2-1 コーヒー店の損益分岐点分析損益分岐点を事例で理解しよう
損益分岐点の出し方について、具体例をあげながら説明しましょう。
■ 1か月に何杯コーヒーを売れば、利益が出るか
あなたは、オフィス街で、コーヒー専門店「カフェクローバー」を経営しています。低価格で美味しいコーヒーを、気軽に飲んでほしいと、 1年前に開いた小さな店です。アルバイトを使いながら営業を続けています。
1か月間の利益計画は、次のようになっています。
【Question】利益がゼロになるときの販売数量と売上高はいくらですか(ただし、解答するときは、公式などを使わないこと)。
これは、損益分岐点( Break-even point)の売上高と販売数量を求める問題です。
損益分岐点は、利益がゼロになる売上高、儲けも損も出ない売上高です。
あなたが店のオーナーなら、損益分岐点以上の売上を上げないと利益が出ないことになりますので、いくら売らなければいけないかを知るために必要な数字です。
カフェクローバーの例で、必要な情報を整理しながら、損益分岐点の基本を理解していきましょう。
それぞれの質問についてよく考え、答えながら、進んでください。
① 1杯販売すると、いくら儲かるでしょうか?
まずは、コーヒーを 1杯売ると、どれだけの利益があるのかを考えてみましょう。
第 1章の管理会計の考え方で計算すると、販売価格から材料費を引けばよいのですから、販売価格 300円-材料費 45円 = 255円になります。
管理会計では、この 255円が、「いくら売ればよいか」を考える上で重要な情報になります。
この 255円のことを限界利益と呼びます。
この例では、コーヒーを 1杯販売すると 255円の限界利益が生まれます。
限界利益( Marginal profit)という言葉は、 1個販売すると増加する利益という意味です。
限界利益は粗利益とイコールで、財務会計で使われる売上総利益とは、内容が異なるので注意してください。
材料費 45円は変動費( Variable cost)と呼ばれます。1杯販売するごとに必要になる費用なので変動費と呼ばれます。
計算式では、販売価格-変動費 =限界利益という関係にあります。
販売価格 300円に対する限界利益 255円の割合は 85%です。
この割合を限界利益率と呼びます。
カフェクローバーでは、売上高の 85%の粗利益(限界利益)が生まれる商品を販売していることを意味します。
1杯当たりの限界利益が大きいほど、利益に貢献することになります。
②もう1つの情報が必要です。
それは何でしょう? 損益分岐点を計算するには、もう1つ考えるポイントがあります。
まだ、店の家賃などを考慮していませんでしたね。
店の家賃( 30万円/月)とその他の費用( 19. 9万円/月)と人件費( 47万円/月)の合計は、 96. 9万円/月です。
これらの費用は、売上高とは比例しないで、毎月一定額が発生する費用です。
これが固定費( Fixed cost)です。
以上で、計算に必要な要素は整いました。
③損益分岐点の販売数量と売上高を求めましょう 固定費 96. 9万円と同額の限界利益を稼ぐには、何杯販売する必要があるかを考えましょう。
1杯販売すると限界利益 255円です。
では、このコーヒーを何倍売れば 96. 9万円になるかというと、 96. 9万円になるには、 96. 9万円 ÷ 255円で、 3, 800杯とわかります。
つまり損益分岐点の販売数量は 3, 800杯。
損益分岐点の売上高は 3, 800杯 × 300円 = 114万円です。
■損益分岐点では、固定費 =限界利益となっている
ポイントは、利益がゼロになる損益分岐点の売上高では、固定費 =限界利益となっている点です。
これを説明しましょう。
●損益分岐点の売上高から生まれる限界利益
損益分岐点の売上高から生まれる限界利益は、損益分岐点の売上高 114万円 ×限界利益率 85% = 96. 9万円です。
- 9万円は固定費と一致するので、損益分岐点の売上高 114万円 ×限界利益率 85% =固定費 96. 9万円ということになります。 ここから損益分岐点の売上高を求める公式は下記のようになります。
公式から覚えると意味がわからなくなりがちですが、計算の意味と流れがつかめると、すんなり理解できるはずです。
2-2 経営安全率と損益分岐点比率利益を生み出す売上高とは何か?
さて、損益分岐点がわかり、ここまで売れれば損益トントンになることがわかりました。
でも、それでは利益が出せません。
利益を出すためには、損益分岐点を超える売上高、すなわち経営安全額に達する売上を上げる必要があります。
計算例を追いながら解説しましょう。
■赤字転落までの幅を示す経営安全率
カフェクローバーでは、 1か月の売上高は 120万円、損益分岐点の売上高は 114万円で、その差額は 6万円です。
この差額が経営安全額(安全余裕額とも呼ばれる)です。
売上高 120万円のうち、経営安全額 6万円の割合を経営安全率と呼びます。
カフェクローバーの経営安全率は 5%です。
【Question】では、経営安全率 5%とは、どんなことを意味しているか、少し考えて説明してみてください。
経営安全率 5%は、現在の売上高が 5%ダウンすると損益分岐点の売上高になってしまうことを意味しています。
5%超のダウンで、赤字転落と言ってもいいでしょう。
■損益分岐点比率(損益分岐点の位置)から読み取れること
ここで損益分岐点と経営安全額の関係を見てみましょう。
図 2-1を見てください。
カフェクローバーのように経営安全率が 5%の場合は、損益分岐点比率は 95%になります(なお、損益分岐点比率が大きいことを、損益分岐点の位置が高いと表現することもあります)。
損益分岐点では、固定費 =限界利益ですから、これは売上高が 95%に達するまでは固定費 >限界利益であることを意味します。
言い換えると、売上高の 95%で、固定費を支払う原資(限界利益)を生み出していると理解してください。
■経営安全額から生まれる限界利益は利益だ
図 2-2を見てください。
注意していただきたい点は、経営安全額は売上高だということです。
経営安全額という売上高を上げると、限界利益が生まれます。
これは、損益分岐点に達する売上高を上げたときに限界利益が生まれることと同じです。
損益分岐点の売上高を上げることで生まれる限界利益は、 96. 9万円です。
この限界利益によって、固定費 96. 9万円をピッタリ支払うことができますが、それ以外は何も残りません。
残らないということは、利益は出ないということです。
だから、損益分岐点の売上高と言われるのです。
では、経営安全額という売上高から生まれる限界利益は、どう考えたらいいのでしょうか。
経営安全額から生まれる限界利益は、経営安全額 6万円 ×限界利益率 85% = 5. 1万円です。
- 1万は利益と一致しています。
経営安全額がプラスであるということは、損益分岐点の売上高を超えているということですから、その後生まれる売上高(経営安全額)からは、利益が生まれます。
以上をまとめれば、「損益分岐点の売上高 114万円から生まれる限界利益 96. 9万円は、固定費 96. 9万円の支払原資に使うことになり、経営安全額から生まれる限界利益は利益として残る」ということがわかります。
したがって、経営安全額に限界利益率を掛けて、そこから生まれる限界利益を求めれば、利益がいくらになるかを計算できるのです。
「経営安全額から生まれる限界利益は利益だ」と言われるゆえんです。
図 2-2は、利益を増加させるにはどうしたらいいかを示しています。
ア.経営安全額を増やすか イ.限界利益率をアップさせることができれば、 利益は増加するということです。
2-3 損益分岐点を図でイメージできるようになろう図表を描きながら、シッカリ理解しよう
■損益分岐点図表を描いてみよう
これまでの計算を図にしてみると、内容がわかりやすくなります。
下の図 2-3がカフェクローバーの損益分岐点図表です。
実際に描いてみましょう。
①縦軸に費用・利益、横軸に売上高をとります。
②対角線を引きます。
これは売上高を示します(売上高線)。
③売上高線を参考に、変動費比率 15%の変動費線を描きます。
④固定費 96. 9万円から伸びる直線を変動費線の上に平行に描きます。
この線は固定費線ですが、変動費と固定費の合計額を示す総費用線を示しています。
⑤総費用線と売上高線が交わった点が、損益分岐点( Break-even point)です。
⑥売上高線と総費用線にはさまれた領域(斜線部分)が、損益を表わしています。
損益分岐点の左側の領域は損失で、右側の領域は利益です。
カフェクローバーの例で見てみると、 ⑦損益分岐点から、横軸への線を引き下ろして交わったところ( A点)が、損益分岐点の売上高 114万を示します。
損益分岐点の売上高では、固定費 =限界利益 = 96. 9万円となっているのを確認してください。
⑧さらに、経営安全額 6万円分だけ、売上高の横軸を右に行くと B点です。
B点が示す売上高が 120万円です。
⑨ B点から上に向かって線を引いてみると、総費用線と売上高線に囲まれた部分がわかります。
この差が利益 5. 1万円です。
一般によく目にする損益分岐点図表は、固定費線から描いて、変動費線を上に乗せるように描きます。
しかし、それでは、限界利益が分割されて見えにくくなるため、前記のような描き方をお勧めします。
■限界利益図表を描いてみよう
損益分岐点図表は、売上高、変動費、固定費の関係が一覧できるので、よく使われますが、ややゴチャゴチャ感があります。
そこで、次に紹介する限界利益図表を使えば、図表もスッキリして、損益分岐点を理解するのに便利です。
図 2-4がカフェクローバーの限界利益図表です。
次の手順で描いてみてください。
①縦軸に費用・利益、横軸に売上高をとります。
②固定費 96. 9万円の目盛りのところで、横軸に平行に固定費線を描きます。
③限界利益率 85%の傾き(売上高 1に対して限界利益 0. 85)で、限界利益線を描きます。
横軸と限界利益線に囲まれた領域が、限界利益です。
④限界利益線と固定費線が交わった点が、損益分岐点( Break-even point)です。
⑤固定費線よりも限界利益線が下の領域(損益分岐点の左側)は損失で、上の領域(損益分岐点の右側)は利益です。
⑥損益分岐点から、横軸への線を引き下ろして交わったところ( A点)が、損益分岐点の売上高 114万を示します。
損益分岐点の売上高では、固定費 =限界利益 = 96. 9万円となっているのを確認してください。
⑦さらに、経営安全額 6万円分だけ、横軸を右に行くと B点です。
B点が示す売上高が 120万円です。
⑧ B点から上に向かって線を引いてみると、限界利益線と固定費線に囲まれた部分がわかります。
この差が利益 5. 1万円です。
限界利益図表は、損益分岐点図表から、変動費の領域を積み木に見立てて引き抜くことをイメージしてください(図 2-5)。
これが、限界利益図表になります。
損益分岐点を考えるとき、限界利益図表のほうが、シンプルな図表になりお勧めです。
2-4 短期利益計画に応用する費用、売上高、利益の関係をシミュレーションしよう
■目標利益を達成するために必要な売上高を求めよう
変動費、固定費の情報があれば、一定の利益を獲得するための必要売上高や価格設定にも活用できます。
その事例を考えてみましょう。
【Question】カフェクローバーにおいて、月に利益 30万円を稼ぎたい。
そのときの「売上高と販売数量」はそれぞれどの程度にすればよいのでしょうか。
原価構造は変わらないとして考えてください(解答するときは、公式を使わないこと)。
①利益 30万円を稼ぐために必要になる限界利益はいくらですか 原価構造に変化がないので、固定費は 96. 9万円です。
利益 30万円を稼ぐためには、固定費相当分の限界利益 96. 9万円と利益 30万円を加算した 126. 9万円の限界利益を生み出す必要があります。
なお、限界利益は、本来は「 1個売ると増加する利益」ですが、それらの合計額も限界利益と表現します。
②利益 30万円を稼ぐための必要売上高と必要販売数量は? 必要販売量をまず求めます。
- 9万円 ÷ 255円( 1杯当たりの限界利益) ≒ 4976. 5杯となります。
つまり 30万円稼ぐための必要売上高は、 4, 977杯の販売量です。
必要売上高は、 4, 977杯 × 300円 = 149万 3, 100円となります。
目標利益を稼ぐための必要売上高を求める公式として、下の式が使われます。
ただし、公式を使わず、順番に理解していくことが重要です。
なぜなら、公式を使うと「考える」という行為が省略され正しい理解を阻害するからです。
考え方が理解できてから公式を使ってください。
■制約がある場合の必要利益達成策を考えてみよう
さて、 4, 977杯売れば 30万円の利益が出ることがわかりましたが、困ったことが起こりました。
機械やスタッフの制約で、美味しいコーヒーを作るには、 1か月 4, 000杯が限界です。
そうなると、利益 30万円を確保するためには、何か別の方法を考える必要があります。
そこで、以下の方法で利益を確保しようと考えました。
【Question】あなたは、コーヒーとケーキのセット販売で利益 30万円を達成しようと考えました。
ケーキは仕入で調達し、その原価は 120円/個。
コーヒーの半分の 2, 000杯をセット販売とする計画です。
セット価格はいくらに設定したらいいでしょうか(他の条件は、当初の計画の通りとします)。
まず限界利益を求めて、そこからケーキ 1個の値段を検討しましょう。
①ケーキセットで稼ぐべき限界利益を求めよう 全体で稼ぐべき限界利益はいくらでしょう。
そうです、 126. 9万円(固定費 96. 9万 +目標利益 30万円)です。
コーヒー単品では、 2, 000杯の販売を予定します。
よってコーヒー単品販売で稼げる限界利益は 51万円( 2, 000杯 ×コーヒー 1杯当たりの限界利益 255円)です。
したがって、セットで稼ぐべき限界利益は、 75. 9万円( 126. 9万- 51万)になります。
②ケーキセット 1個の価格の限界利益はいくらになるでしょう。
その金額からセット価格を求めてみましょう ケーキセットで稼ぐべき限界利益の総額 75. 9万円をセット販売数 2, 000セットで割ればセット当たりの限界利益を計算できます。
- 9万円 ÷ 2, 000セット = 379. 5円 ≒ 380円となります。 セット当たりの限界利益 380円に、コーヒーの変動費 45円、ケーキの変動費 120円(仕入額)を加算した金額がセット価格になります。 380円 + 45円 + 120円 = 545円以上のセット価格で販売すれば、必要目標利益 30万円を達成することができます(図 2-6)。
「目標を達成するための価格を決める」手順は以下の通りです。
①稼ぐべき限界利益の総額を出す 固定費 +目標利益 ②商品 1個当たりの限界利益を出す 限界利益の総額 ÷販売予定数 =商品 1個当たりの限界利益 ③目標を達成するための販売価格を出す 商品 1個当たりの限界利益 +変動費 =目標を達成できる販売価格 ③セット販売は、販売促進策として有効か? ケーキセットのように、別の商品やサービスをセットにして、販売促進を図り、利益目標を達成する方法はよく使われます。
ラーメンと半チャーハンにトッピングを勧める、ビールとおつまみをセットにしたほろ酔いセット、そばとカツどんのセットなどいろいろあります。
カフェクローバーの場合、コーヒー単品の限界利益が 1杯 255円であるのに対して、ケーキセットによって、セット料金 545円で販売できれば、セット当たり限界利益は 380円となり、コーヒー単品より 125円( 380円- 255円)もアップします。
この 125円が固定費の回収に貢献します。
この例のように、 4, 000杯の制約があっても、セット販売が成功すれば、利益目標が高くても達成できる可能性が出るのです。
■ケーキを自家製にしたらどうなるか(原価構造が変化した場合)
ケーキは外部からの仕入によって購入しました。
もし自家製ケーキをセットにすると、どうでしょう。
ケーキの仕入値よりもケーキの原材料費のほうが安く済みそうにも思えます。
自家製にすると、ケーキを作るための調理器具が必要になります。
ケーキを作る人員が不足し、人件費がアップします。
これまではケーキを外部から仕入れていたために、ケーキ仕入という変動費がかかりましたが、ケーキを自家製に(内製化)すると、ケーキ材料仕入、固定費アップなど、原価構造に変化が生じます。
これを考慮し、次の条件で利益目標 30万円の達成を考えましょう。
①ケーキセットで稼ぐべき限界利益を求めよう ケーキを自家製にすると、ケーキの仕入金額より材料費が少ないので、変動費は下がります。
反対に自家製で手間をかけるので、人件費などの固定費がアップします。
この点を考慮して計算してみましょう。
ケーキセットで稼ぐべき限界利益は、 150万円(固定費 120万 +利益 30万円)です。
コーヒー単品で稼げる限界利益は 51万円( 2, 000杯 ×コーヒー 1杯当たりの限界利益 255円)と変わりません。
よって、セットで稼ぐべき限界利益は、 99万円( 150万- 51万)になります。
②ケーキセットの価格を求めてみましょう ケーキセットで稼ぐべき限界利益の総額 99万円は、ケーキを仕入れて販売する場合( 75. 9万円)よりアップしました。
ケーキセット販売数 2, 000で割れば、セット当たりの限界利益を計算できます。
99万円 ÷ 2, 000 = 495円です。
セット当たりの限界利益 495円に、コーヒーの変動費 45円、ケーキの変動費 80円を加算した金額が、セット価格です。
すると 495円 + 45円 + 80円 = 620円以上のセット価格で販売すればよいことになります(図 2-7)。
このセット価格では、コーヒー単品 300円なので、ケーキは 320円の価格となります。
ケーキを仕入れた場合は、セット料金 545円-コーヒー単価 300円で、ケーキは 245円の計算になりますから、よほど美味しいケーキを作らないと、このケーキセットの販売目標は、達成できないでしょう。
【CASE】自家製ケーキセットの価格を 500円に変更すると、利益 30万円を稼ぐには、ケーキセットを何個販売したらいいでしょうか 自家製のケーキでも多くの人に買ってもらえれば、利益が出るのではないかと考え、価格を 500円に値下げしたとします。
これまでのロジックを理解できていれば、この計算は簡単です。
ケーキセットで稼ぐべき限界利益は、 99万円( 150万円- 51万円)と変わりません。
次に、セット価格 500円の限界利益は、 375円(セット価格 500円-コーヒー材料費 45円-ケーキの材料費 80円)です。
よって、 99万円 ÷ 375円で、 2, 640セット販売する必要があります。
しかし、コーヒーは 4, 000杯しか作れない制約がありました。
コーヒー単品 2, 000杯とセットのコーヒー 2, 640杯の計 4, 640杯となり、製造量の限界を超えています。
セット価格 500円での販売では、利益 30万円の達成は難しいことがわかりました。
計画の見直しが必要です(図 2-8)。
【CASE】価格 500円の自家製ケーキセットを 2, 000セット、コーヒー単品 2, 000杯の販売では、利益はいくらでしょう
せっかくですので、自家製ケーキセットを 500円で販売したときの利益も計算してみましょう。
コーヒーは 2, 000杯販売すると限界利益は、 51万円です。
そしてケーキセット 500円を 2, 000個販売すると、限界利益は、 75万円( 375円 × 2, 000セット)です。
合計で、 126万円の限界利益が生まれます。
固定費が 120万円なので、利益は 6万円です(図 2-9)。
コーヒーを単品で 4, 000杯販売したときの利益 5. 1万円から比べて、 9, 000円しか増えません。
人件費やその他固定費を増やしたのに、あまり効果が出ないようです。
■売上高、原価、利益でシミュレーションする CVP分析
コーヒー専門店(カフェクローバー)の販売戦略について、いろいろな条件で考えてきました。
このように原価( Cost)、売上高や販売量( Volume)、利益( Profit)の関係を条件を変えてシミュレーションしながら分析することを CVP分析と呼んでいます。
変動費、固定費のコスト構造がわかると、損益分岐点分析だけでなく、計画策定などに使う CVP分析も可能になります。
第 3章で述べる変動損益計算書は、 CVP分析に非常に有効です。
変動損益計算書を作れば、カフェクローバーのシミュレーション結果をより「見える化」することができます。
■利益を生み出す3つの視点
自家製ケーキセットでは、利益を増やせないのでしょうか。
増やせないことはありません。
図 2-9をよく見てください。
利益を出すヒントは、図からイメージすることができます。
つまり利益を出すには、固定費を上回る限界利益を稼げばいいのです。
そのためには、2つの視点が見えてきます。
1つは、固定費を減らすことです。
もう1つは、限界利益を多く稼ぐことです。
限界利益を多く稼ぐためには、さらに2つの視点があります。
1つは、コーヒーやケーキの材料単価を下げ、販売価格に占める変動費の割合(変動費比率)を下げることです。
もう1つは、販売価格を高くするなどして、限界利益率をアップすることです。
以上を整理すると、利益を生み出す =損益分岐点の売上高を下げる方法は、次のようになります。
■損益分岐点の売上高を下げるイメージを図表でつかもう
図 A、図 B、図 Cは、損益分岐点の売上高を下げて、利益を出す3つの方法を図表化したものです。
①固定費の削減(図 A)は、人件費や家賃などの削減のことです。
固定費を削減できれば、損益分岐点の売上高は下がり、利益の出やすい体質になります。
②変動費比率を低下させる(図 B)という視点は、変動費総額を下げるのではなく、販売価格に占める変動費の割合を引き下げることです。
カフェクローバーの例で言えば、原料の見直しを図るなどして、 1杯 45円の変動費を、 40円、 35円と引き下げることを意味します。
変動費総額は、販売量を増やすとそれに応じて増加します。
総額を削減するという発想では、販売数量を下げる発想になって、間違った方向にいってしまう恐れがあります。
③限界利益率をアップさせる(図 C)のは、変動費比率を引き下げることでも達成できるのですが、基本的には、販売価格をアップさせたり、複数の商品、サービスをミックスさせて、トータルの限界利益率をアップさせるという方法をとります。
これは、単なるコストダウンの発想ではありません。
たとえば、こういうことです。
1個 120円で仕入れたケーキを 200円で販売すると、限界利益率は 40%(限界利益 80円 ÷売価 200円)です。
では、ケーキとコーヒー(変動費 45円)をセットにして 500円で販売できれば、限界利益率はどうなるでしょう。
販売価格 500円-ケーキの変動費 120円-コーヒーの変動費 45円で、限界利益は 335円になります。
よってケーキの限界利益率は 67%( 335円 ÷ 500円)です。
ケーキを単品で売ったときの 40%より、限界利益率はアップしています。
ハンバーガーとコーヒーのバリューセット、パソコンと初期設定サービスなど、限界利益率の高い商品やサービスをセット販売することで、限界利益率をアップさせることができます。
そのとき固定費が変化しなければ、損益分岐点の売上高は下がります。
2-5 変動費と固定費の見分け方、考え方変動費、固定費の本質を理解しよう
■変動費( Variable cost)の特徴
損益分岐点分析は、費用を固定費と変動費に分類することで可能になります。
ではどのようにして変動費、固定費を見分けるのでしょうか。
よく使われるのは、勘定科目ごとに、変動費、固定費を分類する方法です。
■材料費、消耗品費などを含む「変動費」
カフェクローバーの例では、材料費を変動費としました。
材料費は、製造業、建設業、飲食業、ソフト開発業など、多様な業種で発生します。
しかし、材料費といってもその内容はさまざまです。
カフェクローバーでは、材料費の中に、コーヒー豆、水などの本来の材料費のほか、コーヒーを飲むときに使う砂糖、ミルク、紙おしぼりなどの消耗品費も入っています。
これらはコーヒーが販売されるごとに使用されるので、売上高と連動する変動費です。
消耗品費は、製造業や建設業で言えば、補助材料費のような位置付けです。
買入部品費などの名称で呼ばれることもあります。
卸、小売業では、商品売上原価が代表的な変動費です。
注意すべきは、商品仕入額はすべて変動費とはならないことです。
商品仕入額のうち販売されたものが商品売上原価で、残ったものは在庫(たな卸資産)です。
在庫は次期以降に販売された時点で、商品売上原価(変動費)になります。
よって、商品仕入額のうち在庫分は変動費としません。
同様に考える必要があるのは、材料費や消耗品費です。
未使用の材料、消耗品は、在庫なので変動費になりません。
あくまでも使用した分が変動費です。
製造業、建設業、ソフト開発業などで、利用が増えている外注加工費(外注費)も変動費です。
ソフト開発業では、業務委託費などと別な呼び方をすることもあります。
このような外注費は、売上高と密接な関係があります。
建設業の場合、受注があるから下請けに依頼するわけです。
かつて、丸投げするというような表現がピッタリなケースがありました。
欠陥住宅などの問題は、元請け企業が、設計、施工、検査などを、下請けに丸投げして、責任の所在を不明確にしたことも一因でした。
外注費が大きい企業を見るとそんな悪い背景が浮かんで、心配になります。
このほか、発送配達費などの物流にかかわる費用が変動費です。
発送配達費は、配達の外注と考えればわかりやすいのではないでしょうか。
もし自社で配送するとすれば、トラックを用意し、運転手を雇って配送します。
トラックからは、減価償却費やリース料が発生し、運転手の給与などは人件費となります。
これらは固定費になりますが、外部に仕事を依頼するなら、外注費です。
財務会計では、自社配送の場合は、物流にかかわる費用(物流費)が人件費や減価償却費などに分散するので、管理会計を行なう場合は、それを再集計する必要があります。
自社で配送するときは、燃料費と運送に使う梱包資材などの使用分(梱包資材費)も変動費になります。
これは、実際には消耗品費となっていることが多いでしょう。
■変動費の3つの特徴
これまで説明したように、変動費には、材料費、消耗品費、買入部品費、商品売上原価、外注加工費(外注費)、発送配達費、燃料費、梱包資材費などがあります。
並べてみると、変動費に共通する3つの性格が見えてきます。
1つは、売上高に比例して発生するということです。
その意味で、変動費は比例費とも呼ばれます。
この点は、これまで繰り返し説明したように、最も一般的な特徴です(図 2-10)。
2つ目は、生産活動、販売活動を行なうことに連動して、必ず必要になる直接費であることです。
生産活動、販売活動との関連が非常に強いので、変動費は業務活動原価とも呼ばれます。
これらの材料や商品、外注費などの変動費は、生産活動、販売活動を行なうと発生する費用なので、売上代金から優先的に支払って、次の活動資金(材料仕入、商品仕入、外注への資金)に回す必要があります。
もし仕入や外注先への支払が滞ると、材料や商品が手に入らなくなり、生産は止まり、販売活動ができなくなります。
極端な言い方ですが、支払の優先度は、家賃や人件費という固定費より、短期的には変動費のほうが高いと言えるでしょう。
3つ目は、変動費の本質的な部分、すなわち外部から購入した価値であるという点です。
変動費は、自社で作り出した価値ではなく、他社が作った価値を購入したものです。
そういう意味で、変動費は、付加価値を構成しません。
この点は、固定費との対比でこの後整理します。
■固定費( Fixed cost)は、変動費以外と考えよう
固定費は、生産活動、販売活動とは比例せずに、一定額が発生する費用です。
つまり、どれだけ商品を作ったり、モノを売ったりしても、金額が変わらない費用です。
実際には、変動費を取り出して、それ以外を固定費とするのが実務的です。
変動費よりも、固定費になる勘定科目のほうが多いので、変動費を特定できれば、固定費は自然と判明します。
具体的には、給与、法定福利費(厚生年金、健康保険などの会社負担分)などの人件費、地代家賃、減価償却費、リース料などの設備関連費、支払利息などの金融費用などが代表的な固定費です。
■固定費の3つの特徴
これらの固定費に共通する性格を考えてみましょう。
1つ目は、どれだけ生産・販売を行なっても、その生産高や販売量に比例して費用が増えず、常に一定額が発生する費用であることです(図 2-11)。
2つ目は、生産、販売体制を維持し、管理するための費用だということです。
月に 100万台の生産ができる工場を作れば、生産台数が変化しても、一定額の減価償却費やリース料、地代家賃は発生します。
生産設備をメンテナンスする費用も、生産、販売とは比例的に発生するわけではありません。
この意味で、固定費のことをキャパシティコスト( Capacity cost:能力原価)と呼ぶことがあります。
3つ目は、時間とともに発生する費用ということです。
家賃は月当たりいくらで支払います。
給与も毎月一定額を支払い、年俸制の場合でも月割りで支払います。
財務会計では、減価償却費は、決算のときに年額を計算して費用に計上します。
そのような処理を前提に毎月の損益計算書を作ると、期末に減価償却費分だけ利益の減少が大きくなり、期中は減価償却費の影響を受けません。
これでは、営業所などの月次管理を必要とする部門では使いにくくなります。
実際の減価は、時間とともに発生しています。
管理会計では、この点に注目して、減価償却費の年額を月割り計算して、月次の損益計算を行なうことで、営業現場の業績管理に役立てることができます。
■売上に連動しない固定費をなぜかけるのか……固定費の本質
①もし、固定費をかけなかったら? 「固定費のないビジネスを行なったら、もっと利益が増えるのでは?」と考える人もいるかもしれません。
「経費削減をするなら固定費から」などと言う人もいますね。
では、次の問いをちょっと考えてみてください。
【Question】もし変動費だけをかけて、固定費を 1銭もかけなかったら、利益はどうなるでしょう。
次の例で、考えてみましょう。
自動販売機で、定価 100円のジュースを間違って 1缶多く買ってしまいました。
そこで次に買いに来た人に、「買いすぎたので 100円で買ってもらえませんか」と尋ねたとします。
親切心や同情心などを考えないとして、 100円なら同じ価値ですから買ってくれるかもしれませんね。
固定費をかけない状態とは、このような状態です。
費用は商品売上原価(変動費 100円)です。
売上高も 100円で、利益は 1銭も生まれません。
固定費をかけるとは、手間をかけることです。
固定費(手間)をかけない商売は、外部に支払う変動費は発生しても、手間をかけていないので顧客には何のメリットも感じさせることができません。
だから、顧客からそれを見透かされて、変動費に上乗せする利益(これを付加価値と言う)を請求できないのです。
手間をかけないと 100円以上では販売できないということです。
固定費をかけると付加価値(粗利益)が生まれます。
実際の商売では、販促費とか人件費のような固定費(手間)をかけることで、仕入原価に粗利益を乗せて販売できるのです。
たとえば、定価の 100円で仕入れた缶ジュースを山頂まで運んで、 300円で販売することを考えましょう。
山を降りれば 100円で売っている缶ジュースです。
しかし、登るのが非常に大変な山頂では、 300円でも缶ジュースはよく売れます。
マーケティング的には、「人は喉が渇けば、その場で飲みたいから、 200円高くても買うものだ」と説明できます。
これに対し管理会計的には、 300円で売れるのは、手間がかかっているからと説明します。
もちろんこの手間とは固定費のことです。
缶ジュースは、麓から人に頼んで人件費を支払い、担いで運んでいるとして、 200円の粗利益を稼げるのは、人件費という固定費(手間)をかけているからです。
買った顧客もこの点はよくわかっているはずです。
②固定費には粗利益を生み出す力がある 具体的に計算してみましょう。
ジュース 200缶を運搬するのに 3万円の人件費を支払ったとします。
1缶当たり人件費は 150円( 3万円 ÷ 200缶)なので、ジュースの仕入値 100円 +人件費 150円に 50円の利益を乗せれば 300円になります。
人件費という固定費をかけたからこそ、粗利益 200が生まれたのです。
このように固定費には、粗利益を生み出す力があります。
ここで言う粗利益 200円は、売上高 300円-変動費 100円を控除した限界利益です。
この限界利益こそ付加価値を示しています。
固定費をかけると付加価値(粗利益)が生まれるのです。
限界利益 200円から固定費 150円を控除して利益 50円が残ります。
これを経営視点で考えれば、固定費 150円をかけて付加価値 200円を生み出し、その付加価値を人件費 150円と利益 50円に分配したことになります。
利益の源泉は、付加価値である限界利益です。
この限界利益を生み出すことができたのは固定費をかけたから、であることを、シッカリ確認してください(図 2-12)。
もし自分で運べば、人件費の支払はないので、 1缶当たり 200円の利益を手にすることができます(図 2-13)。
自分で運んだので、手間賃(人件費)は自分に払ったと考えれば、手間賃 150円と利益 50円の両方を手にできます。
これは付加価値すべてが、自分に分配されたことと同じです。
自分で運んでも、人件費を支払っても、付加価値は同じです。
株式会社で考えれば、利益は株主に分配された額で、人件費は社員に分配されたものだと理解してください。
③付加価値を生まない固定費は削減の対象になる 限界利益から固定費を控除するとマイナス(損失)になることもあります(限界利益-固定費 =損失)。
損失が発生している場合は、固定費のかけ方が間違っていると考えてください。
固定費以上に付加価値を生めなかったのには、何か原因があるのです。
たとえば、山頂で、他の業者が 250円で別のジュースを販売していたため、予想販売量 200缶の半分の 100缶しか売れなかったとします。
200缶売ることを前提に、運賃として人件費を 3万円支払っているので、 1缶当たりの人件費は 150円、販売価格は 300円に設定しました。
実際は 100缶しか売れなかったので、 1缶当たりの人件費は 300円( 3万円 ÷ 100缶)になります。
すると、販売価格 300円-仕入 100円-人件費 300円で、 1缶当たり 100円の損失。
100缶販売すると 1万円( 100円 × 100缶)の損失です。
売れ残り在庫 100缶は自分で持って下山しても、麓では 100円でしか売れませんから限界利益はゼロです。
下山の固定費はかかっていないので利益もゼロです。
結局 200缶をすべて販売して、山頂で発生した損失 1万円がトータルの損失になり
になります。
山頂での販売で、付加価値を 2万円( 100缶 × 1缶の限界利益 200円)しか生んでいません。
固定費 3万円を使って、付加価値(限界利益)を 2万円しか生めなかったので、差し引き損失 1万円となったのです。
実際の商売でもこのようなことが、複雑かつ大規模に起こります。
付加価値を生まない固定費が明らかになれば、その固定費は削減対象にすべきです。
空き店舗や操業停止中の工場などの家賃や減価償却費がその例です。
このような考え方に基づいて、あなたの本来あるべき給与も算定できます。
あなたは、付加価値を生むのに貢献していますか? もし、そう言い切れなければ、賃下げをされても文句は言えません。
本質的に考えると固定費は、もっと使うべきです。
固定費の使い方を工夫すれば、付加価値は大きく成長するからです。
ここから、固定費の4つめの特徴は、付加価値創造力を持っていることと言えます。
2-6 固定費と変動費がハッキリしないときの考え方準変動費と準固定費に惑わされないように
■固定費と変動費の要素を持つ「準変動費」
勘定科目ごとに変動費と固定費を分類する方法は、勘定科目精査法と呼ばれます。
財務会計のデータを使って、変動損益計算書を作成するには、勘定科目ごとに変動費、固定費を分類するほうが、わかりやすく、分析しやすいので、よく使われる方法です。
材料費や商品売上原価のように、明らかに売上高・生産高に比例する変動費だとわかる勘定科目だけならいいのですが、固定費や変動費の要素が混在する勘定科目があります。
それが準変動費、準固定費です。
準変動費は、固定費と変動費の2つの要素を持っている勘定科目です。
電気代、ガス代、水道代等の水道光熱費や、電話代などの基本料金である固定費部分と従量料金の変動費部分からなる費用です(図 2-14)。
固定費部分を固定費として扱い、変動費部分を変動費とするという考え方もありますが、それは正しくありません。
その理由は、損益分岐点分析や短期利益計画のために使われる変動費、固定費は、2つの前提があるからです。
その前提とは、短期間の分析であること、正常な操業度(販売量、生産量、営業時間などのこと)の範囲で考えることです。
とても重要な視点ですので覚えておいてください。
たとえば、スーパーで 12時間営業を行なう場合を考えてください。
12時間で使う電気代は、一定の金額になります。
電気代は、売上高に比例して発生するのではなく、むしろ営業時間に比例して発生するのです。
固定費は時間とともに発生する費用ですから、正常な営業形態を前提にすれば、電気代は一定金額が発生する固定費です。
ガス代、水道代、電話代なども同様です(もし売上高、生産高に比例した課金方式で、費用が発生するなら変動費ですが……)。
図 2-14を見てしまうと変動費の要素が強いと考えがちですが、一定の人員、設備などが変化しない短期間での操業度を前提にすると、固定費と考える必要があります。
短期とは、長くても 1年以内の期間と考えたらいいでしょう。
■操業度によって変化する「準固定費」
営業時間などの操業度がアップすると、各操業度の水準で一定額の固定費が発生することになります。
この動きを示したものが図 2-15です。
一定の操業度では、一定の固定費が発生し、ある水準を超えると急に固定費が増加するような動きをすることがあります。
このような動きをする固定費を準固定費と呼んでいます。
たとえば、 7時間営業、 12時間営業、 24時間営業では固定費の水準が異なります。
残業や人員増で人件費や水道光熱費もアップします。
販売促進費なども準固定費として動きをとらえ、計画を考える必要があります。
1年以内で考える短期利益計画では、一定の操業度で、一定の固定費が発生することを前提に考えます。
1年の中で、いくつかの売上高や生産高の水準があるなら、それぞれの水準を別のケースとして考えればいいわけです。
12時間営業で 20名体制ならどの程度の固定費で、 24時間営業で 25人体制ならどの程度の固定費、という具合です。
一方、 3か年の利益計画を考えるときには、売上規模の大きな変化に伴って、変動費比率は変化し、固定費の発生総額が変化するはずです。
そのようなときは、少なくとも毎年、変動費比率と固定費総額を、売上高や生産高に応じて変更して考えましょう。
材料費や商品仕入のような変動費でも同じように考えます。
1万個仕入れたケースでは材料単価 100円、 2万個なら 80円というように、一定の売上高や生産高を前提に、変動費、固定費の条件を考えればよいのです。
2-7 勘定科目別データがないときの損益分岐点の求め方高低 2点法と最小 2乗法
ここまで勘定科目で変動費・固定費を分けて変動費比率と固定費総額を出し、損益分岐点を求める方法を説明してきました。
今度は勘定科目データがない場合に変動費比率、固定費総額を求める方法を説明します。
■売上高と費用の関係をおおまかにとらえる「高低 2点法」
売上高と費用のデータが時系列で手に入る場合は、売上高と費用の関係を大まかにとらえることができます。
以下の 6年間のデータをもとに、実際に見ていきましょう。
まず、感覚的にとらえてみましょう。
Y軸に費用、 X軸に売上高をプロットします(図 2-17)。
11年が左下の位置で、 16年が右上の位置です。
この2つの点を直線で結んでみます。
この直線の傾きを求めて、変動費比率とする方法が、高低 2点法です。
なお例としてあげたデータは、たまたま時系列で大きくなっていますが、あくまで最高の位置と最低の位置を直線で結ぶのがルールです。
この直線の傾きは、下の式で求められます。
この方法は、かなり大雑把な方法ですが、「変動費比率が 90%になると、売上高が 100伸び、変動費は 90増加する傾向がある」など、売上高と費用の関係を見ることができます。
ただし、最高値と最低値には、異常値が入っている可能性があるので、もう少しデータがあるときは、 2番目のデータを採用するとか、正常な売上高、費用の範囲を考慮して選択するなどの配慮が必要でしょう。
■最小 2乗法による回帰分析
前述の方法だとかなり傾きが荒っぽくなるので、統計分析でよく使われる最小 2乗法を使った単純回帰分析を行ない、 1次方程式を導き出す方法を紹介しましょう。
図 2-18のように、図 2-17で引いた売上高と費用の関係を示す点の間を平均的に通る直線の傾きを求め、売上高がゼロのときの費用を固定費と推計するものです。
費用 Y =売上高 X×変動費比率 a +固定費 b( Y = aX + b)という式が成り立つ aと bを求めます。
①変動費比率を求める 変動費比率は、以下の式で求めます。
少し説明します。
共分散は、 2組のデータの関係性を見るもので、それぞれのデータの平均からの偏差の積の平均を求めたものです。
ここでは、各年の売上高と費用の偏差を掛けたものの合計を出し、その平均値( 26, 792)を出しています。
偏差は、各値とその平均値との差のことで、各値が平均値からどのくらい離れているかを示しています。
(各値-その平均値)で求めます。
ここでは、売上高と費用の個々の値から、売上高・費用のそれぞれの平均値を引いています(売上高-売上高の平均値、費用-費用の平均値)。
そして、売上高の偏差と費用の偏差を掛けて共分散を算出しています。
分散は、偏差を 2乗した値の平均値です。
バラツキの度合いを示しています。
大きければ大きいほどバラツキが大きいことを示します。
図 2-19では、売上高の分散( 29, 167)を算出しています。
なお、分散の平方根を求めると、よく知られている標準偏差になります。
標準偏差も平均値からのかけ離れ度合いを表わしています。
②固定費を求める 固定費は、費用 =売上高 ×変動費比率 +固定費( Y = aX + b)の関係があるので、固定費 =費用平均値-売上高平均値 ×変動費比率で求めることができます。
③損益分岐点の売上高を求める 固定費 ÷限界利益率 =損益分岐点の売上高 なので、 54百万円 ÷( 1- 91. 86%) ≒ 663百万円となります。
●実践コラム 営業現場に役立つ損益分岐点分析の活用法
営業をしていると、期末になって、予算達成のための追い込みが年中行事のように襲ってくるものです。
そんな営業を仕切るマネジャーであるあなたに、期末を乗り切るアイディアを提供しましょう。
大体、期末の追い込みが必要になるのは、期中で少しばかりの気の緩みがあることが一因です。
売上予算の達成だけならあまり問題にならないのですが、利益予算の達成が課せられている場合は、利益達成度合いをタイムリーに把握できないので、現場のマネジメントも簡単ではありません。
経理部での集計を待っていては、期末が過ぎてしまいます。
もし、経理部での集計を待たずとも、利益がいくら出ているかを認識し、営業担当者を叱咤激励することができれば、よりよい結果に導けるのではないでしょうか。
そのために、次のような手を使ってはどうでしょう。
まず計画段階で、営業所ごとの 1か月の固定費を大まかにつかみます。
これは、経理部門の協力で可能なはずです。
後は、月間の販売計画に基づく予定限界利益率を予測して決めておきます(商品・サービスごとに販売計画を決める過程で、予定限界利益率も決めていれば、その後の計算はより正確になります)。
日々上がってくる売上高は、営業所でも把握できますね。
この売上高に予定限界利益率を乗じた数字が 1か月の固定費と一致する日が、損益分岐点を通過した日です。
通過した日からが、利益予算達成に向けた営業マネジャーの力の発揮どころです。
損益分岐点を通過した日の翌日の朝礼で、営業マネジャーは、こう激励しましょう。
「きょうから営業で上がる売上高の 60%が営業利益です。
わが営業所の今月の営業利益予算は 120万円。
1人 40万、 5人で 200万円の売上高を上げれば、利益予算達成です。
あと 3日間、がんばろう」 さあ、ここで問題です。
①予定限界利益率はいくら? ② 200万円の売上高を何と呼びますか? 解答は、 ①予定限界利益率は 60%で、 ②の 200万円は経営安全額です。
経営安全額に含まれる限界利益( 200万円 × 60% = 120万円)は、そのまま営業利益になります。
すでに損益分岐点の売上高を超えているからです。
このことを利用して、営業マネジャーは、各担当者を激励するのです。
各担当者には、自分が上げた売上高の 60%が、会社の利益に貢献することを認識させます。
担当者は、常に自分が利益にどのくらい貢献しているかを、簡単な計算をしながら営業ができるわけです。
もし値引きをしたら、値引き分は、同額の限界利益が減少し、利益を減少させます。
この点も肝に銘ずる必要があります。
利益予算 120万円を達成し、 120万円を超えた分の半分は業績賞与として支給するなどの仕組みを組み込めれば、現場のモチベーションは上がるでしょう。
営業利益が 220万円なら、超過分 100万円の半分の 50万円が業績賞与の原資になります。
50万円を 5人で分ければ、 1人当たり 10万円の賞与上乗せが可能になります。
期末の追い込みでは売上指向に陥りがちです。
そこで見失いがちな利益を再確認させ、数字に強い営業を育成できるとよいでしょう。
営業しながら、利益の予想計算ができるこの考え方なら、営業担当者が利益に貢献していることを具体的に確認できるのです。
ただし、1つ条件があります。
営業担当者が、損益分岐点、経営安全額、限界利益率などの基礎知識を理解していることです。
この点は、意外と盲点で、会社数字に弱い営業担当者ばかりだと、仕組みを作っても、意味がわからず実効性に乏しくなってしまいます。
この本を読み終わったあなたなら、きっと上手に説明できることでしょう。
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