1「ミュンヘンクロノタイプ」で、最適な睡眠時間がわかる
心身の最低限の健康を維持するために、1日6時間の睡眠は必須。高いパフォーマンスを発揮するためには、最低でも7時間は眠る必要がある(図1-1参照)。
これは、誰にとっても基本の条件と考えていいでしょう。
そして本書では、その7時間以上をいかに確保し、かつ質のいいものにしていくかについて、第3章以降の具体的な方法を試していくことになります。
ただ、人にはそれぞれの睡眠タイプや置かれた事情があります。まずは、「自分の現状はどうなんだ?」ということを把握することから始めましょう。
そのためには、平日・休日含め直近2週間ほど、どのような睡眠をとっているかを分析することをおすすめします。ノートや手帳に、眠っていた時間帯、時間数や、その日の気分や体調について書き出してみましょう。
それだけで、「自分は案外、朝には弱くないのかもしれない」とか「7時間には全然、足りていない」などという気付きがあるはずです。
もう一つ、ぜひ参考にしてもらいたいのが、「ミュンヘンクロノタイプ」のセルフチェック。クロノタイプとは、「朝型・夜型」といった一人ひとりの時間に関するタイミングのことを指しています。
インターネット上の「ミュンヘンクロノタイプ質問紙」のサイトを利用すれば、無料であなたに最適な寝付く時刻、起きる時刻、睡眠不足度、社会的ジェットラグの時間数などを分析してもらえます。
実際に、パソコンを使ってチェックしてみましょう。次のURLにアクセスします。
すると、あなたのメールアドレス宛てに、あなたに最適な「睡眠スケジュール(寝付く時刻、起きる時刻)」、あなたの「睡眠不足度」、「社会的ジェットラグの時間数」の書かれたデータが届きます(図2-1参照)。
まず、データには、回答した人の「クロノタイプ」が示されています。これは休日の睡眠中央時刻(こちら参照)によって判断されます。
なぜ休日なのかというと、休日のほうがその人のクロノタイプが現れやすいからです。
平日だと、多くの人(とくにオフィスワーカー)は嫌でも朝6時や7時には起きているので、その人本来のクロノタイプを知るには適さないとも言えます。
次に、「睡眠スケジュール」が表示されます。
これは本来あなたが一番よい体調で、高いパフォーマンスを発揮できると思われる「寝付く時刻」と「起きる時刻」です。
もしクロノタイプが「朝型」と出たなら、おそらく睡眠スケジュールもオフィスワーカーとして理想に近いものが示されるはずです。
こういう人は、休日であっても寝坊をしない人であり、そのスケジュールが平日にもそのまま当てはまります。
しかしながら、クロノタイプが「夜型」になった場合、あなたは出勤時刻に合わせて毎日無理に早起きしていることになるので、「寝付けない」「目覚めが悪い」などの問題が起こりやすくなります。
続いて、「睡眠不足度(睡眠負債)」や「社会的ジェットラグ」についても示されます。これらも、平日は無理して早起きしている「夜型」の人ほど、悲惨な結果が出がちです。
ここ数年、アメリカやイギリスで始業時間を1時間遅らせた学校が何校かあります。するとどの学校の生徒も、学力が目に見えて上がったというデータが出ています。
これはつまり、今まで学校の始業時間が早すぎて、多くの生徒のクロノタイプに合っていなかったということです。
「朝型」か「夜型」かは、50%程度遺伝で決まるのです。大事なことなのでもう一度言います。「朝型」か「夜型」かは、ほとんど遺伝で決まります。
たとえば夜型の人に早起きさせると、どうなるでしょうか。朝型の人よりも体温の上がり始める時間が遅く、朝から脳と体をフル回転させるのは難しいでしょう。「朝型」「夜型」といったクロノタイプは、個人が持っている体内時計の特徴を反映させたもの。いわばその人の「個性」です。
だから「早起きの人は勤勉」で「起きるのが遅い人は怠け者」という対比は、もはやあり得ない「決め付け」だと理解してもらえるでしょうか?「早起き」「遅起き」に関係なく、本来は各自のクロノタイプに合わせた始業時間にできると各々のパフォーマンスが最大化するということです。
なお、睡眠不足度とは、すなわち睡眠負債のこと。もし「1日30分」もしくはそれ以上と出ていたら、これまでの年月で相当、溜まっていると考えてください。その結果をシビアに眺めながら、こちらの方法(詳しくはこちら)を用いて、睡眠負債を返していきましょう。
2ショートスリーパーは、たったの0・5%しかいない
人生は一度きり。1日に24時間しかないというのも誰にとっても同じです。
「であるならば、睡眠時間が短くて済む人はラッキーだ。どうやら世の中にはショートスリーパーという人がいるらしい。自分もそうありたい」この気持ちはわかります。
しかし、現実にショートスリーパーはほとんど存在しません。
ショートスリーパーとは、5時間未満の睡眠時間でも日中にほとんど眠気を感じず、心身に何ら問題を起こさない人のことです。
アメリカ睡眠医学会の発表では、ショートスリーパーは女性の4・3%、男性の3・6%とされていますが、ここには不眠障害やその他睡眠障害など「病気によって長年眠れない」人も含まれている可能性があります。
それを踏まえ、日本の睡眠研究のパイオニアで睡眠評価研究機構代表の白川修一郎先生らが、2004年にインターネットで全国16~75歳の男女約2万5000人を調査しました。
すると、「病気で眠れない」という特殊な事情を除いた上で、1日平均5時間未満の睡眠時間しかとらなくても大丈夫な「生粋のショートスリーパー」は0・5%以下ではないかという見解に達したとのことです。
つまり、多く見積もってもショートスリーパーは200人に1人いるかどうかというレベルなのです。
ショートスリーパーとして有名なのが、ナポレオンとエジソンです。
そのことは、あちこちで書かれているので目にしたことがあるかもしれません。
いまだに彼らの名前が挙がることからして、ショートスリーパーは大変に珍しく、羨ましい存在だということがわかるでしょう。ところが、多くのビジネスパーソンと話をしていると、なぜかショートスリーパー率が高いのです。
「睡眠時間はどのくらい?」と聞いたときに、「5時間くらいかなあ」と答える人があなたの周囲にもいるはずです。
そしてその割合は、白川先生が調査から導き出したショートスリーパーの割合である0・5%を大きく上回っていることでしょう。
ちなみに最近、アメリカ睡眠医学会のショートスリーパーの定義が「5時間未満」から「6時間未満」に上がりました。それだけ「少ない睡眠時間」が(心身に支障をきたし)危険であるということです。
では、ビジネスパーソンにショートスリーパー率が高いことは、いったい何を意味するのでしょうか。
一つ目は、「たくさん眠っている」と答えるのはかっこ悪いと感じている人が多いということ。
多くの人に「(睡眠を犠牲にしても)さまざまな活動をしている=素晴らしい」という世間の刷り込みがあるので、たくさん眠っている自分を後ろめたく思い、無意識のうちに実際よりやや短めに申告しているというのが、私の印象です。
二つ目は、「あれもしたい」「これもしたい」と、実際に睡眠不足になっている人が多いということ。
ショートスリーパーではないのにショートスリーパー願望を持ち(?)、短時間睡眠で過ごしている人たちと言えます。無理しているのに、そのことにすら気が付いていない人も相当数いることが予想されます。
ところで、もし同僚の10人に1人がショートスリーパーだとしたら、アグレッシブな人は焦りますよね。「自分も短時間睡眠で追い付かねば」と。
実際に、「4時間半睡眠」を推奨する書籍が一時期、話題になったことがありました。実は、私も過去に短時間睡眠に挑戦してみた一人です。でも、眠くてまったく起きられませんでしたし、起きられた日も頭がぼーっとしてまったく使い物になりませんでした。
本に書いてある通りにやっても、できなかったのです。
「私はなんて能力が低くて、怠け者で、ダメなんだ」と、当時は落ち込んで自分を責めましたが、睡眠の勉強を深めるうちに、自分を責めることがいかに見当違いでバカげたことか、気付かされました。
前項で、「朝型」か「夜型」かは、50%程度遺伝で決まると述べました。
同じように、その人にとって適正な睡眠時間は遺伝的要素が強いので、両親、祖父母、おじ・おばなど血縁者にショートスリーパーがいない場合は、自分はショートスリーパーではないと思ってほぼ間違いないでしょう。
そしてショートスリーパーでないのなら、7~9時間しっかり眠っている人のほうが仕事のパフォーマンスが高いことは明らかです。
さらに、第1章でも説明したように肌にもツヤがあり、肥満とも縁遠く、つまりは健康なのです(ショートスリーパーではないのに短い睡眠時間で過ごしている人は、こちらを「自分ごと」としてもう一度読み返してください)。
ということで、賢いビジネスパーソンはそろそろ「ショートスリーパーへの憧れ」は封印し、必要な睡眠をしっかりとる方向へシフトチェンジしましょう。
世界の成功者は睡眠の重要性を知っている最近は9時間以上の睡眠をとるロングスリーパーを公言する人も増えています。
たとえば、元大リーガーのイチロー選手、大相撲の白鵬関、プロゴルファーのタイガーウッズ選手、元F1ドライバーのシューマッハ選手といったアスリートたち。
第一線で華々しい結果を残した経験のある彼らは、疲労を回復させるために長い睡眠が有効だと考えているのでしょう。彼らのようなアスリートでなくても、クリエイティブな仕事をするには、やはりきちんと寝ることが大切です。
睡眠先進国アメリカでは、多くの成功者たちが睡眠を一日の優先事項に挙げているようです。実際、名だたる先進経営者は睡眠時間を確保しています。
中には、フィットネストレーナーをつけて体を動かすように、睡眠の質を高める目的で、睡眠専門のコーチまでつける人もいます。
アマゾンの共同創設者ジェフ・ベゾス氏は1日8時間睡眠を目指し、「睡眠を削ったら、『生産性のある』2~3時間を得られるかもしれないが、その『生産性』はただの勘違いかもしれない」と述べています。
マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツ氏、アップルCEOのティム・クック氏、ツイッターの共同創設者ジャック・ドーシー氏は毎日7時間、ハフィントンポスト創設者のアリアナ・ハフィントン氏は7~8時間の睡眠をとっています。
日本では勝間和代氏、堀江貴文氏が8時間を目指しています。
勝間氏は、睡眠は「一番安い病気の予防薬で、7時間でも脳の回復には短いくらい」だと語り、堀江氏は「睡眠時間を削ると記憶力が落ちるし、ぼーっとしている時間が増えるだけ。それに6時間以上寝ないと頭が回らない」と言います。
これらの成功者は、睡眠の重要性を身をもって知っており、ゆえに世間の空気とは真逆で、「しっかりと眠る時間をとるのは恥ずかしいこと」などとはつゆも思わないのでしょう。
その姿勢、大賛成です。
働き盛りの今こそ「7~9時間の睡眠」を図1-1でも触れたように、26~64歳までの働き盛りの人たちにとって、ベストと考えられるのが、毎日7~9時間の睡眠をとること。
肉体を酷使しているようなケースや睡眠負債返済中を除けば、長くても9時間。一般的なビジネスパーソンが最高のパフォーマンスをくり広げるためには、7~9時間の間で自分に最も適した睡眠時間を確保するというのがよさそうです。
もっとも、そこには2時間もの開きがあります。あなたにとってのベストな睡眠時間は、7~9時間のどれなのか。それを把握するには試してみるしかありません。
こちらで説明する睡眠負債の返済法を実践していると、確実に「調子がよくなっている」という瞬間が訪れます。そのときの睡眠時間が、あなたに適しているものだと考えて間違いありません。
そして疲れている日はそれより少し長めに眠る、冬は長めに眠る(日照時間の関係で、必要な睡眠時間が夏は短く冬は長くなるため)など、状況や環境によってアレンジすると、一年中調子よく過ごすことができます。
3「眠り始めの3時間」はゴールデンタイム
第1章でも触れたように、睡眠中には「成長ホルモン」が分泌されます。
成長ホルモンは体の各器官に働きかけて、肌、筋肉、臓器、骨など全身の修復と再生をします。
疲労回復や気力、体力、集中力を維持したり、免疫力アップなどにも深く関わっており、心身の健康のためには非常に重要です。
ただ、成長ホルモンは睡眠中に一定濃度でずっと分泌されているわけではありません。大事なのは「眠りはじめの3時間」(図2-2参照)。
ここで目を覚ますことなくできるだけ深く眠れると、成長ホルモンの分泌を最大にすることができます。
夜寝て日中は起きている生活パターンでは、何時に寝ても成長ホルモンは最初の3時間に最も出るので、よく言われる「22時から深夜2時はゴールデンタイム」というのは完全に都市伝説です。
ところで、私たちの睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があります。レム睡眠のレムは、RapidEyeMovement(急速眼球運動)の頭文字からきています。
この間は、眠っていても眼球が動くなどして、脳も記憶の整理など何らかの活動をしていると考えられます。一方、ノンレム睡眠は逆に不必要な記憶を消し、ストレスを軽減もしくは消去する役割があります。そう、ストレス解消にはお酒よりも「ノンレム睡眠」なのです。
健康的な睡眠がとれている人の場合、まず浅いノンレム睡眠に入り、その後深いノンレム睡眠へと進みます。そして少しレム睡眠を挟み、またノンレム睡眠が訪れます。これを4~5回くり返してやがて自然に目が覚めるのが理想です(図2-2参照)。
ただし、これまでよく言われてきたような「90分周期」も都市伝説です。
この周期はあくまで皆の平均値で、実際には90~120分周期とも80~100分周期とも言われています。個人差がある上に、一晩の中でも、季節や体調、年齢によっても長さが変わってきます。
だから一晩中90分周期でそれが毎日続く……なんてことは100%あり得ません。そこまでうまくはいかないのです。
いずれにしても、眠り始めの3時間に、ノンレム睡眠の中でもとくに深い睡眠が出現することがわかっており、このときに、一日に分泌される成長ホルモンの7~8割が出ます。
だから、眠り始めの3時間は「目覚めることなく熟睡」が大切なのです。うたた寝・寝る前のお酒・満腹は厳禁そのために、気を付けなければいけないのが「うたた寝」。
「テレビを見ながらソファで1時間ほど眠り込んでしまい、慌ててベッドに潜り込んだ」という経験があなたにもあるかもしれません。これだと「眠り始めの3時間」は分断されてしまいます。
たとえハッと目が覚めてベッドに移り、そこでまたすぐに眠れたとしても、一度目を覚ましてしまうと、以後、成長ホルモンはあまり分泌されなくなります。
また、寝る前にビールをがぶ飲みしたために、寝付いて2時間くらいでトイレに行きたくなったというようなときも、成長ホルモンの分泌が減ってしまいます。
とにかく、眠り始めの3時間を大事に、そこでぐっすり眠り、目を覚まさないような習慣付けをしていきましょう。なお、成長ホルモンは、空腹時に分泌されやすいこともわかっています。
「お腹がいっぱい」という状態で眠れば、消化のために眠りが浅くなるだけでなく、大事な3時間に成長ホルモンが分泌されるのを邪魔します。そのため少なくとも就寝の2~3時間前には夕食を終えるのが理想です。
4「睡眠」こそ、ストレスをなくす最強の方法
ここまで読んで、7~9時間の睡眠を確保するなんて無理だ、と諦めていませんか?そもそもどうして、平日に睡眠不足に陥るのでしょうか。
毎朝6時に起きる人であるなら、22時にはベッドに入るという理想的な行動が、なぜとれないのでしょうか。もし、仕事が溜まっていて家に帰れないというなら、それはパフォーマンスが低い可能性があります。
「パフォーマンスが低い→パフォーマンスが低いから仕事が終わらない→仕事が終わらないから帰れない→帰宅が遅くなるから睡眠時間が減る→睡眠時間が減るからパフォーマンスが落ちる」という悪循環に首までどっぷり浸かっていると考えられます。
となれば、なおさらそれを断ち切る努力が必要です。あるいは、仕事はそんなに遅くならないけれど「他のこと」で忙しい場合もあるでしょう。「他のこと」の代表格は、ストレス解消のためのお酒。
同僚と飲みに行けば2~3時間くらいあっという間に過ぎますし、家で飲むにしても「早く眠らなくちゃ。でも、あと一杯だけ」と、ダラダラと時間をロスする結果となります。
この状況、よくわかります。私自身、2年間ほどほぼ毎日お酒を飲み、アルコール依存症に近い状態に陥っていた経験があるからです。
あのころの私は、「ストレスを解消すべく毎日飲みに行く→毎日飲むから飲み慣れてお酒が強くなる→強くなるから酒量が増える→酒量が増えて遅い時間まで飲むから酒癖の悪い人との接触が増える→ストレス解消にならない→それでも飲みに行くことはやめられない」という負の連鎖に苦しめられていました。
どんどん深酒するようになって、毎日の睡眠時間は3~4時間。体質的に、本来であれば7時間は眠らないとダメなのに、睡眠不足の極地でした。当然、脳の前頭葉の働きも著しく低下していたはずです。
実際に、ぼーっとして判断力は鈍るし、その割に妙なイライラ感、不安感だけは常に付きまとっていました。このような状況でいい仕事ができるはずもありません。
飲酒による睡眠不足のせいで仕事がうまくいかず、さらにストレスを倍増させていたわけですから残念な話です。もともと私は嗜好品への依存傾向があり、大学時代にはもっぱらお菓子でストレス解消を図っていました。
一日の終わりにはたいてい、お菓子を買うために近所のコンビニに寄るのがお決まりのコース。それでも、ギリギリの理性は保っているつもりでした。
「際限をなくしてはダメだ。一回の買い物は1000円まで」と決めていたのです。それにしても、なんと都合のいい理性でしょうか。
コンビニのお菓子は安価ですから、1000円あればかなりの量が買えます。ポテトチップスはマスト。
その他、コアラのマーチやカントリーマアムなどおなじみのお菓子を買うと、イライラの収まらない日には家に帰るまで待ちきれず、道を歩きながら食べ始めることもありました。
そして、全てを食べ終えたらおしまい。残すという選択肢はありませんでした。
今考えると空恐ろしくなりますが、本書の読者の中にもこうした依存に苦しんでいる人もいるのではないかと思います。
お酒やギャンブル、買い物でストレスはなくせない必要以上の情報が溢れ、何につけスピードが重視され、自己責任が問われる現代社会を生き抜くには、ストレスと無縁ではいられません。
加えて人間は、もともと楽しいことよりも、嫌なことを記憶する傾向にあります。つまりは、何らかの形でリセットしなければ、脳はストレスで疲れ果てて正常に機能しなくなることは明らかです。
そのリセットを、多くの人が、かつての私のようにお酒や甘い物、ギャンブル、買い物などに頼ろうとします。
しかし、そうした活動は、嫌な記憶を一時的にやり過ごすことはできても、薄れさせることはできません。
前述のように、睡眠には不必要な記憶やストレスを薄れさせたり、消したりする力があります。ストレスを消す最強の方法が睡眠ですから、嫌なことがあった日は、いつもより長めに寝てください。
お酒やお菓子などへの依存でストレス解消を図っていた私も、数多くのトライ&エラーを経て、睡眠こそ「最高のストレス・マネジメント」だという結論に達しましたので、ふだんから実によく眠っています。
5「寝付くために酒を飲む」と睡眠の質が下がる
スムーズな寝付きを得るために、お酒の力を利用している人も多いでしょう。たしかに、酔っ払ってしまうと一時的には眠れます。
私自身、アルコール依存症になりかけていたころは、酔っ払って家に帰ると、シャワーも浴びずにそのままベッドに倒れ込んでしまうことすらありました。いわゆる「前後不覚」に眠り込んでしまうのですが、だからといって朝までぐっすりというわけにはいきません。
眠りについて必ず2時間もしないうちに目が覚め、そこからは浅い眠りや中途覚醒に苦しめられました。
国際アルコール学会の報告によれば、お酒を飲むと短時間で眠りに落ちるけれども、アルコールの分解作業によって、眠りが浅くなることがわかっています。
さらに、アルコールの分解には体内の水分が使われるために、喉が渇いて寝苦しくなります。
また、夜の睡眠中はおしっこをつくる活動を止める抗利尿ホルモンが分泌されますが、アルコールによってその働きが抑えられ、トイレに起きる回数が増えます。イビキもかきやすくなります。
アルコールが舌の筋肉を麻痺させることで、舌が気道を塞いでしまい、空気が通るときの抵抗が大きくなるからです。イビキをかいている人はあたかも熟睡しているかのようですが、そうではありません。
気道が狭くなっているので酸素が十分に取り込めず、睡眠は浅くなります。その証拠に、イビキをかいて寝ている人に声をかけると、こちらがびっくりするくらいに「すんなり」起きます。つまりは、熟睡できていないということです。
このように、さまざまな要因から、アルコールは睡眠の質を下げます。
寝付きをよくすることを期待して飲むのではなく、食事とともに適量を楽しんで、眠る時間にはほとんど抜けているくらいにしましょう。
なお、どうしたらいたずらに飲みすぎないでいられるかについて、私の経験を踏まえたアドバイスをこちらに載せてありますので参考にしてください。
6「夜の頻尿」は、体内時計が狂っている証拠?
もともと年齢を重ねると、睡眠中にトイレに起きる回数が増えます。私が行っている睡眠セミナーでも、「トイレに起きることで睡眠が切断されて困っている」という悩みが多く寄せられます。
日本泌尿器科学会によると、40歳以上の男女で4500万人が排尿のために夜間1回以上起きているとのことです。また、図2-3を見てください。40代は約4割、50代は半数以上、60代は約8割の人が一晩に1回は排尿のために起きています。
すると当然、眠りが妨げられます。では、なぜ加齢によって睡眠中に頻尿になるのでしょうか。
何かしらの疾患がない場合、健康な人においてその原因は大きく二つあります。
まず、膀胱の容量が小さくなること。
若いころは膀胱にも伸縮性があるので、膀胱が伸びることによって尿をたくさん溜めることができますが、年をとると膀胱が硬くなり、溜められる量が減るのです。次に、夜間におしっこがつくられてしまうこと。
これは、読者世代にとっても人ごとではありません。というのも、体内時計が狂うことで起きるからです。
体内時計が正しく働いていれば、夜になると「そろそろ、おしっこをつくるのをやめよう」という脳の指令によって「抗利尿ホルモン」がたくさん分泌されます。そのため、睡眠中はトイレに行かずに済みます。
ところが、体内時計が狂っていると抗利尿ホルモンの分泌が抑えられ、いつまでも昼間と同じように尿がつくられてしまい、結果的に夜中にごそごそトイレに向かうはめになります。
こうした側面からも、体内時計を整えることは非常に重要なのです。なお睡眠時無呼吸症候群など、睡眠障害と夜間頻尿は切っても切れない縁があります。
本書の睡眠改善法を行っても睡眠状況が改善しない場合は、図2-4で紹介している睡眠専門医の診断を受けることをおすすめします。
7働きながら睡眠負債を返済する「三つの解決策」
本書のメソッドを通してあなたが取り組むべきことは大きく二つあります。それは、溜まりに溜まった睡眠負債を返済することと、体内時計を調整したり、セロトニンを増やしたりして睡眠の質を上げること。
これらの課題は並行して取り組んでいくことになりますが、ここではまず、睡眠負債を返済する方法について考えましょう。
自分がどのくらい睡眠負債を抱えているかについて、ミュンヘンクロノタイプ質問紙に回答した人ならおおよその把握はできているかもしれませんが、私がふだんから用いているこちらのチェックシートで、改めて検証してみましょう。
チェック1は睡眠負債が溜まった場合の特有の症状、チェック2が睡眠不足のときに起きる主な症状です。さて、結果はどうだったでしょうか。働き盛りのビジネスパーソンならば、多かれ少なかれ睡眠負債は溜まっているはずです。
それらをできるだけ早く返済し、最高の体調で最大のパフォーマンスを発揮できる状態にしましょう。まず、睡眠負債は1週間単位で考え、検証していきます。もっとも、誰でも数週間で完済できるというわけではありません。
私自身もかつては相当にひどい状況だったので、完全な状態まで戻すのに1年以上かかりました。でも、そんな私が今はすっかり「絶好調」。
ですから、慌てる必要はありません。これから紹介する三つの方法を試していけば、心身の「調子がいい」を確実に感じられるようになるはずです。睡眠の専門家として、一人の体験者として約束しますから、できることからしっかりとやっていきましょう。
①平日はいつもより30分早く寝る
最も無理がなく、かつ自分に合った睡眠時間に近づける方法です。いつも24時に寝床についていた人なら、それを23時30分にします。見たいテレビがあっても断行してください(意志の強い人は、かっこいいのです)。
これを1週間実践してみると、睡眠負債が溜まっている人はとくに何も感じませんが、さほど負債が溜まっていない人は、少し調子が上向くはずです。
とにかく1週間、30分早く寝た自分を褒めながら、次の週はさらに30分早く寝るようにします。こうして30分ずつの短縮を淡々と進め、平日でも毎日7~9時間の睡眠を確保できるように持っていきます。
そして、今後はそれを守ります(方法はこちら参照)。7~9時間睡眠のどれが今の自分に合っているかは、試してみて最も心身の快調さを感じられるところをつかむしかありません。
難しければ、まずは8時間を目標にするといいでしょう。ちなみに、なぜ30分ずつ早めていくかというと、それが誰でも一番無理なく眠りにつきやすいからです。
いつものリズムをいきなり大きく変えようとすれば、かえって寝付くことが難しくなって逆効果です(参考までに、いつも寝床につく2~4時間前を「睡眠禁止帯」と呼びます。
これは一日の中でも脳波的に一番眠りに入りにくい時間帯です)。ただし、睡眠負債を溜め込んでいる場合は別。もし何時間も前倒しできるなら、どんどん早く寝てしまってください。私もそうやって睡眠負債の返済スピードを上げました。
②休日の寝坊は平日の起床時間+2時間まで
平日は朝6時に起きている人なら、休日は遅くとも8時には起きます。どんなに眠くても起きましょう。その努力は必ず、「快眠体質」と「パフォーマンスの高い人生」を手に入れることにつながります。
ちなみにたとえ睡眠負債が溜まっていなくても、休日に2時間以上の寝坊はしないほうがいいでしょう。第1章で紹介した「社会的ジェットラグ」を引き起こし、体内時計も狂います。体内時計が狂えばうまく眠れなくなり、睡眠負債を溜めてしまいます。
なお、「起きる」ということは「目覚める」とは違います。目覚めていつまでもベッドの中でもぞもぞしていても、起きたことにはなりません(詳しくは第3章で後述します)。
また、休みの前日も休日も、できる限りいつもと同じ時刻、もしくはいつもより早めにベッドに向かってください。大事なのは、休日を特別扱いしないことです。
仕事を忘れて楽しく過ごすことは大事ですが、睡眠については「例外」はつくらないほうが、かえって体がラクになり、翌日、翌週をよりラクに、より高いパフォーマンスで過ごすことができます。
③昼寝をうまく利用する
昼寝については第4章で詳しく述べますが、上手に利用することで睡眠負債の返済スピードが上がります。平日には12~15時までの間に15~20分。55歳以上は30分まで。休日には12~15時までの間に最長1時間半まで。このルールを守って、積極的に昼寝をしましょう。
もちろん平日には、無理に昼寝をする必要はありませんが、「ちょっと疲れたな」というときに取り入れると脳がリフレッシュして頭がスッキリし、午後のパフォーマンスアップにつながります。
週末の昼寝は睡眠負債返済のために大切ですが、くれぐれも「1時間半を超えない」こと。昼寝には夜の睡眠とは違った心地よさがあるため、長く眠ってしまいがちです。
しかし、それによってせっかく整いつつある体内時計が乱れます。ちゃんと目覚ましをかけて、決めた時間に起きましょう。
これらの①~③の方法について、全て同時にスタートさせるのが難しい場合は、できることから始めましょう。また、どうしても実行できない日もあるでしょう。
「今日も先週より30分早く寝よう」と思っていたのが、突発的な事案によって「2時間も遅くなってしまった」ということもあるかもしれません。
でもそこで絶望して投げ出してしまったら、せっかくの努力が水の泡。そういうときは、先週より30分早く寝る日をもう1~2日増やして、帳尻を合わせます。とにかく淡々と続けていきましょう。
目的はルールを守ることではなく、睡眠負債を返済することにあります。だから、ルールを守れなかった日にゲームオーバーしてしまうのではなく、自分をなだめて、おだてて、なんとか続けること。
言ってみれば「生きること」と同じです。邪魔が入ったり、気分が乗らなかったりするときがあってもブレずに目標を達成できるのは、能力の高い大人の証しだと思います。
睡眠負債は、あなたがあなた自身に課したものです。踏み倒して逃げ切ることはできません。一刻も早く返済して、身軽な自分に戻りましょう。
8「逆算法」で、睡眠時間を確保する
睡眠負債を返済するためのもう一つの大事な要素が、自分の持ち時間を把握すること。あなたがこれまで大きな負債を抱えてきたとしたら、そもそもの生活スタイルに問題があると言えます。
それを見直さなければ、再び負債地獄に陥ってしまいます。そこで、こちらにあるような24時間の円グラフを用いて、あなたの一日の過ごし方を検証していきましょう。
重要なのは、まず起きる時刻から逆算して寝る時刻を決めること。自分に合った十分な睡眠時間を確保した残りの時間で、仕事も含めた生活の全てを行うという意識が必須です。
では、実際に、円グラフに書き込む際のポイントをお伝えします(図2-5とこちらの付録参照)。
最初に、職場にいる時間と絶対に必要な通勤時間を書き込みます。職場にいる時間とはあくまで定時の就業時間。最初から残業を考えているようでは、いつまでたっても効率的な日々は送れません。
次に起床する時刻を記入します。さらに、睡眠時間を考慮した上で就寝する時刻を記入します。睡眠時間に関して、専門家たちが心身の健康のために7~9時間の睡眠を推奨していることは前述した通りです。
仮にあなたが8時間必要だとしたら、起床時刻から逆算してその8時間を確保してください。これで帰宅後から就寝までの時間が出ましたね。食事時間と入浴時間も書き込みます。
いい睡眠のためには、この二つも疎かにしてはなりません。
夕食はできれば就寝の2~3時間前には終えるように時間設定してください。
入浴は必ず毎日湯船に浸かり、ぬるめ(38~40℃)のお湯なら就寝の1時間前までに、41℃以上の熱めのお湯が好きな人は就寝の2~3時間前には上がるようにします(詳しくはこちら)。
さて、これらを書き込んでいくと、残り時間はとても少ないということがわかるでしょう。1時間か、多くても2時間くらいでしょうか。
となれば、残念ながら、あなたが「やりたいこと」の全部はとうていできません。でも、それがわかれば、おのずと優先順位も明確になるでしょう。
たとえばスマホをダラダラ見るなど、優先順位の低い行動はやめるか、やめられない場合は移動時間のみに限定したり、もしくは週末に回すなど、やりくりの仕方を考えましょう。
日ごろから睡眠不足に陥っている人は、案外、重要度が低いことのために睡眠時間を犠牲にしていることが多いのです。参考までに、図2-5の上にあるのは、私自身の円グラフです。
先ほどお伝えしたように、まず、「就業時間と通勤時間」を書き込みます。昭和西川の始業時刻は朝9時。通勤時間に50分(このうち10分は日向を歩くための余裕。こちら参照)かかるのと、20分くらい前には到着して準備を整えたいので、7時50分には家を出る必要があります。
そして終業時刻は18時。帰り道に夕食の材料を買って、自宅に着くのは19時ごろです。次に、「何時に起きるか」を考えます。
起きてから幸せな朝食(こちら参照)を摂って、身支度を調えるのに1時間半ほど欲しいので、出掛ける7時50分からそれを引いて6時20分に起きるようにしています。
そして、「就寝時刻」を記入します。6時20分に起きる私が7時間の睡眠を確保するには、23時20分には寝付いていたい。となると、寝付くまでの20分を考慮して、遅くとも23時には就寝の準備に入らねばなりません。
この段階でもう、帰宅してから寝るまでたったの4時間しか残っていません。すぐに支度に取りかかって夕食を終え、後片付けを済ますと、すでに21時半。
それから入浴すると22時。つまり、入浴を済ませた22時から寝る23時までの1時間のみが、私の真の自由時間となります。おそらく、あなたも似たようなものでしょう。
どうしても残業になったり、子どもを寝かしつけたりと、人それぞれの違いはあれど、自分一人で自由に使える時間なんて、一日に1時間あるかないかなのです。
でも、そこで「だったら、睡眠時間を削って好きなことをやろう」としてはいけません。睡眠が足りなければ、それを犠牲にしてまで起きている時間の質は圧倒的に落ちていきます。
結局は仕事のパフォーマンスが低下して早く帰宅できず、さらに自分の時間が減るという負のスパイラルに陥るだけです。
それに、長期的には糖尿病や高血圧、血管性疾患、アルツハイマー病など深刻な病気にかかるリスクが上がります。こちらでお伝えしたように、寿命が短くなるリスクも上がります。
そんなリスクを背負ってまで、あなたがやりたいことは何なのか、巻末の円グラフを用いて、一度じっくり考えてみてください。なおこの円グラフは、ライフスタイルの変化に応じて書き換えながら使うことをおすすめします。
COLUMN2睡眠を考えることは、人生を考えること
私たちが自由にできる時間は、思いのほか少ない。でも、だからといって睡眠時間を削るのは賢明ではない。となれば、「その短い時間をいかに充実させるか」を考えていくことになります。
そして、そうした思考が、効率的でパフォーマンスの高い日々を送ることを可能にします。睡眠について真剣に考えることは、「人生を考えること」そのものなのです。
あなたがこれまで、睡眠時間を削ってまで行っていたことを書き出してみましょう。すると、いかにつまらないこと(失礼!)に時間を費やしていたかがわかるでしょう。
ゲーム、ネットサーフィン、インスタ映えする写真の投稿、SNSで誰かに「いいね」を与えることや誰かの「いいね」を待ちわびること……それは、たしかにいい息抜きにはなるかもしれません。
でも、そんなに大切なことでしょうか?もちろん、行ってもいいのです。しかし、たった1時間ほどの貴重な平日の時間を割くほど重大なことなのか、考えてみてください。
あなたが本当に「やりたい」ことは何でしょうか。筋トレ、英会話や資格の勉強、趣味の教室……いろいろあるでしょう。
それらの中で、休日の楽しみにできるものはそちらに回してもいいかもしれません。私の場合、ネットショッピングと凝った料理をつくることは、「平日にはやらない」と決めています。
その二つを行っていると、楽しくてどんどん時間が過ぎてしまうからです。その分、休日にはどちらも存分に楽しみます。
もし、「優先順位はさほど高くないな」と思えるものがあったら、休日に回したり、休日にすら「やらない」と決めてしまうのも手です。
自分は平日と休日に、それぞれどれだけの時間を持っているのか。それを把握しないまま、漠然と日々を送るのはもう終わりにしましょう。
睡眠を改善する決意をしたことをきっかけに、自分の時間(つまりは自分の人生)をハンドリングしてほしいと思います。
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