第1章P/Aマネジメントの基礎知識小売・サービス業により重要となるP/Aの役割
1-1小売・サービス業におけるP/Aの位置づけ
低成長時代と高い生産性の経営基盤の必要性低成長時代を迎え、消費者の価値観が大きく変化しています。その結果、小売業では買い上げ点数と1品平均単価が共に下がる傾向が強く、売上げがダウンし店離れが顕著となっています。
フードサービス業では固定客の来店頻度のダウンが続き、客数が伸び悩み客単価を上げることもできず、売上げが停滞しています。
またAVレンタル店などのサービス業も競争激化の中で、低価格競争が続き経営が圧迫されています。将来的に見ても、高齢化社会への移行を背景とした先行き不安から、消費者の生活防衛意識と安定化志向はより顕
著となり、低成長は恒常化すると考えられます。また、企業規模にかかわらず、労働時間の短縮と年間休日の増加は急務です。
その結果、小売・サービス業では業種・業態を問わず、売上げの伸びが停滞する中で固定化した人件費率が増大し、損益分岐点は上がるばかりです。
図表❶-1の[今後、企業に求められる要件]は、低成長時代のなかで企業(店)として何をなすべきかをまとめたものです。
上の大きな輪は、この時代に企業(店)としての個性を鮮明に打ち出し勝ち残るために、あらゆるコミュニケーション活動を通じて顧客側に伝えられるCI(コーポレイト・アイデンティティ)やSI(ストア・アイデンティティ)と呼ばれるマーケティング戦略を表しています。
その中の小さな輪はその核となる3要素です。左の輪は、CIに関連し自社独自の商品開発と品揃えが必要であることを示し、右の輪はP/Aを含めた従業員一人ひとりの質が経営を左右する重要な要素の1つであることを示しています。
これら3つの輪がバランスよく三位一体(さんみいったい)となり得たとき、企業(店)としての独自の個性が発揮され勝ち残りが可能となるわけです。
また、それぞれの輪の間には相互に関連する重要なポイントをまとめてあります。ここで重要なのは、それらの基礎として高い生産性の経営基盤が不可欠であることを示している点です。
いくら三位一体となっても、この高い生産性がなければ継続企業としての安定成長は望めません。そのポイントとなるのが従業員のP/A化です。
小売・サービス業界にローコストオペレーションという用語が定着化してから、久しくなります。しかし、大手企業を除きその抜本的な対策の1つであるP/A比率の向上による人件費の変動費化は、一向に進んでいないのが実情です。
その理由は、自社にP/Aの採用から育成までの短期戦力化システムが構築されていないためです。売上げが停滞する厳しい時代を乗り越えるには、何としても自社のP/A比率を高め生産性を向上させる必要があります。
それではまず、あるべき労働条件と人件費の面から、具体的な生産性の目標指標を算出し確認してみましょう。
P/A化なくして人時生産性のアップなし(図表❶-2)は標題にある通り、企業としての目標人件費に対し必要人時生産性と人時売上高の試算を行っています。前提条件として年間休日を100日としています。
1年間365日からこれを引けば、労働日数は265日となります。1日当たりの実働時間を8時間とすれば、年間労働時間は2,120時間の実働となります。
ここで注目してほしいのは、この2,120時間です。1年間365日を1週7日間で割れば、年間は52週間と余り1日となります。
仮にこれを53週とし、平成9年4月1日からの法定労働時間である1週間につき40時間の実働時間を掛ければ、この表と同じ2,120時間となります。
要するにこの時間数は規模にかかわらず、小売業やフードサービス業として目指すべき法定労働時間の基準に合致していることになります。
次に労働分配率を40%に設定してあります。この数値は一般に健全経営を維持するための適正値の範囲内です。
仮に目標人件費を(例)のように300万円とすれば、年間に必要な荒利益(=年間労働生産性)は750万円となります。
この必要年間労働生産性750万円を、先ほどの年間労働時間2,120時間で割れば、必要人時生産性(1人1時間当たりに必要な荒利益)が算出されます。
さらに、この人時生産性を各荒利益率で割れば、それぞれの荒利益率に必要な人時売上高が算出されます。
例えば、平均目標人件費を先の300万円とすれば、必要人時生産性は3,538円となり、小売業で荒利益率30%なら必要人時売上高は11,793円となります。
また、フードサービス業で荒利益率70%なら必要人時売上高は5,054円となります。平均目標人件費の300万円は多いように感じるかもしれませんが、月間平均で25万円です。
これから社会保険料や税金を除けば、1人当たりの実際の手取り額は月間平均で18万円前後となり、現状では決して多いとは言えません。
実際に1人当たりの平均人件費で、この数値を超えている企業はたくさんあります。問題はそれらの企業の多くが、この必要人時生産性や人時売上高をクリアできていないことです。
アメリカの流通業界では、ディスカウントストアやカテゴリーキラーを中心に作業改善が行われ、倉庫型(ウエアハウス)ストアによる広い売場面積を少数人数で管理するローコストオペレーションが実現され成果を上げています。
日本でもこの表にある必要人時生産性を目指すには、発想の転換による抜本的な改革の時期に入っています。その最大のポイントは、P/A比率を高め人件費を変動費化することです。
また、ローコスト店舗の開発やサービス形態の見直し、コンピュータなどのハイテク機器や各種省力化機器の導入など、多面的な対応策が検討され実験される必要があります。
P/A活用のための基本対策P/A活用の基本対策は、企業側が勤務日、勤務時間をフレキシブルに設定できるような仕組みをつくることです。
また、店長が各自の働く目的を的確につかみ、月間で各自が望む給与額(=勤務時間数)に合わせてワークスケジュールを組むことも必要となります。
ただし、ここで忘れてならないのは、あくまでも店側の都合に合わせてワークスケジュールを組むという点です。
そのためには
- ①曜日別に標準的なワークスケジュールがパターン化できている
- ②各時間帯の基本作業が標準化、単純化、システム化できている
これらのことが必要となります。
この結果、1日の作業が分業可能となり、その時間帯に入ったP/A各自が責任を果たすことにより、全体として一体化(1日・1週間の運営)が可能となるわけです(図表❶-3)。
さらに
- ③採用から教育トレーニングまで、段階的な育成システムが構築されている
- ④各個人の能力を開発し生かすキャリアアップの仕組みと賃金体系が連動している
- ⑤これらにより企業としても効率的活用ができ、生産性を上げることができる
となります。
生産性を上げる基本対策はP/A化により人件費を変動費化することですが、そのためにはワークスケジュール作成(レイバースケジューリング)と稼働時間管理のための仕組みがあることも前提となります。
※これらのことに関しては、各章ごとに順を追って具体的にまとめてあります。また、各種アイデアやフォーマット・チェックリストも紹介してあります。
1-2P/Aの働く目的と意識
パートタイマーの実態と関連法改正の動向東京都産業労働局が実施した「パートタイマーに関する実態調査」(図表❶-4-1)を見てみましょう。
パートタイマーを希望する主な理由は、自宅の近くで自分の都合のよい日や時間に働けるからです。さらに非課税限度額(年間103万円)との兼ね合いで勤務時間や勤務日数が短いことも、大きな要因となっています。
労働省が実施した調査データ「パートタイム労働者通勤時間別割合」(図表❶-4-2)によれば通勤時間19分未満が56.2%、29分未満では72.8%の累計構成比となります。
これは小売業やフードサービス業にとって第1次商圏に住むお客さまでもあることを示しています。このことは、採用面接・雇用からその店を辞めるまで、常に留意しなければならないことです。
中には正社員としての適当な仕事が見つからず、取りあえずパートをしている人もいます。しかし、残業のないことやすぐに辞められることを理由に挙げていることからも分かる通り、大半は自分の都合を優先し非課税限度内で程よく気軽に働けるからこそ、パートタイマーをしているととらえるべきでしょう。
平成2年度にも東京商工会議所が同様の調査をしていますが、この2つが大多数を占めています。また、同調査で「家計の補助」とした主婦は、その理由として子供の教育費、貯蓄、ローンの返済を挙げています。
今回の2回分の調査結果を見ても分かる通り、今後もこれらの就労動機は変わらないと判断できます。また、「家にいると時間を持て余すため」、それならパートタイマーで働き「視野を広めたり、社会経験を得るため」「自分の経験・技術、資格を生かすため」「社会のために役に立ちたい」となっています。
この背景には女性労働者の高学歴化と少子高齢化の影響があると考えられます。P/Aに関連する法的な改正の動向についても触れておきましょう。
社会保障審議会と厚生労働省から「年金改革」の一環として、パート従業員等の短時間労働者への厚生年金等適用拡大に関し、適用の条件を「週所定労働時間20時間以上または年収65万円以上」とする案が検討されました。
しかし、(社)全国スーパーマーケット協会や(社)日本フードサービス協会など各種協会や団体から猛反発にあい2004年1月末の段階では見送られることになりました。
もし、この法案が通れば一部の零細店(常時4人以下の従業員数)を除き、通常の小売店や飲食店はすべて適用され、社会保険料の事業主負担額は莫大なものとなり経営を逼迫させることは必至です。
また、P/Aにとっても「週所定労働時間20時間以上または年収65万円以上」という適用条件は現実的でなく、社会保険等の自己負担増も大きな問題となります。
さらに配偶者特別控除についても、政府は廃止・縮小の方針を打ち出しました。影響を受けるのは、年間所得が1000万円以下、配偶者が専業主婦や年収103万円以下のパート労働者の世帯となり、全国で約1300万世帯と推定されています。
厳しさを増す財政事情に迫られた増税策で、国は「女性の社会進出を促す」との効果を期待していますが、廃止後に積み残された課題は多く問題です。
具体的には、平成16年分以後の所得税(個人住民税は平成17年分以後)から適用したいとしています。いずれにしてもこれらの問題は現段階で流動的な面も多く、施行された時点で企業およびP/A側で最善策を検討し対応する以外ありません。
データに見る学生アルバイトの実態学生援護会が実施している各種調査を見れば明らかなように、学生がアルバイトをする主な目的(図表❶-4-3)は全国共通で「ふだんの小遣いのため」「社会勉強のため」「旅行・レジャー資金づくり」となっています。
この結果は過去10年以上同じ傾向であり、今後も同様に推移すると判断できます。また、「最も最近行ったアルバイトについて」(図表❶-4-4)も多少の違いはあるもののベスト5は8職種となっています。
「希望する勤務期間」(図表❶-4-5)も首都圏の6カ月くらい~1年未満、1年以上の数値、関西圏の1週間以内と2~3週間位の数値が異なる程度で、全地域ともほぼ同じ傾向となっています。
また、「希望する1週間の勤務日数」は首都圏が全体的に他地域に比較し0.3日程度少ないだけで、首都圏以外の地域は共通しています。
「希望する勤務時間」に関しては高校生が大学生に比較し1時間弱少なめを希望しています。また、大学生の男子が女子より0.2~0.6時間多く、若干長めの勤務を希望していることが分かります。
「希望する1日の勤務時間」では、全地域とも午後6時~午後9時頃が70%弱~80%弱となっています。これらのデータは求人活動の参考としたり、彼らの働きたい時間など需要と供給のバランスを考慮して時給体系を構成する際に役立てることができます。
「パートタイム労働者通勤時間別割合」のデータからも明らかですが、通勤時間は29分未満が59.4%、44分未満では79.3%の累計構成比となります。
アルバイト先の選定は学校と自宅や宿舎との通学範囲を原則とし、できれば30分以内、遠くとも44分以内に設定していることが分かります。
求人情報誌を入れる際に通学手段を考慮し、この範囲を主体に設定することが大切です。
勤務日や勤務時間が調整しやすいことを理由に、大部分が小売業やサービス業を選んでいます。
アルバイトの特性としては学生間で情報網が発達しているため、通勤が便利で、できるだけ楽な仕事、さらに時給のなるべく高い職場を求め、短期間でアルバイト先を変える傾向が強いことです。
しかし、現在417万人いるといわれるフリーターに代表されるように、彼ら若者は「自分にとって面白いと感じる仕事で、自分でなければできないことをやり、誰かに認められたい。
また、そのような仕事や職場なら多少責任が重くとも努力してがんばる」といった思いがあることも事実です。それは「今後やってみたいアルバイトについて」(図表❶-4-5)を見ると分かります。
自分の個性や特性を生かし、人間性や創造性が発揮できそうな「本当にやってみたい職種」と「何となく楽ができそうに見える職種」が入り混じっています。
フリーターの場合には、その自分を生かせる面白いと感じられる仕事を求め、アルバイト遍歴を重ねるという傾向も強くあります。
従って、アルバイト先で自分のホスピタリティや創造力などが発揮でき認められれば、学校そっちのけでその仕事にハマることもあり、結局、就職してしまったという例も多くあります。
1-3P/Aマネジメントの3原則
CSはESからCSとは顧客満足度(カスタマー・サティスファクション)のことです。日本では小売・サービス業に求めるCSの期待レベルが高く、笑顔や気配りがないと評価されません。
ESとは従業員満足度(エンプロイイー・サティスファクション)のことで、アメリカでは「CSはESから」とよくいわれます。
つまり、顧客満足度を高めるためには、職場や仕事内容を通して得られる従業員の満足度を、まず高めなければならないという意味です。
従業員とは正社員だけではなくP/Aも含んでいます。それでは、どうしたらESが得られるのかを考えてみましょう。まず、前提条件となるのは自分の選んだ仕事や企業(店)で世間並の給与(時給)や労働時間・年間休日数などの基本的労働条件が満たされているということです。
さらにその企業(店)に知名度があり、かっこいい職場や楽しい(楽しそうな)仕事として仲間や地域から認知されていれば、その企業(店)に勤める上での安心感や安定感が生まれます。
しかし、これだけではESに結びつきません。ESを高めるには、自分を生かせる仕事そのものの面白さと、共感を生む企業やオーナーの経営理念や使命感といった企業哲学、さらには職場の良好な人間関係が不可欠となるのです。
そのためには、納得できる企業哲学を背景とした、各個人の人間性や創造性を高めるための、能力開発や教育・トレーニングシステム、職場環境が必要となります。
また、前項の調査資料からも明らかですが、P/Aの働く理由の1つに「社会参加」や「社会勉強」を挙げることができます。
職場を社会との接点としてとらえ、働く仲間たちとふれあい、コミュニケーションを取ることで社会的欲求を満たしているのです。
そのため企業(店)としては明るく楽しい職場づくりのため、P/Aの歓迎会やカラオケやボーリング大会など積極的な「ふれあいの場」づくりも必要となります。
さらにP/Aが自己実現を図りつつ、仕事内容の多能化や高度化を順に行えるキャリアアップの仕組みを賃金体系と連動させて作り、やる気のある人やがんばった人が公正に評価されるようにすることも重要です。
これらは[マズローの欲求の段階説](図表❶-5)をベースにまとめられた「アメニティ志向の背景」(図表❶-6)を見れば分かります。
この傾向は、団塊の世代以降ではより顕著な求職者意識の変容であり、小売・サービス業界を支えるP/Aを含めた若手社員の本音でもあるのです。
それではこれらのことを理解した上で、P/Aのやる気と能力を引き出す基本原則をまとめてみると、「ゆとり」「ふれあい」「加点主義」の3つに集約することができます。
「ゆとり」を忘れない
P/Aの働く目的は生活費のためもありますが、自分の生活のゆとりのためでもあるのです。その結果家族旅行や帰省、友人・知人とのスキーや海外旅行などのため、ゴールデンウイークや夏休み・冬休みに連休を取りたがります。
しかし、当然この時期は店の繁忙期と重なることが多く、だからといってここで「行くな!」と語調を強めては、元も子もなくなります。
これをすると人は定着せず、P/Aの募集費がかさむばかりです。重要なことは、彼らを喜んで送り出す考え方や姿勢です。「それでは店が回らない……」その通りです。
だから、P/Aでも長期間の連休は事前に書面で申し出るハウスルール(店内規則)をつくり、順にできるだけ公平に、休みたい人が休みたい時に休めるような仕組みをつくるのです。
具体的には例えば、連続休暇申請用紙による1カ月前以上の事前申請で、優先して休みが取れるようにするのです。
また、各自の希望する休みが一覧できる大型の繁忙期連続休暇予定表などを作成して、バックヤードや休憩室など、全員が見える所に張り出すのもよいでしょう。
店舗としては、繁忙期にP/Aの休みが特に集中しやすい週を中心に日別売上計画を事前に立て、名前を空欄としたワークスケジュール用紙を同様に張り出しておきます。
掲示板の上には「みんなで仲良く取ろう、楽しい連続休暇。でも、店のこともよろしく!」などと書き、自主的にみんなで調整してワークスケジュールを埋めてもらえるようにしておきます。
埋まらない日があれば、P/Aのリーダー的存在の人に根回しして調整を委任したり、最悪の場合は店長から個別に依頼して調整するのです。
こうすることで、P/A間にお互いに譲り合いや思いやりの感情が芽生え、仲間意識のもとに公平に調整が図られます。このように「ゆとり(時間)」を大切にする、彼らの価値観や自主性を優先した管理を可能な限り行うべきなのです。
ふれあいを大切に
営業形態や立地にもよりますが、経営者自ら店を連休とし夏はみんなで海水浴やキャンプに、冬はスキーや温泉に行くことも効果的です。
実際、中小店で毎年1回全員で海外旅行に行くことを楽しみに、日常の激務に耐えてがんばっている店もあります。
数日分の売上げを取るよりも、みんなの人間関係や一体感を生む共通体験を取るほうが、結果として店内にチームワークが生まれ、継続した客数アップ(売上高アップ)につながる確率は高いものです。
これが「ふれあい」効果です。P/Aは働くことを通して新しい仲間と知り合い、オーバーに言えば自分の社会勉強や社会活動の一環(職場=気の合う仲間とふれあう接点)にしようとしています。
ここ20年来、大学の運動部が敬遠され、同好会とも言えるサークル活動に人気が集まるのも、がむしゃらにがんばるよりみんなで仲良くといった風潮(価値観の変遷)の現れです。
従って、店長としては少なくとも2カ月に1回はボーリング大会やカラオケ大会、P/Aの歓送迎コンパなどを実施し、ふれあい度を高める必要があるのです。
この積み上げが共感を生み、サービスや作業にコンビネーションをはぐくむのです。これらの運営に当たっては、幹事をP/Aから相互指名させます。
必ず場を盛り上げるのが得意な宴会係やエンターテインメント担当係が現れ、彼らを中心に結束が生まれ、仕事中にも笑顔が絶えなくなるものです。
大切なことは、店長が自ら良きリーダー的な存在として参加し、自分もしっかり彼らの中に打ち解けて楽しむことなのです。これらの絆ができれば、ワークスケジュールも自主的に調整されるようになります。
また、付近の競合他店に比べ時給が多少低くとも喜んで勤め、定着率も良くなるものです。
加点主義の勧め
仕事面では厳しさが必要となります。新人P/Aの育成段階から、身だしなみやあいさつなどのハウスルールは徹底して守らせる必要があります。これらは勤務開始の初日と2日目までで決まります。
教育というよりも躾といった姿勢で臨み、厳しくすることです。店長としては「決められたことは決められた通り、明るく誇りを持ってやり続ける」という店の営業方針を徹底し、完全に継続する姿勢が何よりも必要です。
そのためには、各作業はマニュアル通りにさせることが肝心です。もし、間違いを見つけたら「その場で正し、その場で直させる」習慣づくりも大切です。
この結果、リーダー的なアルバイトが育成されるに従い、それらが「店風」に醸成されるのです。やがて店舗オペレーションに関しては、ベテランP/Aがトレーナーとして、新人のP/Aを店長同様に厳しく指導できるようになります。
この姿勢は、特に顧客満足の原点でもある、商品の品質管理や販売管理に重要な役割を果たします。サービス面では、まず基本サービスをマニュアルによる徹底した教育トレーニングで教えます。
その上でお客さま最優先の考え方をベースとし、彼らの個性や人間性を生かせるように柔軟性を持たせると効果的です。
最も大切なことは、人とふれあうことが好きで、販売やサービスを通してお客さまに心から喜んでいただくことを自分の喜びとできる人(ホスピタリティのある人)を採用することです。
そして彼らが、自店の各種作業やサービスを通して能力を発揮するに従い、賃金体系面でも、それを認め評価する加点主義の仕組みをつくることがポイントとなります。
1ー4P/A人件費管理の基礎知識
法定労働時間も1週間40時間となり、業種・業態や規模の大小にかかわらず、人時生産性(1人1時間当たりの荒利益)5,000円アップを目指す時代に入っています。
そこでP/A人件費管理の基礎知識とその用い方を解説します。標準値・目標値などに関しては、業種・業態や規模により大きく異なるため、業界誌などで同業他社と自社を比較検討することをお勧めします。
●人時売上高(売上高÷総労働時間数)
「ニンジ売上高」と読みます。正社員とP/Aを含めた1人1時間当たりの売上高を示します。当然、高いほうが良く、生産性も高いことを示しています。この数値は、客単価が高い業態が有利となります。
各種業態を持つ多店舗展開企業が各店を対比する場合、特にフードサービス業やレンタルビデオ店、美容院、エステサロンなどの場合には、後述する人時接客数(労働指数)も合わせてチェックする必要があります。
●人時接客数(来店客数÷総労働時間数)主にフードサービス業界で使われる指数ですが、レンタルビデオ店や美容院などサービス業で用いれば有効な指標となります。
「労働指数」、「接客生産性」と呼ぶ企業もあります。正社員とP/Aを含めた1人1時間当たりの接客人数(対応人数)を示します。
従って、人時接客数×客単価=人時売上高となるわけです。例えば、ファミリーレストランの客単価が1,100円、喫茶店の客単価が800円とします。
人時接客数はどちらも4人とした場合、ファミリーレストランの人時売上高は4,400円、喫茶店は3,200円となります。
業態により人時売上高と人時接客数の双方でのチェックが必要となるのは、このためです。
●労働生産性(月間荒利高÷換算人員)
換算人員は正社員数+P/A合計労働時間数正社員月間平均労働時間(180~200時間)として算出します。
しかし、よりきめ細かな人件費管理を目指すためには人時生産性(1人1時間当たりの荒利益)=月間荒利高÷総労働時間数を基準値として用いたほうが便利です。
理由は大手から中小店まで、企業規模により実働時間や変則勤務体制など労働条件が大きく異なるためです。また、業種・業態により客単価やサービス形態が異なり、荒利益率と荒利益高がさまざまに変化するからです。
現状では業種・業態や規模により標準値が異なりますが、高いほど良いのはいうまでもありません。1人当たりの実質上の稼ぎ高を示し、労働分配率同様、中短期など経営計画を作成する上で基本指標(目標)の1つとなる重要なものです。
また、人時生産性=人時売上高×荒利益率として表すこともできます。(例)人時売上高15千円×荒利益率30%=人時生産性4,500円月間実働時間180時間なら、労働生産性(月間)は810千円となります。
今後の労働時間短縮、完全週休2日制などの導入を考えれば、どの業種業態でも月間での目標値は80万円以上を目指す必要があります。
●売上高対人件費率(人件費÷売上高)
恒久的な若年労働者の人手不足から、今後も人件費の高騰が続くことが予測されます。また、売上げの絶対額、地域、業種・業態、企業規模などによる格差があるため、標準値は異なります。
通常、従業員の給料・手当、賞与、法定福利費・福利厚生費、退職金(各引き当てや繰り入れも含め)などを人件費としています。
しかし、チェーン企業の多くは、このほかに役員報酬、求人費や教育研修費なども含め人件費としてとらえています。
●労働分配率(人件費÷荒利益)
荒利益に占める人件費の割合を表します。長・中期の経営計画を作成する上で最も大切な基本指標(目標)の1つとなります。
業種・業態や企業規模により異なりますが、一般的に35%以下が目標値、35~40%が適正値となります。自店が標準値に収まっていない場合、荒利益率(原価率)と人件費率のバランスをもう一度、見直してみる必要があります。
企業によっては、標準店設計や店舗レイアウト、配送やオペレーションシステムなどすべてに関する抜本的な改善が必要となります。
これらの標準値や目標値を達成する上でポイントとなるのは、基本的には従業員のP/A比率を増加させ、生産性を上げることです。
そのためにはP/Aの採用から育成まで、自社における教育トレーニングのシステム化を図る必要があります。また、賃金体系も見直し、「多能化して、やる気や責任感のある人」が時給アップや資格給により、高給を得られる仕組みをつくり上げることが急務です。
今まで一般的に行われていた、在籍年数により自動的に時給がアップする手法は、早急に見直しを図らなければなりません。
多能化とは、接客販売担当が接客だけをするのではなく、継続した教育トレーニングを行うことで棚卸し・発注・検収作業、新人のトレーニングや特定時間帯での正社員代行などもできるよう、能力開発により育成を図ることです。
フードサービス業の場合には、サービス担当者がサービスだけでなく、キッチンの仕込みや調理作業もできるように、互換性を図ることも含まれます。
この結果、生産性がアップし総体としての人件費が下がります。しかしP/Aの質が向上するため、各自の給与はアップ可能となります。また、社員の労働時間短縮や年間休日数の増加など、企業としての労働条件の改善も可能となるわけです。
1-5何としても人件費は変動費化せよ
P/Aの固定化した労働時間から脱却せよ大手ナショナルチェーンは別にして、ローカルチェーンでもよく見かけるのがP/A人件費の固定費化です。
例えばP/Aを雇用した際に、山田さんは毎日10時~15時、鈴木さんは12時~17時などと固定化してしまっているのです。
これでは売上げが下がったり停滞しても、人件費が固定的にかかるため、コントロールができず損益分岐点は下がりません。
それでいて、このような店ではP/A各自の都合によって勝手に休みを取られることが多く、肝心の日曜日や祭日、夏休みなどに人が不足し、販売チャンスを逃したりサービスが行きわたらないでいます。
このような店の場合、各時間帯の固定作業の見直しを行い、標準化を図る必要があります。具体的には、だれにでもできるような各作業の道具や手順、範囲や量、完了後の質的なレベルを定め(マニュアル化)、作業に要する必要人時(マンアワー)も測定し、標準時間を決める必要があります。
また、売上予測や利用客数に合わせて変動する作業(仕込みや準備作業、接客適正人員など)も、自店の標準(例えば売上高5万円ごとの仕込み量や適正人員など)を定めます。
さらに現在のP/Aの個人別レベルの考課(各作業の習熟度を見極め、現状の個人別作業レベルやサービスレベルを把握すること)を定期的に行い、期待レベルを定め本人にも納得させて教育トレーニングすることも必要になります。
これらを基にして、適正な時間数、適正なP/Aの組み合わせ(例えば新人とベテランを組ませ、サービスレベルを維持するなど)を行い、各自の勤務可能曜日や時間帯を調整して、週間でワークスケジュールを組みオペレーションを行います。
大変なように見えますが、店長などを中心に(中小店の場所は経営者自らが主導し)、とにかくできる範囲で決め事をつくり実施することです。
後は店舗を運営しながら調整すればよいでしょう。ポイントは、必要最小限の人員でワークスケジュールを組むことです。多少荒療治ではありますが、結果的には必要最小限の人員になるため各自が育っていき少数精鋭となります。
今まで何もしていない、させていなかったことに気づくことになります。精鋭が少数集まってオペレーションして少数精鋭となるのではなく、このような状態が精鋭をつくり出すことになるのです。
また、固定時間制から変動時間制への勤務システムの変更は1カ月前よりP/Aには通達します。さらに、労働契約書や短時間労働者雇入通知書を使用し、勤務時間欄には「労働時間は週間でワークスケジュールに明示」とすれば、契約更新時に変更できます。
それなら辞めますというP/Aも出てくる可能性もありますが、正社員がその分がんばって何とかするくらいの覚悟がなくては、改革は実施できません。
今すぐに決断し、やらざるを得ない店もあるはずです。タイミングとしては2月、6月、9月~11月といった売上げが少なく、人の入れ替わりやすい時期がよいでしょう。
1-6P/A年間採用計画の作り方
人件費コントロールの基本P/Aは各自が月間で稼働可能な時間数には限りがあり、その中で一定額以上の給与を目標として働いています。
従ってP/Aの労働時間数をコントロールするには、各月により大きく変動する売上高を予測し、各月ごとに必要なP/Aの適正人員を把握することから始めなければなりません。
恒常的な人手不足に対応するためには、これらの適正人員を基に年間で採用計画を立て、常に事前に手を打てることが要求されます。
それらを具体的に示したものが、人件費コントロールの基本とも言える「P/A年間採用計画表」です。作成は以下のように行います。
①各月の月間計画売上高を算出する
②P/A(1人当たり)月間目標給与÷P/A平均時給=P/A(1人当たり)平均月間稼働時間数
③各月の月間計画売上高÷計画人時売上高=各月の月間計画労働時間
④(各月の月間計画労働時間-社員月間労働時間)÷P/A(1人当たり)平均月間稼働時間数=各月のP/A必要人員数[具体例A]①〇月の売上計画15,000千円とする②P/A(1人当たり)月間目標給与65,000円、平均時給650円なら65,000円÷650円=100時間→P/A(1人当たり)平均月間稼働時間数③計画人時売上高10千円とすると15,000千円÷10千円=1,500時間→〇月の月間計画労働時間④正社員月間労働時間数を200時間×3人=600時間とすると(15,000時間-600時間)÷100時間=9人→〇月のP/A必要人員数この作成方法は人時売上高を基準としたものです。
1人当たりの売上高や生産性を重視する場合には、この方法が適切です。
P/Aが入れ替わる月や定着率が良くない店の場合、④で算出したP/A必要人員数からその月の在籍予定P/A人員数を引き、算出されたP/A不足人員数に10~20%増で、採用予定とすることも忘れてはなりません。
オペレーションを重視したP/A年間採用計画
フードサービス業などでオペレーションを重視する場合、人時売上高ではなく人時接客数を基準として「P/A年間採用計画表」を作成すると便利です。
また、売上規模が小さい場合や店内の動線が悪く人海戦術を取らざるを得ないような店の場合、人時接客数を基準としたほうが実務的です。
その場合、前述計算式の①、②は人時売上高の場合と同じですが、③、④が以下のように変わります。
各月の月間計画売上高÷客単価÷計画人時接客数=各月の月間計画労働時間[具体例A′]具体例Aを基準に客単価1,500円、計画人時接客数4人とすると③′15,000千円÷1,500円=10,000人→計画客数10,000人÷4人=2,500時間→〇月の月間計画労働時間④′具体例A同様に社員月間労働時間数を200時間×3人=600時間とすると(2,500時間-600時間)÷100時間=19人→〇月のP/A必要人員数AとA′では必要人員数が10人も異なってしまいました。
これは小売業などに比べてフードサービス業のほうが荒利益率は高いのですが、労働集約型のためです。
仮に具体例A(小売業)の荒利益率を35%、具体例A′の荒利益率を60%とすると人時生産性はAの荒利益売上15,000千円×35%=5,250千円Aの人時生産性5,250千円÷1,500時間=3.5千円単純には(Aの人時売上高10,000円×荒利益率35%=3.5千円)A′の荒利益売上15,000千円×60%=9,000千円A′の人時生産性9,000千円÷2,500時間=3.
6千円となります。
人時生産性では同じ売上高で100円の違いですが、使用する労働時間に大きな差があることが分かります。
しかも、フードサービス業のピーク時間帯は食事時間となるため、ランチタイムとディナータイムの間が5時間以上空くことになります。
また、営業時間も小売業と比較して長くなります。
このため30年以上前から、ピーク時間帯を主体にP/A比率を高め、人件費管理を行ってきたのです。
さらに小売業に比べP/Aの定着率も通常低いのです。
その結果、P/Aの短期戦力化のための教育トレーニングシステムや人件費コントロールのための稼働時間管理システムなどのノウハウが発達したのです。
この本では各章に分け、これらのノウハウやポイントを紹介しています。
人件費率を重視したP/A年間採用計画人件費率の管理を重視する場合や人時売上高、人時接客数といった指標がない企業の場合には③″各月の月間計画売上高×計画人件費率=各月の計画人件費④″(各月の計画人件費-各月の社員人件費)÷P/A(1人当たり)月間平均支給額=各月のP/A必要人員として同様に算出できます。
店長として営業形態や規模の大小に合わせ、算出方法を決め「P/A年間採用計画表」を作成してみましょう(図表❶-8)。
作成後は「P/A年間採用計画表」に従い、現状の在籍人員数や個人別の作業レベルを常に把握し、前月や前々月といった早めの時期に必要人員を確保できるように手配することが、店長の人件費管理に関する重要な職務となります。
コメント