MENU

第1章……「整頓」は、「形から入って心に至る」

目次

第1章……「整頓」は、「形から入って心に至る」

【Q1】仕事における「モノを並べる基準」は何か?

次の写真をご覧ください。

私が最近、自社の現場を回っていて、非常に感心した整頓の工夫です。発案者は私ではありません。社員の自発的な業務改善です。

この何気ない風景のどこに、私は感心したのか。この本を編集した小野さんに尋ねたら、こう答えました。

「脚立を背の高い順に並べよう、ということですよね。貼り紙もありますし」それはそれで、間違ってはいません。

しかし、何のために背の高い順に並べるのか。そこが重要です。そこで私は、さらに質問しました。

「じゃあ、この脚立を並べる順番を逆にしたら、どうなると思いますか?」「壁側に低い脚立が来たら……。安定感が悪くて、脚立が倒れちゃいそうですよね」それももっともですが、残念ながら、本質からはずれています。

仕方ないので、最後にとっておきのヒントをあげました。

「じゃあ、高い脚立と低い脚立、どちらのほうが使用頻度は高いと思いますか?」「ああ……。なるほど!」さすがに、彼女も理解しました。

脚立という道具は一般に、背が低いもののほうが使う機会が多く、使用頻度が高い。つまり、背の低い脚立のほうが、出し入れの回数が多い。

それに気づいた社員は、背の低い脚立を手前に置くことにした。さらに、そのルールが徹底されるように、分かりやすい貼り紙もつくった。

それが、この業務改善を考案した社員の狙いです。つまり、この業務改善の本質は「脚立を背の高い順に並べる」ことではありません。「脚立を使用頻度が高い順に並べる」ことが、本質です。

【A】使用頻度の高い順

※使用頻度の高いものから手前に並べる。

【Q2】社員はなぜ、面倒なやり方をやめないのか?

脚立の並べ方など、小さなことと思うかもしれません。

しかし、何であれ、「モノを使用頻度に応じて並べ変える」のは、商売における基本中の基本です。にもかかわらず、忙しい日々のなかで、いとも簡単に忘れ去られてしまいます。

さらに、その状態を放置していると、会社の業績はじわじわと悪化します。

ある会社に新商品が入荷されたが、倉庫の手前に余裕のスペースがなく、「とりあえず、ここに」と、倉庫の奥に置いた。

ところが、この新商品が大ヒット。毎日、入荷と出荷が繰り返された。そして毎日、社員は倉庫の一番奥まで行って、そのヒット商品を出し入れします。なんと壮大なムダでしょう。

ヒット商品を取り出すため、倉庫の奥に行くのに25歩、歩きます。往復で50歩。

しかし、このヒット商品を倉庫の一番手前に移せば、往復2歩で済むのです。だから、1回当たり48歩もムダに歩いていることになります。

それが、1日に何度も繰り返されているから、労働時間と人件費に換算したら、とんでもないことになります。

こういうことを繰り返して、「社員は汗水たらし、頑張っているが、なぜか儲からない会社」が、見事に完成します。多くの会社がいともやすやすと、この罠にはまります。

なぜでしょうか。

人間とは、どんな面倒臭いことでも、3回繰り返すと、慣れてしまう生きものだからです。

先ほどの「倉庫の奥に置かれたヒット商品」も、最初に取りに行ったときには、社員は「何だか面倒だな」と、心のどこかで感じます。ところが、3回繰り返すと、面倒と思わなくなる。

それどころか、「一生懸命、ヒット商品を運ぶ自分」に、誇りすら感じ、自己満足に陥っている。この会社が、今やるべきことはとてもシンプルです。

倉庫の手前にある、売れない商品を奥に移し、ヒット商品を手前に出す。セオリー通りに「使用頻度に応じて並べ変える」業務改善の一手を打つ。脚立の並べ替えと同じです。

使用頻度に応じた、脚立の並べ替えを思いつく社員なら、ヒット商品を倉庫の奥に置いたままにしません。

小さなムダに敏感な社員が、大きなムダを見過ごす可能性は低いです。人間の本性は、「面倒臭いことにすぐ慣れる」です。

よほどしつこく社員に働きかけなくては、使用頻度に応じた並べ替えはなされません。

だから私は、日々の整理整頓が、儲かる会社をつくる社員教育の基盤と考え、徹底しています。

【A】同じことを3回繰り返すと、面倒でなくなる

【Q3】「徹底する」とは、どういうことか?

我が社は、整理整頓を徹底している。こう書いたばかりですが、「徹底」は、曖昧なわりには乱用されがちで、混乱を招きやすい言葉です。

私は、「徹底」を、次のように定義しています。「他人が見たら異常と思う結果にすること」整理整頓の基本は「定位置管理」です。

決まった場所に、決まったものを置く。向きをそろえて1ミリもずらさず、元あった場所にピタリと戻す。

そのために武蔵野の現場で、どんな工夫をしているか、ざっと写真で紹介します。

「本当に、ここまでやる必要があるか。この会社は、ちょっと異常じゃないか」そう感じていただけるなら、何よりです。

【A】他人が見たら「異常」と思うまでやる

【Q4】「家の掃除」と「職場の環境整備」の違いは?

武蔵野は、毎朝30分、パート・アルバイトも含めた全従業員が、環境整備に取り組みます。

当番表(こちらとこちらを参照)に従って、床にワックスがけをしたり、蛍光灯を磨いたり、窓を拭いたり、会社の周辺のゴミ拾いをしたり、各自が自分に割り当てられた場所をきれいにします。

このようなことをしていると、ときどき、「全社で、掃除に取り組んでいるのですね」と、勘違いされる方がいます。

掃除と環境整備は、一見、似ているようで、目的がまったく違います。大事なポイントなので、しっかり押さえてください。

掃除の目的は、ある一定の場所を「きれいにして、快適に過ごせるようにする」ことです。一方、環境整備は、四字熟語を分解すれば、「環境を整え、備える」ことです。

それでは、何に備えるのでしょうか。もちろん、仕事に備える。環境整備の目的は、「仕事をやりやすくする」ことです。引いては、「生産性を高め、儲かりやすくする」ことです。

先ほど写真で紹介した定位置管理は、基本中の基本です。決めた場所にきちっと戻せるようになったら、その場所でいいかの検証です。

iPadで済ます業務が増え、パソコンを使う機会が減った──。そういう変化があれば、モノの置き場所を変えます。使用頻度に応じた並べ替えで、仕事をやりやすくする。

並べ替えて新しい置き場所を決めたら、再び定位置管理を徹底します。この繰り返しで、現場が強くなる。

変化対応能力が高まり、らせん階段を上るように社員が成長する。

【A】「掃除=快適の追求」「環境整備=儲けの追求」

【Q5】整理整頓と、戦略、戦術の関係は?

環境整備は、次の5つです。整理、整頓、清潔、礼儀、規律。

なかでも、環境整備本来の「儲かる現場をつくる」という目的から考えた場合、最も重要なのは、整理と整頓。

特に整頓と、私は考えます。

整理とは、モノの要否を判断して、不要なものを捨てることです。これを経営に置き換えれば「戦略」です。

経営判断において重要なのは、「新しいことを始める決断」ではありません。「今までしてきたことをやめる決断」です。

儲けが薄くなった商品の取り扱いを中止する決断です。多くの経営者が、「儲かりそうなこと」に、たくさん手を出しては、すべてを中途半端に続けて、社員を疲弊させます。

いろいろな分野に挑戦すること自体は、素晴らしいことです。

そうして手痛い失敗も多く経験しなくては、儲かる事業を見つけることはできません。ただ、芽が出ないと分かったものは、早々にきっぱり捨てなければなりません。

資金も労働力も、経営資源はすべて有限です。まして、私たちのような中小企業ならなおさらのこと、経営資源は限られています。

自社の強みが生きそうな事業が見つかったら、ほかを捨ててでも経営資源を集中投下する。

これほどまでに重要な「捨てる決断」を、毎日、繰り返し練習できるのが、「モノの整理」です。

一方、整頓とは、モノをそろえることです。モノが使いやすいように置き場所を定め、置き方を工夫する。これを経営に置き換えれば、「戦術」です。

売れ筋商品の売れ行きが鈍ったところに、新しいヒット商品が出てきた。だから、こちらの販売を強化すると決める。これは戦略です。では、新しいヒット商品が効率よく売れるように、どう置くか。これが戦術です。

店のなかでは大抵、従来の売れ筋商品が、出入り口に近い便利な場所を占めている。一方、新しいヒット商品は、最初に「とりあえず、このあたりに置いておくか」と決めた、店の奥にあります。

このままでは、お客様の目に、新しいヒット商品が入らない。社長としては、そのとき、社員が自発的に、商品の置き場所を変えてほしい。

かつての売れ筋は、一部を手前のいい場所に残して、残りは店の奥に移す。店の手前に生まれた空きスペースに、新しいヒット商品を置く。

するとヒット商品がお客様の目に触れ、仕事の効率も上がる。こうした戦術レベルの決断を、現場に委ねられる会社は強いです。

戦術を考える練習を、毎日繰り返せるのが、モノの整頓です。

しかも、形あるモノの整頓には、社員がきちんとやっているかどうか、そして、結果を出しているかどうかが、目に見えて分かるメリットもあります。

整理整頓をはじめ、環境整備には、商売の基本がすべて詰まっています。それを毎朝、わずかな時間で少しずつ学び、反復練習する。その積み重ねが、強い現場をつくります。

整頓が身についた社員は、自分の頭で戦術を立てられます。整理がきちんとできる幹部は、戦略をしっかり立てられます。

だから私は、毎朝30分の環境整備に何より力を入れている。

【A】「整理=戦略」であり、「整頓=戦術」である

【Q6】「優秀な人」とは、どんな人か?

「優秀な人」を、どのように定義するか。いろんな意見があるでしょう。まず重要なのは「数字ではっきり分かる結果を出している」ことです。では、この条件を満たすのに必要なことは何でしょう。

「ほかの人がやっていて、結果が出ていることを、そのままマネできること」です。「素直さ」と、言い換えてもいいでしょう。私が若手社員に対して、何より求める資質です。

なぜなら、数字ではっきり分かる結果を出すうえで、最も手っ取り早いのは、すでに結果を出している方法を、そのままマネすることです。

新人の営業社員なら、成績のいい先輩に同行して、挨拶からセールストーク、身だしなみから資料のつくり方まで、寸分変えずにパクる。

新任の管理職なら、成績のいい部署の部長、課長のやり方をよく観察し、完全にコピーする。

経営者なら、業績のいい他社を視察し、その会社がやっていることを、とりあえず全部マネしてみる。

このとき、同業他社をマネするより異業種の成功企業をマネするほうが、ライバルの一歩先を行ける可能性が高く、お勧めです。

「なぜ、そのやり方なのか」などと、考えてはいけません。そんなことは、マネしてやっているうちに、自然に分かります。

下手に頭で考えるより、体で覚えるほうが、短時間のうちに深い理解が得られます。

ところが、この「結果が出ている人のやり方をそのままパクる」ことができる人が、なかなかいません。多くの人が、行動するまえに、考えてしまうからです。

結果が出ている「いい方法」を見つけたときに、すぐにそのままマネすればいいものを、「もっといい方法があるのではないか」と考えて、自己流にアレンジしてしまう。

社員でも経営者でも、このような「行より考」のタイプの人は、なかなか結果が出せません。結果を出すのは、「考より行」の人たちです。

【A】「考より行」。結果が出ている方法をすぐパクれる人

【Q7】社員の心を変えるには、どうすればいいのか?

うちの社員を性根から変えたい。部下の根性を叩き直したい。そう願ったことのない社長や幹部は、まずいないでしょう。かくいう私も未だにときどき、そんな抑えきれない衝動に駆られます。

しかし、社長や幹部が取り組む「社員の心を変える人材教育」の取り組みのほとんどが、失敗に終わります。

その理由は、私の見るところ、社員の心を変えたいと強く願うあまり、社員の心に直接、訴えかけるからです。

名経営者や名僧など、人格者と定評ある人物を研修に呼んで、みんなに「ありがたいお話」を聞かせる。

あるいは、良書を読んで感動を語り合う。さらには、「心を一つに頑張ろう!」と皆で叫んで気勢を上げる。そんなことでは、抜本的な問題解決になりません。

人の心は不安定なものです。研修の直後には、やる気がみなぎっていた社員の「心の風船」も、帰宅後、奥さんにちょっと一言、嫌味を言われた瞬間、プシューッとしぼんでしまいます。

これくらい安定しない心に対し、どんなに良い栄養を与えたところで、効果は長続きしません。

だから私は、社員の心に直接働きかける教育はまずしません。形なき心ではなく、形あるモノに働きかけます。

その筆頭が、環境整備。特に整頓です。仕事に使うモノを所定の位置に、所定の置き方で戻す。まず、この1点に絞って徹底させます。

なぜ、社員の心を変えるために、整頓を徹底するのか。そもそも皆さんは、社員や部下に、どんな心を持ってほしいと考えているのでしょうか。

ここが曖昧では教育の方針がブレます。私が何より求めるのは、前述の通り、「素直な心」です。

より具体的には「自分より結果を出している優秀な人がいたら、その人の仕事のやり方をそのままマネする」ことです。

仕事で成長するには、このような「デキる人のマネ」が一番の早道ですが、素直に実行できる人は実に少ない。

このような素直な行動の重要性を、社員に納得してもらうのに最良の方法が、整頓です。

※整頓をまずは徹底させる。

なぜなら、整頓とは、先人たちが「モノをこう置けば、仕事がやりやすい」と実証したやり方を、そのままマネすることにほかならないからです。

我が社は文房具は向きをそろえて並べる」のが、整頓のルールです。

※文房具をまず向きを揃えるようにする。

慣れない新入社員にとっては、あまり気の進まない、嫌なことですが、上司が口やかましく言ううえに、できないと賞与が減るので、嫌々ながら、このルールを守るようになっていきます。すると、あるとき気づきます。

「確かにペンの向きがそろっていると、サッと取り出せて便利だ」「だから仕事のスピードが上がる」と。

こうして「上司や先輩の仕事のやり方をマネることには、確かにメリットがある」と、納得します。

こうなれば、上司や先輩のほかの話にも耳を傾けます。素直な心を持って、上司や先輩の仕事のやり方を学びます。他人の勧めることを、嫌々ながらでも、やってみる。

これは、とても大事なことです。そこには、社会人として成長するための普遍のセオリーが隠されています。

しかし、上司や先輩が勧める「やるべきこと」と「そのことをやるメリット」が、抽象的で分かりにくいと、部下や後輩は、その真理に気づいてくれません。

だから、整頓です。整頓は、気の進まないことを「目に見える形で実践」することです。その結果として、「目に見えるメリット」が得られます。

だから誰もが、「他人が勧めることを嫌々ながらでもやる意義」に気づきます。このセオリーを、お説教や訓話といった形で直接、社員の心に訴えても、社員の心は変わりません。

一時の感動を得ても、すぐに元の木阿弥です。

だから、日々の整理整頓というモノを介する形でしつこく働きかけ、社員の心を少しずつでも、確実に変えていきます。「形から入って心に至る」これが、整頓を通じた人材教育の極意です。

【A】心に直接、働きかけない。形から入って心に至る

※しつこく整頓を推進する。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次