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第2章シリコンバレーを魅了したネットフリックスの人材管理 パティ・マッコードパティ・マッコード・コンサルティング

目次

第2章シリコンバレーを魅了したネットフリックスの人材管理 パティ・マッコードパティ・マッコード・コンサルティング

ネットフリックスはなぜ人材を引き付けるのか一人前の大人だけを雇用し、報い、裁量を与える成果に関してありのままを話す優れたチームをつくるのは、マネジャーの仕事だ企業文化を形成するのは、リーダーの仕事だ優れた人材管理責任者はまずビジネスパーソンやイノベーターのように考える。

人事責任者として考えるのは最後である

第2章シリコンバレーを魅了したネットフリックスの人材管理 パティ・マッコードパティ・マッコード・コンサルティング

ネットフリックスはなぜ人材を引き付けるのかフェイスブックのCOOシェリル・サンドバーグが「シリコンバレーで公開された文書の中で最も重要なものの一つ」と称賛したファイルが、オンラインで500万回以上も閲覧されている。

それは、動画配信サービスの大手ネットフリックスがどのように企業文化を形成し、従業員のモチベーションを高めて実績を上げたかを説明したパワーポイント資料である。

リード・ヘイスティングスと私が(数人の同僚とともに)この資料を作成した時は、これほど話題になるとは想定外で、予想もしていなかった。

ヘイスティングスはネットフリックスのCEOで、私は1998年から2012年まで同社でチーフタレントオフィサー(最高人材責任者)を務めた。

その資料には、「従業員が妥当だと感じればいくらでも休暇を取れるようにすべきである」など、人材管理に関する画期的なアイデアが記されている半面、少々クレージーだと思われるものも一部含まれていることは承知していた(少なくとも他社が追随するまでは、そう見なされていた)。

しかし音楽もアニメーション効果も使われていない簡素な127枚のスライドが、これほど影響を及ぼすようになるとは驚きだ。

ネットフリックスの人材や企業文化への取り組み方が注目を集めたのには、いくつかの理由がある。

最も明白な理由は、事業がこれまで絶好調であることだ。

2013年の1年間だけでも株価は3倍余り上昇し、エミー賞を3つ受賞した。

米国国内の会員数は2900万人近くまで伸びている。

これらを差し置いても、ネットフリックスの取り組みに説得力があるのは、良識に根差しているからである。

本稿では、ネットフリックスが人材を引き付け、定着させ、管理する際の原則となった5つの理念に関して、単なる箇条書きにならないように詳しく述べたい。

しかしその前に、創業初期の従業員たちと私が交わした会話を2つ紹介しよう。

なぜならそれらが、基本理念の策定に役立ったからだ。

最初の会話は2001年末のことだった。

当時のネットフリックスは急成長を遂げつつあった。

従業員は約120人に達し、IPO(新規株式公開)の準備を進めていた。

ところがドットコム・バブルが崩壊し、米国同時多発テロ事件が発生すると状況が一変した。

IPOを延期するとともに、従業員の3分の1を解雇する必要が出てきたのだ。

これは過酷な状況だった。

さらにその後思いがけないことに、DVDプレーヤーをクリスマスプレゼントに贈ることがブームになった。

2002年の初めには、会員向けにDVDを宅配するレンタル事業は爆発的な伸びを見せた。

つまり人員が約30%減ったのに、突如としてやらねばならない仕事が莫大に増えたのである。

私はある日、有能なエンジニアと話していた。

仮にこの人をジョンと呼ぶことにしよう。

人員整理の前、ジョンには部下が3人いたが、現在その部署は彼一人だけとなった。

残業もとても多かったので、「あなたの負担を減らせるように、すぐにでも何人か採用できたらいいわね」と話したら、驚くべき返事が返ってきた。

「急ぐ必要はないですよ。

いまのほうがハッピーですから」と彼は答えたのだ。

我々が解雇したエンジニアたちは特に優秀ではなく、かろうじて合格という程度だった。

ジョンは彼らの仕事ぶりを監督し、ミスを正すのに時間を取られすぎていたと気づいた。

「平均以下の部下と仕事をするくらいなら、自分一人でやったほうがいいとわかったのです」と彼は語った。

ネットフリックスの人材理念における基本要素を説明する時には、彼のこの言葉がいつも私の心に甦る。

その要素とは、従業員のためにできる最善のことは、第一級の人材だけを採用して一緒に働いてもらうことである。

それは職場にテーブルサッカーの台を設置したり、無料で寿司を食べさせたりすることより優れた社員サービスだ。

有能な同僚は何よりも勝るのだ。

2つ目の会話は2002年、ネットフリックスのIPOから数カ月後のことだった。

帳簿係のローラは聡明かつ仕事熱心で、独創的なアイデアの持ち主だった。

彼女は、創業初期の我が社の成長に欠かせない存在で、ビデオのレンタル状況をきちんと把握して、正確な著作権料を支払えるようにするシステムを考案してくれた。

しかし上場したネットフリックスに必要な人材は、公認会計士などの資格を持っていて、経験豊富な会計のプロだった。

かたやローラはコミュニティカレッジ(2年制大学)出で、準学士の学位しかない。

仕事に対する誠実さ、実績はもちろん、我々全員に愛されていたにもかかわらず、彼女のスキルでは追い付かなくなってしまったのだ。

「彼女のために応急的に新しい肩書きをつくろう」という案も一部から出たが、「それは正しいことではない」と判断した。

私はローラとひざを交えて状況を説明した後、会社に対する彼女の莫大な貢献度を考慮して、破格の退職手当を出そうと告げた。

泣かれたり感情的になられたりするのではないかと身構えていたが、ローラの対応は立派だった。

「会社を去るのは悲しいが、十分な退職手当をもらえれば自分を取り戻し、教育を受け直して新たなキャリアパスを目指すことができる」と理解したのだ。

この出来事のおかげで、人材管理における理念の新たな軸を策定することができた。

それは、過去に多大な貢献をしてくれた人材であっても、持てる技能が会社にマッチしなくなったら、すすんで解雇しなければならないということだ。

第一級の人材だけでチームをつくるなら、そうしなければならないのだ。

そのような人々にフェアであるため、そして率直に言うと解雇することへの後ろめたさを克服するためにも、我々は退職手当をはずむことを学んだ。

ここまで述べた2つの最重要原則を念頭に置いて、我々は次のような5つの理念に基づく人材管理法を構築した。

一人前の大人だけを雇用し、報い、裁量を与える会社の正式な方針に頼らず、みずからの論理と常識を使うことを促せば、たいていの場合は低コストでよりよい結果が得られる。

会社の利益を第一に考え、優れた成果を出せる職場をつくりたいという経営者の望みを理解して支援してくれる人材を見極めて、採用してほしい。

そうすれば、従業員の97%は正しい行動をする。

ほとんどの企業は、残りの3%の従業員が引き起こすおそれのある問題に対処すべく、人事制度や方針を定めて実行に移すことに膨大な時間とお金を浪費している。

我々はその代わりに、そんな人材を採用しないように徹底的に努力を重ね、採用したのが間違いだったとわかったら、即座にその人を解雇した。

一人前の大人としての行動とは、自分の上司や同僚、部下とさまざまな問題についてオープンに話し合うことである。

マネジャーと部下が個々の状況に応じて納得できる方法を編み出せば、人事規則や方針が多い会社でも、それらに束縛されずに済むことが多々あるのだ。

そのように認識することも大人の行動だ。

2つの例を挙げよう。

創業当初のネットフリックスには標準的な有給休暇制度があった。

従業員は10日の長期休暇、10日の休暇、数日の病気休暇を取ることができた。

自己申告方式で各自が休んだ日を記録し、欠勤する時は上司に知らせる規則になっていた。

上場後、監査人はこれを知って愕然とした。

サーベンス・オクスリー法(SOX法)により、企業には従業員の休みを把握することが義務付けられているというのだ。

そのため法に基づいて休暇の利用状況を管理するシステムを導入することを考えた。

ところが、ネットフリックス創業者のリードは、「企業は、休暇を与えるよう義務付けられているのか。

もしそうでないなら非公式なやり方で処理して、会計上の煩わしい手続きを避けることはできないのか」と疑問を投げかけた。

そして私がある程度調べたところ、実はカリフォルニア州法には休暇に関する時間の規定がないことがわかった。

そこでSOX法に沿った手続きに変更する代わりに、逆の方向に向かったのだ。

正社員は、妥当だと思うだけの休暇を取れるようにした。

上司と部下にはお互いに相談して調整するようにした(コールセンターと倉庫の時間給社員には、もっと具体的な方針を示した)。

加えて、ある程度のガイダンスをつくった。

たとえば会計や財務の部門であれば、繁忙期である四半期の期首と期末に休暇を取ってはならず、30日以上続けて休暇を取りたい場合は、人事部に相談する必要があることなどだ。

上級リーダーは率先して長期休暇を取るとともに、それを社員に公にするようにした。

彼らにお手本を示してもらいたかったのだ(ほとんどの従業員は喜んでこの方針に従った)。

ただし、この方法では一貫性が保てないのではないかと気にする人もいた。

休暇をいくらでも与える上司もいれば、渋る上司も出てくるのではないかというのだ。

総じて私が心配したのは一貫性よりも公平さだった。

なぜなら現実には、どんな組織でも最も優秀で価値の高い従業員には自由裁量が与えられるからだ。

交通費・交際費でも正式な方針を打ち出さず、大人としての行動を義務付けるだけにした。

経費に関する方針は、たった5つの単語で示された。

「ネットフリックスの利益を最優先して行動する」(“ActinNetflix’sbestinterests”)というものだ。

従業員にこれを説明する際には、「会社のお金を自分のお金のように倹約して使うことを期待している」と告げた。

正式な方針を定めず、経費の見張り役も置かなかったので、現場マネジャーの手に権限を委譲した。

本来そうすべきなのだ。

おかげで経費も削減できた。

多くの大企業は、出張方針を明確にするため、いまだに旅行代理店を使っている(当然ながら料金も支払っている)。

しかし、従業員にみずからオンラインで予約させれば経費削減につながる。

ネットフリックスのほとんどのマネジャーと同じく、私も高級レストランで食事をした従業員には時々注意してやらねばならなかった(営業やリクルーティングの一環ならかまわないが、一人または同僚と食べるのは厳禁である)。

不要な機器や装置をたくさん購入しがちなIT部門の従業員たちから目を離さないようにした。

しかし総じてこれらの経費に関する事柄でも、責任ある行動として何を期待するかを明確にすれば、大半の従業員はそれに従うことがわかった。

成果に関してありのままを話すネットフリックスでは、何年も前に通常の人事考課制度を廃止した。

それ以前はしばらく行っていたが、人事考課には意味がないと思うようになったのだ。

式張っているうえに、考課の間隔が空きすぎているので、マネジャーと従業員たちに、業務の一環として個人の業績に関する話し合いを持つように求めた。

営業、エンジニアリング、製品開発など多くの部門では、各従業員の仕事ぶりがよいかどうかはかなり明白である(人事評価のアナリティクスの質が上がるほど、これが本当なのだとわかる)。

人事考課のために官僚的な体制と複雑な形式を構築しても、通常は個人の業績改善にはつながらない。

従来、企業が人事考課を行う主な動機は、従業員から訴訟を起こされるのではないかという懸念から生じている。

従業員の厄介払いをしたければ、過去からずっと業績が芳しくないことを記録した書類の山が必要だという。

多くの企業で、成績不振の従業員は「業績改善計画」(PerformanceImprovementPlan:PIP)を受けさせられる。

私はPIPが大嫌いだ。

PIPは根本的に不誠実で、なぜならPIPは、その名前が意味する効果をもたらさないからだ。

ネットフリックスのあるマネジャーは、マリアという品質管理担当エンジニアに対して、PIPを要求した。

マリアは動画配信サービスの構築を支援するために採用された。

この新規テクノロジーは急速に進歩していた。

マリアの仕事はバグを見つけることだった。

彼女は仕事が速いうえに、直観力に優れており、一生懸命に働いていた。

ところがやがて、品質保証テストを自動化する方法が編み出された。

マリアは自動化が気に入らず、特に自動化に長けているわけでもなかった。

そのため、マリアの新しい上司(世界有数の自動化ツール作成チームを編成するために採用された)は、「マリアのPIPを開始したい」と私に告げたのだ。

私はこう答えた。

「なぜわざわざ、そんなことをするの。

PIPをやったらどうなるか、あなたも私もわかっているわよね。

あなたはマリアが達成すべき目標と成果を書き上げるけど、彼女にはそれを達成できない。

なぜなら彼女にはそのためのスキルがないから。

あなたは毎週水曜日、自分の本当の仕事を差し置いて、マリアの問題点について彼女と話し合う(そしてそれを記録する)。

つらい話し合いになるのがわかっているので、前日はいつも眠れない。

それは彼女も同じ。

数週間後には、涙交じりの話し合いになる。

そんな状態が3カ月も続けば、チーム全員の知るところとなる。

最終的にあなたはマリアを解雇するけど、彼女には思い当たる節がまったくない。

なぜって5年間一貫して、彼女は自分の業務において優秀だと評価され、それに応じた報酬を受け取ってきたのだから。

ところがその業務は基本的に不要になってしまった。

もう一度、説明してもらえるかしら。

どうしてPIPがネットフリックスのためになるのかを」私は続けた。

「いいわ、その代わりに真実を話そうじゃないの。

『テクノロジーが変わり、この会社も変わりました。

するとあなたのスキルはもう役に立たなくなったの』。

そう話してもマリアは驚かないでしょう。

彼女は現場の最前線で、自分の周りで仕事内容が変わっていくのを見てきたんだもの。

だからこそ退職手当をはずんであげて。

そうすれば必要書類に彼女は署名し、訴訟問題になる可能性は(ゼロとは言い切れないけど)大幅に下がるでしょうから」。

私の経験では、真実が語られる限りは、人はどんなことにも対処できる。

マリアの場合にもそれが当てはまると証明された。

通常の人事考課を廃止した際に、非公式な360度評価を導入した。

ただし、かなり単純なものに留めた。

同僚が慎むべきこと、始めるべきこと、続けるべきことを従業員に特定してもらうのだ。

最初は匿名で行うソフトウェアシステムを使っていたが、やがてフィードバックに署名する形式に移り、多くのチームは直接顔を合わせて360度評価を行うようになった。

人事業務に携わっている人たちは、ネットフリックスほどの大企業が年次評価をやっていないのが信じられないようだ。

「我々を動揺させるために、話をでっち上げているだけじゃありませんか」と聞かれるが、そんなことはない。

定期的に個人の仕事ぶりに関して単純かつ正直に話せば、おそらく5点満点の尺度で従業員全員に点数をつける会社より優れた結果が得られる。

優れたチームをつくるのは、マネジャーの仕事だイラク戦争の際に、当時国防長官だったドナルド・ラムズフェルドは、米国軍のパフォーマンスについて「戦争が始まったら現有戦力で戦うのみです。

こんな軍隊を送ってくれたらいいとか、将来はこんなふうだったらいいなと考えても意味がありません」と語ったことで知られている。

優れたチームづくりについてマネジャーたちに話す時、これとは正反対の姿勢で臨みなさいと説いている。

私はコンサルティングを行う際、顧客企業のマネジャーたちに、向こう半年間で自分たちのチームが何を達成しているかを記録したドキュメンタリー映画を想像してもらう。

そして「具体的にどのような結果が見えますか。

現在チームで行っている仕事と、映画の中の仕事はどのように違っていますか」と尋ねるのだ。

次に、その映画の各場面を現実のものにするために必要なスキルについて考えてもらう。

この過程の初期段階では、現在の手持ちのチームについて考えなさいというアドバイスはけっして行わない。

理想的な成果を思い描き、その達成に欠かせないスキルセットを考えるという作業を終えるまでは、既存のチームが、彼らが必要とするチームとどの程度合致しているかを分析すべきではないのだ。

事業を取り巻く環境が刻々と変わる状況では、おそらく多くのミスマッチが目につくことだろう。

その場合は、チームの一部のメンバーと正直に対話し、彼らのスキルがよりよくマッチする場所を探させる必要がある。

適正なスキルを備えた人材も募集しなければならない。

DVDの宅配レンタルからストリーミング配信サービスへと軸足を移し始めた際に、ネットフリックスは後者の問題に直面した。

膨大な量のファイルをクラウドサーバーに保存し、どれだけ多くの会員が確実にそれらにアクセスできるかを、割り出さねばならなかったのだ(ある推計によると、米国の住宅地におけるインターネットトラフィックのピーク時に、ネットフリックスの顧客が映画のストリーミング再生のために使っている量は、最高でトラフィック全体の3分の1を占めるという)。

したがって、クラウドサービスの経験が豊富で、事業規模が巨大な企業で働いたことのある人材を見つける必要が出てきた。

該当する企業といえば、アマゾン・ドットコムやイーベイ、グーグル、フェイスブックだが、そこから人材を引き抜くことは簡単ではなかった。

しかし、給与に関する方針が功を奏した。

その原則のほとんどは先に説明した理想の姿、すなわち「正直であれ」「従業員を大人として扱え」に由来している。

たとえば私の在職期間中、ネットフリックスは業績連動型ボーナスを支払わなかった。

なぜなら適正な人材を採用すれば、払う必要はないと確信していたからだ。

もし一人前の大人で、自分が働く会社を第一に考える人ならば、年次賞与のあるなしで一生懸命に働くかどうか、賢明に働くかどうか左右されない。

また、市場を考慮した報酬の重要性を信じていたので、自分の相場はいくらなのかを知るために、従業員に機会があったら競合他社の人事面接を受けてみるのが賢明だとよく話した。

たいていの人事担当者は従業員がヘッドハンターと接触するのを嫌がるが、私は常に「(ヘッドハンターから)電話が来たら出なさい。

給料はいくら出すのか聞きなさい。

そしてその数字を私に教えてちょうだい」と口酸っぱく言っていた。

それらは貴重な情報なのだ。

さらに株式に伴う報酬は、ほとんどの企業と異なる方法で使った。

競合他社と太刀打ちできる給与にストックオプションというお飾りを加えるのではなく、従業員に報酬のうち、どのくらいを株式の形でもらいたいかを選ばせたのだ(従業員が株式を望む場合だが)。

従業員がストックオプションを希望した場合には、その割合に応じて給料を減らした。

その選択により何を得て何を失うか、自分はどの程度のリスク耐性があるのか、自分や家族にとって何がベストであるかを従業員は把握していると信じた。

毎月、市場価格より若干割安の価格でオプションを配付し、権利確定期間は設けず、即座に現金化(権利行使)できるとした。

ほとんどのハイテク企業は権利確定期間を4年間とし、従業員の定着促進のためにオプションを「黄金の手錠」(引き留めのための特別待遇)として使おうとする。

しかしそれには少しも意味を見出せなかった。

どこか別の企業によりよいチャンスを見出したならば、それまでに培ったものを手にして会社を去ってもかまわないではないか。

もう我々の会社で働きたくない人を、無理やり引き止めたくない。

マネジャーたちには、優れたチームをつくることが、彼らの最も重要な仕事なのだと繰り返し言い聞かせた。

コーチやメンターとして優秀かどうか、あるいは期日までに必要書類を作成したかどうかは評価材料ではなかった。

優れたチームは優れた仕事を成し遂げる。

したがって最優先事項は、適正なチーム要員を起用することだった。

企業文化を形成するのは、リーダーの仕事だ私はネットフリックスを辞めた後、コンサルティング業を始めた。

ある時、サンフランシスコにある話題の新興企業を訪問した。

オフィスは開放的なロフトのようで、従業員数は60人だった。

オフィスにはテーブルサッカーの台が1台、ビリヤード台が2台あり、キッチンでは料理人が全従業員のために昼食をつくっていた。

同社のCEOは私を案内しながら、愉快な雰囲気をつくり出すことについて話した。

「あなたの会社にとって最も重要な価値観は何ですか」と尋ねると、「効率性です」という返事が返ってきた。

「おや、そうですか」と私は答え、こう続けた。

「では、私がここの従業員だとしましょう。

いま、午後2時58分です。

ビリヤードの試合に熱が入り、私が優勢に立っています。

あと5分で勝負がつきそうです。

ところが、3時に会議の予定が入っています。

勝敗が決まるまでビリヤードを続けるべきですか、それとも会議を優先して切り上げるべきでしょうか」すると彼は、「最後までゲームを続けるべきですよ」と断言した。

私はことさら驚かなかった。

多くのハイテクベンチャー企業と同じく、彼の会社はカジュアルな職場環境で、従業員はパーカー着用だったり、職場に自分のペットを同伴させたりしていた。

こうしたカジュアルな社風は、時間の観念にも及んでいた。

「ちょっと待ってください」と私は言った。

「御社で最も重要な企業文化は効率性だとおっしゃいましたよね。

ビリヤードにかまけて会議に遅れ、同僚を待たせるのは効率的ではありません。

あなたが求める価値観と、奨励したい行動が一致していないと思われますが」企業文化の形成についてアドバイスする際には、往々にして3つの問題が目につくので、これらに注意を払うべきだと説明している。

そのうちの一つがこの種のミスマッチだ。

これはベンチャー企業にありがちな問題である。

というのもベンチャー企業ではカジュアルな社風が奨励されるが、リーダーたちは優れた業績を重視する風土を育みたいと思っているので、明らかに相反している。

従業員がどのように業務しているのかを感覚的に理解するため、私はしばしばコンサルティング先の会議に同席させてもらっている。

すると、明らかにその場しのぎで会議に臨むCEOを目にすることが多い。

彼らには議題がない。

つまり、本当に何を話し合いたいのかを考えていないのだ。

したがって会議寸前にまとめたとおぼしきスライドを使ったり、ベンチャーキャピタルとの打ち合わせに使った資料を使い回したりする。

従業員はこのような行動を見逃さない。

十分な準備をせずに、自分の魅力や頭脳、即興力に頼るリーダーの姿を見せられると、従業員の仕事ぶりにも影響を与える。

従業員にみずから模範を示し、それに沿った行動に報いるつもりがないなら、企業の価値観や文化に関する理念を語るのは時間の無駄だ。

2つ目の問題は、事業の原動力となる要素が何なのかを、従業員に確実に理解させることと関連している。

最近、テキサスにある新興企業を訪問した。

この会社の従業員の大半は20代のエンジニアである。

「きっと、この部屋にいる人たちの半分は、損益計算書に目を通したことがないのではないですか」とCFOに尋ねたら、彼はこう答えた。

「おっしゃる通りです。

彼らは財務や事業に精通しているわけではありません。

最大の課題は、事業がどういう仕組みになっているのかを彼らに教えることなのです」。

仕事でよい成果を収めたいと思っている人材を採用したとしても、会社がどうやってお金を稼いでいて、どのような行動が会社に成功をもたらすのかを、明確に伝える必要があるのだ。

たとえばネットフリックスの従業員も、かつては会員数の拡大にばかり目が行って、経費が過剰に膨らんでいることへの認識が欠けていた。

新規会員からたった1セント徴収する前に、DVDの購入、流通センターの建設、独自のプログラム開発の発注などに多額の費用を注いでいたのだ。

収益が伸びていても、ネットフリックスの従業員は経費管理の重要性を学ぶ必要があった。

3つ目の問題は、「二重人格のベンチャー企業」と私が呼ぶものである。

ハイテク企業の場合、通常この問題はエンジニアと営業チームの対立という形で見られる。

しかし、それ以外の形で表れる時もある。

たとえばネットフリックスでは、本社で専門職に就く正社員とコールセンターで働く時給制の契約社員との間には大きな違いがあるのだと、たまに従業員たちに思い出させなければならなかった。

ネットフリックスの財務部門はある時、給与支払い方法を変更しようと思い立った。

彼らは、全社的に給料を従業員の銀行口座に直接振り込みたがった。

これに対して私は、時間給の従業員には銀行口座を持っていない人もいると指摘しなければならなかった。

これはちょっとした例だが、もっと深刻な問題につながっている。

リーダーたちが企業文化の形成を考える際には、主流の文化のほかに、別個に管理しなければならない可能性のあるサブカルチャー(副次的文化)に気を配る必要がある。

優れた人材管理責任者はまずビジネスパーソンやイノベーターのように考える。

人事責任者として考えるのは最後である私は全キャリアを通じて、ほぼずっと人事担当幹部を対象とする協会や団体に入っている。

個人的にこれらのグループに属する人たちを好きだが、意見が対立することが多い。

従業員の士気を高めるための施策に時間を費やす人があまりにも多いのだ。

人事部一丸となって、会社が「働きがいのある職場」に選ばれることに腐心している企業もある(その選定方法を詳しく調べてみれば、実は単に従業員向けの特典と諸手当だけに基づいていることがわかる)。

最近の会議では、「チーフハピネスオフィサー」(最高幸福責任者)なるものを任命した会社の人にお目にかかった。

最高幸福責任者なんて、何とまあ薄気味悪いコンセプトではないか。

私は30年のキャリアを通して、従業員のやる気を実際に奮い立たせた人事施策なるものを、一つも見たことがない。

人事部門は従業員のためにパーティを開いたり、おそろいのTシャツを配ったりする。

しかし、自社の株価が下がっていたり、製品の評判が芳しくなかったりしたら、そのようなパーティに出席しても従業員は陰で文句を言うだろう。

そして、せっかく渡したTシャツは洗車に使われるはめになる。

人事担当者たちはチアリーダーのように振る舞う代わりに、自分はビジネスパーソンだと考えるべきだ。

会社に役立つのは何なのか。

それを従業員にどう伝えるか。

優れた業績とは何を指すのかを、全社員にどうすれば浸透できるか。

簡単なテストがある。

業績連動型ボーナスを導入しているなら、従業員を無作為に選んで、「具体的にいま現在何をしていれば、賞与の額が高くなるか知っていますか」と尋ねるのだ。

答えが返ってこなかったら、人事チームは物事を十分明確にしていないことになる。

ネットフリックスで一緒に働いた同僚たちは、消費者が映画やゲームなどのコンテンツを楽しむ方法を変えつつあった。

それは驚くほど画期的な仕事である。

その一方で就任当初の私に期待されていたのは、他社のベストプラクティスを踏襲することだった(その多くは時代遅れになっていた)。

人事業務に取り組む時は、ほとんど誰でもそうするらしい。

しかし私はそのような足かせを拒否した。

人事チームも他の部門のようにイノベーティブになれないはずがないのだから。

卓越した業績を重視する企業文化を育むネットフリックスの創設者兼CEO、リード・ヘイスティングスに、同社の型破りな人事施策について尋ねた。

HBR(以下太字):ネットフリックスの企業文化に関する資料を作成したのはなぜですか。

ヘイスティングス(以下略):あれは、駆け出しの起業家に向けた、我が社からの『若き詩人への手紙』です。

あのようなことが創業当初にわかっていたら、と願うものです。

資料作成には100人以上の従業員が貢献してくれて、いまでも改良を重ねています。

あの中の多くのアイデアは常識のように思えますが、人事の通念とは相容れません。

人材管理において、企業がイノベーティブになれない理由は何でしょうか。

我々の社会全体は、数百年かけて第2次産業の会社の経営に取り組んできました。

したがって、一般に認められている人事業務の多くはその経験に依って立っています。

我々はクリエイティブな企業を経営する方法を学び始めたところで、第2次産業の会社とはまったく異なります。

第2次産業の企業は、バリエーション(すなわち製造エラー)を削減することで繁栄します。

しかしクリエイティブな会社は、バリエーション(すなわちイノベーション)を増やすことで繁栄するのです。

通常の休暇制度や人事考課を廃止するといった動きに対して、同業者からどのような反応がありましたか。

総じて他社は、御社の画期的な人事を称賛していると思われますか。

それとも不信の目で見ているのでしょうか。

私の同業者の大半は、クリエイティブな分野にいます。

我が社の企業文化に関する資料で紹介したアイデアの多くは、彼らから寄せられました。

皆、お互いから学んでいるのです。

企業文化の資料に記されているアイデアのうち、従業員から最も抵抗があったのはどれですか。

「ほどほどの業績の人には、たっぷりと解雇手当をはずんだうえで辞めていただく」ですね。

あれは卓越した業績を求める我々の姿勢を、かなりはっきりと打ち出したものです。

人材管理のイノベーションで大失敗だったものはありますか。

これまでのところありません。

パティ・マッコードさんは、通常の人材管理方法とかけ離れた職場環境に従業員が馴染めるようにするために、リーダーがどのように適切な行動の範を示すべきかを語っています。

それを踏まえたうえでお聞きしますが、2013年は何日休暇を取られましたか。

「就業中」と同じく、「休暇」はいかにも第2次産業らしい概念です。

私にとってネットフリックスのことを考えるのが楽しいので、丸一日仕事についていっさい考えないことはおそらくないでしょう。

ただし昨年(2013年)、家族と一緒に3〜4週間の旅行をしました。

刺激的なひとときで、安らぐこともできました。

 

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