はじめに
近年の不況の影響で正社員が行う業務には変化が起きつつあります。
今までの手順が決まっている形式的な業務から、情報と状況を加味して意思決定を必要とする業務へと変化しています。
今までの「○○の画面を開く」「どこそこのボタンを押す」「××の資料から数字を転記する」といった作業だけでなく、出てきた数値と現在の状況を見ながら別の処理を行うか意思決定するシーンが増えてきています。
このような業務は意思決定のポイントを整理しにくいためマニュアルで掲載しないままになってしまいがちです。
くわえて、不況が進んだ結果として、企業はコストを抑制するために人員を増やさない方向にシフトしました。
その結果として、1人当たりの業務は増えて新規業務のマニュアル作成も既存業務のマニュアルを改訂する時間もなくなってきました。
このように、マニュアルを見直す時間さえ失われつつある状況においても我々はマニュアルを重要なアイテムだと考えています。
強い会社・強いチームを作るには強い個人がいなければなりません。マニュアルを正しく活用することは強い個人を作って行くためには不可欠です。
そしてマニュアルを通じて、今まで属人的になってきた作業を見えるようにして、多くの従業員に考え方や技術を徹底していかなければいけません。
本書は、読者の皆さんに対して既存のマニュアルを見つめ直し現状に合った形に見直してもらうことを主眼にしています。
そのため、本書は原理原則だけでなく我々がコンサルティングの現場で培ってきたエッセンスをできる限り含めて書いています。
1章では、昨今の業務の変化とマニュアルの関係を整理して、マニュアルを見直す必要性を説明します。
2章では、マニュアル見直しをテーマとしつつもマニュアル作成に必要な知識やポイントについて説明します。
3章では、近年浸透してきたタブレット端末を加味したマニュアルの姿とその導入の手順について説明します。
4章では、実際にマニュアルを見直していく方法や作ったマニュアルを運用するコツについて説明します。
最後の5章では、WikiやSNSを使った新しい電子マニュアルの考え方について説明します。
構成についてはマンガを使ってマニュアル見直しに関するイメージをつかんでもらいながら文章パートで細かい部分の補足をする形で理解が進むように工夫しています。
本書は、これからマニュアルの見直しをする担当者だけでなく、マニュアルを利用する社員の方にもぜひ一読していただきたい内容に仕上げました。
本書が、マニュアル作成・運用業務に携わる皆さんのスキルアップに少しでも貢献できれば幸いです。
第1章今あるマニュアルをもっとよくしよう
01今あるマニュアルを見直す
近年はマニュアルにしにくい要素を求められる業務が増えています。
実際、サービス業でもメーカーでも顧客から要求される品質レベルの高さが手順などで対応できるレベルを超えてきました。
つまり、今までの手順だけでなく、各作業のカンやコツの部分がより要求される品質を満たすために重要になってきました。
たとえば、サービス業だと接客の際のお客様への声かけやクレーム対応、工場だと製品や機械の感覚的な調整作業などです。
これらは、単純に手順の説明だけでは不十分で、状況を見極めるポイントや感覚的な対応をうまく行わなければ、事故やクレームにつながる危険性があります。
実際に、私たちが数十社以上のコンサルティングを行った経験を振り返っても、このようなポイントまでカバーされた業務のマニュアルをあまり目にしたことはありません。
このような要求される品質レベルが上がっていく時流は、当面続いていくと考えられます。
長い不況の影響で従来の定型的な業務は、主体が正社員から契約社員・派遣社員へと変わり、最近はシステム化・国内外へのアウトソーシングも進んでいます。
つまり、社員が従来のマニュアルを使って行う業務は社内から徐々になくなっていき、勘やコツによる感覚的な判断をしなければならない業務が多くを占めるようになっていくと想定されるのです。
このような状況下で、今まで勘やコツが必要とされた困難な業務の考え方や技術をいかに早く他の社員へ教育していくかというのが、これからの事業競争力の強化には重要です。
「難しい業務だから」「経験が必要だから」と言って後回しにしていては、事業の成長にブレーキを踏んでしまったり、事故が起きてしまうかもしれません。
そうならないためにも、早期に既存のマニュアルを見直し、作り替えていくことが重要です。
昨今では、タブレット端末の普及、Wiki・SNSの浸透が進んでおり、動画の活用や他のメンバーとの情報交換などこれまでの紙媒体のマニュアルでは不可能だったことができるようになってきました。
これらの機能と皆さんの業務の特性を加味して、今のマニュアルをより便利で魅力あるものに見直していくことが必要です。
マニュアル見直しを通じて業務の再構築に取り組むことが大切です。
02マニュアルの4つの機能を確認する
前項でも述べたように、これからは一層マニュアルが重要になってくるため、マニュアルを起点としたマニュアル経営が競争を勝ち抜く1つのポイントになります。
では、マニュアルとはどうあるべきなのでしょうか?そもそもマニュアルには次の4つの機能があります。
- ①業務を見えるようにする
- ②業務そのもの、業務上の判断の基準を作る
- ③基準を守るようにするための行動がわかる
- ④ベストパフォーマーを作る
各機能は①~④に向かって高次元になっていきます。
まずはこの機能を理解するとともに今あるマニュアルが各目的を果たしているか確認するとよいでしょう。
この4つの機能を備えたマニュアルを管理していくことがこれからのマニュアル経営において重要です。

03見直しがもたらす3つの効果
ここまで述べてきたように、従業員1人当たり業務量増加、正社員の役割変化、タブレット端末などの新しいビジネスツールの登場により、マニュアルを見直す必要性が高まっています。
このような外部環境へ即した形へと変化させるだけでなく、マニュアルの見直しは次の3つのような成果をもたらすことが知られています。
①生産性の向上マニュアルが見直されていない場合、既存の業務とマニュアルが異なる場合や、最良のやり方が載っていない場合があります。
マニュアルを見直すことによって既存の業務における最良のやり方を設定するため作業の生産性が上がります。
②品質の向上今まで曖昧だった業務の意志決定のポイントがはっきりするため、手順を間違えることなく業務を遂行できるようになります。
また、例外への対応やフォーマットなども整備されるため、業務の品質が向上します。
③組織の活性化マニュアルを見直すことにより既存の業務が見えるようになります。
業務が見えることによって、他のメンバーと各自の業務について議論することが簡単になります。
マニュアルを起点とした議論が行われるようになるため、経験に基づいた議論からマニュアルにある事実を確認しながら「これからどうするべきか?」という議論を行うようになります。
ぜひ、本書を読み進めてもらいマニュアルの見直し方を身につけるとともに、自社の業務にあったマニュアルへと見直しを行いましょう。

コメント