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第3章 心の法則

市場に最初に参入するより、顧客の心の中に最初に入るほうがベターである。

世界初のパーソナルコンピュータはMITSアルテア8800だつた。 一番手の法則からすれば、MITSアルテア8800 (なんと呼びにくいネーミン グだろう)が、パーソナルコンピュータのナンバーワンブランドになっているはずで ある。ところが不幸なことに、この機種はもはやこの世に存在しない。 テレビ受像機を最初に発明したのはデューモント社だった。最初の自動車を世に出 したのはデュリア社であり、最初の洗濯機を作ったのはハーレイ社だった。三社とも すでに姿を消してしまっている。 第1章の一番手の法則にはどこか誤りがあるのだろうか。そんなことはない。ただ、 「心の法則」がこれに修正を加えるのだ。市場に最初に参入するよりも顧客の心の中 に最初に入り込むほうがベターなのである。 一番手の法則においては、心の中に最初 に入り込むことはあまり強調されないが、実はこれこそマーケティングのすべてであ る。市場に最初に参入することは、そうすることで、心の中に真っ先に入り込めると いう限りにおいて重要であるに過ぎない。 例えば、IBMは大型コンピュータ市場に真っ先に参入したわけではなかった。 一

番手は「ユニバック」のレミントン・ランド社であった。しかし絶大なマーケティン グ努力によってIBMは顧客のマインドを最初につかみ、 コンピュータ戦争に早々と 勝利したのである。 心の法則は知党の法則に続く法則である。もしマーケティングが商品ではなく、知 覚をめぐる戦いだとすれば、市場よりも心のほうが優先されなければならない。 毎年、多くの起業家志望者がこの法則につまずいている。業界に革命を起こすかも しれないようなアイデアなリコンセプトを思い付く人はいるのだが、問題はそのアイ デアやコンセプトを顧客の心の中に吹き込むことである。 この問題に対するありきたりの解決手段は金だ。すなわち商品やサービス組織を設 計したり、編成したりする資金、および記者会見を開いたり、見本市に参加したり、 広告やダインクトメールを実施したりする資金ぞある。(第22章参照) ところが悪いことに、ここから、すべてのマーケティング上の問題を解決してくれ るものは金であるという誤った考えが生まれる。とんでもない。すべての人間活動の 中で、 マーケティングほど多額の金が無駄に費やされている分野はない(もちろん政府の活動は別にしてである)。 ひとたびあるマインドが形成されると、これを変えることは不可能である。墾壕に たてこもった敵軍に正面攻撃をかけるようなものだ。クリミヤ戦争におけるバラクラ バでのイギリス軽騎兵隊の突撃や、その直後の南北戦争におけるゲティスバーグでの ピケット将軍の大敗走などが史上最も有名な事例である。 最初にワープロを開発したのはワング社だった。だが、世間はそのような機械は無 視して、 コンピュータヘと流れた。不幸にも、ワング社はそのような変身を遂げるこ とができなかった。同社は自社のパーソナルコンピュータやミニコンピュータの販促 活動に莫大な金を投じたにもかかわらず、現在なおワープロのメーカーだと思われて いる。 複写機の業界で一番手だったゼロックスは、その後コンピュータ業界への参入を試 みた。二五年の歳月と二〇億ドルもの巨費を費やしながら、結局、 コンピュータ業界 では日の目を見なかった。 もしあなたがコンピュータのどこかを変えたいと思ったら、既存の要素に何かをつ

け加えたり、削除すればいい。しかし、もし人の心の中にある何かを変えたいのであ れば、それは諦めたほうがいい。あるマインドがすでに出来上がっている場合は、そ れが変わることはまずありえない。マーケティングにおいて最も無駄な行為は、人の 心の中を変えようとする試みである。 それで不動のものの見方が人の心の中にほとんど瞬時のうちに形成される謎がわか る。それまで耳にしたことのなかった人物が、 一日にして有名人に変貌する。このよ うな「一夜の激変」は、珍しい現象ではないのである。 あなたが他人に強い印象を与えたい場合には、その人の心の中に徐々に入り込み、 ゆっくりと時間をかけて好意を醸成しようとしたのではだめだ。

というのはそんな ふうには動かない。心の中には一気に入り込まなければならないた― 「 徐々にではなく一気に勝負すべき理由は、人々は自己の心を変えたがらないという 点にある。いったんあなたが人々にこうだと認識されたら、 一巻の終わりである。あ なたはこれこれのタイプの人間であると、彼らの心にファイルされてしまうのだ。も はや別のタイプの人間にはなれないのである。

マーケティングが抱える謎の一つは金の果たす役割である。時によっては、ほんの 数ドルの金が大きな奇跡を引き起こす場合がある。そうかと思うと、何百万ドルもの 金を投じながら、会社の破綻を救えない場合もある。あなたが虚心でいれば、ほんの わずかな金にも威力を発揮させることができるのだ。アップル社はマイク・マークラ が寄付した九万一〇〇〇ドルの資金でコンピュータ事業を始めたのである。 顧客の心をつかむに当たってのアップル社の問題点は、単純で覚えやすいネーミン グによって助けられた。競合各社の製品は覚えにくい、複雑な名前だったのである。 当初五つのコンピュータがスタートラインに立っていた。アップル2、 コモドール・ ペット 、 I M S A I 8 0 8 0 、 M I T S アルテア8 8 0 0 、 それにラディオ・シャックTRS180の五機種である。どの名前が一番簡単で覚えやすいか、考えてみるといい。

 

 

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