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第3章 変動損益計算書の活用法

3-1 変動損益計算書を作ってみようコーヒー専門店(カフェクローバー)のケース ■売上高、変動費、固定費、限界利益の関係をイメージしよう 変動損益計算書は、一般に公表される決算書とは違い、費用を変動費、固定費に分類して作成する損益計算書です。その内容は、業績管理に役立つ情報が満載で、管理会計の入り口とも言えるものです。 どのように活用するかについて、カフェクローバーの例で、お話ししましょう。 図 3-1は、カフェクローバーの 1か月の計画(コーヒー単品を 4, 000杯販売するケース)を変動損益計算書にしたものです。売上高、変動費、固定費、限界利益の関係を示しています。変動損益計算書からは、変動費や固定費が変わると、必要な売上高はどう変わってくるのか、どれだけ費用をかけると利益はどうなるのかがわかります。

前にも説明した通り、売上高から変動費を引いたものが限界利益、限界利益から固定費を引いたものが利益です。 損益分岐点分析では、一般的に、利益は営業利益を示しています。営業利益は、売上高から売上原価と販売費・一般管理費を引き算して求めます。したがって、変動費・固定費は、売上原価と販売費・一般管理費を対象に分類することになります。 そして、費用を変動費・固定費に分類し、損益計算書にしたものが、変動損益計算書です。 変動損益計算書を作れば、第 2章でも説明したように、損益分岐点の売上高や損益分岐点比率などの指標を計算する基礎データを得ることができます。そのため企業内部で使う業績管理用の損益計算書として、活用されるのです。

■目標利益 30万円、 2, 000杯のコーヒーと 2, 000個のケーキセットを販売した場合を変動損益計算書で示してみよう

上の変動損益計算書は、コーヒー単品とケーキセットごとの売上高、変動費、限界利益の明細を示しています。これにより、商品別の売上高と限界利益が、どのような内容になっているのかを分析することができます。 固定費は、合計額を勘定科目ごとに表示します。 構成比 ①は、売上高に対する構成比です。その売上高を得るためには、どのような費用を使っているか、利益の割合はどうなっているのかを示します。 ここでは、変動費比率が 24. 9%、限界利益率が 75. 1%、固定費の売上高に対する比率(固定費比率)は 57. 4%、売上高営業利益率 17. 8%であることが読み取れます。 構成比 ②は、限界利益に対する構成比です。限界利益に占める人件費の割合を労働分配率と呼びます。この割合が大きいほど、人件費負担が重いということを示す指標で、人件費の分析には欠くことのできない指標です。カフェクローバーでは、 37. 0%になっています。 限界利益に占める営業利益の割合を資本分配率と呼びます。資本分配率 23. 6%は、限界利益のうち営業利益がどのくらいか、つまり資本にどのくらいの割合で分配されたのかを示しています。 上の変動損益計算書では、コーヒー単品の価格を 300円、ケーキセットの価格を 544. 5円(実際に売るのは 545円)にしたときに、営業利益が 30万円となっています。したがって、この価格以上にしないと、目標利益 30万円を稼ぐことができないことを示しています。 ■変動損益計算書でシミュレーションをする 【CASE】ケーキセットの価格を 500円に下げた場合 近隣の喫茶店との価格を考えて、 545円では高いのではないかと考えました。そこで、セット価格 545円を 500円に下げた場合の変動損益計算書は、下図のようになります。

営業利益が、 21. 1万円にダウンし、売上高営業利益率が 13. 2%にダウンしています。労働分配率は、 39. 8%にアップしています。これは限界利益が減少したことで、人件費の負担がアップしたことを意味しています。 変動損益計算書では、価格を下げると、人件費の負担がどう変化するかまで見えてくるんですね。 【CASE】自家製ケーキをセットにして 2, 000個販売し、コーヒーは単品で 2, 000杯、目標利益 30万円を得るには?

先ほどの例で、価格を下げる方法では、利益が上がらないことがわかりました。そこで、商品自体の魅力を高めるため、自家製ケーキに再チャレンジすることを考えてみます。上の変動損益計算書は、自家製ケーキを使ったケーキセットとコーヒー単品のケースです。 この場合、目標利益 30万円を達成するのに必要な売上高は 184万円。仕入によるケーキセットの場合(本項の最初に掲げた変動損益計算書)では、売上高が 168. 9万円です。自家製ケーキをセットにしたほうが、 30万円の利益を獲得するのに必要な売上高は、 15. 1万円大きくなっています。 その主な理由は、固定費が 96. 9万円から 120万円に、 23. 1万円増加していることです。 そこで、セット価格を 620円にすると、セット当たりの限界利益率は 79. 8%(ケーキ仕入のケースでは、限界利益率 69. 7%)と高くなり、全体の限界利益率も 81. 5%(ケーキ仕入のケースでは、限界利益率 75. 1%)と 6. 4ポイントアップします。これは、ケーキを自家製にすることで付加価値を高めたと考えられます。 【CASE】自家製ケーキセット 550円で、目標利益 30万円を達成できる、自家製ケーキのセットの販売数は? (ただし、コーヒー 4, 000杯が上限)

目標利益 30万円の確保のために、セット価格を 620円に値上げせざるを得ないということは、競争の点から、課題が残ります。そこで、競合店などの状況から判断して適正と思われる 550円にセット価格を下げて、ケーキセットの販売数を増やせば、コーヒー 4, 000杯(製造の上限)の範囲で、目標利益 30万円を達成できるかもしれません。 このシミュレーションも、変動損益計算書があれば、簡単にできます。早速、検証してみましょう。 変動損益計算書を表計算ソフトでシミュレーションし、セット販売数を何度か入れ直していくと、 2, 824セットで営業利益が 30万円を超えました。その際のコーヒー単品の販売数は 1, 176杯( 4, 000杯- 2, 824杯)です(上図)。 ■利益をアップさせるには、自家製ケーキ 仕入れたケーキをセットにした場合は、セット価格 545円で、 2, 000個のケーキを販売することで、利益 30万円を達成できました。自家製ケーキでは、セット価格 550円で、 2, 824セットと 824個多いケーキが必要です。数字の上では、ケーキを仕入れたほうがよさそうですが、果たしてそうでしょうか。 仕入れたケーキは、自社の特徴を出せず、一般的にどこにでもあるケーキです。そうなると販売数の伸びは期待できません。ここでは 2, 000個の販売がやっとと考えます。これに対して自家製のケーキを美味しく作り、それをアピールすることで、顧客の支持を得て、販売数が増える可能性は十分に考えられます。この点は、ケーキを仕入れるか、自家製にするかの判断ポイントです。 ここまでの計算で、自家製ケーキが評判になって、仕入れたケーキより自家製ケーキセットを 824個多く販売できれば、同じ 30万円の利益が可能なことがわかりました。 自家製ケーキは、現状の設備で 4, 000個までは製造販売が可能で、設備などの関連固定費も増えないとします。 そこで、自家製ケーキの販売を伸ばすために、テイクアウトをはじめてはどうでしょう。販売価格は、ケーキ 1個 300円とします。こうなると利益はさらに増えることが予想されます。 ■自家製ケーキをテイクアウト可能にすると… 自家製ケーキのテイクアウトを可能にすることで、包装箱が必要になります。包装箱には、ケーキを 4個まで入れることができるとし、 1箱 5円で仕入れます。これは変動費です。顧客当たり平均 2. 5個のケーキを販売すると仮定すると、顧客 1人当たり 545円( 300円 × 2. 5個-材料費 80円 × 2. 5個-包装箱 5円)の限界利益を得ると想定できます。 テイクアウトで 400人にケーキ( 400人 × 2. 5個 = 1, 000個)を販売できれば、 21. 8万円( 400人 × 545円)の限界利益を得ると想定できます。そして限界利益 21. 8万円は、そのまま利益の増加として表われます。 ここまでの計算は、下の図 3-2のような変動損益計算書に表わすことができます。

しかし、実は、変動損益計算書を作るまでもなく、増加する利益を計算する方法があります。 この例では、コーヒー単品 1, 176杯とケーキセット 2, 824個の販売で損益分岐点を超えることができました。その上にテイクアウトのケーキを販売するのですから、テイクアウトのケーキで稼いだ限界利益 21. 8万円は、そのまま利益になります(図 3-3)。一般的に損益分岐点の売上高を超えていれば(経営安全額がプラスであれば)、経営安全額から生まれる限界利益は、そのまま利益になることを知っておきましょう。 この考え方は、大変重要です。 計画通りにいくかは、もちろんわかりません。しかし、自家製ケーキのように、固定費をかけて付加価値(限界利益)を生み出す挑戦は、いつの時代にも必要なことではないでしょうか。

固定費は付加価値を生み出す力があることを再確認してください( 2-5「変動費と固定費の見分け方、考え方」参照)。そんな挑戦を支援する業績管理ツールが、変動損益計算書であり、管理会計なのです。

3-2 変動損益計算書は、付加価値計算書だ付加価値のとらえ方を理解しよう ■顧客は、付加価値を感覚的にとらえている 付加価値を高めるとか、付加価値を創造するという表現をよく使いますね。付加価値とは、どのようなものでしょうか。コーヒー販売に関連する話で進めてきましたが、この一連の話で、読者のみなさんへ一番伝えたいことは、付加価値の意味です。 カフェでコーヒーに 300円支払う人は、コーヒー豆やミルクなどの材料を購入しているのではなく、コーヒーの味を楽しむことやカフェで一休みすることの対価と考えて購入しています。カフェは、材料費が 45円なら、 255円( 300円- 45円)の付加価値を生んでいるわけです。 第 1章で取り上げた高級ホテルのラウンジでは、コーヒー 1杯 1, 000円でした。数十円から高くても数百円程度の材料費に、付加価値を付けて 1, 000円で販売しているのです。 どうやって付加価値を付けているかと言えば、コーヒーの味はもちろんのこと、従業員のサービス、ムードのある高価な調度品、落ち着いた雰囲気、きれいな景色などの提供です。材料費を 100円とすれば、顧客はさらに 900円を払えば、これらのサービスを 1時間程度は楽しめる(購入できる)のです。考えてみれば安いものです。 スターバックスコーヒーに行けば、学生が受験勉強をしている姿もよく目にします。コーヒー 1杯数百円の付加価値で、スペースを借りているわけです。 付加価値は、高級ホテルラウンジで飲む 1, 000円コーヒーの限界利益 900円のことです。 900円が高いか安いかは、顧客が感覚的に決めています。ホテルやカフェ側からすれば、人件費や地代家賃などの固定費をかけることで、付加価値を創り出しているのです。固定費は、付加価値を創造する力があることは、第 2章ですでに説明しましたね。 ■一般の損益計算書でわかること 図 3-4は、スーパー銭湯の損益計算書です。構成比を見てください。売上総利益率 11. 4%、売上高営業利益率 3. 5%です。 スーパー銭湯の売上総利益率が 11. 4%ということは、経営的にこのスーパー銭湯がどのような状況にあることを示しているでしょうか。

この点を考える場合には、売上原価の内容を分析する必要があります。 売上原価と販売費・一般管理費の主な内訳は、図 3-5のようになっています。売上原価は、商品売上原価とサービス原価に分かれています。

商品売上原価は、スーパー銭湯内で売られている飲料や入浴用品などの仕入商品の売上原価で、小売部門の売上原価です。 サービス原価は、銭湯の現場で発生した費用です。現場で仕事をしている人の人件費(労務費)と清掃作業などの業務委託費、水道光熱費、その他経費(減価償却費、リース料など)が含まれています。 これらの売上原価(商品売上原価とサービス原価)は、スーパー銭湯を運営するための直接原価です。製造業で考えれば、工場で発生した製造直接費(材料費、労務費、製造経費などが含まれる)となります。 売上原価率は 88. 6%ですから、スーパー銭湯の費用の大部分は、銭湯の運営現場でかかっていることがわかります。 売上原価の内訳(構成比)を見ると、商品売上原価は 14. 4%と低く、サービス原価の割合が 85. 6%と大部分を占めています。サービス業としての特徴が出ています。 販売費・一般管理費は、本社で発生した費用で、売上高の 7. 9%と少なくなっています。一般的な損益計算書で読めるのは、このくらいです。 では、変動損益計算書では何がわかるのでしょうか、実際に作って、考えてみましょう。 ■変動損益計算書を作成してみよう まず、売上原価の項目を変動費、固定費に分類します。 商品売上原価と業務委託費と水道光熱費を変動費とします。サービス原価に含まれる費用のうち、労務費とその他経費は固定費とします。 販売費・一般管理費の中のポイント販促費は、銭湯を利用するたびにポイントを付与するもので、変動費とします。 このような変動費、固定費の分類作業をしたら、図 3-6に転記して、変動損益計算書を完成させます。 構成比は、売上高を 100%とした構成比 ①と限界利益を 100%とした構成比 ②の2つを計算しましょう。 すると変動損益計算書は、図 3-7のようになります。 損益分岐点の売上高以下の経営指標は、図 3-6に添えた計算式にしたがって計算してください。

■変動損益計算書なら付加価値が見える 図 3-7が、作成したスーパー銭湯の変動損益計算書です。図 3-4の損益計算書と比べてください。

営業利益はどちらも 3億 700万円ですが、注目すべきなのは、限界利益 52億 4000万円です。一般の損益計算書における粗利益である売上総利益 10億円と比較すると、 5. 24倍になっています。売上原価の中に固定費が含まれていることが、限界利益が大きい主な理由です。 限界利益は、売上高から商品売上原価、業務委託費、水道光熱費などの変動費(外部購入原価)を引いて求めます。これらを除いた限界利益は、企業が生み出した付加価値を示しています。 売上高に対する限界利益の割合である限界利益率は 59. 6%であるのに対し、損益計算書の売上総利益率は 11. 4%となっています。どちらも売上高における粗利益率を示すものなのに、大きな違いが出ていますね。 コーヒーの例で見たように、限界利益率が付加価値の売上高に対する割合(売上高付加価値率)を示しています。付加価値を高める源泉は固定費です。通常の損益計算書では、付加価値を簡単に把握できないばかりか、どのように付加価値を高めたか(固定費の内訳または使い方)がわかりませんが、変動損益計算書では、その部分も含めて分析できるのです。 ホテルのラウンジで飲むコーヒーの粗利益率を考えたときと同じ問いをスーパー銭湯でしたら、あなたはどう答えるでしょうか。すなわち、「スーパー銭湯の粗利益率は、高いでしょうか? 低いでしょうか?」という質問です。 ここまで読み進めてきた方なら、迷わず「粗利益率は高い」と答えるのではないでしょうか。粗利益率の本質は、売上高付加価値率のことです。サービス業の売上高付加価値率は、感覚的にも高いと考える方は多いものです。事実、スーパー銭湯の売上高付加価値率(限界利益率)は 59. 6%もあるのです。 ●損益構造図で、付加価値の違いを確認しよう 図 3-8は一般的な損益計算書です。

図 3-8で売上総利益率が 11. 4%になってしまうのは、売上原価の大きさが原因であることがわかります。損益計算書を見ると、売上総利益を大きくするには売上原価を減らさなければならないと考えてしまうかもしれません。 図 3-9は、変動損益計算書です。こちらでは、限界利益率の大きさが目立ちます。

スーパー銭湯の付加価値(限界利益)は、何種類もの温泉施設や飲食施設やレジャー施設へ投資し、人的サービスの提供によって高まっています。設備投資するということは、減価償却費やリース料というコストをかけることを意味し、人的サービスを提供するということは、教育訓練費や労務費をかけることを意味します。これらの固定費をかける結果、付加価値(限界利益)が生まれているのです。これまでも説明してきましたが、これがポイントです。 顧客の立場で考えれば、理解できるのではないでしょうか。新たな設備投資もしない、設備が古いまま、サービス精神のない従業員ばかりのスーパー銭湯をあなたは利用しますか? したがって、現場をよく見て、どんな戦略をとるべきかを考えていくには、変動損益計算書を代表とする管理会計が役に立つのです。

3-3 変動損益計算書で見えてくる経営の姿付加価値分析を理解しよう ■経営の流れは、投資にはじまり、分配で清算する 変動損益計算書を作ったら、それを分析して経営に活かしましょう。 変動損益計算書からわかることは、付加価値の大きさ(限界利益(率))と付加価値を生み出している源泉(固定費の内訳)は何かということです。すなわち変動損益計算書を作って分析するということは、付加価値分析をするということです。 ここで再確認しておきたいのは、固定費をかけることで付加価値が生まれるということです。そしてその付加価値は、ヒトやモノに分配されます(分配というのは、要は、得た付加価値からヒトにいくら、モノにいくら回すか、ということです)。 図 3-10を見てください。付加価値が生まれ、分配されていく流れを示しています。特に、付加価値が、給与や賞与(人件費)、税金や株主への支払原資になっていることを確認しましょう。 ①バリューチェーンと固定費 研究開発からはじまり、製品・サービス内容の企画、製造、販売、物流、情報という流れの中で、付加価値が構築されていきます。この付加価値を生み出す流れは、バリューチェーン(価値連鎖)と呼ばれています(図 3-10)。 企業は、どの段階で付加価値を生み出すかを戦略的に考えて、その段階に重点投資します。重点投資先が研究開発段階であれば、研究開発費に多くの資金が向けられます。製造段階であれば生産設備に、小売では店舗設備に資金を使います。販売段階であれば、営業担当の人件費や教育訓練費に資金を重点的に投資するでしょう。これらの投資は、減価償却費や人件費のような固定費となって損益計算書に表われます。

固定費が発生すると、実際の活動がはじまります。材料の仕入、外注の利用、商品の仕入などの変動費を使った活動です。変動費は、生産・販売を行なうと発生するため、固定費より後の段階で発生する傾向があります。固定費をかけないと、すべての活動はスタートしないのです。 ②売上高からは、変動費を先に回収する 販売によって売上が計上されると、まず売上代金から変動費を支払う原資を確保しなければなりません。なぜなら、変動費である次の生産のための材料仕入や販売のための商品仕入を続けないと、生産、販売がストップしてしまいます。そういう意味で、当面どうしても必要な支出が変動費です。変動費を業務活動原価と呼ぶ理由です。震災などで、原材料のメーカーが操業停止に陥って、その原材料を利用する完成品メーカーの生産がストップする事態もありましたね。これは変動費が業務活動原価であることを示しています。 ③付加価値の分配 売上高から、変動費を支払うと、限界利益が残ります。これが付加価値です。付加価値は、付加価値を生み出すために支出したコスト(投資)の回収のために使われます。 ヒトへの投資が人件費、モノへの投資が減価償却費やリース料、カネへの投資(資金の借入)で支払利息が発生します。その結果、付加価値である限界利益が生み出されたのですから、それはヒト、モノ、カネへ分配されるのです。もっと広く考えれば、国や株主を含めて、企業の利害関係者(ステークホルダー)に分配されます。 優先させるのは、ヒトへの分配です。給与や賞与という形で還元されます。人件費は、付加価値が生まれなければ、一時的な支払はできても、何年も支払を続けることはできません。業績賞与などは、特に付加価値の分配という考え方にマッチするのではないでしょうか。 モノへの分配は、投資の回収分としての減価償却費、リース料相当額を確保することを意味します。減価償却費は、次なる投資として貯蓄されます。 金融機関などからの借入金(カネ)に対しては、支払利息として分配されます。やはり付加価値なくしては利息も払えません。 国に対しては、租税公課や法人税、住民税として支払います。企業の付加価値の一部が分配されたというのが本質です。 最後に残った付加価値が税引後利益(純利益)です。税引後利益は、一部は配当や自社株買いを通して株主へ分配されます。残りは、利益剰余金として、貸借対照表の株主資本に貯蓄されます。これも株主への分配です。また、株主は、配当や利益剰余金の増加によって株価が上がったときと、市場で株式を売却すれば、株式投資資金を回収することもできます。 ■変動損益計算書で明らかになる5つの経営指標 変動損益計算書を作成することで、一般的な損益計算書では得られない経営指標が見えてきます。 すでに説明したものも含めて、スーパー銭湯の例で整理してみましょう。図 3-11は、スーパー銭湯の例で、これから説明する指標を計算したものです(前出の図 3-6の下の部分です。 5 ÷ 4などの数字は図 3-6と対応しています)。以下、各指標の見方のポイントをまとめました。

①限界利益と限界利益率 限界利益は、売上高から変動費を引いて求めます。限界利益は、一種の付加価値で、付加価値分析に活用します。 前出の図 3-4の損益計算書の売上総利益率 11. 4%(一般的にこれを粗利益率と呼ぶ)は、付加価値率を正しく示さないので、限界利益率 59. 6%を企業の付加価値率と認識して、経営を進めることが重要です。 ②損益分岐点の売上高と損益分岐点比率 利益がゼロになる売上高を損益分岐点の売上高と言います。損益分岐点の売上高 82億 7, 501万円(図 3-11の 7参照)の水準では、固定費と限界利益が同じ 49億 3, 300万円となっています(限界利益 =損益分岐点の売上高 82億 7, 501万円 ×限界利益率 59. 6132%)。限界利益 49億 3, 300万円を稼いでも、固定費の支払(回収)ですべて使われてしまうので、利益に回す限界利益が残りません。 損益分岐点比率は、売上高( 87億 9, 000万円)に占める損益分岐点の売上高( 82億 7, 501万円)の割合です。スーパー銭湯では、 94. 1%になっています。損益分岐点比率が小さいほど、赤字に陥る可能性が小さくなります。一般的な損益分岐点比率の判断基準を下に示しました。 94. 1%という水準は、赤字に陥る可能性が高く、あまりよくない水準です。 ③経営安全額と経営安全率 売上高 87億 9, 000万円と損益分岐点の売上高 82億 7, 501万円の差額を経営安全額( 5億 1, 499万円)と呼びます。安全余裕額とも言われます。 経営安全額は、利益を生んでいる売上高です。経営安全額( 5億 1, 499万円)が生み出す限界利益は 3億 700万円( 5億 1, 499万円 ×限界利益率 59. 6132%)で、利益 3億 700万円と一致します。 どれだけ経営が安全であるかを示す経営安全率は、この例では 5. 9%(経営安全額 5億 1, 499万円 ÷売上高 87億 9, 000万円)となります。 経営安全率 5. 9%( ≒ 5. 8588%)ということは、売上高が 5. 9%ダウンしても、赤字にならないこと(利益ゼロ)を意味しています。つまり、売上高が 5. 9%ダウンすると売上高は 82億 7, 501万円( 87億 9, 000万円 ×( 1- 0. 058588))になります。これは損益分岐点の売上高と一致します。 経営安全率が大きければ、売上ダウン率が大きくても、赤字に陥る可能性が小さくなるということです。そういう意味で、経営安全率は、不況抵抗力を示し、大きいほど不況抵抗力は高いと判断できます。 ④労働分配率 労働分配率は、限界利益( 52億 4, 000万円)に対する人件費( 19億 2, 200万円)の割合です。スーパー銭湯では 36. 7%となっています。 労働分配率は、優良企業ほど小さくなっていきます。優良企業は、限界利益がどんどん増え、人件費もそれにつれて大きくなりますが、人件費の伸び率が、限界利益の伸び率よりも小さいことが多いからです。

赤字企業(営業利益がマイナス)や利益がギリギリの企業では、人件費を増やさないように、または減らすようにマネジメントしますが、限界利益の減少率が大きくなって、労働分配率は大きくなっていきます。一般的な黒字企業では、 50%前半くらいですが、赤字企業になると 60%を超える企業も見られます。赤字企業では、限界利益の多くが人件費に支払われ、利益が残らないわけです。そしてこれが、人員削減、給与カットなどのリストラの引き金になります。中期的には、限界利益率を高めるような高付加価値戦略への転換が必要です。 労働分配率の目標を決めるのは、経営者にとって重要な意思決定事項です。限界利益の総額を予想し、労働分配率の範囲で人件費総額をコントロールしながら、昇給や採用を決めるのに役に立ちます。具体的には、第 5章の短期的意思決定で説明します。 ⑤労働生産性と 1人当たり人件費 労働生産性は、 1人当たり限界利益(付加価値)のことで、限界利益を従業員数で割って求めます。労働生産性が、大きく伸びている企業では、従業員が付加価値を生み出すのに貢献していると推測されます。 労働生産性に労働分配率を乗じれば、 1人当たりの人件費が求められます。スーパー銭湯で考えると、労働生産性 1, 278万円 ×労働分配率 36. 7%で、 1人当たり人件費 469万円が計算できます。もちろん、人件費総額を従業員数で割って求め

求めても同じです。 労働生産性や 1人当たり人件費を計算するときに注意すべき点があります。それは、臨時社員をどのように数えるかということです。よく使われるのは、臨時社員は、正社員の労働時間と比較して人数を調整する方法です。正社員の所定労働時間が 8時間であれば、平均 6時間の臨時社員は、 0. 75人と換算して計算するわけです。図 3-11では、臨時社員は 0. 5人として計算しています。このように、正社員と臨時社員の人数を調整しないと、労働生産性や 1人当たり人件費が小さく計算されてしまいます。臨時社員が多い企業では、このような配慮をしてください。 公表された決算数値を使って計算するときは、臨時社員の正確な労働時間がわからないので、 0. 5を使います。 【Question】労働分配率を下げて、優良企業を目指しながら、 1人当たり人件費をアップするにはどうしたらいいでしょうか。 労働生産性を伸ばしながら、その伸び率の範囲内で、 1人当たり人件費をアップしていけば、労働分配率は下がります。このように、労働生産性と 1人当たり人件費を使った業績管理を進めることをお勧めします。

3-4 業種別の付加価値(限界利益)の違いを理解しよう製造業、流通業(小売、卸)の特徴は? これまで勉強してきた限界利益率は、業種やビジネスの構造の違いをよく表わします。ここでは、業種ごとにどのような違いがあるかを見ていきましょう。 ■製造業は、固定費をかけて付加価値を高める 製造業の売上総利益率の平均値は、日経経営指標や TKC経営指標で見ると 20%前後です。 製造業の売上原価は、3つの原価(原価の 3要素)に分類することができます。3つの原価とは、材料費、労務費、経費です。労務費は工場部門で発生した人件費です。製造経費は外注加工費、光熱費、減価償却費などの工場で発生した諸費用です。 モノ作りの現場(工場)で発生した3つの原価を集計して、製造原価が計算されます(図 1-2参照)。その製造原価のうち販売されたものが製品売上原価で、残りは在庫(製品や仕掛品)となります。 製造業では、工場部門で発生する製造原価が費用の大部分を占めるため、費用に占める製品売上原価の割合も大きくなり、相対的に販売費・一般管理費の割合が小さくなる傾向があります。製造業の売上総利益率が 20%になるのは、販売価格の 80%は工場で発生した費用(製造原価)が占めていることを示しています。また、販売費・一般管理費を販売価格の 20%以内に抑えないと利益が生まれないことも意味します。 次に製造業の限界利益率を考えてみましょう。売上総利益率より大きいでしょうか、小さいでしょうか。図 3-15の左側は、一般的な製造業の損益計算書の内容を示したものです。売上高が 10, 000で、費用総額は製品売上原価( 8, 000)と販売費・一般管理費( 1, 500 =輸送費等 300 +その他販管費 1, 200)の合計 9, 500をマイナスして営業利益 500となっています。売上総利益率は 20%です。 製造業の代表的な変動費は、製品売上原価に含まれる材料費、外注加工費と、物流に関連する輸送費(販売費・一般管理費)などの変動費が考えられます。それ以外を固定費とすると、図 3-15の右側のような変動損益計算書を作成することができます。 変動損益計算書では限界利益率 45%( 4, 500)に注目してください。製造業では、製品売上原価の中に労務費や減価償却費(その他経費)などの固定費が含まれています。固定費は限界利益を算出する際に差し引かないので、限界利益のほうが売上総利益より大きくなります。 すなわち、製造業は、材料を加工し製品化します。加工することで付加価値が生まれるので、製造業の付加価値率(限界利益率)が大きいのは当然と言えば当然です。限界利益率のほうが、製造業の活動の本質を示しています。 現実を見ていくと、外注加工費(変動費)を活用している製造業が多く見られます。このような傾向は、固定費をかけて付加価値を高める製造業の本質に反し、本来の企業の力を失うことになりかねません。このような方針の見直しを必要とする企業も少なくないと思います。

■小売業は、販売費・一般管理費に投資して付加価値を生む 製造業の売上総利益率 20%に対して、小売業の売上総利益率は 30%前後です。小売業のほうが 10ポイント程度上回っています。この差は、何を意味しているでしょうか。 小売業は販売業なので、販売現場で費用を使うことで、付加価値を生み出す業種です。メーカーや卸から仕入れた商品を右から左に流すだけでは、付加価値は生まれません。販売費・一般管理費をいかにうまく使うかが、付加価値を生み出すポイントです。 一般的に小売業の付加価値も、売上総利益で見ることが多いのですが、それでいいのでしょうか。 たとえば、アパレルや家電小売業では、販売員が商品説明などの接客をうまく行なうことで、付加価値を生み出します。そのために販売員には教育訓練をし、給与もしっかり払います。コンビニやスーパーでは、 1日に何度も店舗に配送する(発送配達費)ことで、品物の欠品をなくし、顧客に便宜を図ることが店の強みになります。目玉商品を訴求するチラシをまいて広告し(広告費)、顧客の来店を促し、ついでに粗利益率の大きい商品を買ってもらう(ついで買いを誘う)ことで、付加価値率を高める方法もあります。 販売不振に小売業が陥ると、売上総利益も売上総利益率も低下し、販売費を削減して、営業利益を確保しようとすることがあります。しかし、小売業では、販売費・一般管理費に投資しないと、付加価値が生まれないので、時間とともにどんどん、売上高も売上総利益も縮小していく負のサイクルに陥っていきます。 ■小売業の付加価値率は、意外と小さい 経営指標で、小売業の平均的な売上総利益率が 30%になっているということは、売上高の 30%以内に販売費・一般管理費を抑えないと営業利益を黒字化できないことを意味します。 販売費・一般管理費の中には売上高と連動する変動費が含まれています。すべての変動費を除いたものが付加価値(限界利益)ですから、小売業では、売上総利益より付加価値は小さくなります。 図 3-16の左側は、小売業の一般的な損益計算書です。費用総額は商品売上原価( 7, 000)と販売費・一般管理費( 2, 500 =輸送費等 300 +その他販売管理費 2, 200)の合計 9, 500を控除して営業利益 500となっています。商品売上原価 7, 000が費用の大部分を占めていますが、小売業では、商品売上原価 7, 000では付加価値を生めません。販売費・一般管理費のうち変動費を除いた固定費をいかにうまく使うかが、付加価値を生み出すポイントです。 小売業の変動損益計算書は、図 3-16の右側のようになります。商品売上原価は変動費です。販売費・一般管理費の中でも、店舗までの配送費、包装紙などの消耗品費が変動費になります。これらを控除して付加価値である限界利益が明らかになります。限界利益率は 27%で、売上総利益率 30%より小さくなります。これが小売業の現実です。

顧客にポイントを発行して、ポイント販促費を膨らませる小売業では、変動費が増加し、さらに限界利益率は低下しているでしょう。 15%還元セールを行なえば、売上高の 15%が変動費になるため、限界利益率は、最大で 27%から 12%( 27%- 15%)に下がることを意味しています。結果として損益分岐点の売上高は、どんどんアップします。 ■小売業と同様の構造の卸売業 卸売業では、平均的な売上総利益率は 18%程度ですが、輸送費や消耗品費が売上高の 3%程度とすれば、限界利益率は 15%程度に下がることになります。「限界利益率が小さいので、固定費をかけられない」ということが、現場感覚ですね。しかし、卸売業は、固定費をかける業種ではないので、限界利益率が低くなると分析するほうが本質的です。 逆に考えれば、固定費をかける卸売業であれば、限界利益率は、平均より高くなるということです。たとえば、小売業に対して、 PB(プライベートブランド)商品を企画提案したり、小売業に進出して消費者情報を集め、卸業務に活用したり、販売方法をアドバイスするなどコンサルティング機能を強化することで付加価値率を高めるのです。 これらは、規模拡大によるコストダウン以外の中間流通の存在意義を模索する卸売業の経営課題であり、この分野に固定費をかけることによって、付加価値を高めることができるでしょう。

■連結データでは付加価値分析が難しい 連結決算を中心に決算情報を発表する上場企業の分析をするときに、注意すべき点があります。単体決算で開示される売上原価の明細(材料費、労務費、経費)が、連結データでは開示されません。そのため、連結データでは、変動費、固定費の分類ができず、限界利益率をはじめとする付加価値分析ができません。特に製造業、ソフト開発業、サービス業など、売上原価の中に人件費、減価償却費などが含まれる業種では分析が困難です。 また、連結データは、いろいろな業種、業態が混在しているので、連結データで限界利益率が計算できたとしても、そのデータはグループ全体の平均値になり、特徴が見えにくくなります。 変動損益計算書は、付加価値を生み出す事業単位で作成して分析することで、有用性が発揮できるので、公開データではなく内部データを使った詳細な分析、すなわち管理会計に適しています。しかし、外部から企業分析をする投資家からすれば、連結決算データの内容として、事業区分ごとに、売上原価と販売費・一般管理費の明細も、開示されることが望まれます。

3-5 営業所管理で活用できる変動損益計算書固定費、変動費の分類を工夫して業績管理に活用する さて、実際に変動損益計算書を経営に使ってみましょう。 ここでは、営業現場で、業績管理に使う 2期比較変動損益計算書の見方を紹介します。 ■管理可能かどうかで、固定費を分類しよう 下図は、日本アパレル販売(紳士服販売を中心にした小売業)の東京営業所の 2期比較変動損益計算書です。

まず固定費の分類に注目してください。 固定費は、東京営業所で個別に発生している固定費(個別固定費)と本社で発生している間接経費(共通固定費)に分類します。さらに、個別固定費は、東京営業所の責任者(田中所長)がある程度コントロールできる費用を管理可能個別固定費、発生額をコントロールできないような費用を管理不能個別固定費として分類しています。 管理可能個別固定費には、 1年間の予算期間で発生額をコントロールできる、交通費、広告費、交際費、消耗品費などが含まれます。 人件費については、残業代、パート代などは管理可能ですが、基本給部分は本社で決まるので管理不能、という 2面性を持っています。しかし、人の動きは所長に責任があるので、管理可能個別固定費に分類して、責任を持ってもらうこともできます(この例でもそうします)。 管理不能個別固定費の代表は、減価償却費、リース料、地代家賃のような設備費です。営業所で使う固定資産や家賃は本社の戦略によって決まり発生する費用で、田中所長は発生額をコントロールできません。 ■利益の区分に注目しよう 前出の図 3-17を見てください。売上高から変動費を控除した限界利益まで( ①~③)は、これまでの変動損益計算書と同じです。実際には、 ①~③については、商品やサービスのカテゴリー別に細かくデータを把握する必要がありますが、ここでは省略しています。 限界利益から管理可能個別固定費を引いて、管理可能利益を求めます。管理可能利益は、田中所長が管理可能な利益という意味で、日々の営業活動で達成責任がある利益です。 管理可能利益から管理不能個別固定費を引いた営業所利益も、所長は大いに意識する必要があります。設備費などの管理不能個別固定費を回収できるような販売実績を上げなければならない責任があるからです。 しかし、管理不能個別固定費は、立地戦略などの本社の意思決定が影響しています。所長の意思決定の結果で発生している固定費ではないので、営業所利益は、所長の上司であるエリア長や本部の営業部長などが注意して見ておくべき利益です。 設備投資や出店場所によって、営業所利益は大きく影響されます。営業所利益は、設備投資や出店場所が適正かどうかの判断材料にもなりますので、経営上の問題を提起する利益と言えるでしょう。 そこで人事の点から見れば、管理可能利益は、田中所長の実績評価のための利益で、営業所利益は、エリア長や本部長の実績評価のための利益であると言えるのです。現実にはこれらの利益と人事評価をどのように連動させるかが課題となります。 本部の共通固定費の一部を負担して、東京営業所の営業利益が算出されます。営業利益は、その会社で決められた共通固定費の配賦基準(どこにどれだけ負担してもらうのか)によって大きく動く可能性があります(しかし、共通固定費を配賦した後の営業利益を、営業所の評価に使うときは、問題が残ります。この点については、第 4章「活動基準原価計算( ABC)の考え方」で説明する、間接費の配賦計算の考え方などを参照してください)。 最後は、各種利益のほか、構成比、前期比、前期との差額を表示して、部門別業績管理のための変動損益計算書ができあがります。 ■ 2期比較の変動損益計算書の見方 2期比較変動損益計算書の概要がわかったら、早速、それを分析していきましょう。 次のような流れで見ていきます。 ①売上高に対する各項目の構成比を見る ②売上高の伸び率と各項目の伸びを比較する ③限界利益の伸び率と各項目の伸びを比較する

その後、商品グループ別の限界利益(率)の内容をチェックすることにします。 ①売上高に対する各項目の構成比を見る 売上高を 100%とした構成比を見ることで、費用がどのくらい利益の増減に影響しているかを把握することができます。また、限界利益の構成比は限界利益率を示し、管理可能利益などその他の利益の構成比は売上高利益率を示します。営業所の業績が現在どのような項目で構成されているのかを知り、評価することができます。 構成比を確認するときは、前期と比べて増えたか減ったかを見た上で、その理由を考えていきます。 本項冒頭、図 3-17の変動損益計算書で見ると、限界利益率は当期 37. 2%と、前期 35. 0%と比べて 2. 2ポイント改善しています。変動費比率が前期 65. 0%に対して、当期 62. 8%と低下していることが限界利益率の改善につながっていることがわかります。この原因をハッキリさせるには、商品別または商品グループ別に限界利益(率)がどのように変化したかを分析する必要があります。この点は、次の項目で説明します。 また、管理可能利益率は 16. 3%で、前期 14. 4%に比べ増加していますが、営業所利益率 5. 1%と営業利益率 0. 5%は、前期と比較して低下しています。 この原因をつかむには、人件費その他を含む管理可能個別固定費、設備費を含む管理不能個別固定費がどのように変化するのかを見ていく必要があります。たとえば、今回の例のように管理可能利益と管理不能個別固定費が増えているのであれば、その原因として、店舗への設備投資が効果を上げていると推測できます。しかし、営業所利益は減っていますから、「店舗への設備投資によって集客効果が現われ、管理可能利益率は改善したが、減価償却費の増加分をまかなえず、営業所利益率が減少した」などと分析できます。 ②売上高の伸び率と各項目の伸びを比較する 2期比較変動損益計算書を見るときのコツは、売上高の伸び率より大きくなっている項目に注目することです。 まず、限界利益が前期比 114. 3%に伸びて、よい傾向です。その原因は、売上高の伸び率に対して、変動費の伸びが前期比 103. 8%と相対的に低かったことです。仕入原価の削減効果が出ている状態です。 このほか売上高の伸び率より高い伸びを示している項目として、人件費 110. 3%が目立ちます。ここからは、人員が増えている、残業が増えているなどのことが推測できます。事例の日本アパレル販売では、人員を 14名から 15名に 1名増員したので、それが一因とわかります。 減価償却費・リース料は、前期比 180%と大きく伸びています。何か大きな投資をしたことがわかります。地代家賃も 120%にアップしています。この2つの数字から、どこか土地の価格が高いところに新たな拠点を設けたのではないかと推測できます。日本アパレル販売の場合は、当期に店を都心部に移し、店舗を大幅にリニューアルしたようです。人員増もそのためだとわかります。このため、管理不能個別固定費が、前期比 137. 1%と大きく増加しています。 ③限界利益の伸び率と各項目の伸びを比較する 売上高の伸び率と比較したら、次は限界利益の伸び率と各項目の伸び率を比較して、よく観察しましょう。こちらも、限界利益の伸び率よりも大きく伸びている固定費に注目してください。 限界利益の伸び率が前期比 114. 3%であるのに対して、管理可能利益は 121. 7%に伸びています。これは営業の主な必要経費である人件費やその他の管理可能個別固定費が、限界利益を生み出すのに貢献していることが推測できます。 さらに限界利益の伸び率より人件費の伸び率が小さくなっているため、労働分配率が 48. 6%から 46. 9%と 1. 7ポイント低下しています。これは、限界利益が、人件費の支払に回らず、管理可能利益に回っている(分配されている)ことを意味し、結果として前期比 121. 7%という伸びにつながっています。 また、減価償却費・リース料 180%と地代家賃 120%の伸びが目立ちます。これらの設備費も、小売業にとって限界利益を生み出す源泉ですから、限界利益の伸びは、こうした設備費の伸びより大きくなることが理想です。 しかし、限界利益の伸びは前期比 114. 3%と比較的大きいのですが、設備費を上回ることはできませんでした。そのため営業所利益が、前期比 97. 8%と低下しています。これは設備投資計画に問題があったか、投資効果が次期以降に現われるか、いずれかの可能性を示唆しています。

■商品グループ別の限界利益(率)の内容をチェックする 図 3-18は、前期と当期の商品グループ別の売上高と限界利益を示しています。これは、変動損益計算書の付表として作成します。

図 3-18では、日本アパレルの商品グループを、3つのカテゴリーに分類しました。 A商品は PB(プライベートブランド)商品、 B商品は通常の仕入商品、 C商品はアクセサリーなどの雑貨小物です。 このケースでは、限界利益率が同じような商品をグループ化しています。 PB商品は流通業が自主企画した商品であり、外注加工費などの変動費が少ないので限界利益率が高くなります。次に B商品、 C商品と続きます。特に C商品の限界利益率は、商品によってバラツキがあり、何が売れたかによって大きく変化します。 図 3-18の合計額で、日本アパレルの限界利益率が 35%から 37. 2%へ 2. 2ポイントよくなった理由も、この図から読むことができます。 ポイントは、売上構成比と限界利益構成比の変化です。前期と当期で比較してみてください。限界利益率が 50%と大きい A商品の売上構成比が、 20%から 30%にアップしています。 C商品の売上構成比は、 20%と変化がありませんが、限界利益率は、 20%から 31%へアップしています。 B商品の売上構成比は、 60%から 50%に下がり、限界利益率が 35%から 32%に下がっています。 ここに販売戦略の変更が見てとれます。 日本アパレルでは、仕入商品( B商品)を減らし、 PB商品( A商品)の販売を強化するため、当期に売り場を拡張しました。その結果、減価償却費やリース料などの固定費(管理不能個別固定費)が増加したのです。 そして、 PB商品の広告宣伝費と接客(人件費)を強化することで、 PB商品とコーディネートのための雑貨小物( C商品)の販売が伸びて、 A商品と C商品の限界利益が増加しました。図 3-18を見ると、限界利益は、 PB商品で 2, 450万円( 6, 450万円- 4, 000万円)、雑貨小物で 1, 070万円( 2, 670万円- 1, 600万円)も増加しています。その増加で、 B商品の減少分 ▲ 1, 520万円( 6, 880万円- 8, 400万円)を吸収し、全社で 2, 000万円( 16, 000万円- 14, 000万円)の限界利益が増加しました。 しかし、固定費が総額 2, 250万円(図 3-17の管理可能個別固定費、管理不能個別固定費、共通固定費の合計)増加したので、限界利益の増加分 2, 000万円がなくなり、営業利益は、 250万円減の 200万円(図 3-17)となったのです。次期には、設備投資による固定費増加を吸収できる、さらなる限界利益アップ策が必要ですね。 ■限界利益を図表化する 前期と当期の商品グループ別の限界利益(率)を図表化した限界利益図表が、図 3-19、図 3-20です。これは、商品グループ別の利益貢献度の見える化に役に立ちます。多品種限界利益図表と呼ばれることもあります。

売上高( X軸)の「%」の付いた数字は、商品グループごとの売上構成比を示し、限界利益( Y軸)の「%」の付いた数字は、限界利益の構成比を示します。 X軸と Y軸が交わる点を結ぶと、限界利益図表が作れます。 2期分を比べると、 PB商品( A商品)の限界利益( Y軸)が大きく伸びて、当期は固定費の半分弱をカバーしていることが見えます。 なお三角形の傾きは各商品グループの限界利益率を示し、原点から C商品へ伸びた線の傾きは日本アパレル全社の限界利益率を示します。 ■利益を生んだ日数は何日か 図 3-21は、変動損益計算書から、分析に必要な数字をピックアップしたものです。変動損益計算書を作ることによって得られるこれらの指標は、必ずチェックしましょう。 図 3-17の変動損益計算書では、限界利益率は、 2. 2ポイントも改善しているのに、固定費の伸びが大きいため、損益分岐点売上高が前期比で 110. 5%にアップしています。その結果、損益分岐点比率は、前期 83. 9%が、当期 86. 3%に悪化しています。経営安全率も、 16. 1%から 13. 8%に悪化しています。 経営安全率を使うと、利益を稼いだ日数を算出することができます。 つまり、 1日から営業活動をはじめて、日々売上が上がり、いつかの時点でその金額が損益分岐点を超えます。それ以降に稼いだ売上は経営安全額となるわけです。ですから、稼働日数に経営安全率を掛けると、すぐ計算できます。 たとえば、年間営業日数が 250日として、そのうち、利益を稼いだ日数は何日でしょうか。 前期は、 40. 25日( 250日 × 16. 1%)で利益を稼いでいました。これに対して、当期は、 34. 5日( 250日 × 13. 8%)で利益を稼いでいます。差は、 5. 75日です。

【Question】 5. 75日は何を意味しているでしょうか? この数字は、当期において、 5. 75日( 40. 25日- 34. 5日)だけ利益を稼ぐ機会を失ったことを示しています。 当期の限界利益が 1億 6, 000万円ですから、 1日当たり 64万円( 16, 000万円 ÷ 250日)の限界利益を稼いでいます。 5. 75日あれば、当期は 368万円( 5. 75日 × 64万円)の営業所利益を上乗せできたはずです。それに加え、固定費の増加がこれを侵食したのです。 一般的な考え方で整理しましょう。 経営安全率が 10%ならば、稼働日数の 10%の時間で利益を上げていることになります。 1か月 30日とすると、 3日間( 30日 × 10%)で利益を稼いでいることになります。経営安全率が 15%にアップすると、 4. 5日( 30日 × 15%)なので、 1. 5日利益を稼ぐ日数が増えるのです。期末の追い込みのときには、営業に余裕が生まれ、ミスやトラブルも防げるでしょう。

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