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第1章声の力について「知る」

はじめに「声には人の心を動かすスゴイ力があるんですよ」とか「声はさらに自分の心身を変えていきます」と言うと、多くの人はこんな反応をします。「声なんて生まれつきのものでしょ」「まあ、いい声の人は得だろうけれど」「訓練していい声にするとか、話し方をトレーニングするとか?」いえいえ、あなたが普段出している声、その声の音によって相手への伝わり方がアップし、さらにはあなた自身を望むように変えていくんです。そう言うとたいていの方は怪訝な顔をします。それは、日々あたりまえに出している「(たかが)声」などよりも、「言葉」や「話し方」の方が重要だと感じているからかもしれませんね。もちろん言葉は大切ですが、その言葉を伝えるのは声なのです。声は他者とのコミュニケーションにおいてもっとも重要なツールです。今日一日、昨日一日を思い出してみてください。普通に暮らしていたら、まったく声を出さないなどという日はほとんどないと思います。それほどに生きることと深く関わっているのに、多くの人は声をあまり意識することなく毎日を過ごしています。しかし、どうしても声を意識せざるを得ないとき──多くの人の前で話すとか、録音などで自分の声に向き合ったとき──などに、「人前で話すのは怖い」と及び腰になったり、「自分の声は聴きたくない」と拒否反応を示したりします。これはとてももったいないことです。声には魔法のようなスゴイ力があるのです。そして声がかわいそうじゃありませんか。声はあなたの人生の味方になり、あなたを輝かせるために備わっているものなのに。声が出るのはあたりまえではなかった……そういう私も、かつてはほとんど声を意識せずに過ごしていました。しかし思春期に失声症になり、「たかが声」を出すことができなくなってしまったのです。そこではじめて「声」を意識しました。この失声症というのはやっかいで、原因や症状に個人差があるため、決定打となる治療法は確立されていません。私の場合は声が普通に出るときもあったので、最初の数年間は誰にも相談せず、周囲の人に知られないようにひたすらごまかしていました。大学に入ってからは病院に行ったり声の専門家の訓練に通ったりしましたがいっこうに治らず、人に頼れないことがわかってから、ようやく自分の声に正面から向き合うようになりました。「医師は声帯に異常はないと言う。なのに声が出ないのはなぜ?」「自分の意志で声を出せないなら、いったい何が声を出しているのだろう?」毎日そんなことばかり考え、答えを求めてあちらこちらへ。しかし当時、その答えを示してくれる医師もヴォイストレーナーも、大学も、研究機関も皆無でした。声帯が「声のもとの音」を出す仕組みは医学的にほぼ解明されており、言葉を発音するための構音機能や言語学的な研究も多くなされていました。にもかかわらず「声の正体」ははっきりしないままでした。それは声と脳と身体の関係性──声を出すときや聴いたときに脳で何が起こるのか──が、世界的にもほとんど研究されていなかったからなのです。私は手探りで脳科学や知覚認知心理学、聴覚心理学といった分野を学び、内外の論文をあたり、手当たり次第に声を分析するということを始めました。そうこうしている間に新たな角度からの脳の研究が進み、認知科学が一気に前進したことで、ようやく声と脳と身体の連動性の糸口がつかめてきたのです。声を出すことは、脳と身体の非常に高度な連携活動です。そして、その際に起こるさまざまな反応が、心身に驚異的な働きかけをするのです。簡単に言えば、それが「声の力」です。それがわかったときに、20年もの間、断続的に苦しんだ私の失声症は治ってしまいました。タイムマシンがあったなら、思春期の私に教えに行きたい。そうしたら楽しい青春時代を過ごし、もっとやりたいことができたかもしれません。だからこの本は失声症までいかなくとも、話すことに苦手意識があるとか、自分の声が嫌いだとか、なんとなく生きにくい、そんなふうに悩んでいる方々へのエールを込めて書きました。どうか、心を動かし人生も変えていく声の素晴らしい力を知って、使いこなしていただきたいと思います。その力は誰もがもれなく持っているものですから。声は人々の心を動かし、世界をも動かしてきた声の力は他者の心を動かし、ときとして歴史すら変えてしまいます。そんな例として、私がよく引き合いに出すのは政治家の声です。圧倒的不利だった大統領選に逆転勝利し、キューバ危機をおさめ全面核戦争を回避させたジョン・F・ケネディ。彼は初めて声のトレーニングをした米大統領として知られています。ソ連と米国の冷戦を終結させたミハイル・ゴルバチョフとロナルド・レーガン。英国初の女性首相として11年間も在任したマーガレット・サッチャー。そして国民に絶大な人気を誇り、首相退任後も強大な影響力を持ち続けた田中角栄。いずれも自分の声をよく知り、声の力を駆使した政治家でした。声は自分にも働きかけ、人生を望むように変えていく多くの人は、声は言葉を伝えたらそこでおしまい、と思っています。しかし声とはそのまま消えてしまう刹那的なものではありません。第1章で詳しく述べますが、声とは言葉以上に「他者」に働きかけるものです。それだけではなく、さらには声を出している「自分自身」にも働きかけるものなのです。声を出すときにはさまざまな身体反応が起こっていて、それは脳に蓄積されていきます。自分が声を出す場合だけでなく、人の声を聴いた場合にも同様のことが起こります。つまり声は、意識していてもいなくても心身に反応を起こし、それはそのまま心身に刻みつけられているといえるのです。あなたの経験や思考、つまり生きてきた軌跡があなた自身を作り出しているように、あなたが出してきた、そして聴いてきた「声」はあなたの心身に作用し、あたかも像を彫り上げていくようにあなたを構築し続けているのです。声は人に影響して心を動かす、さらに声は自分自身にも働きかけ、自分自身を望むように変えていく。それはつまり人生が変わるということです。声は「話し方」や「言葉」を超えて心を動かし、人を変えていく魔法のようなものです。それは決してファンタジーやオカルトではなく、最新の脳科学から導

き出された確かな力なのです。この本にはそんな力の秘密について存分に、いろいろな角度から書いています。内容は大きく3つの章に分かれています。章ごとにひとつのステップと思っていただけたらと思います。第1章は声の力について「知る」──声の力とは何なのか、なぜそんな力があるのか、そもそも声とは何なのかということを説明しています。知ることは声の力を使うための大切な第一歩です。第2章は自分の声を「みつける」──自分の声に意識を向ける、自分の心身を良き方向に変えていく方法をお教えします。これこそが声の力の真髄といえるものです。そして第3章は声の力を「使いこなす」──声の力を使うための最終ステップです。生活や仕事への実践と応用、そして私たちの脳と声の深い関係を解き明かすことで、声が心身を、そして生き方すらも変えていくことをお伝えします。実践的な応用として、担当編集者であるワカバヤシさんの声の悩みの解決法を載せてみました。同じような悩みを持つ方は、ワカバヤシさんと一緒に実践してみてくださいね。また、本の最後にはもっと声や脳について知りたい方にお薦めしたい参考図書を掲載しました。この本を読み終わったとき、ご自身の声を愛おしいと思っていただけますように、そしてあなたの人生が新たな彩りを持って豊かに輝きますようにと、心から願います。

はじめに

第1章声の力について「知る」001声の影響力を知るなぜかうまくいかない原因は「声」かもしれない声は印象を大きく左右するなぜ声の影響力を知らないのか002声で心が動かされるわけ声という音はより深い旧皮質にまで届く私たちの行動は情動に支配されている003声にはあなたのすべてが出ている誰もが無意識に声から情報を取り込んでいる004声は声帯だけで出すわけではない声帯は「発声専用の器官」ではない声を決めるのは「脳」声にあなたのすべてが出てしまうわけ005声はどのように決まるのか?声の素質を決めるもの声はそれまでの人生を記録するColumn1「聴く」とは?

第2章自分の声を「みつける」

001いま、どんな声で話していますか?自分はどんな声で話しているか?自分自身の声は気導+骨導で聴いている「気導音」としての声を知る多くの人は自分の声に嫌悪感を持つ「自信を持って話せる声」が人生を変える002声の力を妨げるのは「作り声」作り声は心身への大きなストレスになる緊張した声は相手も緊張させてしまう自信の持てる声は自己肯定感にもつながるColumn2作り声は「自分」を否定するもの003「本物の声」をみつける伝わらない声から卒業する〝生体恒常性に適う声〟とは?人間社会がストレスフルなわけ心身に無理をさせない声で生きる004自分の声をみつける録音を聴くことでまず確認する声の要素を言語化する思っていたのとは違う自分の姿何をしていたときのどんな声か?録音を聴くことの副産物――話し方が変わる本物の声にめぐりあう方法脳が納得するとはどういうことか005定着させるオーセンティック・ヴォイスの「定着」ストレスのかからない発声のコツ誤った習慣に上書きしていく自分で聴き、自分で判断しなくては意味がない「いいな」の感覚を軽視しない意識することが「声テンプレート」を上書きするColumn3録音を聴いて異常を感じたら

第3章声の力を「使いこなす」

001意識の話私たちが見ている、聴いている世界とは?五感を頼りに築き上げる世界はあいまい意識・前意識・無意識過去の記憶が行動に影響する「意志」によっておこなうことはごくわずか「選んだ」つもりが「選ばされていた」?「意志」はいとも簡単に支配される意識には謎が多い「無我の境地」と「フロー」潜在意識に遊ばれた話002声には無意識に働きかける力がある脳と意識を知ったら、いよいよ人生を変えよう現実はバーチャルリアリティ?意識が先か、行動が先か?「自分を変える・人生を変える」ルールとは?無意識領域のルールに介入できるのが「声」不都合な習慣を書き換える声「出しやすい声」が正解ではない003声で人生が変わった人人生ががらりと変わった人喋りのプロも実感した「オーセンティック・ヴォイス」の効果004伝えるために「本物の声」を使う本物の声だからこそ使いこなすことができる力強い声のエネルギー〝声を使い分ける〟必要はない型にはまるのはラク?005シーン別の自然な発声のコツ電話をかけるときの発声電話がかかってきたとき初対面や面接、あるいは気の張る相手との会話言葉かけの声で人間関係が好転する子どもには言葉よりも声お年寄りには声で敬意と慈しみを怒りや貶めの声は人も自分もむしばむ声で心(感情)をコントロールする話す速さで「場」をプロデュースする声を味方に人生を歩むColumn4声の力が効くのは人間だけではない

応用編編集ワカバヤシ、声のお悩み解決法

①自分が声を出す場面での悩み大きな声を出せない緊張するとどんどん声が小さくなってしまう人前で話すときに声が震えるよく聞き間違いをされる声が上ずって、高くなる自分の好みの声ではない。嫌悪感がある時や場所、相手によって自分の声が変わるようで気持ち悪い『えーと』『うーん』などを連発してしまう②相手の声について相手がどんな人物か知りたい相手が本音で話しているかどうかを知りたい(嘘を見破りたい)相手の今の機嫌や気分を知りたい相手の健康状態を知りたいおわりに参考文献

第1章声の力について「知る」

001声の影響力を知るこの章では「声の力」とはいったいどんなものなのか、なぜそれほど大きな力を持つのか、ということを詳しく説明します。「なんとなく感じていたけれど、実はそういうことだったのか!」と、納得したり実感したりしていただけるのではないかと思います。声という素晴らしい道具を使う第一歩は、声の力について知ることです。道具を使うためには、どんな道具なのか、どれほどのことができるのか知らないと使えませんよね。知ることがまずは第1のステップです。なぜかうまくいかない原因は「声」かもしれない真面目に仕事をしている、むしろ人一倍頑張っている、なのになぜか企画がうまく通らない。心を込めて話しているはずなのに、なぜか伝わらない。実は多くの方がそんな悩みを抱えています。自分の何が悪いのかよくわからないけれど、人から軽視されてしまう。誠意を持って接しているのに、なかなか信頼されない。自分の評価は不当に低い気がする、等々。もしかしたらその原因には声が関わっているのかもしれません。プレゼンテーションにしても人との付き合いにしても、伝えたいことがうまく伝わらないとき、たいていの人はこう考えるのではないでしょうか。「言葉の使い方、選び方が悪かったのではないか」「話し方が悪かったのではないか」自分は話すことが苦手なのだ、などと考えて、スピーチトレーニングに通ったりした方もいらっしゃるかもしれませんね。でも伝わらない原因、信頼してもらえない原因、評価が低い原因が「声」という「音」だとしたら?声は印象を大きく左右するあなたにはこんな経験はありませんか?・ちょっと話しただけなのに、なんだか相手に親近感や信頼感を持ってしまった。・内容はたいしたことを話していないのに、いつのまにか説得されてしまった。・話していると気持ちよく、つい時間を忘れてずっと話していた。・容姿が目立つわけでもないのに、良い印象が残り、また会いたいと思う。逆に、こんな人に心当たりはないでしょうか。・言っていることは正しいのだけれど、なんだか人がついていかない。・言葉や態度は礼儀正しいのに、なぜか誠意が感じられず信用されない。・人を褒めたり祝福したりしているのに、なんとなく意地悪そうで不愉快。(これらの人は政治家やビジネスリーダーだったらとても残念です。でも実は多いんですよ)「なんだか」とか「いつのまにか」とか「つい」とか「なぜか」と書きました。どれも言い換えれば「無意識のうちに」ということです。これこそが声の力の一つなのです。声は脳の無意識の領域に働きかけて感情を動かしてしまうのです。人が声だけでどのような印象を持つか、という実験を紹介しましょう。①声のタイプがまったく違うAさんとBさんに、同じ言葉を同じ調子で話してもらいました。回答者には二人の姿は見えません。ただ声だけを聴いて印象を答えてもらいます。その結果、回答者は二人の容姿についてかなり明確なイメージを持ちました。こんな具合です。Aさん─親しみやすい。明るくて楽しい人。背が高く姿勢がいい。信頼できそう。友人になりたい。声を聴いているとわくわくする。Bさん─聴いているといらいらする。嘘をついている感じ。あまり一緒にいたくない。不安定な性格。……かなりシビアだと思いませんか。②①の先入観が残るといけないので回答者をチェンジし、同じく声だけを聴いてもらいました。Aさんには「これではだめですよ。もっとしっかりやってもらわないと」など叱責の言葉をいくつか言ってもらいました。一方のBさんには「素晴らしいですね、この調子でがんばってください」というような賞賛の言葉をいくつか言ってもらいました。その結果は次の通りです。Aさん─叱責しても温かみがある。言葉はきついが相手のことを真剣に考えている。こういう上司なら信頼できる。こういう人と一緒に仕事をしたい。Bさん─褒め言葉の裏に悪意を感じる。バカにされているように感じる。褒めているのに反感を感じる。裏がありそう。回答者が別グループになったにもかかわらず、①の実験で好感度の高かったAさんの叱責は好意的に受け止められ、一方のBさんは褒めているにもかかわらず、やはり回答者の印象は悪かったのでした。実験とはいえBさんにとっては気の毒な評価でした。この実験でわかることは、人は声によって明確に好き嫌いといった感情が起こるということです。そして「好きな声」の人には否定的なことを言われても信頼感を持ち、「嫌いな声」の人には褒められても反発を感じるということです。さらに声という音から、人柄や容姿までも、ほぼ無意識にイメージを作り上げてしまうということもわかりました。

なぜ声の影響力を知らないのかいまここを読んでいるみなさんは、無意識に働く「声の影響力」といわれても、まだ本当にそんなものがあるのかな、と半信半疑だろうと思います。そもそも「声の影響力」どころか「声そのもの」についても、日本では幼少時から高校・大学までまったく教育がなされません。海外でも「声」そのものについての教育をおこなう学校は限定的ですが、自分の声で自分の考えをしっかりと伝えることは幼少期から非常に大切にされています。日本では、まずは決められたことを決められたように口に出すことを求められ、それが聞こえなければ「大きな声で、はっきり」などと言われる程度です。だから多くの人は声が「自分だけの何かを伝える手段であること」をあまり意識しないまま大人になります。もちろん自分の声がどんな影響力を持っているのかも知らず、それどころか自分がどんな声で話しているのかすら、よく知らないままであったりします。言葉は文字にして目に見えるように残すことができます。こなした仕事は数字などによって成果が計られ、目に見える形で蓄積されるでしょう。しかし声によって喚起された「印象」や「感情」は文字にも数字にもなりません。意識の表層にはキャッチされないことがほとんどですが、声という音が持つ膨大な情報は脳の深層に届き、そこに刻まれ、判断を左右します。それは無意識だからこそ、かえって言葉や数字を凌駕してしまうともいえるのです。余談ですが、映画監督の是枝裕和さんは、映画のキャストは声を重視して決めているそうです。声によって映画の世界観ができあがるから、と。是枝さんの作品は、言葉に表されないものや、場の空気感がじんわりと伝わってきます。それこそが是枝さんの映画の魅力といえるもので、なんだかわからないけれど何度も観たくなる。監督は、声という音が無意識に脳の深いところを揺り動かす感動を引き起こすことをよくご存じのようです。

002声で心が動かされるわけでは声の力について説明していきましょう。声は「他者」に働き、そして「自分自身」に働きます。そのどちらも「脳へのアクセス」に鍵があります。声というとほとんどの場合は言葉とセットです。このうち言葉は脳の中の聴覚野のすぐ近くにある言語野に取り込まれます。意味を理解する「ウェルニッケ野」とか発語のための「ブローカ野」などという名称を聞いたことがあるのではないでしょうか。これは、それぞれの部位の機能を発見した医師の名前に、領域を表す「野」がつけられたものです。この言語野は「大脳新皮質」にあります。新皮質というのは、その名のとおり進化的に新しい部分で、言語機能のほかに、計算や分析や思考など、つまり意識的に行う知的なことを司ります。いわば理性や知性の部分で、私たちの「自覚」や「意識」もこの新皮質で生まれます。

声という音はより深い旧皮質にまで届く言葉は新皮質で処理されますが、「声という音」は、脳の深い部分にある「旧皮質」といわれる本能を支配する部位まで届きます。ここは基底核や視床下部などがある大脳辺縁系という部位で、自律系の統合中枢、つまり呼吸や循環などの生命活動の司令塔です。ここはまた「好き、嫌い、快、不快、恐怖」といった「情動」を起こすところでもあります。「情動」とは否応なく湧いて出るもので、自分で起こそうと思って出せるものではありません。誠意とか信頼感などというものも、実際には言葉によって理性で生じるのではなく、心の底で感じるもの。つまりこれもまた情動です。心の底とはつまり脳の旧皮質のことだと言い換えてもいいでしょう。そして脳から情動が生み出されるときには必ず神経伝達物質が生成されます。それが「好ましい」「安心する」あるいは「嫌い」「不快」などの感覚として、否応なく心を動かすのです。つまり声には、脳の奥深くに作用し神経伝達物質を産生させ情動を起こし、その結果として行動や考え方すらも変えさせてしまう力があるということなのです。人間は原始時代から音で危険や安全を判断してきました。危険が迫っている音を聴いたらすぐにアドレナリンが放出されます。心拍数は上がり、全身に一気に酸素が届き、筋肉は素早く収縮します。「おや、逃げたほうがいいのかねえ、どうかねえ」なんて考えていたら生き残れません。本能的に素早く逃げなければ命にかかわるのです。私たちの行動は情動に支配されているその脳の働きは、文明社会となっても簡単には変わりません。音は現代に生きる私たちにも、情動を起こさせ、それによって行動を支配しているのです。たとえば音楽を聴いて気持ちがうきうきするとか、涙が出るとか、美味しい物を食べて「うわあ、幸せ」なんていう気持ちになる、などということがありますね。これも情動です。つまり本能部分が聴覚や視覚や味覚などの情報を受け取ることで、ドーパミンやエンドルフィンなどという神経伝達物質が生成され、自律神経系にも影響を及ぼし、その結果としてドキドキしたり、リラックスしたり、あるいは鳥肌が立ったりします。やる気が出る、なんていうのもこの部分の作用なのです。そういった情動によって人は「心を動かされた」という状態になるわけです。自分ではコントロールも意識もできない領域で情動が起こる。それを神経伝達物質などによって感じ取ってから、ようやく理性領域で「楽しい」「嬉しい」「悲しい」というように言葉を与え「納得」するのです。その意識領域と無意識領域のまぜこぜを私たちは「心」と呼んだりするわけですね。楽しいから○○する、悲しいから○○する、やる気が出てきたから○○する、というように「心」が行動を左右するのは当然のことのように思っていますが、実はこのようなシステムが働いているのです。簡単にまとめると、声とは言葉を運ぶためだけのものではなく、音として本能領域である生存のためのコントロールセンターにまでも届き、人を動かすものである、ということなのです。

003声にはあなたのすべてが出ているさきほどの実験で、声を聴いただけなのに、性格や容姿や姿勢についての回答があったことを思い出してください。好感度の高かったAさんは「背が高く姿勢が良い」とか、Bさんは「不安定な性格」などという感想を持たれていました。これは声が言葉だけではなく、声を出している人の体格や性格など、さまざまな情報を伝えているということです。誰もが無意識に声から情報を取り込んでいる私は今までに3万例以上の声を分析してきました。普段でもテレビやラジオから流れてくる声や、街で聞こえてくる声をついつい分析するのが癖になっています。ちょうどこの項目を書いていた日、私はあるカフェに入ってコーヒーを飲みました。椅子の背が高くボックスのようになっている席でしたが、私とは背中合わせの位置で、カップルが並んで腰掛けているようです。早速、私は声に耳を傾けました。声から判断すると女性も男性も22~23歳で、男性は中肉中背、女性は身長が少し低め。時折、大声でキャッキャと笑う女性の声は、楽しそうというよりも無理している感じ。笑い声なのに、顔は笑っていない声です。ぼそぼそと相づちを打つ男性の声からは「もうこの店を出たい、つまらない」という心のつぶやきが聞こえるようです。女性は楽しくないのに、相手の顔色をうかがいながら無理して笑っている。お互いに思っていることを伝え合えず、それぞれが無理と我慢をしていて、それが声に出てしまっている。うーん、このふたりは長続きしないんじゃないかな……余計なお世話ですよね。でも声にはこんなふうに、いろいろな情報が出てしまっていて、実は当人もなんとなく感じ取っているものです。みなさんも、家族や恋人など、普段からよく話している相手の声からは感情を読み取っていることでしょう。不機嫌そうな声、怒っている声、ワクワクした声、緊張した声など。弱々しく元気のない声だったら、病気かもしれないと思うでしょう。では声から何がわかるのか、声には何が含まれているのかを書き出してみましょう。①体格骨格②性別、年齢③その人の生育環境④性格⑤現在の体調と精神状態見てわかるとおり、声にはその人のほぼすべてが含まれています。私はよく「声は究極の個人情報」と言いますが、履歴書以上にすべてをさらしてしまっているのが声なのです。声にその人のすべてが含まれている……ちょっと怖いですよね。「この人、好き」「この人は苦手」などという思いや、思わずついてしまった嘘、昨晩の飲み過ぎや、朝出がけに熱いコーヒーで舌をやけどしたこと。賑やかな大家族で育ったこと、学生時代に合唱団に入っていたこと、大きな手術をしたことがあること、社交的に振る舞っているけれど実はひとりが好きなこと、かなり頑固で自分の考えは曲げないこと……そんなことが声にすべて含まれているのです。どうしてなのか、その理由は次の004と005で詳しく説明します。いくら個人情報が含まれていたところで、よほど訓練でもしない限り聞き取れないから平気、と思いますか?実はそうではないのです。分析して「意識的にわかる」ためには慣れが必要ですが、分析などしなくとも私たちは「無意識に」その情報をすべて受け取り、聞き取っています。

004声は声帯だけで出すわけではないここまでは、聴いた声に何が含まれていて、脳で何を起こすのか、なぜ言葉ではなく声で心が動かされるのか、といったことを述べてきました。この項では「声がどのように出されるのか」ということを説明します。なぜ声にその人のすべてが出てしまうのか、その理由がわかります。多くの人は「声を作っているのは声帯」と思っています。だから「声」というと喉周りのことしか考えません。それは大間違いとまでは言わないけれど、かなり間違いです。ではどこが声を作っているのでしょうか。声帯は「発声専用の器官」ではないどんな声を出すかを決めるのは、ほぼ脳です。こう言うと多くの人が、ときには声の専門家を名乗る方までもが「ええっ」と驚いてくださいます。もちろん脳に音を出す器官があるわけではないですから、声のもとの音を出すのは声帯です。声のもとの音(声帯原音といいます)は、肺からの呼気が声帯を通り抜けようとするときに、その狭い隙間を振動させることで生じる音です。ですが、これは声とはいえません。声帯から出る原音は「ブー」という小さくて味気ないブザーのような音にすぎないのです。この音が、声帯よりも上の空間(声道といいます)である咽頭や口腔や鼻腔で共鳴して増幅し、人それぞれの個性ある豊かな声になるのです。多くの人は、喉にある声帯が「発声専用の器官」だと漠然と思っています。しかし声帯は音を出すための器官ではなく、もともとは気道に異物が入らないようにするための両開きになる膜のようなものです。食べ物や飲み物をゴックンと飲み込むときに、首の真ん中あたりにある喉ぼとけが上に動きますね。ここを喉頭といいますが、この中に声帯があります。ゴックンと飲み込んだときには、声帯のある気道に飲食物が入らないように、喉頭蓋という舌の付け根にある軟骨が、文字通り気道に蓋をして器官に異物が入るのを防ぎます。高齢になると誤嚥、そして誤嚥による肺炎が多くなるのですが、これは喉頭蓋を動かす神経が鈍くなったり、筋肉が柔軟性を失うことによって起こるのです。

さて、呼吸しているときには当然ながら声帯は開いています。だから空気が自由に通ることができるわけです。ちょっと喉を意識して息を吸ったり吐いたりしてみてください。呼吸するときには喉に力は入りません。鼻や口から吸った息がまっすぐに喉の奥から肺のほうに進む感じがしますね。では声を出すときにはどうでしょう。ちょっと喉の奥が閉まるような感覚があると思います。これは声帯の付け根にある筋肉が声帯を狭めた動きです。声帯は筋肉性のひだのようなもので、表面は薄い粘膜でペラペラとしています。ここを狭めて息を吐くと、ベルヌーイ効果という働きによって粘膜が引き寄せられ、波が起こります。ベルヌーイ効果とは、水や空気が流れるときに起こる圧力の変化のことで、簡単にいえば、流体の近くにあるものが引き寄せられる現象のことです。水道の水を出して、そこに薄い紙を近づけると引き寄せられますね。それと同じことが、声帯の薄い膜の狭い隙間を空気が通るときに起こっているのです。そして引き寄せられて離れて、という動きが1秒間に何百回も起こり、その振動が声帯原音になるというわけです。さてその声帯原音はまだ声ではありませんでしたね。この音が声帯より上の空間(声道)で共鳴して声になるまではほぼ同時です。さらに話すという行為のためには「言葉」が必要ですから、声帯から音が出て共鳴して声になりつつ発音が作られなくてはなりません。発音には口腔や舌の位置や唇の形など、非常に複雑で微妙な位置関係と運動が必要です。それをひとつひとつ「この筋肉をこう引っ張って呼気がこの位置に当たるから舌をこうして」なんて「考えて」実行することは不可能です。

声を決めるのは「脳」自分が実行していないなら誰が?瞬間的に声帯を開閉させ、必要な周波数の音を出す長さと張りに収縮させ、緻密な神経伝達の指令を出して「声」にしているのは、脳です。たとえば大きな声を出そうと思ったら、大きく息を吸って呼気に勢いをつけながら、自分の出しやすい周波数で発声します。そのときの呼気量も呼気のスピードも声帯の振動数も自分の力で調整していると感じているかもしれません。しかし、音の高さは音の波が1秒間に揺れる回数を「ヘルツ」という単位で表しますが、226ヘルツの声帯原音を出すために、1秒間に自分で声帯を226回振動させることはできないのです。高い声を出したかったら、声帯を薄く引っ張って周波数を多くし喉頭を上げて声道を短くします。これも自覚できるのは漠然としたスイッチのレベルであって、実際の動きは自力でできることではありません。「でも高い声にしようと思ったのは自分だ」と思うかもしれませんが、あくまでもスイッチなのです。脳の中に高い音を出すための神経の配線がすでにあって、スイッチを入れただけ。その複雑な神経や筋肉を動かすのは、脳の自覚できない領域なのです。この部分は第2章にも第3章にも関わる、とても重要なところです。声の力を手にするには脳に協力してもらわなくてはなりません。声の魔法の秘密は、実はそこにあります。脳については随時述べていきますので、ひとまず「声には脳が必要である」と憶えていてくださいね。声にあなたのすべてが出てしまうわけ声にはその人の情報がすべて含まれていて、それを私達は無意識に取り込んでいる、ということを前に述べました。ここでその理由を説明しましょう。それは先ほど書いた、人は喉に発声専用の器官を持っているわけではない、ということに関わってきます。まず声のもとの音を出す声帯は、気道に異物が入らないようにする膜のようなものでしたね。そして声を出すためのエネルギーは呼気、つまり空気を吸って肺によって酸素を血液に乗せて全身に運び、不要になったものがまた肺から排出された廃物です。声帯はその廃物を上手に利用して振動を起こし、声のもとの音を出しているわけです。さらにその音が声になるには声道や口腔や鼻腔での共鳴が必要でした。その共鳴に使われる部分も、声のための専用器官ではありません。口腔であったり鼻腔であったり、つまり空気の取り入れと排出をおこなうところであったり、その通り道であったりします。そして言葉の発音を作る舌や歯や唇は、食物を取り込む消化器官の入り口であるわけです。つまり声というものは生命に関わる身体の機能や部位を巧みに借りて出されているのです。固定された楽器のようなものが喉にあるのではありません。だから歯や唇や舌に異常があれば、あるいは喉や鼻に異常があれば、それはすぐに声に出ます。肺や気管といった呼吸器に異常があってももちろん声は変わります。もっといえば全身が声の共鳴に少なからず関わっているので、内臓が悪いとか腰痛とか骨折なども、また女性の場合は生理や妊娠というホルモンの変化が声に表れることもよく知られています。それだけでなく、声にはどんな表情で話しているのかも出てしまいます。笑ったり眉を上げたり下げたり、顔をしかめたりこわばらせると、表情筋の動きで共鳴が変化するのです。目を伏せたりまばたきをするとピッチが下がります。電話など顔が見えない相手との会話でも、「笑顔なのでは」とか「顔をしかめているな」とわかった経験はどなたにもあるのではないでしょうか。

005声はどのように決まるのか?人の声はまさに十人十色で、ひとりひとり異なります。前の項で書いたように、声には身体の状態すらも出てしまうものですから、この世に同じ身体の持ち主がいないように、声も全く同じ人はいないのです。しかも今までに述べてきたように、声には脳が大きく関わっています。同じ脳の人はいないのですから、世界の70億を超える人々は、すべて違う声を持っているのです。声の素質を決めるものそしてひとりの人間であってもさまざまな声が出るわけですが、「声の素質」というべきものは体格骨格によってある程度は決まってきます。声帯原音の音域は声帯の長さと太さ(厚さ)で決まります。声帯の長さは身長とほぼ比例します。これは身長の高い人は骨格全般が大きいので、手足も長く足や手のサイズも大きいことが多いのと同じです。身長が高ければ声帯は長く地声は低くなる。身長が低ければ声帯は短く、地声は高くなる。男性の声帯は女性より太いので低い声が出る。だから地声の素質は、生まれ持った体格骨格、性別によっておおむね決まってしまいます。身長150センチの女性が身長180センチの男性と同じ音域の声は出せません。ヴァイオリンでコントラバスの音域を出すのは無理ですよね。それと同じです。そして骨格が細い人は、大きい人に比べると共鳴させる場所が狭いわけですから、響きも少し弱くなります。皆さんの周りにいる人を思い浮かべてみてください。身長が高い人は声が低く、身長の低い人は声が高いのではないでしょうか?

以前、身長が170センチある女性から「自分の声って低くて嫌いなんですよね、どうしてこんな低い声なんでしょうか」と訊かれ、「その身長だとその声域は普通ですよ、身長が高いと声帯も声道も長いから身長の低い人より低い声になるのはあたりまえですよ」と答えたところ、「ええーっ知らなかった!」と言われたことがありました。身長の高さと声帯の長さはほぼ比例し、声帯が長いほうが低い声になるということが、意外に認識されていないようです。でも、姿が見えないパーテーションの向こうから、よく響く低い声が聴こえてきたら、なんとなく「背が高くがっしりした男性」を想像しませんか?鈴を振るような高い声を聴いて「怖そうな大男だろう」と思う人はいません。ほとんどの人は「小柄な女性では?」と思うはずです。このように身長や体格と地声の音域の関係は、無意識ながらなんとなく皆がわかっているのです。道で「ミャーン」と猫の高い鳴き声が聞こえたら、誰でもとっさに「仔猫かな」と思うものです。動物は(人間もそうですが)、子どもの頃は高い声で鳴きます。身体がまだ小さいので声帯も声道も短く高い声なのですが、同時に「小さい赤ちゃんなんですよ、保護してね」ということを、声だけで伝えているのです。人間も生物の一員ですから、高い声を出すのは「私は弱いの、降参しているの」と、周りの人に無意識にアピールしていることになります。「仕事をバリバリやって認められたい」と張り切っていても、高い作り声で話していたら、「私は小さくて弱いので仕事させないでね」と言っているようなものなのです。さあ、身体的特徴(身長など)が地声を左右する、つまり声から身体的特徴がわかることはおわかりいただけたと思います。身長だけでなく骨格の太さや大きさも共鳴に影響しますし、主たる声道──声帯から出た小さな振動音が共鳴しながら通る道すじ──である咽頭(喉頭の上の部分)や口腔や鼻腔は、豊かな響きを作り出すために欠かせません。それらの容れ物である顔は大きいほど素質として恵まれているということになります。巷では小顔が流行のようですが、声にとっては大きな顔は素晴らしい素質といえるのです。声はそれまでの人生を記録するさらに、いまあなたが出している声は、たったいま作られたものではありません。というと不思議に思うでしょうか。声を出すためには、呼気の量や強弱や声帯の張り具合の調整、声帯原音を共鳴させる口腔や鼻腔への振動の当て方、発音を作るための舌や歯や唇の動きなど、100近い筋肉と神経の連係プレーが必要です。しかも言葉はいくつかの発音を滑らかに繋げなくてはならず、そのためには出した声を聴覚が瞬時にチェックして次に出すべき声にフィードバックします。これらがわずか0・01秒単位の電光石火でおこなわれるのです。人間を含む動物には「反射」という生理反応がありますが、これは大脳を経由せず神経系から直接筋肉などに伝えられるので、刺激と反応がほぼ同時です。しかし言葉を話すということは大脳が非常に複雑な処理をしながら、しかもスピードが必要とされます。「ハイ、と言うにはまずハで口腔を縦に開いて舌を下側に丸め軟口蓋のあたりに息を当てて、イはそのままの形で口腔を横広に薄くし舌は5ミリほど奥に引っ込めながらわずかに上に」などと発音を一から作る作業をしたり、声帯の振動数を調整していたら滑らかに喋ることはできません。ではどうやっているのかというと、生まれたときから出してきた声の膨大なデータベースから、そのときに必要な声の神経回路を瞬時に取り出しているのです。とはいえ、出した声ひとつひとつが別々に蓄えられているわけではなく、その中からよく使う声の神経回路を、脳が判別したり結びつけたりして効率化を図り、ひな形を作るのです。それは「おはよう」ひとつとってもその人だけのひな形です。「生まれたときから出してきた声の膨大なデータベース」には、声を出したときの身体の状態と感情も取り込まれます。脳は、声を出したときの身体の状態と感情、何かの刺激があればその反応も一緒に取り込むのです。そうやって、いろいろな材料を組み合わせてたくさんのひな形を作る、ということは、そのひな形はその人の人生すべてから成っているということです。ある材料の比率が高ければ、ひな形にもそのように反映され、よく使うひな形はすぐに出てくるように脳は用意します。あなたの人生のすべてが、いまの脳を作っている。そしてあなたの人生の中で出してきた声(聴いてきた声も)が、あなたのいまの声を作っている。つまり声はあなたの経験、人生のレコーダーだといえるのです。

Column1「聴く」とは?人間の聴覚は視覚よりも早くから発達し、6ヶ月の胎児期にはほぼ完成しています。胎教などといって、お腹の赤ちゃんに音楽を聴かせたりしますよね。実際に赤ちゃんにはちゃんと聞こえています。とはいえ羊水の中で聴くのですから、外の世界の音はぼんやりとしか聞こえません。お母さんの声もくぐもって聞こえています。しかしこの時期からすでに胎児はお母さんの声を記憶し、聴覚の完成を追いかけるように脳の言語野の発達が始まることがわかっています。人間は生まれてからもすぐに立てず、自分の力で立って歩けるようになるまでにはおよそ一年もかかります。その間、赤ちゃんはただ寝てミルクを飲んでいるだけではありません。脳の中では凄まじい勢いで神経の回路が作られているのです。赤ちゃんはお腹の中にいるときから、そして誕生してからも世界をまずは音で認識し、手探りならぬ音探りによって、お母さんの感情までも読み取ります。それだけでなく、生まれたばかりの赤ちゃんは、すべての言語の複雑な発音を聞き分ける聴覚を持ち、聞こえる音をすべて取り込み、言語を話すために蓄積していきます。

私たちそれぞれがいま、ことさら意識することもなく話せているのは、赤ちゃんのときから聴覚に蓄積された音のおかげなのです。私たち人間は優れた聴覚を持って生まれ、赤ちゃんのときから周りの音をすべて取り込み続け、脳はそれを分析して分類し、無意識領域に音のデータベースを作り続けているのです。そしてここでは、意外に知られていない「音」と「音を聞き取る仕組み」についても書いておきましょう。声も含め、すべての「音」は「振動」です。発音源の振動によって、空気の分子が次々に押されて波が起こります。音の波、つまり音波ですね。この音波が耳に入り鼓膜を振動させて3つの小骨へ、そして内耳へと伝えられます。内耳には蝸牛というカタツムリのような形の器官があります。ここは神経細胞が集まっているところです。蝸牛はリンパ液で満たされていて、びっしりと生えている1万5千個もの有毛細胞が、それぞれ周波数別に音波の振動を受け取り電気信号に変換します。それが聴覚へと届けられ、聴覚で統合されるのです。「超音波」という言葉をよく聞くことがあると思います。これは人間の可聴域(聴くことの可能な範囲)よりも高い音のこと。有毛細胞の数には限りがあるので、あまりに高い音や低い音は受け取ることができません。受け取れない音は電気信号に変えられないので、聴覚にも届けられない、つまり聞こえないということになります。人間の可聴域はだいたい20ヘルツから20000ヘルツくらいです。地球上で動くものはすべて音を発しています。私たちの周りには聞き取ることはできないけれど、音が満ちているのです。「聴く」ということを簡単にまとめましょう。音は振動数ごとにバラバラに電気信号にされ、その信号を聴覚が再び統合し、それを「認識」して初めて「音として聞こえる」ということになります(専門用語では「認識」することを「認知」といいます)。一般的に「音を聴くのは耳」だと思われていますよね。しかし耳は音(振動)を受け取り、感覚器へと伝える器官です。感覚器である脳の聴覚で音を認識して初めて「聴いた」ことになるのです。

 

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