第2章環境整備された空間に宿る力
環境整備された空間に宿る力とは?
私は人混みの多い場所に長時間いたり、繁華街を歩き過ぎたりすると、とても疲れてしまうのですが、そういう時には、最上級のホテルに行くようにしています。
東京だと、一倉先生も愛用していたパレスホテル、日本橋のマンダリンオリエンタル東京や品川のストリングスホテル東京インターコンチネンタルなどのラウンジに避難します。
するとその空間に入った瞬間、ぱっと視界が明るくなり、頭の中もスッキリして、短時間で疲れが取れるのです。
清潔に保たれている美しい空間に入ると、私たちは体と心に心地良い何かを感じます。確かな影響を感じているのです。
私は、これまで20年以上にわたり、この環境整備された空間が持つ力について研究してきました。
実際に、個人宅から企業、学校、病院、宗教施設まで指導してきた中で、体感した空間の力について、一倉式環境整備によって起こった奇跡の実例をもとにして明確にしていきたいと思います。
環境整備された空間にはどんな力が放たれているのかを考えながら、一倉先生の次の実例を読んでみましょう。
■環境整備された空間の力①……「集中」の力 仕事が増えて、時間も増える?結果お金も増える?
P社の場合もそうであった。残業をしなければならないほど忙しいのに、毎日一時間を環境整備に費やすのである。管理職の人は当然反対する。
「そんなことをしたら生産が落ちます」と。この時の社長の正しい指導は「遅れてもいい」である。
環境整備を就業時間中に一時間行って生産が落ちた会社は、私の経験では一社もないからだ。
逆に上がってゆくことを私は知っている。P社も生産がジリジリと上がりだした。毎月の実績を見て、当の管理職が「不思議だ」という始末だった。
その年の十一月に、注文殺到で例月の三〇%以上の増産を行わなければならない状態だった。それを立派にこなしてしまって、まだ余裕があったのである。
従来なら、工場の中は戦場のようになったのに、全くそれがないばかりか、みなのんびりとして今にも鼻歌でも歌い出しかねない雰囲気だった。
社長も製造部長も「全く不思議だ。とても本当とは思えない」と私に語って下さった。まず生産において革命が起ったのである。
一倉定の社長学第9巻『新・社長の姿勢』より
いかがでしょうか。残業しなければならないほど忙しいP社は、毎日1時間の一倉式環境整備を導入します。普通じゃないですよね。
残業の必要があるのに、1時間の環境整備をするのですから。しかも就業時間内にするわけですから、単純に考えると、さらに残業が1時間増えることになります。
これは管理職としては残業代がかさみ、納期が遅れるわけですから、猛反対するのは当然でしょう。
社員にとっても精神的負担が大きいに違いありません。ところが、です。生産性は例月の30%も上がったというのです。
そしてさらにゆとりが出て、のんびり仕事をしているというのです。これはいったいどういうことなのでしょうか。何が起こったのでしょうか。
環境整備を導入すると、1日24時間が48時間に増えるのでしょうか?もう一つの実例も紹介しましょう。
タワーの完成が間に合わない→最も早く完成へ
S社は、あるサッシメーカーの下請である。福岡市で、ヨカトピアと称する博覧会を開催した時に、親会社がシンボルタワーのサッシを受注し、これをS社に作らせた時のことである。
S社は、数年前から私の勧めで環境整備を真剣になって行っており、親工場がビックリする程の徹底ぶりだったのである。
環境整備で生産性向上と不良減少という、ダブルメリットを享受していたのである。
完成したサッシを会場に持込んだ時に、タワーの周囲には工事を担当するたくさんの会社の機械や部材が持ちこまれていたのだが、それらの機械、部材は乱雑に置かれていた。
S社の社員は、自らの部材をキチンと整理して置いたのが、他社があまり乱雑なので、見かねて他社のものまでキチンと揃えたのである。
他社の社員は、それをケゲンな面持ちで眺めているだけだったという。ビックリして成すこともなかったのである。
ところが、仕事にかかって、それらの会社は一様に仕事がスムースに行くことに気がつき、S社に感謝したという。
そのために、S社は、タワー工事会社のリーダーのようになってしまったという。
~中略~
博覧会の当事者は、はじめ、シンボルタワーの工期が最も長くかかり、開会に間に合わないのではないかと予測していたところ、何と最も早く完成してしまったのに唖然としてしまったり感心したりであったという。環境整備の威力がこれなのである。
一倉定の社長学第9巻『新・社長の姿勢』より
1989年の福岡市で行なわれた博覧会のシンボルタワー建設の話ですね。さまざまな施設の建設の中でも、シンボルタワーの完成は開会に間に合わないと予想されていたのが、S社の環境整備によってどこよりも早く完成したということです。
1時間の環境整備によって、なぜ時間短縮が起こるのか?
ここでも作業スピードが上がり時間短縮が起こっているのです。一倉先生の実例では、会社組織ではありますが、この法則は個人にも当てはまります。
私自身の体験では、そうじ力の本がヒットしたおかげで、出版依頼が殺到した時期がありました。一番多い年は新刊を12冊出版したことがあります。
完全に個人の能力を超えていましたが、この時も振り返れば、仕事部屋の環境整備を毎日欠かさず行っていました。
※自分の部屋も環境整備すること。
ちなみに、出版1冊目の執筆には、時間がないことを理由に環境整備を怠っていました。そのため出版までに1年以上かかってしまいました。
会社においても個人においても、環境整備を行うと、生産性が上がり、時間にゆとりができるのです。
多くの人は、時間がないから環境整備できないと考えるのではないでしょうか。本屋へ行くと棚には時間管理の書籍が積み重なっています。次から次へと出版されます。
一倉先生に言わせれば、「そんなに時間に追われているなら環境整備をしなさい!それで解決する!」と一喝されるに違いありません。
ただ「仕事に追われて時間がない」と困っている人に、「そんなに忙しいなら、毎日1時間一倉式環境整備を実践するといいよ。そうすれば仕事も進むし、時間にもゆとりができるよ」と説得するのは難しいですよね。
教えてあげても、「それはいいことを聞いた。明日からやってみるよ」とはいきませんよね。だって時間がないのだから。時間がない人に、1時間環境整備をやってみることを勧めるのは一見、逆説に思えますが、実際はそうではありません。
生産性が上がりさらに時間にゆとりができるのです。その理由をこれから解き明かしていきます。答えを出してしまえば当たり前のことになりますが、これはぜひとも知っておいていただきたいのです。
それは、どんなスケジュール管理よりも有効な時間短縮法であり、日々成果を上げ続けようと思っているリーダーにとって最大の武器になります。それでは答えです。
環境整備がされている空間は「集中」の力が発揮されています。なぜ集中か。
それは、いらないものが捨てられ、必要なものの置き方と置き場所が決められた空間は、達成すべき目的に対して迷わなくなるからです。やるべきことが明確になり、目標に対して集中して取り組むことができるのです。
生産性が上がる原理原則
例えば、私がこの本を執筆しているデスク周りは、一倉先生の本しか置いていません。スマホも持ち込まないようにしています。
すると、プライベートでいろんな体験をしても、人とたくさん会ったり、大変な仕事をしていたとしても、この空間に入ると、雑念が取り除かれ、短時間で集中モードに入ることができます。
歴史作家の宮城谷昌光先生は、『三国志読本』(文藝春秋)の中で、作品ごとに部屋を変えていると語っています。
5つの連載があると5つの部屋を使うのです。三国志を執筆するために、三国志の専門の部屋を作るというのです。
最初は大変らしいのですが、その作品の気が部屋に宿ってくると、すらすらと書かせてもらえるようになるのだそうです。
会社組織で見ると、100人の社員がいれば、仕事が終わって週末になれば100人それぞれの時間を過ごします。
仕事から離れて家族と過ごしたり、映画を見たり、スポーツをしたり、休日の過ごし方は人それぞれです。
休み明けだと月曜日は仕事に集中できませんよね。なかなか仕事モードになりません。100人がみな仕事に集中できなければ、生産性は大きく落ちます。
ここで環境整備を導入している会社であれば、月曜日の朝は環境整備から始まります。プライベートでの雑念が取り除かれ、短時間のうちに今日やるべき仕事が明確になり、集中して作業に取り組むことができます。
毎日環境整備することで毎日仕事に集中できますから、生産性は上がっていきます。
環境整備がなされている空間には「集中」の力が宿っていることを理解していただけましたでしょうか。「集中」の力が、無駄な時間を省き、生産性を上げるのです。
※一部でも環境整備がされていない部分があったら気になり続ける。
乱雑な空間に宿る力も知っておこう
では逆に、環境が整備されていない乱雑な空間はどうなのか。そこに宿る力についても、簡単に説明しておきましょう。
例えば、こんな経験をしたことはありませんか。
「そうだ、今日は掃除をしよう」と思いついて、部屋の大掃除をしたところ、いらないものを捨てるために書類や雑誌を出し、洋服を出したりします。
気がつけば、雑誌を読みふけったり、休憩でトイレに行けばトイレ掃除をしたり、洗面所の鏡を磨いたり、すべてが中途半端のまま時間だけが経ち、夕暮れ時にはヘトヘトに疲れ、ただただ部屋がぐちゃぐちゃになったという経験がありませんか。
なぜ、こんなことになったと思いますか?これは、乱雑な部屋が持つ力を浴びたからなのです。その乱雑な部屋が持つ力とは、「分散」という名のエネルギーです。
※一部でもこの乱雑な部分があれば分散してしまう。
捨てようと思っているにもかかわらず、なくなれば困る気がするし、これは捨てるにはもったいないなと思って、結局どれが必要で必要でないかがわからなくなってしまうのです。決断ができないわけです。
こういった、乱雑な空間が放つ分散エネルギー、あれもこれもエネルギーを浴びると、あっちも気になりこっちも気になるわけです。
そしてどんどんあなたのエネルギーを分散させ、片づくどころかヘトヘトに疲れてしまいます。そして、すべては中途半端で終わってしまうのです。
私は、多くの個人宅を見てきましたが、成功し続けている人の家は、ものが少なく清潔さが保たれています。
特徴的なのは、なぜ、このものを所有しているか、一つひとつ理由がはっきりしています。
収納棚の中やクローゼットもきれいに整頓されています。その部屋にいるだけで頭がスッキリしてきて、仕事がバリバリできる感じになります。
まさに「集中空間」になっているんですね。逆に、なかなか成功できないでいる人の部屋は、乱雑で汚く、ものの量も多いのです。
所有しているものも、何となく買ったものが多いです。
以前は私もこのような部屋に住んでいたのでわかるのですが、何をやっても長続きがしなく、挫折が多く、今振り返ると、乱雑な部屋にエネルギーを分散させられていたのがわかります。
実際に、プリンストン大学神経科学研究所によると、乱雑な環境下では、集中力が低下し、注意力が分散するという研究報告があります。
会社の空間に乱雑なデスクの人が一人いるだけで、周りの人の集中力を低下させ、分散思考にさせる影響があるというのです。つまり、仕事の生産性を下げる行為でもあるのです。
個人で仕事をしているクリエイターにせよ、会社組織で仕事をしているにせよ、リモートワークをされている方でも、環境整備された空間では「集中」の力を発揮することができ、仕事の生産性を上げます。
一方、乱雑な空間は「分散」の力を発揮し、仕事の生産性を下げるのです。ぜひとも環境整備によって「集中」の力を手に入れてください。
■環境整備された空間の力②……「信用」外国との取引がたった1回の視察で決まってしまう
環境整備された空間が持つ2つ目の力について解説していきます。この力の威力に気がついた人は、今後の経済活動によって、大きな資産形成をすることができるでしょう。
まずは、一倉先生の事例を読んでいきましょう。K社は鋳造工場である。K社長と熱海から川崎駅までの車中で、環境整備の話を申しあげた。
熱海セミナーの帰途だった。それから数カ月たった頃、K社長から、えらくお礼をいわれた。
私の勧めで環境整備を徹底的に行ったところ、会社が生れ変わったというのである。鋳造工場というところは、明けても暮れても砂をかき回している。
粉塵の中で作業をしているのだから、環境整備といっても容易なことではないのに、「よくぞ」というのが私の感じである。
~中略~ある時、アメリカの会社から契約の話があり、先方の社長がわざわざ会社に来られた。
工場をご覧にいれたところ、あまりにもキレイで整然としているのに深く感銘されたという。
そして、社長室に戻ってこられたその社長は、「あなたの会社のことは何の説明も聞く必要はない。立派な工場が総てを語っている」とたいへんな褒めようだったという。
そして、「あなたの会社と契約することに決めた」と。たった一回で話がまとまってしまったのである。
一倉定の社長学第9巻『新・社長の姿勢』より
環境整備された空間を視察しただけで契約が決まったという事例です。何とも奇跡的な事例です。しかも海外の企業です。まず驚くのは「環境整備」の力は言葉の壁、人種の壁を超えるということです。
私も環境整備のコンサルタントをしていると、トイレを見ただけで1億円の融資が決まったとか、工場を1度視察しただけで3億円の融資が決まったなど、そのような話が頻繁に出てきます。
ここでは、環境整備によってどのような力が発揮されたのでしょうか。
あなたはどのように考えますか?ビジネスの世界では最も必要でありながら、簡単には得られない重要な力が発揮されたのです。
そうです。もうおわかりですね。環境整備された空間に宿る力の2つ目は「信用」の力です。
しかし考えてみて欲しいのです。融資が決まる時の話というのは実際、数千万円から数億円というお金が動いているのです。
大変なことです。それが環境整備された空間に宿る「信用」の力によって成されてしまうのです。
お金とは信用の数値化である
お笑い芸人で絵本作家、映画監督でもある西野亮廣氏は、『革命のファンファーレ』(幻冬舎)の中で、お金についてこのように定義しています。「お金」とは信用を数値化したものだ。
たとえば、魚を100匹売りさばいた時に「この人は魚を100匹売りさばいた信用のおける人ですよー」という「信用証明書」が貰える。~中略~言うまでもないが、この信用証明書の名前が「お金」だ。
『革命のファンファーレ』西野亮廣よりお金は信用を数値化したものだ、つまり信用はお金に変換できるということですが、このお金を変換できる信用の力こそ「環境整備」から生まれるのです。
先ほどの事例のように、環境整備された空間で1億円の融資が決まれば、その空間から発せられた「信用」の力の価値が1億円、ということになるのです。
つまり、その会社は1億円の空間を所有していることになるのです。これは全く税金のかからない資産ですね。信用空間税というものが作られれば別ですが。
仕事をする空間が、環境整備によって「信用」という付加価値が付き「資産」に変わるのです。
信用はどのようにして作られていくか?
ところで、信用はどのようにして作られていくとあなたは考えますか?実は信用は正直さから作られています。
つまり、嘘をつかない習慣から作られていくのです。日々、嘘をつかないで正直でいようという積み重ねによって信用力が増していきます。
そういう意味では、環境整備を日々行うことは、毎日正直であることの確認でもあるのです。
例えば、毎朝環境整備をやるぞと決めても、日によっては面倒なこともあります。
十分キレイだし一日くらいやらなくてもいいじゃないかという誘惑がやって来たり、やり始めてみれば、あまり人目につかないところに汚れを見つけてしまい、取るか取らないかで悩むこともあります。
「まあいいか」を乗り越えて、「見て見ぬふりをしないぞ」と自分の心を誤魔化さない正直さが勝ると、汚れを取る行動が起きて、その結果、汚れが取れたという成果が空間に現れます。
たとえ些細なことでも、このような葛藤を乗り越えて、毎日コツコツと積み重ねられた正直さの行動の結果、空間には「信用」の力が発揮されるのです。
ですから信用空間を作るためには、毎日コツコツが必要になってきます。覚悟を決めて毎日コツコツ環境整備をしていったら、その力は絶大になっていきます。
例えば、とあるレストランに行ったとします。
そこは環境整備が行き届いていて、とても気持ちが良かったので、ぜひまた訪れたいと思いました。
それから1ケ月後に、再び来店した時に、ゴミが落ちていて、テーブルも拭かれていなく匂いも臭かったら、一気に幻滅して、その店への信用がなくなってしまいますよね。このお店に何か問題があったのだろうかと思いますよね。
初めて来店した日から10年通い続けている、いつ行っても清潔で気持ちのいい空間を維持しているお店は、信用パワーがすさまじいに違いありません。
環境整備はやり始めの時こそ大変さがあるかもしれませんが、毎日していると不思議と苦ではなくなります。使わないものはなくなりますし、汚れも埃も取り除かれます。
※常に環境整備をしていると楽になっていく。維持するだけになる。
常に清潔さを保つための行動は、習慣化されてしまうので、さほど労力もかかりません。しかも、労力が減る一方で積み重ねている信用の力は日々増していくのです。
まさに、お金を貯めるのに似ていますね。
あなたのオフィス、あなたの仕事部屋からは「信用」の力は出ていますか?そして、その信用はいくらの価値を持っていますか?ぜひ、環境整備で空間に信用の力をつけていきましょう。
さて、もう一つ、環境整備がもたらす「信用」、「信頼」のお話を一倉先生のご著書からご紹介しましょう。
環境整備が町内の人たちとの信頼関係を築く
ある日、社員の代表が二名で社長の前に立った。社長にお願いがあるというのだ。
社員のお願いというのは、「気がついてみたら、会社の周囲の方々に迷惑をかけていた。大きなトラックが出たり入ったりする。残業の時はプレス工場だけに騒音公害である。だから、せめてものおわびとして、月に二日、全員で早出をして町内の清掃をしたい」
というのである。むろん、社長はOKである。P社長は「こんな嬉しかったことはない」と私に語った。
当日は全員七時に集合し、男子は清掃、女子は朝食の仕度である。清掃が終ると全員揃って食事である。
これを始めたら、周囲の町内の人々の態度が変わってしまった。社員の清掃時間に合わせていっしょに清掃を始めた人もいる。お茶を入れてくれる人がいる。
というようなわけで、社員と町内の人々との素晴らしい人間関係が生れたのである。
~中略~しばらくして、P社は工場の一部を建て直すことになった。
平屋を三階建にするのである。こういう場合は付近の人々が反対して承諾をとるのに難航するのが普通である。ところが、である。
町内の代表の方々に会社にお集り願って、社長は図面を広げて説明したところ、代表の方々は、その場で簡単な相談をしただけで、「あと一メートルだけ建物を引っ込めていただきたい。そうすれば町内の方々へは私どもが説明して了解をとります」と即答である。
~中略~環境整備のお陰で、P社は町内の人々との優れた人間関係が生れ、何の心おきなく仕事を続けることができるようになったのである。多くの場合に、工場移転でもしなければ増産できないのに、である。
一倉定の社長学第9巻『新・社長への姿勢』よりとてもいい話です。
社員の方から社長に、町内の清掃を申し出ました。
いかにこの会社の社員が、仕事をさせていただくことに対して感謝をしているのかわかりますね。
町内清掃を続けていく中で、この広い範囲にも環境整備による信用の力が及んでいきます。これによって、町の人たちの態度までも変わってしまいました。
そして、工場の一部を建て直す時には、町内の人たちが協力者になりました。また、P社は、町内の人たちに感謝をして、信頼関係は深まっていきます。
ここで、先ほど西野亮廣さんの言葉を引用させていただきましたが、もう一つ、紹介させていただきます。
彼は、渋谷の大掃除をしたことでご存知の方も多いことでしょう。
2014年から渋谷を中心にハロウィンパーティー、コスプレパーティーが始まって毎年開催されていますが、実は2014年に初めて開催された次の日、渋谷はゴミの山となりました。
街のあちこちにゴミが散乱する惨状となったのです。これは海外にまで報道されてしまいました。日本の若者のモラルの低さを印象づけるものとなってしまったのです。
しかし翌年、西野さんを中心に、ゴーストバスターズのコスプレで、ゴミ拾いイベントを企画し、開催。
総勢700人が集まり、渋谷中のゴミを拾うイベントをしました。
2015年、渋谷が一番キレイだったのはハロウィンの翌日だったということになったのです。
このゴミ拾いイベントは、その後、さまざまな企業やボランティアが参加して、渋谷ハロウィンの一大イベントになりました。日本は再び世界に向けて信用を発信することになりました。
■環境整備された空間の力③……「オーラ」の力 時空がねじ曲がり奇跡が起きる力の正体?
一倉式環境整備の実例を通して、空間に宿る第一の力として「集中」、第二の力として「信用」、の2つの力を紹介しました。
この2つの力は目には見えませんが、解説を聞けば、合理的であり、かつなるほどと納得をしたことと思います。
さて、最後に紹介する環境整備された空間に宿る3つ目の力は、この2つの力に比べて飛び抜けています。
しかし、この力が発揮されれば、奇跡は日常茶飯事、企業の発展繁栄は約束されるでしょう。
一倉先生は、この力を幾度となく体験し受け入れていました。そして、しっかりと実例にも記されています。まずは、こちらをお読みください。
F社長は、「毎日一時間の環境整備は、我社で最も生産性の高い時間です。これによって、従来より三○%もの増産ができるのですから」というのである。
この、一点非の打ちどころもないような環境整備は、F社に奇跡をもたらした。F社から四百キロも離れたメインの得意先S社の購買部長が突然来訪され、環境整備の見事さに深く感銘されたのであろう。
部長が帰社するや否や仕事がドッと持ちこまれた。続いてD社の外注課長が来社し、途端にD社からの仕事が増えだした。
その他、大手の四社ほどから新たな仕事が次々と持ちこまれてきたのである。この不思議な現象は、単なる偶然とはどうしても思われないのである。
整備された建物からは建物の精が、磨き抜かれた機械からは機械の精が、清浄で強力な精気(オーラ)を発し、これが遠く四百キロも離れた得意先にまで届いたからだ、と解釈したいのである。
そんなことがある筈がないといわれようが、こうした現象を他にも見ているのである。
一倉定の社長学第9巻『新・社長の姿勢』より
一倉式環境整備を行うことで、30%もの増産ができたF社に、次から次へと仕事の依頼がやってきた話です。
これは環境整備された空間に宿される最大の力であると言えます。ここまで来ると、宣伝広告もいらないのではないかと思うほどです。
時空間がねじ曲がったように、商売繁盛のうねりがやってきます。まさに奇跡が日常茶飯事になります。この力の正体こそが、「精気」(オーラ)の力なのです。
※精進、精進といってもいいかも。
「整備された建物からは建物の精が、磨き抜かれた機械からは機械の精が、清浄で強力な精気(オーラ)を発し」とあります。
そして、そのオーラが、400キロ離れた得意先まで届いて、仕事が舞い込んだということです。
環境整備された空間に宿る力の3つ目は、この「オーラ」の力です。
もう一つの実例もご紹介しましょう。N氏は、タクシー会社の社長である。私のゼミに参加して環境整備の話を聞き、自社にも導入した。すると、N社でも不思議なことが起こった。タクシーのお客様が増えはじめたのである。
その上、月一回の特別整備の日には、ハイヤーの注文電話が鳴りっぱなしなのである。私がお伺いした時に、N社長は、その不思議な現象の説明を私に求めた。
私の答えは簡単だった、「それは、整備された車からでる〝オーラ〟のためですよ」と。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
このタクシー会社も月1回の車の特別整備をした時に限って、注文電話が鳴りっぱなしという現象が起きています。その不思議な現象について、一倉先生は、車から出るオーラのためだ、と言い切っています。
一倉先生自身も最初は、環境整備から起こる奇跡の数々を信じられなかったそうです。ただ実際に、さまざまな業種の会社で起こる説明のつかない実例を目の当たりにして、このオーラの力を受け入れるようになったようです。
環境整備された空間に宿る「オーラ」の力が起こす奇跡とは?
環境整備された空間から「オーラ」の力が発せられると、理屈を超える奇跡的な現象が起きます。
前述した2つの実例に共通しているのは、注文が殺到するということです。宣伝したわけではないのに、お客様からの注文が殺到するのです。
最近私もこのような体験をしました。そのエピソードをご紹介します。自宅から10分ほど歩いたところに、古民家を改装した珈琲専門店がオープンしました。コーヒーが大好きな私は早速行ってみました。一度目は普通に美味しくいただきました。
まだオープンしたばかりで、お客様が私しかいなかったので、やっていけるのかなと心配になったんですが、店内はよく掃除されていて、気持ちのいい空間でした。
それから3ケ月後にもう一度行きました。二度目は前回よりもより美味しく感じました。お客様も数人入っていました。それからなんです。
家に帰った後も急にそこのコーヒーが飲みたくなるのです。そこのお店に行きたくなるのです。それで週末に行ってみると、何と行列ができていました。
並んで待って飲んだからかもしれませんが、三度目のコーヒーはさらに美味しかったのです。この珈琲店は、見事、オーラの力を手に入れたのでしょう。
客側としては、何となくあの店のコーヒーが飲みたくなる、行きたくなるなど、インスピレーションを受けている感じがします。
商売繁盛の神様がいて、あのお店のコーヒーは美味しいから行ってみなさい、と宣伝しているようにさえ思えます。晩年には一倉先生はオーラが見えていたという話もあります。
これは、生前一倉先生から直接指導を受けていた社長さんから聞いた話で、今となっては確認ができませんが、赤字会社の社長が環境整備の指導を一倉先生から受けて、一生懸命に会社を磨いたにもかかわらず点数は20点という落第点数。
あとがないということで死にものぐるいで磨きに磨いていたところ、自分の心配ばかりして、お客様の立場を全く考えていなかったことに気が付き、反省をして心を入れ替えたそうです。
最終指導のため一倉先生がその会社に向かいましたが、「もう指導することはない」と、途中で引き返したというのです。
その理由が、「あの会社にはオーラの柱が立った」ということでした。その後、その会社には注文が殺到して見事に黒字化したそうです。そんなエピソードが残っています。
クレームが消え、感謝に変わる空間
オーラの力について、もう少し触れておきましょう。これは、最近ではベストセラーも出している大手英会話スクールのM社長の話です。M社長は、そうじ力を大変よく実践してくれていました。
その縁で当時は、セミナー講師として何度か呼んでいただいたのですが、その社長が大切にしている空間というのが、お客様が来られた時に対応する部屋なのです。
その部屋は、社長自ら毎朝、お客様に感謝を込めて拭き掃除をしているというのです。
私は、その空間に入っただけで、感動して胸が一杯になりました。まさにオーラが宿っている空間です。ある時、クレームを言いに来られたお客様をこの部屋に通したそうです。
クレームを言ってくれるお客様こそ、会社の足りないところを教えてくれる大切なお客様なので、一番大切な部屋にお招きするそうです。
その部屋に入った途端、お客様から怒りが消え、クレームよりも会社の良さを語り、最後は感謝の言葉を言って帰られたというのです。怒りが、オーラの力で感謝に変わったということです。
企業以外では、いじめや不登校など生徒間の問題が絶えない学校で、環境整備を徹底したところ、いじめや不登校がなくなったばかりではなく、全体的に学力が上がった実例も数多くあります。
個人的な話では、罵り合い、啀み合っていた離婚寸前の夫婦が、せめて最後くらいは部屋をきれいにしようと徹底的に掃除したら、お互い手を取り反省し、以前よりも仲が良くなったというケースを私は何人も見てきました。
この他にも、アイデアが降ってくる空間を作っている会社もあります。その部屋はいつもきれいに掃除されていました。その空間で作ったサービスや商品からは、ヒット商品が数多く生まれているのです。
お客様が殺到する力、クレームや憎しみが感謝に変わる力、マイナスを消し去る力、ヒット商品が生みだされる創造する力、と「オーラ」が宿る空間には、あらゆる願いが、即、実現してくる力があると言えるでしょう。
神社から学ぶオーラを宿す空間作りのヒント
オーラが宿る空間といって、私が一番最初に思いつく場所は、神社の境内です。鳥居をくぐり石段を登って境内に入ると、そこには、何とも言えない静かで凛とした空間が広がっています。
数年前、伊勢神宮で特別参拝をさせていただいたことがあります。通常は、御帳と呼ばれている白い布の前で参拝しますが、特別参拝はその奥に入って参拝することができます。
真っ白な玉砂利を歩きながら、心の純度が上がっていくような不思議な体験をしました。
私たち日本人にとって神社は馴染みのある場所ですが、この神聖な空間を作るためにさまざまな工夫がなされています。
神社の入り口にはシンボルである「鳥居」が建っています。「鳥居」は、ここから先は神様の領域だということを現しています。
多くの鳥居は朱色ですが、これは仏教から伝わってきたもので、魔除けの力がある色だそうです。
また鳥居の手前には狛犬がいますね。その狛犬が吠えて邪霊を威嚇し寄せ付けないという意味があります。
そして、石段があります。この石段も、天界にいる神様のもとに行くという意味を表していると言われています。
1段登るごとに心の汚れを取り除き、天界に入る準備をします。手水舎で口の中をすすぎ手を洗うことで、心と体の穢れを取ります。
ようやく参拝所です。上にはしめ縄がありますが、これはこの先は神様の領域なので不浄なものは入れませんよという結界の役割をしています。
先の最も尊い御正殿までも、真っ白の玉砂利が敷かれていたり、さらにいくつもの結界があったりします。
伊勢神宮では、石段の代わりに宇治橋を渡り、手水舎の代わりに五十鈴川で手を洗います。そして、式年遷宮では、20年に一度、社殿を始め、宇治橋などが建て替えられます。
清められた神聖な空間を作るためにそこまでするのですね。
その目的はオーラを宿すためで、神様が私たちの願いを叶えるために最大のパワーを発揮するためなのかもしれません。
神聖な空間で思い出しましたが、以前チェコとオーストリアに、聖なる空間を求めて旅をしたことがあります。
楽しみにしていたプラハの大聖堂はゴシック建築の迫力は感じたものの、内部に入ると全く聖なるエネルギー、オーラなんて感じませんでした。
しかし、飾り付けがされていない、ヤン・フスが活動していたベツレヘム礼拝堂のほうが感動し、ウィーンでは街のハズレの小さな教会で涙が止まらなくなった経験をしました。立派だからオーラが宿るわけではないことを改めて感じました。
オーラについて、私自身、研究をさらに進めなければならないことを、今回一倉先生の本を熟読し、改めて決意しました。
オーラを宿す空間の作り方を教えてくれる映画
さて、この章の最後に、ある映画の話をしましょう。空間とオーラと商売繁盛というテーマがよく描かれている映画です。
それは小林聡美さん主演の映画『かもめ食堂』です。
観たことがある方は、どこにオーラが出てきたかな、と思うかもしれませんが、実はオーラの作り方がとてもわかりやすく描かれた映画なのです。
主人公のサチエがフィンランドのヘルシンキで、「かもめ食堂」という日本食の食堂をオープンさせ、繁盛させるまでの物語です。
サチエは毎朝お店を開けて環境整備から始めます。夜、日課の合気道の座り技の膝行型をします。
また翌朝、お店を開けて掃き掃除し、テーブルを拭いて、グラスを磨くことを、毎日繰り返します。
ひと月経った頃、ようやく1人の青年がやって来ます。記念すべき初のお客様ということで、彼には毎度コーヒーは無料にします。
そこに旅をしていたミドリがお手伝いで加わります。お客様が来る前にスタッフが増えたわけです。
ミドリは、何とかお客様に来てもらうために、現地の食材を具にしたおにぎりを作ったりするのですが、上手くいきません。
サチエは、焦る様子もなく、毎日淡々と日常を繰り返します。
心を込めてコーヒーを淹れているうちに、1人、2人、とお客様が入り、最初は旅行できたお客様だったマサコもスタッフになり、少しずつ常連さんが増えて、気が付けば満員になりました。
最後、サチエは満足げに店内を眺め、「ついに、かもめ食堂が満員になりました」とつぶやき、めでたしめでたしと物語が終わります。
この映画は、癒し映画として非常に人気があるのですが、実は見方を変えれば、一倉先生の言うところのオーラの柱の作り方をよく現した映画でもあるのです。
注目すべきはサチエが合気道の膝行をするシーンです。サチエは小さい頃から合気道を習っているので、気の流れを知っているのです。
かもめ食堂は、サチエから発せられた気の流れが、大きくなっていく有様を描いているのです。だから、お客様が入る前に必要なスタッフが集まって来ます。
物語として描かれているのは淡々とした日常ですが、「氣」はかもめ食堂に日々満ち満ちて来て、やがてオーラの柱を立てます。
かもめ食堂が気になっていた人たち、口コミで知らされた人たちが次々やって来て満員御礼、商売繁盛です。
原作小説を書いた群ようこさんは、本当のことがわからなくなっている時代だからこそ毅然とした日本人を描きたかった、とインタビューでおっしゃっていました。
ぜひこの映画を観てオーラを宿す空間の作り方を学んでください。
コラム実現不可能なことこそ目標に掲げるべきだ!
一倉先生は、昨年刊行された『マネジメントへの挑戦【復刻版】』(日経BP)の中で、計画についてこのように定義しています。
実現不可能にみえ事実に立脚せずムリがあり非科学的なものであり納得がいかないものなのであるこれが1965年に出版された本に書かれていることも驚きですが、社長専門の経営コンサルタントが、このように計画を定義しているのも驚きです。
- 世に言われている計画というものは、実現可能なものでなくてはならない
- 事実に立脚したものでなくてはならない
- ムリとムダがあってはならない
- 科学的でなくてはならない
- 納得の行くものでなくてはならない
- 事業における計画は、堅実でなければならない
ので、こちらのほうがしっくりきますよね。
しかし、一倉先生は、この常識的な計画を完全に否定しているのです。
このような考え方が、ほとんど、なんの疑いももたれず、反論もなく受け入れられているのは不思議な現象である。
同時に、おそるべき現象である。筆者(一倉先生)にいわせれば、全部ウソである。全部まちがいである。
いや、ウソやまちがいで事がすむのなら、まだ救われる。それは、われわれの魂をむしばむ麻薬であり、会社を毒する考え方なのである。
これらのことばのもつ、もっともらしさは、文字どおりわれわれの心を快く酔わせ、さらに、これを信奉することによって、当然しなければならない努力を、しなくてもすませることができるのであるから、なまけ者にはありがたい。
責任のがれの〝かくれ蓑〟なのだから、一度使ってその味を知ったら、もはや絶対に手放せなくなる。麻薬でなくてなんであろうか。
『マネジメントへの挑戦【復刻版】』より
実現可能な計画は、魂をむしばむ麻薬だということです。たしかに、実現可能でムリムダがないものというのは、過去の実績をもとにした計画です。それをもとにしていたら進歩と革新は生まれません。
一倉先生は、進歩や革新は、過去の実績を乗り越え、過去の理論を否定するところに生まれるのであり、優れた計画は、こうした過去の実績や事実とは本質的に無関係である、と言っています。
実現不可能で、事実に立脚せず、ムリがあり、非科学的なものであり、納得がいかないものって、これはもう、夢とロマンです。
※目標設定の方針に記載する。
空を飛べなかった私たちは、失敗を繰り返しながら飛行機を作り、空を飛べるようになりました。
鳥のようになりたかったからです。過去の実績をもとにしていたら、そのような進化はしなかったでしょう。
空を飛べるようになった私たちは、次に月を目指しました。もちろん行ってみたかったからです。
近年では手のひらに収まるスーパーコンピュータで私たちは世界中の人たちとつながりました。
タイムマシンも実現する日は近いことでしょう。人類が成してきたことは、実現不可能と思えることばかりなのです。
現状を打破してこそ、革新的未来を創造することができるのです。一倉先生は、その力を経営者に与えたのです。それはなぜか。
社長こそ、未来の事業を創り、未来に富を生み出し、多くの人々を感化する創造者であるからです。
「塵を払わん、垢を除かん」──この言葉は、ひとつとしてものを覚えられない〝シュリハンドク〟」に、お釈迦様がお与えになった言葉である。
彼は、この言葉をくり返しながら、黙々として掃除をすることによって、誰にも負けない「悟り」を得ることができた。掃除をしているうちに、心の塵、心の垢を取り去ることができたのである。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より
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