第2章女性のココを育てよう
1「リーダーシップ」をブレイクダウン2リーダーシップがない人はいない3「一歩出たくない」は確かに存在する4強化するのは「業務力」ではなく「仕事力」5雌鳥型を卒業させよう6女性に担当できない業務はない7「女性脳」は神様からのギフト8調整力を伸ばすとあなたの仕事も楽になる9帽子の被りかえ方を伝授しよう10言葉の「漢字変換」が部下のランクを高める11ロジカルシンキング、ロジカルスピーキングは日々の積み重ね12人脈づくりこそ上司の腕のみせどころ
第2章女性のココを育てよう
現在多くの組織が女性のスキルアップを支援しています。
最も顕著なのが研修の増加です。
女性管理職向け、管理職候補向け、一般の女性職員向けだけでなく、女性をマネジメントする立場の管理職向けの研修など、いろいろなものが実施されています。
女性職員対象の場合、研修で出会う多くの受講生の方が「自分に求められている」と認識しているのが「リーダーシップの発揮」です。
研修の目的や内容にも、「リーダーシップ」という文言は必ずといっていいほど入れられています。
ところが、「それでは、リーダーシップの発揮のためには、皆さんはどうしたらよいでしょうか?」と問いを投げてみると、空気がフリーズします。
そして、しばらくした後に出てくる言葉が「後輩指導」です。
たしかに後輩指導もリーダーシップ発揮の1つです。
しかし、その言葉から認識されているのは「業務を教えること」であることがほとんどです。
ただし、すでにほとんどの人が業務を教えることは現場ではやってきているので、「それ以上何をやればよいのかわからない」というのが本音のようです。
そういうなかで「リーダーシップを発揮して」と言われているため、不安を覚えているケースが多いのです。
「何か得体の知れないものを身につけることを期待されている」「おそらく大変なものを担わなければならない」と不安はどんどん大きくなります。
周りの忙しそうな管理職を目にしていたりすると、「管理職になりたくない」という意識も育つでしょう。
実際、指令型の女性管理職養成研修では、参加すること自体が大きなプレッシャーとなっている人も多いのです。
加えて、これから上の立場になっていくうえで何をスキルアップすればよいのかも理解されていません。
業務知識や業務のスキルを上げていくことはどのような立場であっても必要なものですが、管理職になる女性を育てていくためにはそれだけでは不十分です。
実際「リーダーシップ」の概念は非常に曖昧です。
『ブリタニカ国際大百科事典[小項目版]』(ロゴヴィスタ)によると、「集団の目標や内部の構造の維持のため、成員が自発的に集団活動に参与し、これらを達成するように導いていくための機能」とされています。
しかしながら、その時点でその人が求められるリーダーシップの中身はケースバイケース。
職場によってかなり異なります。
まず女性職員が担うであろうミドルマネジメントに期待する「リーダーシップ」は現在の職場では具体的に何なのかを認識させる、できれば上司がブレイクダウンして部下に伝える必要があるのです。
部下にリーダーシップを期待する場合、まず「上司自身がその中身を伝えられること」そして「部下が日々の業務を通じて何を習得すればよいのか理解できること」が必要、つまり具体的にブレイクダウンして伝えられなければなりません。
もし、上司にもそれがよくわからないのであれば、部下と話し合い、「いまの職場の生産性を高めるためのリーダーシップは何か」「そのために部下が習得すべきことは何か」をしっかり共有していく必要があります。
「活躍」を急に期待されている女性たちに「無用な不安」を少しでも減らしチャレンジしやすくしていきたいものです。
活躍してほしいと期待している女性の部下に「私にはリーダーシップがないので管理職なんて無理です」と言われたことはないでしょうか。
私自身も女性管理職養成のための研修の参加者が「リーダーシップがない」と言う場面によく出会います。
彼女たちには本当にリーダーシップがないのでしょうか?問題は「リーダーシップ」のとらえ方です。
多くの人がイメージしているのは「集団のトップにいる」「メンバーをまとめ引っ張っていく」「声が大きい」「迫力がある」といったリーダーシップ像です。
たしかにこれはリーダーシップの1つのスタイルです。
しかし、リーダーシップには他のスタイルもあります。
まず、多くの人がイメージしているリーダーシップは「カリスマ型のリーダーシップ」です。
これは、トレーニングすれば誰でも身につけられるリーダーシップというよりは、もともともっているケースが多いのではないでしょうか。
外に向けてアプローチすると、失敗したり批判されたりすることも多いはずですが、カリスマ型の方はそれでもヘコたれません。
多くの職員はその様子をみて、「ああいうふうになりたいと思ってもできない」と感じ、「私にはリーダーシップがない」と思ってしまうのです。
しかし、昨今は「サーバントリーダーシップ」が提唱されています。
サーバントリーダーシップは「奉仕するリーダーシップ」で、「時に方向を指し示して導き、どうすればメンバーがもてる力を十分に発揮できるかを考え、そのための環境を整えることが必要となる。
まずは『奉仕する』気持ちが先に立ち、『そのために導く』という順番で考える」(『[新版]グロービスMBAリーダーシップ』(ダイヤモンド社)より引用)というものです。
トップダウンでのマネジメントの限界がいわれていて、どの組織、どの現場も、当事者意識をもって仕事に関わることが必要になっている現在に求められているリーダーシップのスタイルです。
つまり、変化が激しく、さまざまな事柄が複雑にからみあっている現在の状況では、リーダー1人がチームを引っ張るというかたちでは対応することが難しくなってきています。
そこでチーム自体(メンバー)が自主的に考えて動いていくことが求められています。
リーダーがメンバーが強みを発揮して動きやすいように集団を支援しながら動かしていくというイメージです。
NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会によると、「『リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである』というロバート・グリーンリーフ(19041990)によって提唱されたリーダーシップ哲学である」とされています。
つまり、カリスマ型のよ
うに周囲を支配するのではなく、支援して動かしていくものということです。
加えて、同協会からは、サーバントリーダーシップの「10の特性」が以下のように示されています。
この特性をみてみると、女性に備わっていると考えられるものが多いことに気づきます。
「①傾聴」「②共感」「③癒し」「⑧執事役」「⑨人々の成長への関与」「⑩コミュニティづくり」は得意とする女性が多いのではないでしょうか。
これは、そのまま現場で女性のリーダ
ーに期待していることと似ていることでしょう。
研修で参加者にサーバントリーダーシップというかたちがあることを伝えると、大概「自分たちにも発揮できるリーダーシップのかたちがあるんですね」と安心し、「それならやれるかもしれない」と自信をもちはじめます。
現場ではサーバントリーダーシップの発揮を求められる場面が多いはずです。
リーダーシップがない人はいないのです。
「管理職なんてとてもとても」「係長の器じゃないので」という女性部下の言葉。
「期待しているのに」「彼女ならできるのに」あるいは「面談で『頑張りたい』と言っていたのに」と、その言動が理解できないと思う上司も多いのではないでしょうか。
これにはいくつか理由があります。
まず最初は、周りから一段上に上がることを回避する傾向です。
心理学者のホーナーは「成功恐怖理論」(1968)を提唱しています。
これは、「能力の高い女性が達成課題を前にして不安感情や遂行低下を示す」というものです。
つまり、女性は成功に対して不安を感じて回避する傾向にあるといわれています。
ただし、これは伝統的な女性の役割の認識や周りからの見られ方も影響しているといわれており、社会的に女性が活躍することが珍しいことではなくなっているいまの時代では、それほど影響は受けないという説もあります。
しかし、私自身は、成功することによる周囲の目を気にして一歩踏み出すことを躊躇するケースが確かにあることを、金融機関の女性たちから感じています。
次にあるのが「ランクの発生」と「孤独への恐怖」です。
役割が上がると変わるのが仲間との関係性です。
これまでフラットな関係であったのに、たとえわずかであっても上下の関係性が出てきます。
この「上下」のことを「ランク」といいます。
このランクの発生により関係性が変化します。
この変化とともに、お互いこれまで話せていたことが話せなくなったり、いつも参加していた食事会に声がかからなくなったりします。
ここで感じるのが「寂しさ」そして「孤独感」です。
こういったことは上司にも経験があるのではないでしょうか。
誰しも上になればなるほど、組織のなかでは孤独になっていくものです。
もちろんこれは超えていかなければならない壁ではありますが、仲間意識が強く、いろいろなことを一緒にやってきた女性にとっては特にきついものです。
共感したり孤独感の乗り越え方を伝えたりしつつ、彼女たちを上位者の仲間に引き入れていきたいものです。
金融機関の仕事は事務処理能力、各種知識などが備わっていないとまず成り立ちません。
営業店の職員の事務処理能力の素晴らしさに感嘆することはよくあります。
私は現在人材育成の業界にいますが、銀行勤務経験が14年あり、その間に鍛えられ習得した事務処理能力は非常に価値のあるものと感じることも少なくありません。
最近、管理職一歩手前の役職(主任、係長等)に任命されて悩んでいる女性職員によく出会います。
「主任としてどう振る舞ったらよいのかわからない」「何も役割がなかったときのほうが仕事に集中できた」など。
本章の1「『リーダーシップ』をブレイクダウン」でも述べたように、いわゆる「ジョブ・ディスクリプション(職務の内容や責任)」が明確でないことが問題であることは間違いありません。
そして、「業務ができる」=「仕事ができる」という思い違いから何の橋渡しもなく主任や係長に任命されてしまっているケースも多いのです。
「営業成績がトップの職員を主任へ」「事務処理能力、知識が素晴らしく生き字引のような職員を係長に」というケースです。
もちろん、上位の立場の人が「営業能力に優れている」「知識がある」「事務処理ができる」には超したことがありません。
しかし、上位職に求められるのは、その他のことであり、もし営業能力、知識、事務処理が最上位でなかった場合は、得意な後輩を動かしていけばよいのです。
まったく営業ができない人がチームをまとめる立場になるというのは難しいですが、営業力トップを求め続けられるものではありません。
むしろ営業力トップが自らのチームから生まれるようにしてほしいのです。
上図をみてみましょう。
カッツモデルといわれているもので、1955年にハーバード大学教授ロバート・カッツが提唱したモデルです。
ローワーマネジメント、ミドルマネジメント、トップマネジメントで求められるスキル(テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチ
ュアルスキル)について示されています。
マネジメントに求められる3つのスキルは、立場が上がるごとに比率が変化しています。
ローワーマネジメントではプレイングマネージャーであるケースも多く、テクニカルスキル(業務遂行スキル)の比率が高くなります。
ミドルマネジメント、トップマネジメントになると、テクニカルスキル(業務遂行スキル)の比率が下がり、逆にコンセプチュアルスキル(概念スキル)の比率が高くなっていきます。
つまり、立場が上がるにつれ求められるのは、自分自身で業務を遂行することではなく部下に任せ、その部下が業務を遂行できるようにしていくことだということです。
そこで必要とされるのがヒューマンスキル(対人スキル)です。
部下やチームがよい仕事をしてくれるように働きかけるためにはこのスキルが欠かせません。
また、能力を発揮できるよいチームワークをリーダーとして促していくためにもこのヒューマンスキル(対人スキル)が必要です。
また、リーダーとしてではなく、チームの一員としてチームワークをよくしていくにもこのスキルが必要となります。
ですから、ヒューマンスキル(対人スキル)はいかなるレベルのマネジメントでも求められているのです。
さて、管理職に向けた女性の育成で必要なのは業務力ではなく、リーダーになっていくためのヒューマンスキル(対人スキル)とコンセプチュアルスキル(概念スキル)、つまり仕事力です。
頑張れと期待されている女性たちのなかには、このことが認識されておらず、「よりいっそう数字を上げなければ」「知識をつけなければ」と思い込んでいたり、現状数字が思うように上がっておらず「リーダーとしてふさわしくない」(成果)と悩んだりしていることがあります。
もちろん数字(成果)や知識も大切です。
しかしながら、リーダーとしては、自分自身が成長するだけではなく部下も含めたチームを成長させることが求められていることなのだということを明確に伝えておく必要があります。
また、部下、チームという視点をもつにつれて、判断しなければならない課題の難しさや複雑さも増してきます。
そのことを踏まえ、コンセプチュアルスキル(概念スキル)の向上を意識した指導を丁寧に行っていきたいものです。
Column●ダイバーシティ=女性の活用?●「ウーマノミクス」という言葉が広まる前までは、女性活躍推進のことを語る際には「ダイバーシティ」という言葉が使われていました。
ダイバーシティとは「多様性」というのが言葉の意味ですが、「違いを尊重して受け入れ積極的に活かす」という経営の概念のことをいっています。
ダイバーシティについてはアメリカでの議論が最初です。
多様な人種、多様な価値観が混在する状況で組織運営をどのようにすれば効果的なのか、さまざまな試みがなされてきました。
その流れのなかで1990年代から提唱されたのが「ダイバーシティ」です。
日本でも2000年代前半に多くの企業がこの考え方を取り入れた動きを始めました。
ダイバーシティは生物学的な性別だけでなく、年齢、人種、宗教、民族、ジェンダーなどを対象にしているものですが、日本ではまず「性別」上のマイノリティとされがちな「女性」に焦点が当たり、いまに至っています。
「女性活躍推進」という言葉が前面に出ることにより、「ダイバーシティ=女性」というイメージが広まりつつありますが、本来は「男性も女性もいきいきと働き強みを発揮していく組織(社会)となる」ことがその目標で、現在はそのプロセスの途上です。
あまりにも「女性」という部分だけが強調されてしまうことで、弊害も少しずつ出はじめています。
本書でも触れていますが、「女性昇進支援」「ワーキングマザーの育児支援」だけになってしまうと、対象でない人々の不満が必ず出てきてチーム力が低下してしまうことになります。
注目される方も、されない方も力が発揮されません。
目的はあくまで「多様な強みをチームに活かすこと」だということを皆が共有して「女性活躍推進」を進めていきたいものです。
「教えてやらせるよりも自分がやったほうが速いので、自分でやってしまう」「私が休むと仕事が回らないので休みがとれない」こんな女性リーダーはいないでしょうか?この方は「雌鳥型」の可能性があります。
私が入行した銀行はその当時では「女性活用(「活躍」ではありません)を積極的に行っている」といわれていて、女性管理職や係長クラスの管理職候補が珍しくありませんでした。
ある女性上司と一緒に働いたときのことです。
プレイングマネージャーだった彼女は前向きでアネゴ肌の人でした。
私たち部下が困っているのをいち早く気づいてくれて声をかけてくれます。
また、業務にも精通しているため安心して仕事ができ、他のチームの同僚に「女性の上司は細やかでいいね」とうらやましがられたものでした。
しかし、気になっていたことがありました。
部下である私たちが帰るとき、彼女のInボックス(未決箱)のなかに常にたくさんの書類が残っていることです。
いつも「お疲れさま」と笑顔で送り出してくれるのですが、「上司は何時頃帰るのだろう?」と部下の私たちは心配もしていました。
なぜなら、徐々にやつれていっていることが周りもわかっていたからです。
しばらくして、この上司は体調を崩し、休むことが多くなり、結局別の男性の上司が代わりに異動してきました。
途端に私たちは窮屈になりました。
なぜなら以前より気を引き締めて働かなければならなかったからです。
女性の上司は一緒に働きやすい人でした。
なぜなら本来私たちがやらなければならない面倒くさいことは彼女が引き受けてくれたからです。
私たちはすっかり甘えてしまっていたのでした。
おそらく彼女のマネージャーとしての評価は高くなったのではないでしょうか。
このエピソードは少し前の時代でのことですが、このように仕事を抱え込んでしまう、いわゆる「雌鳥型」の女性は現在でも少なくありません。
特に金融機関で働く女性は、誠実かつ周りのことを思いやり、「和」を大切にする傾向にあります。
ですから「仕事を振ってこれ以上忙しくなるのはかわいそう」と思ってしまうケースも少なくありません。
自分自身がその立場を経験しているのでなおさらそうなるのでしょう。
周囲との人間関係が壊れてしまうのではという恐れもそれに輪をかけてしまいます。
さらに悪いことに、テクニカルスキル(業務遂行スキル)に優れている女性なので、自分でやろうとすればできてしまう、そのうえ、業務の質が高いので、周囲もその状態をよしとしてしまいます。
結局、さまざまな煩わしさを克服するよりは「自分でやってしまったほうが楽」という仕事の仕方が習慣化してしまいます。
雌鳥型に陥らないためには、女性の意識のシフトチェンジが求められ、上司がその支援をしていく必要があります。
雌鳥型を卒業できなければ、より上位の立場になることはできません。
いかにこのステージを乗り越えることができるかが、本人の今後にかかってくるのです。
女性管理職登用が推奨されているにもかかわらず女性支店長が少ない理由の1つに「女性にはリテール店しか任せられない」というものがあります。
女性は法人融資の経験がないため、ホールセールの支店は担当させにくいと。
これまでも女性が営業の第一線に出ていく機会が増してきていました。
しかし「女性は預かり資産/個人向けローン」「男性は法人融資」という枠組みを超えることがなかなかできていませんでした。
昨今は女性にも法人融資を担当させていこうという動きが進んできており、早いうちから融資部門に配属される女性職員が増えてきました。
法人融資を担当している女性職員についての評判を時々耳にしますが、女性だからという理由でなんらかのさしつかえが発生しているという話はほとんどありません。
通常の銀行業務において、女性に担当できないものはありません。
法人融資となると経営や財務の知識が必要になりますし、個人向けの仕事よりも金額が大きくなる分、分析力・判断力が求められます。
しかし、これらは男女に能力差はありません。
そして、何よりも社会環境や意識の変化によって、お客様が「男性でなければ困る」という考えではなくなってきています。
他業種でも女性の活躍は進んでいます。
2000年代半ばぐらいに、建設関係の億単位の案件の営業を女性が担当している様子がTVで放映されていました。
そのときはまだ「女性なのに頑張っている」というトーンでの報道でしたが、現在はそのような女性が取り上げられていたとしても、もう「女性なのにすごい」というトーンではありません。
昨今はすでに男女ともがいかなる仕事にも取り組めるようになっているのです。
同じように「女性なのに法人融資を担当していてすごい」などと世の中は思わないでしょう。
そうはいっても、まだ女性融資担当者は少数です。
今後一人前の融資担当者がどれだけ育つかは金融機関における女性活躍推進への取り組み方にかかってきます。
個人向け外訪担当も以前は男性のみの職種でした。
「女性にお金をもたせて外を歩かせるのは危険」「女性が車を運転して営業していて事故になったら……」などと言われていましたが、現在はどこの金融機関でも女性外訪がいるのはごくごく当たり前です。
女性に任せられない仕事はない。
これを肝に銘じ、女性法人融資担当者を育成していきたいものです。
「女性は泣くからやりにくい」「プロセスからダラダラ話されて何を言いたいのかわからない。
結論を先に言えと指導しているのに……」「起こった事実について話しているのに、だんだん感情的になって違う話になるんだよね」仕事を遂行するうえでの「能力」に差がないということについては納得する人が多くなりました。
しかし、上司からすると、実際にはこういったやりにくさが存在しているといいます。
これらは特性の違いによるもので、女性は男性よりも感情のスイッチが入りやすいといわれています。
この根拠には諸説あります。
心理学的な「母性」「父性」という考え方もありますし、医学的にホルモンの作用として説明しているものもあります。
ここでは脳科学における男女の脳の構造や働きの違いに触れていきます。
脳には左脳と右脳があります。
左脳は論理脳といわれていて、分析、論理、言語などをつかさどります。
一方、右脳は感情脳といわれています。
空間、感情、知覚、ひらめき、イメージなどをつかさどります。
次のイラストをみてください。
右脳と左脳をつなぐ脳梁があります。
この脳梁に男女の違いがあるのです。
脳梁は男性より女性のほうが太いのです。
そのため、右脳と左脳の情報の行き来がしやすくなります。
情報の伝達にも違いがあります。
2013年にペンシルベニア大学の研究チームの発表で、脳の神経細胞は男性では、左脳・右脳内で縦方向に情報を伝達すること、女性では、左脳と右脳をまたいで横方向に情報伝達を速く強くすることを発表しました。
業務に関することを考えるとき、主に使うのは論理脳である左脳です。
男性の場合は左脳を働かせて論理的でいられるのですが、女性の場合は左脳だけでなく右脳ともやりとりしてしまう。
女性が男性よりも一度に複数のことを段取りよくできるのはこの作用といえましょう。
ただし、論理と同時に感情も動いてしまうことになります。
女性が仕事中に泣くのはこの作用が起きていて、さほど「特別なこと」ではありません。
一方、仕事中には感情をシャットアウトできる男性にとっては「泣くこと」は大事であるため、ギャップが生じます。
また、私の研修では参加者の方に発言して頂くことが多いのですが、話しているうちに感情が乗って主旨からどんどん外れていってしまう人がいます。
この比率は圧倒的に女性のほうが高いと感じています。
これはまさに両方の脳が働いている状況なのでしょう。
しかし、上司であれば「何が言いたいの?」「報告は結論から!」と言いたくなることは確実です。
それでは、この特性のメリットについて考えてみましょう。
論理と感情を両方動かすことによってできることは仕事の場における感情認知、つまり共感です。
事実を認識しながら心を動かし相手に寄り添うことができます。
本章の2「リーダーシップがない人はいない」で述べているサーバントリーダーシップの特性のうち、「傾聴」「共感」は、まさに左脳と右脳、つまり「頭」と「心」両方を働かせることが必要です。
また、4「強化するのは『業務力』ではなく『仕事力』」で取り上げたヒューマンスキルですが、対人スキルにおいては、まさに「頭」だけではなく「心」が必要となってきます。
チームをまとめ導くとき、上司とのやりとり、お客様と接するとき、すべてにおいて「頭」と「心」両方を同時に使える「女性脳」は大きな強みなのです。
課題はそのコントロール。
政治家、上場企業の経営者などの要職にある女性がこのコントロールができずに時に誤った判断をし、なかには失職してしまうケースがあります。
感情を働かせてよいケース、悪いケースを本人が認識しておくこと、そしてそのコントロール方法を身につけること、これがその後の成長ができるかどうかの分岐点となっていきます。
「女性脳」は神様からのギフトです。
本人も周囲もよさを活かしていきたいものです。
「頭」と「心」、両方を同時に使える女性リーダーに磨いてもらいたいスキルが調整力です。
上の方針を理解しながらブレイクダウンしてチームを導いたり、チームの内情を把握して他部署や上と交渉したり、といったことを女性リーダーが担ってくれたら上司の仕事はどうなるでしょうか?以前一緒に仕事をしたメンバーに銀行の管理職経験者の女性Aさんがいました。
Aさんは年齢的に先輩でもあり、教えてもらったことはたくさんありました。
なかでも驚いたのが彼女の調整力。
どう考えても、「到底相手には受け入れてもらえないだろう」と思えることや「トラブルにつながりそうなこと」をいつも上手にまとめてしまうのです。
女性のなかには「女らしさ」を前面に出して調整する人もいます。
しかし、Aさんはそういうタイプとは違い「女らしさ」で仕事をするわけではありませんでした。
あるとき私がプロジェクトの関係者に対しある要望を伝えたことがありました。
こちらとしては至極まっとうなものと思っていましたので、簡単にYesと言ってくれるものと思っていました。
しかし、結果は失敗。
おそらく伝え方も悪かったのでしょう。
相手の方が感情を害してしまってその後協力が得られなくなるという状況になってしまいました。
そのとき、見かねたAさんが相手の方とコミュニケーションをとってくれ、結果的に丸くおさまったのです。
そのときAさんに指導されたことは、「どんなときでも相手の立場、気持ちを考える」「100%こちらが正しいと思ってもそれを押しつけたら反発される。
こちらが要望するかわりに相手にプラスになることをこちらも受け入れる」でした。
そのときのAさんの言葉は、その後私が仕事をするうえでどれほど役に立ったか計りしれません。
Aさんは銀行においても優秀な管理職で、彼女の能力を買っていた上位者、慕っている部下や後輩が男女にかかわらず大勢いました。
ただ、いまのように女性を活躍させようという時代ではありませんでしたので、それ以上の役割は与えられませんでしたが、現在であればおそらく支店長候補となっていたのではないでしょうか。
その後何十年も仕事をしてきていますが、出会う優秀な女性たちは皆さん、この「調整」が上手です。
もちろん業務自体の調整も上手ですが、それに絡む人との調整力が優れていて、これはそのままリーダーシップの発揮にもつながっています。
ここは前項で述べた女性ならではの共感力が生かされます。
それに加え、女性が得意とする「空気を読む」力も大いに効果があるでしょう。
「女性は少々思いきったことを言っても許される」と、ある大手企業の役員の方が役員会で男性が言いにくいことを、女性役員がズバズバ意見として述べることについて話していました。
たしかに、現在は要職に女性が少ないですから、まだそういった効果があるでしょう。
しかし、今後、女性活躍推進が進み、役員会に女性が参加することがそう珍しくなくなると、あまり評価されなくなると予想されます。
今後は女性の強みを生かした調整力こそ育てていきたいものです。
そして、部下が調整力を高めることは管理職としての上司のリーダーシップ発揮を強力に補ってくれることにもなるのです。
「いままで仲間として接していたので、上司と部下という接し方がどうしてもできません」。
昇格研修で、主任になった女性からの訴えです。
これを聞いて、うんうんとうなずいた女性がたくさんいました。
女性のリーダーへの昇格者の多くは、それによって職場が変わるわけではありません。
なかには「表面的には担当業務が変わらない」というケースもあります。
すると、これまで「仲間」として仲良くして、上司や職場への不満などを言い合ってきていたグループの一員から、一段上の立場へ切り替えにくいというのです。
女性は職場でうまくやっていくために「周囲と仲良くする」ということを特に大事にしています。
ですから昇格により自分自身の立場が変わることで、そのグループに居場所がなくなることをおそれています。
人がなんらかの集団に属するときは、なんらかの役割を担うのですが、その役割に外的役割と内的役割の2種類があります。
外的役割というのは、外に共有されている表面的なもので、「課長」「代理」「主任」などはこれに当たります。
一方、内的役割というものは、組織から与えられているわけではなく、その集団のなかで自然と担う役割です。
たとえば、「相談役」「甘え役」「しきり役」「わがままを言う役」「重箱の隅をつつく役」「最初に口火を切る役」などです。
活躍が期待される女性職員は「お姉さん役」や「相談役」といった内的役割を担っていることが多いのではないでしょうか。
そこで、昇格時に起こるのが、内的役割を果たせなくなることへの困惑です。
たとえば、主任になるということは、これまでどおりの「一緒に文句を言い合う役」は担えなくなるかもしれません。
上位者に上がっていくということは少しずつ「組織側」の立場も担うことになり、上司の視点に近づいていきます。
しかし、「共感するお姉さん役」であれば、時には「仲間」としての役も担うことができるのではないでしょうか。
これは帽子にたとえるともう少しわかりやすくなります。
私は1対1のコーチングも仕事にしています。
コーチングのときは基本的にクライアントの話を評価判断せずに聴いていきます。
コーチは聴く人、クライアントは話す人という関係性です。
しかし、時にこの関係性にもう1つ加わるときがあります。
別の仕事のプロジェクトで一緒にやっていたり、時にはともに学ぶ仲間であったりするケースです。
すると、コーチング以外のときも「聴く人」「話す人」であるわけにはいきません。
そんなときは帽子を被りかえることで対処します。
コーチングの最中私は「コーチの帽子」を被りますが、それが終了すると「学ぶ仲間の帽子」に被りかえます。
自分1人でやるのではなく、相手に「コーチの帽子を脱ぎますね」と宣言します(これが重要です。
これを言わないと、「コーチングなのに聴いてもらえない」となってしまいます)。
そして、相手に意見を言ったり、ディスカッションしたりするのです。
これは男性も立場が上がるときに同様の経験をしているはずです。
私も上司(男性)に「これは上司としてではなく一緒に働く仲間として言いたいのだけど」という前置きで話をされたことが何度かありました。
昇格するといきなり「主任と後輩として」「上司と部下として」という関係で100%いなければならないと考えてしまいがちですが、このように外的役割、内的役割の帽子を用意しておいて被りかえるということでよいのです。
時間の流れとともに、内的役割が適切なかたちに調整されていきます。
「お姉さん役」がずっと続くかもしれませんし、「お姉さん」はそのうち他の人が役割を担い、「見守り役」になっていくかもしれません。
帽子を被ったり脱いだりして役割をかえていくコツを身につけさせることができれば、もっと自然にリーダーとなっていくことができるでしょう。
知り合いのMさんはコンサルタントとして大活躍中の女性です。
前職で金融機関の管理職となった30代にビジネススクールに通ってMBA(経営学修士)を取得しています。
なぜビジネススクールに通おうと思ったかという理由が「上位者の男性たちと同じ言葉で話せるようになりたかった」というものでした。
たしかに、立場が上になって組織内の上位者や経営者の話すレベルについていけなければ、対等に仕事をするどころか仲間にも入れてもらえいないでしょう。
Mさんはこの点をまず克服しようとしたようでしたが、結果的にこれは非常に効果的なスキルアップとなりました。
女性同士で仕事をしているとき、男性と一緒に仕事をしているとき、感じるのが言語の違いです。
同じ内容でも、女性同士だと平易な言葉でわかりやすく伝え合うのに比べ、男性だと理解するのが難しい言葉で話されていると感じることがあります。
平たくいうと、女性同士だと「ひらがな」、男性同士だと「漢字」というイメージです。
「ひらがな」と「漢字」というわけではなく、たとえば「話し合い」→「議論」、「決める」→「意思決定」、「…となって…となって」→「プロセス」「経緯」といったものです。
「前向き」を「建設的」と言い換えたり、「自分で」を「主体的に」などと言い換えていくことも時には必要です。
こういった語彙に慣れていくことも、女性が役割の階段を上っていくうえで大事なことなのです。
「お客様には専門用語を使わずにわかりやすく」と、セールスの際は「わかりやすさ」に力を入れて「漢字」を「ひらがな」にするトレーニングを受けてきている人が多いと思われますが、組織のなかでは時には逆に男性たちが使う言葉を取り入れて語るということも必要となってきます。
また、女性の業務範囲が広がっていくと、法人の財務担当者やさまざまな年代の経営者と対等なビジネスマンとしてやりとりしていくことが求められていきます。
言葉というのは「ランク(立場の上下)」を瞬間的に示していきます。
性別、肩書きなど属性だけでなく、使う言葉によっても瞬間的にランクづけをしていきます。
話す内容がいくらよくても使う言葉によってランクが低められてしまうことはもったいないことです。
女性部下の語彙を増やしていくことも、上司が働きかけることで可能です。
人の心をつかむ話し方として「ストーリーテリング」が注目されています。
ロジックだけを伝えるのではなく、それにまつわる「自分のストーリー」や「私たちのストーリー」を語り、共感を生みだして相手を動かしていくというものです。
たしかに、徐々に心から納得することで、頭も感情も納得することができます。
アメリカでは大統領選などでもその手法が使われているといわれています。
女性はストーリーを語るのが得意です。
しかし、それが時には逆効果になります。
ある企業の株主総会に出席しました。
質疑応答の時間に女性株主が話しだしました。
「広告宣伝費についての質問です」と。
その後、「貴社がスポンサーになっている〇〇という番組があります」と、話は迷走しはじめました。
ここで、私は「その広告宣伝の金額についての質問か?」と思ったのでした。
ところが、違ったのです。
「先日、皇居の勤労奉仕に行きました」と話が展開していきます。
皇居の勤労奉仕というのは、ボランティアで皇居内の庭の掃除をするという活動です。
「そこで陛下にお目に掛かり……」と話は続きます。
勤労奉仕をすると、最後に皇室の方とお目にかかれるのです。
「そのつましさに感銘を受けた」とのこと。
その方は心から感動したようで情感たっぷりです。
しかし、聞いていた私はもうここで何がなんだかわからなくなりました。
その後「その素晴らしい皇室について〇〇という番組は批判をしている」と話が続いていきました。
ここでようやく何を訴えたいのかがわかってきました。
要するに「その番組のスポンサーにならないでほしい」ということだったのです。
その企業の経営陣は質問が終わるまで、何かに耐えているような表情をしていました。
これでは、経営陣を動かすことはできません。
最初に「スポンサーになっている番組についての意見です」と結論を述べ、次に根拠を述べていたら、もしかしたら検討事項になったかもしれません。
このような場面に出会うことはないでしょうか。
私の研修では最後に感想を述べてもらうことが多いのですが、「1分以内で」と伝えていても、研修の通知が来たときの心の動きから話される方がいます。
そうなるとストーリーが研修参加に至ったところで1分は終了となってしまい、肝心の研修の感想をあまりお伺いできません。
研修前のネガティブな気持ちがポジティブになったことに対する感動は強く伝わってきますが、少し残念に思う瞬間です。
本章の7「『女性脳』は神様からのギフト」で男女の脳の構造の違いについて述べましたが、ロジカルスピーキングがうまくできないのはこの構造も1つの要因です。
脳梁を伝わって右脳と左脳が両方活性化してしまうため、話しているうちに感情が高ぶってしまい、話が流れてしまったりするわけです。
想いを伝えていかなければならない場面ではストーリーを話すことは効果的です。
お客様との関係づくりにも一役買っているはずです。
しかし、組織において女性が上位の役割を目指していくうえでは、ロジカルな考え方や話し方ができないと、さしつかえが出てきます。
ですから、女性部下に対しては、日頃から「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」や会議での発言のときに「ロジカルに話す」ことを指導していくとよいでしょう。
わかりにくく話したりプロセスから話したりしている際には、「要点は何?」「結論から話して」と促し、「まず頭のなかで箇条書きにして組み立てて報告する」「結論→根拠/経緯の順で話す」というアドバイスをしていきましょう。
また、「お客様がみんな仰っています」という怪しい前提のときには「みんなというのは何人くらい?」「何かデータはあるの?」などと率直に指摘をすることも効果的です。
ロジカルスピーキングをするためにはロジカルシンキングが必要になってきます。
ロジカルな考え方や伝え方ができ、ストーリーも語ることができて、かつそれらを適切に使い分けることができるというのは女性ならではの強みとなります。
ぜひとも育てていきたいものです。
仕事の質を上げていくためには、本章の4「強化するのは『業務力』ではなく『仕事力』」で触れた、カッツモデルのなかのコンセプチュアルスキル(概念スキル)の向上が欠かせません。
広い視野や先見性のある判断力の向上、つまり立場が上がっていくうえで重要になっていくスキルです。
女性のリーダー候補の方には「上司のような視野の広い判断は私には無理です」と言う方がいます。
女性は目の前の物事の判断は比較的得意ですが、さまざまな方向から考え判断するのは難しいと考える人が多いものです。
それは、やはり経験の差が大きいのですが、それともう1つ、人脈の差もあるのです。
上位者と話すことで、本や研修、日々の業務範囲では学べない大切なことを学んだ経験が誰にでもあるのではないでしょうか。
女性の場合、同じ年代、同じ職位の知り合いは多く、人間関係をつくるのは上手です。
しかし、自分より上の職位の人脈はつくりにくいものです。
金融機関の女性の場合は、特に周囲に合わせ飛び抜けて誰かにアプローチするというタイプが少ないので、いっそうつくりにくいと思われます。
何かあったときに相談できる上位者、職場を離れて仕事のことを対話させてもらえる上位者の存在は、コンセプチュアルスキルを備えるうえで強力なサポートとなります。
ある女性リーダーのBさんは主任になったときに上司から「〇〇さんもこれからは人脈を意識しなさい」と言われたのですが、どうしてよいのかわかりませんでした。
営業店の普段の仕事ではあまり人脈が広がりません。
すると、上司が「自分より上の人とできるだけ知り合うようにしよう」とアドバイスをくれました。
「お客様関係でも、チャンスがあったらできるだけ上の人と話せるように」「他の部署や仕事以外でも上の人とつながることを意識して」ということです。
そこで、彼女は行内の自主的に参加できる(手あげ式)研修やイベント、それも上位者が参加しそうなものを特に選んで申し込み、積極的に上位者と話すことを意識しました。
また、休日も社外のセミナーに参加したりと行動しはじめたのです。
その状況をみて、上司も次の段階のサポートを始めました。
自分自身が、同じ職位の知人と食事に行くときに、彼女に声をかけるなどしてくれたのです。
上位者たちと会話することは、彼女の視座を上げることになり、大きな学びとなったようでした。
それと同時に仕事のスキルもどんどん向上したのでしょう。
しばらくぶりに会ったBさんは自信をもったようにみえました。
そして、数年後には支店長候補となっていると聞きました。
人脈づくりのためには「社交」という感覚が必要になります。
しかし、機会がないと、「仲間とのおしゃべり」に「社交の会話の技」を会得できないままキャリアを重ねていってしまいます。
上位者と話すのは最初は窮屈ですが、それに慣れておかないといつか限界がやってきます。
この経験を積むサポートができるのは上司ならではなのです。
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