第2章大火事を招く!アウトなクレーム対応~絶対やってはダメなNG対応~
三流以下だった谷厚志のクレーム対応の失敗談
第1章で、「クレーム対応は失敗してはいけない」と説明しました。
私は今でこそ、クレーム対応の専門家として仕事をしていますが、しかし実は昔、いっぱい失敗をしてきました。
対応をしくじり、お客様を怒らせてしまった件数は数え切れません(笑)。
今は本当に恥ずかしくて思い出したくないような失敗もたくさんあります。
ただ、たくさん失敗をして恥をかいて学んだことは一生忘れないものです。
恥をかくことによって、それ以降、同じ失敗を繰り返すことはなくなりました。
そして今では、昔の失敗談を笑いながらネタとして話せるようになっています。
この第2章では、まさに三流以下のクレーム対応者だった私、谷厚志のアウト(残念)なクレーム対応の代表事例を10個用意し、順に説明していきます。
読者の皆さんにはぜひ、反面教師にしていただければと思います。
皆さんはどうでしょうか?私と同じことをやっていませんか?
「このクレーム、自分のせいじゃないのに」と考えていた「部下には気をつけろ」と言っているのですが……
これは、私が会社員時代の人事異動で営業部からクレーム対応の専門セクション、お客様相談室に異動してクレーム対応責任者として仕事をし始めたころ、クレーム対応の現場で最も使っていた言葉です。
クレーム対応を他人事のように、「自分のせいじゃない」とアピールばかりしていました。
今考えると、本当に恥ずかしく思っています。
社会に出て仕事をするようになって一番理不尽だと思うことは、自分のせいではないクレームを対応しないといけないことではないでしょうか。
前任者の対応不備へのクレーム、たまたま取った代表電話で他部署へのクレームを言われたときなどです。
つまり、クレームのほとんどは、自分のせいではなくても、組織の代表として対応しなければいけません。
経営者や管理職の方がクレーム対応をするケースでは、ほぼ100%が自分のミスではないクレームだと言えます。
にもかかわらず、私は次のようにアウト(NG)な対応を繰り返していたのです。
アウトな対応例私「『部下には気をつけろ!』と何度も、私は指導していたのですが……」お客様「じゃあ、あなたは上司として、どう責任を取るおつもりですか!」私「(頭が真っ白)それは……、あの……」
どれだけ〝自分事〟としてクレーム対応できるかが重要
お客様も「この人のミスではない」「この人のせいではない」ことはわかっています。
でも、怒りの矛先をあなたに向けるしかなかったのです。
対応している目の前の問題を〝自分事〟として捉えられず、非を認めずに「部下がやったことですので……」と、ただ単に責任逃れをすると、お客様はこの逃げた上司を許してくれません。
こうした責任逃れの言葉を使ってしまうと、その後必ずと言っていいほど、「責任者として、どういうお考えでいらっしゃるのですか?」「あなたは関係ないと言うのですか?」とクレームの矛先が自分に向かってきます。
私も実際にそう言われて、「そういうつもりではないのですが……」と言葉に詰まったことは数え切れません。
私のクライアントのなかにも、届いた商品の色がホームページに掲載していた写真の色と全然違うというクレームに対して「写真はイメージと違う場合があることは備考欄に書いてあります」と反論を連発して、「あなたは無責任だ!」と怒られている通販会社のオ
ペレーターがいました。
地方の海鮮食堂で食事をしたときに料理の提供が遅いというクレームを言ってきたお客様を対応した店長が、「今日は新人2人がホールで対応しておりまして……」と平気で言い訳をして、お客様をさらに怒らせていた現場に遭遇したこともあります。
私自身も言い訳をして逃げていましたので、そう言いたくなる気持ちはとてもよくわかります。
ただ、お客様は、「写真とイメージが違う場合がある」「新人が入っていたので対応が遅くなった」──、そんな言い訳を聴きたいわけではありません。
ひと言、潔く謝ってほしかったのです。
お客様に迷惑をかけたとき、たとえその原因が自分になくても潔くお詫びをすれば、お客様も少し心が穏やかになります。
謝ってくれたと思って、少しは許す気持ちを持っていただけるようになります。
これは取引先のリフォーム会社の話です。
「打ち合わせと違う製品が取り付けてある」と、施行主のお客様から担当営業マンにクレームが入りました。
すると、この担当営業マンは突然のクレームに動揺したのか、「工事をした工務店のミスだと思います」と咄嗟に言い逃れをしたことでお客様が大激怒──。
たらい回しにされたと考えた、このお客様がすぐに担当営業マンの上司にクレームを言ってきました。
でも、上司の次のような対応によって、お客様の怒りを鎮めることができたのです。
OK対応例お客様「おたくの営業マンは無責任だ。
工事は即刻中止しろ!ほかの会社に依頼する!!」上司「当社に無責任な対応があったようで本当に申し訳ございません。
私に責任がございます」このように逃げずに、すべての責任は自分にあるという姿勢を見せたそうです。
お客様はこの上司の真摯な対応に、少し落ち着かれたようで、事の経緯を冷静に伝えられたそうです。
その後、この上司がクレームにしっかり対応したことを知らずに担当営業マンと工務店の工事責任者がお客様のご自宅を訪問した際、お客様は笑いながら、「私が勘違いしていたようだね。
感情的になって申し訳なかったね」と恥ずかしそうにお話をされたそうです。
その後、リフォーム工事も無事に滞りなく終え、お客様も大変ご満足されたようです。
クレームから「嫌だ」「怖い」と逃げた時点で、お客様はさらに怒ります。
嵐が去るのを待っていても時間が解決してくれるわけではありません。
クレームは初期対応が大切です。
最初の対応がうまくいかないと、結果は必ず悪くなります。
「それは、私どもの部署が窓口ではありませんので……」というように、お客様に
たらい回しにされそうな印象を与えるのは絶対にやめましょう。
自分のせいではなくても、お客様を嫌な気持ちにさせてしまった事実があったのならば、部署や肩書は関係なく組織の代表として、最初にお詫びする対応を心がけて下さい。
クレームから逃げない勇気と、自分事と捉えて向き合う強い心を持ちましょう。
クレームは会社や自分の部下が引き起こしたものかもしれませんが、お客様は対応者である、あなた個人に対してクレームを言っています。
「自分は損をしている」「クレーム対応をやらされている」と後ろ向きに考え、逃げるような態度をとれば対応が余計に長引きます。
逃げれば逃げるほど、お客様の怒りが大きくなって、あなたを追いつめようとするのがクレームです。
「ここで指摘してもらわなかったら、また同じことが起きるところだった」と自分事として捉えることができれば、対応時間も短くなります。
ここは思い切って、「自分のクレーム対応のスキルと経験が増えて、自分にとってプラスになる」というくらい、前向きに考えて積極的な姿勢でクレームと向き合ってほしいのです。
お客様のタイプや業界に応じてクレーム対応のやり方を変える必要はありません。
お客様としっかり対話するところから始めて下さい。
クレーム対応において、謝罪は必須のコミュニケーションです。
謝罪の向こう側に明るい未来が待っていると考えて下さい。
謝罪することで、怒りを笑顔に変えることができます。
夜明け前が一番暗い。
でも、必ず夜は明けます。
明るい太陽の光が射す爽やかな朝を迎えるために、まずはクレームを言ってきたお客様にしっかり謝って下さい。
ここがPOINT×「私のせいではないのに……」〇「お客様を嫌なお気持ちにさせてしまったのだな。
申し訳なかった……」自分事と捉えて、「謝罪する」ことで対立関係を対話できる関係に変えるクレーム対応とは勇者の行為。
怖くても逃げない「強い心」を持とう!
興奮しているお客様をなだめていた
月曜日の朝9時、代表電話に出たところ、お客様が興奮して大声を出してクレームを言ってくる。
何とか収めたいと焦るあなた──。
さて、どう対応しますか?「お客様、もう少し落ち着いて下さい」と言って、お客様をなだめて冷静になってもらう。
昔の私は、このようなクレーム対応をやっていました。
でも、このように対応すると、必ずと言っていいほど、次のような感じになります。
アウトな対応例私「お客様、もう少し落ち着いて下さい」お客様「バカヤロー!俺は落ち着いている!!」私「ウソやん……、全然怒っているし……(私の心の声)」もうおわかりだと思います。
実は、〝なだめる〟という対応は、お客様に対して遠回しに命令や指図をすることになります。
そのため、「売り言葉に買い言葉」のような状況になってしまうのです。
店内で大きな声でクレームを言うお客様に対して、「ほかのお客様にもご迷惑になりますので、もう少しお静かにお願いします」も同様です。
どんなに丁寧に言ったところで、「あなた、そうしなさい」と命令や指図していることになります。
取引先の産地直送品の売店で、年輩のお客様から、「おたくで買ったリンゴが硬かった。
食べられたものじゃなかったぞ!」というクレームがありました。
これに対して50代後半の男性店長が、「お客さん、リンゴが硬いのは当たり前。
歯ごたえがあるのがリンゴの良いところですよ。
お客さんは歯と歯茎を鍛えたほうがいいですね」と言い放ったそうです。
自分たちが誇りを持って販売しているリンゴの良い部分を伝えたかったという気持ちはわからないではありませんが(笑)、「歯と歯茎を鍛えろ!」は、まったく余計でした。
案の定、お客様が激怒され、大騒ぎになったのは当然の結末です。
この話はかなり極端なケースかもしれませんが、この男性店長の発言も〝なだめる〟あるいは〝指図〟に近い行為に分類されます。
クレームを言ってきたお客様をなだめたり、指図したりするのではなく、それをぐっと堪えて、次の例のように「お客様の話を聴く姿勢」を優先して下さい。
お客様「おたくで買ったリンゴが硬かった。
食べられたものじゃなかったぞ!」対応者「お買い上げいただいた商品でご不便をおかけして申し訳ございません。
もう少し詳しくお話を聴かせて下さい」対応者側からすると、クレームは極力受けたくないもの、できれば対応したくないもの、という気持ちがあるかもしれませんが、実はそれ以上にお客様もクレームを伝えるのは嫌なことだと思っているのです。
「せっかく楽しみにしていたのに……」「楽しい時間を過ごしたかったのに……」「きちんとやってくれたら、イチイチ電話することもなかったのに……」などと、できればクレームは言いたくなかったはずです。
「毎日行くお店だし、クレームを言って行きづらくなるのは嫌だ」「理不尽なクレーマー扱いをされたら、どうしよう」というように、ストレスを感じているお客様も少なくないのです。
このようなお客様がクレームを言ってくるまでの想いを、皆さんには受け止めていただきたいのです。
「お客様はなぜ怒っているのか?」「お客様に何があったのか?」、怒り心頭で興奮されている理由をお客様に聴くようにしましょう。
実際、話を聴いてみると、お客様が怒っていたのは、「こうしてほしかった」「こんなことをされたら困るので、次はきちんとやってほしい」とお困り事があったからだとわかります。
お客様のお困り事は、自分たちの業務改善のヒントになるものです。
そこを改善すれば、お客様はあなたの会社の商品やサービスをまた利用してくれるのです。
私の経験上、お客様は言いたいことを全部出し切ると、それ以上言うことがなくなるので、どんどん冷静になっていきます。
ここがPOINT×なだめる〇話を聴く。
受け止めるお客様にすべて話をしてもらう。
不満を全部吐き出してもらう「一に傾聴、二に傾聴」。
お客様の話をしっかり聴こう!
お客様の話に反論して否定的な言葉を使っていた
「それは違います」「それはないですね」「ちょっと待って下さい。
これはですね……」「こっちの話も聞いて下さい」「お客様、先ほどから何度も言いましたけど……」これらの言葉も、昔の私の口癖でした。
お客様の話を遮って、自分たち(対応者側)の言い分を一方的にお客様に伝えて必死に説得しようとしていました。
おそらく、私の顔にはイライラの感情が出ていたのではないかと思います。
当然ですが、このような言葉を使った後に、お客様と円満な解決を迎えられた記憶は1つもありません。
結局、お客様から「アンタではダメだ!上を出せ!!」と言われて、当時の上司に電話を代わってもらって収束するまでにかなり長い時間を要していました。
上司にもお客様にも大変ご迷惑をおかけした苦い記憶だけが今も心に残っています。
本当に反省の気持ちしかありません。
特に、お客様の思い込みや勘違いのクレームに対しては、否定的な言葉を投げかけたり、反論をしたりして、お客様の話を遮って自分の言い分を伝えようとしていました。
こちらの言い分をわかってほしかったのですが、クレーム対応者としては失格です。
お客様の話に反論する対応は三流以下であることは間違いありません。
クレーム対応は自分たちの正当性を主張する場ではない
クレーム対応の心構えとして大切なことは、「我こそが正義なり」と考え、お客様を否定して打ち負かしてはいけないということです。
クレーム対応のNGワード「でも……」「今まではそんなことがなかったのですが……」「その場で言っていただけたら良かったのですが……」このような言い訳や、自分たちを正当化するような言葉が、残念ながらクレーム対応の現場では当たり前のように飛び交っています。
クレーム対応のNGワードの代表例だと思います。
自分がクレームを言ったお客様の立場だったらどんな気持ちになるだろうか、これを考えれば、言い訳などがアウト(NG)であることは簡単にわかると思います。
東京駅付近のデパ地下のお惣菜コーナーで、次のようなクレーム対応の現場に偶然遭遇
しました。
アウトな対応例お客様「さっき買ったお惣菜のタレがこぼれていたんだけど……」対応者「そうなのですか。
失礼ですが、傾けてお持ちになったのでは……」お客様「何っ!そっちが最初からこぼれている商品を袋に入れたんだろ!」対応者「そんなことは今まで一度もありませんが……」お客様「……(絶句して怒りを必死に抑えている様子)」「そんなことは今までなかったのに……おかしいですね」、お客様はそんな台詞を聴きたいわけではありません。
このような言い方では、お客様を怒らせるだけです。
まずは、お客様の言うことを否定しないで受け入れることが大切です。
このケースの正しい対応例は次のとおりです。
OK対応例お客様「さっき買ったお惣菜のタレがこぼれていたんだけど……」対応者「さようでございましたか。
それは大変ご不便をおかけしました」お客様「いや、こっちも傾けて持ってしまったかもわからないのだけど……」対応者「大丈夫ですよ。
宜しければ袋をお取替えします」お客様「申し訳ないね。
余計な手間を取らせて」こんな対応ができたら良かったのかもしれません。
ひょっとしたら、店側の商品の入れ方が良くなかったのかもわからないのです。
否定や指摘から入るのではなく、クレームを受け止めて差し上げる対応を心がけると、お客様が嫌な気持ちになることはありません。
「何が起きたのか?」「どんなことでお困りなのか?」を理解してからでも、自分たち(対応者側)の言い分は十分伝えられます。
自分たちの言い分を主張したい気持ちをぐっと抑えて、まずは「いつ」「どこで」「何があったのか」「お客様はどんなお気持ちなのか」「お客様はどうしてほしいのか」を理解することが、クレーム対応の基本中の基本です。
前向きな言葉だけを使う
先日、仕事仲間と2人で食事をすることになり、ダイニングレストランに2名分の席を予約するために電話をした際、電話対応したスタッフの方に「カウンターの席しか空いていないです」と言われました。
男性と2人だったので、テーブル席で正面で顔を突き合わせて話をするよりカウンターの席に並んだほうが良いと思っていたのですが、こう言われてしまうと、「何かカウンターの席は雰囲気が悪いのかな」と不安になりました。
この場合、「お客様、ちょうどカウンター席が2つ空いてございます!」と前向きな表現に変えると、言われたほうの印象がガラッと変わりますよね。
クレーム対応の場でも、後ろ向きな言葉を使うと、お客様に嫌な気持ちを与えてしまいます。
最初はそれほど怒っていなかったお客様が急に怒りを爆発させてしまう、代表的なNGワードに「二重否定」の言葉があります。
その二重否定の言葉とは、例えば「~しないと~できないです」などです。
この言葉は普段から意識しておかないと、誰もが思わず使ってしまうので要注意です。
特に、お客様に依頼するシーンで使ってしまう人が少なくありません。
例えば、次のとおりです。
アウトな対応例対応者「お客様、レシートをお持ちいただかないと、商品の交換・返品はできないです」この短い表現のなかで、否定の言葉を2回も使っています。
とても後ろ向きの表現で、お客様を嫌な気持ちにさせてしまいます。
返品や交換などの作業が自分たちにとって手間のかかる仕事だと考えてしまうと、このような後ろ向きの言葉を使ってしまいます。
このような表現をしなければいけないシーンでは、「~すると、~できます」という言い回しに変換してみて下さい。
OK対応例対応者「レシートをお持ちいただくと、商品の交換・返品の対応をさせていただきます。
本日はお持ちでしょうか?」実は、お客様に伝えたい内容は、先ほどのアウトな対応例とまったく同じなのです。
結論は変わらないのに、随分と印象が変わります。
私の体験談ですが、講演会場だった市民ホールの職員の方に、「講演でホワイトボードを利用したいのですが、お借りできますか?」と尋ねたところ、「私は担当ではないので、調べてみないとわからないです」と無表情で「三重否定」の言葉を、しかも事務的に言われたことがあります。
これでもかと、否定の三連発をくらってしまい、唖然としましたが、講演は何とか全力でやり抜きました(笑)。
クレーム対応に限らず、仕事では常にお客様に対して感謝の気持ちを持つことを意識しましょう。
お客様のお困り事を解決して差し上げるのが仕事の原点です。
目の前のお客様のために何かできることはないだろうか、という姿勢を持たないと仕事はうまくいきません。
「お客様に何をすれば嬉しく感じてもらえるか?」「どんな言葉を使えば良い気分になるだろうか?」という思考をめぐらせて、目の前のお客様に向き合って下さい。
ここがPOINT×言い訳をしたり、自分たちを正当化したりする。
否定的な言葉を使う〇クレームを受け入れる。
前向きな言葉を使う
クレーム対応に勝ち負けはいらない。
自分たちの主張をしすぎないお客様を理解しようとする姿勢を持って、前向きな言葉を使おう!
とにかく会いに行けば誠意が伝わると思っていた
ひと昔前は、クレームが起きたら、まずお客様のご自宅に菓子折りをもってお詫びに伺う。
これがクレームの正しい初期対応で、その迅速な対応こそがお客様に誠意として伝わる、と常識のように言われていました。
実は、私も少し前に流行したテレビドラマのフレーズ「事件は現場で起きている!」というノリで、そうしていました。
でも途中で気づきました。
この対応はむしろ危険な対応だと……。
まず何よりもお客様の元へ、現場に向かうのが誠意だという考え方を頭から否定するつもりはありません。
ただ、クレーム対応は「会えば何とかなる」、そんな簡単なものではないということです。
クレーム対応は、お客様の話をしっかり聴いて、現場の状況を確認してからでないと、クレームが発生した原因はわかりません。
それなのに、状況をきちんと確認しないで何の解決策も持たずにお客様の元に伺うのは、いわば「子供のお使い」と同じです。
「いいから家に謝りに来い!」というお怒りの様子のお客様にかぎって、「何の解決策も持たずに来やがって。
アンタは子供のお使いじゃないぞ!」とやっぱり怒るのです。
「早く来いって(アンタが)言うから来たのに……(私の心の声)」特に、お客様に会うことを最優先にしてしまうと、責任者であっても現場のことを知らない人間や、商品知識のない人間がお客様に会っても「そんなことも知らないで、アンタのどこが責任者なんだ!ちゃんとした人間をこっちに寄こせ!!」と罵倒されてしまい、一従業員が起こした小さなトラブルが、「この会社は大丈夫か!?」という組織への不信感に変わることが少なくありません。
かと言って、お客様から「すぐに謝りに来い」と言われたときにどう切り返せばよいか困りますよね。
ここでは、まず、そう言われた場合のアウトな対応例を1つ取り上げたいと思います。
アウトな対応例〈電話対応のケース〉お客様「今からすぐに謝りに来い!」対応者「もう夜の10時を過ぎておりますので、残念ながらお伺いすることはできかねます」お客様「無責任だな!すぐに謝りに来ることが誠意じゃないのか!!」このような切り返しでは、謝りに来るのか、来ないのかでモメます。
本来解決しないといけない問題の手前での議論になってしまい、時間と労力をとても消耗してしまうことは、皆さんも容易に想像できると思います。
もし、「今からすぐに来い!」とお客様から怒鳴られたとしても、私は訪問が翌日にな
っても構わないと考えています。
すぐ謝りに行くことより、まずお客様からのクレーム内容を把握し、事実やお客様の要望の確認をしっかりすることを優先して下さい。
状況が把握できれば、自然に解決策も提示できるようになります。
私の経験上、激怒されているお客様には当日よりも次の日に訪問したほうが、そのお客様が冷静にお話しされる場合がほとんどです。
特に、深夜のお酒の入ったお客様のクレームに対しては尚更、すぐにお客様の自宅への訪問は避けるのが賢明です。
まずは電話で、クレームの内容を把握して状況を確認するということを徹底して下さい。
正直に申し上げますと、クレーム対応はお客様に直接会って話をしなくても電話で解決できれば、それで良いと思っています。
そのほうがスピード対応をすることができて、早く問題を解決できるケースが少なくないからです。
お客様の時間を奪わないためにも、現場(お客様の自宅)に行くことが誠意だと考えてはいけません。
また、誠意をアピールしようとしてもいけません。
誠意とは、お客様の問題、お困り事を解決しようとする姿勢です。
もっと言えば、電話対応がクレーム対応のなかで一番ハードルが低い、最も簡単な対応法だと考えています。
電話でのクレーム対応は、声の情報だけのやりとりになるので、感情が伝わりやすいのです。
電話による対応だけでクレームが収まるのが、実は一番多いのです。
一方、お客様に直接会う場合、お客様も対応者もお互いに余計な情報が目に入ってくるので、例えば、次のように容姿や表情など、見た目で相手を判断することもあります。
「アンタみたいな若い担当者が来ても責任が取れるのか!俺をナメやがって!!」「何の解決もしてないのに菓子折りを持ってきて、これで済まそうとするつもりか!」これらは、実際に謝罪で出向いた会社の担当者が、お客様から言われた言葉です。
さらに、次のように、対応者の外見的な問題で、お客様が対応者に対して嫌悪感を抱くこともあります。
「(担当者の服装が)だらしがない。
本当に悪いと思っているのか!」「何だコイツ!謝罪の気持ちが表情からまったく伝わってこない……」そうなのです。
良かれと思ってお客様に会いに行ったことで、かえってお客様を怒らせてしまうケースが少なくないのです。
最近、ある保険会社から相談を受けた案件でも、まずお客様のご自宅に向かうのが誠意だと考えて訪問した保険の営業マンがさらにクレームを受けました。
その内容は、「自宅にまで無断で押しかけてこられて、これは不法侵入だ!」と弁護士を通じて連絡が入ったようです。
息苦しい世の中になったものだと正直思いましたが、「家に押しかけられた」
「プライバシーの侵害だ」とお客様に思われては、クレーム対応以前の問題になりますので、注意すべき点だと思います。
お客様に会いに行く前に状況を確認する。
そして会いに行くベストなタイミングを見極める。
会いに行く場合には、クレーム対応を確実に収束させるための段取りを事前に整えることをおススメします。
この点を踏まえた電話対応例を2つ挙げておきます。
OK対応例1〈電話対応のケース〉お客様「今からすぐに謝りに来い!」対応者「大変お手数をおかけしており申し訳ございません。
宜しければ、どのようなことがあったのかをお伺いさせていただけませんでしょうか。
しっかり状況を確認したうえで、当社としてどう対応させていただくかを回答させていただきたく存じます」このようにすれば、電話で状況が確認できます。
さらに、お客様からの話を聴いて、電話だけで解決することができるかもしれません。
別のやり方として、「今すぐ来い」と言われても、次の例のように、状況を把握しないで出向くことのデメリットを伝えながら、お客様から話を聴いて、訪問する日時の約束をする方法もあります。
OK対応例2〈電話対応のケース〉お客様「今からすぐに謝りに来い!」対応者「大変恐縮でございます。
状況を把握しないまま、お客様のところにお伺いするのは大変失礼なことだと考えておりますので、まずお話を聴かせていただけませんでしょうか。
そのうえで然るべき部署に確認を取り、明日の午後以降にお客様の元にお伺いしたく存じます」まず、電話で話をしっかり聴くことでお客様に冷静になってもらう。
会いに行くのはそれからでも大丈夫です。
事実確認をしたうえで、然るべき解決策を持ってお客様のところへ行くという「2段階方式の対応」を実践してみて下さい。
また、メールでお客様から「家に謝りに来い!」と書かれた内容のメッセージが届いた場合も同じです。
まずメールで、ご不便をおかけしていることについてお詫びし、「電話で状況を確認したい」という内容の文面で返信し、了解が得られてから電話で状況を確認した後に、相手先を訪問することになります。
つまり、「3段階方式の対応」となります。
事実、この3段階方式の対応を採用しているウェブ通販会社があります。
ただ、そのような会社の方から教えていただいた話によると、実際のクレーム対応では、メールと電話の2段階までで、お客様に会わずに、クレームが解決するケースが多いとのことです。
私のクライアントであるガスのメンテナンス会社では、真夜中に「ガスの火がつかない!不良品だ。
今から修理に来い!!」とクレームを言われることがよくあるそうです。
そのとき、「深夜のメンテナンス対応はやっていません」とバッサリ返答するのではなく、電話でお客様から話をしっかり聴くようにすると、お客様のガス機器の使い方がマズいことがわかり、それを丁寧に説明することによって、電話だけでクレームが解決するケースが少なくないようです。
ここがPOINT×すぐ会いに行くことが誠意だ〇状況を確認して、事前に原因の説明や解決策に関する準備をしっかりしてから、お客様に会いに行くのでも遅くはない事実をしっかり確認し、「お客様はどうしてほしいのか」という要望を確認する「どこまで対応するか」を決めてから、お客様に会ったほうが誠意は伝わる!
スピード対応を重視して解決策をすぐに出していた
インターネット上のクレーム対応に関する記事中に、「迅速に解決策を提示するのがクレーム対応の必須条件」とよく書かれています。
これについて私は賛成しません。
クレーム対応は企業にとって最優先事項であり、迅速に対応すること自体にはもちろん異論はありませんが、早く解決策を出すことを最優先と考えるのはむしろ危険です。
クレームを早く解決しようとするのは、そのクレームを早く終わらせようと考えているためです。
もっと言えば、そのトラブルから自分が早く解放されたい、という気持ちが強いのです。
お客様の問題ではなく、自分の都合であり、クレームを早く終わらせることで、自分が楽になりたいだけなのです。
早く終わらせようとすると、クレームはこじれる
実は、私も昔は、早く自分が楽になりたいと思って、次のように対応していました。
アウトな対応例お客様「こんな不良品を売っておいて、一体どうするつもり!」対応者「はい、すぐにご返金します!」お客様「はぁ?金を返せば済む問題か!」そう、恥ずかしながら、お金で解決しようとしていたのです。
ここまで読んでいたただいた皆さんなら、もうおわかりかと思いますが、お金で解決しようとしては絶対いけません。
お客様はお金を返してほしいからクレームを言っているわけではありません。
ほとんどのお客様は、自分のイライラした気持ちを受け止めてほしいと思っているのです。
商品やサービスの不具合にガッカリされているのです。
私はそんなことも理解できず、お金を返すことでクレームを早く終わらせようとしていました。
さらに、お客様からの「金を返せば済む問題か!」という言葉に対しても、お金を返すのにまだ怒っている変なヤツだと決めつけていました。
変なヤツはお客様ではなく、むしろお客様の気持ちをわかろうとしない、私のほうだったのです。
今考えれば、大変お恥ずかしい話です。
話は変わりますが、出張中に使用していたスマートフォン(スマホ)の画面が突然動かなくなり、すぐに最寄りの携帯電話のショップに駆け込んだことがありました。
窓口の女性に「原因はすぐにはわかりませんので、修理で宜しいですか?」と事務的に淡々と言われました。
悪い対応とは言いませんが、私にはショップに駆け込んだ理由がありました。
確かに修理してもらって使えるようにしてほしかったのですが、それ以上に今、スマホが使えなくて取引先へ電話をすることができなくて困っていたのです。
取引先の電話番号はスマホにしか登録していなかったので、公衆電話を使って電話をすることもできず焦っていたのです。
そのような事情があるのに、何も理解してくれようとしない事務的な対応に少なからずガッカリした記憶が強く残っています。
お金を返すのと同じで、早く許してもらおうとする対応者の口癖として、「二度と同じことがないよう再発防止に努めます」という再発防止を提示する言葉があります。
しかも、実際のところ、具体的な再発防止策を何ら立てていない状況にもかかわらず、また根拠もなく口約束をする人がいます。
でも、その場合、お客様から次のように揚げ足を取られかねません。
「じゃあ、今後同じことが起こったら、あなたはどう責任を取るの?」「再発防止策を文書にして提出しろ!」このように、クレーム対応の解決の急ぎすぎは逆効果です。
揚げ足を取るようなお客様は、嫌な性格の人ではありません。
対応者がクレームから早く解放されたいという、不誠実な対応に腹を立てているのです。
お客様は「そんな考え方は許さない」と考えて、対応者の不誠実な姿勢にクレームの矛先を向けているのです。
私は、クレームの再発防止が一番難しいと考えています。
仕事のやり方を変えることができても、残念ながら同じことは起こります。
どんなに注意していても、同じ失敗が繰り返される可能性は「ゼロ」ではないのです。
「釣銭を絶対に間違えない」「料理の提供を早くする」「傷んだ商品を出さない」「清掃を完璧にする」「30分以上、お客様をお待たせしない」このようなことを今日からすぐに実行することはできますか?同じことを絶対しないと言えますか?完璧に再発を防止することができますか?再発防止のためには原因を突き止め、その原因を解消する改善の仕組みをつくる必要があります。
その仕組みをつくるには、ある程度の時間が必要になります。
その場を早く収めたいからといって、再発防止を軽々しく口にするのは現実から逃げているのと一緒です。
お客様に対する誠意がまったく感じられません。
それは、かなり高い
確率でお客様に見透かされてしまいます。
また、再発防止は未来の話です。
お客様にとって重要なのは「今」です。
このお客様の事情をしっかりと理解してもらいたいのです。
未来の話は二の次です。
この点を意識すると、次の例のような対応になります。
OK対応例お客様「こんな不良品を売っておいて、一体どうするつもり!」対応者「せっかくお買い上げいただきました商品に不備があったようで、申し訳ございません」お客様「困るよ。
使うのを楽しみにしていたのに!」対応者「はい。
お楽しみいただけず、私どもとしても大変恐縮しております。
商品のお取替えということで宜しいでしょうか?」お客様「うん、そうしてくれる?」対応者「ご不便をおかけしまして、誠に恐れ入ります。
こちらにお掛けいただき、3分ほどお待ち下さい」クレーム対応では、お客様がクレームを言ってきた事情を理解しないで解決策を示すと、お客様はもっと怒ります。
順序が逆なのです。
お客様から話をしっかり聴いて状況を確認してから解決策を提示し、その後、時間をかけて再発防止に向けてどうするのかを考えます。
ここがPOINT×解決策をすぐに出す〇お客様がクレームを言ってきた事情を確認してから解決策を出すクレーム対応を効率良くやろうとしない「早く解放されたい」と思うと、クレームはこじれる!
ボキャブラリーが決定的に不足していた
お恥ずかしい話ですが、お客様相談室に勤務し始めたころの私は、クレーム対応に使う「語彙力」を持ち合わせていませんでした。
お客様から怒られると、頭が真っ白になって何と言ってよいのかわからず、お客様をさらに怒らせてしまうことがよくありました。
本書で紹介することも最後の最後まで悩みましたが、私には思い出しただけでも恥ずかしい、むしろ思い出したくもない、最もお客さんを怒らせた言葉があります。
超NGワード「なんか、すみません」クレーム対応をテーマにして描かれ、宮藤官九郎さんの脚本で話題になった『謝罪の王様』という映画があります。
クレーム対応の専門家としては見逃すことはできないと思って映画館に観に行きました。
劇中、女優の井上真央さん演じる帰国子女が運転するクルマがこともあろうか、暴力団のクルマにぶつかって傷をつけてしまいました。
その後、暴力団の怖いオジさんたちにすごまれるなか、井上真央さんがとりあえず言ったセリフが「なんか、すみません」でした。
当然ですが、クルマを傷つけられた暴力団の面々は激高して大きなトラブルに発展するというシーンです。
この場面、映画館のほかのお客さんはみんな爆笑していました。
しかし、私は一人だけ笑えませんでした。
いきなりクレームを言われると、クレームに不慣れな人はパニックになります。
何と言ってよいのか、頭の中が混乱してしまいます。
だからこそ、ボキャブラリー(語彙)を増やしておく必要があります。
クレーム対応に語彙力は必須です。
突然ですが、読者のあなたに質問です。
あなたは「お詫びの言葉」をどれだけ知っていますか?「申し訳ございません」「すみません」「ごめんなさい」以外でお考え下さい。
どうでしょうか?お詫びの言葉をいくつ出すことができましたか?私、谷厚志のおススメの「お詫びの場面で使える言葉25」を紹介しましょう。
クレーム対応は、人と人とのコミュニケーションです。
どんな言葉を使って、相手と心を通わせるのか。
そのためには、クレーム対応に必要な語彙力を普段から研究し、磨いておくことが大切です。
当時の私の語彙力が不足していたのは、やはりクレームを嫌なもの、面倒なものだと考えていて、努力を怠っていたからでしょう。
クレーム対応という仕事に誇りを持てていなかったのだと思います。
社会人としての自覚や、サービスを提供している企業に勤めているビジネスマンとしてのプロ意識もなかったのかもしれません。
クレーム対応の技法を学び、習得してお客様の心を癒そう、少しでも怒りを笑顔に変えようという情熱がなかったとも言えます。
クレーム対応に必要なボキャブラリーは、お詫びの言葉だけではありません。
お客様にお願い事をするときや、お客様のご要望に応えられないときに添えるだけで印象が変わる「クッション言葉」があります。
この言葉も状況に応じて効果的に使いこなせるようになってもらいたいと思います。
私がお客様相談室時代に重宝していた「クッション言葉」は次のとおりです。
ぜひ、活用して下さい。
お願いするときの「クッション言葉」
(次の言葉を添えれば、気づかいの気持ちを表すことができます)「恐れ入りますが、……」「お忙しいところ恐縮ですが、……」「大変お手数をおかけしますが、……」「厚かましいお願いではございますが、……」「お差し支えなければ、……」「ご相談させていただきたいのですが、……」
要望に応えられずにお断りするときの「クッション言葉」
(次の言葉を添えれば、理由はどうであれ、残念な気持ちを表すことができます)「大変申し訳ないのですが、……」「あいにくですが、……」「お役に立てず残念なのですが、……」「お力になれず心苦しい限りですが、……」「しっかり考えさせていただいたのですが、……」「状況をお汲み取りいただけますと有難いのですが、……」
美味しさや食感を伝える日本語表現は500以上あると言われていますが、お詫びの言葉やクッション言葉も100個以上はあります。
ぜひとも、語彙力、表現力を磨いて下さい。
クレーム対応で使う言葉は、社会人の教養としても身につけておくべきものだと思います。
ここがPOINT×お客様に怒られると、頭が真っ白になって言葉が出てこない〇日ごろから語彙力をつける努力をする。
お詫びの言葉を事前に用意しておくどんな言葉を使えば、お客様の心に寄り添えるかを考えて準備する語彙力はお客様の怒りを笑顔に変えるための武器になる!
安易に融通を利かせて悪い前例をつくっていた
私はクレーム対応を担当して間もないころに、クレームの電話を受けたとき、感情的になって怒りまくるお客様の要求は受け入れ、その一方で、冷静にお話をされる大人しいお客様には、「貴重なご意見として参考にさせていただきます」と言って、電話をあっさり切っていました。
そうなのです。
当時の私のクレーム対応は、いわゆるケースバイケース。
言い換えればアバウトな対応で、お客様のお怒り具合によって対応を変えていました。
クレーム対応の判断基準や対応の考え方に明確な軸がない、いわばブレブレの対応でした。
また、クレーム対応を進めるうえでの明確なゴールも設定していませんでした。
研修で呼んでいただく企業のクレーム対応事情を確認していてよく気づくことですが、営業・接客対応に関しては、完璧なまでのマニュアルを用意しているにもかかわらず、クレーム対応に関しては、マニュアルをほとんど準備していない企業が多いのが現状です。
先日お邪魔した飲食店チェーンでは、クレーム対応マニュアルを形式上つくってはいたのですが、そのマニュアルでは「不用意に謝ることはせず、店長に至急報告する」としか記載がなく、大変驚きました。
確かに、「クレームは受けたくないもの」「クレーム対応はやりたくないもの」と思うことは理解できます。
でも、真の営業力や接客力をアップさせるには、クレーム対応力の向上が大きな鍵を握ります。
長年、お客様から支持されているファンの多い会社や店舗は、間違いなくクレーム対応力を備えています。
クレーム対応への苦手意識を取り除くためにも、クレームを言うお客様としっかり向き合うことが大切です。
自分の会社や店舗にはどんなクレームが多いのか、どんなときにクレームが発生しているのかを把握し、その対策を準備しておくことはとても重要です。
クレームの種類は3つある
ここで、私が考えるクレームの種類は、大きく分けて次の3つです。
(1)商品やサービスに関するクレーム(2)接客とコミュニケーションに関するクレーム(3)思い込みや勘違いによるクレーム以下、順に説明していきます。
(1)商品やサービスに関するクレーム
クレームのなかで一番多いのは商品やサービスに関するものです。
「商品が違う」「店が汚い」「到着が遅い」「売り切れている」「使いづらい」「すぐ壊れた」──。
商品やサービスのクレームで気をつけておきたいのは、同業他社の商品やサービスと比較して言われるクレームです。
人間はどうしても使い勝手の良い商品や快適なサービスを利用するとそれが基準となり、それより劣るサービスに対しては、どうしても不便や不満を持ち、次のようなクレームが発生します。
「なぜ、おたくは無料サンプル品を用意していないのか!?」「ホームページがほかの会社より見づらい!」「おたくは依頼してから仕上がりに時間がかかりすぎる!」このようなクレームの場合、同業他社と比較されていることになります。
これらのお客様からのクレームは、「改善してくれたら次も使うよ」というアドバイスと捉え、クレームを言ってくれたことに感謝の気持ちを持って対応し、改善に着手していきたいものです。
(2)接客とコミュニケーションに関するクレームお客様とのやり取りのなかで発生するコミュニケーションエラーが原因で、クレームが発生することもあります。
「対応が良くない!」「不親切だ!」「連絡がない!」「なぜ、約束を守らない!」──。
接客に関するクレームでは、お客様のプライドを傷つけてしまったり、お客様の〝自分のことを大事にしてくれなかった〟というネガティブな気持ちが大きく影響したりするので、ハードクレーム(不当な要求などを伴う対応が難しいクレーム)になる傾向があります。
ただ、お客様に嫌な気持ちを与えてしまったことに対して、対応者側がしっかり理解を示せば、お客様は「わかってくれた」と考えてファンになってくれます。
自分たちのほうに非があったのなら、素直にお詫びする。
「今回の件は、私の不注意でした。
誠に申し訳ございませんでした」としっかり謝れば、お客様から「そんなに気にすることはありません。
次はしっかりお願いしますね」と言われ、商品やサービスをまた利用してもらえます。
必ず挽回できると考えて、しっかり対応するよう心がけましょう。
(3)思い込みや勘違いによるクレームどんなに一生懸命、世の中のために、お客様のために仕事をしても、クレームは「ゼロ」にはなりません。
それは、お客様の思い込みや勘違いからもクレームが起きるからです。
その対応方法の詳細は第4章で説明しますが、こうしたケースでも「こちらの対応が十
分ではなかった」「お客様への説明が不足していた」というように、自分たちに原因があると考えていただきたいのです。
自分たちのほうに、もう少し配慮があれば良かったと考えるべきです。
そういった思い込みや勘違いで起きるクレームを未然に防ぐ意味でも、自社のホームページで、「お客様からよくあるお問い合わせ」などの情報を積極的に発信している企業が最近はどんどん増えています。
私がいつも感心している企業の1つはカルビーです。
カルビーのホームページはすごく面白いです。
特に、「改善お客様の声に学びました」や「相談室だより」の欄には、クレーム対応に携わる人が学ぶべき情報がたくさん盛り込まれています。
例えば、「ポテトチップスのり塩パンチ」という商品に対して、辛い味が苦手なお客様から「とうがらしが入っていることに気づかずに買ってしまった!」という声が届いたようです。
そこで、対応策として「袋の表面に写真付きで『とうがらし』が入っていることを記載しました!」と、改善した情報をホームページ上で発信しているのです。
また、カルビーのホームページの「よくいただくご質問」欄も、お客様視点に立って親切に情報を発信しており、まさしく顧客第一主義の超一流企業だと思います。
ホームページを見るだけでも何か温かい気持ちになれます。
クレーム対応のシナリオをつくる
先ほど取り上げた映画『謝罪の王様』では、全編にわたってクレーム・トラブル対応について面白おかしく、エンターテインメントストーリーが展開されていましたが、クレーム対応の専門家として私が思わず唸ったシーンがありました。
それは、主演俳優の阿部サダヲさんが演じる東京謝罪センター所長の黒島譲氏のトラブル対応のゴールがブレないところです。
彼は、メチャクチャ怒っている相手にも必ず謝罪を受け入れてもらうことをゴールにしていました。
お客様のお怒り具合に合わせた謝罪をするときの体の角度から表情などまで、すべてが徹底して準備し尽くされているのです。
そのなかで一番印象に残った黒島氏のセリフがあります。
「怒っている相手から、あなたのことを120%許さないと言われたのなら、こちらは150%の謝罪をするまでだ!」黒島氏は、クレーム対応に対して明確なゴールを設定し、その後、お客様に謝罪を受け入れてもらうために、徹底的なプロの仕事をやってみせます。
お客様相談室に異動して間もないころの私は、クレーム対応にあたって明確なゴールを設定することなく、安易に融通を利かせて悪い前例をつくってしまうことばかりでした。
お客様の怒りに押され、過大な要求や少し理不尽な要求に対して「必ずやります」と言
って、実行できないことを軽々しく約束してしまうこともありました。
クレーム対応は、お客様から至急の回答を求められても、すぐに返答しなくても大丈夫です。
「お客様、しっかり確認を取りますので、○時までお時間を下さい。
私からお約束した時間にお電話を差し上げます」と伝える方法を選択して下さい。
私がそうだったように、早く処理してしまいたいと考えて、その場限りの対応をしてしまえば、確かに自分は逃れられるかもしれませんが、組織のほかの人に迷惑をかけてしまうことになります。
「この間の対応者はこうやってくれた」「ほかの部署の人はこう言っていた」「近所の人から○○のような対応をしてもらったと聞いているけど、なぜ私にはできない!」このように言われて、最初に伝えた対応から内容を変更してしまうと、お客様は「あなたは信用できない!」と、さらにお怒りになるでしょう。
冷静なお客様と、感情を爆発させるお客様とで対応を変えたり、ゴネるお客様に手厚く対応したりするなど、対応を変えてはいけません。
やることは1つ。
軸からブレないクレーム対応を徹底することです。
特定のお客様だけに安易に融通を利かせてしまうことは、それ以外のお客様に失礼です。
この点について、経営者や管理者の方々には、どんなお客様に対しても同じように対応するために、組織としてどう取り組むべきかのルールづくりをおススメします。
ここがPOINT×「今回はどう乗り切ろうか」と、その場限りの対応をする〇クレーム対応は長い目で見て、組織として今後どうしていくかを考える良い機会と捉えるお客様によって対応を変えないどんなクレームがあるのかを把握して、しっかり準備をしておこう!
すぐに「できない」と言ってしまっていた
先ほどの融通を利かせるとは逆に、できないことには「できない」とすぐに言ってしまう。
「それは無理ですね」と平然と言って、お客様の怒りを大きくしたこともあります。
笑顔で商品を買ってくれたり、サービスを利用してくれるお客様にはニコニコと笑顔で対応するのに、細かい要望などイレギュラーな対応が必要なお願い事をしてくるお客様には事務的な対応をして、そのお客様を怒らせたことがあります。
「できない」「それは無理ですね」とすぐに言ってしまう場合に共通して言えることは、対応者が「面倒臭いな」と思っていることです。
このような対応では、お客様と信頼関係を築けるはずがありません。
アウト(NG)な対応例を挙げておきましょう。
アウトな対応例お客様「商品の発送、1日ぐらい早くできないの?」私「それはできないですね」お客様「何だ、その言い方は!ほかの言い方もできるだろう!!」お客様のほうも、「強引にやれ」と命令をしているわけではありません。
「こうしてくれると助かるなぁ」という軽い気持ちで、お申し出になることが少なくないのです。
それに対して、検討もせずにすぐ「無理です」と即答してしまっては、お客様に嫌な気持ちを与えるだけです。
お客様と少しでも良い関係を築くためには、やれることをしっかりやるのは当然ですが、仮にできないことがあっても一方的に拒絶するのではなく、できない理由を丁寧に説明する姿勢が必要です。
私には、お気に入りの革靴ブランドがあります。
仕事用の5足すべてがそのブランドの靴です。
月曜日から金曜日までの5日間、ローテーションをしながら何年も履き続けている、とても愛着のある革靴です。
ある夏のお盆の時期に1週間の休暇が取れたので、そのタイミングで革靴のメンテナンスと踵部分の交換をしたいと思って、メチャクチャ重かったのですが、5足全部をそのブランドの直営店に持ち込みました。
そのとき、若い従業員の方が対応してくれたのですが、この方からすぐに「本日のお持ち込みですと、お渡しは2週間後になります」と事務的に言われて唖然としました。
自宅の近くにある靴の修理屋さんに持ち込むと、1足に対して30分ぐらいで修理できるのに……。
「どうして、そんな2週間もかかるのですか?」と聞いたところ、この若い従業員の方が私に言い放ったことは、「会社で決まっていますので」……。
この言い方には、とても腹が立ちました。
私は少し感情的なトーンで、「いつも使っているのですけど……、何ですか、その対応は!」と恥ずかしながら、思わず語気を強めてしまいました。
この私の態度に慌てた従業員の方は、「上司に確認します」とだけ言い残して店の奥へ逃げるように消えていきました。
それから2~3分ほど待たされた後、店長らしき男性が慌てて出てきました。
彼は頭を下げながら申し訳なさそうな表情で、「谷様ですね。
いつもありがとうございます。
私どもに失礼な対応があり、大変申し訳ございません」としっかり謝罪をしてくれて、私の話を聴いた後、修理に2週間かかる理由を丁寧に説明してくれました。
このブランドの直営店では、自社の生産工場で革靴職人が1足の修理に対して徹底した対応をするという、こだわりを持っていて、それをウリの1つにしているのだということ。
靴の踵部分を交換した後、革を長持ちさせるための手入れのサービスも必ず行なうので時間がかかるということ。
普段でも1週間はかかり、お盆の時期には生産工場が休業していることもあって、修理と手入れに2週間程度要してしまうとのことでした。
この事情を聴いて、私は「最初からそう説明してくれたら腹が立たないのに……」、そう思いました。
また、革靴は1週間以内に必要だと店側に伝えていたので、この店長らしき男性は、「別の場所に修理工房を隣接している店舗があるので、そちらにお送りすれば間に合うかもしれないので確認してみましょうか」と提案してくれました。
さらに、「5足も持ち込んでいただき、いつもご愛顧いただいているのですね。
暑い中、お越しいただきましたのにお時間まで頂戴してしまい申し訳ございません」と、素晴らしい「気づかいの言葉」を投げかけてくれました。
私がクレームを言ったから、このような対応をしたのではなく、私から話をしっかり聴いて状況を理解したうえで説明をして、自分たちができることを考えて提案してくれたのです。
あの若い従業員の方とはあまりに違う対応に、私の怒りは笑顔になりました。
むしろ「30分でできる」と簡単に考えていた私のほうが恥ずかしい気持ちになったほどです。
それより何より、この店長らしき男性の対応に、感動と感謝の気持ちでいっぱいになりました。
それと同時に、このような対応ができる、この革靴ブランドの靴を使っていることが嬉しくなって、さらにこのブランドが好きになりました。
この例の店長らしき男性のような対応法を身につけていただくために、良い対応例を1つ挙げておきます。
OK対応例
お客様「商品の発送、1日ぐらい早くできないの?」私「1日でも早くということですよね。
そうできれば良かったのですが、発送が混み合っており、お申込みの順番に作業を進めてございます。
今回はご期待に応えられず申し訳ございません。
ただ、当日の午前中にお届けするように段取りしてみますが、いかがでしょうか」お客様「そうしてもらえると助かるよ」このように言い方ひとつで、お客様に与える印象が随分変わります。
昔の私は、すぐに「できない」と言って拒絶していましたが、今考えると、できないのではなく、やろうとしなかったのかもしれないと反省しています。
「面倒なことはやりたくない」と考えて事務的な対応をしていたのです。
仮にできないのなら、なぜできないのかという根拠を誠実な態度でお客様に説明することはできたはずです。
企業は組織が大きくなると、「お客様第一」と言いながら、顧客視点が持てなくなっていくような気がします。
自分たちのルールをお客様に押し付けて、お客様を怒らせてしまうケースが少なくないと思います。
仕事の軸は、自分たちのところではなく、常にお客様サイドにあるものと考えるようにしましょう。
ここがPOINT×すぐに「できない」と言ってしまう〇できないなら、できない理由をしっかり伝えるお客様のご要望を叶えることができなくても、お客様から「クレームを言って良かった」「今回は思いどおりにならなかったけれど、この会社の誠意は伝わった。
また使ってやるか」と思ってもらえる対応はできる!
クレームに対して感情的になっていた
正直に言うと、以前の私は、お客様の次のような言葉に腹を立てていました。
「普通はこうでしょ!」「これくらい常識よ!」「なんで当たり前のことができないの!」これらは、私がいつも感情的になっていた「3大『腹の立つ』セリフ」です(笑)。
でも気づきました。
このようなクレームに対して、なぜ感情的になってしまうのか?それは、「アンタ(お客様)が言っていることは間違っている」と思っていたからです。
つまり、お客様から言われる「普通はこうでしょ!」の〝普通〟は、私の考える普通と違っていて、そのことに腹を立てていたのです。
クレーム対応の本質的なところがわかるようになってきて、お客様と自分の価値観や常識の違いに腹を立てていることに気づきました。
インターネットのツイッター(Twitter)で、通販で雑貨を購入したお客様の「商品の送料が高かった!」というツイートを見た通販会社の人間が腹を立てて、お客様を非難する返信をして炎上したケースがありました。
自分は一生懸命仕事をしているのに、自分たちの努力や工夫したことに対してクレームを言われると、つい感情的になってしまうことがあります。
「あなたの言っていることは間違っている」「こちらのことを何もわかってない」などと思うと悲しい気持ちになるので、言い返したくなる気持ちもわかります。
ココだけの話、私も感情的になってお客様にたくさん言い返していました。
次のように、お客様の挑発に乗ってしまったことさえあります。
情けない対応でした。
アウトな対応例お客様「おたくらのせいで旅行が台無しになった。
今からクレームを言いに行く。
新幹線代を出せ!」私「そんなこと、できるわけがないですよね。
来るなら自腹で来て下さい!」お客様「何だ、その言い方は!新幹線代ぐらい普通出すだろ。
お前ではダメだ!上の者を出せ!!」このアウトな対応で、事態が余計にややこしくなりました。
これでは、本来解決すべき問題である「なぜ、旅行が台無しになったのか」という核心の部分について何も聴き出せません。
それなのに、私は、なんて理不尽なことを言うお客様だと、決めつけて腹を立てていました。
このお客様の言っている「普通はこうだ」の〝普通〟と自分の〝普通〟が大きく食い違っていたために、常識がまったくない、そんなことを言うのはアンタだけだよ、と感情的になっていました。
このような感情的なダメ対応をしてしまっていたため、毎度のように直属の上司に対応のフォローをお願いする失態を繰り返していたのです。
では、どうすれば良かったのでしょうか。
私が感情的になってしまった最大の原因は、やはり自分の価値観や常識だけでクレーム対応をしていたことだと思います。
自分の物差しでしか物事を捉えていないことがクレームを大きくしてしまっていたのです。
必要なことは、自分がそうは思わなくても、「そうか!このように考える人もいるのかな」という柔軟な考え方を持つことです。
相手と自分の価値観や常識の違いを受け入れる寛容の精神がないと、冷静さを保つことはできません。
私の研修先のドラッグストアでは、レジでお客様に「ポイントカードをお持ちですか?」と聞くと、「そんなものは持ってない!イチイチ聞いてくるな!」と怒る年輩の男性のお客様や、「ポイントカードを持っているから来ているのよ。
持っていなかったらわざわざ来ないわよ!」と怒る若い女性のお客様がいるそうです。
どちらにしても怒られるようです。
日本は成熟社会になり価値観が様々で同じことを言っても、人それぞれ感じ方は異なります。
それを理解しないで、イチイチ腹を立てていても仕方がありません。
ちなみに、このドラッグストアでは「当店のポイントカードをお持ちでしたらご提示をお願いします」と爽やかに笑顔で伝えるようにしてから、クレームが激減した模様です。
取引先のフィットネスクラブのスタッフから聞いた話なのですが、あるお客様から、会員カード番号の4649という数字の縁起が悪いので変更してほしい、という要望があったそうです。
確かに下2桁の4と9は少し縁起が悪いのかもしれませんが、「ヨロシク」みたいでちょっと人に自慢したくなる、得した気持ちになるのは私だけでしょうか(笑)。
このように、同じものを見ても、人によって感じ方が違うことを忘れないで下さい。
常識というのは正解ではなくて、単純に多くの人がそうだと信じている程度のものにすぎません。
自分の常識や価値観を物差しにして、クレーム対応をしてはいけません。
先ほどの私のアウトな対応例で言えば、「このお客様は、遠方からわざわざ新幹線に乗ってでも、ウチの会社に来て言いたいことがあるのだな。
それぐらいものすごく腹が立つことがあったのだな」と考えて、次の例のように、お客様の気持ちを一度受け入れてみるという対応を心がけるべきだったのです。
OK対応例お客様「おたくらのせいで旅行が台無しになった。
今からクレームを言いに行く。
新幹線代を出せ!」対応者「どのようなことがございましたか?私、責任者の〇〇と申します。
お話を聴かせていただけませんでしょうか?」私の代わりに対応した上司が、お客様の「新幹線代を出せ!」という言葉には触れずに「どのようなことがございましたか」と聴く姿勢を見せて対応したところ、そのご旅行はお客様がご両親への日ごろの感謝の気持ちを込めてプレゼントされたものだったことが判明しました。
また、インターネットでの口コミ投稿の評価がとても良かった旅館をお選びになったようです。
でも実際は、口コミ評価とは程遠い旅館の不誠実な対応があり、ご両親はガッカリされたそうです。
それで、「両親に嫌な気持ちを与えてしまった」「この悔しさを理解してほしかった」という怒りの感情が沸き上がった──、これがクレームの原因でした。
にもかかわらず、私が自分の価値観や常識だけで判断し、しかも感情的な対応をしたために、お客様をさらに悲しい気持ちにさせてしまいました。
今でも猛反省している大失敗の例です。
ここがPOINT×お客様の言葉に感情的になる〇自分の価値観や常識だけで仕事をしない自分とは違う相手の価値観や常識を受け入れられる寛容の精神を持とう!
クレームを言われるとすぐに凹んでいた
「バカヤロー」「コノヤロー」──。
このような暴言を吐かれてクレームを言われると、よく落ち込んでいました。
お客様相談室に配属された初日は、心が折れそうになりました。
でも、すぐに気づきました。
「イチイチ落ち込んでいても仕方がない」お客様相談室に配属になったとき、私は結婚1年目でした。
妻も最初の子供を身ごもっており、数か月後に生まれてくるという状況でした。
新しい家族もできるという状況に、自分はここで心を枯らして倒れるわけにはいかない、という思いがありました。
お客様相談室で仕事をしていると、当然ながら、毎日クレームと向き合うことになります。
幸か不幸か、私には落ち込んでいる暇がなかったのかもしれません。
それは別にクレームを受けすぎて、神経が麻痺していたわけではありません。
落ち込むことに何の意味があるのか?途中でそう考え方を変えて、自分の人生を他人や環境に左右されないようにしようと決心したのです。
「現実をどう捉えるのか?」「どう解釈するのか?」を考え抜くことが、とても重要だと気づいたのです。
まさに、「人生とは感情のゲーム」だと思います。
それからは、クレーム対応の仕事自体の見方が変わりました。
毎日、クレームを受ける仕事だからこそ、落ち込んだり、恐怖心を持ったりしないためにどうすればよいか?それを考え続けた結果、たどり着いた答えは、「クレーム対応の仕事は自分の経験知が増えて、他人に話せるネタも増える」というものです。
クレーム対応をしていると、人にはできない体験ができます。
怒っているお客様を対応していると確かに辛いことが結構ありますが、後で振り返ると面白い話、元タレントの私の場合は自分が他人に話せる面白ネタが増えると、私は解釈したのです。
自分が置かれた状況のなかで、自分が果たすべき仕事の意義を見つけることができたのです。
そして、本当に他人に話せるネタが増えました。
100回謝るまで許してくれないオジさんクレーマーで、その名も「100回謝れ!オジさん」というモンスタークレーマー話は、あるテレビ番組で紹介したところ大きな話題になりました(笑)。
また、「お前たちに言いたいことが400億個あるぞ!」と、いろんなところでクレームを言う、通称「ヤクルト乳酸菌オジさん」も鉄板ネタの1つです。
「世の中にはこんな
人がいるのか」と自分の価値観や常識が広がったのは、クレーム対応の仕事に携わったからこそだと思っています。
この章で公開している私のクレーム対応の失敗談は、まさに自分の話せるネタとなり、有難いことに、この本のコンテンツにもなりました。
ほかにも、他人に話せるネタとしては、間違いなくその筋の方のところに謝りに行ったことがありました。
2時間近くお叱りを受けたところで、ようやくお許しいただけたようで、相手先の一番の親分格の方から「なんだかんだといろいろ厳しいことを言って、申し訳なかったね。
谷さん!」と言っていただいたのですが、やっと解放される安堵感があったのでしょうか、「お客様、とんでもないです。
お気になさらないで下さい」と言いたかったところ、私の口からなぜか出た言葉は「お客様、お情け無用でございます」でした(笑)。
まわりの若い衆の方たちに爆笑された恥ずかしい思い出も、今では笑って話せるネタになりました。
私のお客様相談室時代の部下に「共感の女王」と呼ばれる優秀な女性対応者がいました。
その彼女があまりにもお客様に感情移入したのでしょうか、「さようでございましたか」と言いたかったところを「さようでござるか」と礼儀正しいお侍さんのような言葉づかいになって、お客様相談室の全員が吉本新喜劇のようにひっくり返ったこともありました。
お客様相談室時代の忘年会で一番盛り上がるのは、「あのお客さんの対応は大変だった」「こんな失敗をしてとても焦った」といった武勇伝などでした。
クレーム対応を行なっていくなかで、自分の経験知がどんどん増えることによって、確実に話せるネタが増えるのです。
クレームで落ち込む必要などないということです。
お客様相談室の上司である担当役員から、「クレームはぜひ、社内で共有して他の部門の仲間に谷さんからクレームの情報と会社が改善すべき点の情報を広めていって下さい」と言われたことによって、クレーム対応という仕事の価値が私の頭の中で明確になりました。
そのため、クレーム対応の仕事に誇りを持つことができ、ちょっとやそっとのことでは凹まなくなったのです。
上司に言われたことを実践して社内にクレームの情報を共有するようになってから、社内で他の部門の同僚から「人がやりたくないことを一生懸命している谷君を尊敬している」という言葉をかけてもらったときは、心に灯がついた気がして本当に嬉しかったものです。
当時、様々な企業のお客様相談室にお勤めになっている経験豊富な社外の先輩方とも交流ができ、彼らが口を揃えて教えてくれたことがあります。
それは、「実は、お客様のほうがクレームを言った後に落ち込んでいることが多い」というものです。
クレームを言った後、「あんな言い方をすべきではなかった」「自分が大人げなかったかも……」「自分が我慢すれば良かっただけかも……」というように、一時的に感情的になってしまったことをお客様が後悔されているケースが多いのです。
だからこそ、お客様をそんな気持ちにさせないためにも、クレーム対応をしっかりやるようにしなければいけません。
そのために、クレームを受けて心が折れたり、落ち込んだりするのではなく、どうやったら次はうまくできるか、どのようにすればお客様の怒りを笑顔に変えられるのか、常に意識する必要があります。
クレームを受けたときのストレスをカラオケで大声を出して発散しようとしたり、お酒の席で愚痴を言ったりする人がいます。
それでは、ストレスのすべてを解消することはできません。
また、クレームを言ってきたお客様の悪口を言ったところで、心のウサが多少晴れるかもしれませんが、根本的な問題は何も解決されません。
クレームを受けたときに生まれたストレスは、そのクレーム対応から何かを学び、それを活かして次のクレーム対応をうまくやることでしか、解消できないのです。
仕事のストレスは、仕事でしか解消できないと私はそう考えます。
「弱い者ほど相手を許すことができない。
許すということは、強さの証だ」インド独立の父、マハトマ・ガンジーの言葉です。
超一流と言われるスポーツ選手は、試合に負けた後のインタビューで相手選手を称えて、敬意を表するコメントをしています。
愚痴を言ってストレスを発散すること自体は悪いとは思いませんが、やはり時間のムダだと思います。
特に、市役所や区役所などの行政のお仕事をしている方は、「クレームをアドバイスとは考えられない」「法律で決まったことをしっかりやっているのに、こんなことをどうして言われないといけないのか」と思う方もいるでしょう。
クレームを言われたことに腹を立てたり、後ろばかりを見ていたりしないで、前を向くようにして下さい。
自分のためにも早く気持ちを切り替えて、自分の感情をコントロールすることが大切です。
ここがPOINT×クレームを受けるとすぐに心が折れて、落ち込んでストレスをためてしまう〇クレーム対応の仕事は、自分の経験知が増え、他人に話せるネタが増える
クレームによるストレスは、クレーム対応がうまくできるようになると解消されるクレーム対応は、人間力を高めることができる価値ある仕事!
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