「相対評価」にするか、「絶対評価」にするか?「昇進昇格、降格」のルールを決めよう
1評価が明確でないと従業員のやる気は落ちる
◆給与計算担当者が泣き出した理由本書の冒頭で、給与制度と人事評価制度の見直しと変更が必須であると述べました。
ですが、制度を変更するだけでは十分ではありません。
従来の評価制度にどのような問題があり、どう変更したのか。
評価制度の見直し・変更の目的が従業員にしっかりと伝わり、基準が明確でわかりやすく、納得できる内容であることが肝要です。
ここで事例をひとつご紹介します。
入社4年目のAさんは、総務部門で給与計算を担当していました。
真面目かつ几帳面な性格で、与えられた業務を丁寧に、間違いなく遂行する従業員です。
ところが、こんなことがありました。
ある日、総務部長が会議から戻ってくると、就業時間から1時間以上が経っているにもかかわらず、デスクでキーボードを叩いているAさんの姿がありました。
しかも、目に涙を溜めながら。
部長は「何か深刻なトラブルが起きたのか」とAさんに尋ねました。
Aさんは「なんでもありません」とかぶりを振りましたが、明らかにいつもと様子が違います。
何度かその声掛けを繰り返すと、ついにAさんは仕事の手を止めて、絞り出すような声で言いました。
「私の今期の月給が下がり、Bさんよりも1000円少なくなったのは、なぜですか?」BさんはAさんと同期で、同じ総務部に配属された従業員です。
2人の給与は入社以来ずっと同額でしたが、給与制度が改定されたため、差がついてしまいました。
そのことを、偶然、なにかの拍子でAさんは耳にしてしまったのです。
Aさんは今までと同じように、ミスなく仕事をこなしてきました。
変わったのはAさんではなく、評価基準です。
そうとわかっても、Aさんは納得できませんでした。
なぜ自分の評価がBさんよりも下がったのか、同じように仕事をしているBさんと差がついた理由が何なのか、一人で悶々と考えて眠れない夜が続き、ついに今日、いつもなら定時までに終わる業務が片付かないほど、集中力が低下してしまったとのことでした。
部長はAさんにどのような言葉をかけたらいいのかわからず、ひとまず帰宅させました。
翌日、Aさんから体調不良のため休むという連絡が入りました。
給与が下がった従業員はAさん以外にもいるため、たとえ表に出なくても、納得していない従業員が複数人いることは想像に難くありません。
放置すれば、離職につながる可能性が高くなります。
部長は事の重大さを認識し、社長にAさんの件を報告するとともに、給与が下がった従業員への丁寧な説明が必要ではないか、と相談をもちかけました。
では、どのような説明をするべきでしょうか。
◆評価のあいまいさが従業員のストレスに先ほどの事例では月給1000円減でしたが、仮にその金額が100円減であれば、不満は出なかったでしょうか?答えは、ノーです。
Aさんは100円減でも眠れない日々を過ごしたでしょうし、他の従業員も不満を抱くでしょう。
毎月の収入が1000円や100円減ったところで、ただちに生活が苦しくなるわけではありませんし、人生設計に大きな影響を及ぼすわけでもありません。
それでも、従業員は疑念や不満を抱きます。
金額の問題ではなく、自身の働きに対する評価が下がった理由──その評価が決定した経緯に対して、納得できないためです。
では、人事評価制度を示して「この制度に則って評価をした」と伝えれば万事解決でしょうか。
それも、違います。
制度に則った評価であっても、それが従業員の評価と一致しない場合は不満が残ります。
なぜ一致しないのか。
その原因の多くは、評価基準のあいまいさにあります。
たとえば「◯◯実現のための努力をした」では、具体的にどのような行動をして、どれくらいの結果を出せば評価されるのかがわかりません。
「今期の成果なら、昇格できるはず!」と期待していたのに据え置きになれば不満に思いますし、「前期と同じ成果しか出せなかったから、昇格は無理かも」と諦めていたのに昇格してしまったら、何を評価されたのかわからず、しっくりきません。
評価をする側とされる側で不一致が生じると、従業員に大きなストレスがかかるのです。
それでは内容を具体化し、数値化すればいいのか。
ここにも落とし穴があります。
第1章で挙げたコールセンターの事例を思い出してください。
対応件数や時間など、評価基準が明確な数字で示されていても、現場の状況にそぐわないものであったため、離職率が上がってしまいました。
どのような人事評価制度をつくればいいのかは、これからご説明します。
ここでは、従業員が自分の給与に不満を抱いたとき、それは金額が問題なのではなく「自分の働きがどのように評価されたのか」という根拠が明確でないこと、納得できないことが原因であると、覚えておいてください。
◆コロナショックで働き方は劇的に変化した評価制度を見直さなければならない、評価基準をあいまいにしてはいけない理由の最たるものが、コロナショックによる働き方の変化です。
2020年5月に1回目の緊急事態宣言が出された際、企業に対するリモートワークへの移行が強く求められ、それは現在(2021年4月)になっても続いています。
その結果、「働く場所が職場から自宅になった」以上の、大きな変化が表れました。
部門によって程度の差はありますが、会社は基本的に、チームワークで仕事を進めます。
実績や経験、能力に応じた基本的な役割は決まっているものの、不明点があれば後輩
が先輩に質問してサポートを求めたり、先輩の業務が忙しいときは後輩が手伝いながら仕事のやり方を学んだり、トラブルが発生すれば全員で対応して早期解決を目指すなど、チームでの業務遂行が行われてきました。
これは「同じ時間帯に、同じ場所で、同じ目的の職務に専念する」環境があったからこそ実現していました。
リモートワークに移行すると(導入したツールによって機能の違いはあるものの)、この環境が大きく変化します。
まず、離れた場所でも各人が確実に業務を遂行できるよう、個々の仕事の役割、権限、責任などがより明確になります。
すると、先輩の仕事を「見て学ぶ」ことができていた場合では、それができなくなり、自分の役割を全うするためには自主的にスキルアップや創意工夫をしなければなりません。
また、自宅には配偶者や子ども、同居している両親などがいます。
出社すれば家庭とは切り離されていましたが、自宅にいるなら家事や育児、介護等に関わらないわけにはいきません。
家庭状況によっては、子どもや親が眠った夜更けに仕事を再開する、というスタイルになる従業員もいるでしょう。
勤務時間が同じであっても、必ず全員がパソコンの前にいて業務に専念しているとは限らないため、自力で解決しなければならない事柄が増えます。
つまり、チームとしての能力ではなく、個人の能力や成果が、いっそう求められるようになるのです。
このような変化に対し、企業経営者や従業員がどのように感じているのか。
厚生労働省が行った「テレワークの労務管理等に関する実態調査」の結果(「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」2020年12月)によると、それぞれがメリット・デメリットと感じた割合が多かったのは、次の項目でした。
【企業側メリット】・従業員の通勤負担の軽減・自然災害・感染症流行時等における事業継続性の確保・家庭生活を両立させる従業員への対応・離職防止【企業側デメリット】・できる業務が限られている・従業員同士の間でコミュニケーションが取りづらい・紙の書類・資料が電子化されていない【従業員側メリット】・通勤時間を節約することができる・通勤による心身の負担が少ない・隙間時間などを有効活用することができる【従業員側デメリット】・同僚や部下とのコミュニケーションが取りにくい・上司とのコミュニケーションが取りにくい・在宅勤務で可能な業務が限られる
また、リモートワークに移行した人々の大半が継続的な実施を希望していること、その時点ではリモートワークを実施していない人の中にも、リモートワークに興味を抱いている人が大勢いることもわかりました。
このような調査結果から、今後はリモートワークを採用している会社が「働きやすい会社」「労働環境が整った会社」と認識される可能性は高いでしょう。
すると、その会社には優秀な人材が集まり、結果的に成長企業になると考えられます。
「コロナショックが終息すればリモートワークが終わり、元の働き方に戻る」という考えは捨てるべきです。
もはや、そのような状況ではないのです。
◆リモートワーク導入で「努力」への評価ができなくなる人事評価の軸となるのは、主に「成果」「能力」「態度」の3つです。
みなさんの会社では、そこから、結果に至るプロセス、自己研鑽のためのスキル獲得や資格習得、業務ごとに定めたコンピテンシーや勤務態度などが、評価項目として並んでいるのではないでしょうか。
どのような成果を出したかは報告で把握できますし、資格の取得も証明書などで確認できます。
プロセスやスキルは勤務時間の長短で数値化が可能であり、コンピテンシーや勤務態度は実際に勤務する姿を観察することで評価していました。
つまり、従来の評価制度は目に見える成果や、数値で表せる「業務遂行能力」のみならず、チームへの貢献度や真面目に取り組む姿勢、若手の育成といった個人の努力まで評価する「情意考課」を含めて、定期昇給や賞与の増額などを行う仕組みになっていたのです。
このため、極端な表現をすれば、効率よく仕事を片付けて定時に退社する優秀な従業員よりも、要領や手際が悪い従業員のほうが残業手当が多くなり、収入が増えるという現象が起きていました。
一見、筋が通らないことのように思えますが、あまり問題視されることはありませんでした。
同じ場所で働いている仲間だからこそ「慣れない作業に手間取ってしまい、残業して必死に仕事を片付ける姿」を目にすると、「努力している」「頑張っている」と好意的に受け止める傾向があり、マイナス評価を下しにくい文化が形成されていったのです。
ところがリモートワークに移行すると、そうした「個人の努力」が見えなくなり、「成果」がより鮮明になります。
たとえば、多くの従業員が2~3時間で終わる作業に、ある従業員だけが4時間以上も費やしていたら、上司は「なぜこんなに時間がかかったんだ」と訝しむでしょう。
慣れない作業だった、家の事情があったなど、時間がかかった理由を説明しても、その風景が見えなければ「他のみんなは3時間以内に終わらせている」という事実が優先されてしまいます。
そして、それは部下側も同じです。
誰がどのような成果を出したのか、仕事のプロセスが見えないぶん、結果のみが印象に残るようになり「あの人は自分より30分も早く終わらせている」と、能力の差を実感するようになります。
そこで「自分ももっと工夫できるはずだ」と自助努力するようになれば、作業が遅い相手に対して「努力が足りない」「勉強不足ではないか」と、マイナスの評価を下すようになります。
従来型の評価を困難にする要因は「努力している姿が見えない」だけではありません。
出社して働くというスタイルでは、休憩時間の雑談や、移動時の何気ない会話などによって、日常的にさまざまな情報が共有されていました。
たとえば──「この前のK社とのトラブル、新しく担当になったI君が深夜まで対応したおかげで、致命的なダメージは回避できたらしい。
部長は〝よく頑張ってくれた、引き続き担当してもらいたい〟と思っているみたいだ。
K社は難しい相手だし、I君は意外と粘り強い対応ができみたいだから、任せたい気持ちはわかるな」このような会話があちこちで行われていたら、どうでしょうか。
「トラブルを起こしたI君の努力」と、それに対する「部長の評価」が自然に職場内に浸透していき、最終的には大多数が部長の評価を肯定する雰囲気になると思われます。
しかし、リモートワークでは、このような雑談、会話がありません。
業務分担がはっきりしているため必要最低限のコミュニケーションしか行われず、そのやりとりすら、会話ではなくメールやメッセージなどの文字による伝達が主になります。
I君は、上司に対してトラブルの原因と、どのように対処したかを明確に伝える義務があります。
部長はI君がトラブルを起こしたことを認識しつつも、彼の粘り強い対応が会社の損害を軽減させたことを知り、その努力を評価したいと思うでしょう。
しかし、それらの情報は「業務を進めるうえで不可欠な情報」ではないため、他の社員には伝わりません。
伝わるのは、次のような事実だけです。
「K社の担当がI君に変わった途端、重大なトラブルが起こったが、最悪の事態にはならなかった」「部長はそんなI君を、担当から外していない」これでは、部長がどのような基準で部下を評価しているのか、まったくわかりません。
優秀な従業員から「成果を出さなくても評価されるなんて、納得できない」「評価基準が不明瞭だ」という不満が噴出したり、モチベーションが低下してしまう恐れがあります。
努力をしている姿が、見えない。
上司が、部下の努力を評価しているという事実が、伝わらない。
環境が大きく変わってしまった状況で、情意考課を含めた従来の評価制度を運用しようとしても、うまくいくはずがないのです。
◆「自分はこんなにも評価されている」と実感させようあいまいな評価基準では「どうすれば評価が上がるのか」が判断できないため、従業員が不満を抱き、ストレスの要因になってしまいます。
ただし、数値目標化しやすい成果のみを評価の対象にすると、それが裏目に出てしまう可能性があります。
たとえば、次のような内容です。
自分が成果を出すことのみに注力して、他の従業員から協力を求められても断る。
新しい仕事を任せようと水を向けても、すぐに成果が出ないような業務であれば拒否する。
そうなると保守的な行動や考え方が広がり、全体の業務の流れが滞るかもしれません。
また、率先して電話対応をしていた、朝早く出社して掃除をしていた等、評価項目に含
まれなくとも業務の円滑化や環境整備に貢献してくれた従業員のことは、リモートワークになっても評価したいと思うはずです。
では、どうするか。
対策は2つあります。
ひとつは「会社が従業員に対して求めている行動や考え方」を明確にし、実践している従業員を評価する制度をつくることです。
また、業務の円滑化や環境整備への貢献として挙げられることも変わってきています。
以前でいえば「掃除」「電話対応」など、リモートワークでいえば「議事録の作成」「他部門への連絡・依頼係」「クラウドサーバー内のデータ整理・保管」等が考えられます。
考え方や行動、態度などの評価基準はあいまいになりがちですが、それらの基準に具体的な数値を付加すれば、評価基準を定量化できます。
具体的な方法については、この後、詳述します。
もうひとつは、数値化が難しい場合、従業員の行動や考え方に対してフィードバックを行う方法です。
これまで定期的に行っていた部下との面談は、オンライン会議システムなどを活用すれば、リモートワークでも可能です。
面談では、部下の行動や考え方を上司としてどう感じているか、またはどのように改善してほしいかを、具体的なエピソードを取り上げて伝えます。
すると、部下は「自分の働きをしっかり見てくれている、正しく評価されている」と、実感できます。
たとえば、次のような声掛けです。
「この案件がスムーズに進んだのは、先週の◯◯に対する素早い対応のおかげだ。
これからもその迅速さを心がけてほしい」「取引先に対して◯◯を第一とする姿勢は、当社の営業理念を体現するものだ。
□□に対しても、同じ姿勢で臨んでほしい」「君の◯◯は一部の顧客から好ましくない評価を得ているようだから、今後は□□というふうに改めてほしい。
そうすれば、もっとうまくいくはずだ」そうして面談とフィードバックを積み重ねていき、総合評価ではそれまでの面談内容をおさらいしながら行動や考え方に対する評価を述べれば、納得度が増すでしょう。
リモートワークという努力する姿が見えない環境であっても、評価基準を定量化したり、面談によるフィードバックなどによって従業員の努力を評価し、本人が「自分の考え方や行動は評価されている」と実感できる制度をつくることができるのです。
2人事評価制度の全体像を知ろう
◆3つの制度が三位一体となったもの
ここまでご説明したように、評価制度は従業員にとって「納得感」があり、こちらが望む行動を促す仕組みでなければなりません。
これは評価制度の作成に着手する前に、しっかり認識しておきましょう。
従業員に納得感を感じてもらうためには、次の3点を明確に伝えなければなりません。
①どんな人材になれば、②いくらの給与が得られるようになり、③どうすればその人材になったと評価されるのか、です。
すると「40代までに年収◯◯円になりたいから、□□な人材だと認めてもらえるように、△△を身につければいいんだな」と、自身のキャリアプランが明確になり、評価に対する納得感が向上します。
そして、この3点を明確化したものが、次の3つの制度です。
①等級制度、②報酬制度、③評価制度評価制度のみを人事評価制度と考えるケースもありますが、本書では、この3つの制度が三位一体となったものを人事評価制度と呼んでいます。
もう少し具体的にご説明しましょう。
①【等級制度】どのような従業員を「理想的な従業員」とするかを定義づける組織には係長、課長、部長などの役職が存在し、それぞれに求められる役割は異なります。
その役割を実現するために必要な能力や達成すべき成果、負うべき責任のレベルや大きさを表したものが等級です。
等級制度は、「一般社員と主任では何が違うのか?」「どうすれば課長から部長になれるのか?」という疑問に、能力、成果、責任範囲などを含めて具体的に答えられるよう作成しなければなりません。
②【報酬制度】「理想的な従業員」がいくら報酬を得られるかを定める評価結果および等級に基づく給与額を設定します。
業務内容や個人の成果、役割、能力に応じた「成果給」「役割給」「職能給」などがあり、これらを選択あるいは組み合わせて給与とするのが一般的です。
何を重視するかは、第1章の〈「成果」「成長性」をみて給与をあてがう〉(24ページ)で述べたように、会社の経営方針に沿って設計します。
③【評価制度】「理想的な従業員」にどれほど近づいているかの目安を示す会社の経営理念や経営計画の実現には、目指すべき組織像と人材像の明確化が必須です。
評価制度はそうした組織像や人材像を実現するため、従業員がどのような姿勢で仕事
に取り組み、どのような能力を身につけ、どれくらいの成果を出すべきかを定めて、従業員一人ひとりに対して「どこまで達成できたか」を評価します。
評価の結果は、昇格や昇進などの等級に影響するとともに、給与に反映されます。
さて、これらの制度設計は、会社の存在意義や存在価値を表す「経営理念」や、それを実現するための「経営計画」、そして経営計画を達成する理想の組織や人材に関する考え方を表した「人事ポリシー」が土台となります。
そもそも、なぜ従業員を雇い、育てるのか?それは、経営計画の達成に必要な人材を育成し、経営理念を実現するためです。
つまり、人事評価制度設計の前段階には、経営理念や経営計画、人事ポリシーの明確化があると考えてください。
経営理念の実現のためにどのような経営計画を立てるべきか?その経営計画を遂行できる組織体制とはどのようなものか?各部門には何名の幹部が必要で、どのような人物を配置するべきか?将来的に幹部まで昇進してもらうためには、従業員にどのような考え方や行動を希望するべきか?このようなビジョンがあって、はじめて等級制度、報酬制度、評価制度は作成可能になります。
前職の制度を流用したり、他社の制度をまねただけの人事評価制度がうまくいかないのは、自社のビジョンと合致していないため、従業員にとって納得できない制度になっているからです。
◆「納得感のある人事評価制度」には大きな効果がある
これまで何度も「納得感がある」「納得できる」という言葉を用いてきました。
この「納得」は、非常に重要です。
会社がどのような従業員を理想としていて、その水準に達すると年収がいくらになるのか。
これを明示できるようになると、3つの効果が見込めます。
「採用力の強化」「従業員の成長意欲の向上」「離職防止」です。
①採用力の強化求める従業員像と年収が明確になれば、採用に関する業務が「募集」「決定」の2点においてスムーズになります。
求人票の募集要項を見ると、次のような表記をよく目にします。
「営業職:月40~70万円(能力・経験に応じて決定)」このようなあいまいな内容では、求職者は自分の月給がいくらになるのかわからないため、応募を躊躇します。
しかし、従業員像と年収が決まっていれば、具体的な能力と給与額を明記できます。
「◯◯の営業経験が◯年以上ある:月収□□万円」これなら、自分のスキルや経験、求める報酬と合致した求職者は、積極的に応募するで
しょう。
会社が求めている人材に近い求職者が集まるため、ミスマッチも減少します。
さらに、面接時にも「当社はこのような能力を持つ人材を求めており、この水準の従業員に、これだけの給与を支払っています。
あなたはどこまで可能ですか?」「経験の浅い社員には積極的に仕事を教えることが求められますが、問題ないでしょうか?」と、具体的な交渉ができるようになります。
すると、求職者側も「私はその水準に達しています」「その水準には届いていませんが、ここまでの実績があります」と、こちらが知りたい回答を出してくれるため、採用・不採用の判断がしやすくなります。
②従業員の成長意欲の向上理想の従業員像と年収が明確であれば、そこに到達するまでの各等級の基準と年収も設定しやすくなり、整合性が生まれ、従業員の納得感が上がります。
たとえば「年収を50万円増やしたい」と思った場合、等級をいくつ上げなければいけないのか、その基準に到達するにはどのようなスキル、成果、能力を身につける必要があるのかがハッキリ見えるため、内発的動機付けが形成されやすくなります。
課長や部長への昇進を目指すのであれば、自身のスキルアップはもちろん、部下にどのような成果を出させればいいのかもわかるため、マネジメントの学習目標が定まり、早々に自己修養に励むでしょう。
また、その間の年収も明示されているため、安心して生活設計を立てることができ、目標達成への意欲がいっそう高まると考えられます。
③離職防止効果人事評価制度をもとに入社1年目、5年目、10年目などの年収モデルを作成すれば、1年目の従業員が給与額に不満を持ったとしても「5年目でここまで増えるなら、もう少し頑張ってみよう」と、離職を思い止まる可能性が高くなります。
また、会社が求めている能力がわかるため「5年後もこの会社にいるってことは、少なくともこのスキルは身につけておいたほうがいいな」と、意欲が低い社員に対しても、ある程度のスキルアップを促すことができます。
具体的な作成方法は後ほど詳しくご説明しますが、まずは、従業員にとって納得感がある人事評価制度の作成は、会社にも大きなメリットをもたらすのだと覚えておいてください。
◆人事評価制度が社内に浸透するまでの流れを理解する
新たに作成した人事評価制度は、まず、試験運用を行います。
たとえば仮の目標設定をして上司に評価をさせてみる、5年後や10年後の人件費を試算してみるなど、3カ月程度かけてさまざまな検証を行い、課題を抽出し、一つずつ解決していきます。
ブラッシュアップが終われば、新しい人事評価制度の完成です。
次に、マネージャー層を対象に研修を実施します。
制度の説明のみではなく、マネージャー専用のハンドブックやマニュアルを作成し、評価面談や目標設定会議のワーク、また
はロールプレイなどをプログラムに組み込めば、実践につながりやすくなるでしょう。
業務の都合等で欠席したマネージャーには、同じ研修を後日開催して受講させる、研修の録画を見てレポートを提出してもらうなど、受講状態の管理も大切です。
また、制度の内容を正確に理解できたかどうか、習得状況を把握する方法についても検討しておくといいでしょう。
その後、一般社員向けのハンドブックを作成し、説明会を開催します。
ポイントは、従来制度が抱えていた課題と改善の必要性、そして新制度が従業員にどのようなメリットを与えるのかを、具体的に伝えることです。
制度に対して不服を唱える従業員に対しては、マネージャーが個別に説明をして解決を図ります(新制度によって不利益を被る従業員に対しては、あらかじめ不利益変更の同意書が必要になるケースもあります)。
そうして全従業員に新制度の内容が浸透した後、本格運用に入ります。
評価に関わる業務を積極的に行ってもらいたい場合は、マネージャーの評価項目に「評価面談の実施率」を組み込めば、運用の促進が期待できるでしょう。
制度をつくり、運用を開始しても、それで終わりではありません。
一定期間をおいて制度を見直し、課題を抽出して改善し、改善した制度を試験運用してから周知させて……というPDCAを回して、従業員の「納得感」を維持しなくてはなりません。
大まかには「制度認知」→「目標設定」→「面談」→「評価」→「給与改定」→「制度改善」→「試験運用」→「制度認知」→「目標設定」……というサイクルを繰り返すことになります。
会社によって異なりますが、試験運用に3カ月、本格運用を1年から2年程度続けた後、3~6カ月かけて制度の見直しを行うケースが多いようです。
「給与改定をどれくらいの頻度で行うべきか?」という質問を受けることがありますが、それは目標設定と評価のタイミングによります。
たとえば、1年間の目標を設定して年度末に評価する、四半期ごとの目標を設定して半年ごとに評価を行うなど、会社によってさまざまです。
1年間のうち目標を何度も変更する必要がなければ、給与改定は年に1回で問題ないで
しょう。
数カ月に一度、状況に合わせて目標を変更する必要があれば、改定の頻度を高めることになります。
ただし「3カ月に1回の給与改定」は、お勧めしません。
改定内容によっては年金事務所に対して随時改定(月額変更届)を行う必要があり、労務に関わる業務が増えてしまうためです。
随時改定が必要となるのは、次の3つの条件を満たす場合です。
(1)昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
(2)変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
ただし、2等級以上の差が生じなくとも随時改定となる例外がある。
(3)3カ月とも支払基礎日数が17日(一定の短時間労働者は11日)以上である。
制度の説明や運用は、明文化された制度をつくったあとに発生する課題です。
まずは制度構築に注力しましょう。
次節から、各制度のつくり方をご説明します。
3等級制度をつくる
◆等級とは「一緒に働きたい従業員像のランキング表」
会社における等級とは、端的に言えば、組織に属する人間のランキング表です。
ランク付けされるのは気分が良いものではありませんが、入社1年目の従業員には10年目の従業員と同じ働きができないように、個々の能力や経験、実績によって遂行可能な業務は異なります。
そのため、係長、課長、部長などの役職を設置し、そこに到達した者と到達していない者との間に上下関係を設けることで、組織における立場や責任を明らかにします。
このような組織構造は、多人数の現場で業務をスムーズに遂行するためには不可欠なものです。
「係長は、一般社員よりも◯◯力が優れているため、チームリーダーとして働く」「課長は、係長よりも□□の責任を負うため、△△ができる人物でなければ務まらない」このような差があるため、当然、等級に応じて給与にも差をつけます。
裏を返せば「このような人材になってくれれば、この等級に昇格して、これだけの給与を支払う」と、明確に、誰が見ても理解できるように表したものが等級制度なのです。
ただし、明文化すればいいというわけではありません。
すでに何度か述べた通り、その背景には必ず経営理念や経営目標、人事ポリシーがあります。
会社が何を目標とし、どのような組織づくりを目指して、そのためにどのような人材を必要としているのか。
各等級の基準は、このビジョンに沿った内容になっていなければなりません。
人事ポリシーと等級制度に一貫性が見出せなければ「言っていることとやっていることが違う」と、会社に対する信頼度を大きく下げることになるでしょう。
従業員が人事ポリシーを理解し、理想の人材に成長することで、会社と従業員が互恵的な関係になる。
等級制度はそのための道標なのです。
◆会社をゴールに到達させる最高のメンバーを考えよう
等級一覧は組織に属する人間のランキング表であり、従業員が理想の人材に成長するための道標であるとともに、会社にとっては「このような役割を担い、成果を出してくれる人材がそろえば、経営理念を実現できる」という、最高のメンバーによって構成された理想の組織像でもあります。
そこで、まずは経営計画をもとに、組織図の見直しを行います。
■経営計画の遂行にはどのような部門が必要か?
■各現場をうまくコントロールするためには部長、課長、係長、主任などの役職と一般社員が、それぞれ何名必要か?■人事評価制度をしっかり運用するためには、各部門に何名の管理職を置くべきか?組織図が決まれば、理想の人材を次のようにイメージしていきます。
■管理職になる人材は、どのような成果を出せる人材であるべきか?■その成果を出すためには、どのような能力を持ち、どのような態度で部下を率いていくべきか?■その部下はどのようなスキルを習得していることが望ましく、どのような姿勢で仕事に取り組み、どれくらいの成果を出すべきか?このような青写真を一つひとつ思い描き、書き出してみましょう。
組織図と各役職のモデル人材のイメージが固まれば、次は、育成期間について考えます。
従業員の成長過程を時系列で考えて、社歴と連動した各段階における役割を〝見える化〟するのです。
たとえば──「入社して1~3年目は仕事を覚えることに専念してもらい、4~6年目には主任や係長として現場をまとめ、7年目からは管理職に就いてマネジメントに取り組んでほしい」このような場合、仕事を覚えることに3年かかるなら一般社員の等級を段階に設定するなど、育成期間にあわせて等級を設定する方法もあります。
次に、モデル人材をもとに、昇進するために身につけてほしい能力やスキルを段階的に整理します。
「2年目はここまで成長してほしい」「3年目にはこうなっていてほしい」というキャリアパスをつくります。
これが等級基準になります。
このような手順で、各等級の等級基準を決めていきます。
ただし、これを社長一人で行うのは困難であるため、通常はプロジェクト化し、人事部の採用や教育の担当者、現場で大きな影響力を持つ従業員などを巻き込んで進めていきます。
詳細は第5章でご説明します。
◆「安心して仕事を任せられる従業員」をイメージしよう
「何を重視したらいいのかわからず、等級基準がうまくつくれないのです」このような方には、次のような質問をします。
「どんな人なら、安心して〝部長になってください〟と言えますか?」等級制度をつくる、等級基準を設定すると言えば難しく考えがちですが、すでにご説明したように、等級とは一緒に働きたい従業員像のランキング表ですから、まずは「安心して仕事を任せられる部長」「主任になってもらいたい人物」というモデル人材をイメージしてください。
たとえば──
「部長は、部下からの信頼が厚く、目標達成に向けて担当部門を力強く統率できる人物。
業務に関わる専門知識に精通しており、業務計画立案や業務管理を問題なくこなす能力がある」「主任は、部下の育成指導を行うとともに売上の推移を把握し、課題解決の提案もできる人物。
商品やサービス、制度を熟知しており、苦情処理や事故処理を適切に行うことができる」などです。
そして、その人物が出している「成果」「能力」、仕事に取り組む「態度」とはどのようなものかを考え、具体的に挙げてみましょう。
先ほどの例でいえば、次のようになります。
部長の等級基準成果:担当部門の目標達成、生産性向上。
能力:部門の業務計画立案・業務管理、部下や他部門とのコミュニケーションが取れる能力。
態度:広い視野で現場を観察し、課題発見時は迅速かつ細やかに対応する。
主任の等級基準成果:個人目標およびチーム目標の達成。
能力:豊富な商品知識および関連知識、後輩への指導力、適切な苦情・事故処理能力。
態度:チームリーダーとして計画的に目標達成に取り組み、チームワークの向上に貢献する。
具体的なイメージが思い浮かばないときは、現在在籍している優秀な従業員をモデルにするという方法があります。
本人とその上司にインタビューを行い、同年代の従業員や同僚と比較して優れていると感じる「成果」「能力」「態度」をピックアップすることで、その従業員が優秀である所以が浮かび上がってくるはずです。
ただし、能力や成果が突出している従業員をモデルにすると、等級基準が厳しくなりすぎて従業員のモチベーションが下がってしまう恐れがあるため、注意してください。
「態度の良し悪しだけではなく、仕事に対するモチベーションを上司にしっかり把握させて、悪い方向に向かわないようリスクマネジメントをさせたい」コロナショック以降、このような相談が増えました。
リモートワークになじめないサラリーマンが、うつ病になってしまうケースがあるようです。
次に上司側を考えてみましょう。
そのような場合、まず自社が考える「優秀な上司」の基準を明確にします。
たとえば、「部下のコンディションをこまめにチェックし、パフォーマンスを引き上げられる上司」「部下に目標を達成させる上司」「前向きなフィードバックをして気持ちを上向かせることができる上司」などです。
そして、その基準をもとに「成果」「能力」「態度」を整理してみるといいでしょう。
◆「信頼できる従業員」の定義①自分のポジションを全うしてくれる
「営業部の主任になってほしい従業員とは、どのような人物ですか?」そう尋ねると、多くの社長はさほど迷わず、次のように答えます。
「月◯◯以上の売上を、安定的にあげてくれる従業員」「売上目標を達成してくれる従業員」明確な回答ですが、その基準に納得しない幹部もいるでしょう。
そもそも「◯◯になってほしい従業員とは?」「安心して◯◯を任せられる従業員とは?」という質問自体、少しあいまいに感じるかもしれません。
そこで、もう一段掘り下げて、次のような質問をしてみます。
「自分のポジションを全うしてくれる営業部の主任とは、どのような人物でしょうか?」すると、ほとんどの社長はいくらかの時間、考え込みます。
安定して売上を出すことができる従業員には優れた営業力が備わっているため、現場のリーダーとして活躍してくれるに違いありません。
しかし、主任であれば、一定の成果を出しつつ、部下の育成・指導にも貢献してもらわなければなりません。
営業力だけではなく、部下とのコミュニケーション能力や、他人の能力を伸ばす教育力が求められるのです。
もちろん、従業員の育成方法は会社によって異なります。
「手取り足取り教えるのではなく、リーダーとして優れた成績を出して部下を刺激し、力強く牽引してほしい」と望むケースもあるでしょう。
その場合は、難しい大型契約に果敢に挑戦する姿勢や、新人の手本となるような高いリテラシーを有していることなどが条件となります。
その役職に就いた人間が行うべきことは何か?人事ポリシーと照らし合わせて、そのイメージを固めてみてください。
◆「信頼できる従業員」の定義②周りに良い影響を与えてくれる
ある社長は、先ほどの質問にこう答えました。
「安定的に売上をあげていて、部下の教育も熱心にしているのは、A君だ。
彼なら、安心して主任を任せられる」そこに、私はさらにもう一つ、質問を重ねます。
「A君は、周囲に良い影響を与えてくれていますか?」すると、再び考え込んでしまいました。
A君は自分の成功体験から独自のノウハウを構築したらしく、部下にそれを伝えることで、売上向上を実現しました。
しかし、同僚のB君をライバル視しているためか、B君にはそのノウハウを伝えていないようです。
また、最近は他の従業員が長年アプローチをかけていた営業エリアに入り込み、いわゆる「顧客を奪う」行為も目立つという話もありま
した。
本人と部下は成長していますが、それ以外の他者への貢献がみられないのです。
一般社員なら、まずは自分が成果を出すことを第一にしてもよいでしょう。
部下ができたときは、自身の評価を上げるため、部下に成果を出させることに注力しても問題ありません。
しかし、主任であれば、自分の成果につながらなくても、チーム全体の成長を促すための努力を期待したいところです。
もし、同僚の主任に対して自身のノウハウを伝えたり、自分の業務を終えた後に積極的に他人の手伝いを行うなど、周囲の人間がより働きやすい、成果を出しやすい環境づくりに貢献してくれる従業員がいれば、どうでしょうか。
A君とその従業員、どちらが主任にふさわしいと言えるでしょうか。
どのような従業員を信頼し、「この役職を任せる」と判断するのか。
さまざまな角度から掘り下げて、社内でしっかり検討し、詰めていくことが大事です。
◆人事ポリシーの何を最重要視するかで基準が決まる
自社における「仕事を安心して任せられる基準」とは何か。
人事ポリシーと照らし合わせて明確化し、その基準から外れないように等級制度を作成しなければなりません。
各等級の基準は、人事ポリシーという一本の串でつながっていなければならないのです。
先ほど述べた、部長に求める「成果」「能力」「態度」は、もちろんすべてを満たすことが理想ですが、優先順位をつけるときに何を最重要視するかは「仕事を安心して任せられる基準」によって決まります。
その優先順位によって、等級制度は次の3つに大別されます。
【職能等級制度】ビジネススキルが到達基準【職務等級制度】成果が到達基準【役割等級制度】役割が到達基準営業部の主任の例であれば、「能力」を重視するなら職能等級制度となり、顧客への提案力や販売士資格の有無などが基準になります。
「成果」を重視するなら職務等級制度となり、売上目標の達成率や受注件数などが基準になります。
「役割」を重視するなら役割等級制度となり、重要営業拠点の渉外担当を任せられるか否か等が基準になります。
なお、役割は「態度」よりも大きな概念であり、「どの範囲までの仕事を、責任を持って遂行できる能力があるか」という判断になります。
◆「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」と等級制度
近年「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」という言葉を、よく耳にするようになりました。
大企業やIT業界で、この雇用形態への移行が進んでいるためでしょう。
「大企業がやっているなら、うちもジョブ型にしたほうがいいのかな……?」と考え始める経営者が増えてきているようです。
本節の最後に、この2つの雇用形態と等級制度の関係についてご説明します。
「ジョブ型雇用」とは、ひと言でいえば「この業務を行うために入社してください」という条件で採用する雇用契約です。
一方、従来の新卒一括採用型は「我が社で活躍してください」という雇用契約であり、これを「メンバーシップ型雇用」と呼びます。
ジョブ型雇用では、従業員は契約書に明記された一つのポストに入ります。
本人の同意がない限り他の職域や勤務地への変更はできません。
社内異動が困難であるため、ポストに空席が生じた場合は外部から採用して補充することになります。
メンバーシップ型雇用では、従業員の能力や適性を鑑みて、会社の判断で人材の配置を決定します。
成長の進行度や各部門の業務状況、空席状況などに応じて異動や配置換え、転勤を命じることが可能であり、ポストは固定しません。
今後、ジョブ型雇用に移行するのであれば、各等級のモデル人材や等級基準は職種別に設定することをお勧めします。
たとえば、営業職と技術職の場合、求める「成果」や「能力」に大きな違いがあり、各々の平均給与額も異なるためです。
各職種の専門性を反映した等級基準であれば、キャリアイメージがより鮮明になり、モチベーション向上効果が期待できます。
一方、メンバーシップ型雇用を継続する場合は、全社統一の等級基準のほうが適しています。
なぜならば、職種別に等級基準を作成すると、他の職種に異動を命じられた従業員は、それまでとは異なる成果、能力、態度を求められることになるからです。
さらに、その基準を満たせなかった場合は等級が下がり、減給になる可能性すらあります。
そうなれば異動が大きなストレスとなり、「違う分野でも大いに活躍してほしい」という会社の意図に反して勤務意欲が減退してしまうため、等級基準の統一対応が必要となります。
4報酬制度をつくる
◆報酬は高ければ満足するとは限らない
第1章で、「給与を上げるだけでは従業員の不満を抑えて転職を止めることはできない、給与が多すぎても満足度は上がらない」と説明しました。
これは、ハーズバーグの二要因理論を根拠にしています。
二要因理論によると、仕事の満足感を高める要因(動機付け要因)と、不満をもたらす要因(衛生要因)は別であり、給与は衛生要因に含まれます。
衛生要因は「整備や改善されていなければ不満を感じるが、改善されても満足感につながるとは限らない」ものです。
一方、動機付け要因は達成感、承認、責任、自己成長などにつながるものであり、これらが高まるとモチベーションが上がります。
終身雇用制度が維持されていた頃、会社と従業員は「家族」のような一心同体の関係にありました。
仕事のやり方を全く知らない状態で入社し、先輩や上司の指導によって徐々に会社の一員として成長し、任される業務や責任範囲が拡大していくにつれて給与が上がっていく。
つまり、昇給と動機付けが連動される仕組みになっていたのです。
しかし、バブル景気の終焉とともに終身雇用制度は崩壊し、代わりに派遣社員をはじめとする非正規社員の雇用が進み、会社と従業員の関係性は「契約相手」に変わりました。
「会社の一員として貢献する」という組織への愛着や帰属意識が薄れ、会社に対して「自分を成長させてくれるか」「自分の能力を正しく評価してくれるか」「労働に見合う報酬が支払われるのか」といった要望が強くなりました。
契約上の義務を遂行すれば報酬を受け取るのは当然の権利であり、昇給すら、レベルの高い働きに対する正当な評価と認識されます。
より仕事での見返りが強くなってきているため、達成感や承認、責任、自己成長などの動機付け要因を重視したアプローチを行うとともに、給与は成果や成長性に見合った適切な金額を支払うことが、従業員の満足度の維持と人件費のコントロールを両立するためのカギと言えるでしょう。
成果や成長性に見合った「適切な給与額」って、どう判断すればいいんだ?おそらく、そう疑問に思ったことでしょう。
その「適切な給与額」を見極めるポイントについて、ご説明します。
◆報酬を決める「3つの枠」と「8つのポイント」
報酬を上げ過ぎても、満足度はそれほど上がりません。
一方で、業績悪化を理由に報酬を下げ過ぎれば、従業員から不満が出ます。
上げ過ぎず、下げ過ぎず……その「適度」なラインを見極める判断材料となるものが、次の3つの枠と、8つのポイントです。
ひとつめの枠は、従業員が個人の状況を鑑みたときに感じる満足度です。
これは「等級」「在籍期間」「年齢」「現在の給与」が判断材料になります。
ふたつめの枠は、世間と比較して高いのか低いのかで判断したときの満足度です。
「業界平均」や「最低賃金」が比較対象になります。
3つめの枠は、社内における同僚との比較や従業員還元率などに対する満足度です。
これは「人件費負担」や「同僚の給与」によって判断します。
以上、3つの枠でご紹介した、この8つのポイントは、次のように分類できます。
・上げ過ぎても従業員の満足度上昇の効果が見込めないため、上限を設けるべきもの→等級、在籍期間、年齢、現在の給与、業界平均・会社が支払うことができる上限値を設けるべきもの→人件費負担、同僚の給与・会社が払わなければならない最低下限値→最低賃金たとえば、「年齢」や「在籍期間」に比例して「給与」が増えても、自身の成長を実感できなければモチベーション向上にはつながらないため、年数による昇給はある程度で留めたほうが賢明です。
また、そもそも人件費に投じることができる資金は有限です。
「一部の優秀な従業員の給与が高すぎると他の従業員から不満が出たため、他の従業員の給与も上げよう」などと際限なく昇給を行えば、労働分配率が高くなりすぎてしまうため、長期的な視点で人件費負担の上限値は設けておくべきです。
「判断材料はわかったけれど、何を重視すればいいのか、どんな手順で決めればいいのかわからない!」そうお思いになったなら、まずは現在の給与の把握と分析を行います。
次節から詳しくご説明していきます。
◆自社の「給与」について現状把握をしよう
自社の「適度な給与額」を決める第一歩は、全従業員の現在の給与をさまざまな角度から分析することです。
ただし、数字の羅列ではわかりにくいため、横軸を従業員の年齢、縦軸を年収や手当額などに設定し、現在の給与制度をもとにプロットして(点を置いて)、次のような折れ線グラフを作成してみましょう。
すると、現行制度の水準や課題が見えてきます。
・年齢比較:グラフの横軸を従業員の年齢、縦軸を年収額として、年齢ごとに個別年収をプロットしていきます。
同じ年齢の従業員間の給与差や、20代から60代にかけての昇給額の上がり具合などを分析します。
また、中央値から年代ごとの自社の給与水準がわかります。
・手当別比較:グラフの横軸を従業員の年齢、縦軸を平均手当額として、各年齢で支払っている平均手当額をプロットしていきます。
年齢に比例して役職手当が増えているか、役割の重さや能力の高さに応じた上昇率になっているか等を分析します。
・部門別比較:グラフの横軸を従業員の年齢、縦軸を年収額として、各年齢の年収を部門ごとにプロットします。
同年齢の給与差が大きすぎる部門がないか、年収や賞与の増加率に大きな差はないか等を分析します。
・人件費・労働分配率分析:グラフの横軸を年度、縦軸を割合(%)および金額として、過去3期分の労働分配率と人件費を時系列にプロットしていきます。
労働分配率は業界平均と比較してどうか。
労働分配率の高低と人件費の高低の関係などを分析します。
・等級別比較:グラフの横軸を従業員の年齢、縦軸を年収額として、各年齢の平均年収を等級別にプロットしていきます。
同じ等級内の平均年収の差はどうか、等級の平均年収と年齢の関係はどうか等を分析します。
・職種別比較:グラフの横軸を従業員の年齢、縦軸を年収額として、各年齢の年収を職種別にプロットしていきます。
同年代で職種による大差が生じていないか、業界平均と比較してどうか等を分析します。
・業種別比較:グラフの横軸を従業員の年齢、縦軸を年収額として、自社の各年齢の平均年収と、同業種の年齢別平均年収をプロットし、同年代・同業種の平均年収と比較して検討します。
グラフを作成して分析すると、これまで見えていなかった課題が浮上してきます。
次の例を参考に、その原因を探り、放置した場合のリスクを認識して、対策を立てましょう。
「人件費・労働分配率分析を行ったところ、労働分配率が最も高い期と低い期を比較しても、人件費が変わっていなかった」→賞与が会社の業績と連動していない。
そのため「頑張って利益を出しても、給与が変わらない」状態になっており、利益増加への熱意が低下するリスクがある。
賞与支給ルールの明確化が必要。
「等級別に比較した結果、同等級の平均年収が年齢に比例して上がっていた」→仕事の成果にかかわらず昇給が行われている。
そのため、従業員の成長意欲が低下している恐れがある。
職能給の見直しが必要。
「業種別に比較した結果、同年代・同業種の平均年収と比べて、自社の平均年収が大きく下回っていた」→同業種よりも想定年収を低く提示している、あるいは提示自体をしていない。
そのため、パフォーマスが高い従業員は転職してしまう危険がある。
同業種の平均年収を考慮に入れた報酬額の見直しが必要。
これらのことが考えられます。
◆支給方法を決めよう
給与の現状分析によって解決すべき課題がわかり、年収ベースで「適切な給与額」が見えてきたら、次は年収の構成要素を見直します。
①現在の給与を支給項目別に整理する、②人事ポリシーをもとに手当の見直しを行う、③支払いルールを決定する、の3ステップで進めていきます。
ステップ①支給項目の整理賃金には「給与」と「賞与」があり、給与には毎月決まった金額を支払う「所定内給与」と、残業代などの「所定外給与」があります。
ここで見直すべきは、「所定内給与」です。
所定内給与には「基本給」「職務給」「役職手当」「各種手当」があります。
現状の給与を、以下の分類で整理してみてください。
【基本給】生活給や年齢給など、仕事内容や成果では大きく変動しない給与【職務給】職種や能力によって変動する給与で、等級と連動して金額が決まる【役職手当】等級とは関係なく、役職に付随する手当【各種手当】家族手当や住宅手当など、能力や成果とは関係なく支払われる手当
ステップ②手当の見直しを行う所定内給与の支給内容を分類したら、自社の経営理念や人事ポリシーと照らし合わせます。
このとき、手当に注目すると、次のような疑問がわいてくるかもしれません。
「この手当は、目標達成につながるのだろうか?今後も支払うことに、どんな意味があるのだろうか?」「成果を出している従業員への手当は、はたしてこれでいいのだろうか?」現行の手当の内容が人事ポリシーに合致しない、または支払うべき金額が適切ではないと感じたら、どのように改善すべきかを検討します。
たとえば、現在よりも成果に応じて昇給する制度にするのであれば、業務内容とは関係ない住宅手当や家族手当などを廃止し、役職手当を手厚くしたり、営業手当を新設するなどの変更が考えられるでしょう。
ステップ③支払いルールを決定する手当の変更とともに、その支払いルールも新たに設定し直します。
ポイントは次の2点です。
・どの手当を在籍何年間支給するか?・どの手当をどの階層から支給するか?近年は成果に無関係に支給される手当(家族手当、住宅手当など)が見直され、成果に応じた手当(役職手当など)を重視する傾向が強まっています。
ある会社では「一人前の従業員は成果のみで評価するが、育成期間中は一定の手当を支払う」という意図で、勤続手当の支払い期間を「入社後5年目まで」と限定し、そのぶん、役職手当を厚くしました。
また「主任や係長はプレイングマネージャーとしての成果を重視する」方針にして、役職手当の支給開始を「課長以上」に変更した会社もありまし
た。
「コロナショックで先行きが不安なため、人件費をコントロールしたい」「リモートワークで働いている姿が見えなくなったため、できるだけ成果を出してくれる従業員の給与を増やし、成果を出せない従業員の給与は抑えたい」という最初のニーズに立ち返れば、報酬制度は「成果に連動しないものを削っていく」を柱に、見直しを進めていくことが肝要です。
ただし、手当の廃止によって「急に給料が減った」と感じれば、従業員は不満に思い、モチベーションが低下します。
そのため、急激な降給にならないよう工夫が必要です。
◆「基本給」にするか、「手当」にするか?
現在の給与と手当を見直し、人事ポリシーに沿った新たな支給ルールを仮構築したあとは、既存の従業員をサンプルに、仮制度を反映させた場合の給与額を試算してみましょう。
たとえば、入社3年目のAさんの月給は26万円、その内訳が、基本給23万円、住宅手当2万円、家族手当1万円だったとします。
新制度では、成果に結びつかない住宅手当と家族手当は廃止になりました。
するとAさんの月給は3万円マイナスになるため、不満が出たり、転職を考える恐れがあります。
このマイナスを補う方法としては「基本給を増やす」「職務給を増やす」「既存手当の支給額を増やす」「新しい手当を創設する」などが考えられます。
高等級の従業員であれば職務給を増額したり、役職手当を増やすことで調整できるでしょう。
まだ職務給がつかない低等級の従業員なら、基本給で調整したり、新たに勤続手当や営業手当などをつくって支給する方法が考えられます。
等級内の「号俸」の変更も、解決策として有効です。
号俸は一つの等級の中に複数の階層を設置して少額の昇給を行う仕組みで、「今期の成果では昇格には至らないけれど、努力を認めて昇給したいから号俸を上げよう」といった調整が可能になります。
同等級内の号俸数が多ければ、毎年少しずつ昇給するため、長く在籍している従業員の安心材料となるでしょう。
号俸数が少なければ昇給回数は減りますが、1段階上がったときの昇給額が大きくなるため、短期間で成果を出せる従業員のモチベーション向上に効果があります。
このように、幅広い年代、職種、役職ごとにサンプリングと試算を行い、現在の給与との差が開きすぎないように、給与と手当の支給方法・支給金額を調整して決定します。
ブラッシュアップが終了したら、給与テーブルに詳細に落とし込んでいきます。
※給与テーブルの内容は会社によって異なりますが、本書では基本給、職務給、役職手当、その他の手当から成るものを給与テーブルとします。
◆賞与は何を根拠に支払うのか?
給与と手当のルールが決まったら、最後に賞与のルールを決めます。
賞与には、経常利益に応じて支払われる「決算賞与」と、年収の一部として従業員に認識されている「ボーナス」の2種類があります。
賞与原資(賞与総額)や個別支給額の計算方法が異なるため、算出の根拠を明確にしておきましょう。
【決算賞与】賞与原資は、経常利益に一定の掛率を乗算して算出します。
この「一定の掛率」は、労働分配率などを考慮して決定します。
次に、賞与原資を部門ごとに振り分けた「部門賞与原資」をつくります。
どの部門にどれくらい振り分けるかは、各部門の従業員の個人評価点(後に詳述します)を合算し、相対比較によってその割合を決定します。
個々の従業員に支給する賞与額は、部門内の個人評価の相対比較により、部門賞与原資を振り分けて決定します。
なお、企業によっては、賞与原資の根拠を利益ではなく、売上にしたほうが実情に合っていることもあります。
【ボーナス】賞与総額は「等級ごとに定めた賞与の総額×業績評価をもとにした掛率」によって算出します。
この掛率は労働分配率やモデル年収を考慮に入れて検討し、決定します。
個々の従業員に支給する賞与額の算出方法は、会社によって異なります。
一例として、次のような計算方法があります。
個人賞与額=等級別賞与額×業績評価掛率×部門評価掛率×個人評価掛率「業績評価掛率」は全社の目標達成率、「部門評価掛率」は部門目標の達成率をもとに算出します。
「個人評価掛率」は次節で説明する評価制度に応じます。
注意すべき点は、決算賞与は「業績が好調なときに支払われる」というイメージですが、ボーナスは一般的に「月収の◯カ月分」という表現で賞与額を提示します。
従業員としては受け取る金額が明確で「年収の一部として受け取るもの」という認識になっているため、利益が低下して止むを得ず賞与を減額した場合、不満が出る可能性があります。
そのため、ボーナスの掛率は会社が継続的に出せる利益額や、その利益を出すための事業環境などを考慮に入れて、慎重に検討しましょう。
5評価制度をつくる
◆「仕事を任せられると思える根拠」に応じた評価項目
「等級制度をつくる」で、各等級の基準を「成果」「能力」「態度」の3点で整理し、設定しました。
これは、等級の到達基準です。
ここに「到達したかどうか」を判断するための物差しとして、評価目標と達成基準を設けます。
評価目標には、MBO、コンピテンシー、KGI/KPIなどのカテゴリーがあります。
【MBO(ManagementbyObjectives)】MBOは、個人またはグループごとに設定した目標の達成度を、個人で管理する方法です。
目標達成のためにどのようなタスクにどれだけの時間を費やし、いつまでにどのような成果を得るべきか。
期日から逆算して実行計画を作成し、実際の行動や成果を記入することで、目標までの自身の達成度を可視化して把握する、一連のフレームワークを指します。
【コンピテンシー】コンピテンシーとは、生産性の高い人材の行動特性のことです。
成果を出すまでの行動や思考についてヒアリングを行い、「なぜそのような行動をしたのか」「その行動の結果どうなったのか」を把握し、その情報を共有して行動指針とすることで、従業員の成長と成果創出を促します。
【KGI(KeyGoalIndicator)/KPI(KeyPerformanceIndicator)】KGIは、目標が達成されたか否かを判断する評価基準であり、KPIはそのプロセスの実施状況を定量的に計測する指標です。
どちらも目標に対する進捗度を明らかにするため、具体的な数値で表すことが重要です。
たとえば、第3等級の到達基準が「売上目標の達成に貢献する営業力がある」なら、評価目標は「大型案件を獲得する」「商談率を上げる」などが考えられます。
さらに、現在の大型案件の平均売上金額、商談率などから「大型案件を何件獲得すれば目標売上金額をクリアできるのか?」「商談率を何%まで上げればいいのか?」を検討し、その結果を達成基準に落とし込んでいきます。
たとえば「大型案件10件獲得」「商談率30%達成」などです。
目標を数値に表すのが難しいコンピテンシー(行動特性)の場合も、達成基準は必ず「□□の達成率△△%」「▲▲の資格取得」という具体的な数字や言葉に置き換えます。
たとえば「提案力の向上」であれば「提案研修への参加率100%」「営業士検定:上級を取得」などが考えられます。
また、リモートワークにおいて今後重視すべきは、従業員の精神面の把握です。
「等級制度のつくり方」で例に挙げた「部下のコンディションをこまめにチェックし、パフォーマンスを引き上げることができる」をマネージャーの到達基準とする場合、評価目標としては「定期的な1on1の実施」、達成基準として「実施頻度:週に1回」などが考えられるでしょう。
ただし、部下が抱える悩みは、目標達成への不安や仕事環境に対する不満、ときには私生活における悩みや今後のキャリアなど、さまざまです。
年代や環境、状況によって異なるため、相手に応じて適切なテーマで面談しているか、多様なテーマに対して的確なフィードバックが行えているか等も重要です。
さらに、これまで一般社員の「勉強熱心な態度」を評価項目に入れており、リモート環境でも継続したい場合は、やはり数値目標に置き換える必要があります。
たとえば、評価目標を「専門知識の習得」とし、オンラインのラーニングシステムを活用して、達成基準を「テストで◯点以上の結果を出す」「テストを◯回受ける」、または「□□のテーマの本を◯冊読了し、レポートを提出する」なども考えられます。
ただし、次ページにて紹介していますが、数値目標化するうえで気をつけなければいけないことがあります。
◆評価すべき目標を立てよう
前述したように、評価目標は各等級の到達基準の根拠となるものです。
一般的に、等級の種類による評価目標の傾向は、次のようになります。
職能等級制度(能力を重視):コンピテンシー、保有資格職務等級制度(成果を重視):KGI/KPI、MBO役割等級制度(成果・能力・態度を包括):KGI/KPI、MBO、コンピテンシー評価目標の立て方は、実は2通りあります。
ひとつは、等級に対して全社一律の目標を設定する方法。
もうひとつは、部門やチームごとに、個別に目標を設定する方法です。
前者は、たとえばカー用品販売店や自転車販売店、ドラッグストアなど、同じ商品を従業員全員で販売するような会社に有効です。
後者は、大型家電量販店や大型家具店など、複数の部門を持つ会社の場合です。
家電量販店ならAV機器、PC、家電、携帯電話、修理などの部門があり、それぞれで扱う商品の種類、単価が異なります。
また、販売と修理では業務内容も大きく異なります。
全社一律の目標を設定することが困難であるため、業務内容に合わせて個別に目標を立てたほうが適切な評価ができるでしょう。
また、目標は上から落とすトップダウン方式と、下から上げていくボトムアップ方式があります。
全社一律の目標であればトップダウン方式にならざるを得ませんが、部門やチームごとに目標を設定する場合はどうでしょうか。
さらに長期的な目標が立てにくく、状況の変化に応じて短期間で目標の変更を行わなければならない場合は、制度構築時はカテゴリーと大まかな内容程度にとどめておきます。
そして、制度運用時に従業員と上司が面談を行い、相談をしながら目標数値を決めていくといいでしょう。
◆評価のルールを決めよう
等級基準に到達したかどうかを判断する評価目標と達成基準が定まりました。
しかし、実際に評価を行うときは「達成基準をクリアしたから100点」「達成基準に届かなかったから0点」などという単純な二択にはなりません。
では、目標に対する従業員の働きを、どのように評価していくのか。
そのために、以下の4点を決めます。
①評価の指標②目標の難易度③評価の割合④重要視するカテゴリー①評価の指標仮に目標を達成できなかったとしても「達成基準にどこまで迫れたか」を定量的に評価するため、どのような結果に何点つけるかを決めます。
次の例を参考に、目標ごとの評価指標を設定してみましょう。
・評価目標Ⅰ「大型契約10件」の場合5件未満:1点、5件~8件:2点、9件~10件:3点、11件以上:4点・評価目標Ⅱ「商談率30%」の場合10%以下:1点、11%~20%:2点、21%~30%:3点、31%以上:4点②目標の難易度簡単な目標を立てて難なくクリアするよりも、難しい目標に果敢に挑戦して邁進する従業員を、より高く評価したいと思うでしょう。
そこで、評価目標の難易度に応じて、点数の掛率を設定します。
たとえば、大型契約を連続して取るのはかなり難しいため、評価目標Ⅰを難易度Aとして、評価指標の点数を1・5倍にします。
評価目標Ⅱはそれほど困難ではないため、難易度B、点数1・0倍とします。
仮に、S君が大型契約を9件獲得し、K君は商談率31%以上を達成したものの大型案件には挑戦しなかったとします。
すると、S君とK君の点数は次のようになります。
S君:3点×1・5=4・5点K君:4点×1・0=4・0点もし、K君が大型案件を1件でも獲得していれば、1・5点が加算され、5・5点になっていました。
つまり、難易度Bの目標達成で満足するのではなく、難易度Aの目標にも挑戦したほうが、点数が高くなりやすいことになります。
③評価の割合難易度Aの点数は1・5倍されるため、達成基準に届かなくても、難易度Bの最高点よりも高い点数を取ることができます。
しかし、容易な目標が複数ある場合、たとえば難易度Bよりも達成が容易な難易度C(点数0・8倍)の目標「提案研修への参加」があり、K君はこの目標で2点を獲得したとします。
K君:4点×1・0+2点×0・8=5・6点これでは、あえて難しい目標に挑戦する必要性が薄れてしまいます。
そこで、さらに掛率を加えます。
これを「評価割合」といい、全目標の合計が100%になるよう設定します。
たとえば難易度Aは評価割合を50%、難易度Bは30%、難易度Cは10%にすると、S君とK君の点数差(難易度が高い目標に挑戦する従業員と、難易度が低い目標にしか挑戦しない従業員の点数差)が、大きく広がります。
S君:4・5点×50%=2・25点K君:4・0点×30%+1・6点×10%=1・36点このように、評価割合を設ければ、難易度の高い目標にチャレンジするメリットが大きくなり、意欲向上が期待できます。
④重要視するカテゴリー会社側が取り組んでほしい目標への挑戦を促す手法として、もうひとつご紹介します。
カテゴリー別に設定する「評価点のウエイト」です。
たとえばマネージャークラスの人材は、すでにある程度の広い視野と幅広いスキルを身につけています。
さらにマネージャーの成果が会社の業績そのものに直接的な影響を及ぼすときは、コンピテンシーよりもKGI/KPIなどの定量目標の達成を重視したほうがいいでしょう。
一方、一般社員クラスが数字ばかりを追いかけている場合、周りへの協力に関心を示さなくなる可能性もあります。
チームで目標を達成するための提案力や課題発見力、トラブル時に一丸となって対処するための協調性などが軽視されないよう、コンピテンシーのウエイトを高くしておくことをお勧めします。
先ほどの例でいえば、「大型契約10件」「商談率30%」はKGI/KPI、「提案研修への参加」はコンピテンシー(項目としては「プレゼンテーション力」に相当)です。
そこで、次のように評価点のウエイトを定めます。
・マネージャー「KGI/KPI:70%、コンピテンシー:30%」・一般社員「KGI/KPI:30%、コンピテンシー:70%」すると、S君とK君が一般社員の場合、計算は次のようになります。
S君:4・5点×50%×30%=0・675点K君:4・0点×30%×30%+1・6点×10%×70%=0・472点この個別総評価点を「評価目標がすべて最高評価だった場合の総評価点」で割った割合
が、最終評価点(%)になります。
まとめると、計算式は次のようになります。
最終評価点(%)=(各評価目標の最終評価点×評価割合×評価点のウエイト)の総計÷
◆「相対評価」にするか、「絶対評価」にするか?
個別の最終評価点を算出した後は、その点数が「良い評価なのか、悪い評価なのか?」を、ランク付けによって明確にします。
つまり「S評価」「A評価」「B評価」「C評価」のどこに入るのかを決めるのです。
このランク付けのルールには「絶対評価」と「相対評価」の2種類があります。
それぞれの評価方法と、メリット・デメリットは次の通りです。
【絶対評価】あらかじめ定められた基準に従い、社員一人ひとりを評価する方法です。
S評価・A評価・B評価のそれぞれに「◯◯点以上」、C評価に「◯◯点以下」という基準を設定し、最終評価点数に応じて評価を決定します。
一般的には110点以上であればA評価に相当すると考えていいでしょう。
・メリット:評価面談による評価と、評価制度に基づく計算式によって算出された点数がそのまま適用されるため、従業員の納得感が高まります。
また、上位の評価を目指すためには「あと◯点必要」と明確にわかるため、モチベーション維持・向上にも効果があります。
・デメリット:業績への影響が少ない目標を達成して高評価になった従業員が多ければ、利益が増えなくても昇給をしなければならず、人件費のみが増えて労働分配率が上がってしまいます。
また、チーム全員が評価基準を達成して高評価となった場合、競争意識の低下を招く恐れがあります。
【相対評価】他者との比較による相対的な位置に応じてランク付けを行う評価方法です。
試験や試合などで用いられる「上位◯%以内に入れば合格」「上位◯名までが予選通過」と同じように、上位5%をS評価として、A評価◯%、B評価◯%。
C評価◯%という枠をつくり、成績上位者から良い評価を与えていきます。
・メリット:高評価の割合があらかじめ決まっているため、昇給をコントロールし、人件費を抑えられます。
また、高評価・低評価に偏ることなく、全体のバランスが良い評価分布になります。
・デメリット:所属する部門やチームによって評価が変わります。
全体的に能力が高いチームに異動すると、優秀な従業員でも評価が低くなり、モチベーションが低下する恐れがあります。
また、個人の成長が評価に反映されにくいため、点数が上がったにもかかわらず評価が下がれば、納得感を得ることは難しいでしょう。
◆「昇進昇格、降格」のルールを決めよう
一般的に、高い評価になれば昇給、低い評価であれば据え置きか降給になります。
この昇給や降給にも詳細なルールが必要です。
そのためには、評価によって等級や号俸がどのように変化するのかを決定しなければなりません。
たとえば、次のようなルールが考えられます。
・S評価なら昇格する・A評価なら号俸が2段階上がる(等級内の上限を超える場合は昇格する)。
2回以上連続でとれば昇格する・B評価なら号俸が1段階上がる・C評価なら号俸が1段階下がる。
2回連続でとれば降格するこのようなルールに沿って等級・号俸を変更し、自動的に給与額も決定します。
なお、昇格/降格とは同じ役職内で等級が上がる/下がることであり、昇進とは一般社員から主任、課長から部長など、役職が上がることをいいます。
昇進の場合、多くの会社では評価の他にも「昇進試験に合格する」「上長の最終承認を得る」「役職のポストが空いている」などの条件を設けています。
ところで「昇進すれば昇給になる」というイメージがありますが、会社が従業員に何を求めているのかによって、昇給率は大きく異なります。
たとえば、事業拡大のために多くのマネージャークラスを必要としている会社であれば、従業員の昇進へのモチベーションを高めるために、役職クラスに比例して昇給率を高くするでしょう。
一方、ITシステム系などの専門職集団の会社であれば、技術力の向上に応じて昇給が行われる傾向があります。
従業員の平均技術力が上がれば、プロダクト全体がレベルアップするためです。
そのため、高い技術力を持つ一流のプレイヤーがマネージャーとして部下を束ねる立場になったとき、本人がプログラミングを行わなければ技術力が生かされず売上に貢献しないため、給与を据え置きにする会社もあります。
高評価をとった人材に、どのような役割を果たしてほしいのか?昇進や昇給のルールは、この答えをもとに設定していきましょう。
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