第1章任せることの5つのメリット
01やる気と定着率が一気に上がる
私自身がセブン‐イレブンのFC(フランチャイズ)店を経営していた頃、出店地区の同チェーンのスタッフ定着率はとても悪く、平均在籍期間は7ヵ月程度でした。私の店も開業してからしばらくの間は、他店と同様にスタッフが定着しませんでした。
新しいスタッフを採用・教育して、少し慣れてきたなと思って安心していたら、数ヵ月もたたないうちに退職。そして、また求人広告を出して募集する、というサイクルから抜けられない状況が続いていました。
それでも、スタッフへのマネジメントのやり方を一変することで、その状況から一気に抜け出すことができたのです。どのように人材マネジメントのやり方を変えたのかというと……私の店のスタッフは、一人の正社員を除いて、学生アルバイト、主婦パート、そして、フリーターという構成でした。それらのスタッフに、店の運営の多くの部分を「任せる」ことにしたのです。
具体的には、仕入れ、売場づくり、在庫管理、POP作成など、売上をつくり出すための主要業務については、すべて「スタッフ主導」で行うようにしました。
その際、業務の遂行に必要となる売上動向、荒利益率などの詳細データについてもスタッフにすべて公開し、売場の運営を彼、彼女たちに託すことにしました。
その結果、自分で仕入れた商品を自分の手で売場に陳列し、お客様が購入していくことに面白さを感じるスタッフが徐々に増えていったのです。
特に、自分が立てた仮説通りに商品が売れたときは大喜びすることになり、それを機に、スタッフは売上づくりに積極的に貢献するようになりました。
仕事を任せていくことで、仕事自体に興味を抱き、「楽しい!」「面白い!」「もっと関わりたい!」という気持ちが芽生え、スタッフのやる気はアップし、同時に定着率もアップするようになりました。
最終的に私の店のスタッフの定着率は、同地区平均の約4倍の2年8ヵ月となり、学生スタッフに関して言えば、アルバイトで入社し、就活がスタートするまで、あるいは卒業まで勤める状況になりました。
ここでお伝えしておきたいのは、私の店で働いていたスタッフは、特別な人材ではなく、どこにでもいる普通の学生、主婦、フリーターだったということです。
また、私が経営していた店は、高度な人材育成のノウハウやマネジメントシステムを持つような特殊な店ではなく、全国どこにでもあるセブン‐イレブンのフランチャイズ店だったということで
す。そういった、ごくありふれた店で働く平凡な人材でも、仕事を「任せる」ことで、やる気のスイッチをオンにして、積極的に仕事に取り組むようになっていくのです。
あなたの店が特別な店でなくとも、ものすごく優秀な人材がいなくとも、私の店で起こったことを再現するのは、十分に可能なのです。
02次期リーダーがどんどん育つ
「仕事は作業だけでなく、判断することまで任せなければ人は育たない」これは、優秀な人材を次々に生み出している、大阪の大手自動車販売店の凄腕マネージャーの言葉です。
彼は、この人はと思えるスタッフには、自分の仕事の一部ではなく、「その業務に関わるすべてのことを任せる」というやり方で人を育てています。
彼いわくの「丸投げマネジメント」という手法を用いることで、彼の直属の部下の中から、毎年、次期リーダーとなる優秀な人材をゾクゾクと巣立たせています。
具体的には、スタッフに仕事を任せる際に、その業務の細かな作業はもちろんのこと、重要な「判断」に関することまでを任せきるというやり方です。
また、任せた後は業務遂行における相談にはいくらでも乗るけれど、「判断」に関する質問には一切答えないことも徹底されています。
重要な判断を行う際に、マネージャーである自分が近くにいると、スタッフは答えを求めようと相談を持ち掛けてきます。そういうと、多くのマネージャーは自分の考えや答えを伝えて、その通りに判断することを勧めます。
スタッフが行う判断が自分の考えとズレていたら、もしかしたら失敗するかもしれない。だから、自分のやり方でいく方が安全だし、間違いないだろう。そんな考えが頭をよぎり、スタッフに自分で判断させないようにしてしまうのです。
しかし、そうすると、スタッフとしては仕事を任せられているはずなのに、実際には指示された通りに動いていることになります。これでは、いつまでたっても自分で判断する力が養われませんし、成長も期待できません。
スタッフが下した判断が自分の考えと異なれば不安でしょうし、うまく進んでいなければ、いら立ちを覚えるかもしれません。
それでも、ぐっと我慢をして、丸投げすることに徹するのです。重要な局面で判断を下すためには、多岐にわたる情報、豊富な知識、自分で考え抜く力、そして決断を下すことができる強い意志が必要です。任せられた仕事を終える頃には、スタッフはそれらを身に付けることができていて、大きく成長を遂げることになるのです。
ここで間違えてはいけないのは、「丸投げ」する対象となるスタッフは、自分で正しく判断できる実力が付いている人材であることが前提だということです。
そうでないスタッフには、任せるのではなく、「教える」ことが優先となります。教育することを抜きにして、丸投げマネジメントを実行することはできません。
スタッフ育成において判断業務まで任せることは、正直、リスクもありますし、ストレスを感じるかもしれません。
しかし、ここでご紹介した凄腕マネージャーが行っている「丸投げマネジメント」の実施で、スタッフを次期リーダーとして育て上げていくことが容易に可能となります。
03チーム力がぐんぐん上がる
セブン‐イレブンのように24時間365日、年中無休で営業し、スタッフが数十人もいるような店では、自分と同じシフトで勤務していない人とは、1ヵ月の中で数回しか顔を合わせない、もしくは顔と名前は知っているけれど、ゆっくりと話をする機会が一度もないスタッフも出てきてしまいます。
そうなると、スタッフ間での連携が取れなくなり、店としてのまとまりもなくなってしまいます。そういうときは、普段は顔を合わせることがあまりないスタッフ数人で、あえてチームをつくり、チームごとにミッション(任せる仕事)を与え、その達成に向けて行動させます。
そうすることで、スタッフ間でのコミュニケーションが密に行われるようになり、意思統一や結束力の強化も併せてできるようになります。
私がかつて経営していたセブン‐イレブンでは、年に数回行われる、FCチェーン本部が主催する販売キャンペーンの際に、店内を4、5つのチームに分け、チームごとにリーダーを決めて、キャンペーンの運営をスタッフに任せていました。
その際、リーダーが呼び掛けて、チームごとのミーティングもしばしば行っていました。そこでは、キャンペーンでのチーム目標を決めるところからスタートし、目標を達成するための具体案、行動計画、結果検証までのすべてを一任していました。
チーム制を導入する前は、オーナーである私が号令を掛けて、あれやこれやと指示をしてキャンペーンに取り組んでいたのですが、なかなかスタッフの協力が得られず、思うような結果を出せませんでした。
スタッフに任せてからは、自分の同僚の一人がリーダーとなることで、「あの人が頑張っているのだから、協力してあげよう!」と感じるスタッフが増えていき、結果として、好成績を残すことができました。
また、通常の営業では、3人ほどのスタッフが同曜日・同時間帯に勤務するスタイルでしたので、同シフトで勤務するスタッフを1つのチームとして捉えていました。
チームは、ベテランスタッフ1人に対して、中堅1人、新人1人で編成をし、ベテランスタッフか中堅のどちらかをシフトリーダーに任命して、そのチームに与えられたタスクを勤務時間内に完了させることをチームミッションにして、業務に当たらせていました。シフトリーダーは、チームミッションを達成するために、メンバーの業務の進捗状況を常に把握し、仕事がうまくこなせないでいるスタッフへのフォローや、各自の抱えている仕事量のバランスを保つよう、業務遂行のマネジメントを行います。
そうすることで、店全体を見る目が養われるため、成長が加速します。その他のメンバーも、自分たちに課せられた業務をなんとか時間内に終わらせようと考えて仕事に取り組むことで、仕事に対する意識、スキルが向上します。
このように、店のスタッフをチームとして稼働させることで、チームワークが良くなるとともに、店全体のレベルアップにもなるのです。
04業務のシステム化が進む
スタッフに仕事を任せる内容を、口頭であれやこれや伝えていくだけでは、言ったことができない、指示したことが守れないという状況に陥り、仕事を任せることができなくなってしまいます。
そうならないために必要なのが、ツールを活用した、任せるシステムの構築です。例えば、私が経営していたセブン‐イレブンの店では、スタッフに任せる仕事の内容を「情報連絡シート」を活用して伝えていました。
ツールは、A4サイズの用紙を使用します。伝達するべき情報を1シートに1項目のみ記入するようにし、下段にスタッフの既読チェック欄を設けたシンプルなものです。
このシートに任せる内容を記載し、スタッフが最も目につきやすい場所(事務所やバックルームの壁など)に貼り出しておけば、自然にスタッフの目に入りますので、任せたいことがスムーズに伝わるようになります。回覧した後は、「情報連絡シート」を情報のカテゴリーごとに分けてファイリングしておけば、同様の連絡を行う際に、再利用することができて便利です。
また、ひと手間掛かりますが、シート自体をスキャナーで読み取り、PDFファイルとしてパソコンに保存することで、いつでも誰でもスピーディに店の情報を検索し、アクセスすることができるデータベースのシステムが出来上がります。
清掃業務など、ルーティンで行う作業を任せる場合でも、ツールを活用すれば、効率良く業務を進めることができます。例えば、店内の商品陳列棚の清掃を任せる場合、単に清掃することを指示したとしても、店内の棚の数が多ければ、一度にすべてを清掃することはできません。
そうすると、目につく場所にある棚は、毎日清掃されてきれいな状態を保つことができますが、店の奥にある目につきにくい場所の棚は、清掃される機会が少なく、ほこりがたまった状態で放置されがちになります。
そこで、店内の清掃するべき棚を書いたレイアウト図を用意し、清掃した後、シートの該当する棚の箇所に清掃日と清掃者名を記入するようにしておけば、清掃している棚とそうでない棚が一目瞭然となります。
このように、スタッフに仕事を任せる際にツールを活用すれば、誰でも、いつでも、業務がこなせるようになるシステムの構築がバンバン進んでいきます。
05リーダーの自分時間が増える
「自分でやった方が楽だし、安心」「教えるのが面倒」。そう思って、スタッフに任せることをせずに、こまごまとした作業に至るまで自分で行っていると、次第に抱え込む業務が増え、目の前に積み上がっていく仕事をこなすだけとなってしまいます。
好業績を維持している企業、店の経営者の多くは、自分時間をしっかりと持てる状況を創り出しているのです。自分時間に何をしているのかというと、本来、組織のリーダーがやるべき仕事である、経営戦略の立案や運営方針の決定、ピジョンを描くことなど、紙とペンを持って頭に汗をかく「考える」ことを行っているのです。
これらの仕事が、本来、組織のリーダーである経営者、マネージャーが行う仕事であると私は考えています。物販であれば品出し、陳列。飲食・サービス業でいえば、料理を作る、施術を行うことなど、体を使って汗をかいて労働する「作業」ばかりを、長時間にわたって、われわれリーダーがしてはいけないのです。
今まで抱えていた業務をスタッフに任せていき、自身が主体的に使える自分時間をドンドン増やすことが必要なのです。そうすることで、本来するべき仕事に取り組むことができるようになります。
自分時間を増やすために、スタッフに仕事を任せていくには、自分の忙しさを把握することから始める必要があります。まずは、日々行っている業務をすべて書き出し、自分の仕事の中身を棚卸しすることから始めてみましょう。
次に、そこで洗い出した項目を、「自分でやるべき重要な仕事」「自分でやるべき重要でない仕事」「スタッフでもできる重要な仕事」「スタッフでもできる重要でない仕事」の4つの項目に分けていきます。
このとき、「重要な」という言葉を「難しい」に、「重要でない」を「簡単な」に置き換えて考えてみてもよいでしょう。
その後、「自分でやるべき重要でない仕事」の中で、今すぐにでもスタッフに任せることができる仕事、また、教育を行えばスタッフに任せることができる項目をピックアップしていきます。
そうすると、「自分でやるべき重要な仕事」以外の多くの仕事は、スタッフに任せることができることが分かると思います。また、最後に残った、自分でやるべきと考えている業務についても、しっかりとその手順を教えれば、スタッフに任せられることの方が多いと気づくでしょう。
こうして、自分の抱えている仕事をスタッフに任せていけば、本当に大切な仕事、「考えること」に腰を据えて取り組むことができるようになります。
目の前の作業をこなすことばかりに注力するのではなく、戦略を立てる、計画を練るというような「考えること」に費やす時間をより多く持つことは、好業績を維持し続けるための必須条件なのです。
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