第2章「グローイング・サイクル」で人が育つ

利益を生み出す土台になるのは人財育成
企業が人を育成しなければならない理由
前章では、人財育成が企業にとって重要である理由、その背景、また「教育」「評価」「労働環境」の3つを整備することによって「人が辞めない理由」を作ることが育成の大前提である、ということを解説しました。
続いて、より具体的な育成の手法について話を進めていきます。人財育成について企業の方から相談を受けたとき、まずお話しするのが「グローイング・ピラミッド」についてです。
なぜ企業が、少なからぬ手間とコストをかけて人を育成しなければならないのか。その理由について、しっかりと腹落ちしていないと、育成を徹底できない恐れがあるからです。
とはいえ、理解していただきたいのは決して難解なことではなく、ごく当たり前の理屈です。図21をご覧ください。企業として一番大事なのは利益を出していくことであり、利益を上げるためには売上を伸ばす必要があります。
また、売上を伸ばすためには、お客様の満足度を上げていくことが必要でしょう。そして、お客様の満足度を上げるのは、商品のみならず、その商品を販売する人にも左右されます。つまり、人を育てることが必要であり重要である、ということです。
このピラミッドの中で、人財育成は、一番大事な土台の部分。当然ながら面積も最も広い。ですから、ここに時間とコストをかける必要があるのです。このことは、私たちのメイン顧客であるサービス産業の方でしたら、素直に納得していただけると思いますが、実はあらゆる業種に共通する普遍的な真実でしょう。
BtoCの会社であればお客様は一般消費者ですが、BtoBであれば法人顧客。商品やサービスを提供する対象は違っていても、その接点が社員やアルバイトという「人」である限り、やはり人財育成は欠かすことができません。

ポジションに応じた人財育成
どんな企業でも、人財育成の対象は多様です。新入社員からリーダー層、管理職層など、あらゆる階層について、そのポジションに応じた育成が必要になります。
現場レベルでの育成の目的をハッキリ理解してもらうために、サービス業のクライアントに、店長を対象にした「ピラミッド」を作ってもらうことがありますが、やはり店長の役割として売上・利益のために顧客満足度を向上させる必要があり、そのために人財育成が欠かせない。
同じことを店長にも理解してもらうのです。つまり、店にとって働く人を育てることは、店長にとって利益を上げるために必要な「タスク」である、ということを。そうは言っても、教える人もいないし、業務が多忙をきわめる中で、なかなか時間も取れない。だから、話としてはわかるけれど、育成などは手に余る……。そんな本音を漏らす方もいます。
しかし、グローイング・ピラミッドのロジックで言えば、人を育成することを諦めてしまうとすれば、利益を上げることを放棄することになります。それは、企業としては採れない選択肢のはず。では、どう考えるか。状況的には難しいかもしれないけれど、できることは何か、どうすればできるか、と考える必要があります。例えば自分自身ではできないのなら、他の人が育成を担当すればいい、というように。
全員がトレーナーになれる
可能性がある自分自身が店長時代に行っていたことの例をお話しすることもあるのですが、極端に言えば、昨日入ってきたアルバイトでも、指導役=トレーナーになれます。初日にマックフライポテトの作り方をマニュアル通りに覚えてできるようになったとすれば、その人は次の日に新人が入ってきたら教えることができるのです。
作業のスピードは遅いかもしれませんが、基本は教えることができます。つまり、全員がトレーナーになることができるので、人財育成の効率は圧倒的に高くなるのです。
「育成」という言葉を聞いて、特別な人が優れた教え方をするのが育成ではないのか、と構えてしまう方もいるかもしれませんが、その必要はありません。
そうではなく、やり方はいろいろと工夫できるのです。いずれにしても、人財育成なくして顧客満足度は向上しないし、そうであれば売上も利益も伸びていかない。
そんな風に、このピラミッドの重要性を説明した上で、育成は「仕組み」にできますよ、と言ってご紹介するのが、次の「グローイング・サイクル」です。
グローイング・サイクルの4つのステップ
グローイング・サイクルとは何か
「グローイング・サイクル」は、人を成長させるための4つのステップです。「人を大切にする企業文化」という前提のもとで、「1基準を示す」「2教える」「3要求する」「4評価する」という4つをくるくる回すことで人は成長していくという考え方であり、育成の手法です。

個々のステップを実践しているつもりでも、「人が育たない」「辞めてしまう」と嘆く企業は、このサイクルがどこかで途切れてしまっているのです。基準を示していないから、せっかく教えても本人の必要性を満たさない。あるいは、教えてはいるが、評価をしないから学んだことが身につかない、というように。
4つのステップについて詳しく説明する前に、グローイング・サイクルができた背景について、お話しします。ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立し、多くのサービス業の方を対象に研修を行いながら、私はどうすればその会社で働く人たち全員を育てることができるか、方法論を体系化したいと考えていました。
そこで、あらためて自分の経験を振り返り、ハンバーガー大学やユニクロ大学が教育と評価について何をやっているのかを洗い出してみました。マニュアルを作る、研修プログラムを作る、教育ツールを作るなど、育成のための手法やプログラムを洗い出してみると、かなりの量になりました。私自身がやってきたことも合わせて書き出して、それらを眺めていると、4つのカテゴリーに分かれることがわかりました。
その4つを簡単な言葉にして「1基準を示す」「2教える」「3要求する」「4評価する」とまとめたのです。この4つは、それぞれ関わり合っています。1→2→3→4で終わるのではなく、4→1へと戻り、連鎖して回っていくのです。
つまり、サイクルになるということです。グローイング・サイクルは、私が作り出したオリジナルの概念ですが、そのベースにあるのは私自身の育成経験と、ハンバーガー大学、ユニクロ大学の育成メソッドということになります。
それから6年ほど、この考えに基づくと人財育成の仕組みができるということを、さまざまな機会に、多くの人にお伝えしています。以下に、一つずつ見ていくことにしましょう。
1基準を示す
育成の出発点が、この基準を示すということです。これは「会社から見てその人に何をやってもらいたいかを明確にする」ということを意味しています。部署や役割、キャリアによって、会社が働く人に求めるものは違います。
それを対象ごとにはっきりと決めることが大事です。経営理念とか経営指針、コンプライアンス、就業規則のように、社員が誰でも理解して身につけなければならない知識やスキルもあります。一方で、マニュアルとか役職定義は業務内容によって変わってきます。基準は、「ゴール」と言い換えてもいいでしょう。
マクドナルドでは、アルバイトについて30時間で一通りの業務を習得させていたことは前章で述べました。30時間が一つのゴールを担っていたのです。このゴールがないとどうなるかというと、教える人によって内容が違う、ということになりかねません。
「うちの教育は属人的なんだよなー」という経営者の声をしばしば聞きますが、ゴールが明確でないために、現場のマネージャーの考えに任せることになる、ということです。これでは、企業として足並みの揃ったサービス提供はできません。
ゴール=基準が明確であれば、例えば3000店舗のマクドナルドでも、すべてのマネージャーが同じものを目指すことができるのです。
基準を明確にするには、それぞれの業務について、やっている内容、どうなってほしいかを書き出していきます。例えば店長であれば、「売上を上げてほしい」「営業利益を上げてほしい」、そのために「人件費を筆頭にコストを抑えてもらいたい」「店舗のQSCを上げてもらいたい」などといった項目が出てくるでしょう。
その中でもQSCのように、それを向上させて成果を出すためには、チームで取り組まなければならない業務については、「チームワークを良くしてほしい」、そのためには「リーダーシップを発揮してもらいたい」「信頼関係を築いてもらいたい」「徹底力を持ってもらいたい」などということも挙げられるでしょう。
その一つ一つについて、誰がどのように教えるかを考えることが、次の「2教える」の準備作業になります。あるいは、最も優秀な店長の行動から、「こうなってほしい」という項目をピックアップしてそれを基準とする方法もあります。
そのように項目出しをしていくと、将来のことを考えて、今はやっていないけれど、この役職の人には将来こういうことをやってもらいたいという項目も出てくるかもしれません。
ここでも店長を例に挙げれば、今は数字を追いかけることに懸命で、人財育成に全然目を向けていない、その余裕が持てない、とします。
それでも、人財育成をやってほしいと強く願うのであれば、基準に入れてしまいます。店長という役職は人財育成が役割の一つである、と役職定義をするのです。
そして、それを必ず評価に連動させる必要があります。「4評価する」のところであらためて述べますが、評価の対象になれば、店長たちは意識せざるを得なくなります。
人財育成に消極的な店長が多いのだとすれば、その理由は、評価に関係ないから目が向かないのです。基準作りで難しいのは、一通り業務を覚えた人たちに何を目指させるか、ということです。
正社員にしろアルバイトにしろ、多くの場合、新人については業務マニュアルがあり、それに基づいて一つ一つの業務を習得させているでしょう。そこでは、あらかじめ基準は明確なのです。また、店長についても、それぞれ難易度は上がりますが、やってほしいことは比較的、明確であるはずです。
しかし、その間にいる層、中堅層の基準が明確な企業は、ほとんどないはずです。ここでも、見習い期間が終わった後にやるべきことを洗い出すことが必要です。
例えば、新しいポジションを経験する、新人の育成を担当する、などが挙げられます。注意しなければいけないのは、アルバイトに社員と同等な業務をさせると、同一労働・同一賃金の問題が発生することです。
まったく同等の仕事をさせるのであれば、賃金も同等にする必要があります。この場合、役職定義で社員とアルバイトの違いをはっきりさせる必要があるでしょう。その意味でも、基準を示すことは重要であると言えます。

2教える
基準を示したら、それを教える必要があります。誰が、いつ、どのような形で教えるか。それには多くの選択肢があります。
現場で教えるOJTなのか、集合研修なのか。集合研修の場合であれば、外部の講師が教えるのか、あるいは社員が現場での経験をもとに教えるのか。
多くの選択肢の中から、最も効果のある教え方を、コンテンツによって変えていく必要があります。ハンバーガー大学の学長として私が主にやっていたのは、教えなければならないことがあったときに、それをどのような手段で教えるかを考えることでした。
「それは集合研修じゃなければ難しいね」とか「それは現場でやった方が効率的だろう」などという会話を、当時はよくしていました。例えばユニクロの場合は、洋服のたたみ方がそれぞれの種類でぜんぶ違うので、すべて覚える必要があります。ただ、これは店でOJTによっていくらでも練習できますから、何も集合研修にする必要はありません。マクドナルドであれば「マックフライポテトを作ること」も同じです。
ところが一方で、集合研修でなければなかなか身につかない、あるいは集合研修だからこそ効果の高いものがあります。例えば、コーチングなどのヒューマン・スキルはその一つです。
店長たちが店舗スタッフと信頼関係を作るのに課題があるのでコーチングのスキルを教えたいと言っても、OJTではできません。スーパーバイザーも教えられないでしょう。このようなスキルについては、集合研修で教える必要があります。
この集合研修はコストもかかりますし、受講者の負担感も少なくありませんが、それ相応の効果があります。まず現場から離れ、落ち着いた環境に身を置くことで学びやすくなります。また、専門知識のある人が講師を務めることの利点もあります。
そして、ディスカッションやロールプレイやゲームなど、学習効果を高める要素を入れることができます。講義形式で一方的に話を聞くだけではなかなか身につかないことが、ディスカッションやロールプレイや質問を投げかけるファシリテーションを入れることで、抜群に学習効果が高まるのです。
ロールプレイができない人は、本番でも絶対にできません。具体例を挙げれば、面談や傾聴などのスキルには効果抜群です。グローイング・アカデミーの人気のあるプログラムで言いますと、「クレーム対応」などは集合研修に適しています。
これをOJTで教えるのは至難の業でしょう。クレームが起きたとき、その後で振り返りを行うぐらいしかできず、さまざまなケースでの応用ができません。集合研修ならさまざまなケースを想定したロールプレイを入れるなどして、問題を受講者間で共有しながら、「こういう場面ではどうすればいいだろう?」と応用が考えられるのです。
OJTについては別のところでも説明しますが、現場で学べる利点は大きいものの、教えて終わり、となりがちなところがあります。現場で実施するものだからこそ、OJTリーダーである上司・先輩にすべてが委ねられてしまい、放置されてしまいがちなのです。
これについては、OJTをサポートする仕組みがあると、学習効果が格段に高まります。マクドナルドとユニクロの強さは、OJTのサポートを真剣に考え、実施することにあります。
例えば、教育動画を作って、いつでも復習や確認ができるようにするなど、学習をサポートするためのツールや仕組みが非常に充実しています。私が在任当時のハンバーガー大学には、一年中DVDや育成マニュアルを作っているスタッフがいました。
なかなかそこまではできないかもしれませんが、どうすれば現場がちゃんとOJTの効果を上げられるかを、真剣に考える必要があります。
ところで、「教える対象は誰か」という観点で、第1章では、人を選べない時代だからこそ、限られたメンバー全体の底上げを図ること、つまり「義務教育」が大事だ、と述べました。これについて、補足をしておきます。
全員の底上げを図る義務教育の反対語は、「選抜型教育」です。特定の人財を対象に、さらに能力アップを図る教育を指しますが、これを否定するつもりはありませんし、効果もあると考えています。
ただ、問題なのは、「選抜型教育を実施しているから、わが社には教育の仕組みがある」と考えている経営者がいることで、それは今の時代には適していないと思うのです。
これも繰り返しになりますが、優秀な社員を残し、会社の基準に満たない者はケアしない、という人事施策は、人を選べない今の時代には採り得ない施策です。
「1基準を示す」「2教える」については、ぜひ「全員を伸ばす」という観点から設計することをお勧めします。次の「3要求する」と「4評価する」は、「全員を伸ばす」ことを企図する際に、
「2教える」以上に重要なカギを握っています。

3要求する
教えたことは、現場の仕事で実践しなければ意味がありません。そのために欠かせないのが「3要求する」ことです。つまり、現場において上司や先輩が、教えたことを実行に移すことを要求し、やらない/できないことを見過ごさない、ということです。
言い換えれば、「後追い」をしっかり実行することです。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「要求しない限り、部下は応えてくれない」と言われましたが、まさにその通りだと思います。
ですが、これができていない企業が、とても多いのです。集合研修でもOJTでも、やりっぱなしで終わってしまうことは少なくありません。「いや、教えたんだけど、できないんだよ」と言う現場の方、人事の方がいますが、それは典型的な反応で、要求しないので「教えただけ」になってしまっているのです。
「コーチングの研修を店長全員にやったんだけど、全然変わんないよな」などという不満の声もしばしば聞かれます。挙げ句の果てが「あの研修、無駄だったよね」などと身も蓋もない結論になってしまう。こうなると、教える意欲は一気に冷めてしまいます。
基準を示した上で、つまり必要性を検討した上で教えたことなのであれば、それが無駄に終わることはないはずです。ではなぜ、そのような声が上がってしまうのか。それは、教えた後、それを実行することを「要求しない」からです。
加えて言えば、次の「4評価する」ことがないからです。教えたことを、現場の仕事の場面で実行することを要求し、結果について評価する。このプロセスがあれば、誰でもやるようになるのです。
初めはうまくできなくても、評価という動機付けがあるなら、人は向上しようと努力するものです。面倒臭いことは人はやりたくありませんから、放っておいたら誰もやりません。
オペレーショナルな事柄を現場で指導すること、例えば調理技術をキッチンで教える、などというOJTの場合は、要求することは比較的、難しくありません。
正解がはっきりしているから判断しやすい、ということもあります。難しいのは、コーチングやリーダーシップなどヒューマン・スキルに当たるもので、これはなかなか後追いしきれません。
接客や、アルバイトなどの部下指導の場面を、いちいち観察するわけにはいかないでしょう。また、正解があるわけではない、という難しさもあります。
これができているのが、やはり日本マクドナルドです。例えば集合研修のケースでは、講座の後に必ず課題が出ます。具体的には、半年の間に現場の業務において研修で学んだことを実践できているか、というような課題です。そして課題をやった後は、必ず上司がチェックします。
すなわち、後追いです。課題の具体例を挙げると、「2人のトレーナーを養成してください」「半年にわたって安定したシフトを作ってください」「3カ月、適切な発注をしてください」など、業務そのものです。
研修でそれらを学んだ後、個々のスキルが現場で活かされているかどうかを上司が判断するわけです。それでOKが出たら初めて講座が終了することになります。要求の仕方について、この「課題」「上司のチェック」という方法は、間違いなく育成にとって有効です。つ
まり、要求することを仕組み化するわけです。新入社員研修でも、例えば挨拶の仕方を教わっても、配属されるとやらなくなる、などということはないでしょうか。教えられたことを実践できないのは、職場の先輩たちが要求しないからです。
挨拶ぐらい怠ったとしても、誰も何も言わないのではないでしょうか。そこは、必ず要求する、ということが大事です。
また、そのように後追いするためには、上司が、部下が受ける研修の中身を知っていなければなりません。店長がコーチングの研修を受けてきたとしたら、その上司がコーチング研修の中身を知らないと後追いのしようがありません。
これもまた、ハードルが高いでしょう。でも、本当に研修効果を出そうと思ったら、そこをやらないといけません。なお、誤解を避けるために付言しますが、「要求する」というのは、必ずしも「厳しく命じること」ではありません。
状況によっては、そういうこともないとは言えませんが、いわゆる「上から目線」ではなく、日常の場面で、普通の会話の中で表現することが大事です。
そのために、日頃から雑談を増やすなど、話をしやすい雰囲気作りを心がけてほしいものです。最終的にはコミュニケーションの量と質によって、要求が相手にとって受け入れやすいものになるでしょう。

4評価する
評価は、きわめて大事です。評価がなければ、せっかく教育したことが、身につかずに終わってしまう可能性が高いでしょう。教育によって、また現場での業務経験もふまえて、あるスキルを身につけ、それを実践するに当たって、それに対する見返りがないと、その実践は持続しません。
例えば、コーチング・スキルが身についたとしたら、部下のマネジメントに何らかのプラスの影響があるはずです。そこを評価するのです。できたことをやっているかどうか、評価をしていくことによって「1基準を示す」と「4評価する」がつながっていきます。人財育成には、大きく2つのやり方があります。
一つは「良いところを伸ばす」、もう一つは「ダメなところを直す」。これしか人を育てる方法はありません。その評価というのは、その個人個人の良いところ悪いところに直接アプローチするものです。
極端に言えば、教育をしていなくても、評価だけしていれば、育成という目標は半分は達成するのだと思います。もちろん教育は大事ですが、教育したことを実践してもらうには、評価が絶対に不可欠です。良いところと悪いところをはっきりさせる。それは、その人を育てるための愛だと思います。
このように、とても重要な評価ですが、仕組みによってではなく、経営者が「勘」でやっているようなケースもあるはずです。また、評価制度はあるが、うまくいっていない、という企業も多いと思います。
目標設定をして、半期ごとに振り返るというような業績評価制度を実施している場合でも、その業績評価制度があるがゆえに、会社として業績が向上したり、企業体質が強化されたり、ということはあったでしょうか。
もちろん、業績評価制度が十分に機能している、という企業の方には、何も言うことはありません。しかし、それが機能していない、もしくは機能不全でモヤモヤしている、という企業の方には、以下を読んでいただきたいと思います。
マクドナルドとユニクロが優れているのは、特に「要求する」ことを徹底しているからです。決して、教えて終わり、あとは自分でやって、と放置していません。要求水準が明確であり、それをルールとして共通化しているために、どの店に行っても同じオペレーションができます。
要するに「徹底力」がすごいのです。そのような背景があるからこそ、人が成長するのです。もし、あなたが人事担当者で、「研修をやっているのに育たないんだよな」と感じているとすれば、それは会社の問題です。
育たないことを当人たちの問題として片づけがちですが、違います。多くの場合は、「やりっぱなし」だからです。そこで問われるのは、上司の育成力でしょう。教えたことを、現場で実践させるかどうか。それが育成力の違いを生みます。
問われているのは、その上司がきちんと要求し、正当な評価をしているかどうかです。必要なことは、学んだことを現場で実践しているかどうか、「後追い」することです。
後追いするためには、上司が、部下が受ける研修の中身を知っていなければならない、と前述しました。そこで、日本マクドナルドでは、新しい研修などについては、それを受講していない階層の社員に教えていました。
また、2時間程度のショートバージョンの研修を実施することもありました。全国を回ってそれを店長に対して実施するのですから、ものすごい作業量です。ここまで徹底することは、簡単にはできません。
新商品が投入されたときも、まずスーパーバイザーを集めて教え、次に店長を集めて教えます。そして、店長が店のスタッフに教えます。それが徹底力のベースなのです。
そこで、日本マクドナルドでは、店長の下に副店長が2〜3人。その下にアルバイトが50人ぐらい、というのが標準型。加えて、さらに10人以上の育成の責任を持つアルバイトリーダーがいます。
つまり、いろいろな人が教えるという文化をうまく作っているわけです。ユニクロも、それに似ています。教え方という意味では厳しめの教え方ですが、それが逆に徹底力につながっている。成長の原動力は徹底力だと思います。
マクドナルドの場合は、教え方は比較的ソフト。相手に気を遣いながら教えます。人種の多様性を受け入れるという現実が、アメリカのマクドナルドにはありました。
アルバイトの人を尊重し、名前で呼ぶ、あるいは命令するのではなく依頼するというのがポリシーでした。

育成は「教育」と「評価」の両方が必要
評価は人財育成にダイレクトにつながる
以上、グローイング・サイクルについて説明しましたが、育成の50%は「教育」で、50%が「評価」というのが私の考えです。評価という見返りがなければ、人は仕事をしません。しません、が言い過ぎであるなら、する気になりません、と言い換えましょう。

中には、「たとえ評価されなくても、この仕事が好きだから続けます」という人もいるかもしれません。しかし、それは少数派ではないでしょうか。少なくとも、そのような控えめな姿勢に、便乗するようではいけません。
人は、いい評価をされたら、もっと頑張ろうと思うでしょうし、評価が悪ければ、次は挽回しよう、と考えるものです。そのような意味で、評価とは、人財育成にダイレクトにつながるのです。
これほどまでに評価が大事なのは、低成長の経済とも関係があります。日本が経済成長をしていたときには、評価がなくても給料が上がっていくので、社員も意識をしなかったかもしれません。
しかし、バブル崩壊後、給料をどんどん上げていけなくなった現在、頑張って成果を上げた人と、そうではない人との間に給料の差が出てくる。その差の理由が、明確に本人たちに伝わらないと不満が出ます。
成果は大事ですが、普段の仕事ぶりを見ていくことも大事です。行動評価、人間性の部分を磨くような評価制度でないと、低成長の時代には支持されないのではないでしょうか。これに対して、「数字さえ上げていればいいじゃないか」という意見が出てくるかもしれません。
しかし、売上は外的要因も受けますし、運不運が反映する場合がありますから、納得性が低い場合もあります。
もちろん業績は大事ですが、現場は、チームの中での信頼関係も大事です。長い目で見たら、そちらの方が重要だということもあり得ます。
ただし、こうしたことは数値化できない難しさがあります。また、人間のやることですから、甘い辛いや、好き嫌いも入ってくる。それを前提として、会社は評価を考える必要があります。
そんなに面倒なことはできない、やらない、という会社もあるかもしれませんが、それをやらないと、その人の成長にも会社の成長にもつながりません。
この評価の基準自体はアバウトな方がいいでしょう。あまり精緻な評価基準を作っても、評価者の負荷を上げるだけです。
それより、基準はアバウトにして、一人のマネージャーに委ねることなく、「評価会議」によって評価を共有することがお勧めです。

人財育成につながる評価項目を作る
会社が、働く人の評価に、どう取り組むか。そこでは、経営者の姿勢が問われます。どういう目的で評価をするか。それは人財育成のためである、と目標を絞って評価することが必要でしょう。
私は、「評価を上げるために頑張る」ということを否定してはいけない、と考えています。評価されないことは全然やらないんだよね、と愚痴を言うのは間違いです。むしろ、評価されないことはしないのが当たり前だと思うのです。
その業務を、本当にちゃんとやってほしいなら、評価項目に入れるべきでしょう。例えば、「お店をきれいにすれば評価が上がるんだな」とわかれば、頑張って店をきれいにするでしょう。
そのように、会社がやってもらいたいことを意識して評価項目を作ることが大事です。命令だけでは人は動きません。見返りがなければやらないのです。
マクドナルドとユニクロは、全員がとても評価を意識しています。評価を上げるために頑張る、という正しい姿で仕事に取り組んでいるのです。
そこには、人の善意に期待してはいけない、という思想があるのだと思います。もちろん、人には教えられなくてもできることは、たくさんあるでしょう。
ただ、どこまでできるかは人によって違います。ときに中堅やベテラン社員は、「そんなこと教えなくてもできるよな」という思いを若手に対して抱きがちです。
でも、できないということは、それを教えられていないから、というケースは少なくありません。特に最近は、親や先生が教えるべきことが多くなっており、すべてに手が回りません。
「最近の新人は、固定電話を取れないんだよな」などと年長者は言いますが、若い人はみんな携帯電話やスマホで育ってきたのですから、無理もありません。あらためて教えてあげればいいだけのことです。
評価項目については、会社によって、組織によって重視するべきポイントに違いがあるはずです。業種による特性もあるでしょうし、企業文化によってもウエイトが変わってきます。
ただ、大原則として、①社員の成長に資すること、②社員にやりがいを持たせること、③長く働きたいと思ってもらうこと、この3点をふまえて設定することが重要です。
COLUMN2OJTの持つ大きな欠点
育成の手法として、OJTがきわめて有効であることは、いまさら言うまでもないでしょう。
業務を通して、現場でマネージャーや先輩社員が部下に教えることは即効性があり、そのときそのときのケースに応じた指導をしますから、非常に効果が高いものです。
しかし一方で、OJTは「現場にお任せのジョブ・トレーニング」になりがちなことには注意が必要です。
本社サイドは、ともすると「あの店長に任せておけば大丈夫だろう」と考えがちなところもあります。
そのことと並んで、OJTが持つもう一つの欠点は、教える人によって育成効果が大きく左右されてしまうことにあります。
同じような経験を持ち、技術的なスキルを持ったマネージャーや先輩社員でも、それを教える技術には開きがあります。
また、性格によるブレもあり、面倒がらずに常にフィードバックを与える人と、そうでもない人がいます。
となると、いい先輩に当たった若手は成長が早く、そうではない若手はなかなか育たない、ということが起こり得るのです。
しかも、現在はほとんどの企業で人財には量的な余裕がありませんし、プレイングマネージャーも増えています。
そうしたことから、「OJTがうまく機能していない」という課題を抱える企業が非常に多いのです。
これに対しては本文でも述べたように、誰でも同じレベルでの教育ができるような仕組み化が必要になります。
さらに、その仕組み化の中でも、上司層に対する教育がとても重要になってきます。教育によって、OJTによる指導のレベルを高い位置で揃えるのです。
マクドナルドやユニクロは、人財育成において、上司教育に非常に力を入れていました。アルバイトリーダーはアルバイトスタッフの上司であり、店長は店で働くすべてのスタッフの上司です。
エリアマネージャーは店長たちの上司に当たり、営業部長はエリアマネージャーの上司ということになります。それぞれ部下を育成して、次のステージに導いていくのが役割です。
それが各階層できちんと実行できていれば、例えばQSCは全社全店で高いレベルに維持できますし、顧客満足度も上がるでしょう。
その際、グローイング・サイクルの「1基準を示す」ことが、やはりOJTをより有効なものにします。
それは教える人による違いを小さくする、ということにもなりますし、指導をしやすくするという効用もあります。
例えば、アルバイトの定着状況を離職率という基準で示し、その目標値を共有することで、具体的な部下とのコミュニケーション改善につなげることができるでしょう。サービスの遅い早いも数値化できます。
お客様を席にご案内した後、何分後に水を持っていくか、料理を何分以内に提供するかなど、数値によってルール化すれば、それに対する指導とトレーニングがしやすくなります。
このような仕組み作りさえできれば、OJTは実に効果的な育成手法となるのです。
仕組み化されたOJTを実践し、さらにOJTでは習得が難しいスキルについては集合研修を実施する。この両者を組み合わせることで、育成は最強に近づくはずです。
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