「タバコをやめる」決心をする
禁煙を始める下準備をするに当たって、どうしてもクリアしていただかなければならないことが1つあります。
それは、あなた自身が「タバコをやめたい」と決心することです。
意志の力にも、根性にも頼らず禁煙を成功させる心理的介入による禁煙法も、実践する本人に「タバコをやめたい」という思いがなければ、うまくいきません。
どんな心理テクニックを駆使しても、やめる気がない人をやめさせることはできません。これは喫煙に限らず、どんな習慣にも共通しています。
私がこれから紹介していく禁煙法は意志の力には頼りません。
しかし、新しい習慣を取り入れるためのこの最初の一歩を踏み出すことだけは、あなた自身にしていただく必要があるのです。
禁煙をまわりに宣言する改めて質問があります。
「あなたはタバコをやめたいですか?」この答えがイエスなら、次の下準備はその思いを公表することです。
あなたが大事に思っている人、尊敬している人、軽蔑されたくないと願っている人、裏切りたくない人。
彼氏や彼女、親友、親や配偶者、子どもに対して「自分はこれから禁煙します!」と宣言しましょう。
できれば、口頭で伝えるだけでなく、紙に書いて、配ってください。
ブログやFacebookなどのSNSで「禁煙します!」と公表するのもいいでしょう。
TwitterやLINEのアカウント名を「名前@禁煙中」と変えるのもいいアイデアです。
決意を親しい人に加え、より多くの人の目に触れる状態にしていきます。
これは「パブリック・コミットメント」という心理テクニックです。
人は自分の思いや目標を公にすると、それに見合った行動をしなくてはならないという心理が働きます。
すると、実際に宣言した通りの結果が得られる可能性が高くなるのです。
社会心理学の古典『影響力の武器』には、自尊心の強い女性が自らのプライドの高さを使って、禁煙に成功したエピソードが登場します。
彼女は禁煙を決意した後、1週間かけて「この人からは尊敬されたいと思う人」のリストを作りました。
そして、名刺サイズのカードを用意し、1枚1枚に「もう二度とタバコを吸わないと約束します」と書き、リストに載っている人たちに渡していきました。
父、兄、上司、親友、前の夫、現在の恋人。
彼女はタバコを吸いたいと感じたとき、「もしここで踏みとどまれなかったら、カードを渡した人たちからどれだけ軽蔑されるか」と考えるようにすることで、禁煙に成功しました。
「パブリック・コミットメント」は、達成したい目標を大事な人たちとの約束にして目的を達成しやすくさせます。
その背景には、2つの力が働いています。
1つは、大事に思っている人、尊敬している人、軽蔑されたくないと願っている人、裏切りたくない人たちから「信頼のおける人だ」と思われたいという感情。
もう1つは、「一貫性の原理」と呼ばれる欲求の力です。
これは人間の行動に深く根ざした心の動きで、私たちは最初に「こう」と決めたことを守りたいと欲し、一貫していたいと求めます。
例えば、禁煙を始めた後、タバコを吸ってしまい、挫折感や罪悪感を覚えたら「一貫性の原理」を破り、自分を裏切ってしまうことになります。
つまり、「パブリック・コミットメント」には、「一貫していたいという欲求」と「タバコを吸いたいという欲求」のぶつかり合いに、「大事な人からの評価」という重しを加え、禁煙という行動を持続させる効果があるのです。
動機づけをするタバコをやめたいと願い、それを周囲に宣言する「パブリック・コミットメント」を行うこと。
これを公表することは、始めの一歩であり、禁煙を成功させる上で欠かせないルールです。
しかしこれを行うだけで事前準備が整ったとは言えません。
「パブリック・コミットメント」はあくまで出発点。
ここではこれにプラスしてもう1つ禁煙成功率を高める方法を紹介します。
フィラデルフィアにある「フォックス・チェイスがんセンター」が行った禁煙に関する研究では、なぜタバコをやめるのか、理由を明確にし、動機づけをした人とそうではない人の禁煙成功率を比較。
1万人規模のデータをまとめたところ、動機づけをした人はそうでなかった人に比べて禁煙成功率が1・45倍高いことがわかりました。
研究グループは、成功率が上がったポイントとして「動機づけ面接」を行い、本人が自分で禁煙する理由を表明していったことを挙げています。
動機づけとは具体的には以下のようなものを言います。
「子どもが生まれたから、タバコをやめます」「つき合い始めた恋人がタバコを吸わない人なので、禁煙します」「フルマラソンに出場する夢を叶えるため、タバコはやめます」言わば、「パブリック・コミットメント」+「動機づけ」という組み合わせです。
本書ではこれを行っていただくことで、禁煙をスタートします。
実際に禁煙プログラムをすすめる際は、まずこの準備を整えるようにしてください。
30年以上の愛煙家を禁煙に導いた方法私は喫煙者ではありませんが、30年以上、タバコを吸い続けてきた愛煙家の禁煙を手伝ったことがあります。
彼は私にとって年の離れた大切な友人ですが、会うたびに困っていたことがありました。
タバコです。
彼はヘビースモーカーで食事中もタバコを吸います。
当然、私の服にもタバコの臭いがつきます。
その状態で家に帰ると猫たちがつらそうで、いつか彼にはタバコをやめてもらいたいと思っていました。
そんなとき、チャンスがやってきました。
彼と彼のパートナーと南の島へ旅行に行くことになったのです。
彼は「健康のためにタバコをやめたい」と思っていました。
しかし、きっかけがないまま今に至っていました。
そこで私は、旅先で滔々と喫煙のデメリットを語っていきました。
「アメリカがん協会の発表では、2011年にアメリカ国内でがんによって死んだ34万5962人のうち、16万7805人が喫煙によりがんを発症していた。
男性のがんでの死亡者のうち51・5%はタバコが原因で、最も多いのは肺がん。
そのうち約80%はタバコが原因だった。
次が喉頭がんで、タバコとの関連は77%……タバコは11種類のがんの原因になることがわかっている」「過去に行われた16件の遺伝子研究をまとめたメタ分析で、喫煙者と禁煙成功者のDNAを比較したデータによると、タバコを吸うと7000以上の遺伝子に異常が起きる。
そのうち3分の1の遺伝子は、まだどんな働きをしているのかがわかっていない。
タバコをやめた場合、だいたい5年以内に大半の異常は元のレベルまで戻る。
多くの異常は、心疾患とがんに関わる遺伝子に起きていた」
「20歳から70歳までの50年間タバコを吸い続けた場合、タバコ代とタバコを吸うことによって生じる諸費用の総額は、1600万円前後になる」
「喫煙者が一生の間にタバコに費やす時間は3年4カ月(約2万9000時間)」
「タバコを吸い続けることで変化してしまった特有の顔つきは、『スモーカーズフェイス』と呼ばれている。目じりや口の周りに、目立つ深いシワができ、肌はくすみ、唇は乾燥。白髪も増え、歯や歯茎は変色し、口臭もきつくなる。顔の老化は中年から始まるのが一般的だが、タバコを吸い続けている人は若くしてスモーカーズフェイスになる。年齢を重ねて貫禄の出た顔つきになるのではなく、老化が早まっていく」
そんなことを延々と早口で伝え、最後に「あなたと友人でいることはとても大事に思っているけれど、喫煙者であるあなたと同じ時間を過ごすのは私にとって苦痛だ」と告げました。
すると彼は「俺、タバコやめるわ」とつぶやきました。
そこでさっそく彼は、私の指示に沿って、パートナーに禁煙を宣言するとともにSNSでも禁煙を宣言し、「パブリック・コミットメント」をした後、禁煙開始日を翌日の朝に設定。
タバコとタバコ関連のグッズを一気にすべて捨てました(方法の詳細については第3章以降を参照してください)。
正直、禁煙開始日の設定とタバコ類の廃棄を一気に進めるのは性急すぎるやり方でしたが、そのときのシチュエーションは、私がぴったり横についてアドバイスできるまたとない状況だったので、彼はトラブルなく禁煙を始めることができました。
翌日からはインタビュー形式で、「喫煙のトリガーとなっているのは、どんな状況か」「今後、吸いたくなったとき、別の行動を取れるよう、『ifthenプラン』を立てよう」など、「科学的に正しい7つの禁煙法(第3章)」と「禁煙成功を支える5つのメンタルテクニック(第4章)」を直接、指導しました。
吸いたいときには次世代型電子タバコVIENTO(ビエント)で代用しました。
ビエントとはニコチン・タールゼロのミストタブレットで、植物由来成分から作られた全6種類のフレーバーを楽しむアイテムです。
1つのポッドで約250回の吸い込みが可能なのですが、「1本ビエントを吸い切るまで、どんなに吸いたくてもタバコは吸ってはいけない」という条件づけをすることで、タバコを遠ざけることができました。
これは「タバコを吸う」という習慣に「別の何かを吸う」という習慣をぶつけ、拮抗させるテクニックです。
口は1つしかありませんから、2つの「吸う習慣」を並行することはできません。
その結果、ビエントを吸っているうちに、強い喫煙欲求は通り過ぎていくのです。
結局、彼は旅行中に禁煙を開始し、半年経過した現在までタバコを吸わずに生活しています。
旅行中、彼に働きかけながら、私は自信を深めていました。
というのは、さまざまな研究をベースにした心理的介入を使った禁煙法が、実際に十分な効果を発揮すると確認できたからです。
本書の使い方「◯◯ダイエット」のように1つのやり方だけにこだわった方法は、習慣を変える力がないため、短期的には成功しても、長期的にはうまくいきません。
本書を読み進める上で大事にしていただきたいのは、1つの手法だけでは禁煙は成功しないという視点です。
これを理解していただいた上で、さっそく、あなたの「やめたい」という願いを叶えるために、次章以降から複数の「禁煙法」を紹介していきたいと思います。
本書ではこれらの中から自分に合ったものを実践していただくとともに、その実践と成功の助けとなる「メンタルテクニック」も紹介していきます。
これらを組み合わせ、「タバコを吸うという行為」「吸いたいという欲求」を遠ざけていきましょう。
大丈夫、必ずうまくいきます。
COLUMN加熱式タバコは紙巻きタバコよりも害が少ないのか?最近、「タバコはやめていたんだけど、加熱式のタバコを買って吸い始めた」という人が増えています。
加熱式のタバコは、電気式の専用器具で葉タバコに熱を加え、発生させた蒸気を吸うしくみです。
日本国内では、フィリップモリスの「アイコス」やブリティッシュ・アメリカン・タバコの「グロー」、JTの「プルーム・テック」の3種類が販売されています。
特徴は灰や煙が出ず、紙巻きタバコに比べて臭いが少ないことです。
タバコ各社は健康への影響が小さいとも主張し、なかでも「アイコス」の発売元であるフィリップ・モリスは「紙巻きタバコの煙に含まれる化学物質は6000種類以上。
アイコスはその中で、WHO(世界保健機関)が特に有害、またはその可能性があると定めた9種類の化学物質(ホルムアルデヒドや一酸化炭素など)を、紙巻きタバコに比べて平均9割削減」としています。
とはいえ、第三者機関による加熱式タバコの検証はまだまだこれからです。
数少ない研究の1つで、スイスのベルン大学の研究チームがアイコスの有害物質について調査した論文は、紙巻きタバコに比べて有害物質の量はある程度減っていたものの、一部の有害物質の削減率に関しては、タバコ会社の研究とは大きな差があると指摘し、発がん物質であるホルムアルデヒドの削減率に関しては、9割減ではなく、26%減にとどまっていることを明らかにしました。
また、煙が出ないため、受動喫煙のリスクが下がるという説にも「煙が見えないだけで、加熱時に発がん物質が周囲に漏れている」という指摘もあります。
つまり、現時点では「加熱式タバコはデータが少ないから体に悪いとは言い切れない」というだけで、正確なことはわからない、というのが正直なところです。
ちなみに、紙巻きタバコの悪影響についての研究が出揃うには20~30年かかっています。
加熱式タバコの体への影響がはっきりするまでにも、同程度の期間が必要になるでしょう。
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