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第1章セルフ・コンパッションを構成する3つの要素

はじめに

セルフ・コンパッションという言葉を耳にしたことがありますか。

この「セルフ・コンパッション」は、アメリカの心理学者であるクリスティーン・ネフ博士が概念化し世界中に広がっていきました。

今ではアメリカのビジネスマンたちがスキルとして身につけているものです。

「コンパッション」という言葉自体は「思いやり」や「慈悲」と翻訳されることが多いのですが、実はもう少し広い意味をもっています。

例えば、自分を認めること、自分にやさしくすること、自分に思いやりを抱くこと、自分にそっと寄り添う……等々、そのような意味もコンパッションに含まれます。

私はセルフ・コンパッションに関心があり、独学で勉強したうえで「マインドフルセルフ・コンパッション」という 8週間のプログラムに参加しました。

そのときセルフ・コンパッションが、生きていくうえでとても大切なことだと実感したのです。とりわけ印象深かったのが「思いやり」の実践です。

自分自身に対して思いやりを向けることで、自分だけでなく、他者へも思いやりを高めることができます。自分への思いやりと、他者への思いやりは繋がっており、相互に影響し合うのです。

今までよりも他者に対して、穏やかな気持ちで接することができるようになり、コミュニケーションがうまくとれるようになります。

自分や他人に思いやりを向けることが対人関係を円滑にすることもあり、セルフ・コンパッションが日本でも少しずつ注目され始めているのです。

最近では、個人だけではなくビジネスリーダーにも取り入れたいとのご要望があり、各所で講義をさせていただいているので、その一部を簡単にまとめました。

きっと、個人の日々の生活においても、ビジネスにおいても、有益な情報が入っているはずです。

特にビジネスリーダーのみなさんは、セルフ・コンパッションを取り入れることによって今までにない新しいモデルのリーダーになれるかもしれません。

本書を読んで自分なりの「気づき」を見つけてください。

何事も〝気づく〟ということがスタート地点です。気づいていなければ、困りごとやストレスに対処していくことはできません。慌ただしい日常のなかで、意外と自分自身に目を向けることは少ないです。

いったい自分は今どういう状態なのか、どのような気持ちなのか、何を必要としているのか、体にどのような反応が起きているのか、そういったことに気づいていないことが多いものです。

本書を通じて今の自分自身に気づくというスタートを切っていただければ嬉しいです。

「思いやり」は武器になる 目次

セルフ・コンパッションを構成する3つの要素 ① マインドフルネス ② 人類の共通性 ③ 自分への思いやり

目次

第 1章 セルフ・コンパッションを構成する3つの要素

セルフ・コンパッションには、「マインドフルネス」「人類の共通性」「自分への思いやり」の3つの要素があります。

順にみていきましょう。

① マインドフルネス

セルフ・コンパッションのルーツは、マインドフルネスと同じで仏教にあります。マインドフルネスというのは、「今この瞬間に意識を向け、気づくこと」「良い悪いと判断をせず、あるがまま受け入れること」です。

「マインドフルネス瞑想」は、マインドフルな状態で行う瞑想です。

「今、空気は体のどこを通っているか」などと呼吸に注意を向けていると、途中で「きょうの夕飯は何にしようか」などの雑念が浮かんできます。

そのときに、「今は集中しなければならないから考えてはいけない」と否定するのではなく、「今、違うことを考えていたな」と、ありのままに受けとめ、そのまま呼吸に意識を戻していきます。違うことを考えてしまったから、あるいは集中できなかったから自分はダメだ、ということはないのです。

今この瞬間に注意を向け、気づいたものを評価したり判断したりせず、ありのまま受け入れること、それが、マインドフルネスなのです。

マインドフルネスは、 Google、 Apple(のスティーブ・ジョブス)、 intel、 IBMなど海外の一流企業が社員研修などに取り入れています。

マインドフルネスによって脳の海馬や扁桃体が変化すること、 DMNネットワーク(ぐるぐる思考と関連する)の活性化が鎮まることなどが MRIの脳画像による研究で報告されています。

なお、海馬は記憶と強く関連しており、扁桃体はストレスと関連している脳の部位です。脳の海馬や扁桃体が変化することで、記憶力や集中力が高まる、不安や怒り、ストレスを感じにくくなることがわかっています。

「マインドフルネスが効果的なら、セルフ・コンパッションは必要ないのでは?」と思うかもしれませんが、マインドフルネスだけでは足りないのです。

なぜなら、私たちには、ネガティビティバイアスという、ネガティブなものに注目し、ネガティブなものは記憶に残りやすいという性質が備わっているからです。

ネガティビティバイアスはもともと人間にとって必要だったと言えます。大昔の話です。

隣の村から敵が攻めてきたら自己防衛する、自然に生息する危険動物から身を守るなど、自分にとって脅威になるもの、ネガティブになるものに意識を向けることによって、人類の生存確率は上昇したと考えられるからです。

現代では普通に生きていたらそんな危険には遭遇しませんが、性質としてそういう傾向が残っていると言えます。

マインドフルネスに話を戻すと、先ほど説明したように、「今この瞬間に意識を向け、気づく」「良い悪いと判断をせず、あるがまま受け入れる」というマインドフルネスの概念は、セルフ・コンパッションの概念である「思いやりや、やさしさ」でバランスをとっていかなければ実現しづらいのです。

なぜなら、私たちにはもともと備わっているネガティビティバイアスがあるので、どうしてもネガティブな方向にばかり目を奪われてしまう傾向があるからです。

それを防ぐために、

  • 意識的に良い面にも目を向ける
  • 思いやりややさしさを向ける
  • 自分にとって必要なことを考える

という、セルフ・コンパッションが必要となります。

特に、ネガティブなものに目がいきやすいという方は、よりセルフ・コンパッションが必要になるのです。

マインドフルネスとセルフ・コンパッションは、合わせて実行することで相乗効果が生まれます。

セルフ・コンパッションを実践する際、マインドフルネスな状態でないと、自分の感情や置かれている状況を客観的に捉えることができません。自分の感情に振り回されてしまうのです。また、相手の感情に引っ張られて、自分が疲弊してしまうということもあります。

マインドフルネスによって、

  • ○自分は今、何に困っているのか
  • ○良い面も悪い面もバランスよく気づく
  • ○どんなことを自分は考えているのか
  • ○評価や判断をせず、ありのまま受け入れる

ことが大切です。

客観的な視点でみることで自己中心的にならず、苦しみや困りごとを解決するために、自分にとって必要な行動を起こしたり、自分を労ったりと対処していくことができます。

マインドフルネスとセルフ・コンパッションを合わせて行うことで、お互い相乗効果があるというのはこのためです。

では、ここで Googleの例を紹介しましょう。

Googleで開発されたマインドフルネスのプログラム、 SIY( Search Inside Yourself)というものがあります。

その実践者であるチャディー・メン・タンは、拡散するにふさわしいアイデアをテーマにして 5分から 15分ほど、質も高いプレゼンテーション(プレゼン)をおこなう TED Talksのなかで次のような話をしています。

「Googleは、毎日思いやりがあふれている会社だ。コンパッションは幸せをつくるが、 Googleの根底にはコンパッションがあって、それが会社全体に広がっている。

Googleでは、あらゆる施策がトップダウンではなくボトムアップで始まる。思いやりを中心におくことで、従業員がクリエイティブなアイデアを出したり、互いに刺激しあって高めあったりするメリットがある」

マインドフルネスだけではなく、この思いやりを中心に位置づけたチャディー・メン・タンのプレゼンは、大きな話題となりました。

② 人類の共通性

セルフ・コンパッションの構成要素の2つ目は、「人類の共通性」を意識することです。そうすることで孤独感が和らぎます。

孤独感は死亡率を上げたり、心臓などの循環器疾患リスクを高めたり、高血圧、糖尿病などにも影響を及ぼすなど、心にも体にも関係するということがわかっています。孤独感が和らげば、先ほどのリスクも避けられます。

「人類の共通性」という点に関して言えば、現代人はとかく、年齢・性別・学歴・職業・容姿や能力といった「違い」に捉われがちです。

そして、それが他人への優越感や劣等感を生んでしまうことがあるのです。しかしこれらは表面的なもの。

もっと深く内面まで目を向けていくと、それぞれの人がストレスを感じていたり、コンプレックスや悩みを抱えていたりと、共通性を持っているのです。

その共通性を感じることができれば、私たちは安心して穏やかな気持ちになることができます。

みなさんも新入社員の頃、同期で「不安だね」と言いあったり、就職の面接試験を受けたときに、受験者同士で「緊張したね」とフィードバックしあったりすることで、他の人が自分と同じように感じていることを知り、安心した経験があるのではないでしょうか。

こうしたときに私たちは「人類の共通性」を意識していると言えます。

他人のなかに自分と共通する部分をみつける。他人がコンプレックスで悩んでいるんだと知る。そうすることで、自分のなかの劣等感を乗り越えることができるのです。

ビジネスシーンにおいても、ダイバーシティ(多様性)が求められる現代だからこそ、「人類の共通性」は求められています。

Googleで人材育成や組織開発をおこなっていたピョートル・フェリクス・グジバチは、

「メンタル面でタフなチームをつくるために、みんな一緒と感じられることが大切だ。すべての人はひとつである。一緒であるということを経験する、大きな意識を経験できるということ、それで信頼や人間関係を深めて孤独感がなくなる」と述べています。

③ 自分への思いやり

セルフ・コンパッションの3つ目の要素は、「自分への思いやり」です。

みなさんは普段どうやってモチベーションを上げていますか。仮にみなさんが資格取得に向けて準備をしているとします。

その資格を取ることは子どもの頃からの夢であり、資格があったほうが仕事でも有利になると考え、何カ月かの時間をかけて準備をしている状況です。

来週がいよいよ試験本番! さて、みなさんはこの状況で自分自身に対して、どのような言葉をかけるでしょうか。

おそらく次の2つのタイプに分かれるはずです。

①自分自身に対して厳しい言葉をかける

②自分自身に対してやさしい思いやりのある言葉をかける

では、もし、あなたの大切な人が同じ状況で頑張っていたら、なんと声をかけるでしょうか。

このときの大切な人とは、家族でも友人でも恋人でもかまいませんが、先ほどとはかける言葉が異なる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この、「大切な人に声をかける」イメージで自分自身を常にあたたかく励まし、理解してあげましょう。それが「自分を思いやる」ということです。「自分への思いやり」は子どもの頃の経験も大きな影響を与えています。

幼い子供は、ストレス時に不快な感情を感じたとき、周囲の大人たちから思いやりのある言葉をかけられ、気分を和らげるという経験を重ねていきます。

それを繰り返すうちに、思いやりのある言葉や態度を取り入れ、自分自身のものとして内在化していきます。

そうすることで、ストレスを抱えたときにも、同じように自分で自分にその言葉をかけたり、思いやったり、自分で自分の気分を改善し、癒すことができるようになるのです。

ただ、そんな環境で育った人ばかりではありません。

もしかしたら、周囲から思いやりのある言葉をかけられなかったかもしれないですし、他人から思いやりをかけられていたけれど、気づけなかった、うまく受け取れていなかった人もいるかもしれません。

そんな方たちも諦めなくて大丈夫です。安心してください。

「自分への思いやり」、セルフ・コンパッションはいつでも育て直すことができるのですから。

セルフ・コンパッションの対極にある「自己批判」

「自分への思いやり」の対極にあるのが「自己批判」です。自己批判というのは、自分を責めたり批判をしたりすることです。そうすると、体の脅威・防御システムが作動します。

例えば、上司や家族など誰かに批判をされたり、責められたり、厳しくされたりすると、私たちはストレスを感じたり、緊張したりするものです。

そしてそれは、自分で自分を批判しても同じことが起こります。

他者からの批判と同じように、自己批判も体は脅威・ストレスであると感じてしまうため、身を守ろうと体は反応してしまうのです。脳の扁桃体という部位はストレスを感じたときに活性化します。

自分で自分を批判しても、扁桃体が活性化し、コルチゾールやアドレナリンなどのホルモンが放出され、体にストレス反応が起こります。

それによって不安・緊張が高まる、心臓がドキドキする、汗をかく、呼吸が浅くなる、胃腸の調子が悪くなる、眠れない、頭が痛い、お腹が痛いなどの心身の不調感が起きるのです。

このように、心身ともにストレスがかかった状態では、集中力やパフォーマンスが低下してしまいます。他の人に気を配る余裕もなくなるので、人間関係が悪化してしまうなど、自己批判には様々な悪い影響力があるのです。

では逆に、自己批判ではなく、自分自身にセルフ・コンパッションを向けた場合はどうなるかというと、体内の自分自身をケアするシステムが活性化します。

そのことで、オキシトシンという愛情ホルモンやエンドルフィンという精神安定ホルモンなど、気持ちが落ち着くようなホルモンが分泌されます。

これらは、他者から思いやりや、愛情を向けられたときに放出されるホルモンですが、自分自身に思いやりを向けることでも、同じように分泌されるのです。

そうするとストレスが軽減され、安心感、安定感を感じ、さらに集中力や行動力がアップしたり、心身の不調感が緩和したり、他者との社会的な交流が活性化したりするのです。さらに「自己批判」は、他責につながることがあります。自責と他責は相互に関係しています。

例えば、自分の悪い点ばかり目を向け、自分を責めてばかりいると、他人の悪い点も目に入りやすくなり、他責傾向も増してしまいます。逆もまた然りです。また、他責の代わりに自責に向いているケースもあります。

他人を責められない状況にいるため、その代わりに自分自身を責めている場合です。

相手が上司や親など、あきらかに立場が上の場合、その状況で相手を責めると自分の立場や居場所がなくなってしまうかもしれません。だから、代わりに自分を責めているという状況です。ある意味、自分を責めることで自分の身を守っていることになります。

しかし、これが習慣のように続いてしまうと、必要のない時まで自己批判をしてしまいます。さらに、自分のネガティブな面に目を向けたくないから、無意識的に他人の悪い点に目を向け、他責になっている場合もあると思います。

このように、自分への思いやり、他者への思いやりは相互に影響しあい、密接に関係しています。

他者から自分に思いやりを向けられたときと、自分から他者に思いやりを向けたとき、さらには自分から自分に思いやりを向けたとき、どの場合も脳の同じ部位が活性化するという話からもそれがわかるかと思います。

自分へのコンパッションを高めれば、他人へのコンパッションも高まる。逆に、他人へのコンパッションを高めれば、自分へのコンパッションも高まる。こうして相互に影響しているのです。

この関係性を利用していきましょう。では、日常生活でどのようにセルフ・コンパッションを取り入れるとよいのでしょうか。

自分の「良いところ」と「悪いところ」にバランスよく目を向ける

セルフ・コンパッションのお話をすると、「自分のいいところに目を向けるって甘やかしでは?」「怠けているのではないの?」という質問を受けることがあります。ところがセルフ・コンパッションは、甘やかすことでも怠けることでもありません。

自分自身にありのまま目を向ける──。ありのまま見るためには、良いところにも悪いところにもバランスよく目を向ける必要があります。甘やかしや怠けの場合は、悪いところには目をつむって良いところだけをみてしまいます。そして、自分の欲していることだけをやって、変化しようとしない、チャレンジしない状態です。

自分の「良いところ」と「悪いところ」、どちらにも平等に目を向けることで、今の自分にとって必要な選択をすることができるのです。

〝Want〟ではなく〝 Need〟で行動する

自分の「良いところ」と「悪いところ」を見つめ、そのときに必要な行動を選ぶ基準は〝 Want〟ではなく〝 Need〟です。

自分がやりたいことだけをやるのではなく、自分自身の状況を客観的にありのままにみて、そのときの自分に必要な行動をとります。

やりたいことと必要なことが一致している場合は良いですが、時には一致していないことがあります。

例えば、「ネットをやりたいから夜更かししたい〝 Want〟」と、「明日は朝が早いから心身のために睡眠が必要〝 Need〟」といった場合です。このように一致していない時は、〝 Need〟で行動します。

「セルフ・コンパッションって、ただの受け身じゃないの?」という質問を受けることもあります。

「自分に必要で、思いやりのある行動をとる」ということがそう思わせるのかもしれませんが、状況によってどんな行動が必要かと見つめる点で、受け身ではありません。

セルフ・コンパッションでは、アクティブで積極的な行動をとることもあれば、パッシブで受け身的な行動を取ることもあります。

例えば、パッシブな行動として、ともに寄り添うとか、自分自身をなだめておだやかにする、優しく受け入れて認めるような行動をとることもあります。

反対に、アクティブな行動として、自分の身を守るために相手に立ち向かったり、「ノー」と強く言うことがあるかもしれません。

また自分に必要なものを与え、モチベーションを高めてチャレンジしていくような行動が必要なときもあります。そのように、受け身だけではなく、攻めの行動をとることもあるのです。

共通点は、自分にとって必要な行動を取るということです。ここからみても、甘やかしでも怠けでもないことがわかります。

〝 Want〟より〝 Need〟を優先するので、自分がやりたいことではないことでもやらなければならないときもあります。

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