はじめまして、メンタリストのDaiGoです。
「禁煙」をテーマにしたこの本を手に取ってくれたあなたは今、何らかの理由と動機があって、「タバコをやめたい」という気持ちを持っているのではないでしょうか。
そして、禁煙に挑むのは初めてのことではないはずです。
なぜなら、禁煙の成功率というのはそもそも低いものだからです。
ただし、過去に禁煙にチャレンジしたものの、再び喫煙を再開してしまった人も罪悪感や挫折感を抱かないでください。
あなたが失敗を繰り返したのには、理由があります。
多くの喫煙者は、成功率の高い方法を知らないまま「意志力」と「根性」だけでタバコをやめようとしています。
でもタバコは、「意志力」と「根性」でやめられるものではありません。
本書はエビデンスに基づいた禁煙に効果のある心理的介入(心理学的に正しい禁煙法)を複数提示しながら、意志の力にも、根性にも頼らず、我慢もしない心理学的に正しい禁煙法をご紹介していきます。
この方法で、人生最後の禁煙にぜひチャレンジしてください。
はじめに
2012年、カナダにあるトロント大学が行った調査に「喫煙者が禁煙に成功するまでに何回失敗したか」というものがあります。
この調査によると、1277人の喫煙者を3年にわたって追跡調査。
その結果、禁煙達成者の禁煙チャレンジ回数は、6.1回~29.6回であることがわかりました。
ちなみに、6.1回に近い数字を回答した禁煙達成者は少数派で、多くの人は29.6回に近い数字を申告したことがわかっています。
つまり、禁煙達成者も20回程度は失敗しているということです。
今回、私は「タバコをやめる強い意志を持て」というメッセージを伝えるつもりはありません。
というのも、「やめる!」という強い意志や、「我慢する」という方法で、禁煙はうまくいかないからです。
なぜ、うまくいかないと言い切れるのか。
それは、意志力はかんたんにあなたを裏切り、欲求と習慣は軽やかに自制心を超えていくからです。
●意志力なんてあてにならない
まずは意志力がいかに儚いものかを見ていきましょう。
例えば、「タバコが体に悪い」「肺がんの原因になる」といった喫煙のデメリットについては誰もが知っていることです。
しかし、タバコは今も売れ続け、世界中に愛煙家がいます。
吸ったらよくないのはわかっているけど、やめられない。
つまりやめたいという「意志力」は、「吸いたいという欲求」によってまんまと抑え込まれてしまうのです。
一方、もし、あなたの目の前に致死量の毒を含んだタバコがあったとしましょう。
そして、「この3本を吸いきったら、死にます」と言われたら、手を出すでしょうか。
毒の処理をしていないふぐ料理を出されて、「おいしいですが、食べたら死ぬかもしれません」と言われて箸を持つ人はいないでしょう。
つまり「死」という明確なデメリットが見えていればタバコを吸う人はいないはずです。
これは意志の力ではなく、死の恐怖が喫煙の欲求を上回るからです。
でも、「喫煙による血管の劣化は、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めます」「喫煙は肺がんのリスクを高めます」という注意も、どちらも「死」という明確なデメリットを意識させるものです。
ではなぜこれは、強力な禁煙のトリガーになりえないのか。
その理由は、リスクが顕在化するのが数十年先のことだからです。
ゆるやかに近づいてくる死には目を向けない。
未来の損は、今、気にするべき損ではないと人は考えるからです。
むしろ、将来の病気のために、現在の欲求を制限することの方が大きなデメリットだととらえてしまう。
これが「双曲割引」という心の動きです。
●吸うことを心が正当化している
タバコを吸う人の心では、意識している、していないにかかわらず、常に「認知的不協和」が発動しています。
認知的不協和とは、簡単に言うと「都合の悪い情報に触れたとき、自分にとって都合のよい情報や解釈を用いて自らの行動を正当化すること」です。
タバコのパッケージには喫煙のデメリットが書かれ、国会では受動喫煙被害を防ぐ健康増進法改正案が成立。
喫煙者は非常に風当たりの強い状況にあります。
これからはさらに不都合な状況で、ストレスを感じ、心理的に不快な状態になっていくわけです。
にもかかわらず、「自分を不都合な状況に追い込んでいるタバコをやめてしまえばいい」と考えないところが、人間のおもしろいところです。
認知的不協和を理論化したアメリカの心理学者レオン・フェスティンガーは、人は不協和に直面したとき、3つの方法で自らを正当化すると定義しました。
①行動を変えて正当化する
「そろそろ健康にも気をつけないといけないな……」と考えて、食生活に気を配り、運動も始めるが、「受動喫煙を気にする人が多いなら、外で吸うのはなるべく控えよう。でも家や喫煙所なら気にしなくてもいいだろう」と、吸う本数自体は減らさない。
②情報や環境にフィルターをかけて正当化する
「自分はそれほどヘビースモーカーではない。もっと吸っている人はたくさんいる」と考えてこれまで通り吸い続けたり、「喫煙と肺がんの関係性や受動喫煙のリスクに関するデータには間違いがある!おかしな考え方だ」と怒り、信じない。
③主観的な見方など新しい要素を加えて正当化する
「がんになる、周りに迷惑と言われても、食後の一服は最高の時間。タバコは生きがい。人の趣味嗜好に余計な口出しをしてほしくない」と考えたり、「祖父は喫煙者だったが、90歳まで元気で最期も安らかだった」と喫煙のデメリットに耳を貸さない。
人間はつじつま合わせがうまく、自分がタバコをやめなくていい理由を探し出し、「この選択で間違っていない」と思い込むことができます。その背景にある認知的不協和は自分を守るための防衛本能。ですから、これを意志の力で打ち破るのは困難です。しかも、正当化されたことで喫煙習慣はより強化されていき、批判が強くなればなるほどタバコへの愛着は高まっていきます。
●喫煙者がいる家庭は北京の空気と同じ!?
タバコを吸っている人と一緒に暮らすのは、北京の最も大気が汚いところで生活しているのとほぼ同じだという研究データがあります。
最近はだいぶ改善されたようですが、中国の深刻な大気汚染のニュースはあなたも目にしたことがあるのではないでしょうか。
青空を灰色に霞ませている原因は、大気中に浮遊する粒の大きさが2・5以下の微小粒子状物質で、PM2・5と呼ばれています。
PM2・5は、非常に小さな粒子なので肺の奥深くまで入り込みやすく、体に取り込んでしまうと全身の炎症を引き起こし、呼吸器・循環器疾患の罹患率や死亡率を上昇させます。
経済成長の著しい国では、工業の発展に環境整備が追いつかず、しばしばPM2・5による大気汚染が問題となってきました。
しかしじつは、タバコの煙、副流煙も最も身近なPM2・5の発生源です。
実際、喫煙者がいる家庭と喫煙者がいない家庭の空気の状態を調べると、前者のPM2・5の濃度が約10倍になっていました。
また、喫煙者と同乗する車内では、20倍に達するというデータも出ています。
つまり、同居している家族、配偶者、恋人が喫煙者の場合、非喫煙者は深刻な大気汚染に侵された街で暮らすのと同じ環境にいることになるのです。
これは同居している大切な人の健康に大きなリスクをもたらします。
ですから合理的に考えれば、喫煙者は意志の力を発揮して減煙ないし、禁煙に乗り出そうと思うはずです。
ところが、喫煙習慣はなかなか途切れません。
中には禁煙に挑戦して失敗した人もいますが、大半は認知的不協和を発動させ、「ベランダで吸えばいい」「換気扇の下で吸えばいい」と行動を変えて自身を正当化し、タバコを吸い続けます。
周囲の人がどれだけ理路整然と喫煙のデメリットを語り、禁煙を勧めても喫煙者に響かないのは、認知的不協和によって本人の中で吸うための理由づけができているからです。
仮に本人が立てた理由の1つひとつを潰していったとしても、最後は感情的な怒りによって相手の言葉をシャットアウトします。
その傾向は、知人よりも友人、親、恋人、配偶者と親密度が高まれば高まるほど強くなり、ときには大切な人間関係を壊すことにもなりかねません。
大切な人が正攻法で語りかけても、喫煙者のタバコを吸うという強固な習慣は打ち破ることができないのです。
●「意志力」「根性」「我慢」不要の心理学的に正しい禁煙法
では、どうすればタバコを吸うことをやめることができるのか。
過去の禁煙成功者のように20回以上ものチャレンジを繰り返さなければ、タバコにはサヨナラできないのでしょうか。
安心してください。
意志の力にも、根性にも頼らず、我慢もしない心理学的に正しい禁煙法とニコチンに対する薬物療法を組み合わせることで、タバコは確実にやめることができます。
本書では第2章以降、エビデンスに基づいた禁煙に効果のある心理的介入(心理学的に正しい禁煙法)を複数紹介していきます。
そのいずれかを組み合わせつつ、薬物療法でタバコへの身体的な依存の原因となっているニコチンへの対処を行えば、禁煙の成功率は格段に向上するのです。
これはアメリカ合衆国保健福祉省(HHS)の統計データですが、禁煙に関して1つの心理的介入(心理学的に正しい禁煙法)を行った場合、禁煙成功率は15・1%ですが、2つの心理的介入を使うと18・5%、3~4つを同時に使った場合は23・2%へと高まっていきます。
そして、国際的に非常に信頼度が高いとされているコクラン共同計画が行ったレビューによると、バレニクリンという禁煙薬を使った薬物療法での禁煙成功率は33・2%ということがわかっており、つまり、複数の心理的介入と薬物療法を組み合わせると、50%以上の確率で禁煙に成功するという裏づけがあるのです。
成功率は2回に1回。
意志の力と我慢でやめる場合、禁煙達成者でも20回は禁煙に失敗するわけですから、どちらが有効な方法かは明らかです。
●喫煙習慣を途切れさせ「禁煙」というゴールへ
意志の力にも、根性にも頼らず、我慢もしないとは、吸いたい欲求を抑えないという意味です。
1時間、2時間とタバコを吸わずにいると、ふと湧き上がってくる「吸いたい」という欲求はコントロールしにくいものです。
そんなときは「自分はタバコを吸いたくなっている」と観察し、その上で「タバコを吸う」という行動を起こさないようにするのが心理的介入による禁煙法の基本的な考え方です。
これこそが喫煙という行動を止め、喫煙習慣を途切れさせることで、禁煙というゴールに導きます。
では早速、レクチャーをスタートします。
朗報をお待ちしています。
2018年9月メンタリストDaiGo
メンタリズム禁煙法CONTENTSはじめに第1章なぜあなたはタバコをやめられないのか?タバコに関する「3つの誤解」誤解1本気を出せばタバコはやめられる誤解2タバコはニコチンの依存症だからやめられない誤解3タバコはストレス解消になる。
うまいから吸っている
第2章事前準備をする
「タバコをやめる」決心をする禁煙をまわりに宣言する動機づけをする30年以上の愛煙家を禁煙に導いた方法本書の使い方
第3章科学的に正しい7つの禁煙法最強の禁煙法
「CDCクイットプラン」とは?なぜ「CDCクイットプラン」が最強なのか?科学的に正しい禁煙法1〈CDCクイットプラン〉「禁煙開始日」を設定する禁煙開始日は「休日」か「長期休暇の初日」に設定する科学的に正しい禁煙法2〈CDCクイットプラン〉喫煙のトリガー(状況)を見極める本当に吸いたいかを確認する「環境から引き起こされた喫煙」≠「吸いたい欲求」科学的に正しい禁煙法3〈CDCクイットプラン〉喫煙リマインダーを消す科学的に正しい禁煙法4〈CDCクイットプラン〉「ifthenプラン」を立てる禁煙のための「ifthenプラン」のスリー・ステップ「ifthenプラン」のメモを「禁煙リマインダー」にする2つの禁煙法を組み合わせ、習慣の魔力による喫煙を止める科学的に正しい禁煙法5〈CDCクイットプラン〉一気に本数をゼロにする科学的に正しい禁煙法6薬物療法最も禁煙成功率が高い補助薬は?薬物療法の注意点科学的に正しい禁煙法7禁煙日記をつける禁煙日記のメリットとは自分専用の禁煙プランを完成させる
第4章禁煙成功を支える5つのメンタルテクニック
禁煙成功を支える5つのメンタルテクニック「自分はできる」という罠から逃れる禁煙を助けるメンタルテクニック❶「20秒先延ばし」テクニックダイエットや依存症対策にも効く「20秒ルール」吸いたい欲求を歌にする「脱フュージョン」禁煙を助けるメンタルテクニック❷採点法あえて吸いたくなる状況で欲求と行動を切り離す禁煙を助けるメンタルテクニック❸心理的対比脳のメカニズムで禁煙を持続させる禁煙を助けるメンタルテクニック❹「どうにでもなれ効果」回避テクニック「どうにでもなれ効果」を避ける3つの方法
禁煙を助けるメンタルテクニック❺瞑想トレーニングうっかり喫煙を避ける「瞑想トレーニング」
第5章大切な人を禁煙させたい人のための説得テクニック
大切な人を禁煙させたい人へ禁煙開始3日後がピークであることを知るニコチンの禁断症状(離脱症状)とは?禁煙には3カ月かかることを知る禁煙説得術❶「BYAF(ButYouAreFree)法」家族に「BYAF法」を使うときの注意点禁煙を自分で決めさせる禁煙説得術❷「誰かのため」を意識させる禁煙説得術❸褒めちぎる禁煙成功率を高める効果的な褒め方とは?「誘惑の少ない環境」作りに協力する
第6章DaiGo式禁煙プログラム
DaiGo式禁煙プログラム1日目禁煙を宣言する「タバコをやめる」ことをまわりに宣言する(パブリック・コミットメント)禁煙開始日を決める2日目~14日目禁煙のための準備をする喫煙のトリガー(状況)を見極めてリスト化する身の回りから喫煙リマインダーを捨てる吸いたくなったときのための「ifthenプラン」を立てる禁煙外来を訪れる15日目禁煙開始一気に本数をゼロにする16日目~90日目禁煙を習慣化する「禁煙日記」をつける禁煙初期は薬物療法を併用する「20秒の先延ばしテクニック」を使うタバコを吸いたい欲求を採点する吸いそうな状況を詳しくイメージする「どうにでもなれ効果」を回避する瞑想トレーニングを併用する心理的介入(心理学的に正しい禁煙法)は「禁煙」というゴールへ導く伴走者
タバコに関する「3つの誤解」「はじめに」でも触れましたが、禁煙成功者の禁煙チャレンジの回数は6・1~29・6回の幅にあり、多くの人は29・6回に近い数字を申告したというデータがあります。
これは「本人の意志の力でタバコを吸うのを我慢する」という一般的な禁煙方法がいかにハードルの高いものであるかを示しています。
喫煙者は「タバコをやめたい」と思い、「吸わない」と我慢し、何日か禁煙を継続したのち、何らかのきっかけで一服、喫煙を再開。
「また失敗した……」と落ち込む。
これをずっと繰り返しています。
「自分の我慢が足りないからうまくいかなかった」という挫折感は、禁煙に対する自己肯定感を低下させます。
その結果、自己肯定感が下がった人は、「諦める」という行動で自分の心を守るのです。
この状況を生み出す裏には、タバコに関する3つの誤解があります。
誤解1本気を出せばタバコはやめられる誤解2タバコはニコチンの依存症だからやめられない誤解3タバコはストレス解消になる。
うまいから吸っている一方、これに対する真実はこうです。
真実1意志の力でタバコはやめられない真実2ニコチンの依存性は高くない真実3タバコを吸う理由などなく、喫煙はただの習慣に過ぎない
本書では、これからお伝えしていく禁煙法をスムーズに実践していただくためにも、まずはこの誤解を解くところから始めたいと思います。
誤解1本気を出せばタバコはやめられる
まずは2つの研究調査の結果を紹介しましょう。
2004年、アメリカのバーモント大学が「禁煙補助薬やカウンセリングを使わない場合の禁煙成功率」を調査しました。
すると、何も使わないで本人の意志の力だけで禁煙した場合、成功率は4~7%という数字になることがわかりました。
禁煙成功者の禁煙チャレンジ数が6・1~29・6回であるというデータと照らし合わせても、「本人が本気を出せばタバコはやめられる」のハードルの高さがよくわかります。
また、2014年にコクラン共同計画が行った※メタ分析では、禁煙アプリや禁煙サイトを使ったセルフヘルプ系(自分の意志で管理する自己啓発系)の禁煙方法にも大きな効果は望めないことがわかりました。
同分析は、禁煙書の中で最大のベストセラーである『禁煙セラピー』にも特に禁煙成功率を上げる効果は見られなかったと報告しています。
ちなみに『禁煙セラピー』が禁煙のために指示しているのは、次の2つです。
・もう二度と吸わないと決意する
・ふさぎこまない。
禁煙したことを喜ぶもちろん、喫煙者本人が「タバコをやめたい」と望むことは、禁煙に不可欠です。
しかし、吸わないと決意しただけで、タバコから解放されたと喜んでいては、いずれ「1本だけ」の誘惑に負けてしまいます。
喫煙者の生活にはタバコを吸いたくなる「トリガー」が複数あります。
例えば、禁煙を始めたものの捨てきれなかったタバコ、思い出のこもったライター、車内にタバコの匂いが残っている愛車、ランチの後に喫煙所へ行く同僚たち、飲み友達が集まる喫煙OKのバーや居酒屋、煙を燻らせている過去のスナップ写真……。
ふとした瞬間にいずれかのトリガーからタバコに火を点けてしまい、喫煙の習慣が戻ってくるのです。
禁煙を継続するためには、「タバコをやめたい」という意志に加え、「生活環境の見直し」と「タバコを遠ざける習慣の導入」が欠かせません。
このとき「吸いたくなったら草原をイメージして、欲求を紛らわせよう」などといったセルフヘルプ系のメンタルテクニックは到底通用しません。
「タバコをすべて捨てる」「灰皿を物置にしまう」「喫煙習慣のある友人とは会わない」「喫煙可の店には行かない」などといった、具体的なアプローチが必要になります。
そしてなによりのポイントは、「そもそも意志の力だけの禁煙は難しい」と理解しておくことです。
困難な挑戦に挑むよりも、確率を高めるための「プランB」「プランC」を準備しておくのが、正しい禁煙への取り組み方です。
意志の力でタバコはやめられない※メタ分析ランダム化比較試験(参加者をランダムに2つのグループに分け、一方のグループには薬を、もう一方のグループには偽薬を渡し、服用してもらい効果を調査する試験)の中から信頼度の高いデータを大量に集めて、分析、結論を出したもので、メタ分析の結果は、最も科学的な信頼度の高いデータと言われている。
誤解2タバコはニコチンの依存症だからやめられない
愛煙家は冗談交じりに「ニコチンがきれると手が震える」「落ち着かないのはニコチンがきれたせい」「ニコチン不足で眠気を感じる」など、タバコを吸う理由の1つとして、ニコチン依存をアピールすることがあります。
たしかに、タバコの煙に含まれるニコチンは依存性の毒物です。
依存するまでのスピードが世界で最も早く、体内からなくなると禁断症状が出ます。
肺に入ったニコチンは血中に溶け込み、脳にあるニコチン受容体(アセチルコリン受容体)に結合します。
すると、快感を生じさせるドーパミンが大量に放出され、喫煙者は快感を味わいます。
これが、「タバコを吸うと落ち着く」「ホッとする」といった効用のしくみです。
しかし、ニコチンの体内での分解速度は早く、血液中のニコチン量は喫煙後30分で半分に、1時間後には4分の1に低下してしまいます。
すると、イライラする、落ち着かない、集中できない、眠くなるなどの禁断症状(医学的には離脱症状)が表れ、脳はニコチンを補給するよう再び求め、喫煙者は次のタバコに火を点けるというわけです。
ですから、タバコを吸いたい理由、やめられない理由がニコチン依存であるという説明は一見、理に適っているように思えます。
- しかし、あなたは寝ている間にタバコが吸いたくて目が覚めたことがあるでしょうか?
- 全面禁煙となった映画館でタバコが吸いたいからと上映途中に席を離れたことがあるでしょうか?
90年代に飛行機の機内が全面禁煙になって以降、欧米へ行く喫煙者は長時間のフライトの間、タバコを吸うことができなくなりました。
機内での全面禁煙が始まった当初こそ、「トイレで隠れて喫煙した人が海外の航空会社から高額の罰金を課せられた」「喫煙が発覚した時点で飛行機が出発地の飛行場に戻り、喫煙者が多額の賠償金を請求された」といった事件がありましたが、現在はほとんどトラブルなく運行されています。
つまり次から次へとタバコを吸うチェーンスモーカーも、機内では吸わずに我慢できているのです(こう書くと、我慢で禁煙が可能なようにも思えますが、彼らは経由地、到着地に着いた途端、喫煙所に駆け込みます)。
ポイントは、ニコチンに依存している喫煙者も環境が変われば、数時間、長ければ十数時間、タバコを断つことができるということです。これはニコチンによる禁断症状がさほど強くないことの証明でもあります。
たしかに、機内で座っている愛煙家はタバコが吸えないことでイライラや不安を感じています。
しかし「猛烈に吸いたい」という喫煙衝動は2、3分しか継続しないこともわかっています。
そして、ニコチンは禁煙を始めて3日間で完全に体外に排出されることもわかっています。
禁断症状はあります。ただし、それは吸えない環境であれば我慢できる程度の強さに過ぎません。
つまり、「ニコチンの依存症だからやめられない」は喫煙者の思い込みに過ぎないということです。
ニコチンの依存性は高くない
誤解3タバコはストレス解消になる。
うまいから吸っているあなたは、自分がタバコを吸い始めた理由を覚えているでしょうか?「先輩にもらって」「映画の主人公が吸っていてかっこよかったから」「なんとなく」「大人っぽく見えるから」喫煙者にこの質問をぶつけると、答えはさまざまですが、深い理由があって吸い始めたという人は少数派です。
しかも、「最初は咳き込み、苦しかった」「おいしいと思ったことはないけど、吸っている」「他人の副流煙には今でもイラッとくる」「じつはタバコの匂いが苦手」という喫煙者も少なくありません。
喫煙者に話を聞いていておもしろいなと思うのは、「おいしいわけでもないのになんとなく吸っているだけ」「ときどき、どうしてタバコを吸っているんだろう?と思う」など、喫煙に疑問を感じながらも吸い続けている人が多いことです。
もちろん、中には「味がいい」「匂いが好き」と言って嗜好品としてタバコを楽しんでいる人や、「ストレス解消になる」「目が覚める」など喫煙の効能をアピールする人もいます。
ただ、そういった人にも「吸っているタバコの1本1本が常においしいか」「ストレス解消になっているか」と聞くと、「本当においしいのは食後の一服だけ」「目が覚めるのは朝の1本目だけ」といった答えが返ってきます。
つまり、1日に10本、20本と吸っているタバコのうち、味や匂い、効能を実感しているのは数本で、それ以外はなんとなく吸っているのです。
では、何がなんとなくの喫煙を誘っているのでしょうか。
主な理由は2つあります。
1つは「ニコチンの禁断症状」です。
しかし、それは誤解2で解説したように、我慢できないほどの強い欲求ではありません。
もう1つは「喫煙の習慣化」です。
- 別に吸いたいと強く思っているわけでもないのに、食事をしたら一服。
- 仕事中、トイレに立ったらついでに外階段で一服。
- 上司が喫煙所に行くと、別に吸いたいわけでもないのについて行って一服。
- 風呂上がりにビールを飲み始めたら、なんとなく。
- 休日の午後、手持ち無沙汰になって火を点ける。
こうした習慣は、心理学でいう「条件づけ」によって作られます。
条件づけの説明としてわかりやすいのは、「パブロフの犬」の実験です。
犬にエサを与えるとき、いつもベルを鳴らすようにしておくと、そのうち犬はベルの音を聞くだけで、よだれを流すようになります。
ここではベルの音がトリガーになって、犬はお腹が減っていようがいまいが、本当にエサが出てこようが出てこまいが、よだれを流すのです。
同じくヘビースモーカーほど、よくタバコを吸う時間、よくタバコを吸っている場所がトリガーとなって、吸いたいわけでもないのにタバコを吸う傾向があります。
例えば、禁煙に成功した人でもタバコを吸っていた頃に「ウイスキーを飲みながら一服する」という習慣が定着していた場合、ウイスキーを飲み始めると、手がタバコやライターを求めて動いてしまいます。
条件づけによって繰り返され、定着した習慣の恐ろしいところは、これがほぼ「無意識の反応」であることです。
ある愛煙家はマンションの自室を出て、建物の外に出た瞬間、気がつくとポケットからタバコを取り出し、火を点けていると言います。
一連の動作の間、「タバコを吸いたい」とも、「さあ、一服するぞ」とも思っていないのです。
むしろ、タバコのことなど意識せず、「今日の仕事のこと」「訪問先までの道順」などを思い浮かべています。
つまり、意志の力で吸っているのではなく、習慣化による自動思考で喫煙という行動を起こしているのです。
一般的な禁煙法がうまくいかない最大の理由は、この「習慣化による自動思考での喫煙」に対する対策が取れていないことにあります。
「意志の力でタバコをやめられる」と誤解している人は、注意すれば「習慣化による自動思考での喫煙」も防げると考えます。
しかし、無意識のうちに吸ってしまっているわけですから、注意したところで我慢することはできません。
無意識の習慣的な行動を変えるには、「環境を整え」「自動思考を停めるためのメンタルテクニックを学ぶ」必要があります。
逆に言えば、環境を整え、自動思考を停めることさえできれば、無意識の習慣的な行動=喫煙をやめることができるということです。
ではさっそく次章以降、具体的な禁煙の方法を紹介していきましょう。
タバコを吸う理由などなく、喫煙はただの習慣に過ぎない
COLUMNタバコをやめると太るは本当?
禁煙を躊躇する喫煙者が挙げがちな理由として、「禁煙すると太る説」があります。
たしかに、禁煙補助薬を使って禁煙に成功した人たちを追跡調査した研究によると、禁煙を開始後の3カ月でほぼ全員の体重が増加し、12カ月後には平均で約4・5~5kg増えたというデータが出ています。
その理由として、次のような点が挙げられています。
- ・禁煙初期のニコチンへの禁断症状によるイライラから食欲が増すこと
- ・タバコを吸うという習慣的な行動がなくなったことで口寂しくなり、間食が増えること
- ・禁煙によって味覚が改善し、食事の量が増えること
つまり、「禁煙すると太る説」は事実です。
タバコをやめると、多くの人が一時的に太ります。
ただし、研究者たちは体重増加による健康へのリスクは、喫煙を継続することによるリスクよりもはるかに低いと指摘しています。
禁煙することで得る生涯の健康は、体重増加とは比べ物にならないほど価値のあるものです。
そして、体重増加はカロリーのコントールなどで避けることができるとも指摘しています。
ダイエットに奇策はなく、一般的に有効とされている方法で少しずつ理想の体重に近づけていきましょう。
具体的には、1日1回の体重測定で体重の変動を記録していくこと、適度な運動を行うこと、カロリーを計算し、バランスの取れた食生活を心がけること、間食に気をつけることなどです。
より詳しいダイエット法は、拙著『ウィルパワー・ダイエット』(マガジンハウス)を参考にしてください。
とはいえ、禁煙と並行してダイエットを始めるのは、ストレスを高め、「二兎を追うものは一兎をも得ず」という結果につながります。
複数の目標を追うよりも、1つの目標に絞り、集中していった方が成功率は上がるからです。
そこで体重のコントロールについては、禁煙が安定期に入る12週目以降に開始するのがいいでしょう。
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