行動の分解がパフォーマンスを生む
あるレストランが売り上げアップに取り組んだ。スーパーバイザー(管理者)は、ドリンクのお代わりを積極的にセールスする方針を立てた。朝のミーティングでリーダー(店長)が言う。
「ドリンクのお代わりを積極的に取れ」初日は、期待したほどドリンクが伸びなかった。ウエイターたちは厳しい叱責を受ける。
「もっとお代わりを取って来い。やる気を出せ」翌日も大きな変化はなかった。ウエイターたちは折を見てはお代わりを勧めているのだが、声をかけるタイミングが悪いのか、客の反応は鈍い。
しびれを切らしたリーダーがウエイターを呼びつけては叱りつける。
「しっかり注文を取れ。頭を使え」キャンペーンではドリンクの売り上げを二〇%増やす計画だったが、期間中の伸びは一〇%にも届かなかった。
このレストランが犯した間違いは、行動に焦点を当てなかったことである。
ウエイターの行動を改善すれば必然的に売り上げは伸ばせるのに、リーダーは「お代わりの注文を取れ」と言うばかりだった。
目標を設定するだけで具体的なやり方を何ひとつ教えていないのだから、いくら叱ってもできるはずがない。セールスを始める前に、まずウエイターの行動を分解し、チェックリストを作成するべきであった。
このプロセスを踏むと必ず問題点が浮かび上がる。
ウエイターの苦手な行動を見つけ、それを改善した上でセールスを開始すればよかったのである。
ビジネスは行動の集積であり、行動を見ずして問題は改善されない。
リーダーの仕事とは、教えた行動を彼らがきちんとやっているかどうかチェックすることである。教えたタイミングで皿を下げているか、教えたとおりにお代わりの注文を取っているか。
できていなければ正してやる。なおかつ、一連の仕事を気持ちよくやれるようにしてやるのもリーダーの役割だ。
結果を変えるには、行動を変えるしかない
ビジネスが成功するかどうかは、ひとえに社員の能力にかかっている。ここで言う能力とは成果を出す能力である。成果は人の行動が生み出す結果である。したがって、結果を変えるには社員の行動を変える以外にない。
ある行動を改善したり、今よりも頻繁にしたり、反対に少なくしたり、場合によってはまったく違う行動を取らせることも必要だろう。
結果だけを見て管理しようとする従来の手法を反応型アプローチと呼ぶ。これはきわめて効率が悪い。なぜなら、結果が出たときには行動がとっくに終わっているからだ。
まるでマラソンのコーチがゴール地点から一歩も動かないようなものである。
「タイムを縮めろ。もう一周走ってこい」と激励したところで、選手はコースを間違っているかもしれないのだ。プロセスを確認しないとこのような喜劇が起きる。
部下が遠回りしていないか、とんでもない道を走っていないか、上司は常に気をつけてやらなければならない。
「コースの途中で橋を渡ったか?歩道橋じゃない、小川の橋だ。黄色い屋根の家が見えただろう。赤い屋根の家しかなかった?おいおい、最初の十字路をどっちへ曲がったんだ?」こんなコーチでは選手がかわいそうである。
人員削減や新規採用では結果は不安定
ビジネスとは行動の集積だ。社員の行動がなければ会社は何ひとつ達成できない。これに気づいていない会社は、結果を改善するのに人員を削減したり、異動させたり、新たに人を採用したりすることになる。
これらのアプローチはたしかにうまくいくこともあるが、自ずと限界もある。
うまくいくかもしれないしダメかもしれない。未知数なのである。そのため機会損失は計り知れない。
人間の行動の基本原理を理解していない人が雇用や人事を手がけるため、このような失敗が起きるのである。
行動分析によって社員の行動を変えてやれば、今いる人員だけで結果は一変する。
行動を変えることが重要だと言っても、あまりに極端なやり方は逆効果となる。
アメリカで問題になっている「マイクロマネジメント(微細管理、微細経営)」がそれである。マイクロマネジメントとは、微に入り細に渡って部下をコントロールする手法だ。
他人の行動一つひとつに偏執的なこだわりを示し、それこそ一挙手一投足にまで干渉しようとする。マイクロマネジメントに取り付かれた上司は大きな勘違いをしている。
仕事をうまくやっていくには部下全員の行動を全て管理し、厳しく律する必要があると思い込んでいるのだ。これによって成功した人はほとんどいない。
マイクロマネジメントは部下の成長を著しく阻害するばかりか、部下を押しつぶしてしまう負のマネジメントなのである。
ここ数年で、企業は人自身でなく行動を変える必要性に気づき始めた。日本でもようやく行動分析の時代が訪れつつあるわけだが、まだ理解が完全ではない。
行動を変化させることと、人を変化させることの違いがあいまいだからである。国際競争の激化によって、旧来のやり方が時代遅れになっている。
一部の経営陣はそのことを知っており、許される時間があまり残っていないことにも気づき始めている。
しかし、まだまだ結果にばかり目を向けている印象がある。マネジャーの仕事は結果を達成することだと考えられてきた。だから経営陣が結果に焦点を当てるのも無理はない。
このアプローチの問題点は、結果を得るまでのコストが高く、しかも予測のつかない事態がたびたび発生することである。
たとえば、収益性の改善に取り組むとしよう。改善という結果が出るまでには数多くの行動が生じるが、それらの行動に目を向けない限り、最大限の結果は得られない。プロセスに生じる時間や労力やコストを抑えられないからだ。
他人の行動は予測できる
ある人がこれから何をするか、他人には決して分からない。そう考えるのが普通だ。しかし行動分析の手法を用いると、他人の行動はかなりの的中率で予測できるようになる。
人間の行動原理を知れば、そのようなことも可能なのである。行動を予測されると知ったとたん、多くの人が拒否反応を示すだろう。
だが、こういう言い方をしたらどうだろう。
「あなたは頼りになる」
予測可能とは、やるべきことをきちんとやることでもある。だとすればそれは「頼りになる」と同義だ。
周囲の人々が未来の行動をある程度予測できるから、その人は頼りにされると言えるのである。部下が何をするか予測したければ、昨日何をしたか確認するといい。
人間は習慣や行動パターンを持っている。それらは日常生活に反映され、時間や状況にかかわらず常に機能する。他人の行動は予測可能なのである。
この知識があると、他人の行動にいらいらすることはなくなる。神経をすり減らしたり、不毛な衝突を繰り返したりすることもない。
行動分析学は人間関係を円満にする。
行動は外から観察できるものだから、他人が数えることも可能である。これによって部下の行動を確実にマネジメントできるのだ。
露店でものを売る場合、通行人に声をかけたり、足を止めた人に詳しい商品説明をしたりする。販売という結果はこういった行動の繰り返しからできている。
私たちは、行動と結果を切り離すことはできない。露店には露店なりの、大型店舗には大型店舗なりの行動がある。物品販売という結果は同じでも、そこに至るための行動はさまざまだ。
いずれにしろ、行動の積み重ねが結果を生むということだけは変わらぬ原則である。メーカーでは、小さな金属片を機械の上に並べ、あるボタンを押して成型し、できたものをかごに入れていくという一連の行動が結果を生み出す。
理髪店では、客を座らせ、髪を濡らし、ハサミを入れ、頭を洗うという行動の流れが結果を生み出す。これらの行動を変えれば結果も変わることは言うまでもないだろう。
別のボタンを押せば別の成型品ができるし、ハサミの代わりにバリカンを使えば丸坊主になる。望ましい結果を得るための行動を取らせれば、自ずと望ましい結果が得られる。
部下はなぜ仕事ができないのか
あなたが今最も悩んでいることは何だろうか。部下のこと、組織のこと、会社のこと、何でもいい。紙に書き出してほしい。
私の場合、以前は部下に対して次のような悩みを持っていた。
- 指示と違った行動を取る。
- 報告しない。
- 提出物を出さない。
- いつも時間に遅れる。
- 何度言っても同じ過ちを繰り返す。
- 「やりなさい」と言ったときにすぐできない。
- 手をつけるが続かない。
- 好きなことは進んでやるが、苦手なことはやろうとしない。
- 職場に活気がない。
要するに部下たちは、こちらの望む行動ができなかったということだ。あなたの悩みも似たようなものではないだろうか。彼らはどうしてこちらの望む行動ができないのか。
その理由は二つしかない。そして、それさえ改善できたら問題はほとんど解決するのだ。
第一に、仕事のやり方が分かっていない場合。仕事の仕方が分からない。やり方を知らない。行動分析で言えば「正確な作業手順が分かっていない」状態である。
第二に、仕事のやり方は分かっているのだが継続できない場合。これは部下の問題だけでなく、ダイエットや英会話の学習などセルフマネジメントにも通じる問題だ。いわゆる三日坊主である。やらなければならないと本人は自覚しているケースが多い。しかし、自覚していても実際にできるとは限らない。
望まれる行動ができない部下は、右に示した状態のどちらかにある。この二つをいかに解決するかを考えていけば、あなたの抱える悩みは解決に向かうだろう。
仕事ができないのは能力の問題でもなく、やる気の問題でもない。ましてや人格の問題であろうはずがない。彼らは仕事のやり方を知らないか、続けることができないかのどちらかである。
解決は決して難しくない。やり方を教えてやる。あるいは続くようにしてやる。要するに行動を変えてやればいい。——たったこれだけの問題に過ぎなかったのだ。
行動を分解し、チェックリストにする
仕事のできない理由が「やり方が分からない」である場合は、あなたの望む行動を教えることだ。教え方には行動分析独特の方法がある。行動を分解し、チェックリストにして渡すのである。
ここに二人の部下がいる。
A氏は仕事ができるハイパフォーマーだ。
B氏は仕事ができないローパフォーマーであるとしよう。
あなたはA氏の仕事ぶりを観察し、ポイントとなる行動を見つけなければならない。
たとえば接客技術、電話の応対、見込み客との会話などが考えられる。その行動を細かく分解し、一つひとつ書き出してチェックリストを作成する。
このリストをB氏に渡し、反復トレーニングを徹底させるのだ。組織は、そこに所属する人々の行動から成り立っている。つまり組織は行動の集合体だと言える。
思考や心理といった内面の要素でできているのではない。そのように考えると、望む結果が得られない組織では、行動のどれかが間違っていることになる。
A氏の行動を全員がお手本とすれば望む結果が必ず得られる。
チェックリストはある程度細かく作り込まなければならないが、行動の全てをリストにする必要はない。重要な行動だけを取り上げればいい。上限はせいぜい五つである。
それ以上増えると、教えられる側はやる気を失う。
ただし、全ての行動をチェックリスト化して部下を管理しようとするとマイクロマネジメントに成り下がる。
あまりに細かい行動を全てチェックしようとすると、それを管理することが目的となり、パフォーマンスを向上させるという本来の目的からそれてしまうのである。
ところが、現実には不可能なのに、今の日本企業は、なぜかそれを徹底的にやろうとする。いくつかやったあとは誰も実行しなくなり、いかにもやっているふりをしてごまかしたりするのだ。
チェックリストの作り方
チェックリストやマニュアルを作っている企業は多いが、ここで行動分析におけるチェックリストの作り方について説明しよう。一〇センチ四方の大きめの付箋を用意する。ホワイトボードもあると便利だ。
——●第一段階まず、業務の一連の流れを大まかに書き出す。全体を五〜六個に分解する程度でいい。たとえばレストランのホール係なら、「メニューと水を運ぶ」「注文を取る」「料理を運ぶ」といった具合だ。
——●第二段階次に「パフォーマンスマップ」を作る。先ほど分解した中から一つを取り上げ、その業務を細かく分解しよう。そしてポストイット一枚に行動を一つ書く。
たとえば、「メニューと水を運ぶ」という作業を分解するとこんなふうになる。
「入店したお客に声をかける」↓「人数分のメニューと水を用意する」↓「いらっしゃいませ、と言ってそれらを配る」↓「ご注文がお決まりになったらお呼びください、と言って去る」もっと細かく分解できるはずだが、今はこれくらいで構わない。
大まかなところからだんだんと細かい部分へ入っていく。大切なことは、全ての業務を分解する必要はないということだ。そんなことを始めたらきりがなくなるし、分厚いリストを作り上げたところで誰も読もうとしないだろう。
上司が重要だと思う業務だけを分解する。仕事と直接関係のない行動は取り上げなくて構わない。
ここまでが第二段階である。そして、行動を記入したポストイットをホワイトボードなどに貼り付ける。さらに時系列に並べ、それぞれの行動を眺めてみよう。つまずきそうな部分があったら、それを取り出してさらに分解する。
A氏の行動を細かく分解し、ポストイットに具体的な言葉で書き出していく。これは「プロセスシート」を作る作業である。プロセスシートには「テーマシート」と「深掘りシート」がある。
この段階では、目に見える行動を中心に書く。具体的とはどの程度のことを言うのだろうか。
レストランの場合、コップの水は九分目まで入れるか、八分目にとどめるか、そこまで分解する。お客が最も好ましく感じる分量を教え、それを実践させるためである。
水を運ぶタイミングや、皿を下げるタイミングもきちんと押さえなければならない。一見、職種によっては表面に出てこない要素もかなりあるだろう(厳密にはそんなことはないが)。一般的に言われているが、営業職やクリエイターがそうだ。
そのとき何を考えているか。お客のどこに意識を向けているか。これらは外側に表れないが、実はきわめて重要な行動である。表に出ないものを取り出すには「テーマシート」を作るといい。
営業マンがクロージングをかけていく過程などは、テーマシートを作ることで明らかになる。テーマシートの作り方も簡単だ。
自分がお客のどこに意識を向けているか、どのタイミングで何をしているか、胸の内で行っている行動を一つひとつポストイットに書き出していく。
重要なものは「深掘りテーマ」としてさらに掘り下げる。
複数の営業マンがチームを組んで行動している場合は、たとえば、見込み客から顧客になるまでの行動をチーム全員で分解作業を行うべきである。
チェックシートは文言が重要
ここでチェックリストのサンプルを示しておこう。図3は、あるレストランが食器洗いスタッフのために作成したチェックリストである。皿を洗うという行動を分解したものだ。
スタッフがやるべき仕事の項目が並んでいるが、ポイントはその文言にある。
「タオルで拭く」ではなく「タオルで拭き水分をとる」と書かれていることに注意してほしい。客の目に触れるついたては常にきれいな状態でなければならない。しかし、入ったばかりのスタッフはそこまで気が回らないだろう。
「タオルで拭く」と書かれていたら、ざっと拭いておしまいにするかもしれない。上司はそのたびに注意しなければならず、部下はなぜ叱られるか分からない。
なかには「拭きました」とうそをつくスタッフもいるだろう。何のために拭くか。きれいに保つために決まっている。
それなら最初から「タオルで拭き、水分をとる」と書けばいいのである。たとえ新人でも、水分があるかないかは判断できる。水分があれば、きれいになるまで努力するだろう。
これが皿を拭く仕事の目的だ。スタッフはチェックカードさえ見れば仕事の目的が分かる。汚れが水で落ちなければ洗剤のある場所を訊くだろう。ダスターでだめならタワシを使おうとするだろう。
それが自分の仕事だと理解したからである。「フライパンは水分をきっておく」も同じことだ。行動分析では、行動を分解するに当たって「具体的に書く」ことを重視する。
「拭く」ではなく「きれいにする」と書かなければチェックリストを作る意味がない。やり方を教えるためのチェックリストなのだから、やり方を的確に伝えるのは当然であろう。
さらに特筆すべきは、こうした書き方が第三者によって計測できるように工夫されている点である。皿がきれいかどうかは誰が見ても一目瞭然だ。
すなわちそれは企業として望む行動をしたかどうかを判断する基準となる。このように、各チェック項目は客観的に計測できるものでなければならない。あいまいな文言だとチェック基準がぶれてしまう。
誰が見ても、誰が評価しても同じ結果になるのが理想である。「皿が汚れているじゃないか」「ちゃんと拭きましたけど……」といった会話をしばしば耳にする。
このような衝突が起きるのはスタッフが仕事の目的を理解していないからであるが、上司にも責任がある。指示の仕方がよくないのだ。
「ついたてを拭いておけ」と指示するだけでは、新人スタッフに目的が伝わらない。「ついたてをきれいに」と指示されていれば、彼もきれいにするべく努力しただろう。
「拭けと言われたらきれいにするのが常識だ。そこまで教える必要があるか?」——あるのだ。
新人はつい昨日まで部外者だった。仕事や職場に関して何ひとつ知らない。あなたが常識だと思っていても、それはベテランだけに通じる常識かもしれない。新人にとっては未知の情報である可能性がきわめて高い。上司はそう考えるべきなのである。
チェックシートとマニュアルはどこが違うのか
よく質問を受けるのは、チェックシートとマニュアルはどこがどう違うのかということである。両者はたしかによく似ている。ただ説明しただけでは違いが分からないのも無理はない。
しかし、行動分析ではチェックシートとマニュアルはあえて区別することにしている。
一般的に言ってマニュアルは粗い。チェックリストに比べると大ざっぱと言える。よくできたマニュアルはチェックリストに近い完成度を持っているが、大きな違いはチェック欄がないことだろう。
もちろんマニュアルにチェックをつけていっても構わないわけだが、実際の現場で繰り返し使えるようにつくられていないのが問題点の一つである。
また、マニュアル最大の欠点は量の多さである。一から十まで全てを網羅した結果、膨大な量の文書になってしまっている。分厚いファイルと首っ引きで仕事をする新人がいるだろうか。
それどころかマニュアルを読まない人も多いほどである。よくて斜め読み、それも一度ぱらぱらと見たらおしまいだ。上司もマニュアルを渡すだけで安心してしまう。
業務の中で有効活用されているとは言いがたいのではないか。チェックリストは重要な行動に焦点を合わせたものだ。
核となる行動や、結果に直結する行動だけを取り上げ、それらを分解し、具体的な言葉や図、写真で表記している。
チェックリストを渡された新人は業務の肝となる部分だけを詳しく教わり、反復練習する。私はマニュアルを否定するつもりはない。
ないよりはあったほうがいいと思うが、あまり細かく作り込むとかえって使えなくなってしまう。渡された部下をうんざりさせるだけである。
それよりは重要な行動だけを抜き出し、その部分を徹底して覚えさせるほうがはるかに効果的である。単純なマニュアル偏重主義は、前述のマイクロマネジメントを招くことにもなりかねないからである。
実証——行動を変えたら売り上げが伸びた
アメリカの映画館チェーンを行動分析でマネジメントしたときの事例を紹介しよう。従業員の行動を変えることにより、全店舗で月間売り上げを三〇〜五〇%増やすことに成功した。
最初にやったことは、チェーン内でも最大の売り上げを持つA館の視察である。そこで従業員の行動を観察した。続いて、平均的な売り上げを上げているB館へ行き、同じように従業員の行動を観察した。
両店を見比べ、どんな違いがあるかを書き出した。従業員の行動の違いが、両館の売り上げ格差のかなりの部分を占めるはずである。
行動分析では、売り上げを作る行動は、スーパーバイザーではなく、マネジャーでもなく、現場のスタッフが行うものであると考えている。
そこで私は、チェーン内でも最大の売り上げを持つA館と、平均的な売り上げを上げているB館の従業員の行動を観察することにした。
両館の従業員の行動の違いが、売り上げ格差のかなりの部分を占めるはずである。最初にA館に行き、従業員が直接お客様と接する行動を観察し、売り上げに直結するピンポイントの行動を探した。
すると、A館の従業員は、チケットを販売するときに、「ポップコーンはいかがですか?」とお客様に勧めていた。
ファーストフード店がよく「ポテトも一緒にいかがですか」と声をかけるのと同じように、アップセールスを実施していたのである。このアップセールスが売り上げに直結するピンポイントの一つだった。
一方、B館に行って従業員の行動を観察すると、従業員はただチケットの販売をしていただけで、アップセールスを行っていなかった。
ポップコーンはポップコーンを売るだけの仕事、グッズはグッズを売るだけの仕事をしていたのである。
そこで、改めてA館のアップセールスの行動を観察した。
どのようなタイミングで、どんな言葉をかけ、どのように手渡すのか、これらの行動を細かく分解し、誰でも同じ行動ができるようチェックリストを作成した。
そして、そのチェックリストを全館に配付し、全従業員にトレーニングをした。こうしてナンバーワンの売り上げを持つA館のアップセールスを全店舗に導入したのである。
結果は驚くほど大きかった。前述のとおり、各館の売上高が三〇〜五〇%も増えた。
このとき、後の章で詳しく述べるが、従業員が自発的に行動するようになる「ポイント制度」を導入した。「ポップコーンもいかがですか」と声をかけたら、行動を承認するためポイントを与える。
また、ミーティングのときも実行した従業員であれば全員、表彰し、拍手で互いに賞賛した。さらに、声をかけた回数をチーム別にグラフにし、控え室に掲示した。これを毎日繰り返した結果、売上高が急増したのである。
結果を出すための行動を発見するのがリーダーの仕事
仕事とは、行動の連続である。社員の行動が積み重なって仕事の結果が出る。組織もまた、所属する人の行動によって成り立っている。
行動を変えれば、仕事の結果も変わり、組織も変わる。売り上げを伸ばしたいのであれば、売り上げを伸ばすための行動を全員にさせればいい。
きわめて簡単な真理である。社員の尻をいくら叩いても望む成果は得られない。
大切なことは「やる気を出せ」とか「モチベーションを上げろ」と叱咤するのでなく、結果に直結する行動をリーダーが見つけることなのだ。
先ほどの映画館の事例では、「チケットと一緒にポップコーンを売る」という売り上げに直結した行動を見つけた。このような作業こそがリーダーの大切な仕事である。
行動に焦点を当てるマネジメントでは、「結果に直結している行動」をいかに見つけるかが最も重要なキーとなる。そこに所属する人たちの行動を分析し、その中から結果に直結している行動を見つけることだ。
リーダーが必要な行動を加え、不要な行動を取り除くことによって、求める結果は必ず得られる。マネジメントでは褒めることが大切だと言われるが、無条件に褒めても意味はない。
大切なことは、目標達成や問題解決に必要な行動がいったい何なのか、できれば五つ見つけることだ。その中でも特に重要な、二つあるいは三つの行動をリーダーがピックアップし、そこに改善を加えるのである。
「何をしたらいいか」までは分かっても、今度はそれを「継続できない」という人がいる。行動を細かく分解し、チェックシートを作って部下に渡した。
それを見たら誰でも自発的に行動を始めるのか。継続できるのか。
その疑問については章を改めて述べるが、コストをかけずに継続させる効果抜群の方法がある。私も自社に取り入れているが、社員たちは面白いほど自発的に動くようになった。
部下の行動を改善し、望ましい行動を継続させること。それがリーダーシップの正しいあり方である。
行動とは何か——MORSの法則
行動というものについて述べてきたが、行動とは一体何なのか。
その条件を明らかにしておこう。
・コミュニケーションをとる・モチベーションを上げる・信頼関係を築く・絆を深める右の四つの言葉は会社や家庭で日常的に使われている。
文法的に動詞の形を取っているが、これらははたして行動なのだろうか。
部下がこれを聞いたとき、何をしたらいいのか分かるかどうかで判断していただきたい。
これらは行動分析で言うところの「行動」ではない。
行動の定義としてMORSの法則がある。
MORSの法則は「具体性の原則」とも呼ばれ、四つの条件から成り立っている。
・Measured(計測できる)・Observable(観察できる)・Reliable(信頼できる)・Specific(明確化されている)「計測できる」とは、文字どおり計測可能であることを意味する。
数値化と言ってもいい。
「観察できる」とは、特定の行動をしているかどうか誰が見ても分かるということだ。
観ることができることで、行動と言える。
「明確化されている」は、たとえば企画する、徹底するなどとすると明確でなく、誰が何をどうするかが大切である。
「信頼できる」とは、三者三様の客観性がない三人が三人とも同じ行動として定義されることが大切なのだ。
特に重視しなければならないのは「観察できる」ということだ。
そして、誰が見ても同じ行動をとっていると認識できること。
数値化し、計測できることももちろん不可欠である。
具体例を挙げよう。
「売り上げを増やす」は行動だろうか。
MORSの法則に当てはめてみると、四条件のいずれも満たしてしない。
したがって行動とは呼びがたい。
売り上げを増やすことを行動にするには、表現を変える必要がある。
たとえば「一年間でスペシャルメニューのオーダーを一〇〇件とる」とすればいい。
あるいは「毎月、三〇〇件の新規見込み客にサンプルDMを送る」でもいいだろう。
同じように「シェイプアップする」「ダイエットする」は行動と言えるだろうか。
これも行動とは呼べない。
「毎日一時間ジョギングをする」「三ヶ月で五キロ落とす」という形に直すと行動になる。
すでにお気づきのとおり、行動は具体的でなければならない。
MORSの法則が別名「具体性の原則」と呼ばれるのは、まさにその意味においてである。
数値を盛り込むなど、具体的な目標にすれば計測でき、誰が見ても達成できたかどうか分かる。
これが行動科学マネジメントで言うところの行動だ。
「前に比べれば少しはいいようだ」といった情緒的な判定は、それを行う人によってブレが生じ、客観性を持たない。
それは行動と見なされない。
部下に指示するとき、チェックシートを作るときなど、常にこの原則を頭においておくことが必要である。
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