はじめに
私は、父の代から兄、そして私へと創業40年以上続いているヴォイススクールで、より良い声を引き出すためのレッスンを続けています。父や兄はよく「ここに訪れる方々は、みな悩みを持った、病院で言えば患者さんだと思うように」と言っていました。事実、私のスクールにはいろいろな方がいらっしゃいます。歌がうまくなりたい方はもちろん、声優志望の方、プロの歌い手や俳優の方もいらっしゃいます。そのなかで近年増えているのが、声の悩みを抱えた方たちです。具体的には、日常会話での悩み、家族や恋人、友人間のコミュニケーション、面接やビジネスでの悩み、人間関係がうまくいかないなど、さまざまな問題を抱えて訪れます。それだけ、現代社会において声の必要性が高まっている、ということではないでしょうか。現在、スクールには声優志望の生徒さんが多数いらっしゃっていますが、入会されている理由の多くは、たとえば以下のようなものです。・滑舌が悪いと言われる・声がこもる・声が通らない・ボソボソ声になってしまう・聞き返されてしまうそのほかにも、声が暗い、きついと言われる、高い声が出ない、自分の思いが伝わらない、などさまざまな問題がありますが、どれも多くの方が悩みがちなことではないでしょうか。この本では、そのような悩みを解決するために父や兄、私が培ったヴォイストレーニングのノウハウを、目的ごとにまとめてあります。どれも身のまわりのものを使ってできることばかりですし、すぐに実践できるようにしています。本書を手元に置き、気軽に楽しみながら、声の悩みを解消していきましょう。
あっというまに好かれる声になる!声が良くなる、いちばんやさしい本もくじはじめにこの本の使い方声について
声について声が大切な理由声は、人と人とのコミュニケーションにおいて非常に大事な役割を担っています。声が変わるだけで相手の対応がまったく変わってきますし、自分自身の気持ちにも影響を及ぼしてきます。つまり、思うとおりの声を出すことは、人づき合いから自分の精神状態までコントロールするということなのです。では、声を変えることで何ができるのでしょうか?まず、感情表現のひとつの手段として、気持ちをしっかりと伝えることができます。喜びや悲しみ、そして怒りをきちんと相手に伝えることは、じつはとても大切なことです。他人は自分が思っているほどこちらの気持ちを察することはできません。つまり、自分の気持ちをしっかりと伝えるには、伝えるためのテクニックを身につける必要があるのです。また、人の気持ちを動かすこともできます。最初に書いたとおり、声ひとつで相手に与える印象はがらりと変わってきます。何か頼みごとをしたいのにブスッとした声で話しても、人は積極的に動いてはくれないでしょう。また喜びを共有したいと思っても、淡々とした声では、誰もいっしょに喜んではくれません。ビジネスの場でも、人にものを伝えるのがうまい人は、おしなべて仕事ができるものです。政治の世界でも声や話し方は非常に重要ですので、専門のトレーニングを受けている方もいらっしゃるくらいです。つまり、声を鍛えることは、自分の生活をより良くすることにつながるのです。声を出すために大切な要素声を出すとひと言に言っても、話す声と歌う声では違います。歌う声は、基本的には大きく響く声を出すことが求められるため、いわゆる腹式呼吸を使います。一方話す声は、もちろん腹式呼吸は大事ですが、話す相手や状況によって必ずしもよく響く声が最善ではありません。ときには、腹式呼吸ではなく胸式呼吸のほうが良い場合もあるでしょう。明るい声、静かな声、ソフトな声、ささやく声など、さまざまな発声法が求められるのです。ではいろいろな声を出すために必要なものは何でしょうか。筆者が指導しているUENO式のヴォイストレーニングでは、呼吸、喉、下あごの筋肉、そして舌と唇それぞれの動きが重要だと考えています。たとえば水の出るホースを想像してみてください。ホースをつないだ水道の蛇口をひねれば水が出てきますが、ただホースに水を通しただけでは、思ったとおりに水は出ていきません。しかしホースの先を変形させることで、同じ水でも勢い良く出すことができますし、飛ばす方向もコントロールできるでしょう。大事なのは蛇口ではなく、ホースの先。つまり人間で言えば、声を出すための舌と唇なのです。UENO式のヴォイストレーニングでは、ここで触れた呼吸、喉、唇、舌をパーツごとに鍛えることで、目的に合わせた発声法が効率良く学べるのです。❶呼吸の使い分け呼吸とは、息を吸って吐くことですね。息を吸うときに空気をお腹に入れると腹式呼吸、肺に入れると胸式呼吸となります。大きな声を出すには腹式、ひそひそ声で話すなら胸式を使うと良いでしょう。息を吐くときには、勢いよく吐いたり静かに吐いたり、また、鼻から息を抜くように吐くこともあります。息の吐き方によっても、声の強さが変わってくるのです。❷喉の動き本書では、喉を、声帯と喉の広さのこととしています。声帯を空気で震わせることで声が出ますが、そのときの喉の形によって出る声が変わってきます。喉を開いたり閉じたりすることで、声の高さや長さを変えることができます。❸唇の動き人は、唇を縦と横に動かすことで発音をします。唇をきちんと動かさないと、もごもごとした聞き取りづらい声になってしまいますので、唇を自由に動かすことが正しい発音の第一歩です。唇を動かすのは唇の周囲にある「口輪筋」ですので、UENO式のトレーニングでは口輪筋を鍛えることを重視しています。❹舌の動ききちんと言葉を発するためには必ず舌を使いますし、舌で声の高さもコントロールできます。舌を自由に動かすことができると、聞き取りやすい声になるほか、微妙な表現もできるようになってきます。
最適な口の開け方声を出すときに重要なことは、唇の縦と横の動き、そして舌の動きです。これらを思うままに動かすことができれば、大きな声もきれいな声も聞き取りやすい声も自由に出せるようになるわけです。声を出すために最適な口の大きさは、動かしやすい「ほど良い大きさ」のことですので、実際に自分で試してみてカラダで覚えておきましょう。まず、前歯が見える程度に軽く口を空けます。このとき、喉を広げるようにして口の中の空間を広くとっておくことが重要。あくびをするときの口の形を想像すれば良いでしょう。ここで、簡単に口の形を作れるコツをご紹介。割っていない割りばしを2本用意し、縦にして太い方を奥歯にはさんでみましょう。口の中の空間が自然と大きくなるのが実感できるはずです。そして、わりばしをくわえたまま、「あ〜あ〜あ〜」と声を出すと、リラックスした声が出せます。また、同じく割りばしを1本縦にして、太い方を前歯でくわえ「あ、え、い、お、う」と声を出すと、口の周りがよく動くのがわかるでしょう。声を出すときには、口の中の空間を大きく。いつも心がけてください。まとめ口の中の空間を大きくしておく割りばし2本を縦にして奥歯でくわえる
最適な姿勢声を出すために最適な姿勢は、背中は反らしすぎず丸めすぎず、が基本。背骨を反りすぎるとお腹に力が入りませんし、丸めすぎても声がこもってしまいます。また、あごの向きは下げすぎず上げすぎず、まっすぐに前を向くことが大切です。座って話すときも基本は同じで、下を向かずまっすぐ前を向いて話します。ここで、家にあるハンガーを使うと、話すための姿勢をかんたんに作ることができます。まず、足を肩幅に開きましょう。ハンガーを逆さにして膨らんでいる側を背中につけます。そして、後ろから脇で抱き込むようにしてハンガーを持ち、両ひじでハンガーの端を支えます。次に、手をグーの形にしてお腹に意識を集中し、前かがみ気味の姿勢をとります。この姿勢がいちばん声を出すのに適していますので覚えておきましょう。そのまま「オーウッ!」と声を出しながら、ハンガーの端を挟んだひじを前にぐっと曲げると、お腹に力が入り、声を出しやすいのがわかるはずです。ちなみに大勢の人の前で話すときには、目の前の人ではなく集団の真ん中に目線を向けると、声を遠くに飛ばそうという意識になり自然と姿勢も整います。まとめ背中は反らしすぎず、丸め過ぎずあごを下げずにまっすぐ前を向く
自分の地声を知ろう声を出すためのすべての基本は「地声を使う」ということです。地声とはもともと自分が持っている声で、いちばんラクに出すことができるはず。自分の地声が嫌いだという方がいますが、本来、地声は自分が出せるいちばん魅力的な声。あえて低い声や高い声、裏声などを使うのはおすすめしません。まず、地声を自信を持って出すことが大切なのですでは、自分の地声を改めて知っておきましょう。最初に、口から息を吸って吐きます。そして「ハァー」と吐き切ったあとに一瞬息を止めて、「あっ!」と声を出してみてください。息を吐き切ったあとは力が抜けるため、何のコントロールもしていない声、つまり地声が出るはずです。地声をベースに話すと、声のコントロールがしやすくなるので、より豊かな感情表現ができるようになります。話のうまい方は、声のメリハリや抑揚をうまくコントロールしています。私はレッスンをするとき、一般の方はもちろん、声優や俳優の方、そして特に裏声を使うアナウンサーやナレーターの方などに指導する際にも、まず地声を出していただくことから始めています。まとめ発声の基本は地声から自分の地声に自信を持とう
地声を使いこなそう前項で地声の大切さについて触れましたが、地声は普段の生活で使ってこそのもの。ここでは地声をきちんと定着させるためのコツをご紹介します。女性の方に多いのですが、少し高めの声で話す方がいらっしゃいます。いつも高い声で話すため、自分の地声を出せなくなっている方も多いのではないでしょうか。普段高い声を出している方はまず低音を出すことから始めてみましょう。まずは舌の中央を低く下げてみます。そのまま声を出すと、普段よりも低い声が出ます。また、普段低めの声を出している男性は舌の位置が下がっているはずなので、舌の中央を少し上に上げてみると、高い声が出るでしょう。なお男性の場合、舌が下がると「のど仏」が下がり、舌が上がると「のど仏」も上がるはずです。実際に手で触って確認してみても良いと思います。このように、声の高さは舌の位置に左右されますので、「エー」と言いながら舌の位置を徐々に低、中、高、と上下させ声を出してみてください。無理なく出せる声の(高さの)幅がわかるはずなので、何度も声出しし、自分がどのような地声を出せるのかをしっかりと把握しておきましょう。まとめ舌の位置と声の高さは連動している自分の地声の幅を把握しよう
コラム生徒さんの悩み①「面接に合格したい」しばしば生徒さんから「就職面接に通らない」という悩みをいただきます。昨今の社会状況では、仕事を得ようとする方はとても苦労されていると思います。面接では「いつも大声でハキハキ話したほうが良い」と誤解されがちですが、私は、必ずしもそうではないと考えています。以前、転職の相談でいらした方は、「言い方がきつい」印象を持たれてしまうのが悩みでした。自分ではそんなつもりはなくても、きつい印象を与えると人間関係で不安を抱かせてしまいます。その方には、まず息を少し抜いて話すトレーニングをしていただきました。息を抜いて話すことでソフトな印象を抱かせます。そして、自分が強調したいところだけ強く発音することで、本当に大切なことがしっかりと相手に伝わります。その生徒さんは「これまでこんな声を出したことがなかった」と驚かれましたが、後日無事合格したと知らせていただきました。面接では話す内容も大事ですが、面接をしていただいた企業に対しての感謝や「ここで働きたい」という熱意が大切です。つまり、感謝や熱意を強調して発声することで、より相手に気持ちを伝えることができるのです。もちろん面接が終わったら、しっかりと声に出して感謝を伝えましょう。
コメント