はじめに
リクルートグループで10年以上教えてきた「KPI講座」リクルートグループに対して、みなさんはどのようなイメージをお持ちですか?元気な営業の会社というイメージでしょうか。
スーモやホットペッパーなどのサービスのイメージでしょうか。人材を輩出している会社というイメージでしょうか。
あるいは、私が代表を務めていたリクルートテクノロジーズが多数のIT人材を採用しているので、最近はテクノロジーの会社と思っている方もいるかもしれません。
リクルート事件のイメージもあるかもしれません。
グループ概要を説明すると、売上高約2兆円、従業員数約4万5000名、海外売上高40%超、HRテクノロジー、メディア&ソリューション、派遣の3つの事業を行っている事業グループです。
私自身は2018年3月までの29年間、リクルートグループでさまざまな経験をしてきました。
外部からはそう見えないかもしれませんが、リクルートはどの部署もあるいは管理職や経営陣も「数字で判断」を行うことが得意です。
創業以来「PC(プロフィット・センター)制度」「版元制度」「価値マネジメント」「ユニット経営」など、現場の管理職に権限を委譲し、数字で進捗状況をモニタリングし、マネジメントを改善し続けてきています。
その土台の一部を担っていたのがKPIなのです。
私のKPI講座が11年間続いた理由
リクルートグループには「メディアの学校」という勉強会があります。
私はそこで、11年間「KPI」と「数字の読み方」の社内講師をしていました。講師といっても専属講師ではありません。自分自身が担当している業務のかたわら、年に2回。
1回あたり50名前後、累計1000名超のマネジャーやメンバー相手に講義をしていました。講座が次回以降も継続するかどうかは、受講者の受講後アンケートで決まる仕組みでした。
ですので、11年継続したというのは、自分で言うのもおこがましいのですが、人気講座であり続けたわけです。
11年間続いたのには、2つ理由があります。まず、受講者が事業で実際にKPIマネジメントができるようになったこと。受講者が新しいメンバーに私の講座への参加を薦めてくれました。
もう1つの理由は、私自身が新規事業の立ち上げでKPIマネジメントを実践していたことにあります。
11年間の後半にあたる5年目からの6年間は、私自身が実際にサービスの事業責任者になり、KPIマネジメントを活用しながら事業運営をしました。
そのタイミングで講義内容を刷新し、今までの理論に加えて、私自身が担当している事業のリアルなKPIマネジメントの設定、運用、改善の仕方を共有しだしたのです。
昔話や他人の成功体験ではなく、つねに現在進行形だったわけです。
私たちが設定したKPIによって担当事業がどのように進化したのか、あるいは私たちにはどのような葛藤があったのか、そして、マネジメントや現場はどのように変化していったのか……という手触り感満載の話をしたことで、うれしいことに受講者の皆も興味を持ってくれました。
ただ、私自身のプレッシャーは半端ではありませんでした。
KPI講座の人気講師を自任していた私自身が、実際の事業を担当して、「KPIマネジメントがうまくできなかったら……」というプレッシャーはすさまじいものでした。
しかも過去の講義内容は、社内のイントラネット上で、いつでも誰でも見られるのです。
過去の講義内容と現在の事業の結果に齟齬が生じたとしても、過去の講義内容の変更や削除ができないのです。
幸い、担当事業はKPIマネジメント導入をきっかけに成長軌道に乗り、そして私が事業担当を離れてから現在に至るまで、さらに成長し続けています。
それくらいKPIマネジメントはパワフルなツールなのです。
そろそろ「なんちゃってKPI」から脱却しませんか?
KPIマネジメントとは、次の3点を関係者全員で共有・実行・改善し続けることです。
①現在の事業にとっての最重要プロセスを明確にし(=CSF)②それをどの程度実行すると(=KPI)③事業計画が達成できるのか(=KGI)本書では、単に数値を見ながら事業運営する「なんちゃってKPI」とは一線を画す、徹底した現場主義の使えるKPIマネジメント手法を共有したいと考えています。
この本は、こうした私のリクルート時代の「メディアの学校」講師としての11年間の講座の内容がベースになっています。
毎回、講座の冒頭で、受講者が講座終了後、以下のような感想を持ってもらえれば、今回の講座は成功だと伝えていました。
「KPIに興味を持てた」「自組織のKPIを(知らない人は)確認してみよう」「自組織のKPIを(知っているけど使っていない人は)活用してみよう」「実際にKPIを作ってみよう」「誰かに今日学んだ話をしてみよう」この本を読み終わったあなたが、同様の感想を持っていただければ、とてもうれしいですし、この本を書いたことは成功だったと思います。
基礎から実践、レベルアップまで学べる毎回、講座では事前に受講者に「今回の講座でどのようなことを知りたいですか?」というアンケートをとっていました。
要望は多岐にわたりました。
本当の基礎の基礎から学びたい人から、かなりKPIマネジメントを実践している人からのレベルアップ要望までありました。
それら多様な人たちの満足度がいずれも高かったので、さまざまなニーズの読者の方々の役に立てると思います。
例えば、ある回の講座の事前アンケートのコメントを見てみましょう。
◎基礎からKPIを学びたい層
- KPIについて基礎から学びたい
- 「そもそもKPIとは」というところから勉強したい
- KPIが何か分からないので分かるようになりたい
- KGIとKPIの違いがよく分かっていない
◎実際にKPIを作りたい・実践に役立てたい層
- 日々の業務で触れるKPIの考え方、設定方法などを学びたい
- KPIが何かを知り、自分の業務へ活かしたい
- 実際にKPI設計のミッションがあるため体系立てて学びたい
- 適切なKPI策定ロジックを体系的に学びたい
- KPIの作り方についておおまかな内容を理解したい
◎KPIマネジメントのレベルアップをしたい層
- KPIにより業務改革できるマネジメント力をつけたい
- 事業計画策定やKPIモニタリングの実業務を今までよりも深めたい
- 開発プロジェクトのKPIの妥当性が判断できるようになりたい
- 事業KPIの設計、分析視点、考え方を身につけて、事業を受け持つ組織長と同じ視点で会話、議論できるようになりたい
- プロジェクトの投資決裁でKPIが妥当かチェック、もしくは立案できるようになりたい
本書はこのような疑問を解消したい人に満足してもらえると思います。
もちろん、KPIマネジメントは、万能薬ではありません。ですので、すべての状況で活用できるものではありません。ただし、KPIマネジメントを正しく理解し、正しく活用すると、その適用範囲はかなり広いのです。
きちんと理解した上でそれを使わないのと、知らないで使わないのは、大きな違いがあります。繰り返しになりますが、KPIマネジメントは、みなさんの想像以上に活用範囲が広いのです。ぜひ正しく学んで、活用してみてください。
『最高の結果を出すKPIマネジメント』もくじはじめに──リクルートグループで10年以上教えてきた「KPI講座」
第1章KPIの基礎知識
01KPIって何ですか?
「先輩、ケーピーアイって何ですか?」後輩に聞かれました。さて、あなたは、何と答えますか?講座の初期は、ヒントなしでこの質問をしていました。ところが、質問に対する回答が芳しくないのです。
例えば、当時の回答の一例を挙げると──「事業を数字で見ること」「たくさんの数字を管理すること」「売上や利益のこと」──といった回答が大半でした。
もしかすると、この本を手に取られた方の中にも、これらの回答が正解だと思う方もいるかもしれません。
誤って理解されがちな「KPIの定義」
詳しくは後述しますが、「事業を数字で見ること」や「たくさんの数字を管理すること」はKPIマネジメントではなく、単に数値でマネジメントしているわけですから、Indicatorマネジメントです。
KPIの「K」と「P」、つまりKeyPerformanceの部分が、すっぽり抜け落ちているのです。
「売上や利益のこと」という回答は、KGI(KeyGoalIndicator)のことを指しています。
KGIとKPIのつづりを比較すると、中央のP(Performance)とG(Goal)の一文字が異なっています。
つまり、KGIは最終的な目標数値を表現しているのです。
もちろん、きちんと説明できる人もいるのですが、数値マネジメントやKGI(KeyGoalIndicator)と混同した回答が目立っていました。
そこで、講座スタート3年目くらいから、次のような「ヒント」を加えました。
ヒント
↓
KPIは「KeyPerformanceIndicator」の略
Keyperformanceは「事業成功の鍵」Indicatorは「指標・数値目標」このヒントを付加すると、正解率は大きく上がりました。
そうなのです。
次の図を見てください。

KPIとは、「事業成功」の「鍵」を「数値目標」で表したもの。簡単ですね。そして、この単純で簡単な一文にKPIのすべてが詰まっているのです。
最大のポイントは、事業をただ「数字」で見るだけではなく、「事業成功」の「鍵」を「数値目標」として見ることです。
「事業成功」「鍵」「数値目標」と3カ所を「」にしているのはそういう意味です。大事な部分を強調しているのです。
つまり、KPIマネジメントをしているということは、「『事業成功』とは何か分かっているのか?」ということを問いかけています。
つまり、「事業成功」が何なのか分かっていないとKPIマネジメントは始まらないのです。
また、重要な鍵は1つなので、たくさんの「数値目標」を見ているのもKPIマネジメントではありません。
この「1つ」というのは、後で詳しく説明しますが、とても重要なキーワードです。
まずは覚えておきたい3つの登場人物
KPIについての全体像を図で説明しましょう。主要登場人物は次の3つ。
- ①KGI(KeyGoalIndicator)=最終的な目標数値
- ②CSF(CriticalSuccessFactor)=最重要プロセス
- ③KPI(KeyPerformanceIndicator)=最重要プロセスの目標数値
次の図の左右は時間軸を表しています。

左端は「現在」あるいは、「期初」そして右側が「未来」あるいは「期末」を表しています。つまり、左側から右側に向かって時間が流れていきます。
ちょうどゴールのマークがあるところが、「期末」のタイミングですね。会社によって半年後だとか1年後のことです。
ゴールの横にKGIがあります。
主要登場人物の1つめです。KGIはKeyGoalIndicatorの略で、最終的に期末に到達したい最も重要な数値目標のことです。
一般的には、企業全体であれば利益などの数値目標がそれにあたります。
営業組織であれば売上目標数値などが、あるいは事業開発であればユーザ数などの目標数値などがKGIにあたります。KGIは期末終了時に到達したいゴールの数値のことです。
わざわざゴールの話から始めているのは、しばしば関係者間でこのゴールの認識がずれていることがあるからです。
関係者間でゴールの認識がずれるのはなぜか?
ゴールの認識がずれるのは2カ所で起きがちです。
1つめは、そもそもゴールそのものがずれるケース。つまり目指しているものが何なのかがずれるケースです。
例えば、私たちの最終ゴールは利益なのか、売上なのか、ユーザ数なのかが関係者間でずれているのです。この状態を旅行でたとえることがあります。
ゴールは、旅行でいうところの「行き先」です。
フランスに行くのか、ハワイに行くのか、はたまた国内で福岡に行くのか、福島に行くのか、行き先が違っていたら、旅行計画は作れません。
信じられないかもしれませんが、実際の旅行計画で行き先が違うケースはまれですが、ビジネスのゴールについては、関係者間で確認していないケースが少なくありません。
もう1つは、数値がずれるケースです。
同じゴール、例えば「ゴールは利益」と合意を得られていたとしても、利益目標数値が異なることがあるのです。
特に最低限の目標数値と、可能であれば目指したい目標数値などがある場合は、要注意です。これも旅行にたとえると、旅行日程が異なるケースです。5泊なのか6泊なのか、あるいは予算などがずれるケースです。
関係者間で旅行費用のみで考えている人と現地でのコストも含んで考えているケースなどです。2つのずれをなくすためには、当たり前ですが、関係者間で事前に確認することが必要です。
ゴールと数値目標。
旅行にたとえると、行き先と旅行日程、あるいは予算を確認して合意を取る必要があります。
CSFは「最重要プロセス」
ゴールが何か、その数値目標はいくらなのか、確認して合意が得られると、次は主要登場人物の2つめのCSFです。
CSFはCriticalSuccessFactorの略です。直訳すると「重要成功要因」。事業成功のポイントを表しています。
KGIを達成するためには、やらなければならないプロセスがたくさんあります。その中で、最も重要なプロセスのことです。
プロセスですので、結果であるゴールではなく事前に実施する内容のことです。
例えば、営業組織であれば、売上というゴールの前に、その売上を上げるために行う顧客訪問や提案活動などのプロセスを指します。
つまりCSFをきちんと実行していれば、結果としてゴールにたどり着けるプロセスがCSFです。また、プロセスなので、現場がコントロールできるものである必要があります。
現場の努力で変化するプロセスであることは必須です。そのプロセスの中で、最も重要なプロセスを1つ選択します。それがCSFです。

KPIはCSFを数値で表したもの
そして3つめが真打登場。KPIです。KeyPerformanceIndicatorです。KPIは、2つめの登場人物であるCSFを数値で表現したものです。
つまり、最も重要なプロセスであるCSFをどの程度実施すれば、期末にKGIが達成できるのかを表す数値がKPIです。
逆に表現すると、期末時点でKPIを達成していれば、結果としてKGIは達成できているといえます。次の図に三者の関係を示しました。

KPIについてまとめます。
KPIは、KGIの先行指標で、(現場がコントロールできる)プロセス指標で、CSF(事業成功の鍵)の数値目標です。
KPIに加えて、KGIやCSFという言葉が出てきて混乱したかもしれないですが、ここでは最低限、KPI以外に大事な言葉が2つあることを覚えておけば大丈夫です。
02ダメダメKPIの作り方でありがちなこと
講座ではKPIを作ったことがあるかを聞きます。自信ありそうに手を上げる人はいません。当然ですね。自信があれば、私の講座に出席する必要はありません。
続いて、その手を上げてくれた人たちにさらに質問をします。「うまく活用できていますか?」と聞くと、そのうち、半分弱の人は、やはり自信がないと回答します。
その活用できていない人たちの共通点は何か?それは、KPIの作り方、つまり手順が間違っているのです。間違った手順で作れば、当然うまくいきません。
次の図によくある典型的な間違ったKPIマネジメントの運用とその結果をまとめてみました。
これは、組織がはじめてKPIマネジメントの導入を決め、担当者を任用し、その担当者が自己流で実施するケースでよくあるパターンです。

KPI設定で間違えやすいポイント
この図には間違いポイントがたくさんあります。
例えば、分かりやすいところでは、KPIマネジメントの主要登場人物「KGI」「CSF」「KPI」のうち、登場するのが「KPI」だけです。
登場人物が不足しているので、うまくいかないのは当然です。
しかも登場するのは、最後の最後で、「KPIは運用が大変なのに使えない」というところです。KPIマネジメントがうまくいっていないと嘆いているケースの大半でみられる傾向です。
最重要な数字に焦点を絞るKPIマネジメントと、いろいろな数値を管理するだけの数値マネジメントを混同している人も多いのです。
図の最初のステップ1「出せるデータを集めてみる」だけをして満足している人も少なくありません。「まず、現状把握してみよう!」というわけです。この現状把握をしましょうという話だけであれば問題は限定的です。
しかし、実際にデータを見始めると、現状把握ですまないケースが多いのです。
ステップ2の「とりあえずこれを定期的に見る」、そしてステップ3「とりあえずやってみる」、ステップ4「なんとなく目標を決めてみる」と「なんちゃってKPI」の決定まで一気に進んでしまうのです。
繰り返しになりますが、最終的に到達したいゴールにおけるKGIも確認していません。当然、関係者でコンセンサスも得ていません。さらに、このKGIを実現するために最も必要なステップであるCSFも確認していません。
にもかかわらず、CSFの数値目標であるKPIだけを決めてしまうのです。この段階で、さらによくあるダメなケースが4つあります。
1つめは、たくさんの数値目標を設定しているケース。
これでは、KPIのキー(Key)ではなく、単純に数値マネジメントですね。
2つめのパターンは、現場でコントロールできない指標をKPIとして設定しているケースです。
3つめは先行指標ではなく、遅行指標を選択しているケースです。2つめと3つめのダメなパターンについて詳しく見てみましょう。
GDPをKPIと設定したダメダメな事例
長期データで確認したところ、私たちの事業売上とGDPの間に強い相関があることが分かりました。よってGDPをKPIとして設定しました。これが大間違いです。
このケースにおけるGDPは1つの例で、これ以外の政府統計数値、例えば有効求人倍率や景気動向指数などであっても同じです。
この失敗ケースは、少し数字を読める人、あるいは統計ソフトなどを使い出した初心者が陥りやすい罠です。
私自身も20年ほど前は、同様の失敗をした経験があります。
何がいけないのでしょうか?実際のKPIマネジメントの運用をイメージすることができれば、この失敗ポイントがよく分かります。
1つは、KPI数値が悪化した場合の対応です。
KPIが悪化した場合は、何らかの打ち手を講じて、KPI数値の改善を志向します。
例えば、サービス利用者数の目標がKPIであった場合、その数値が悪化した場合、数値改善のために集客活動を強化するわけです。
ところがGDPという統計数字、しかも国全体を表している数値が悪化した場合はどうでしょうか?私たちのような一民間企業に打ち手はありません。1つの会社、サービスでGDPを変化させることは不可能です。
つまり、KPIに設定したGDPの数値が悪化した場合は、KPIを向上させるのではなく、ゴールであるKGIの数値を変化させることしかできません。
具体的には、KGIの目標数値の下方修正です。実際、景気動向の変化から最終的な目標数値であるKGI設定を変化させることはありえます。ただし、それは期初に目標設定を行う場合や、目標数値を修正する場合に行うことです。

つまり、事業計画立案・修正時に行うことです。
数字に関連する業務ではありますが、残念ながらこれはKPIマネジメントではありません。
KPIマネジメントは、「KGIを達成するために今何をしたらよいのか」をモニタリングし、必要に応じて対策を打つためのマネジメント手法だからです。
もう1つまずいポイントがあります。GDPやその他の政府統計数値は、その数値が出るのが遅いということです。例えば9月までの数値が出るのは、翌月や翌々月に発表になります。
長期にデータの関係性を確認する場合には、このデータの遅効性は問題になりません。過去のデータだけ、つまり入手できる範囲のデータで分析をすればよいからです。
しかし、KPIマネジメントは、できるだけ旬な、できれば現在、この瞬間の数値把握が重要です。入手できるのが遅い数値では、打ち手の改善にタイムラグが起きるのです。これは、政府統計数値に限りません。
データが即時に入手できることも重要なポイントの1つです。
GDPなど、私たちがコントロールできない数値、あるいはコントロールできたとしても入手できるのが遅い数値はKPIとして運用に耐えられないことを覚えておいてください。
定期的に見る指標にCSFがないダメダメな事例
よくあるダメなケース最後の4つめは、本項最後の図に示すように定期的に見ている指標の中にCSF候補がない場合です。
例えば、売上、利益、顧客数、平均顧客売上など、定期的にさまざまな数値を見ているケースなどで起こります。
これらの指標の中からKPIを選択するわけです。そしてこの数値をモニタリングします。
当たり前ですが、間違った指標や数値を見ながらマネジメントしていては、事業運営がうまくいくわけがありません。
いわば、スピードメーターが間違った自動車で運転しているようなものです。
時速60kmで走っていけば、時間内に目的地に到着する場合、速度計を見ているつもりが、別の数値を見ていたとしたらどうなるでしょう。時間通りに目的地に到着するわけがありません。
あるいは、スピードメーターではなく、ほかのメーターを見ていたとしたらどうでしょう。間違ってスピードオーバーして、交通違反で捕まってしまいます。
間違った指標を見ながらマネジメントをしているのですから、「なんちゃってKPI」数値が悪化した場合に、ステップ6として、対策を検討しようとしても、現場から「指標がおかしいんじゃないの?」とか、「目標が高すぎるんじゃないのか?」という声が聞こえてくるのも当然です。
KPIを設計したスタッフも一生懸命に数値作成をしたのですが、自己流なので自信がありません。なかなか論理的に反論できません。結果、現場からも運用スタッフからも同様の声が聞こえてきます。
「KPIは運用が大変なのに使えない!」そして、KPI運用はしりすぼみになっていきます。でも、本当は自分たちのやり方が間違っていただけなのです。では、どのようにすれば正しいKPIマネジメントができるでしょうか?

03どうやってイケてるKPIを作ればよいのか?──KPIのステップ①・②
図に標準的なKPIマネジメントのステップをまとめました。この図の説明順に作成すればイケているKPIができあがります。

それでは、ステップごとのポイントをみていくことにしましょう。最初の2つのステップはKGIの確認と現状とのギャップの確認です。
最初に、自分たちの組織の目的地はどこなのかを確認することです。企業であれば利益、営業組織であれば売上、事業開発中のサービスであればユーザ数などが考えられます。
このゴールが関係者間でずれていると話になりません。私たちのゴールは何なのか、そしてその目標数値はいくつなのかを関係者で確認しておくことが重要です。
そして、現状の延長でいくと期末にはどうなるのかを予測します。その予測数値とKGIのギャップを把握します。もしも、このギャップがないのであれば、KPIマネジメントは不要かもしれません。
04プロセスの確認・モデル化──KPIのステップ③
予測数値とKGIのギャップがない場合、つまり、このまま事業運営すればKGIを達成する場合は新たなことをする必要はありません。
しかし、多くの組織はKGIとのギャップがある場合がほとんどです。そのようなとき、KPIマネジメントが威力を発揮します。
例えば、このままでは利益目標が達成しないと分かった場合、どうすればよいのでしょうか。
利益は「売上-費用」で表されます。ですので、方法は大別すると2つです。具体的には、売上を上げるか、費用を削減するかの2つです。
自社のビジネスを数式としてモデル化する
まず「売上を上げる場合に、どうするのか?」を考えます。具体的には、自社のビジネスがどのような数式として表現できるのかモデル化します。最もシンプルに売上を表現すると。
販売数量×平均単価と表現できます。
販売数量は「アプローチ量×歩留まり(CVR)」と表現できます。歩留まり(CVR)とは、ある量から最終的な成果に至る割合を示す指標です。コンバージョンレートともいいます。
この例では、アプローチから販売に至る割合です。平均単価を価格と略すと、「売上=アプローチ量×歩留まり(CVR)×価格」の掛け算で表現できます。
売上を上げるための選択肢は、次の3つに大別できます。
①アプローチ量を増やす②歩留まり(CVR)を向上させる③価格を上昇させる

そのために私たちは何をすればよいのかを考えます。例えば営業活動を例にすると、次の図に示したような数式になります。

アプローチ数(量)を増やすために、営業対象顧客数を増やすというのもあるでしょう。そのために、営業担当の数を増やすというのもあるかもしれません。
営業歩留まり率(CVR)を向上させるのも、顧客にインセンティブを付与するのもあるかもしれません。従業員を教育するのもあるかもしれません。
価格の場合は、正価を上げることもできますし、値引きを小さくすることもできます。どうやって数値を変化させるのかを考えるわけです。
05絞り込み(CSFの設定)──KPIのステップ④
たくさんの変数がある中で、最も重要なプロセスをステップ④で絞り込みます。これがCSF(最重要プロセス)の設定です。絞り方は2つのステップで進めるとよいでしょう。
例えば、私が担当していた営業開発案件では、売上=量(利用者数)×CVR(歩留まり率)×平均単価(価格)という式で表現できました。
ステップ1定数と変数を分ける
まず、数式の中でどれが定数で、どれが変数なのかを分離することです。定数は変化しないわけですから、CSF候補から除くことができます。定数といってもまったく数値が変化しないケースはまれです。
実際、多少は変化するのだけれど、定数とすることができる、あるいは、現場のオペレーションではコントロールできる範囲が小さい要素を定数と置きます。残ったものが変数になります。
ステップ2残ったものからCSFを選択する
例えば、私が事業開発を担当していたときのケースです。
売上=量(利用者数)×CVR(歩留まり率)×平均単価(価格)のうち、価格を定数と置きました。
実際は少し変化するのですが、この価格を上げるというオペレーションをしないと決めた、あるいはできないと確認しました。
利用者(個人)に企業を紹介するのですが、いくらの商品を購入するのかは、利用者の状況と企業の商品力と営業力に依存する部分が多く、我々ではコントロールができません。
コントロールできないので、定数だと置いたわけです。すると残りは量(利用者数)とCVR(歩留まり率)になります。
アプローチ量を増やすには、集客費用の投資など新たなリソースが必要になることが多いです。リソースとは資金や人員のことです。
私が担当していたのは事業開発、つまり新規事業の立上げでした。資金や人員は限られています。
私たちのCSFは自然とCVR(歩留まり率)となるわけです。
次にCVRを向上させるステップをさらに因数分解します。
例えば、認知→利用→企業紹介というステップに分解し、企業紹介を増加させることをCSFと決めました。
さらにデータを分析すると、利用者に企業を1社紹介するよりも、複数社紹介する方が成約になる可能性が高い(=CVRが向上する)ことをデータで把握できました。
結果、この複数社の企業を紹介することがCSFだと決めたのです。

06目標の設定──KPIのステップ⑤
ステップ④で設定したCSFをどの程度の数値目標にするのかが、次のステップ⑤の目標設定です。この数値がKPIなのです。
CSFを見つけることが重要で、それさえ特定できれば、KPIの目標設定は簡単です。例えば、ある会社が個人顧客に対して1種類の提案をすると受注率が10%。
複数案の提案をすると受注率が33%になることが分かりました。受注率=CVRを上げるには「複数案の提案」をすればよいわけです。
この「複数案の提案」こそがCSFです。受注の平均単価が10万円で、売上目標が1000万円の場合のKPIを計算してみます。
売上目標(1000万円)÷平均単価(10万円)÷受注率(33%)=303顧客に提案すればよいことが分かります。
この303がKPIなのです。
従来のCVR=10%のままであれば、1000万円÷10万円÷10%=1000顧客に提案が必要だったわけですから、このCSFを見つけることができた効果が分かると思います。
ここまでがKPI設定の一つの山です。

07運用性の確認──KPIのステップ⑥
そして、これ以降がもう1つの山です。もう1つの山は、「KPIマネジメントをきちんと運用できるのか?」を設計するプロセスです。まずは、運用性を次のステップ⑥で確認します。
つまり、設定したCSFやKPIの理屈上の正しさと、実際に運用できるのかを事前に確認しておくのです。ポイントは3つ。
- 整合性
- 安定性
- 単純性
これらを1つずつ確認していきます。
理屈上の正しさを確認する「整合性」
1つめは、整合性。ロジックが正しいかということです。つまり理屈上の正しさの確認です。
具体的には、そのCSFが変化するとKGIも変化するのか。そしてKPIが達成するとKGIも達成するのかといった整合性を確認します。
先ほどの私の事業開発のケースでは、利用者(個人)に複数社企業を紹介するとCVR(歩留まり率)が向上することは分かっています。
しかし、現状は、1社しか企業紹介できていないケースが大半でした。現場には、このCSFのプロセスを強化して行動してもらうわけです。
具体的には、利用者(個人)にもう1社紹介して、商談をしてもらうわけです。すると、利用者(個人)も企業も時間と手間が増えてしまいます。
しかし、手間を増やして成果に結びつかなければどうしようと考えてしまいがちです。初めてKPIマネジメントを実施する際、実際のところやってみないと分からない場合が正直あります。
その場合でも、できる限り事前検証を行って、その事実を関係者と合意を取っておくことが重要です。
時間的に余裕があるのであれば、組織や地域や人員など対象を絞る、期間を限定するなど実験を繰り返して精度を高めてから全面展開するのが理想的です。
安定して運営できるかどうか
2つめは安定性です。KPIの数値取得が安定的にできるのかということです。
データ入手や加工の日程と他業務がかぶっていないか、そのデータ入手を外部に依存せざるをえないことはないかなど、安定的にデータをアウトプットできるのかを確認します。
先ほどの私の事業開発のケースでは、複数社の企業を紹介しているかどうかをカウントするだけなので、安定的にリアルタイムに数値が把握可能です。
今後はRPA(RoboticsProcessAutomation)などの進展により、少しくらい複雑な数値取得であっても、この部分の作業負担は減少していきそうです。
シンプルに理解できるかどうか
最後の3つめは単純性の確認です。
KGIとKPIの関係性がいかに正しくても、安定的にデータをアウトプットできたとしても、現場のメンバーがまったく理解できないのでは困ります。これらの関係性が分かりやすいか、単純なのかどうかの検討が必要です。
先ほどの私の事業開発のケースでは、複数社の企業を紹介しているかどうかは、データ的にも説明可能ですし、企業を1社紹介するよりも、複数社紹介した方が、利用者(個人)の行動シェアが高まりますので、成果は容易に理解できます。
ちなみに、「行動シェアが高まる」とは、利用者個人が3社の母集団から1社を決定する場合、1社紹介するよりも2社紹介する方が、決定会社になる可能性が高まることを言います。

08対策の事前検討とコンセンサス──KPIのステップ⑦・⑧
そしてステップ⑦では、KPI数値が悪化した場合の対策を事前に決めておきます。
数値が悪化した場合の対応策は、大別すると次の4つです。
①さらに資金を投入する
②さらに人を投入する
③両方やる
④現有戦力のままやる(つまり何も変えない)
しかし、実際に数値が悪化してから検討することになると、時間がありません。
結局、現有戦力のままやるという判断か、きちんと検討せずに必要な経営資源(人・モノ・金・情報)を多めに投入するしかなくなることが多いのです。
これでは原始的なマネジメントです。
ですので、事前にデータが悪化した場合の打ち手を決めておこうというわけです。
何を事前に決めておけばよいか
事前に決めておく項目は4つです。
- いつ(時期)
- KPIがどれくらい悪くなったら(程度)
- どうするのか(施策)
- 最終判断者(決裁者)
例えば、施策1か月経過後(=時期)、KPIが想定よりも20%低い場合(=程度)、他組織から人員を10名投入する(=施策)といった具合です。
4つ目の項目が案外重要です。施策の実施、非実施の「最終判断者(決裁者)」を誰にするのかということです。
KPIがうまくいっていない、つまり問題発覚時には、施策投入のタイミングが重要です。その際に皆で追加施策をやるのかやらないのか議論していていては意思決定できません。あるいは時間がかかります。
それを防ぐために、施策実施の最終判断者を事前に決めておくのです。通常は組織のトップにしておくのが最適です。
このケースでいうと、1カ月経過後(時期)、KPIが想定よりも20%低い場合(程度)、他組織から人員を10名投入する(施策)。
最終判断するのは○○専務(決裁者)といった具合に事前に確定しておくのです。この4つの項目を決めておき、文章として残しておきます。
これにより、KPIの数値悪化時に短時間で意思決定できるようになります。
そして次のステップ⑧では、今まで確定したKGIとKPI、そしてKPIが悪化した場合の施策と最終判断者が誰かを関係者間で確認を取ります。
確認が取れない場合は当然修正を行うわけです。ここまでの8つのステップを経てから、⑨運用に進むのです。そして、運用をした後もやりっぱなしではなく、⑩継続的に改善を続けます。
これらのステップは、いわゆるプロジェクトマネジメントの設計と同じで、運用までのこうした設計ステップがきわめて重要なのです。

コラム前からやるか、後ろから考えるか
ダメなKPIの作り方とイケてるKPIの作り方を比較すると、イケてるKPIは前半部分、つまり運用するまでにかなりの時間をかけているのが分かります。
ダメなKPIの作り方でKPIマネジメントの運用を始めると、運用後に問題が起きる可能性が高まります。
つまり、結果として、後になってから時間がかかることが多いのです。
イケてるKPIでは前半部分に「時間をかけ」、ダメなKPIでは後半部分に「時間がかかる」のです。
実は、ダメなKPIの作り方をする人は、KPIの作り方に限らず、仕事の要領が悪いケースが少なくありません。
私はこのタイプを「前からやる」タイプと呼んでいます。
そして要領がよいタイプを「後ろから考える」タイプと呼んでいます。
どのタイプなのか見分ける質問私は11年間KPIの講座だけではなく、もう1つ「数字の読み方、活用の仕方」というテーマで、リクルートグループのメディアの学校で講座を持っていました。
その講座での冒頭の質問です。
【質問】あなたはある営業部の営業企画担当です。担当事業部長から次のようなデータを渡されました(次の図参照)。

さらにこう言い渡されました。
「5月は計画通り、営業担当35人で売上1億500万円、1人あたり300万円の売上だった。とてもよい状態だと思う。とはいえ何か問題がないか確認してほしい」
あなたはどのような分析を行いますか?この課題に対しての受講者の態度は、おおよそ4つのタイプに分類されます。
- ①何もしないタイプ
- ②すぐに計算を始めて分析しだすタイプ
- ③何のために分析するのか考えるタイプ
- ④データの確からしさをチェックするタイプ
あなたは、どのタイプに近かったでしょうか?
①何もしないタイプ
これは数字にアレルギーを持っている人です。数字に関する仕事に対しては「努力をしないタイプ」に分類されます。まぁ、仕方ないですよね。
このタイプのメンバーには、数字に関係しない仕事をしてもらうのがよいでしょう。
②すぐに計算を始めて分析しだすタイプ
実は、この行動をとる人たちが私のいう「前からやる」タイプです。
そして、「一生懸命なのに要領が悪い」「がんばっているのに成果が出ない」メンバー予備軍なのです。
いやいや、仕事の着手が早いのはよいのではないかと反論が聞こえてくるかもしれません。はたしてそうでしょうか?このケースでいうと。
私は受講者に次のように伝えます。
- 「すぐに計算・作業を始めてはいけません!」
- 「データが正しいのかどうか、確認をする習慣をつけましょう」
- 「例えば、数字の桁数は妥当ですか?」
- 「構成比やシェアの数値に矛盾はないですか?」
- 「出所は確かですか?」
正しくないデータを分析した時間は、まったくの無駄。
さらに、正しくないデータで事業判断をすれば……。怖いですね。そうなんです。
この「目の前の仕事からやる」=「前からやる」タイプの方は、無駄な仕事や事故(間違った判断)をする可能性があるのです。
③何のために分析するのか考えるタイプ
これを選んだ人は、要領がよい人や生産性が高く成果を出す人が多く「後ろから考える」タイプと呼んでいます。
④データの確からしさをチェックするタイプ
これを選んだ人は、数字を正確に取り扱える人で、確度の高い仕事をするケースが多いですね。
さらに詳しく知りたい人は私が書いた次のウェブ記事をご参照ください。
BUSINESSINSIDERJAPAN努力しても成果がでない人はここに無駄がある──成果を出す人は「後ろから」考えるhttps://www.businessinsider.jp/post-108611
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