「実現したいこと」が決まっている必要はないビジョンは「あとからつくる」ものさて、いかにしてビジョンを生み出すかを考えるうえで、まずは、最もビジョンを必要とする企業リーダーたちの例を紹介しましょう。
「企業のリーダー」とひと口に言っても、そうなるまでのプロセスはさまざまです。
実現したいことがあって起業したサラリーマンとして働いて、経営者に抜擢された親が経営者であり、後継者として社長になった起業家ならば、当然ながら起業の目的があり、それ自体がビジョンということになりますが、経営者のすべてが起業家というわけではありません。
のように、組織で働いているうちに会社のリーダーに抜擢されたというケースも多いでしょうし、のように、実家や親戚が経営する会社を継ぐことになったという社長も少なくありません。
ですから、ほとんどの経営者は、最初からビジョンがあって企業リーダーになったわけではないのです。
むしろ、経営者という役割を担い、組織を率いる責任を負うなかで、ビジョンの重要性に気づいていくというほうが正しいかもしれません。
そういう意味では、「ビジョン型リーダーシップの時代がやってきた」などと言っても、それぞれの人がビジョンを〝つくる〟ところから、まずはスタートしなくてはならないのです。
では、組織・チームが向かうべき方向を指し示すビジョンは、どうやって生み出せばいいのでしょうか?「社長トーク」でインタビューした経営者たちのお話から、それぞれの持つビジョンを見ていきましょう。
生き方とビジョンを一致させる——まずは、起業家のビジョンです。
「レストランひらまつ」をはじめとした多数のレストランを展開する株式会社ひらまつ(本社東京都)の代表取締役社長・平松博利さんは、いまも厨房に立つシェフでありながら、ミシュランの星を持つレストランを数多く経営するリーダーでもあります。
その平松さんが大切にしているのが、「いま目の前にいる人を幸せにすること」。
これを社員たちは「ひらまつイズム」と呼んでいます。
1982年に奥様と2人でレストランを開業して以来、平松さんは「いま目の前にいる人を幸せにすること」を大切にしてきました。
それは、料理を食べにきてくださったお客様だったり、一緒にレストランを切り盛りしてくれている奥様だったり、一緒に働くことになった従業員だったり……。
とにかく、いま目の前にいる人を幸せにすることをいつも考え続けていたら、700名以上の社員を抱える大企業に成長していたのだと、平松さんは言います。
平松さんは、ビジョンを「語る」だけでなく、それを自ら「実践」し続けているリーダーです。
「いま目の前にいる人を幸せにする」というのは、頭で考えて出てきたものではなく、ご自身の「生き方」そのものなのです。
ですから、社員1人ひとりをいつもよく見て、それぞれの健康管理から、どんな声かけを必要としているのかに至るまで、つねに心と時間を使って考え続けています。
「ウチに入った以上、社員には幸せになってもらいたい。
料理人になれば、1日も早く一人前の料理人になりたいと思うから、そういう環境を用意する。
一人前になれば、シェフになりたいと思うから、1軒の店を用意する。
シェフになったら、今度は少しずつ豊かになっていきたいと思うから、そのための方法を教える。
『こうやって1軒の店で利益を出していけば、きみの給料も上がっていくんじゃないかな』という話をしながらね。
そのときそのときで、その人の幸せ感は違うだろうし、目標も違う。
それをわかったうえで指導をしていくのがとても大切です。
どっちにしても、目の前にいる人を幸せにするということが僕の最大の生き方ですね」ビジョンがリーダーその人の生き方であるというのは、まさに起業家リーダーの特徴だと言えるでしょう。
組織の哲学を「翻訳」する——会社員として出世して社長になった方は、生き方そのものをビジョンにするわけにはいかないかもしれません。
しかし入社以来、意識的にしろ無意識的にしろ、会社の哲学のようなものを先輩から学んでいるのではないでしょうか。
そして、その哲学を基にしたビジョンや経営計画に共感したり、疑問を感じたりしながら歩んできているはずです。
いよいよ自分がリーダーになったときには、会社の哲学を根底に置きながら、理想とするビジョンを自らの感性に従って提示していくことになります。
しかし、大きな組織になれば、経営者が1人でビジョンを決めるということはまずありません。
経営企画部が中心になってビジョンを取りまとめる会社もあれば、社内でメンバーを集めてプロジェクトチームを立ち上げたり、アイデアを募って社内コンテストで選んだりと、さまざまな取り組みがなされています。
こうした社員参加型のビジョンづくりは、メンバーがビジョンを「自分ごと化」するいい機会になります。
ここで問題が起きる場合もあるでしょう。
たとえば、社員たちの声を集めてみると、経営者の考える方向性とはまったく異なるアイデアばかりが出てくるといったことです。
リーダーにとっては痛恨の極み。
それまでの自分のメッセージがメンバーに届いていなかった証拠です。
またこれは、リーダー・メンバー間のコミュニケーションを見直すべきだというサインでもあります。
これまでの伝え方では伝わっていなかったのですから、トップリーダーの代わりにビジョンを伝える「中間リーダー」への伝達も含めて、もう一度考え直す必要があります。
その意味では、リーダーに着任したばかりときは、メンバー参加型のビジョンづくりではなく、まず自らの考えに基づいたビジョンを提示するのがいいでしょ
う。
メンバーたちとのコミュニケーションがある程度進んで、次の節目に差しかかるころに、改めて現場からアイデアを募るのです。
ある意味でこれは、リーダーの言葉がどれくらい現場に届いていたかのテストにもなります。
リーダーにとって厳しい結果が出るかもしれませんが、軌道修正のための貴重なチャンスとして前向きにとらえるようにしましょう。
既存の土台に「新しい柱」を加える——家族経営などの後継者の場合、老舗企業になればなるほど、創業時から伝えられている哲学やミッション(使命)を大切にしています。
しかし、ビジョンは時代とともに変わる目標のようなものですから、先代から代表権を引き継いだ時点で、新たにビジョンを考え直すリーダーが多いようです。
グローバル化が進み、これまでのやり方が通用しない企業・業界が、あちらこちらで見られるようになりました。
これまでの事業を基礎にしながらも、次なるビジネス領域を開拓し、両者を包括するような新ビジョンを掲げる後継者さんが各方面で出てきています。
たとえば、株式会社ありがとうサービス(本社愛媛県今治市)は、創業当時はミシン販売からスタートしていますが、2代目の父の代にデパート経営へと事業を展開しました。
さらに、3代目の代表取締役社長である井本雅之さんは、大きな社会の変化に合わせて、飲食事業とリユース事業へと経営の舵を切り、すべての人に感謝する思いを忘れないようにと、社名も「ありがとうサービス」に変更しました。
サラリーマン経営者の場合も、前任者がつくり上げたさまざまな価値観や習慣・体験が、メンバーの行動原理を支配していたりと、目に見えない「壁」がありますが、ファミリー企業や老舗企業の場合であれば、その壁はなおさら高く、容易に変えられるものではありません。
しかし、いまはその大きなチャンスであり、試練のときです。
社会の常識が大きく変わっているこの時代にリーダーになった人たちは、これから100年先のビジョンを描く役割を担っているのだと覚悟したほうがいいでしょう。
そして、そのリーダーを支える立場にある人たちには、次の100年をリーダーとともにデザインする責任をぜひ楽しんでいただきたいと思います。
ただ、ここで改めてお伝えしておきたいのは、過去の全否定の上に新しいビジョンを描くのではないということです。
過去に大切にしてきた哲学はもとより、技術がいかにして磨かれ、お客様がなぜ自社を支持してくださったのかなど、過去の財産の奥にある不変的なものを見出し、その土台の上に新しいビジョンをつくっていただきたいのです。
一流のリーダーは「」どれだけ相談・調査しても、最後はリーダーの直感さて、ではリーダーは、いかにして次に進む道を決めているのでしょうか?それを知ることができるエピソードを1つご紹介しましょう。
数年前、ダボス会議ヤング・グローバル・リーダーの仲間たちとヨルダンで開催された中東会議に参加した際、日産自動車社長のカルロス・ゴーンさんが、「MeettheLeader」という私たちのワークショップのゲストに来てくださいました。
ゴーンさんのお話を聞いたあと、私たちがいろんな質問を投げかけたのですが、メンバーの1人だったある国の王子が、こんな質問をしました。
「私は将来、国王になり、さまざまな意思決定に関わることになるので、リーダーとしての決断について伺わせてください。
ゴーンさんは『日産はこれから電気自動車の開発を行う』と決めたそうですが、どうやって電気自動車のマーケットがあるという確信を得て、決断をされたのでしょうか?」ゴーンさんの答えは、ただひと言でした。
「直感です」——みんなが唖然とするなか、ゴーンさんは言葉を続けました。
「まだ世の中にないもの、これから新たにつくるものが売れるかどうかなんて、調査のしようがないでしょう?」それ以来、私は「社長トーク」で、リーダーの決断についても意識して聞くようにしています。
ゴーンさんは典型的なカリスマ型リーダーのイメージがありますが、じつはタイプに関係なく、ほとんどの社長さんが自分の決断の理由について「直感」と答えます。
もう1人、会社の大きな意思決定について伺った際に、「直感」と答えてくださった方をご紹介しましょう。
社会課題をクラウドサービスで解決する企業、株式会社スマートバリュー(本社大阪市)は、もともと自動車整備の町工場だったのですが、まだ携帯電話もない時代に、企業向け携帯電話の販売へと大きく事業を転換させました。
いまでは、もともとあった自動車整備部門を売却し、最先端のクラウドサービスを提供する会社になっています。
そんな決断ができた理由を代表取締役社長の渋谷順さんにお聞きすると、やはり「直感です」という答えが返ってきました。
メイン事業の変更というのは、リーダーの意思決定としては最大規模のものだと言っていいでしょう。
渋谷さんにとっても、考えに考えた末の決断だったのは間違いありません。
直感で決める人の「自信」はどこから来るのか?では、リーダーの決断を支える「直感」の正体とは、いったい何なのでしょうか?ここまでお話しすると誤解する方はいないと思いますが、「直感で決める」というのは、「当てずっぽう」とは違います。
リーダーの最も大切な仕事の1つは、進むべき方向・ビジョンをつくることでした。
広大な砂漠のなかで、北極星を指差し、「あの星を目指して歩もう」と信念を込めて仲間たちに語るのがリーダーです。
その信念は、迷いなきものでなくてはなりません。
誰からどんな反論を突きつけられても、揺るがないことが必要なのです。
では、そうした迷いなき信念のこもった決断はどこから来るのでしょうか?本当に直感だけでそんな決断ができるものなのでしょうか?きっとそんな疑問が湧いてくるのではないかと思います。
じつのところ、直感とは、考えに考えて考え尽くした末に、ふと浮かび上がってくる決意です。
単なる思いつきや何となくのヤマ勘ではありません。
ですから、リーダーの大切な仕事は、つねに考え続けることです。
考え続けた人にしか、直感は降りてきません。
考え尽くしたからこそ、どんな反論にも動じない信念が生まれてくるのです。
「自分で探し回る」から「」「偶然の幸運」に恵まれるリーダーの共通点数多くのトップリーダーとお会いしていつも思うのは、どのリーダーもつねに考え続けているということです。
「幸運の女神には前髪しかない」という言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが、幸運には「次」がありません。
チャンスだと思った瞬間に掴まなければ、幸運は逃げていってしまいます。
では、リーダーたちは、どうやって幸運の女神の前髪を掴んでいるのでしょうか?優秀なリーダーたちは、過去の成功を振り返る際に、よくこんな言葉を使います。
「偶然」「たまたま」この言葉を聞くと、リーダーというのは、運がよくなければならないのだと思う方もいらっしゃるのですが、そうではありません。
リーダーたちは、つねに考え続けているがゆえに、大事な情報を見逃さないのです。
その姿は、あたかも全身から「釣り針」が出ているような状態です。
つねに事業のこと、社員のこと、組織のこと、世の中のこと、いろんなことを考えていると、そこにはさまざまな疑問や問題意識という「釣り針」が出てきます。
だからこそ、それに関わる有益な情報という「魚」が次々と引っかかってくるのです。
ふだん何も考えていなければ、日々流れてくる情報をさほど気にとめることなく、見逃してしまうでしょう。
一方、全身から「釣り針」が出ているリーダーたちは、歩き回っているだけで、私たちが気にも留めないようなヒントやチャンスをどんどん釣り上げてしまうのです。
あなたの知っているリーダーは、飲みに行ったり、会食に行ったり、仲間と趣味を楽しんでいたり、新聞や雑誌を読んでいたり……と、いつもなんとなく遊んでいるように見えるかもしれません。
しかし本当に考え続けているリーダーにとっては、そうした時間すらもヒントとチャンスを与えてくれる情報源になっているのです。
「何もしていない」ときこそ、最大のチャンスが訪れる随分と前のことですが、10分1000円のヘアカット専門店であるQBハウスが世の中に登場した際、キュービーネット株式会社(本社東京都)の創業者である小西國義さんにお話を伺ったことがあります。
アメリカではあたり前だった10分1000円ヘアカットのビジネスモデルですが、日本ではさまざまなハードルがあったそうです。
その1つが、1000円という低価格のなかで、いかにして利益を上げるかという点でした。
「もっとスタッフの作業を減らすには?」「できる限り外部に支払うコストを減らすには?」そんなことを朝から晩まで考えていた小西さんが何気なくテレビを見ると、「携帯電話の普及によってテレホンカードの利用が激減し、カード販売機をつくっている会社が困っている」というニュースが流れていたそうです。
そこで小西さんが思いついたのが、テレホンカードの販売機を店舗の券売機にするというアイデアでした。
お金を入れてカードが出てくる仕組みなら、お客様が料金を支払ったかどうかがすぐに確認できますし、スタッフがレジに立たなくてもよくなります。
それに、売れなくなっている機械なので、ひょっとすると安く買えるかもしれない。
早速、そのメーカーに相談に行ってみると、さらにラッキーなことに、テレホンカードの販売機には通信機能がついていることもわかりました。
つまり、販売機と本部を電話回線でつなぐことで、売上の集計や管理のほか、不正・盗難の防止もできるという「おまけ」までついてきたのです。
小西さんの「たまたまテレビを見ていたら」「偶然新聞を読んでたら」という話は、これだけではありません。
「タオルの洗濯コストをもっと削減できないか?」と考えていたところ、ペットボトルからつくった使い捨てタオルのニュースが〝たまたま〟流れていて、すぐに採用を決めたというエピソードもあります。
希望するお客様には再生タオルをプレゼントするようにし、洗濯にかかっていた費用を一気に削減できたといいます。
また、お客様が来店した際に、「いまからお願いできますか?」「すみません、あと15分お待ちください」といったやりとりをしていると、そのたびにスタッフは作業の手を止めなくてはなりません。
小西さんは「この時間ロスをなくすには、どうすればいいだろうか?」といつも考えていたそうです。
ある日、テレビを見ていると、工場の機械の不具合を示すランプが赤く光っているシーンが放映されていました。
それを見た瞬間、小西さんは「これだ!」と思い、店の入り口にランプを設置しました。
待ち時間なしなら青、少し混雑なら黄、満員なら赤が点灯するようにして、スタッフがお客様に応対する手間を省いたのです。
私たちもおそらく、小西さんがヒントにしたのと同じような情報や映像に触れているはずです。
それがヒントとして映るか、単なる情報として通り過ぎていくかは、ふだんからどれだけ考えているかの違いでしょう。
ちょっとした情報をビジネスに活かし、10分1000円で利益が出るヘアカット専門店をつくり上げたのは、小西さんが「つねに考え続けるリーダー」だったからです。
もの静かな外見、
轟音を立てる脳内最高のリーダーは「何もしない」、つまり現場で手を動かすことはしないにしても、とにかく頭を働かせ続けています。
QBハウスの小西さんだけでなく、「社長トーク」にお越しいただいた経営者さんたちも、物静かな外見とは裏腹に、頭のなかは怒涛のごとく高速で回転しているというタイプの方がたくさんいらっしゃいます。
靴下を製造・販売する株式会社タビオ(本社大阪市)の創業者である越智直正会長もつねに考え続けるリーダーです。
「靴下はわが子と同じだ」と語り、「靴下の神様」とも称される越智会長は、なんと1970年代に、生産から販売・在庫までを一貫して管理するサプライチェーン・マネジメント(SCM)のシステムを構築しました。
我が身の分身とも言うべき靴下が売れ残るのがあまりに悲しく、なんとかせねばという一心で、まだSCMの概念もなかった時代に、自ら勉強をしてシステムをつくり上げたというから驚きです。
アパレル業界最強とも言われたSCMをつくった越智会長ですが、ご本人はこんなふうに語ってくださいました。
「サプライチェーン・マネジメント?そんな言葉、知らないよ。
靴下が売れ残るのが嫌で、そうならないためにはどうするかをずっと考えていただけ」また、越智さんとの対話のなかで印象的だったのが、「気を抜くと靴下のことを考えてしまう」という言葉です。
仕事中はもちろんなのですが、休憩中ですら、うっかり気を抜くと、すぐに靴下のことを考えているというのです。
まさにこれは象徴的なお話です。
リーダーとして結果を出す人は、考えることが常態化・習慣化しています。
チームのなかで誰よりも「考えている」のがリーダーなのです。
「心配性」な人ほど、最高のリーダーになる誰よりも「高解像度」でチームを見ているかタビオの越智会長に限らず、成功しているリーダーは、常日頃から考え続け、考え抜いています。
しかも、大きなビジョンや戦略だけではなく、どこで、誰が、どのようにやるか、誰の責任で進めていくのか、メンバーは足りているか、足りないならどう手当てするのか、ほかのチームに支障がないか、どれくらい利益が出るのか——そういった細部までを徹底的に考え抜いているのです。
リーダーがそんなに細かいところまで考える必要があるのかという疑問も湧いてくるところですが、じつはこうした細部が気になってしまうのが、優秀なリーダーの共通点でもあるのです。
リーダーとして高いポジションへ上がるほどに、多くのことが気になってくるというのが現実です。
経験が増えるからでもありますが、やはり仕事全体を高い解像度で見通せる人がリーダーになっているということだと思います。
とはいえ、経験が少ない人、大雑把な性格の人はいいリーダーになれないのかというと、そんなことはありません。
経験が少なければ、チームのメンバーたちとシミュレーションを徹底的に行ったり、経験がある人に入ってもらってアドバイスを得たりすればいいのです。
細かいことに気を配るのが苦手なリーダーは、緻密な配慮ができる人にサブリーダーを務めてもらうのも1つの方法でしょう。
計画どおりに進むプロジェクトなどまずありませんから、大切なのは、全体を包括する視点を持つと同時に、個別の部分についてもある程度の仮説・想定を持ち、現場で起こり得るリスクに備えておけるかどうかです。
そして、高い解像度でプロジェクト全体を見通すためには、メンバーの力が不可欠です。
だからこそ、ビジョンが重要なのです。
プロジェクトの目的を共有し、その成功のためにワクワクし、力を最大限発揮したいと思ってくれるメンバーが集まれば、プロジェクトの全体像が自ずと高解像度で見えてきます。
極端に心配性で、最高にポジティブ「社長トーク」にお招きした社長さんや、お目にかかる機会があった起業家・経営者の方とお話ししていると、「この人、ちょっと心配性すぎるのでは……?」と思ってしまうことがあります。
ビジョン型リーダーなどと言うと、「全体をさっと見渡して、ざっくりとしたことを言うだけの人」というイメージを抱かれるかもしれません。
しかし、どちらかと言えば、「細かいことが気になって仕方がない心配性の人」のほうが多いのが実情です。
カー用品で有名な株式会社イエローハット(本社東京都)の代表取締役社長・堀江康生さんは、こう打ち明けてくださいました。
「社長になると、何もかもが気になりだします。
『あれが心配』『これが心配』と小さなこともやっぱり気になるんです。
部長の上には本部長、取締役の上には社長がいますが、社長にはもう次に投げる人がいない。
精神的な負担はだいぶ違うと思います」社長就任から半年間は、夜中に必ずシャツを着替えるほど、寝汗をかいていたそうです。
それくらい心配事が多かったということでしょう。
ただし、優秀なリーダーはただの心配性で終わりません。
心配と向き合うために、やっぱり「考える」わけです。
堀江さんもこんなふうに語っていました。
「とにかく頭を動かさないといけない。
サウナに入って考え、サウナから出て考え、布団のなかで考え、電車のなかで考え……。
どの社長もみんな、実質的には24時間考え、仕事と個人のすべてが一体化していると思いますよ」私がリーダー取材にのめり込んだ秘密も、まさにここにあります。
優秀な社長たちとお話しするのは私にとって最高に楽しい時間です。
なぜかといえば、彼らは極端に心配性でありながらも、決してネガティブではないからです。
ですから本来なら、「心配性」というより「繊細」とか「緻密」と表現すべきかもしれません。
ネガティブな人ではなく、ネガティブチェッカーであり、考えに考えて考え抜くリスク管理者なのです。
「極限の繊細さ」を持つ人だけが、「」少々逆説的な言い方ですが、心配性な人が「ただの心配性」にとどまっているのは、まだまだ心配が足りないからです。
「もうこれ以上は心配できない」というところまで、徹底的にあらゆる可能性を考え尽くすと、そこには自信しか残りません。
優秀なリーダーたちが自信に満ちているように見えるのは、徹底的に心配し、考え抜き、手を打った結果、「やるべきことはやり尽くした」という実感を持っているからではないかと思うのです。
あらゆる角度で考えて、膨大な数の仮説を立てる。
誰よりも緻密にネガティブチェックをしているからこそ、自信を持って前に進める。
その様子が、考え尽くしていない人間からすると、大胆に「見える」のでしょう。
一方で、「自分は心配性ではない」というリーダーは、まだまだチームや組織に対する責任感が不十分なのかもしれません。
全体を見渡す際の解像度が低いままで、気づいてしかるべきリスクに目が行っていない可能性もあります。
心配性の人は、優れたリーダーになる素質があります。
ですから、単なる心配性の人で終わらないために、さらに具体的に、細かく細かく心配し尽くせるようになっていただきたいと思います。
「みんなに相談」から「」決断の全責任はリーダー1人に「リーダーは孤独である」という話を一度や二度は耳にしたことがあると思います。
最後に決断を下すとき、リーダーはたった独りだからです。
民主的な多数決がある世界でも、重要事項の決定はトップに委ねられていることが少なくありません。
私が出席している取締役会や政府の委員会などでも、最終的には「議長一任」ということがほとんどです。
最後の最後の決断は、やはりリーダーの仕事です。
もちろん、上司や部下に相談するのは間違いではありませんが、決断するのはリーダー自身であり、その責任はリーダー1人が負うのが原則だということを肝に銘じておく必要があります。
たとえその決断が失敗を招いても、すべてはリーダーのせい。
意見をくれた人には決して責任を問うべきではありません。
また、たとえ何か意見を求めたとしても、上司の顔色を伺って肯定的なことしか言わない部下もいるでしょうし、一部のメンバーだけに相談していると、「あのリーダーは依怙贔屓している」という声が組織・チーム内に出てくるかもしれません。
サッカーの岡田武史監督は、日本代表の監督をしていた当時、選手とは絶対にプライベートな食事に行かないようにしていたそうです。
人間なので、一緒にご飯を食べたりするとどうしても情が移り、直感や決断が鈍るというのです。
「結婚式に参列したりしたら最悪だよ。
『あいつにはあのかみさんがいるんだ』と思ったらスタメンから外せなくなる。
おれ、そういうのに弱いんだよね」ベストな決断をするために、特定のメンバーと関わりすぎないように気遣い、メンバー全員をフラットな目線で見られるようにする。
リーダーにはメンバーとの距離を保つバランス感覚も求められるのです。
これも「リーダーは孤独である」という言葉の1つの側面だと言えるでしょう。
リーダーの相談は「」私がふだんお会いするリーダー、つまり企業の社長さんたちは、勉強会や飲み会、ゴルフなど、リーダー同士のコミュニケーションの場を頻繁にお持ちです。
そこは、リーダーたちの自然な意見交換の場になっています。
意見交換といっても、何か具体的な課題に対しての「答え」を教えてもらおうというわけではありません。
自分の考えを固めていくための根拠を求めたり、第三者からどう見えるかを確認したりしているのです。
あらかじめ「自分なりの仮説」があったうえで、それを補強する材料を集めているというイメージでしょうか。
お仕事でご一緒する経営者や「社長トーク」にいらっしゃる企業リーダーとお話ししていると、「対話における私の存在は、テニスの壁打ち用の『壁』みたいだ」と感じることがあります。
私との対話を通じて、彼らは自社のビジョンや事業内容、その意義について、自分自身と語り合っているように見えるからです。
それはあたかも、自分にいちばんしっくりくるフォームを探しているテニスプレーヤーのような感じです。
リーダーの方たちと対話をする際には、とにかく相手を否定しないように心がけています。
つねに肯定と共感・感動を持ってお話を伺っていると、彼ら自身もワクワクしながら未来を語ってくださいます。
たとえば、「社長トーク」でお話を聞く際には、社長さんが発した言葉をあえて「別の言葉」に言い換えながらあいづちを打ったりします。
すると、それが社長さんの頭のなかをさらに触発し、心のなかに眠っていたものが表に出てくるのです。
実際、こうした対話が、新たな事業展開へのきっかけ・ヒントになったりすることもあるようです。
第三者との対話は、他者という鏡を使った自分との対話であり、リーダーが自分の考えを磨き上げるときには欠かせない作業なのです。
相談されても「指摘」しない一方で、相談をするのが得意な人と苦手な人がいるように思います。
私自身も、人に相談するのが苦手で、どうしても自分で何とか解決しようとしてしまうことが多いタイプです。
しかし、さまざまなリーダーの集まりに出ていると、相談がとても上手な人に出会います。
そして、その相談を通じてどんどん仲間が増えていく人にもたくさん出会いました。
そこで次第にわかってきたのは、「相談されると誰でも意外とうれしく感じる」ということです。
ただ、相手の時間をいただき、経験や知恵を借りるのですから、それなりの心がけは必要です。
私が誰かに相談するときに気をつけているのは、いただいた助言を絶対に否定しないということです。
「なるほど」「そうですよね」「やってみます」など、何らかのかたちで相手の助言を受け入れるのです。
相手の話に100%同意できないとしても、そこには必ず学びになることがあるものです。
それを逃さず、絶対に何かを拾い上げようとする貪欲さが欠かせません。
逆に、メンバーから相談されるというケースもあるでしょう。
そんなときも、真摯に相手の話を聞くようにしましょう。
リーダー自身がメンバーにとっての「壁打ちの壁」になるのです。
人は誰しも自分のなかに答えを持っていますから、それを自らの力で見つけてもらうのが「壁」の役割です。
話を聞きながら何か気づいたことがあっても、ギリギリまで指摘しないようにし、とにかく最後まで話を聞くようにします。
そうすることで、メンバーが自ずと自分の答えと出会うことになるのを「待つ」のです。
相談内容に耳を傾けているうちに、リーダーであるあなた自身の体験とも重なり合うところが見つかり、自分の課題とも向き合うきっかけになるかもしれませ
ん。
相談は、互いを成長させるすばらしいコミュニケーションの1つです。
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