第2章……「整理」のコツは、置き場所をなくすこと
【Q8】なぜ戸棚の扉をすべて外したのか?
次の写真は「ダスキン国分寺支店」の給湯室です。

戸棚の扉がありません。もう20年以上前に外しました。私が、社長になって数年後のことです。私は最初に、大号令をかけました。
「環境整備で、業界一になる!」そこで自ら現場を回り、整理整頓や掃除がきちんとできているかをチェックすることにしました。
すると社員はどうしたか。私が自分たちの職場に来ると察知するや、モノを隠しました。散らかっているモノを、戸棚のなかに押し込み、私の目に触れないようにしました。
「見える化」ならぬ、「隠す化」です。そこで私は、戸棚の扉を撤去し、捨てさせました。戸棚のなかが丸見えになり、片づいていなければ、すぐ私に叱られます。
すると社員は渋々ながら、棚を片づけ、整頓するようになりました。私は、社内の扉という扉を、どんどん撤去していきました。
個人情報保護法ができるまで、社内にあった扉といえば、トイレの扉くらいでした。
※トイレ以外の扉は全て撤去する。
【A】扉があるから、戸棚のなかが片づかない

【Q9】余計なモノを増やさないコツは?
扉を外してからしばらくして、賢い社員が気づきました。棚にモノが多いほど、整頓の手間がかかる。逆に、モノを減らせば、整頓がラクになる。
こうして、社内からモノが減っていきました。モノを減らすとは、すなわち整理です。職場にあるモノが要るかどうかを一つひとつ考えて、要らないモノを捨てていく。
このような思考と決断を経て、整理を進めていくのは、経営戦略に通じる高度な知的作業です。整理のトレーニングを嫌々ながらも、半ば強制的に積み重ねることで、社員がぐんぐん成長していきました。
賢い社員が、最初にモノを減らしたのは、私に叱られたくない、ラクをしたいという「不純な動機」からでした。
しかし、動機は何であれ、社員が整理をしたほうがずっといい。社員が「良い動機」から動くのを待っていたら、いつまでたっても会社は儲かりません。
私が経営指導する企業は、1日がかりでモノの整理をします。社員総出で、社内にあるモノを外に出し、洗いざらい並べて、要らないモノを捨てていく。トラック何十台分もの在庫を捨てた会社もあります。
しかし、そこまでムダなモノが増えてしまう前に、できることがあります。第1に、モノを置く場所を丸見えにする。戸棚の扉を外すことです。
第2に、モノを置く場所を減らす。我が社は、すべてのデスクに引き出しがありません(次ページ上)。社長の机は引き出しがありますが、記念品です(こちらを参照)。
外回りが多い営業の社員は自分のデスクと椅子すら持たず、立ち机で事務処理します(こちらを参照)。
しかも私物は、透明の書類ケース1箱分しか置けません(前ページ下)。そもそも棚があるから、何か置きたくなる。引き出しがあるから、何か入れたくなる。
こうして余計なモノが会社に増え、整理も整頓も行き届かなくなる。整頓を徹底したいなら、棚と引き出しを捨ててしまえばいいのです。
【A】モノの置き場所を減らし、丸見えにする
※棚と引き出しを捨てる
【Q10】整理より整頓が大事なのはなぜか?
整理は、モノの要否を判断して、要らないモノを捨てることです。整頓は、モノを使いやすいように置くことです。
社員教育において、どちらが重要かといえば、整理より整頓です。なぜならば、整理は整頓よりレベルが高く、難しいからです。
整頓の教育は、決まった位置に決まった方法で置かせることです。きちんとできているかが、一目で分かります。正しい答えに具体的な形があるからです。
一方、整理の教育は、モノの要否を正しく判断できるようにすることです。きちんとできているかどうかは、一目では分かりません。正しさの基準が抽象的で、具体的な形がない。
目に見えて分かる整頓であれば、部下にとって取り組みやすく、上司にとって指導しやすい。
一方、整理の教育は、部下にも上司にもハードルが高い。いきなり難しいことを生徒に求める教育は、必ず失敗します。
だから、整理より前に整頓。整頓ができてから、整理に着手するのが正しい順序です。整頓を徹底していれば、整理は後からついてきます。
※社員は整頓→整理に進める。
きちんと整頓して、モノを決まった位置に、決まった方法で置かないと叱られる。こういう経験を繰り返すと、部下はあるとき、気づきます。
モノが少ないほうが、叱られにくい。ペンを5本、向きをそろえて並べるのと。3本を並べるのでは、どちらがラクか。後者です。
1本に絞れば、もっとラクです。こうして自然に整理して、必要最小限のモノしか持たなくなっていきます。

【A】整理は、整頓より難しい。易しいことからやる
【Q11】個人ロッカーがある会社の問題点は?
社内の整理を徹底するため、私が力を入れたのは、モノの置き場所を減らすことでした。撤去したのは、戸棚の扉や机の引き出しにとどまりません。
なかでも、パートさんから猛反発を浴びたのが、個人ロッカーの全廃です。
しかし、私は不思議に感じた。
自転車で出勤するパートさんは、誰一人として大きな荷物など持たないのに、どうしてあんなに大きなロッカーが要るのか。一体、何をロッカーに入れているのか。
そう思って観察していたら、わざわざブルガリの高価なネックレスをつけて出勤する主婦パートさんがいました。
「、」同僚に、そう自慢するのが目的です。何しろ、その人の仕事は、お客様のご自宅を掃除することで、ネックレスがあっては邪魔です。
だから、制服に着替えながら見せびらかすと、ロッカーにしまい込みます。自慢された、ほかのパートさんはムカッときます。
そしてあるとき、そのネックレスがなくなったと大騒ぎになり、ただでさえ悪化していた職場の人間関係が、大混乱に陥ります。
まったく仕事に役立たない個人ロッカーに置かれた私物が、自慢と嫉妬を生み、仲たがいを生んでいる。
そのスペースに、月に数万円の家賃を支払っている。とすれば、即刻、絶対に撤去するべきです。私の指導先で、こんなことがありました。
映像制作を手掛ける会社の社長は、スタジオ不足を嘆いていました。本社は都内の一等地にあります。
私が訪問すると、個人ロッカーを備えた広い更衣室があるのが目に留まりました。
「この個人ロッカーを全部、潰したらどうですか。スタジオ1つくらいのスペースは十分つくれますよ」私が助言すると、社員の反発が怖いと言います。そこでこう言いました。
「個人ロッカーを廃止する代わり、毎月3000円の手当を全社員に支給することにしたらどうですか」その社長は素直な人で、私の提案を実行しました。
社員は大喜びで個人ロッカー廃止を受け入れ、新設したスタジオは、社員に1人3000円の手当を支払っても、十分にお釣りが出る利益を生みました。
個人ロッカーが本当に必要な会社は少ないです。
個人ロッカーの存在を許せば、社員は余計な私物をどんどん持ち込み、余計な家賃が発生するばかりか、人間関係の悪化まで招きます。百害あって一利なしです。
【A】余計な私物が、自慢と嫉妬を生む
【Q12】なぜゴミ箱にキャスターをつけるのか?
整理ができない会社では、ある悪い習慣がはびこっているものです。その悪弊とは、「直置き」です。
床に直接、モノを置くのが当たり前になると、どんなに戸棚や引き出しを減らしても、モノがなかなか減りません。
戸棚や引き出しに収納しきれないモノがあっても、床にいくらでも置けるからです。そこで私はあるとき、社内に「直置き禁止!」の大号令を発しました。その際、併せて、こんな指示を出しました。
「どうしても直置きしなければならないモノには、すべてキャスターを取りつけなさい。あるいは、キャスターをつけた台の上に置きなさい」
この指示を受けて社員は、多くのモノを捨てました。キャスター付きの台を用意してまで、オフィスに置きたいモノなど、それほどなかった。
残ったのは、一部の棚とゴミ箱だけでした。だから武蔵野では、ゴミ箱にも棚にもキャスターがついています。

ラクな選択肢と、面倒な選択肢を提示すれば、誰もがラクなほうを選ぶものです。そんな人間の習性を見抜き、活用して、社員を正しい方向に導くのが、社長の務めです。
ゴミ箱について、社員は、さらにラクな方法を発明しました。机の天板の下にフックを取りつけて、ゴミ箱を引っかけ、空中に浮かせた(次ページ上)。

直置きにならないばかりか、キャスターをつける必要もありません。
ゴミ箱にキャスターを取りつけると、掃除のときに移動させるのがラクですが、これなら、そもそもゴミ箱を移動させる必要すらありません。
最近では、パソコンの本体も、机の下にラックを手作りして置くのが、主流になっています(前ページ下)。
ゴミ箱の成功例の横展開で、省スペースに貢献しています。「直置き禁止」から始まった「キャスター使い」の技は、「空中戦」へと進化しました。改善を求める旅に終わりはありません。
【A】「直置き禁止」で、整理を徹底する
【Q13】チラシを配らずに、捨てる社員。
叱るべき?次の写真は、配布物の置き場所です。

ルートセールスの営業社員に、お客様に配るべきパンフレットやチラシなどを割り当て、積み重ねます。
このときはたまたま、全員がすべて配り終えていたので、配布物の山はありません。パンフレットやチラシも直置き禁止で、キャスター付きの台の上に積むのがルールです。
さらに、配布物の上に、担当者を特定できる写真を載せています。こうすれば、誰がサボっていて配布物が多く残っているか、あるいは、誰が一生懸命やっていて配り終えたかが、一目で分かります。
この仕組みを導入したら、それまで配布をサボっていた社員のうち、一部の人たちが、きちんと配るようになりました。しかし、あくまで一部の人です。
残りの人たちはどうしたか。配布物を、自宅に持ち帰って捨てるようになりました。こういう社員を、叱りつけるべきでしょうか。私は叱りません。
チラシを配らずに、会社に置きっぱなしにしておく社員と、チラシを配らずに、どこかに捨ててくる社員、どちらのほうが「いい社員」でしょうか。チラシを配らないという点では、どちらも同じです。
どうせ配らないのなら、会社に置きっぱなしにされるより、どこかに捨ててくれる社員のほうが、ずっといい。
会社に余計なモノが置かれている状態は、少なくとも解消されます。チラシを配る気のない社員は、どんなに社長が怒鳴りつけても、そう簡単に配るようにはなりません。
そういう社員が、不要なモノを捨てる習慣だけでも身につけたのなら、一歩前進。喜ぶべきことです。
しかも、こうして自分の手でチラシを捨てるようになると、社員のなかに、今までになかった罪悪感が生まれます。だからといって、怠けグセのついた社員が突然、チラシを全部、配るようにはなりません。
半分くらいは配って、捨てる量を半分にするといったところです。それでも大きな進歩です。
社員の今のレベルを無視して、一気に高いレベルを求めるのは禁物です。易しいことから一歩ずつ。社員教育で忘れてはならない鉄則です。
【A】叱ってもムダ。配らないなら、まず捨てさせる
【Q14】余計なモノを劇的に減らす方法は?
身の周りに今、不要なモノがあふれかえっている。そんな現状を、今すぐ劇的に変えたい。そういう人が、やるべきことは一つです。
引っ越しです。会社なら、人事異動や席替えでもいいでしょう。あなたの自宅を思い起こしてください。何か、捨てられるものはないでしょうか。
「アレも要らない、これも捨てられる」と、次々に思いつく人は、ほとんどいません。
人間は無意識のうちに、今、自分の家にあるものはすべて必要なものだと、思い込んでいます。けれど、これから引っ越すとなったら、どうでしょう。
ハンガー1本だって、段ボール箱に詰め込みながら手に取って、「これは本当に要るだろうか」と、いったん考えるでしょう。
その結果、多くのモノを捨てられます。引っ越しは、今、自宅にあるモノの要否を再評価する、絶好の機会です。
だから私は、頻繁に人事異動します。人事異動は引っ越しが伴うからです。部署が丸ごと別の建物に引っ越したり、席替えもしょっちゅうです。
特に、業績がいいときほど、社員は「勝って兜の緒が締まらない」から、大胆に異動させます。慢心に陥った社員を混乱に陥れ、現状に甘んじられないようにします。モノの整理を通じて、心も整理させる。
【A】大胆な引っ越しでモノの要否をゼロから見直す

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