの刺激で行動する場合があります。

これを「内発的動機づけ」といいます。

好奇心、探究心、向上心など、本人の内部から発生する内発的な動機によって行動が促されるということです。

内発的動機のメリットは、条件づけされないことから、自ら進んで行動して結果を出そうとすることです。

給与などの外発的動機づけは、条件が変わることで転職されてしまったりするわけですが、「やりがい」や「自己実現」といった内発的動機に基づく行動は、極端な場合を除いて条件が変わろうとも、ずっと継続されます。

また、外から条件を課されない内発的動機づけは、創造性を育みやすく、社員一人ひとりが個性を発揮しやすくなるというメリットもあります。

一方、内発的動機づけのデメリットは、全ての人にとって共通の方法で動機づけすることが難しいという点です。

人それぞれ好奇心や向上心に違いがあるので、十把一絡げに対応できないのが難点です。

「アメとムチ」のような外発的動機づけは、共通の基準(昇給、昇格、減給、降格など)が設定しやすく、シンプルな構造であることから、組織的に対応しやすいのは事実です。

ただし、「アメとムチ」だけで上手くいくかと言えば、そうではありません。

そこで登場するのが「内発的動機づけ」ですが、内発的動機づけは万人に共通するようなアプローチを取ることができないため、個々に対応する必要があります。

従って、上司と部下との関係の中で個別に上司が対応するのがベストです。

内発的動機を引き出すフィードバック

では、フィードバックを使った内発的動機を引き出す方法について見ていきましょう。

たとえば、昇格できないのを理由に仕事に対してやる気を無くしている部下がいるとします。

こんなとき、あなたが上司だとしたら、どのようにフィードバックをするでしょうか。

「今は辛いだろうけど、これからも昇格のチャンスはきっとある」(アメ)「今は辛いだろうけど、頑張らなきゃ降格になるかもよ」(ムチ)例のように外発的動機に働きかけるフィードバックでは、部下は自ら進んで動こうとはしません。

特に「ムチ」を使ったフィードバックは、逆にやる気を削ぎ、行動することをやめてしまう可能性もあるでしょう。

内発的動機を引き出すには、オープンクエスチョンで「自分はどうしていきたいか?」や「何を大切にしたいのか?」という本心に問いかけるのが効果的です。

たとえば、「今の仕事を通じて、これから自分はどうしていきたい?」「今の仕事で、自分が本当に大切にしていきたいことは何?」このような「心の内側に問いかけるフィードバック」をします。

心の内面に問いかける質問は、すぐには答えが出てきませんので、じっと待って、傾聴し続けることです。

その場で答えが出てこない場合には、数日あるいは数週間じっくり時間をかけて自分と向き合ってもらうことも必要です。

部下にそうした機会を与えることによって、条件づけされた自分から離れ、「自分はどうしたいのか」、「何を大切にしていきたいのか」という自分の本心に気づいていきます。

仕事を辞めるか続けるかで悩んでいるクライアントさんに、こうした心の内側に問いかけるフィードバックをすると、「お客様の笑顔をもっと増やしていきたい」、「自分の可能性をさらに発揮させたい」のような「内なる動機」に気づきます。

内なる動機に気づくと、外からの条件に振り回されない「自分軸」が確立され、受け身の行動から「主体的な行動」へと変化するのです。

会社という組織の体制上、「アメとムチ」を使ったマネジメントを使わざるを得ないのは仕方ありません。

他方で、私達の多くは条件づけによってコントロールされているということを改めて認識する必要があります。

「社畜」などと揶揄されないよう、自らの意思と選択によって行動できるように心の内側と対話する機会を持つことが必要です。

心に「スペース」をつくる

「うるさい!邪魔しないでくれ!」そう叫んだ後、妻と幼い子どもが怯えた目で私を見つめていました。

そのシーンを思い出す度に、私はいたたまれないほど辛い気持ちになります。

当時私は30代半ばの働き盛りの頃で、仕事で成果を出して認めてもらおうと必死になっていました。

同時に家族を守らなければならないというプレッシャーも感じていました。

その結果、時間に追われ、心に余裕がなくなり、家族に罵声を浴びせてしまったのです。

それは一度や二度ではありません。

心に余裕がなくなる度に起こりました。

あんなことはもう二度と起こしたくないと反省しています。

なぜ心に余裕がなくなるのか?

世の中には、常人では考えられないくらい多くの仕事を抱えているにもかかわらず、余裕で働いている人がいます。

そんな人は、もともと能力が高くて、仕事ができる人だからという人もいますが、そうではありません。

能力が非常に高くて仕事ができる人でも、余裕のない人はたくさんいるからです。

それとは反対に、少しの仕事しかやっていなくても、余裕のない人は大勢います。

いったい何が心の余裕をなくさせるのでしょうか?心の余裕を奪う大きな原因の一つは「思い込み」です。

特に心の余裕を奪う「思い込み」は、「べき」と「ねばならない」です。

「報告書は漏れがないよう完璧に作成すべき」「今週中に絶対に仕事を終わらせなければならない」「べき」と「ねばならない」という思い込みは、自ら自分を追い込んで、過剰なストレスを発生させる原因にもなります。

真面目過ぎたり、期待を裏切りたくないという「思い込み」が強すぎる人などが、「べき」と「ねばならない」にハマりやすく、心に余裕がなくなるわけです。

心に余裕がなくなると、・冷静に対処できなくなって、ミスを連発する。

・視野狭窄となり、自己中心的に振る舞うようになる。

・人にキツくあたったりして、人間関係の悪化を招く。

など負のスパイラルに陥ります。

このような事態を招かないようにするには、メタ認知能力(自分を客観視して冷静な判断や行動ができる能力)を鍛えるという方法もありますが、時間をかけてトレーニングする必要があるなど、簡単ではないのが実情です。

心に余裕がない状態は、パンパンに空気が張り詰めた風船と同じです。

スペースが全くない状態なので、物事をこれ以上受け取ることができません。

何かのきっかけで風船が破裂する可能性もあります。

破裂したら取り返しがつきませんので、充満しすぎた空気を抜かねばなりません。

この空気を抜き取って、スペースに余裕を持たせるには、「物理的な負担」と「精神的な負担」の2つを軽減させる必要があります。

「物理的な負担」とは、仕事の量や数の多さからくる負担などを指します。

物理的な負担を軽減することで、心の余裕は増えていくので、できるだけ早く対処することです。

まず部下に対して、「余裕がないときに行動しても、仕事の質が落ちて生産性が下がる」ということを認識させます。

このことを認識してもらったら、まずは「余裕が持てる状態をつくることが先決」と伝え、物理的な負担を軽減するためのフィードバックを行います。

その際、重要な指針となるのが「劣後順位」です。

劣後順位とは、「やらなくていいことの順番を決めること」です。

優先順位とは真逆の考え方です。

心に余裕がないときに、仕事の優先順位をつけても結局全てやる、ということになるので物理的な負担を減らすことはできません。

心に余裕がないときは、まず何よりも「やらなくていいこと」の順位をつけて、仕事の量や数を減らしていくことが重要なのです。

このような理由から、優先順位ではなく劣後順位の考え方でフィードバックを行っていきます。

「やらなくても大して業務に影響がない仕事はないか?」「本当にその仕事はやる必要があるのか?やらなかったらどうなるのか?」このような問いかけで部下の考えや思いを引き出していきます。

部下の考え方は受け入れつつ、「業務に大して影響がない」、「やる必要性が低い」と上司が判断した場合は、不必要な仕事を思い切ってやめさせることが大事です。

物理的な負担を軽減すると同時に、「精神的な負担」を軽減することが重要です。

「精神的な負担」とは、自ら自分を追い込んでしまうような「思い込み」のことです。

自分を追い込んでしまう思い込みの典型例が「べき」と「ねばならない」なのです。

この「思い込み」は、仕事の量や数などの物理的状況とは関係ありません。

私自身にも経験がありますが、たいしてやる仕事がないにもかかわらず、「もっと頑張らねばならない」、あるいは十分に成果を出しているのに「まだまだ自分はできていない」と勝手に思い込んで、自ら自分を精神的に追い込んでしまうのです。

このような場合、仮に物理的な負担を軽減したとしても、精神的な負担は軽減されないので、心に余裕を持つことができません。

「ネガティブな思い込み」を軽減するフィードバック

このようなネガティブな思い込みを軽減するには、次の手順でフィードバックをします。

まず、自分を縛りつけている「思い込みを特定」します。

たとえば、「もっと努力せねばならない」のような思い込みです。

次に、その思い込みを持ち続けていることで「損をしていることは何か?」を考えてもらいます。

たとえば、「毎日が楽しくない」、「常にプレッシャーにさらされる」、「ぐっすり寝られない」、「先が見えない不安に襲われる」など、思いつく限り全て挙げてもらいます。

今度は反対に、その思い込みを持ち続けていることで、「得していることは何か?」について考えてもらいます。

たとえば、「自分をもっと高められる」、「将来、人から認められる」、「来年、昇格できる」など、同様に思いつく限り挙げてもらいます。

実は、どんな思い込みにも「隠されたメリット」が存在します。

なので一見すると自分を縛りつけているような思い込みでも持ち続けてしまうのです。

「損していること」と「得していること」を挙げてもらったら、両者を比べてもらいます。

両者を比べることで、なぜ自分はそんな思い込みを持ち続けているのかについて、客観的に認識できるようになります。

比較してもらった後に「これから何を選択しますか?」と問いかけます。

「損していること」を選択し続けるのか?「得していること」を選択し続けるのか?じっくりと自分と向き合ってもらうのです。

その際、「損し続けるのはよくないだろ」と上司が誘導するのはダメです。

あくまで本人が自分で考えて選択することがとても大切です。

どちらを選択したとしても、本人が納得して選択することが大事です。

この選択のプロセスは、心の断捨離です。

心の断捨離を行うことで、精神的な負担を軽減することにつながるのです。

私は管理職のクライアントの方に、この思い込みを軽減するフィードバックの手法を職場で使ってもらうことが多いですが、ほとんどの場合、部下の精神的な負担を軽減させることができたといって驚かれます。

ネガティブな思い込みがどれほど心の余裕を奪っているかを痛感されるのです。

心に余裕がなくなると、様々な負の影響を及ぼします。

生産性の低下、人間関係の悪化、自己嫌悪、ひどい場合には自ら命を絶ってしまうような事態も起こりえます。

張り詰めた風船は、いつ破裂するかわかりません。

もし余裕がなくなったら、スペースが増やせるように、物理的及び精神的な負担を軽減していくことです。

心のスペースをつくることは、部下の能力を発揮させるためにも極めて大事なことなのです。

「未来志向」に切り替える方法

大なり小なり、仕事に困難はつきものです。

困難に直面するたびに、人は大抵、「辛い」、「苦しい」、「逃げたい」という「負の感情」に陥るものですが、中には全く平気な人もいます。

困難に強い人のことを「レジリエンスが強い」といったりします。

レジリエンスとは、もともとは物理学の用語で「外力による歪みをはね返す力」を指し、転じてビジネスシーンでは、「困難に直面しても、へこまずに乗り越えられる力」のことを意味するようになりました。

レジリエンスが強い人は、「良いところに意識を向けている」ことに特徴があります。

失敗に出くわしても、「失敗は成功のもと」と柔軟に考えて、気持ちを切り替えることができます。

反対に、レジリエンスの弱い人は、「悪いところに意識を向ける」ことが特徴です。

柔軟に考えることが苦手で、気持ちの切り替えが上手くできません。

レジリエンスの話をするときによく持ち出される理論に「ABC理論」があります。

ABC理論とは、出来事(Activatingevents)が起こると、その出来事に対して、良いことなのか悪いことなのかといった特定の解釈がなされます。

仮に悪いことだと解釈されたら、悪いことだと信じてしまいます(Belief)。

そのように信じた結果として、「楽しい」、「辛い」などの感情が起こり、その感情から特定の行動・結果に至る(Consequence)という理論です。

つまり、同じ出来事だとしても、「解釈次第で受け取り方は変わる」ということです。

上司から叱られたとき、「上司に嫌われた」と解釈して、ネガティブな気持ちになる部下もいれば、「上司がちゃんと見てくれている」と解釈して、前向きに頑張る部下もいるということです。

ABC理論を持ち出さなくても、「裏と表」、「短所と長所」など物事には二面性があることは、多くの人が知っています。

まさに「物事は捉え方次第」なのです。

こちらの図形を見てみてください。

どちらの円が気になるでしょうか?

おそらく、右側の「欠けた円」のほうが気になるはずです。

人間の脳は「欠けた部分」に意識が向けられるようになっています。

「問題のないこと=欠けていない」は放っておいて大丈夫だけど、「問題があること=欠けている」は、すぐにでも問題がなくなるように対処したくなる(欠けた部分をなくしたい)ということです。

意図的に「フォーカス」を変える

レジリエンスの強い人は、「良いところに意識を向ける」のが特徴とお伝えしました。

なので、意識の焦点(フォーカス)を変えることができれば、困難に直面しても平然と対処できるということになります。

フォーカスを変えるには、「質問によって脳に空白をつくること」です。

たとえば、今ここで一瞬のうちに、あなたのフォーカスを変えることもできます。

次の文を見てください。

「あなたは今朝、どんな朝食を食べましたか?」今朝食べた朝食が頭に浮かんだはずです。

全く脈絡のない質問ですが、質問をするだけでフォーカスは変わってしまいます。

このように、質問を使うことで、どんな方向にもフォーカスを向けることはできますが、困難を乗り切るには、どのような視点で質問を投げかけるかが重要な鍵となります。

その答えは、「未来志向」の視点です。

未来志向とは、ネガティブな状態に留まらないで、理想の未来へと導く羅針盤です。

たとえば、「この困難を乗り越えたら、どれだけ成長していると思う?」のように、困難を乗り越えた「未来」をイメージして、フォーカスを変えるのです。

脳科学の分野でも言われていますが、脳は「現実」と「想像」を区別できません。

たとえば、酸っぱいレモンを丸かじりしているところを想像してみてください。

口の中が酸っぱくなり唾液が出てくるなどの身体反応が起こるはずです。

実際にレモンはかじっていませんが、本当にレモンをかじったときと同じ身体反応が起きるのです。

つまり、脳は現実と想像を区別できないということです。

この脳の特徴を上手く活用したのが、「未来志向のフィードバック」です。

困難を乗り越えた自分を想像してもらうことで、脳は「想像=現実」の状態を作り出します。

つまり、「できていることが普通」という感覚を作り出せるということです。

「できていることが普通」というのは、未来の先取りです。

困難を乗り越えている未来の自分の姿をイメージすることで、困難を乗り越えられるという感覚が湧いてきます。

私は、クライアントの経営者や管理職の方々が困難に直面されたときには、フォーカスを変えてもらうように「未来志向のフィードバック」を必ず行いました。

そのおかげで、「倒産寸前の状態から立ち直った会社」、「5年先の夢を3ヶ月で実現した起業家」、「コロナで事業が衰退しかけた状態から、新規事業で売上を回復した会社」など、困難を乗り越えた事例が多くあります。

未来志向のイメージが、困難を乗り越えるための行動を促してくれるのです。

困難は避けることができません。

幾度となくやってくる困難を成長の機会と捉えて、未来志向で乗り越える。

未来志向の視点を持つことが、レジリエントな部下を育てることにつながっていくのです。

明確になれば、不安は消える

人は不安な状態になると動けません。

不安になると、能力も発揮できず、パフォーマンスも落ちます。

強い不安が続くと、心身にも支障をきたします。

私が独立起業して2年目のことです。

初年度よりも業績を上げようと、新しい事業のプロモーションを始めました。

最初は少しだけ上手くいったのですが、その後はどれほど努力しても上手くいきません。

広告費はどんどん膨らんでいき、不安も増大していきました。

もう後に引けなくなって、最後の一発逆転を狙って、広告費をさらに投入し、大掛かりなプロモーションを仕掛けました。

一生懸命に頑張りましたが、たった1件の契約が取れただけで、最後は数百万円の借金を抱えることになったのです。

目の前が真っ暗になりました。

「再就職せざるを得ないかもしれない……」先が全く見通せなくなり、強烈な不安に襲われて、私はしばらく動けなくなりました。

あのとき感じた不安は今でも鮮明に覚えていますが、二度と経験したくはありません。

そもそも人はなぜ不安になるのでしょうか?プロコーチとして長年、多くのクライアントの不安を解消してきた経験から言えるのは、「見えない」あるいは「わからない」といった状態に陥ると、人は不安を感じやすいということです。

事業に失敗して、これから先が見通せないと不安を感じます。

視界不良の霧の中を歩かなくてはならない不安と同じです。

私が事業に失敗してしばらくの間、動けなくなったのは、霧の中を彷徨っている感じになり、進むべき方向が見えなくなってしまったからです。

一方、もし事業に失敗しても、先を見通すことができて、どう対処したらいいかもわかっていれば、それほど不安を感じることはありません。

つまり、「視界良好になれば、不安はなくなる」のです。

その後、私が強烈な不安から立ち直って、今の自分があるのは、先の見通しが立って、進むべき方向が明確になったからです。

「明確化のフィードバック」で不安を軽減する

経験の浅い部下は、「仕事の内容がよくわからない」、あるいは「どう実践したらいいのかわからない」といった「わからない」不安に直面します。

この「わからない」という状態は、霧が立ち込めて周りがよく見えない視界の悪い状態と同じです。

霧の中ではどっちに進んだらいいかわからないので、とても不安になるのです。

この霧のような状態をなくして、視界良好の状態をつくれば、部下は目指すべき方向に向かって進むことができます。

実は「わからない」には、2つの種類があります。

「知っているかどうか?」の「わからない」と、「複雑で理解できない」の「わからない」です。

前者は、必要な知識を与えるだけで対処できるので簡単ですが、後者は理解できている部分とそうでない部分を分解していく必要があります。

ここでは後者の例を取り上げます。

まず最初に「分ける」ということから始めます。

「分ける」というのは、「理解できているところ」と「理解できていないところ」を明確にする、ということです。

たとえば、部下が仕事のやり方がわからないで不安になっているとしたら、「どこまで理解できていて、どこから理解できていないか聞かせてくれる?」と問いかけ、理解できている部分とそうでない部分を明確に区別させるのです。

理解できていない部分が明確になれば、その部分に集中して理解できるように対処できますので、視界不良の状態が改善されていきます。

次のステップは、理解できていない部分にフォーカスして、さらに理解できるには何が明確になったらいいのか?をどんどん明確にしていきます。

具体的には、「何が明確になったら、理解できていない部分が理解できるようになりますか?」と問いかけます。

そうするとたとえば、「契約交渉に必要なプレゼン資料の使い方が明確になれば、交渉を進められます」のように、明確になっていない部分が特定されていくので、視界がどんどん開けてきます。

視界が開ければ、不安も同時に軽くなり、行動していけるようになります。

「明確さは力」なのです。

世の中のニーズが多種多様化するのに伴って、仕事の内容もより複雑になっています。

複雑になればなるほど、理解するのは難しくなります。

デカルトは「困難は分割せよ」と説き、ビル・ゲイツは「困難は切り分けろ」と唱えました。

複雑に思えるものでも、実は単純なものの集合体にすぎません。

「わかる」は「分かる」と書きます。

「分ける」ことで物事は明確になり、理解できるようになるのです。

私が銀行員だった頃、上司から「なんでそんなこともわからないんだ!」と何度も言われたことがあります。

「自分は本当にバカなんじゃないか?」と自信を失い、どうしていいのかわからず本当に不安な毎日を過ごしていました。

そんなとき、ある先輩が「全部一気に理解しようとするから、わからなくなるんだよ。

分解して一つひとつ理解すれば、わかるようになるよ」と教えてくれたのです。

私は、その言葉で本当に救われました。

今までできなかった複雑な仕事が、驚くほど簡単にできるようになったからです。

部下は常に何らかの不安にさらされています。

部下が不安という霧の中で彷徨っていたら、視界を切り開くきっかけを与えてあげてください。

視界良好な状態をつくるのは、上司の大切な役割でもあるのです。

コラム上司なら知っておきたい「3つの傾聴レベル」

フィードバックの効果を高める上で、絶対に欠かせないのが、「聞く力」です。

本章でも随所で聞く力の大切さについて触れていますが、今回は、聞く力を高めるうえでとても大切な傾聴スキルについて解説します。

信頼できる上司の特徴として、常に上位に挙げられるのは、「聞く力が高い」ことです。

一方、話を聞かない上司に不満を持っている部下は多く、しばしば職場コミュニケーションの大きな課題として取り上げられます。

上司としては部下のことを聞いているつもりなのですが、実際には聞けていない上司が非常に多いのです。

聞けているようで聞けていない本当の理由は、自分に意識が向いているからです。

次の会話の例をみてください。

部下「課長、今お時間いいですか?」上司「何?」部下「実は今度の契約交渉の進め方でちょっと悩んでいます」上司「そうなの?これまでどおりの進め方でいいんだよ。

悩むことじゃないよ」部下「はい……。

そうですか……」この例では、「これまでどおりで済むa話」、「悩むことじゃない」と勝手に解釈し、自分に意識が向いた聞き方になっています。

これでは話をちゃんと聞いてもらったと部下は感じることができません。

上司としては、部下の話を聞いたつもりでも、部下は本当に話したかったことをちゃんと聞いてもらえていないのです。

対話そのものが中途半端なやり取りになってしまっているので、上司からのアドバイスが適切なのかどうか不安にもなります。

実は、聞くには「3つの傾聴レベル」があります。

この「3つの傾聴レベル」は、私が最初に学んだコーアクティブコーチングのスキルに由来するもので、私の聞く力を劇的に高めてくれてた傾聴スキルです。

まず最初に「内的傾聴」(レベル1)について説明します。

内的傾聴(レベル1)は、相手の話を聞いてはいるものの、話の内容が自分にとって何を意味するかに意識が向いている状態の聞き方です。

相手から言葉としての情報は入ってくるものの、自分の考え、意見、判断に意識が向いています。

普段、ほとんどの人は、この内的傾聴で人の話を聞いています。

ある意味、自分本位な聞き方ですので、自分にとって話の内容が「メリットがない」、「関心がない」と思ったら、適当に聞き流したり、話を遮って話題を変えようとします。

一方、内的傾聴が効果的な場合もあります。

それは自分自身と向き合い、自分の心の声を聞くような場合です。

「自分が本当に大切にしたいことは何か?」「自分は本当はどうしたいのか?」このように自分に質問を投げかけて、自分の本心と向き合うような場合、内的傾聴を使います。

相手に意識を向ける聞き方相手に意識を全集中して聞く方法を「集中的傾聴」(レベル2)と言います。

集中的傾聴では、相手の話の内容(言語メッセージ)だけでなく、顔の表情、声のトーン、体の動きなどの非言語メッセージにも意識を向けます。

また、「相手を評価判断せず、自分勝手な解釈をしないでありのまま聞く」ことがとても大切です。

評価判断や解釈しようとすると自分に意識が向いた内的傾聴になるからです。

先の会話例を集中的傾聴のパターンに変えると次のような感じです。

部下「実は今度の契約交渉の進め方でちょっと悩んでいます」上司「そうか、悩んでるんだね。

具体的に話してくれる?」部下「はい。

実は契約相手方の態度に気になるところがありまして……」上司「君の表情を見てると、ちょっと厄介そうだね?」部下「はい。

厄介かもしれません……今になって契約内容にクレームがあると」上司「君の声からも伝わってくるよ。

ちなみに対策案はある?」部下「はい。

自信はありませんが、一応考えています」上司「素晴らしい。

聞かせてもらっていいかな」部下「はい!ありがとうございます」この対話では、上司は部下の言語メッセージだけでなく、「君の表情を見てると……」「君の声からも……」というように非言語メッセージにも意識を向けて聞いています。

また、自分から意見やアドバイスを一切いうことなく、相手に意識を向けながら傾聴し、部下自身の考えも引き出そうとしています。

これが集中的傾聴です。

プロコーチも使っている最高レベルの傾聴法最後は、「全方位的傾聴」(レベル3)といわれる聞き方です。

この聞き方は「環境的傾聴」とも言われますが、相手に意識を集中するだけでなく、部屋の温度や湿度や明るさ、かすかな空気の流れ、場の雰囲気等、自分と相手を取り巻く360度の全方位に意識を集中する聞き方です。

耳で聞くというよりも、体全身で聞くというほうが正確かもしれません。

プロコーチでも全方位的傾聴を使いこなせる人は多くないので難しいかもしれませんが、全方位的傾聴で聞かれた相手は、全身を包み込まれるような感覚になったり、お互いの心が完全に通じ合ったような感覚になったりします。

実際、私が主催する講座で受講生の方にこの全方位的傾聴を実践してもらうと、聞かれた相手だけなくコーチ役の方も感動して涙を流されることが多々あります。

オープンな職場で「全方位的傾聴」を実践するのはハードルが高いと思いますので、「1on1」の場など、二人だけの対話に集中できるような環境で試して

みられることをお勧めします。

これまでとは全く次元の異なった深いレベルの傾聴が可能となり、部下との信頼関係を築く上でも高い効果を発揮することでしょう。

 

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