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第2章エグゼクティブリーダーは己を知る

「汝自身を知れ」──アポロン神殿の入り口に刻まれた古代ギリシャの格言

目次

リーダーは育てられるのか 「コンティンジェンシー理論」とは何か

リーダーシップ研究が盛んなアメリカでは、リーダーシップ理論はその時代ごとにさまざまな理論が生まれ、変遷してきました。

リーダーシップという言葉が使われ始めたころは、リーダーの資質は生まれつきのものだと考えられ、有能なリーダーが備えている特性について研究されていました(特性理論)。

その後、行動理論によって優れたリーダーの取る行動についての研究がなされ、リーダーは育成可能であると考えられるようになりました。

一般的に、「リーダーシップは個人の資質の問題で、教えて身につけられるものではない」という風潮がありますが、リーダーシップは教えられると考えられています。

最近のビジネススクールでは、リーダーシップの有効性は状況に依存しているという「条件適合(コンティンジェンシー)理論」が説かれています。

コンティンジェンシー理論の中でも「パス・ゴール理論」が最も受け入れやすい理論です。

そこで説かれているリーダーシップのスタイルには、「達成指向型」「指示命令型」「参加型」「支援型」の四つがあります。

図で書かれているのは、行動理論が示唆する有効なリーダーシップのスタイルです。

  • 達成指向型:困難な目標を設定し、部下に全力を尽くすよう求める
  • 指示命令型:期待値を説明し、スケジュールを設定し達成方法をこと細かに指導する
  • 参加型:部下に相談して、部下の提案を活用する
  • 支援型:親しみやすく部下のニーズに気遣いを示す

※参考:『[新版]組織行動のマネジメント』(スティーブン・ P・ロビンス著、 木晴夫訳、ダイヤモンド社) p 268、 269より

その時の「達成を目指すゴール」「環境的な条件」や「部下の個人的な特性」に適合するリーダーシップのスタイルを、これら四つの型の中から見つけ出せれば、最適なパフォーマンスを発揮することができます。

まずは次図の解説をしましょう。最終的な目標として「達成すべきゴール」があります。

そして、そのゴールへ合理的に向かうために、競争状況や経営責任体制、組織文化といった「環境的な条件」と、部下の自立性、経験、能力などの「部下の個人的な特性」を判断し、それに適合した最適なリーダーシップのスタイルを選択するのです。

まず、ゴールが十年後の達成目標であるのか、今日、明日で結果を出さなければいけないものなのかということも判断しなければなりません。

次に環境について考えます。たとえば極端なケースとして、戦争状態なのか平和な時なのかなどです。部下の特性について、たとえば私の経験上、どちらかというと女性は指示待ち型が多いように思います。

一方、細かな指示をされればされるほど、やる気を失ってしまう部下もいます。このように、部下の個人的な特性を判断し、その時の状況にあったリーダーシップのスタイルを選択し、実践するのです。

リーダーシップのスタイルには、前掲の図に書かれているように四つのタイプがあります。

たとえば、部下の理解を促し、行動の目的や方法論を事細かに監督する「達成指向型」のリーダー。

「達成指向型」のリーダーは、とにかく目標の数字に対して細かく指導するスタイルです。一発勝負の生放送番組や失敗の許されない医療現場などに必要なスタイルです。

それから、わかりやすいのはトップダウンの「指示命令型」のリーダー。危機的な状況下では「指示命令型」が有効です。

たとえば戦闘の最中では、「みんな、ちょっと集まって相談しよう」なんてことにはなりません。「狙え、撃て、突撃!」と「指示命令型」のリーダーシップ・スタイルが機能します。

あとは、「みんな、どう思う? ちょっと集まって考えよう」と声を掛け、チームで合理的に仕事を進められるように促す「参加型」のリーダー。教育研修を目的とするグループワークの時などに必要なスタイルです。

そして、責任を委ね、後ろからサポートする「支援型」のリーダー。社長が会長に退いて、新社長をサポートする時に必要なスタイルです。

その時の状況によって、リーダーシップのスタイルを効果的に使い分けることはとても合理的です。

自分が置かれた状況、環境によって、今は「指示命令型」で行くべきなのか、「支援型」で行くべきなのか、または「参加型」で行くべきなのかということを考えることが必要です。

また、部下の状況によっても大きく変わります。

たとえば、すでに裁量権が大きく与えられ、自分で判断して進めている部下に、トップダウン型のこと細かな指示命令をしても、すんなりとは動いてくれないはずです。

しかし、定型的な仕事を繰り返す仕事をするスタッフなどは、指示をわりにすんなりと受け入れ、行動してくれます。

ところが、ゴールが明確で、部下もそれを達成するに十分な能力をもっている時に、「指示命令型」のリーダーシップを発揮すると、部下はやる気を失ってしまいます。

こういった時は「支援型」に徹し、できるだけ邪魔をしないことが大切です。ですから、環境とともに部下の状況やタイプも判断材料として考えなければなりません。

これらの要因を総合的に判断してリーダーシップのスタイルを変化させるのです。孫子の兵法の一節に、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」というとても有名な言葉があります。

シンプルで、本質を突いた言葉です。

春秋戦国時代の古より、戦で勝つためには、自身が置かれている環境や状況をよく理解し、自身を知ることが大切なのです。

それはビジネスのあらゆるシーンでも同じです。

自社の環境、部署の状況、部下たち、そして自分自身をよく理解し、その時に一番効果的なリーダーシップ・スタイルを意識して選ぶことが良い結果へとつながります。

まずは、今の自分自身がどのリーダーシップ・スタイルで仕事をしているのかを、四つのスタイルに当てはめて考えてみてください。

できれば部下の人たちにどのスタイルだと思うかフィードバックしてもらうのも良いでしょう。きっと自分の認識の間に大きなギャップがあるはずです。

そして、そのスタイルが、現在置かれている状況に適合しているか自問してみましょう。すべての状況に適合できる、唯一の理想的なスタイルなど存在しません。

状況や環境などによって、最も効果を発揮できるスタイルはどれかを判断し、自らが変化をすることが重要です。

「部下の個人的な特性」とは、その性格まで考察する

一人の人が四つのリーダーシップ・スタイルをきちんと使い分けることができれば理想ですが、なかなか難しいものです。

ですから、まずは自分の基本的なスタイルあるいは得意なスタイルをよく見極めること。

そして、現在の環境や部下の状況も判断し、その状況下では自分よりも優れたリーダーシップを発揮できる人材がいれば、その人に任せてみる。

状況を判断し、任せることもエグゼクティブリーダーの大きな役割です。

要は、チームをゴールに導くことが最大の目的なのです。

日本の武将でたとえると、たとえば織田信長は「指示命令型」。動乱期には、「指示命令型」で自分自身が率先して指揮をとらなければなりません。

しかし太平の世で同じことをしていては、家来や部下はついてきません。

おそらく、天下を治めた後の徳川家康は「参加型」だったのではないかと思います。環境を見て、部下との協調を図りながら徳川幕藩体制を固めていったのではないでしょうか。

また、部下の状況を判断するとは、その部下の「性格」をよく理解することも含みます。たとえば独立志向の強いタイプの人間が部下であれば、「指示命令型」ではどんどんやる気を失ってしまい、指示が逆効果になってしまいます。

上から言われれば言われるほど、やる気をなくしてしまうという人も多いのではないでしょうか。

その時の環境に最適なリーダーシップのスタイルを理解するだけでなく、部下それぞれに合うスタイルを見極め、使い分けるのが理想です。

リーダーとして成果を挙げるために、ぜひ「パス・ゴール(コンティンジェンシー)理論」を活用してみてください。

自分のリーダーシップ・スタイルを分析する

リーダーシップ・スタイルは、状況や環境によって変化する

私のリーダーシップ・スタイルは、基本的には「指示命令型」ではなく、「参加型」でしたが、その時の状況や環境によって変わりました。

初めて社長に就任したアトラスは、私が入社した時期はプリクラブームが過ぎ、業績も三期連続の赤字となっていました。社内は停滞した空気に包まれていました。

このような状況では、社長は「指示命令型」のリーダーとして不良在庫の処理や子会社の整理など積極的に指示を出し、陣頭に立たなければなりません。

その後、 CEOとして迎え入れられたザ・ボディショップでは、目先の売り上げアップではなく、会社や売り場の意識変革が第一の課題でしたので、できるだけ「参加型」のリーダーシップを意識しました。入社当時の離職率はなんと二〇パーセントを超えていました。

「ザ・ボディショップは好きだが、イオンフォレストは嫌いだ」といった理由で多くの人が辞めていっていました。

当時業績低迷の結果、経費の削減が中心で、お店の待遇改善や社員教育をする余裕がありませんでした。その結果、社員が働きがいを感じられないような職場となってしまっていたのです。私は、まずお店の皆さんが働きやすい職場作りに取り組みました。

「友人を自宅に招くような接客を」「 CS(顧客満足)より E S(従業員満足)」などの方針を示しました。

意識変革を訴えて、ある程度動き始めたら、自分はできるだけ引いて「支援型」のリーダーシップ・スタイルに変えていきました。

社員たちは自分たちの仕事に誇りを取り戻し、その結果、従業員の離職率は二パーセントまで減少。売り上げも徐々に伸び、三十二カ月予算を達成しました。組織や部下、チームはいつも変化しています。

常に、「どのような状況に置かれているか」を見極め、リーダーシップ・スタイルを変化させていくことが必要です。

自分のリーダーシップ・スタイルを知るためのコーチング

次に、あなた自身をどのように見つめ直すかについて、お話ししましょう。実際に、あなたはどのくらい自分のリーダーシップ・スタイルを正確に把握していますか? これについて、自分一人で漠然と考えても、明確な答えは出てきません。

他者の目という、客観的な視点を得ながら自分を深く内省しなければわからないものです。

そのため、現在では、その客観的な視点の役割をプロフェッショナルとして担うコーチングの専門家が、重要視されるようになってきたのです。

自分のリーダーシップスタイルの癖について、コーチャーからフィードバックを受けるのです。

コーチャーは広く関係者からそのリーダーについてヒアリングを行い、それをまとめて、フィードバックをするのです。

自分と自分の環境を客観視するコーチングの基本

コーチングの基本は、コーチャーが一切解答を教えないことです。クライアントから答えを引き出すのが仕事です。

自身で気づかせる。自分の中から、自分自身で導き出した答えを、正解とします。

コーチャーは、正解を導き出すために、さまざまな角度の質問を繰り返し、クライアント自身が考えることをサポートするだけです。答えを与えてしまうと、一過性になってしまうからです。

自身で答えを考え、自身が変わり成長できれば、また次の問題が起こった時に、自ら解決することができるようになります。

私もコンサルタント時代に、究極のコンサルテーションは戦略や組織を変えることだけではなく、クライアント自身を変えること、つまり成長させることだと強く感じていました。

自分を振り返る

自分自身を振り返るためには、部下やコーチャーからのフィードバックを受けなければなりません。

360度フィードバックを導入している企業もありますが、自分を謙虚に見つめ直す必要があります。

社長目線で自分の環境を見つめる

本書の読者には、すでにご自身が社長である方もいるかもしれません。

「社長」となった瞬間に、会社全体を三六〇度の大パノラマのように見渡せる目が求められ、それまでとはまったく違った視野が要求されます。

それまでに経営企画室などでの職務経験があり、全社的に会社を見る機会があってもなくてもです。

アトラスで初めて社長となった当初、社長業があまりにも多岐にわたっていて、大小さまざまな問題に、瞬時に対応しなければいけないことに驚きました。

たとえば、「業績発表はどうしますか?」と問われたその直後には、「来期の新商品戦略についてどうしましょう?」など、多様な質問を次々になげかけられます。

しかし、どんなに小さな問題だとしても、社長が判断しなければ、部下は先へ進めないことがあります。

そして社長以外の人が、いかに会社を包括的に見渡すことができていないかも実感しました。求められる立場にならなければ身につけられない「視点」があると気づいたのです。

経営を山登りにたとえてみましょう。自分は営業のプロとして、山頂を目指して険しい道を登ってきた。

そして、頂上に着いた瞬間に、眼下に広がる山の尾根を三六〇度見渡すことができます。

最初は、他の山道にどんな道があるのかも知らず、自分が登ってきた目の前の道しか見えていません。

しかし山頂に着いて、パッと辺りを見渡した時に、隣には研究開発という山道があり、向こうには経理という山道があり、自分がたどってきた道は会社という大きな山の一面に過ぎなかったことがわかります。

社長は、三六〇度の大パノラマの視点で、山全体を見なければいけません。

営業のプロは、営業という縦のラインの中で知識と経験を深め、細かなところにまで意識を注いで仕事をしています。

でも普段は、経理や人事など他部署の細かな情報は、かなり意識して得ようとしなければ、ほとんど耳に入ってこないものです。

企業が大きければ大きいほど、その傾向が著しいと思います。往々にして、他の部署の状況などよく把握しないまま、それぞれの部署は自分たちの目標や要望を挙げてきます。

営業は「営業強化」、製造は「製造重視」と。社長が、「今はそれよりも、まずは研究開発に力を入れるべきだ」と判断しても、すんなりと受け入れられるケースは稀です。

もちろん、それぞれの立場で仕事をしているからこそ出てくる要望なので心情はわかりますが、社長は、企業を経営するための優先順位をつけ最善の判断を下すことが求められています。そのための情報量も圧倒的に多いのです。

だからこそ、エグゼクティブリーダーは積極的に情報を仕入れ、三六〇度を見渡す努力が必要です。

自分の部署の意見を主張するだけではなく、他の部署の状況も正しく理解すること。会社全体の状況を、包括的に知ること。何よりも必要なのは、視野の広さです。それを意識するだけで、入ってくる情報の量が格段に変わります。

現在はトップにいなくても、常に社長の視点で会社を見渡すと、自分の部署の状況把握だけではなく、周りの部下たち、そして自分自身が求められている仕事と、その現状とギャップにも気づくことができるはずです。

実際には、社長に就任したからといって、すぐに三六〇度を見渡して、正しい判断を即断即決できるわけではありません。社長としての経験が、社長を育てます。

ですから、どんなに低い山(つまり小さな会社)でもいいので、若い時に社長として、もしくはリーダーとしての経験をすることがとても大切です。また、自分の得意、不得意を知ることも大切です。

自分の不得意分野を自覚することができれば、誰かに補ってもらうこともできる。

たとえば、松下電器、現在のパナソニックを立ち上げた松下幸之助さんは、人使いがとてもうまかったといわれています。

それは自分で、小学校中退ということによる限界をご存じだったからこそ、周りの人の知恵を引き出すのがうまかったのです。

このようにみんなの意見を集めるタイプの社長とは逆に、独断専行の超カリスマ型と呼ばれる社長もいます。

そのように呼ばれる社長は、能力が非常に高く自信家の人が多く、次々と判断をし、会社を成功へと導く能力があります。

ただし、超カリスマ型の社長たちの欠点は、人の意見を聞かずにすべて自分で決定してしまうことです。いろいろな矛盾したことの中から物事を決めるのが社長の仕事です。

部下から意思決定の訓練をする機会を奪っているのがカリスマ型社長です。周りにも、結果的にイエスマンしか置きません。嫌な人はクビになったり、遠ざけられるので、意見が言えない。

経営者として大切な判断したり考えたりすることは求められないので、次代を担うリーダーも育ちません。

ぜひ自分を客観視するために、周りからのフィードバックを謙虚に受け止め、自分にはどのような長所・短所があるのか、考えてみてください。

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