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第3章「どう(How)」すり合わせるか──しゃべってもらうスキル

目次

第3章「どう(How)」すり合わせるか──しゃべってもらうスキル

なぜ、しゃべってもらうのかしゃべってもらうスキル①相手の話に反応する

しゃべってもらうスキル②相手の話を返す相手の話への3つの返しポイント「ついしゃべってしまう」の構造──話を返す具体例しゃべってもらうスキル③相手に質問する「具体的には?」──「ほかには?」──質問するときのコツ①相手に合意を取る質問するときのコツ②詰問を探求に変える3つの「感」

第3章「どう(How)」すり合わせるか──しゃべってもらうスキル

なぜ、しゃべってもらうのか前章では9ボックスを活用して「何を(What)」すり合わせればいいのかについて、その全体像を見てきました。

ここからは、そのテーマに関する諸認識が「どう(How)」したらすり合っていくのかについて見ていきます。

対話により諸認識をすり合わせるためには、お互いに持っている情報や意見や思いを外に出す必要があります。

それも、相手がまだ知らない情報や伝わり切っていなかった意見、さらに自分でも気づいていなかった思いなどに気づいて認識のすり合わせができたら、非常に価値がある時間と感じるはずです。

そこで、部下に「しゃべってもらう」ことが重要になります。

その理由は3つあります。

1つ目は、部下自身に気づきが生まれやすくなることです。

数回対話をして、2人にとって新たな情報がそれほどなくなってきたとします。

そこから、新たな情報を求める先は部下の内側です。

まだ部下が言語化できていない感覚を言葉にするのを支援したり、新しいアイデアが思いつくように、まず部下にたくさんしゃべってもらうことが大切です。

人間は、思っていることを口に出すことによって、正誤を確認したり、思いを明確にします。

また、しゃべっているうちに、「そうだ、そうだ」と過去のことを思い出したり、いわゆるシナプスがつながって新しいアイデアも出てきやすくなるのです。

このような新しい認識がすり合うことで、部下の成長促進やモチベーションアップにつながります。

2つ目は、部下の本音が出てきやすくなることです。

これは1on1において、上司がうまくいっていないと感じる項目によく挙がります。

「部下が本音を話してくれない」というものです。

しかし、人間の本音というのは、パッとすぐに出てくるものではありません。

前述の通り、たくさんしゃべっているうちに「実は……」「そういえば……」と、自分でも意識できていなかった本音に気づくのです。

また、本音を言うのは勇気がいることです。

しかし、たくさんしゃべることができるほど部下に安心感があれば、本音も言いやすくなります。

結果、上司に本音が伝わり認識がすり合えば、不安の解消や安心感というモチベーションアップにもつながるのです。

3つ目は、部下のエネルギーが高まることです。

しかし、1on1が終わった後によくある光景はこの逆です。

つまり「上司のエネルギーだけが高まっている」ことが多いのです。

なぜかというと、上司が普段思っていることを部下にたくさんしゃべるからです。

しかも、良かれと思って、指摘やアドバイスなどの正論を話します。

するとしゃべっているうちに、今度は上司がいろいろ思いついて話が止まらなくなるのです。

結果、上司はスッキリしてエネルギーが高まります。

つまり、しゃべることでエネルギーが高まるのです。

一方、聞いているだけの部下は疲れて、エネルギーがしぼんでいきます。

もう上司と対話したいとは思わなくなるでしょう。

ですからこれとは逆に、部下にしゃべってもらうことで、部下のエネルギーが高まり、「また上司と話そう」というモチベーションアップに

つながるのです。

このように本書では、しゃべってもらうことの意図を、気づきを促したり、本音を誘発したり、エネルギーを高めることに置いています。

自分が聞きたいことをむやみに、質問しまくるということではありません。

相手のペースを尊重して、相手が話したいように話してもらうことが大切です。

ここからは、相手にしゃべってもらうスキルを、3つのアクションに分けてご紹介します。

しゃべってもらうスキル①相手の話に反応する②相手の話を返す③相手に質問するこれらを、1つひとつ順を追って見ていきたいと思います。

しゃべってもらうスキル①相手の話に反応する相手の話に反応することの重要性について、こんな場面を想像してみてください。

部下が上司に業務の相談をしています。

一生懸命に上司に問題の状況を説明しているのですが、それを聞いている上司は、指を額に置いて考えるポーズのままピクリとも動きません。

反応のない上司に対して説明する部下は、不安になって声のトーンが落ちていきます。

そしてポツリとこう声をかけます。

「聞いてくれてますか?」これに対して上司はこう答えます。

「うん、聞いてるよ。

答えを考えてるんだ」上司は部下の話を聞きながら解決策を考えているのです。

実はこういった場面は非常に多くあります。

話を聞きながら外に向けて反応するのではなく、自分の内側で思考してしまうのです。

しかし、話す方は聞き手の反応がないと、思考が停止してしまうのです。

実際に、これと同じ経験をした部下の方はこう話してくれました。

「話さなければならない最低限のことしか思いつかない」続けてこう言います。

「逆に、話しているときにうなずきや反応があると、自分の言いたいことが湧いてきて、新しいアイデアが思いついたりします」つまり、相手の反応があるとしゃべりやすくなるのです。

とくに昨今はオンラインでのミーティングが増えてきました。

オンラインでは、リアルに話しているよりも五感情報が少ない分、相手の反応が薄く感じます。

実際、私がオンラ

イン研修を行う際、何度も「聞こえてますか?」「理解できてますか?」と、受講生に反応を促す質問をすることがあります。

通常の研修ではほとんどそのようなことはありません。

ですから、オンラインで対話をするときには、相手にしゃべってもらうために、いつも以上に大きく反応することが必要です。

では、相手の話に「反応する」とは、具体的に何を指すのでしょうか。

ここでは、4つのポイントを紹介します。

1沈黙:相手にじっくり考えさせて、自分はゆったりと待つ対話において、良い時間の1つは、相手が黙って思考をめぐらせている時間です。

このとき人は、いつもの思考パターンではないやり方で脳内の検索をかけています。

新しい気づきが生まれる可能性があるので、じっくり待つ必要があります。

しかし、上司は沈黙があると、つい自分の考えを述べて沈黙を埋めてしまいがちです。

実際に、この話を聞いて沈黙を意識的に取り入れたあるマネジャーはこう言いました。

「女性スタッフと対話していたときに、沈黙を意識して待っていたら、彼女はこんなことを考えていたのかと驚くほどたくさんしゃべってくれました。

自分がいかに相手の可能性を閉ざしていたのかということに気づきました」私のおすすめは、沈黙している間に一生懸命考えている部下を温かく見守りながら、柔らかく笑みをたたえる「仏像スマイル」でゆったり待つことです。

2うなずき:話のタイミングに合わせてうなずき、リズムをつくる実際に対話する際に一番活用するのは、うなずくことでしょう。

ポイントは、相手の話すリズムに合わせること、一定調子でうなずくのではなく強弱をつけることです。

大事なところで小刻みに2、3度うなずいたり、共感が高いときには深く1回うなずくのもいいでしょう。

このようにメリハリをつけることで、相手は話をしっかり受け取ってもらえていると認識して安心感を得て、他の考えに移行できるのです。

とくに、オンラインでの対話のときには重要で、あいづちなどの声が聞こえると邪魔になる場合があります。

聞いているときはミュート(消音)にしていることも多いと思いますので、うなずきが相手のしゃべりを誘発する大きな要素になります。

3表情:自然な笑顔・口角を上げて、目じりを下げるイメージ人の脳内にはミラーニューロンという神経細胞があるといわれています。

この働きにより、まるで鏡を見ているように、他者の言動があたかも自分の言動のように思えたりします。

たとえば、相手が笑っていると自分も笑顔になってくるなどです。

逆に言うと上司が硬い表情をしていると、部下も硬くなってしまいます。

実際、上司の表情はその場にいる人に対して絶大な影響を与えます。

ですから、場の雰囲気をコントロ

ールするマネジメント資源として、自覚的に表情を活用してほしいのです。

そういう意味では昨今のオンラインミーティングは絶好の練習機会を与えてくれます。

自分の顔が常に見えていますので、自分の表情が自分の思った通りに動いているのかチェックして練習していきましょう。

4あいづち:相手の話に調子を合わせて言うちょっとした言葉対話をしているときに、ちょっとした合いの手を入れることで、相手は自分の話に関心を示してくれていると感じて、自信を持って次の話に進めるようになります。

これもうなずき同様にポイントは、タイミングと強弱などのメリハリです。

たとえば、私のカウンセリングの師匠は100の「へぇー」を持つ男といわれるほど、「へぇー」だけでも音の高低や厚み、長さなどさまざまなバリエーションを持っていました。

そうすると、話す方はものすごく聞いてもらっている感覚になります。

あとは、「それいいね」「おもしろい」など肯定的な言葉をしっかり言葉にして返すことです。

ポイントは、嘘をつかないことです。

ごく自然に、一見普通のことでも、少しでもいいと感じたらそれを言葉に出すようにしましょう。

例)「へぇ」「ふーん」「ほぉ」「そうかー」「本当に?」「なるほどー」「おもしろい」「それはいいね」「そうなんだ」これらの反応を、カウンセリングでは「受動的傾聴」といいます。

相手の話をさえぎらずに受容的な態度で黙って聞くことです。

ただ、この「傾聴」という言葉は少し誤解を招く言葉なので、私は傾聴という言葉をあまり使いません。

一般的に傾聴と聞くと、傾けて聴くと書くので、「真剣に聞く、丁寧に聞く」という認識でいる人が多いと思います。

実際、研修でマネジャーの方に1on1において「傾聴をしていますか?」と聞くと、皆「している」と答えます。

なぜなら、真剣に聞いているからです。

しかし、このときのマネジャーの意図は、「自分がちゃんと理解すること」にあります。

そのために真剣に聞くのです。

では、自分がきちんと理解しようとして聞くと何が起こるでしょうか。

それは、反応がなくなるのです。

なぜなら、話を聞いて問題解決しようと、内側に思考してしまうからです。

たとえば、会議の場面を想像してみてください。

自分が発言しているときに、出席者は自分の話にうなずいたり、笑顔で聞いてくれているでしょうか。

目の前のレジュメやPCを凝視してあまり反応がないことがほとんどではないでしょうか。

ですが、聞いてはいます。

ところが、このような聞き方だと、表面上は無反応になりがちで、話し手はものすごくしゃべりづらいのです。

傾聴するのは、自分が理解するためではなく、相手にしゃべってもらうためです。

そのために、相手の話に反応するのです。

1つひとつはちょっとしたことですが、このちょっとを大事にするだけで、相手が創造的に話し始めたり、本音を語ったり、エネルギーが高まっていくのです。

しゃべってもらうスキル②相手の話を返す先述の通り、相手のために話に反応することはベースとして行ったうえで、さらに相手の気づきを促したり、本音を誘発したりするために行うことがあります。

それは、相手の話を相手に返してあげることです。

とくに、相手が話している中でキーとなる重要なポイントや、大きく気持ちが入っている、あるいは気になっている大事なポイントを、「○○なんですね?」というように相手に返します。

カウンセリングではこれを「能動的傾聴」と呼びます。

これには一体どのような効果があるのでしょうか。

まず、話し手としては、自分が発した言葉が相手から返ってくるので、「聞いてもらえている」と感じられて安心して話を進めることができます。

とくに、相手の内面のことをじっくりと対話する場面で効果を発揮します。

たとえば、問題を起こしたAさんが部長に呼び出されてお説教された後、自分のデスクに戻ってきました。

そのことを、直接の上司の課長に報告する場面です。

Aさん「さっき、部長に呼ばれて2人でみっちり、説教受けたんです」課長「えっ、部長と2人で?それもみっちりか」───(ポイントを相手に返す)Aさん「そうなんですよ(うなだれている様子)」課長「こたえたみたいだね。

大丈夫?」───(相手の言葉になっていない気持ちも返す)Aさん「本当に、こたえました。

心配いただきありがとうございます。

でも、良かったと思ってるんです。

というのは……」───(状態をわかってもらえていることで、安心して次のステップに進める状態になって話が湧いてくる)一方、話を返してもらえないと、どうでしょうか。

Aさん「さっき、部長に呼ばれて2人でみっちり、説教受けたんです」課長「うん」Aさん「(『うん』って課長は、この状況をわかってくれているのだろうか?)結構、話が長かったんですよ」課長「部長は昔からそうで、俺は半日くらい説教とかしょっちゅうされてたから」───(相手の話を受けて、自分の話をする)Aさん「あ、そうなんですね……」───(自分の大変な状況をわかってもらえなくて、その後の話ができなくなる)このように、自分の話を受けとめてほしい場面において、話を返してもらえると聞いてもらっている安心感とともに、話がどんどん湧いてくるのです。

相手の話への3つの返しポイントさらに、具体的な相手の話への返し方について見ていきたいと思います。

実際に、聞き手は相手の言葉を切り取って返していくわけですが、話の「どこ」を返すか、「どう」返すのかで、その目的や効果が変わってきます。

これを、現場ですぐに使える形に3つにまとめました。

次の図31はその効果とポイントです。

これに沿って、順に見ていきましょう。

1共感の返し1つ目は「共感」の返しです。

相手が感情的なとき、つまり怒ったり、悩んでいるようなときに、感情を合わせていくことで信頼関係を高める効果があります。

課長(部下)「結構意識しているんですが、年上の部下に厳しい言い方ができなくて、本当に困っているんです」部長(上司)「その様子だとかなり困ってるみたいだね。

年上の人に厳しく言うのは本当に大変だよね」ここでの返しのポイントは2つあります。

まず、「私もそう思う」という短絡的な同感を示すのではなく、相手の言い方や表情といった言葉以外から感じられる状態を正確に描写することです。

つまり、「その様子だとかなり困ってるみたい……」というのは、「大変そうな様子が伝わっているよ」という相手へのメッセージになります。

次は、感情には感情で返すということです。

相手の「困る」という言葉を返すのに、棒読みで「たいへんでこまるよね」と言われたら、相手は「本当にわかってくれてますか?」と疑問に思います。

相手の感情の部分を返すとき、切り取る言葉以上に大事なのは、相手と感情を同調させることなのです。

そうすると、相手は「わかってもらえた」「理解してもらえた」と安心することができます。

カウンセリングの場面ではこれを丁寧に行いますが、ビジネスの現場ではおろそかにされがちです。

ですから逆に言うと、ここに意識を少し向けるだけでも効果は絶大ですし、これが少しでもできるマネジャーはこれから大変重宝されるでしょう。

2整理の返し2つ目は「整理」の返しです。

相手が早口で話の展開が速いときや、丁寧に話を進めたいときに活用します。

「つまり、○○ということ?」「〇〇というと?」などのように、要約や確認を行い、相手の話を整理していくことで、気づきを誘発します。

部下「結構意識しているんですが、年上の部下に厳しい言い方ができなくて本当に困ってるんです」上司「なるほど。

そう意識してるんだね。

ちなみに厳しい言い方っていうのは?」部下「厳しい……というより、自分が思っていることをはっきり伝えたい、ですかね」上司「自分が思っていることが相手に『伝わらない』ことがすごく困ることなの?」部下「伝わらないというより、あっ、その前ですね。

そもそも、自分が思っているこ

とを言えてないっていうことです」───(気づき)この事例では、部下が最初は厳しい言い方ができないことが問題だと思っていましたが、言葉を整理していくことで、自分が思っていることを言えていないことが問題だと明確になっていきました。

このように、キーになりそうな言葉を切り取って、その人なりに言葉や意味を整理するときに効果があります。

というのも、私たちは、いつも話をしている決まった内容については理路整然と話せますが、対話しながらその場で思いついたことを話すと、その内容は非常に曖昧になりがちです。

そのうえ、話のテーマがモヤモヤと悩んでいることであれば、まだ考えが明確になっていないでしょう。

発話してみて、その言葉を相手に返されて整理されながら、自分の中で考えがクリアになっていくのです。

つまり、話しながら内省する状態になります。

そこから自分の考えを改めて深く理解できたり、新たな気づきが生まれたりするのです。

3肯定の返しと反転の返し3つ目は、「肯定と反転」の返しです。

肯定も反転も、相手の話を元に加工して返していきます。

そうすることで、相手の思い込みに対して、新しい意味を見出してもらいます。

肯定は、相手の話の肯定的な側面に焦点を当てて返すことです。

とくに相手の良い部分については、強調、あるいは声のトーンを高めるなど、増長して返してあげるようにします。

そうすることで、相手の認識以上に良いことなのだという意味を伝えます。

反転は、「リフレーミング」とも呼ばれ、相手の言っていることを別の側面から見て伝えることです。

たとえば次のようなイメージです。

相手「マネジメントが全然できてないんです」自分「全然できていないのか。

ちなみに、マネジメントっていうのは?」───(整理)相手「うーん、1on1もスキップしてますし、じっくり話ができてないですね」自分「なるほど。

逆に言うと1on1ができてないだけで、他はできてるところあるっていうこと?」───(反転)相手「まぁ、そりゃできているところもありますよ」自分「なんだ、うまくいってるところもたくさんあるんじゃない」───(肯定)このように反転と肯定の返しをすることで、「マネジメントが全然できていない」という思い込みから「マネジメントができている」という逆の認識に立つことができます。

そのうえで、まだできていない一部の課題に対して、前向きに取り組む状態をつくることができるのです。

「ついしゃべってしまう」の構造──話を返す具体例今まで見てきたように、相手の話を返すことで、相手は「つい」しゃべってしまうのです。

これは、どのような構造かというと、次の図32のように、話し手が自分でもまだ見えてない無意識領域に、どんどん虫食い穴が開いていく状態です。

Aさん「昨日、部長に呼ばれて2人で話したんですよ」課長「えっ、部長と2人で話したの?」Aさん「そうなんですよ。

そうしたら、やっぱりいろいろ詰められて、もう会社辞めたくなりました」課長「えぇっ!そこまで追いつめられたんだ……」───(共感)Aさん「そうなんですよ。

本当に転職も考えたんですけど、今何やりたいのか冷静に考えたら出てこなくて……」課長「そうか、いったん冷静に考えてみたんだね。

そうするといろいろ気づきそうだね」───(整理)Aさん「はい。

冷静になって考えたら、何がやりたいかもそうなんですけど、妻のこととか家のこととか全然考えられていませんでした」課長「あぁ、そうだよね。

自分だけの話じゃないものね」───(整理)Aさん「そうですね。

改めて将来のことをしっかり考えなきゃな、と思いました」課長「たしかに良い機会だから将来キャリアについて一緒に考えていこうよ」───(肯定)Aさん「ありがとうございます。

改めてお話できてスッキリしました」このように、話し手はしゃべっているうちにどんどん思いつきを得ていきます。

そうすると無意識領域が虫食いされていき、それを自分で俯瞰することで「あー、ここが一番気になっていたんだ」と気づくことができます。

また、虫食い穴が開いていくことで、たくさんしゃべることができます。

そうすると「たくさん話せてスッキリした」と、ことさら問題を「解決」しなくても、問題が「解消」されていきます。

逆に言うと、上司がいつもの問題解決モードで接すると、部下が自分で問題を解消させたり、自己解決する機会を妨げてしまうのです。

つまり、じっくり対話する場での上司の役割は、まず部下にしゃべってもらうことで、まだ空白の部下の頭(心)の中に、虫食い穴を開けていくことです。

そこにこそ価値があるのです。

しかし、多くの上司は、部下の話をただ返していくことに価値を見出せず、「上司として何か価値を発揮せねば」とつい上司ばかりがしゃべってしまうという構図になるのです。

今一度、部下にしゃべってもらうことにこそ価値があるということを念頭に置いて、対話をしてみましょう。

きっとマネジメントのパラダイム転換が起こるはずです。

しゃべってもらうスキル③相手に質問するここまでは、相手の話に反応したり、話を返すということを見てきました。

ここからさらに深くしゃべってもらうために質問について見ていきたいと思います。

ここでは各ボッ

クスの奥にある潜在的な部分まで深堀りしていく「具体化質問」と、ボックス内の横に広げていく「拡大化質問」の2つの質問をご紹介します。

「具体的には?」──まずは、具体化質問から見ていきましょう。

人は事実を自分のフィルターを通して認識しています。

たとえば、上司から指摘された事実に対して、Aさんは「わざわざ指摘をしてくれる優しい上司だ」という認識を持ち、別のBさんは「わざわざ指摘してくる面倒くさい上司だ」と認識します。

そして、その認識を無意識に抱えたままコミュニケーションをしていますので、誤解や間違いが起こるのです。

また、自分自身その認識が当たり前だと思って気づいていませんので、認識を変えるのは難しい面があります。

それが、自分の行動に制限をもたらしています。

ですから、その思い込みである認識がどのようにつくられたのか、深掘って確認していくことが必要です。

それが具体化質問です。

具体化質問には、以下の3つがあります。

1促し相手が話したいことを、詳しく話してもらいます。

相手が話すうち、自然と話が深掘りされて具体化していきます。

相手に任せているので、相手に負荷はかかりません。

ですから、話し始めなどまだ対話が温まっていないときに活用するといいでしょう。

例)「もうちょっと聞かせてもらってもいいかな?」「というと?」「それでそれで?」2深堀り質問者が意図的に話を深掘って具体的にしていきます。

答え手にとって回答がまったく浮かばないような質問をすると、場合によっては問い詰められているような印象を与えることもあります。

しかし、深掘りすることを合意できているときには、良い発見がある可能性があります。

例)「具体的に言うと?」「たとえば?」3定義言葉の意味や意図を明確化していきます。

自分が心の奥底で感じていることや経験してきた事実をすべて言葉で語ることはできません。

言葉は五感で感じる情報量に比べて圧倒的に少ないのです。

ですから、少しでも思っていることを正確に、あるいは確信を持って表現できるように後押ししていきます。

例)「あなたにとって、○○ってどういうこと?」「本当に?」対話例1課長(部下)「最近マネジメントに手を焼いていまして……」部長(上司)「そうなんだね。

もうちょっと聞かせてもらってもいいかな?」───(1.促し)課長(部下)「近頃、マネジメントっていうのがよくわからなくなってきたんです」部長(上司)「そうか。

マネジメントってそもそも、課長にとってどんなイメージがあるのかな?」───(3.定義)課長(部下)「面倒くさい、ですね」部長(上司)「なるほど、たしかに面倒なところあるよね」───(共感)「具体的にどんなところが面倒に感じるのかな?」───(2.深堀り)

課長(部下)「調整するためにいろんな人の顔色をうかがうところでしょうか」部長(上司)「ほほぅ。

というと?」───(1.促し)課長(部下)「つい、話しやすい人とばかりコミュニケーションを取ってしまって、話ができていない人とは明らかにコミュニケーションを取りづらいのです。

それで何かにつけ反発してくるので、その人の状態をいちいち気にしなくてはいけなくて……」部長(上司)「ほぉ、なるほど。

話しにくい人がいて、その人への対応に意識や時間を取られてるということかな」───(整理)課長(部下)「まぁ、そうですね。

今一番気にかかるのはそこですね」部長(上司)「なるほど。

じゃあマネジメントというか、その人への対応の仕方について、いろいろ考えてみようか?」───(真の課題設定)課長(部下)「はい、お願いします!(明るい表情)」このように、答えを出さなくても、話を返して具体化質問を行うだけで、最初の認識(思い込み)から真の課題(事実)が見えてきました。

最初の認識(思い込み):マネジメントは面倒くさい真の課題(事実):話しにくい人への対応に意識と時間が割かれているここまで来さえすれば、あとは課題に対して部下の考えを尊重しつつ、お互いの意見を出し合っていけば、自ずと話は解決に向かっていきます。

「ほかには?」──次に、話を広げる拡大化質問について見ていきます。

「相手は思っていることを全部話してくれているのか?」「相手は本音を話してくれているのか?」──対話をしていると、こういった疑問が湧いてきます。

こんなときに活用できる便利な問いかけがあります。

「ほかには?」という言葉です。

この言葉について、1on1ミーティングを戦略的に行ってきたインテル元CEOのアンドリュー・S・グローブ氏は「もう1つ質問する」という表現を使って説明しています。

「ある主題について部下が言いたいことを全部話したと思ったなら、上役はもうひとつ念のための質問をしてみる。

〝双方が〟問題の底にまで達したと満足感を覚えるまで質問を繰り返して、部下を励まし思考の流れを続けさせるようにすべき」(『HIGHOUTPUTMANAGEMENT人を育て、成果を最大にするマネジメント』アンドリュー・S・グローブ著、小林薫訳、日経BP)

対話例2※対話例1の続き部長「さっきマネジメントが面倒くさいっていうイメージがあるというところから深掘りして話し始めたけど、ほかにはマネジメントってどんな感じを受けるかな?」───(拡大化)課長「うーん、そうですね。

苦手意識でしょうか」部長「ほぉー、そういう側面もあるんだね。

苦手意識か……」───(沈黙で待つ。

一緒に探すように)課長「そうですね。

逃げちゃうといいますか……」部長「逃げちゃうというか……?何だろうねー」課長「なんかぼんやりしてて成果が見えづらいんですよね。

結局、チームの目標達成が成果じゃないですか?私が全面的にやった方が成果は上がるからついやってしまうんです。

成果が明確でないものに対して、やる気が湧かないのかもしれないです」部長「なるほどー。

目標達成っていう成果に焦点が当たっているから、その最短距離を行こうとしちゃうんだね。

でも、それ強みだよね」───(整理・反転の返し)課長「まぁそれで結果を出してマネジャーになったということもありますが……ただ、みんなが主体的に取り組んで結果を出すというところに、そろそろちゃんと向き合わなきゃいけないと思います。

同じこと繰り返しているので」部長「うんうん。

そろそろ次の段階にきてるんだろうね。

そのためにどんなところから始めたいと思ってるかな?」───(実際のアクションプランに落としていく)このように、相手の話を返して2つの質問を中心に対話するだけで、事実を俯瞰でき、さらに再認識が生まれました。

最初の認識(モヤモヤ):マネジメントに苦手意識がある事実(具体):成果を出すために、自分が動いて最短距離を取っている再認識(事実を俯瞰):自分がマネジメントに向き合うときがきているこの対話例のように、新たなアクションが生まれたところで対話を終えてもいいと思います。

ですが、ここでさらに質問して掘り下げることで思わぬ収穫につながることがあります。

対話例3※対話例2の続き部長「この機会だからちょっとしつこいかもしれないけど聞いてもいいかな?」

長「はい。

大丈夫です」部長「マネジメントのイメージが、面倒くさい、苦手意識がある、ということだったけど、ほかにどんな意味がありそうかな?」───(拡大化/「どんな意味」という言葉からはポジティブな要素が出やすい)課長「意味ですか……。

やっぱり成長はしますよねー」───(マネジメントにポジティブな意味も含まれていたことがわかる)部長「たしかに成長しそうだよねー。

それってちなみにどんな成長かな?」───(2.深堀り)課長「自分だけのことじゃなくて、人のことを考えられるようになるので視野が広がりますね」部長「うん、絶対に視野は広がるよね。

うん、うん。

ほかにどんな成長がありそうかな?」───(拡大化)課長「うーん……」部長「成長することで視野が広がるし、あとは……(一緒に考えるようにゆっくりと)」───(次の気づきが出てきやすくなるよう、それまでの流れを声に出しながらサポート)課長「なんというか、次の次元に行けるような気がします」部長「おぉ、いいね。

〝次の次元〟かー。

今思いつく次の次元って、たとえばどんな世界?」───(2.深堀り)課長「自分だけの限界というものを感じているので、やっぱり周りを巻き込んで何かを成し遂げられる世界ですかね。

それの自分なりの方法とかパターンを持ちたいですね。

そうすると自信が持てると思います」部長「なるほどー。

自分の限界を超えるってことだね。

そういうパターンをぜひ確立したいね。

そうだとすると、自分の理想のマネジメントに取り組むことって、たとえばどんなことがあるかな?」───(2.深堀り/行動変容への具体化例)課長「やはり、仕事を任せるということをもう少し意識してやっていきたいです」部長「いいね。

じゃあ、その『任せる』を実際にできるように、もう少し具体的な場面で考えていこうか?たとえば、どんなことができそうかな?」───(2.深堀り)このように、話の具体化と拡大化を繰り返すことで、新たな行動変容を起こすことができます。

ここまできたら、出てきたアクションプランについて、上司も意見を加えるなどして、良い対話を行うことができるでしょう。

ここまでの対話例を簡単に振り返ってみると、当初、課長は「マネジメントが面倒くさい」と言っていました。

それを掘り下げただけでは、「マネジメント=面倒くさい」で終わってしまいます。

「ほかには?」と横に広げて、可能性が拡大化したからこそ、3つ目

の「成長」という言葉が出てきました。

私の経験に照らしてみても、3つ目くらいでようやく本音が出ることが多いです。

そして、さらにそこを掘っていくことで、新しいアクションも出てきました。

つまり、たくさんしゃべってもらうから、これらが出てきたのです。

人間が持っている認識や感情は1つだけではありません。

質問の仕方次第で、相手も気づいていない可能性が見えてきます。

しかし、私たちは相手が言っている言葉だけにとらわれてしまい、可能性を広げることがなかなかできません。

ですから、こういった「質問の型」から入ることが重要なのです。

質問するときのコツ①相手に合意を取るこれらの質問を効果的にするコツが2つあります。

まず1つ目は、相手の内面を質問によって深く掘っていくときには、相手の「合意(コンセンサス)を取る」ことです。

合意なしに、質問によって相手が大事している価値観や隠していた感情に、勝手に焦点を向けられると、嫌な気持ちになる場合があります。

相手は「ずけずけと土足で踏み込まれている」と感じるのです。

対話を始める前に「今日は、理想の将来キャリアについていろいろ深堀りして考えていこうと思うんだけどいいかな?」と合意を取るようにすると、相手も聞かれる準備ができてスムーズに進みます。

なぜ、質問されると嫌な気持ちになることがあるのでしょうか。

そのためには、質問の性質を理解しておく必要があります。

質問とは相手の「思考を方向づける」ことです。

たとえば、友人に「どんなタイプの人が苦手なの?」と聞かれたら、苦手なタイプに自分の考えがフォーカスさせられます。

自分は、別にそのことを考えたくなかったかもしれないのに、です。

さらに、質問は思考を方向づけるだけでなく、「答えを要求」します。

もちろん、拒否する自由はありますが、求められているのは答えです。

つまり「どんなタイプの人が苦手なの?」という質問は言い換えると、「苦手なタイプの人を教えなさい」と、暗に言っているのです。

要するに、質問とは体のいい「命令」です。

ですから、我々が自覚しておくべきは、質問の方向によっては相手に辛いことを強いる可能性があるのだということです。

ですから、相手の合意を取っておくことはとても大切です。

質問するときのコツ②詰問を探求に変える3つの「感」たとえば部下の成果が出ていなくて、まだ対策がまとまっていない場合に「先週何やってたの?」「で、これから、どうやって挽回しようと考えてるの?」などと、上司に質問されると、質問が「詰問」と受け取られやすくなります。

しかし、質問している側として

は、詰問したいわけではありません。

質問によって考えて答えてほしいのです。

そもそも質問とは英語で「Question」であり、語源の「Quest」は探求や探索という意味です。

つまり、詰めではなく前向きに探求するのが、本来の質問です。

そのために一番大事なことは、相手に関心を寄せることです。

本当にその方向のことについて「知りたい気持ちがあるか?」「相手をサポートしたい気持ちがあるか?」というあり方が重要です。

次に、そこから派生する言い方が大事だと私は考えています。

その際のポイントを3つご紹介します。

1つ目は、間を十分に取る「じっくり感」。

2つ目は、相手を性善説で見る「不思議感」。

3つ目は、ともに考える「一緒に感」です。

まずは、「じっくり感」ですが、これは十分に間を取りながらじっくりと話を進めることです。

相手にとってネガティブなことを息つく間もなくパンパンと質問されると、自分の意図しない方向にどんどん追い詰められている感じがして苦しくなります。

次に、「不思議感」ですが、相手を性善説で見ると、ネガティブな現状の事実に対して「おかしい」「不思議だ」という感覚が生まれます。

それを「なぜ、今回成果が上がらなかったんだろうね?(君は成果を上げられる能力があるのに不思議だね?)」という表現で伝えるのです。

こう伝えられると「あなたのことを認めています」ということが非言語で伝わるので、相手は安心感が持てます。

最後は「一緒に感」です。

「先週何やってたの?」と、一方的に思考させられると、相手は突き放されたような感じがしてしまいます。

ですが、そこに「一緒に考えようか?」というニュアンスが入ると安心感が持てるのです。

「先週まででできているところを確認しようか?」「これからどんなことができるか一緒に考えていこうか?」という言い方です。

このように第3章では、対話による諸認識をすり合わせる技術のうち、「しゃべってもらうスキル」について見てきました。

第4章では、もう1つの「フィードバックするスキル」についてご紹介していきます。

 

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