第 2章その瞬間をつかまえる
1観察して、その瞬間をとらえる変化の前、事が起こる前にコーチする観察する・もっと観察する日報を使って、よく観察する 2仕事の流れに沿って、場面をとらえる部下がコーチを求めるとき仕事の開始時がベストタイミング起こす変化とやってくる変化目標を設定するとき新しいポジション(配置換え・昇進など)を与えられたとき不測の事態には、すぐ!順調にいっている場合も、的確なフィードバックを完了が次の行動を生む 3ニーズに沿って、場面をとらえる頭の整理が必要なとき新しいアイデアを出すとき自分の成長を図るとき 4部下が声をかけやすい環境をつくる事前の同意をとっておく部下のほうから声をかけさせるいつでも聞く態勢でいる
第 2章 その瞬間をつかまえる
1 観察して、その瞬間をとらえる
変化の前、事が起こる前にコーチする 〈三分間コーチ〉にとって大切なことは、何を話すかよりも、どんな場面で話すか、です。
その場面、その瞬間をとらえ、会話の時間をとることです。
無理につくらなくても、すでにあります。
たとえば、いっしょに会議に向かいながら、申請書を持ってきたとき、クレーム電話を受けたあと……今、部下が何をしているかを知っていれば、自然に声をかけることができます。
大切なのは、事が起こってからコーチするのではなく、事が起こる前に、予測し、それをコーチすることです。
観察する・もっと観察する ある自動車の販社の店長は、部下に頼んだ仕事が道半ばを越えたぐらいのところで、「富士山でいくと何合目まで来た?」と聞くようにしているそうです。
この部下については、これを前半に聞くとくじけさせてしまうが、後半に聞けば、よくやっていると認めることになる。
それを知っているので、部下を観察し続け、もっともよい場面で、この質問をしているのだそうです。
このように、部下がどんな場面でコーチを必要とするのかは、部下一人ひとり違います。
その場面を知るにも、いつがその「とき」なのかを知るにも、日ごろから部下をよく観察し、何をし、何を欲しているのかを知ることが必要です。
よい上司というのは、それを知るということについて徹底しています。
ただ、部下の態度や行動だけを見ていても、なかなかその瞬間が見つからない場合があります。
そういう場合はたいてい、部下を観察している側、つまりマネジャーの側の内的な因子によることが多いようです。
ある学校で、教室にビデオカメラをセットし授業風景を録画してみたところ、教師は概して、成績のいい生徒とあまり成績のよくない生徒に頻繁に話しかける、その結果、中ぐらいの成績の生徒とコミュニケーションを交わす機会は少なくなってしまっているということが、わかったそうです。
よほど気をつけていないと、話しかける相手は偏りがちなのです。
無意識のうちに、好き嫌いや相性のよしあしで声をかける相手を選んでしまいがちです。
架空のビデオカメラをセットして、自分が、だれに、どのくらいの頻度で、どんなときに、声をかけているのか、一度、観察してみるといいかもしれません。
コーチングの場面は、部下というより、むしろ自分自身のふだんの行動やそのパターンを見直すことで見つけることができるようになります。
ある大学ラグビーの監督は、試合をビデオカメラで撮影する際、カメラを選手の数だけ用意するそうです。
通常は一台のカメラで試合を記録するのですが、彼は選手の数だけ用意するのです。
これについて、彼は次のように話しました。
「最近は選手が大型化しているので、タックルをするときには腰から下にタックルするように指導しています。
そして、一人ひとりの選手の動きをビデオカメラで撮影し、試合後、ビデオを再生しながら、何度腰から下にタックルしたかなど、事前に話し合ったことがどれだけ実行されているかをお互いに確認するのです。
それによって、選手は、わたしが何も言わなくても、自発的に練習を始めます。
自発的な練習は、言われてやる練習とは質がまるで違います。
そして、その成果は、いずれ、試合に現れるのです」 【3秒間ナレッジ】 9課題を共有し、部下を見ていれば、自然にコミュニケーションは起こる。
最初に、課題やビジョンを明確にして、それを共有していれば、いつでもそのことを話題にし、〈コーチング・カンバセーション〉を交わすことができます。
部下一人ひとりの課題を知り、その進捗状況を知っていれば、部下がコーチを求めている瞬間に気づきます。
そこでは、特に話題を考える必要もありません。
話題は、すでに、そこにあるのですから。
日報を使って、よく観察する 日報の習慣があれば、日報を毎日読み、それに感想や質問を入れることで、次の〈三分間〉では、最初からそれを話題にすることができます。
日報は、単に部下から上司への報告や、その日の記録を残すためだけではなく、自分自身を整理するために書くものでもあります。
整理できていないところが読み取れたら、それについては返信を送る、または、三分間、コーチします。
日報は定形のものを長期間使う傾向にあるようですが、ときどきフォームを変えることで、レポートの内容の変化が期待できます。
または、日報そのものをeメールの形にして、マネジャーから毎日送り、それに返信をするという方法もあります。
その場合は、あらかじめマネジャーからの質問を入れておいてもいいでしょう。
このように、日報は、部下をよく観察すると同時に、それ自体をコーチングのツールとして用いることもできます。
単に上司への報告だけを目的とするのではなく、日報を書くことで、部下が自分の仕事を振り返り、自分とコミュニケーションを交わすところに価値があります。
こうした日報の機能を十分活用するには、上司は返信を怠らないこと。
コミュニケーションを途切れないようにすることが大切です。
2 仕事の流れに沿って、場面をとらえる
部下がコーチを求めるとき 一般的には、部下は、どんな場面でどんな内容についてコーチしてほしいと望んでいるのでしょうか。
わたしたちの調査の結果、大多数の部下が、大きく分けて次の三つのフェーズにおいて、コーチを求めていることがわかりました。
・プロジェクトの開始時 ・プロジェクトの途中段階 ・プロジェクトが終了し、次のプロジェクトへ移行するとき ここでいうプロジェクトというのは、特別なものではありません。
単に、「仕事」と置き換えてもいいでしょう。
一日の業務をプロジェクトとしてとらえることもできるし、一つひとつの営業案件や会議などと考えてもいい。
また、年度始まり、四半期、半期、年度終わりも、すべてプロジェクトの過程と考えることができます。
仕事の開始時がベストタイミング では、まず、仕事の一般的な流れに沿って、〈三分間コーチ〉としてコーチすべきタイミングの例をあげてみます。
実は、業務上で生じる課題というのは、ある程度決まっています。
つまり、仕事の過程で、人が遭遇する課題というのは、だいたい予測がついているものです。
ということは、部下が課題に遭遇しコーチを求める前に、上司から声をかけることは十分に可能だということです。
具体的には、次のようなときです。
・新しいポジション(配置換え・昇進など)を与えられたとき ・新しい仕事や大きな仕事を与えられたとき ・目標設定をするとき ・営業やプレゼンテーションの前 ・重要なミーティングの前 ・事業計画を構築するとき 何であれ、新しい仕事を始める前というのは、コーチングに最適の場面となります。
未知の世界に向かって行動を起こしていくわけですから、テーマとなることはたくさんあります。
この時点でコーチを受けることができれば、仕事の進行はスムーズなものとなり、成功する可能性も高くなるため、部下の多くもそれを求めています。
こうした場面では、仕事を成功させるだけではなく、その仕事を通して、どのような能力を身につけていくか、どれだけ成長するかについても話し合っておくといいでしょう。
ほかにも、部下のほうは、次のような場面で上司のコーチングを求めています。
・仕事の内容を確認したいとき ・新しい仕事の計画を立てているとき ・進行のためのスケジュールを組むとき ・目標をどのように管理していくかを決めるとき ・チーム内の意識のレベルを確認したいとき ・うまくいかなかったときの別の選択肢やリスクを確認したいとき
起こす変化とやってくる変化 変化への対応力は、コーチングのいちばんのテーマですが、そもそもプロジェクトというのは、それが立案されるところから、実行に移され、完了し、評価されるまで、ずっと変化の連続です。
つまり、どの瞬間にもコーチングを役立てることができます。
また、「変化」には、自分から起こすものと、外側からやってくるものがあります。
自分から起こす変化の場合と、やってくる変化の場合では、上司としての関わり方に少し違いがあります。
外側からの変化とは、不測のトラブル、転勤、昇進または降格、部下の士気が著しく落ちるなど、外からなんらかの対応を迫られる、つまり、〈要望〉されることによって生じます。
仕事だけでなく、家族や友人など、プライベートな場面でも同様です。
これに対し、自分から起こす変化というのは、逆に、自分のほうから相手に何らかの〈要望〉をすることから生じます。
これは、自分からコミュニケーションを始める、と言い換えることもできます。
というのも、コミュニケーションとは基本的に、相手に〈要望〉することだからです。
個人に対するだけでなく、「場」に対する要望、提案、フィードバックなどを行う場合も、そこに何らかの「変化」が生じます。
仕事以外の領域でも同様です。
ところが、要望したことがすべて受け入れられるとは限りません。
それは、あなたが外側からやってくる要望をすんなりと受け入れるとは限らないことを思えば当然でしょう。
コミュニケーションを始めれば、多かれ少なかれ、必ず、何らかの「抵抗」を受けます。
「場」や相手との関係に「変化」が生じるのです。
でも、それは、最初から予測できるものです。
予測できるものである以上、収拾もつけられます。
向こうから突然やってくる変化は、ストレスとなりますが、自分から起こした変化は、自分に責任感や自律性をもたらす機会になります。
一方、外側からやってくる変化に対しては、それが自分にとってよいもの悪いものにかかわらず、人は受け身になりがちです。
まずは、そのあり方を修正するところから始めることになります。
〈三分間コーチ〉を通じて、部下がそれを学習することができれば、その人の変化への対応力は格段に上がります。
【3秒間ナレッジ】 10人は、「変化」に対し、受け身になると弱い。
「変化」がくる前に、「変化」をこちらからつくっていく。
目標を設定するとき さて、仕事の開始時のなかでも、目標を設定するときというのは、特に、コーチが求められているときです。
このとき外してはいけないのは、単に数値やマイルストーンを用意するだけでなく、会社の目標と部下個人の目標や仕事の目的との一致点を見つけ出すことです。
それのあるなしで、部下の目標達成に対するコミットメントがまったく違ってきてしまいます。
このためにも、ふだんから、部下個人の目標や人生の目的などについて、頻繁に話している必要があることがわかります。
つまり、目標設定のためのコーチングというのは、実際に業務の目標を立てるずっと以前から始まっているものなのです。
新しいポジション(配置換え・昇進など)を与えられたとき もうひとつ、仕事の開始時のコーチング場面について、今度は、目標設定ほど頻繁ではないものの、より慎重に扱うべき場面について、とりあげておきたいと思います。
それは、異動や昇進にともなうコーチングです。
それらは、当の本人にとっては一大事、大きな変化なので、当然、大きなストレスが生じます。
ハーバード大学が実施した調査では、マネジャーが新しい役割に適応し、十分軌道に乗るまでには、十五〜十八ヵ月程度の時間がかかることが明らかになりました。
( Industrial and Commercial Training volume 36 Number 3 2004より) では、マネジャーが、できるだけ早く役割に順応し、パフォーマンスを発揮するには、どんなサポートが可能なのでしょうか? また、新入社員が入社したときには、会社はどのような支援ができるのでしょうか? 昇進や配置転換のとき、あるいは、特別な任務あるいは重要なプロジェクトのリーダーを任せるときはどうでしょうか? もし、何の手も打たれない場合、たいていの人は、新しいポジションでの習慣に慣れたり人間関係になじむことにほとんどの注意を奪われることになります。
当然、その間、高いパフォーマンスを期待するのはむずかしいでしょう。
それどころか、チーム内の不和が続き、協力関係がいつまでも築かれない、その結果、納期が遅れるとか、商品の品質が低下するとか、本人が体調をくずすなどといったリスクの可能性も高くなります。
このため、異動先でできるだけ早く本来のパフォーマンスを上げられるよう、異動者のためのコーチングを実施している企業もあります。
そこでは、まず、異動前に、次の三つを明らかにします。
1 異動先で求められる能力・業績について明確にする。
2 現在の自分の能力の棚卸し(総点検)をする。
3 異動先で起こりうることについて想定する。
コーチングは異動後も定期的に続けられ、行く前に想定していたことと現実に起こっていることの違い、ならびに、それらへの対応の可能性の有無について話し合われます。
当然、仕事の内容だけではなく、そこでの人間関係についても扱われることになります。
このコーチングは異動の前に始まり、その場に慣れ、本来の自分のパフォーマンスが発揮されるところまで続きます。
それによって、新しい環境に慣れるまでの時間を短縮させ、リスクを減らすことに成功しているわけです。
社内にこうした制度がなくても、上司から声をかけ、異動の数週間前から、異動先で起こりうることをいっしょに考えたり、異動した先においても、上司が業務と人間関係の両面から定期的にコーチすることはできます。
ある生命保険会社のマネジャーは、自分が異動したときの経験を語ってくれました。
「異動が決まったときは、とても不安でした。
このとき、異動先の所長さんがはがきをくれたんです。
『今の職場を離れるにあたって残念な気持ちはあると思うけれど、どうか真っ白な気持ちで来てください。
こちらの様子は聞いていると思いますが、何も心配いりませんので、安心して来てください』という内容のはがきでした。
実際に異動してからも、折あるごとに声をかけてくれました。
また、人に自分を紹介してくれるときも、どうしてそこまで知っているんだろうと思うほど、的確に売り込んでくれました」 優れた上司は、その人が来る前から、その人の「居場所」をつくっているのです。
不測の事態には、すぐ! 仕事を続けていくと、当然、当初は予想していなかった事態が起こります。
そこで、仕事の途中では、そうした事態に迅速に対処し、仕事を効果的に進捗させるために、上司との会話が求められます。
たとえば、次のようなときです。
・自分のモチベーションが下がってしまっているのをどうにかしたいとき ・チームメンバーの指導について相談したいとき ・業務を効率化したいとき ・業務内容の優先順位を再考したいとき ・業務の中間でのレビュー(振り返り)をしたいとき ・自分の役割と求められていることを確認したいとき ・進行過程で生じた問題を解決したいとき ・チーム内の人間関係で気になることが生じているとき ・不測事態への対応に迷っているとき このほか、人間関係のトラブル、顧客対応の課題、業務量の増加・困難化、リーダーシップの不足、過度なストレスなど、それこそ、さまざまな不測事態がひっきりなしに起こります。
こうした不測事態は、何かしら起こるのがふつうとはいえ、一つひとつは、当人にとってまさに「不測」の事態であり、たいてい、起こってからあわてて対応することになります。
その結果、先ほども述べましたように、どうしても「受け身」になってしまいます。
そして、この「受け身」というのが問題です。
受け身になると、すでに生じたことの後追いになる、つまり後手に回るわけですから、持てる力は発揮できず、当然のことながら、パフォーマンスは落ちてしまいます。
したがって、仕事の途中で、不測事態が生じたら、「時間をおかずにすぐ!」が、コーチングのタイミングとなります。
時間をおくとそれだけ、事態に対して腰が引けていきます。
だから、速やかに部下に声をかけます。
そこで交わされる会話〈コーチング・カンバセーション〉の目標は、まさに今目の前にある問題の解決をサポートすることです。
と同時に、そこにはそれ以上の目的もあります。
それは、〈そこから学ぶ〉という習慣を身につけさせることです。
その、まさに不測の事態が起こってしまっている場から学ぶ習慣です。
ここで大切なのは、毎回、部下の問題解決を手伝うことではなく、部下の一人ひとりに「不測事態対応能力」を備えさせることを目的とした会話を交わすことです。
不測事態に対して、自分で考え、自分から行動を起こし、それを自分で評価できるように促すことです。
そのプロセスを通して、自律性のある部下を育成することができます。
では、具体的には、どうすればいいのか? それにはまず、今目の前で起こっている問題や課題をテーマとして扱いながらも、問題そのものについては言及しないことです。
先にも触れましたが、どんな問題であっても、上司は、アドバイスしたり、代わりに問題を解決したりしないほうがいいのです。
そうではなくて、部下が問題や課題をどう扱うかをコーチします。
□その問題に対して、正面から向き合っているか、それとも後ろ向きか? □今起こっている事態をどのように解釈しているか? どの角度から見ているか? そして、課題や問題を解決するために必要な知識やスキル、リソースをすべてあげてみて、その部下に必要なものを備えさせます。
何よりも、そこでコミュニケーションを交わす機会を持つことが大切です。
部下が自分のかかえる課題をアウトプットするだけで解決する問題は、少なくありません。
【3秒間ナレッジ】 11優れた上司は、部下の問題を解決するのではなく、自分で問題解決のできる部下を育てる。
順調にいっている場合も、的確なフィードバックを また、仕事が予定どおり順調に進んでいる場合でも、以後の進行を速やかにするためには、つねに、現状を客観的に把握するためのフィードバックが必要です。
・今、自分がどこにいて、どこに向かっているのか?・チームワークはどうか?・全体のモチベーションはどうか?・自分の考えていることとチーム全体の考えていることは合っているのか?・自分のとっている行動や態度はチーム全体にどのような影響を与えているのか? などについて、自分ではうまくいっているつもりだが、果たして、まわりにはどのように見えているのか? これに対するフィードバックはだれでもほしいものです。
状況はつねに変化しているものの、その変化のすべてを自分の感覚で察知することはできないからです。
先にも述べたように、だれしも、意識しているいないにかかわらず、自分以外の視点を求めているものなのです。
【3秒間ナレッジ】 12たいていの問題は、アウトプットするだけで解決する。
完了が次の行動を生む 仕事の終了時には、必ずエヴァリュエーションをして、「未完了感」を残さないようにします。
できたこと、できなかったこと、うまくいったこと、いかなかったこと、すべて、事実は事実として認める。
そして、次の仕事に生かせるものは何であるかを整理します。
要するに、未来に持っていくものと、持っていかないものを分けるわけです。
ともすると、新しくやることばかりに目が向きますが、ちゃんと終わらせれば確実にエネルギーは上がります。
わたしたちを疲れさせるのは、未完了感や気がかりを引きずることだからです。
それらを減らせば、それだけでエネルギーは上がります。
よく、 TO DOリストをつくれと言われますが、同時に、 NO T TO DOリストも必要です。
やらないことを決めることによってはじめて、やるべき必要なことを行うことができます。
ですから、エネルギーレベルを上げるためのコーチングを行って、意識的に完了させます。
そして、次に向けて〈ビジョン・メイキング〉をします。
【3秒間ナレッジ】 13 TO DOリストといっしょに、 NO T TO DOリストも必要。
したがって、ここでのコーチングのテーマは次の二つです。
□エヴァリュエーション □新しい目標の設定──次の仕事にはどんなイメージを持っている?──次の仕事のポイントは何?──何から手をつける?完了とビジョン・メイキングをセットで行うことで、コーチングの効果が上がります。
3 ニーズに沿って、場面をとらえる
頭の整理が必要なとき 仕事の流れに沿ってコーチングの場面を見てきましたが、次に、すべての場面に共通して起こりうるタイミングについて、代表的な三つをあげておきます。
まずは、頭の整理をしたいときです。
仕事のすべての過程で、わたしたちは頭の整理をしたいと思っています。
それも、頻繁に思います。
自分の考えをまとめたい、精査したい。
でも、うまくことばにできない、まとまらないと。
ご存知のように、頭は膨大な情報処理のためにフル稼働しており、たった一人で整理するのはたいへんです。
また、一人で考えていると、考えが偏りがちになって、堂々巡りから抜け出せないこともあります。
そういうときにほしいのは、アドバイスではなく、ブレーンストーミングの相手です。
脈絡なく何でも自由に話すことができ、批判や評価もなく、ただブレーンストーミングをしてくれる相手です。
〈三分間コーチ〉が、その相手となります。
つまり、上司であるあなたに求められているのは、部下とのブレーンストーミングの機会なのです。
・企画書を書く前 ・プレゼンテーションの前 ・ビジネスプランを練るとき ・新規の営業活動を始めるとき 部下がそんな状態にあるときに声をかけます。
ときには自分の席に呼んで、彼らに話す機会を与えます。
そのときは、できるだけ話しやすい環境をつくります。
ときどき質問をしたり、彼らが言ったことをリフレイン(繰り返す)したりすると、相手は話しやすくなります。
そうやって、〈聞くこと〉に徹します。
コーチング・カンバセーションを交わしたからといって、その場ですぐに「気づき」が起こるわけではありません。
けれども、会話を交わすことを通して、頭が整理されたり、新しいアイデアが出てきたりと、何か自分に変化が起こることを知れば、部下はその機会をもっと積極的に使うようになるでしょう。
【3秒間ナレッジ】 14人が求めているのは、アドバイスよりもブレーンストーミングの相手。
新しいアイデアを出すとき だれかに対して自分の考えを話す過程で、新しいアイデアが創出されるという体験をしたことはないでしょうか。
また、だれかからフィードバックを受け、そこからアイデアが生まれることもあると思います。
つまり、多くの場合、新しいアイデアは、コミュニケーションを交わすことによって、生み出されます。
コミュニケーションを交わすということは、二つの脳をクロスさせる行為だからです。
そうすることで、わたしたちはお互いの知識や経験を通して自分の考え方を精査したり、相手の視点を通して自分の考えを観察したりしているのです。
そこから新しいアイデアが生まれます。
新しいアイデアに限らず、やるべきことはわかっているのに、なかなか行動に移せないでいることもたくさんあると思います。
アイデアはあるのに、なぜ行動に移せないかというと、それは、もうひとつのアイデア、つまり〈行動に移すアイデア〉がないからです。
先にもお話ししましたように、アイデアやプランがあったからといって、わたしたちはそれを行動に移せるわけではありません。
行動に移すためには、もっとたくさんの情報が必要です。
・一人でやるのか、それとも、協力が必要なのか? ・どのぐらいの時間がかかるのか? どんなツールが必要か? ・やりとげるだけの能力を自分は持っているのか? ・予測される未来はどんなものか? ・リスクは何か? ・なぜ自分はこれをやるのか? 自分にとってのメリットは何なのか? これら、行動に移すための情報が足り、それが整理されれば、行動は起こしやすくなります。
人とコミュニケーションを交わすということは、頭の整理をすると同時に、新しいアイデアを創出するプロセス、また、そのアイデアを行動に移すアイデアを創出するプロセスです。
三分間のコーチングは、このための貴重な機会となります。
【3秒間ナレッジ】 15アイデアの実現には、アイデアを行動に移すアイデアが必要。
自分の成長を図るとき わたしたちのリサーチによれば、特にコーチを必要としないと答えている人でも、自分自身のキャリアや成長に関しては、コーチしてもらいたいと思っています。
そこで、自分自身の適性や、強みを知りたいと考えています。
この場合は、アセスメントやインベントリー(質問紙を用いた、テストや棚卸しのシステム)を勧め、その結果に基づいてコーチするとよいでしょう。
その結果から本人はどんなことを読み取ったかを聞き、自分には何が読み取れるかを伝えます。
一般に、部下は、自分の評価、昇進、昇級、異動につながらないかと用心しているのですから、そこは十分注意が必要です。
上司であるあなたの結果も開示して、それについて自分はどう思っているかについて話してもよいでしょう。
アセスメントは、うまく活用すれば、お互いに話している内容や目的の見えやすい環境をつくるのに役立てることができます。
4 部下が声をかけやすい環境をつくる
事前の同意をとっておく ここまで、〈三分間コーチ〉がいかにコーチングの〈場面〉をとらえるかについてお話ししてきました。
いずれにしろ、上司の側からだけ、必要な瞬間をとらえるには限界があります。
そこで、考えられる方法のひとつは、事前に、三分間のコーチングについて、その趣旨を話し、同意をとっておくことです。
「ときどき仕事の進捗やビジョン、その他の情報を共有するために、三分程度話し合いたいと思う。
こちらから声をかけることもあるし、きみのほうから声をかけてくれてもいい。
特別な問題解決のときだけでなく、ふだんからコミュニケーションを交わそう」と。
先にも述べたように、目標面談に関するわたしたちのリサーチによれば、部下の多くは、定期的な面談を希望しています。
上司ともっと頻繁に話す機会を求めています。
さらに、上司の考えていることを、直接聞いてみたいと思っています。
上司が思っている以上に、部下は上司からの、提案や要望、ビジョンの明確化を求めています。
仕事上の指示命令であれば、曖昧な指示や婉曲な言い方ではなく、それをきちんと伝えてほしいと思っているのです。
部下のほうから声をかけさせる コーチングの時間をつくるもうひとつの方法は、こういうときには部下のほうから声をかけてくれるよう、あらかじめ具体的に示しておくことです。
たとえば、部下が営業に出かけるとき、帰ったとき、自分に声をかけるよう言っておきます。
また、「判断に迷ったときや優先順位に迷いがあるとき、予想外のことが起こったときには、きみのほうから遠慮なく声をかけてくれ」と伝えておきます。
「何かあったら声をかけてくれ」とか「いつでも相談してくれ」というのは、親切そうに聞こえますが、あまりにも漠然としていて、部下は声をかける機会を見つけられません。
それよりも、たとえば、プレゼンの前、企画書を書く前、営業のあと、キャリアについて話したいとき、頭の整理をしたいときなど、できるだけ具体的に、どんなときに声をかけたらいいのかを、あらかじめ伝えておくことです。
【3秒間ナレッジ】 16「何かあったら声をかけてくれ」では、相手は声をかけられない。
と同時に、そう言うからには、相手が話しかけやすい状態をつねにつくっておくことも重要でしょう。
わたしの中学のときの先生は、「どんなことでも質問してくる生徒は伸びる」と言っていました。
たしかにそうだと思いました。
しかし、生徒の側からすれば、そもそも質問の仕方がわからない。
それに、その先生は、とても強面で、とても質問などできそうもないと思ったものでした。
いつも部下が話しかけやすい、声をかけやすい表情でいること。
そして、部下が声をかけてきたら、そのときには、部下の話に耳を傾けることです。
無理にアドバイスをしたり、問題解決をしようとするよりも、とにかく話を聞くこと。
それが、部下の話す内容そのものだけでなく、部下その人を理解する機会になります。
いつでも聞く態勢でいる さて、部下との打ち合わせや会議の時間に遅れる上司がいます。
理由はいろいろあるのでしょうが、部下との約束の時間を破ることは、部下に対して、「きみにはあまり価値がない」「きみのことを大切には思っていない」と言っているようなものです。
それで、部下が自発的に仕事をし、いい提案をしてくるとは思えません。
部下の態度には、上司の態度が影響しています。
それは間違いありません。
いくら正論を言ったからといって、それに部下が従うわけでもなければ、上司を尊敬するわけでもありません。
部下の動きや態度は、ことばを交わす以前に培われている〈関係〉の厚みによって変化します。
【3秒間ナレッジ】 17部下の態度は、上司の態度の反映である。
少なくともコミュニケーションを交わすときには、お互いの関係は平等です。
年齢の違い、経験の違い、知識の違い、それを超えて平等であること。
ことばを機能させるための第一の条件は、対等であることです。
相手の価値を貶めるような態度は慎まなければなりません。
もちろん、だからといって、部下におもねってはいけません。
コミュニケーションを交わすときに、平等な立場を上司がとることで、部下を認めているというメッセージ、部下に責任ある態度を求めるというメッセージ、そして、お互いに学ぶというメッセージを伝えることができます。
たとえ、指示命令、教育、トレーニングをするときであっても、同じ態度でいることが望ましいでしょう。
ある販社の営業企画課長は、新しい営業所に異動になったとき、多くの営業マンをマネジメントしていくうえで事前にいくつかのことを決めました。
そして今も実践しています。
・いつも話しやすい環境をつくる。
・夕方はパソコンを閉じる。
・どんなに忙しいときでも部下から話しかけられたら、それを聞くのを最優先にする。
・機嫌がよいときも悪いときも対応を変えない。
・みんなが困っていることに関しては、部長にかけ合うなどすぐ解決する方向に動く。
・話をするときは腕を組んだりふんぞり返ったりしない。
・話の腰を折らないで、徹底的に聞く。
・怒らない。
しかし、注意はする。
・相談がなかった案件には厳しく対処する。
・「相談した時点で責任は上司である自分に移る!」と言う。
・指示は的確に、そしてあまり多くは求めない。
・絶対にやることと、やらなくていいことを明確にする。
・資料やデータの提出日は「いつまでだったらできる?」と確認して決めさせる。
・人によって受け取り方が違うので、重要なことは一人ひとり伝え方を変える。
・すべてにおいて、なぜやるのか、どうしてやらなければならないのかを説明する。
・「全部やれっ!」と言ってもできないので、指示にメリハリをつける。
会話の起こる〈場〉は偶然にできるわけではありません。
それを目的に、計画し、実行し、継続してはじめてできるものです。
そして、〈三分間コーチ〉の目的は、部下をどうするかにあるのではなく、そこに、双方向のコミュニケーションの起こる〈場〉をつくることです。
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