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第1章ランチェスター戦略の基礎を理解する

目次

第1章ランチェスター戦略の基礎を理解する

予備知識

「戦略」と「戦術」について

本書の中にたびたび登場する言葉「戦略」について、本論に入る前に簡単に説明しておきます。

「戦略」とは、(シェアの奪い合いがある)競争市場における、勝ち方のノウハウ・方法論のことを言います。マーケティング活動の中では、具体的な活動計画の決め方・方針・基準などがこれに当たります。

一方「戦術」は、それに基づいた具体的な販売促進活動や広告宣伝、チラシのポスティングや看板を立てるなどの実施を言います。両者の対比の形で整理すると、次のようになります。

「戦略」とは、①意思決定の領域②見えざるもの(競合企業など外部からは見えない事柄)③「戦術」に対する上位概念

「戦術」とは、①実行(オペレーション)の領域②見えるもの(外部からでも見えるもの)③「戦略」に対する下位概念

「戦闘力」「兵力」「武器効率」とは?

ランチェスターの法則で用いるこれらの言葉について予備知識を持つことは、法則を理解するのに役立ちます。とくに、兵力、武器効率の経営への類推はイメージしやすいと思います。

「兵力数」:戦闘においては、兵士の人数。販売活動の場面では、営業部隊の人数

「武器効率」:・戦闘においては、①武器の性能②兵士の技量(スキル)③兵士の士気(モラール)・販売活動においては、①営業活動用のツールの効果(情報端末を使い顧客にとって価値の高い情報を提供できたり、効果的なプレゼンができるなど)②営業員のコミュニケーションスキル③営業員の士気(モラール)

①ランチェスターの「第一法則」

ランチェスターの法則(18ページ〔*こちらを参照〕)は、戦闘の形態が異なる「第一法則」と「第二法則」から成り立っています。ここではまず、「第一法則」から見ていきましょう。

「第一法則」が支配する戦い方は、「局地戦」「接近戦」「一騎討ち戦」です。敵味方の戦闘力は、武器効率×兵力数となりますが、「戦闘力」は、「相手に与える損害量」と言い換えることもできます。

また、「武器効率」というのは、武器の性能や兵士の技量を数値化したものです。この式から、戦闘力を高めるためには以下2つの方法が挙げられます。

  1. 武器効率を高める
  2. 兵士の数を増やす

②ランチェスターの「第二法則」

「第二法則」が支配する戦い方は、敵が視界に入らない広域的な総合戦や、近代兵器を使用する「確率戦」となります。

敵味方の戦闘力は、

武器効率×兵力数の2乗

となります。今度は、双方の戦闘力は兵力数の2乗で効くため、兵士の数が多いほうが圧倒的に有利となり、ある程度の武器効率の差を凌駕してしまうことがわかります。

なお「確率戦」の場合、損害量が相手の兵力数の2乗に比例する理由は、左図のように、ある時刻における、単位時間あたりの損害量は敵の兵力数に比例し、味方の兵力数に反比例するからです。

③ランチェスターの法則を経営分野に応用する

ランチェスター戦略では、ある市場において、シェアが1位の会社を「強者」、2位以下の会社を「弱者」と呼びます。31ページ〔*こちらを参照〕のシェアの順位表を見てください。たとえばビール業界では、

・「ビール系飲料全体」:「強者」はアサヒ。キリンビール以下は「弱者」

・「第3のビールのみ」:「強者」はキリンビール。サントリー以下は「弱者」となります。どんなに大きくて、なおかつ優良な企業であっても、2位以下であれば弱者と呼びます。

また、自社がシェアで何位にいるのかについては、「市場地位」という呼び方であらわします。そして、強者と弱者は、とるべき戦略が反対になります。

Column事例1

奇跡を起こした「一点集中」――アサヒビール株式会社――し烈な営業競争の中、シェアを0・1%変えるのも難しいと言われたビール業界において、「ラガービール」のキリンがシェア6割を占めていた時代があった。

この時期、低迷著しかったアサヒビールは、ビールの中で構成比率が1割にも満たない生ビールに経営資源を集中し、奇跡と言われたシェア逆転を成し遂げた。

ラガービールから生ビールへのシフトを提言し営業部門を率いた中條(現名誉顧問)は、当然、社内の反発にあう。メーンバンク出身のトップの理解があったとはいえ、多くの困難を乗り越えて大躍進できたのは、「消費者が望んでいるのはうまい生ビールだ」という気づきであり、「お客様にとって正しいこと」を貫く信念といえる。

時代は変わり、消費者の低価格志向の中、第三のビールにいち早く進出したキリンとサントリーが、このカテゴリーではリードを保っている。

④弱者の基本戦略「差別化」

まず「第一法則」では、武士の数が劣勢であっても「武器効率」を上げることによって勝てることがわかりました。「武器効率」は、ビジネスにおける営業の「質」です。

営業員の「質」(顧客とのコミュニケーション能力、モラールなど)、情報武装、商品の「質」などを高めることは「差別化」といえます。

競合企業との「差別化」を図ることで、営業員の数や店舗の数など量的に劣勢であっても勝てる可能性は十分にあるのです。また、すぐに「差別化」を図ることができない状況でも、「局地的」に戦力を集中させることで局面ごとに有利な状況をつくり出すことは可能です。

ゆえに、営業員の数が少ないなど量的に劣勢である場合には第一法則下で戦ったほうが有利ということがわかります。しかも、相手にこちらの動きをさとられないようゲリラ的な活動をすることも、弱者にとっては大事な戦略です。

⑤弱者の個別戦略

弱者がとるべき戦略は「差別化戦略」が原則となりますが、前ページの図のように、さらに5つの個別戦略に分かれています。「局地戦」では、ビジネスの領域や地域を限定することで資源を分散させないようにします。

もともと総合力で力の劣る弱者が、欲張って手を広げてしまうと資源が分散し、勝てる可能性がなくなってしまいます。まともに戦っても勝ち目のない弱者は、勝てる市場を探すか、勝てる市場をつくる。

たとえば、建築業界の中でもリフォームのみを専門に扱っているような会社がこれに該当します。「接近戦」は、相手に接近して戦うことをいいますが、ビジネスの場面では近づく相手は競合企業ではなく、顧客となります。

これは、実際に会って顧客の心をつかむような手法ですが、重要顧客に対しては、頻度のみならず滞在時間も長くします。「一騎討ち戦」は、まさに一対一の戦いです。競合の多い市場や顧客を狙うのではなく、競合が1社しかないというような市場・顧客を狙います。

複数の競合企業を相手にするより、1社相手のほうが戦いやすいことは容易に想像できます。「一点集中主義」では、重点を置くべきところを決め、そこに経営資源を集中させます。

ヒト、モノ、カネ、情報など総合力で劣る弱者は、全面戦争で強者に勝つことはできません。市場や地域を細分化し、業種・顧客・商品などのどこに重点を置くのかを決定し注力しなければ、勝負に勝つどころか現状を打開することもできません。

商品・地域・販売チャネル・ジャンル・最終顧客などマーケティング上のセグメンテーションをしっかり行なうことが大切なのです。

「陽動作戦」とは「かくらん戦法」のことで、敵の裏をかく奇襲戦法でも相当します。不意を突いた行動で注意をそらしたり動揺させることで、競合の企業戦力を分散させたり、こちらの真の目的をさとらせないようにします。

Column事例2

MSエクセルの活用ツールに一点集中――株式会社アイエルアイ総合研究所①――「プログラムを書かずにプログラムを作成する機能を中心に、ユーザーの情報リテラシーを向上させたい」との思いで、『StiLL』を開発販売しているアイエルアイ総合研究所は、顧客の使い勝手や、性能・機能などの商品力に磨きをかけ続けている。その成果は、経済産業省情報化促進貢献議長賞をはじめ多数の受賞にあらわれ、累積の利用者は3000社、14万ライセンスが販売されている。

営業部門出身の内藤社長は、自社の営業パワー不足を補うため、StiLLを用いて「メールマーケティングシステム」を開発し、運用している。最近では、パートナー企業(ソフトハウス)とタイアップし、SFAなどの営業管理システムにランチェスター戦略(地域戦略、流通チャネル戦略)を付加したパッケージソフトの開発に着手している。

Column事例3

日本人のアレルギー対策に一点集中――辻安全食品株式会社――辻安全食品は、アレルギー対策に特化した会社。日本人の約3割は何らかのアレルギーを持っていると言われ、その数は10年前の2倍にもなっている。とくに30~40代の女性と子どもに多く、重度になると外出もできずにアレルギー反応が致命傷になってしまうケースもある。

辻社長はアレルギー対策を徹底することで、患者を一人でも多く救いたいとの強い思いがある。アレルギー専門の「そよ風クリニック」「辻調剤薬局」では何が原因かを究明。アレルギーは室内の空気が原因となることが多いため、シックハウスやほこりなど住環境対策として「辻安全建築有限会社」で対応している。

そして、食に関しては厚生労働省が認定するアレルギー品目を使わずに製造できる自社工場を完備。近年では、すべてアレルギーフリーの食事のバイキングツアーを企画、大好評を得ている。

⑥強者の基本戦略「ミート戦略」

第二法則では、兵力数の多いほうが圧倒的に有利でした。「兵力数」というのは、ビジネスでいうところの営業員の数、店舗の数や面積、扱い品目数などです。とくに、第二法則では2乗倍となるので、量的に多いほうが圧倒的な「営業力」を持つことになります。多少相手の「質」がよく「差別化」されていたとしても、圧倒的な数量で凌駕することが可能です。これを「ミート戦略」と言います。これには、圧倒的な数量に物を言わせて「模倣」して打ち消す、あるいは「同質化する」という意味があります。したがって、営業員や店舗数などが多い場合には、第二法則のもとで戦ったほうが有利になります。ランチェスター第二法則からは「強者の戦略」が導き出されます。

⑦強者の個別戦略

強者は「ミート戦略」が原則となりますが、さらに5つの個別戦略に分かれます。弱者に弱者の戦略をとらせないようにすることが強者の戦略の基本的な考え方となるので、弱者の戦略と180度異なる戦略となります。

弱者の「局地戦」に対し、強者は「広域戦」です。広い範囲の戦いでは弱者の力は分散し、逆に狭い範囲では弱者の力が集中します。

強者は弱者に「局地戦」を展開させないようにしなければなりません。そして強者は局地的に営業をしかけるのではなく、広域的に展開します。

弱者の「接近戦」に対し、強者は「遠隔戦」。顧客との距離を置く戦い方です。広告宣伝を活用し、顧客に「これが欲しい」と思ってもらうことで営業員が顧客に対面する前に勝負が決まってしまうような「プル型」のマーケティングになります。

実際、コンビニなどではテレビCMの投下量で棚の位置が決まってしまいます。店側は、消費者に多く認知されていれば売れると考え、よい棚の位置を提供してくれるわけです。メーカーなどが、直販ではなく卸をフル活用したりという手法も「遠隔戦」の考え方です。

弱者の「一騎討ち戦」に対し、強者は「確率戦」です。強者は一対一の戦いを避け、弱者を数で押さえ込むことを考えます。競合数の多い市場や併買率の高い顧客を狙うのです。

また、自社内でも競争させたり弱者につけ入る隙を与えてはいけません。たとえば、メーカーであれば製品アイテム数を増やして自社製品同士を競争させたり、営業拠点・代理店同士を競争させることで他社が進出する隙をなくします(「オープンテリトリー」という)。

弱者の「一点集中主義」に対し、強者は「総合主義」です。総合戦、つまり持てる武器を総動員し、圧倒的な量で戦います。総合戦になれば、部分的な弱点があっても他の部分や総合力でカバーできます。

圧倒的な量や品揃え、広域テリトリーで勝負します。弱者の「陽動作戦」に対し、強者は「誘導作戦」。先手を打つなどして弱者をこちらの都合のよい土俵に導きます。たとえば、弱者の差別化商品の発売に対して先手を打つことで陳腐化させるなどです。

Column事例4

「二番手戦略」はミート戦略の一種――松下電器産業株式会社――まだ家電量販店が台頭する以前の1970年代、家電メーカー各社は自社の専売店を育成し全国に販売チャネルを構築していたが、家電業界の雄・松下電器(現パナソニック)は最大級の専売店チャネルを有していた。

ソニーなどが新製品を市場投入したのちに遅れて追随することも多く、〝マネシタデンキ〟などと揶揄されたこともあったが、これは強者の戦略として理に適ったやり方だ。

開発・生産する技術力は十分に持っていても一番手を演じないのは、その商品市場がどこまで伸びるのかを見きわめるためであり、会社の大きな販売力を生かすためには当該商品の市場性が大きくなければならなかった。

これは、「不良在庫にともなうリスク」を避けるためのマネジメントと言える。強者の戦略ではこのほか、「フルライン戦略」「挟み撃ち」も第二法則型の状況をつくり出す。

Column事例5

強者としての戦略、市場の拡大――株式会社アイエルアイ総合研究所②――市場規模はいまだ小さいとはいえ、圧倒的な強者である『StiLL』を有するアイエルアイ総合研究所は、顧客の活用レベル向上や市場の育成にも力を注いでいる。

定期的に「研究フォーラム」を開催して、ユーザーの活用事例を発表したり、StiLLの技術情報を伝えることによって、ユーザーの育成を図っている。また、事務処理や営業管理・企画業務に必要な小さいサイズのプログラム(テンプレート)を多数用意し、ホームページなどを通じて安い価格で提供している。このような顧客の育成や市場の育成は、まさに強者の役割といえるだろう。

⑧クープマンらによる考察

ランチェスターの法則とともにランチェスター戦略のもう一つのルーツとなるのが、クープマンらが開発した「ランチェスター戦略方程式」です。第二次世界大戦中、米軍は、戦争を科学的、そして数学的に解析するために、数多くの分野の学者たちによる作戦研究班を編成します。

その中でクープマンらは、ランチェスターの法則の発展形である数式を利用し、解析を進めました。戦力の生産と補給ランチェスターの法則は、実際に戦闘が行なわれている戦場においての、双方の戦力(兵士の数など)が減る度合いについて述べられていますが、クープマンらは第二次世界大戦時に研究を進め、国と国との戦争を扱いました。

この場合、国内で武器弾薬を開発・製造し、戦場まで送り届けるという行為があります。この、生産・補給の単位当たりの量(年間の予算のようなイメージ)を「生産・補給率」と呼び、73ページ〔*こちらを参照〕の図ではP、Qとあらわしています。戦略力と戦術力クープマンらは、戦力を「間接的な戦闘力」と「直接的な戦闘力」に分け、どのような比率で配分したときに最適になるかの解析を進めました。

「間接的な戦闘力」のことを「戦略力」と呼び、戦闘には直接参加せず、敵の武器の開発力や生産力、物資の補給力などを減らすために使われます。具体的には、B29のように相手国の領域内にまで飛来し、軍事施設などを爆撃・破壊します。「直接的な戦闘力」は「戦術力」と呼び、戦車や戦闘機、戦艦、銃を持った兵士などが該当しますが、直接相手の兵器や兵士と戦闘することにより、相手の戦術力や戦略力を減らすために使われます。

⑨ランチェスター戦略モデル式

クープマンらは、前項のような過程から得られた方程式を解くため、数学者ジョン・フォン・ノイマンが発表して間もない理論(ミニマックス原理)を用いて解析を進め、得られた結論が、左図の「ランチェスター戦略モデル式」です。

ここで大事なことは、双方の戦力・生産補給が同程度であれば、「戦略力2:戦術力1」のときにもっとも適切になることです。アメリカがB29などの戦略爆撃機の開発に注力したのも、この結論によるものでした。

なお、ミニマックス原理を使用するに当たっての前提条件は、相手の意思決定者(司令官)が賢い選択をすることです(クープマンらは「合理的な判断をする」と表現している)。

⑩経営資源を配分する

ここからは、これまでの成果を経営の分野に応用することになります。前項で、戦力を戦略力と戦術力に分けましたが、これを経営の分野に応用すると、50ページ〔*こちらを参照〕で述べた戦略と戦術の関係から以下のように分類できます。

・戦略力〈見えないもの〉:商品開発、流通チャンネル開発、物流システム、情報通信システム

・戦術力〈見えるもの〉:営業員数、営業拠点、販売促進費など(販売店の場合は取扱品目数、売場面積など)

戦略力と戦術力の特性について語られる際、戦略力は「見えざるもの」戦術力は「見えるもの」との表現がありますが、たしかに商品開発などは完成して市場に投入されるまで相手には見えません。また、市場との直接的コミュニケーションである戦術力のほうは相手にも見えます。そして前項の結論から、それぞれに対し経営資源を2対1になるよう配分するのが適切になります。

⑪シェアの目標数値とは?

クープマンの「ランチェスター戦略モデル式」の応用の1つに、シェアの目標値があります。これは、経営における判断基準や活動方針の根拠を与えるのと同時に、シェアアップに際するマイルストーンの役割も果たしています。それでは、「7つのシンボル目標数値」を一つずつ見ていきましょう。

・「安定目標値」41・7%

まず求められた目標数値は、安定的に首位の座を維持できるシェアのレベルでした。首位独走の条件として戦略力と戦術力の関係を考察し、その結果得られた数値が41・7%です。この安定目標値は、経営における7つの目標数値の中でもっとも重要な値と言ってもよく、3社以上の会社が入り乱れて経営活動をしている通常の業界では、この数値は後述(86ページ〔*こちらを参照〕)の「ナンバーワン」と同等の意味を持っているといえます。

・「上限目標値」73・9%

次に求めたのは、シェアの均衡が保てるか崩れるかの境目になる数値です。1社のシェアがこの数値を超えると、もはや均衡が崩れて、シェアは拡大を続けることになります。ただし、現実的にはライバルが不在に近い状態では自社の社員のモラールも低下し、また、市場そのものが活性化されないというデメリットも起こり得ます。

・「下限目標値」26・1%

ドングリの背くらべの状態から抜け出てトップの座に就くことができる、強者としての最低条件を示す数値。これは100%から上限目標値の73・9%を引いた数値でもあり、この数値を下まわっていれば、1位といえども不安定で他社からの逆転も起こりやすいのです。

・「上位目標値」19・3%

下限目標値である26・1%に上限目標値をかけて得られた数値で、「弱者の中での強者」を意味します。ドングリの背くらべの中での強者であり、その地位はきわめて不安定であることに変わりありません。

・「影響目標値」10・9%

26・1%に安定目標値41・7%をかけて得られる数値。弱者の中で一定の地位を確立できるかどうかのレベルをあらわします。企業間の力関係でいえば、自社の存在が市場全体に影響を与えるようになれるかどうかの水準と言ってよいでしょう。

・「存在目標値」6・8%

26・1%のうちの26・1%を占める数値。競争相手から、その存在を認められるようになる水準です。

・「拠点目標値」2・8%

弱者中の弱者ともいうべき6・8%の41・7%を占める数値。競争相手からは無視されるレベルですが、シェアがこの数値に達すれば、かろうじて存在が可能になります。その意味で、事業を取捨選択する際の基準になる水準と言えます。

Column事例6

高シェア企業の社会的責任――ナカシマプロペラグループ①――舶用プロペラのメーカーとして、直径が10メートルを超える大型船の分野では国内シェア8割超、モーターボートのような小型船のプロペラでは95%のシェアに達したナカシマプロペラグループ。

スーパーニッチャーとしての同社の差別化要素は、製品の高い性能・機能にあり、それを支えているのが、①蓄積データを生かした高い設計力②プロペラの曲面を自動研削できる装置と熟練の技による高精度の製品製造技術などである。

圧倒的シェアを占める同社の関心事は、経営理念である「安全で快適な航海を陰で支える」を具現化すること。そのためには、プロペラに動力を伝えるシャフト部分の損傷(洋上で船が進めなくなる)を防ぐ「キーレス方式」を発明した際、特許を取得せず、世界中のプロペラメーカーに情報を公開することも行なっている。

⑫意思決定で重要な「射程距離理論」

ランチェスター戦略モデル式において「両者の戦力の均衡が保たれるか、それとも崩れるか」の均衡条件から導き出されたのが「射程距離理論」です。

1位の会社がシェア73・9%を超えると、2位以下の会社はシェア26・1%を割り込んでその差は埋まらず、逆転はきわめて困難になります。この比、73・9÷26・1≒3を射程距離と呼びます。

これは、競合他社との差をどれだけ引き離せばよいのか、どの程度なら追いつけるのかという判断の目安になるので、意思決定に際してきわめて重要な理論です。

なお、第一法則下において射程距離は3倍ですが、これは顧客内の単品シェア、二者間競争の場合に適用されます。第二法則下では倍(約1・7倍)となり、第一法則以外の状況なら、すべてこの第二法則に当てはまると考えてください。

⑬シェアの分布と推移

シェアの目標数値と射程距離理論を組み合わせることにより、以下のシェアパターンが得られます。

①「分散型」1位が「下限目標値26・1%」以下で、1、2位間、3、4位間など各上下の差が射程距離以内におさまっている状態です。首位が下限目標値26・1%以下なので、首位交代や順位の変化も起こりやすいことになります。分散型になりやすい業界としては、以下のものがあります。

・成長期の商品で、各社が製品開発に力を入れている業界

・成熟期の商品で、販売方法が間接販売主体である業界

国内ではこのパターンが多く、半分程の業界がこの型だと言われています。

②「相対的寡占型」1~3位の上位3社での合計が、「上限目標値73・9%」以上のシェアとなっている状態です。1位のシェアは2位と3位をたしたものより小さいこと、そして1~3位までの差が射程距離以内の範囲におさまっている型を言います。いわば「三つどもえの戦い」です。

③「二大寡占型」1位と2位の上位2社で「上限目標値73・9%」以上のシェアとなり、さらに1位と2位の差が射程距離以内におさまっている状態です。

三つどもえの戦いから2位と3位の戦いが激しくなって、どちらかが脱落すると2社の力が圧倒的に強くなります。ただし、1位と2位の戦いの隙を突いて3位が浮上する〝漁夫の利〟が発生する可能性もあります。

④「絶対的独占型」1位が「安定目標値41・7%」以上のシェアで、1位と2位のシェアの差が射程距離以上の状態です。「二強型」からどちらかが敗れ、首位に立った企業がひたすら独走する状況が継続します。

さらに「相対的安定値40%」を超え2位以下を射程距離圏外に引き離した状態です。シェアパターンの推移一般的に、一つの商品や事業のシェアパターンの推移は、各社がとる戦略の優劣に差がなければ、分散型にはじまって、寡占化が進む方向に推移していきます。

したがって、自社の市場地位と現在のシェアパターンを把握することによって、これからの変化の方向が予測できるので、より的確な戦略をとることが可能になります。

⑭もっとも大切な結論「ナンバーワン主義」

ランチェスター戦略を総括すると3つの結論に到達しますが、もっとも重要な結論となるのが「ナンバーワン主義」です。これは単なる市場シェア1位のことを言っているのではなく、2位を3倍以上の「射程距離圏外」に引き離した1位のことをナンバーワンと言います。

ナンバーワンになるのが重要なのは、さまざまなメリットがあるから。最大のメリットは2位以下に逆転されにくいことです。ほかにはスケールメリット、価格主導権、代名詞効果、持続的繁栄、理想の実現などが挙げられます。ナンバーワンになる順番経営資源の乏しい弱者は、「地域」「得意先」「商品」の順で強化していくのがセオリーです。逆に強者は、弱者と反対に「商品」「得意先」「地域」の順で強化していきます。

⑮足下の敵攻撃の原則

2つ目(2番目)のランチェスター戦略の結論は「足下の敵攻撃の原則」です。ここで重要なことは、「競争目標」と「攻撃目標」は違うということです。左図を見てください。

自社が2位だった場合、狙いうつ競合他社は1つ上の1位企業ではなく、1つ下の3位企業です。間違っても1位の企業に勝負を挑んではいけません。価格勝負になった場合、体力で勝る1位企業に2位の自社が勝てる可能性は低いからです。

「競争目標」というのは目指すべき頭上の敵で、競争局面におけるワンランク上位の競合他社です。上位の敵に対しては全面対決を避け、戦う場合には弱者の基本戦略「差別化戦略」で戦います。

これに対し、「攻撃目標」というのは競争局面におけるワンランク下位の競合他社「足下の敵」です。この場合は自社の立場が強くなるので、強者の基本戦略である「ミート戦略」で市場シェアを奪います。

⑯資源を集中させる「一点集中主義」

ランチェスター戦略の3つ目の結論は「一点集中主義」です。「一点集中主義」は、弱者の5つの個別戦略のうちの1つでもあります。

弱者は経営資源が限られているわけですから、「商品」「客層・顧客」「地域」「販売経路」それぞれについて細分化を行ない、その中から重点化するセグメントを選び、そこに資源を集中的に投下していきます。

その際、ナンバーワンにしていく優先順位に関しては「ナンバーワン主義」のところでも述べましたが、弱者は地域、得意先、商品の順、逆に強者は商品、得意先、地域の順に強化していきます。

一点に絞ることは、ほかのセグメントを捨てることにもつながりますから勇気がいる決断ですが、決断することで資源が集中され、高いパフォーマンスが得られます。

Column事例7

格安航空券に一点集中――株式会社エイチ・アイ・エス――30年前、机2つ、電話1本で起業したエイチ・アイ・エス(H.I.S.)の澤田会長は、まずは小さいセグメントでナンバーワンを目指す弱者の戦略のとおり、当時ニッチだった「格安航空券」の分野で1位を目指した。そして「1位になるまで他の分野には手を出さない」を合言葉に活動した。競合他社にこちらの存在を察知されないように(陽動作戦)……。この分野で1位になった後、パッケージツアーに進出。そこで、当時大手は力を入れていなかった「バリ島」に着目した。その後、戦略どおりバリ島でナンバーワンとなり、他の地域にスライド(横展開)、今日の地位を築き上げた。「弱者は市場・顧客を細分化し、重点化し、差別化し、小さな1番を目指す!」「ナンバーワンになるためには一点集中しなければならない」。まさにこの言葉を地でいったのがH.I.S.なのである。

Column事例8

家事サービスで最高のクオリティーを――ミニメイド・サービス株式会社――ミニメイド・サービスは、日本初の家事サービス業としてスタートした会社だが、とにかく徹底した研修制度により、そのサービスクオリティーを維持・発展させている。「誰に?」「何を?」「どのように?」「どう感じさせて?」「いくらで売るか?」を徹底的に吟味したという。その結論は、特定少人数でもよいので繰り返し利用していただくこと。そしてこのサービスの対象顧客は年収2000万円以上の富裕層になる。とにかくサービスの質を上げ、顧客の信頼を勝ち取ることに専念した。提供する価値として「つねにお客様の期待を上まわる仕事」を掲げ、スローガンは「いつもピカピカ」、目指すべき姿は「家事サービス・ナンバーワン・ブランド」と「価値観の共有」。これを実践していくことで、信頼されるという差別化を図っていったのである。

Column事例9

ターゲットの絞り込みが生んだコンセプト――アキレス株式会社――子ども用運動靴市場で売れ続けている『瞬足』という名の靴がある。これを開発したのはアキレス。この『瞬足』を出すまで、アキレスは年々競合他社にシェアを奪われ続け、非常に厳しい状態にあった。そこで、市場・ターゲットをできるだけ絞り込んだ。こうして生まれたコンセプトが「運動会で勝つための靴!」。まさに、一点集中の実践である。デザイン性、機能性(小学校のトラックは左まわりが主流なので、それに適した靴底)、通常履きとしても使える配慮、そしてネーミングの妙。これらが功を奏しV字回復にまで発展した。またその背景には、運動会で勝ってほしいと願っているのは本人以上にその親だという事実がある。その意味で「運動会で勝つための靴!」というキャッチコピーは、まさに親心をくすぐる絶妙なコピーだった。

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