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第3章「アート作品」は「事実」と「解釈」を分けて鑑賞する

目次

「アート作品」をしっかりと見るとはどういうことか?

「アート作品をしっかりと見る」ためには、「解釈」と、その根拠になった「事実」を結び付けることが重要になります。

「事実」と「解釈」という言葉を定義すると、次の図のようになります。

たとえば『モナ・リザ』であれば、「温和で、優しそうな女性ですね」「美人だから、男性にモテそう」「何を考えているのかがわからなそうで、ちょっと怖い」これらの意見は、「事実」ではありません。

鑑賞者それぞれの「解釈」です。

「事実」と「解釈」の違いについてピンとこない方も多いかもしれませんので、もう少し詳しく説明しましょう。

たとえば、誰かが「今日は暖かい」といったとします。「今日は暖かい」は「事実」でしょうか?それとも、「解釈」でしょうか?答えは、「解釈」です。

なぜなら、そのときの気温を「暖かい」と感じるかどうかの基準が、人によって異なるからです。

「事実」を表す言い方としては、たとえば、「今日の気温は20度です」が挙げられるでしょう。

誰であっても「今日の気温が20度」ということに変わりはないので、「事実」を言い表していることになります。

「今日は、小春日和だね」という表現は、「暖かい」よりも具体的なので、事実のように思えますが、これも解釈です。

発言した人が「小春日和だ」と感じた理由は、「時期が11月頃で、気温は16度前後の陽気だったから」だとすると、その理由のほうが事実ということになります。

では、ここまでの内容を、アート作品を用いて具体的に説明しましょう。

みなさんは、次の作品を見て、どう思いますか?

私が行っている研修では、次のような意見がよく出ます。

「怒っているように見える」「たくましい身体つきをしていそう」「どこか不満気に見える」これらの意見は、「事実」でしょうか?それとも、「解釈」でしょうか?答えは、すべて「解釈」です。

この作品から、「解釈」の根拠となった「事実」を取り出すとすれば、次のようになります。

「眉間にしわが寄っている」「太い首をしている」「下唇が突き出ている」「事実」を取り出すとは、「作品を言葉で描写する」ともいえます。

作品の内容を「言語化」するといってもよいでしょう。

最初は、直感を大切にしながら、作品について考えます。

「好き」「嫌い」という第一印象でもかまいません。

その次に、作品が自分にそのように思わせた理由(根拠)を、作品の中から見つけ出すようにしてみてください。その理由(根拠)が、「事実」を取り出すということになります。

作品を見て感じたこと(解釈)について、一度立ち止まって、それが「事実」に基づいているか、考えてみることが大切なのです。

作品の中にある「要素」から、「解釈」を積み重ねる

「事実」に基づいて「解釈」を導き出し、作品の中に含まれている要素を取り出していくことを「ディスクリプション(記述)」といいます。

鑑賞を深めていく足がかりとして、まずはディスクリプションによって、できる限り作品から要素を取り出すことが重要です。

ここでは、もう一度、さきほどのアート作品を用いて説明します。

この作品の場合、たとえば、次のような要素が出てきます。

  • 「眉間にしわが寄っているので、怒っているように見える」
  • 「下唇を突き出して、不満を抱えているように見える」
  • 「目がくぼんで影が入り、目線が右上にあるので、睨みつけているように見える」
  • 「目線が上にあり、何かを見据えているようなので、意志が強そうに見える」
  • 「首が太く、身体もたくましそうなので、力強い兵士に見える」
  • 「額や頬のしわが深いので、40代以上くらいの人に見える」

このように、様々な要素を取り出すことができたら、次にそれらの要素を「重ねていく」ことで、そこから新たな「解釈」を導き出し、鑑賞を深めていきます。

「要素を重ねる」とは、「『要素』同士をつなぎ合わせる」ということです。

たとえば、「意志が強そうで、力強い兵士のような人ということは、軍隊を統率するリーダー的な人なのだろうか?」「不満を抱えて怒っているリーダーということは、組織全体や国の統治者に対して怒りや不満が向けられているのだろうか?」などが挙げられます。

要素をつないで「解釈」を積み重ねていくと、徐々に「この男性は、どういう立場や職業の人なのだろう?」というように、「人物像」にスポットが当てられていくのがおわかりいただけると思います。

ほかにも、たとえば「疲れ」「悲しみ」「悩み」などといった要素が生まれることもあります。

新たな要素が生まれたら、それまでに出た要素とつなぐことで、さらに「解釈」を発展させていくことができます。

要素を取り出す際、1つの「事実」から複数の「解釈」を導き出すことも重要です。

たとえば「眉間にしわが寄っている」という事実からは、「怒っているように見える」以外にも次のような「解釈」が考えられます。

「何か考えごとをしている」「痛みに耐えている」「まぶしそうに見える」こうして1つの「事実」から複数の「解釈」を導き出すことによって、作品に含まれる要素をよりたくさん取り出すことができます。

そうすることによって、より作品鑑賞を深めることができるようになるのです。

なお、「解釈」の重ね方については、アート作品を「区切って見る」「要素を組み合わせる」など、第5章の実践編であらためて詳しく説明します。

アート作品を「言葉」で描写してみる

アート作品をよく見るためのトレーニングとして、ブラインド・トークという方法があります。

初めに、アート作品の前で2人1組のペアになって、「話し手」と「聞き手」に分かれます。

「聞き手」は、作品を見ないように、アイマスクなどで目隠しをします。次に「話し手」は、「聞き手」に向かってどんな作品なのかを口頭で伝えます。

「話し手」の説明が終わったら、今度は「聞き手」が目隠しを外し、自分が聞いた内容からイメージしたものと、実際の作品が合っているかどうかを確認します。

多くの場合、「聞き手」が想像した作品のイメージと、実際の作品の間にはズレが生じます。

「話し手」と「聞き手」の両方を経験しながら、ズレが生じる原因を明らかにしていくことで、自分の描写の精度を高めることができるのです。

たとえば、みなさんだったら、次に掲げる作品を見ていない人にどのように説明しますか?

中央に描かれている椅子を説明するときに、「椅子」とだけ伝えたとしても、相手は、その姿や形まで正確にイメージすることはできません。

椅子には、ロッキングチェア、ダイニングチェア、スツールなど、たくさんの種類がある上に、使われている素材もそれぞれ違います。

作品を見ていない人に作品を伝えるには、描かれている「事実」をできるだけ具体的に描写する必要があるのです。

ブラインド・トークを行ってみると、想像以上に作品を言語化することは難しいことがおわかりいただけると思います。

[こちら]と[こちら]『MarbleportraitoftheemperorCaracalla』メトロポリタン美術館所蔵[こちら]フィンセント・ファン・ゴッホ『ファン・ゴッホの椅子』ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵

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